第17話 海に行って遊ぼう2
一時間半ほど掛かり、目的の駅まで着いた後。
バスで10分ほど揺られると、目的の海岸に着いた。
「わあ、海だあ〜♪」
バス停を降り、海岸端の松林を抜けると。
そこには砂浜が広がっていた。
白く輝く砂浜と、青い海。
そして、海よりは薄いながらも、他の季節より濃い青空。
水平線付近には高く盛り上がった、雲も見える。
それらの光景を見た僕は、自然にテンションが上がった。
「ミズキちゃん、なんか嬉しそうだね」
「うん?」
僕のハシャギっぷりを見た、カズちゃんが。
僕を見ながら苦笑する。
「だって、こんな綺麗な海なんて、久しぶりなんだもん♪」
手を広げ、クルクル廻りながら、カズちゃんにそう言った。
女の子になってからは、感情の起伏が激しくなったので。
とても嬉しい時なんか、ハイテンションになってしまう事がある。
だからこの時も嬉しくて、つい浮かれてしまった。
「良かった、こんなに喜んでもらえて」
「カズちゃん・・・」
そんな僕を見て、カズちゃんが。
優しい表情を見せながら、安心した様な言葉を言う。
「私を誘ってくれて、ありがとうカズちゃん♡」
「・・・」
カズちゃんの心遣いが嬉しくて、僕は。
彼に、飛びっきりの笑顔を見せる。
するとカズちゃんが、今度はテレた様な顔になった。
「なあ、瑞樹ちゃん。
俺が先に誘ったんだけど・・・」
そんな二人の様子を見ていた、航くんが、そう言って来た。
どうやら、自分にも、お礼を言ってもらいたいらしい。
「ごめんごめん、航くんもありがとう♡」
「あはははっ、良いって良いって、瑞樹ちゃん」
まあ、最初に誘ったのは、彼なので。
サービスで、小首を傾げつつ、お礼を言ってみた。
ハートマークのオマケも付けて。
すると、航くんがデレデレになる。
「ねえ、瑞樹ちゃん、俺にも俺にも」
「俺にも言ってちょうだい〜」
更に、それ見ていた、後から付いてきた他の男の子たちが。
そう言って、僕に催促する。
「えっ? みんなは違うんじゃないの」
「「「「え〜!」」」」
「だって、みんなは航くんのオマケじゃない♪」
でも、他の子から、そんな事を言われていた訳では無いので。
舌をチロリと出して、笑顔で断ったら。
みんな見事にハモりながら、声を上げていた。
朝よりも、みんなに慣れたおかげで。
そんな軽口も、出せるようにもなれた。
こうして、テレているカズちゃん、デレデレしている航くん。
そしてガックリしている、みんなを従えて。
ウキウキした足取りで、先頭を歩いていたのである。
************
それから、海岸に着いた所で。
立ち並ぶ、数件の海の家の中の一つに入った。
中で水着に、着替えるためである。
海の家に入ると、カズちゃんたちと別れ。
僕は、女性用更衣室に向かう。
「(はあ、女の子は面倒だな〜)」
更衣室に入り、着替え始めるのだが。
水着に着替える前に、しなければならない事がある。
何かと言うのは、乙女の秘密だから内緒だよ♡
・・・
秘密な事だけでなく、日焼け止めも塗り直したおかげで。
思ったよりも、着替えに時間が掛かってしまった。
「みんな・・・、遅くなってごめんね・・・」
「・・・」
「「「「「・・・」」」」」
慌てて、海の家から出てきた所で、カズちゃん達が僕を待っていた。
しかし、家を出るときの慌しさ、列車に乗ったときの会話、そして着いてからのテンションで。
僕は、着替える寸前まで、肝心なビキニの事がスッカリ頭から抜けていて。
ビキニをバッグから出した時になり、ようやく、その事を思い出した。
更衣室を出る時、着ているビキニが恥ずかしかったけれど。
ここに来た時のテンションの高さで誤魔化して、そのままの勢いで出たのだが。
出てみると、みんなは僕の体を見て一様に驚いていた。
「(えっ! 何か僕、変なのかな?)」
自分のヒラヒラしたビキニを見ながら。
一瞬、不吉な事を考えるが。
「瑞樹ちゃん、すげえぜ〜」
「すげえ〜、クビレだよ〜」
「脱いだら、こんなに凄かったんだ〜」
みんな水着姿を見て、口々に絶賛していた。
僕のクビレを。
「クビレも凄いんだけど、胸も尻も結構あるよなあ」
「そうそう、全体的にスマートだから、モデル体型に近いけど」
「しかも、その手のスタイルに有りがちな、貧乳じゃ無いしな」
「そうなの?」
更にクビレだけでなく、他にも絶賛していたのだが。
僕自身は、実感は余り無い。
まあ、ウエストが細いのは分かるし、胸やお尻があるのも分かるけど。
他の娘の物を、余り良く知らないので、いまいちピンと来ないのだ。
「そうだよ、顔も可愛いし。
ファッション誌の、読者モデルでも十分通用するよ」
「て、言うか、街を歩いていると、普通にスカウトとか来ない?」
「・・・いや、私、ずっと入院していて。
そんなに街を歩いた事が、無いから」
「あ、そう言えば、そう言っていたね」
みんながそう言うので、僕は顔が熱くなりながらも、気分が良くなるが。
一方で、やはりカズちゃん以外に、そう言われてもイマイチ心に響かない。
「なあ、おい、そろそろ海に入らないか・・・」
「おお、そうだな・・・」
「そうだな、早く入って落ち着けさせないとな・・・」
その内、誰かがそう言い始めると。
みんなが同意しながら、いそいそと海へと入っていく。
しかも良く見ると。
カズちゃん以外は、体を若干前のめりにしながら、心持ち腰が引けている様に見える。
特に、僕は元男だから。
その体勢が意味するものを知っているので、なんか恥ずかしくなってきた。
「ミズキちゃん」
「えっ?」
「その水着、可愛いね。
そして可愛いミズキちゃんに、良く似合っているよ・・・」
「カズちゃん・・・」
海に向かっていたカズちゃんが。
一旦、僕の方に戻ると、そう言って水着と僕の事を褒めてくれた。
僕が彼の為に選んだ、水着はもちろん。
それを身に着けた、僕も褒めた事に飛び上がるほど嬉しくなり。
「ねえ、カズちゃん。早く入ろう♡」
「ちょっ、ちょっと〜、ミズキちゃん!」
思わず彼の手を引いていた。
他の子に、女らしい事を褒められるのは、そこまでの感情が湧かないが。
カズちゃんだけは、無条件でとても嬉しくなる。
こうして僕は、カズちゃんの手を引いて、海へと入った。




