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第16話 海に行って遊ぼう1

 そして、海へと行く当日となった。




 「(プシュ〜)」


 「(ガタン)」


 「(コン、コン)」


 「はあ、急ごう。ミズキちゃん!」


 「う、うん!」



 僕とカズちゃんは、ステップを踏んで、バスから急いで降りると。

駅の方に、航くんも含めた五人のグループが見えた。




 「お〜い、遅いぞ〜!」


 「ごめんごめん」




 航くんが、僕たちを見て、手を振りながら文句を言うので。

カズちゃんが謝った。




 「ごめんね、航くん。

 私の準備に時間が掛かったから・・・」


 「・・・まあ、瑞樹ちゃんは、女の子だから仕方がないよ」




 急いで、航くんの所に行き。

続いて、僕も手を合わせて謝ると、彼はデレデレになりながら許してくれた。



 ・・・



 朝、一応は時間に余裕を見て、準備をしていたのだけど。

僕が、日焼け止めなどの身支度をしている内に、時間が過ぎてしまったのだ。


 それで9時前に、駅前で集合の約束に遅れたのである。




 「へえ〜、この娘が瑞樹ちゃんか」


 「スタイルも良いし、可愛いよねえ〜」


 「どんな娘が来るのかと思ったら、こりゃ当たりだ」


 「向こうで、ナンパするしか無いと思ったけど。

 その必要も、無いかな〜」


 「えっ! えっ!」




 そう言って、僕の周りを、男の子達が集まり取り囲む。


 ハーフパンツとプリントTシャツ姿に、肩にバッグを(かつ)いだ。

いかにも、”今から泳ぎに行くぞ”と言った、()で立ちの男子の集団が。


 デニムショートパンツに、ピンクのタンクトップと言う。

これまた、(あか)らさまに泳ぎに行く姿の僕を、取り囲んでジロジロと見る。




 「あれっ。

 結構、可愛い声をしているね〜」


 「ねえ、ねえ、瑞樹ちゃん。

 今、彼氏とかいるの?」


 「どんなのがタイプなの?」


 「ええっ〜!」




 取り囲んだ男の子たちが、いきなりナンパを始めたので。

僕は驚き、肩に掛けていた、白のトートバッグを握り締める。




 「こらこら。

 ミズキちゃんはウチで預かっているんだから、変な事をするなよな〜」


 「おいおいおい和也、そりゃないだろ」


 「折角の可愛い女の子だから、良いだろ」


 「余り変な事をすると。

 ミズキちゃん連れて、このまま返るぞ」


 「分かったよ、しないよ〜」


 「もお〜、和也はケチだな〜」




 そんな僕を見たカズちゃんが、僕の両肩に手を置くと。

自分の方に引っ張り、背中に廻して隠した。


 そうやって僕を隠した後、男の子達に釘を刺す。


 僕は、カズちゃん達のやり取りを、横から顔を出して見ていた。




 「お〜い〜、早く入るぞ〜。

 そろそろ電車が来る頃だ」

 



 ホッと安心した所で。

成り行きを見ていた航くんが、駅の時計を見て、みんなを急がせる。


 こうして、僕はみんなと一緒に、駅へと入って行ったのである。




 ************




 駅に入ると、ほどなく電車がやって来た。


 そして入ってきた、その電車に乗った所ですぐに座る。


 電車の中にソコソコ人が居たが、座れる程の余裕はあった。


 電車のボックスシートの窓側には、カズちゃん。

その対面には、航くんと一人の子で。

残りは、通路の反対側のボックスシートに座った。


 僕はと言うと、なぜか通路側に座っていた。


 最初は、カズちゃんが窓側に座らせようとしたのだけど。

反対側のボックスの子たちが、”僕と話が出来ない”とクレームをつけたので。

しかたなく、通路側に座ったのである。




 「ねえ瑞樹ちゃん、どこから来たの?」


 「3サイズはどれくらい〜?」




 席に座りしばらくして、男の子たちが、そう言い出した。




 「会ってすぐに、3サイズとか。

 それ、完全にセクハラだろが・・・」


 「うおっとと、ごめんね瑞樹ちゃん」




 座って間もなく、セクハラ発言をした子を、カズちゃんが(たしな)めると。

その子が慌てて、謝った。

 



 「・・・3サイズは教えられないけど。

 来たのは、ΧΧΧから来たの」


 「ΧΧΧって、完全に都会からじゃないか」


 「でも何でそんなトコから、こんな田舎に来たわけ?」


 「・・・まあ、療養でこっちに来たって、言ったらの良いかな」


 「療養?」


 「・・・うん、ずっと病気で入院していて。

 一応治ったんだけど、向こうだと環境が悪いから。

 それで、こっちに来たの」




 緊張しながらも、僕は男の子たちに答える。


 答えた内容は、こっちに来た理由を聞かれたら、そう答えるように考えておいた物だ。


 まあ、本当の事では無いけど、全くの嘘でも無いからね。


 余り細かい事を説明すると、ボロが出てしまうのでボカして説明した。




 「・・・だから、向こうに居たと言っても、ずっと入院していて。

 同年代と付き合いが少ないから、流行(はや)りとか良く知らない事が多いの」


 「へえ、そうなんだ」




 僕は、元からの女の子では無いから。

余り突っ込まれると分からない事も多いので、一応、予防線として、そんな事も言っておく。



 ・・・



 「瑞樹ちゃん、瑞樹ちゃん、学校はどこなの?」


 「う〜ん、カズちゃんと、同じ所に行く予定なんだけどね」


 「うお〜、じゃあ、俺たちと同じじゃないかあ〜」


 「同じクラスに、成れれば良いなあ」


 「バ〜カ〜、瑞樹ちゃんは、俺たちの一個上だろうが」


 「あ、そうかあ〜」


 「残念だなあ〜」


 「クスクスクス」




 同じ学校に行く事を告げると、男の子たちが盛り上がったが。

航くんが、学年が一つ上だと言うと、項垂(うなだ)れてしまう。


 その様子を見て。

僕は、思わず笑みが(こぼ)れてしまった。


 少し時間も経ち、最初の頃よりも緊張が抜けた僕は。

彼らと、打ち解けた話をしている。


 しかし内心では、少しばかり複雑でもあった。


 昔、男時代は、男だけで泳ぎに行ったして。

やはり、女の子が居ないのを悲しんだりもしていた。


 それが女の子になって、自分以外は、男子だけの場を悲しまないどころか。

逆にチヤホヤされる事に、嬉しさも感じてしまっていた。


 僕は、その事に気付き。

心の中までもカナリ女性化している事に、改めて驚く。




 「はあ、瑞樹ちゃんが同じ年だったらなあ〜」


 「ホントだよなあ〜」


 「くすくすくす」




 本人たちは、ガックリしているのであるが。

悪いけど、その様子が僕には可笑しく見えて、つい笑ってしまった。


 そして、そんな僕を見ながら。

カズちゃんが隣で、微笑んでいたのであった。



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・思い出の海と山と彼女
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