第18話 海に行って遊ぼう3
「ねえ、瑞樹ちゃん。これで遊ばない?」
しばらく海に浸かり、どうやら落ち着いた(・・・・・)航くんが。
そう言いながら、どこからとも無くビーチボールを取り出した。
「ねえ、やろうよ〜」
「良いよね〜、瑞樹ちゃん」
同じように、落ち着いた(・・・・・)と思われる、みんなが。
こちらを向いて、航くんの言葉に同調する。
「ねえ、しようよミズキちゃん」
「うん、良いよ♪」
僕の隣にいるカズちゃんも、微笑みながら誘ってきた。
僕は、カズちゃんの言葉に、機嫌良く返事をする。
こうして僕は、みんなとボール遊びをする事になった。
・・・
「それっ!」
「ほらっ!」
「きゃっ!」
「(チャポン)」
「ああ〜っ」
今、僕達は、海に浸かりながら、ボール遊びをしていた。
みんなは円形に別れて、お互いに向かいパスをし続ける。
至って、単純な遊びである。
しかし、僕の番になると、よくボールを落としてしまうのである。
「ごめんね〜」
「ああっ、良いよ瑞樹ちゃん」
「そうそう、お遊びなんだから」
シュンとした僕を見た、みんなが。
そう言って、慰めてくれる。
確かに男時代も、運動が得意な訳ではなく。
むしろ、苦手の部類に入る方ではあったが。
それでも、これほど運動神経が鈍くは無かった。
女性化による、筋力の低下などの感覚の違いもあるのだけど。
それよりも、買ってきたビキニに原因があった。
ハッキリ言って、動く度に胸が微妙に揺れて、気になってしまう。
その揺れに気を取られタイミングがズレ、動きがワンテンポ遅れるのである。
僕は、女性用水着を選んだのが初めてなので、見た目のデザインに目が行って。
こう言った事まで、想定していなかった。
「そうだよね、胸がある上に、そんな水着なら動き辛いよね」
「見ている俺たちには、眼福なんだろうけどさ」
「さっきから、動く度に揺れてるからね〜」
「ふぇっ?」
突然の言葉に僕は、つい変な声を出してしまった。
いつの間にか、僕は自分の胸をジッとみていた様だ。
それで、みんなが、そう言ったのである。
「(カーーッ!)」
しかし、次の瞬間。
僕は恥ずかしさに、顔が熱くなった。
つまり、みんなは。
僕の揺れる胸を、ずっと見ていた事に気付いたからだ。
・・・
「それっ!」
「きゃっ!」
それの後も、みんなでボールをパスをし続けたが。
僕は、揺れる胸を動かない様に、両腕で挟んで固定しようとするけど。
却って、行動が制限されて、よりボールを落とす結果になってしまったのだった・・・。
**********
「カズちゃん、遅いなあ・・・」
僕は、海の家の前で、カズちゃんを待っている。
あれからも、ボール遊びを続けていたが。
胸を抑えながらやったので、やたらに疲れてしまった上。
恥ずかしさの余り、精神的にも疲れてしまった。
それで、みんなの許可を取って休憩しようとしたところ。
カズちゃんも、僕の面倒を見るために一緒に休んでくれる事になった。
喉が乾いたので、何か飲み物を買おうとしたら。
カズちゃんが、奢ってくれると言ってたのである。
自分が出すと、言ったのだが。
それでも奢ると言って引かなかったので、僕はカズちゃんに甘える事にした。
その後、肝心の財布を更衣室に置いてきたと言うので。
僕は、カズちゃんが戻ってくるのを、待っていたのだ。
こうして、カズが出て来るのを待っていると。
「ねえねえ、カノジョ〜。
可愛いねえ、一人なの?」
「これから、一緒にどこに行かない?」
イキナリ、二人組が僕の声を掛けてきた。
二人の片方は、中途半端なロングの金髪に甚平。
もう片方は、ドレッドヘアー風の髪型に、ハーフパンツと黒のタンクトップ。
二人とも、自分たちがイケてると思っているみたいだが。
それらが全然似合ってなくて、逆にダサく見える。
「俺たち、車で来たんだけど、一緒に乗らない〜」
「別に、変な事しないからさ〜」
タダでさえ、だらしない顔付きなのに加え、ニヤニヤとニヤけているので。
とても胡散臭く見えて、しかたない。
しかも、頼んでないのに、”変な事ををしないと”言っている時点で。
その変な事をする気マンマンなのが、見え見えである。
要するに、品が無い田舎のヤンキーみたいなのが。
女の子をどこかに連れ込んで、乱暴しようと企んでいるとしか思えない。
「ちょっと・・・、今、私は人と待ち合わせているので・・・」
「あれ、声も可愛いねえ、これなら喘ぎ声も・・・。
イヤイヤ、何でも無いよ〜。
ねえ〜、チョットだけだから」
「ねっねっ、行こうよ〜」
今、確かに、不穏な単語を言ったよね。
間違いなく、どこかへ連れ込んで、乱暴しようと考えているみたいだ。
僕はその事に気付き、恐怖で口が乾くけど、何とか声を出して断ろうとしたが。
なおも、二人組がしつこく言い寄る。
壁の様に立ちふさがった二人を前に、僕の目の前が、暗くなりかけていた所で。
「ミズキちゃん、お待たせ〜」
「えっ?」
カズちゃんの声と共に。
僕は、イキナリ手を引っ張られて、海の家から遠ざかって行く。
気付くと。
あの二人組が呆気に取られた顔で、こちらを見ていた。
・・・
「ふえ〜ん、怖かったよお〜」
「ごめんね、ミズキちゃん」
僕は抱き付きながら、涙で歪んだカズちゃんを見ていた。
カズちゃんは、そんな僕を抱き返しながら、頭を撫でている。
「あの手の連中は、下手に話をすると、イキナリ殴り掛かって来る可能性が高いから。
意表を付いて、連れ出した方が安全だったんだ」
そして、イキナリ手を引っ張って、連れ出した理由を説明する。
結局僕たちは、少し離れた海の家の裏手まで、脱出して来たのである。
「この辺りで、女の子が襲われる事件がある事は、噂では聞いてたけど。
まさか、アイツらじゃないだろうなあ・・・」
「そうなの?」
「うん、何でも入院した娘まで居たみたいだよ」
「(ガタガタガタ・・・)」
その話を聞いた途端、僕は恐怖で震え出した。
”もしかしたら、僕がそうなっていたのかもしれない・・・”
そう思い、体を震わせてしまったのだが。
そんな僕をカズちゃんが、優しく抱き締めながら慰めてくれた。




