第15話 水着を買いに
それから数日後。
夕方、叔母さんが帰るまで、僕は居間でユックリとしていた。
叔母さんが帰ったら、一緒に夕飯の支度をする為である。
そうやって、ユックリしていたら。
「ねえ、ミズキちゃん、ちょっと良い?」
「うん? なにカズちゃん?」
カズちゃんがやって来て、イキナリ僕に聞いてきた。
僕は、不思議に思いながらも、続きを待つ。
「ミズキちゃん、一緒に海に行かない?」
「えっ?」
思いがけない言葉に、僕は驚く。
この辺りは結構、内陸の方で、周囲は山ばかりで海とは無縁だから。
突然出てきた単語に、驚いてしまったのだ。
「いやね航のヤツが、何人かで海に行こうって言うから、了承したんだけど。
そうしたら、”ミズキちゃんも連れてけ〜!”って言うんだよ。
"野郎ばかりだと、ツマンないから"とか言って、僕に絡みながら・・・」
「・・・あはは、そうなの」
理由を聞いて僕は、乾いた笑いが出てしまった。
「でも、ここは山奥の方なのに、どこへ行くの?」
「この辺だと、電車で一時間半くらいの所だよ。
だから、行くとなると一日がかりになるね」
「やっぱり、遠いね」
やはり、海に行くのには、それぐらい掛かるのかあ。
「あれ、そう言えば、航くんには彼女が居なかったけ?」
「ああ、ミズキちゃんをナンパしようとした後、結局デートに遅れてしまった上。
途中でナンパしていた事もバレて、あの後、すぐにフラれたんだって。」
「それは、ご愁傷様でした・・・」
まあ、当然でしょう。
彼女が居るのに他の女の子を、それもデートの前にナンパしているのだから。
口にこそしないが。
ご愁傷様と思うのと同時に、自業自得と言う言葉も思い浮かんだ。
「それで、ミズキちゃんはどうするの?」
「ん〜・・・。
カズちゃんも行くんなら、私も行こうかな・・・」
「そう、なら航に連絡入れておくね」
「いつ行くの?」
「三日後くらいかな。
そしたら、また連絡が来ると思うから」
「うん、分かった」
最初は、少し戸惑ったけど。
カズちゃんも行くので、何とか了承した。
そんな訳で。
カズちゃん達と海に、泳ぎに行くことに決まった。
************
その翌日。
「(プシュ〜)」
「(ガタン)」
「よいしょっと」
軽やかに、バスから降り。
地面に足が着くと、思わずそんな言葉が出てしまった。
僕は、あのショッピングモールへと、再び来ていた。
今日は、水着を買いに来たのである。
まさか、海に泳ぎに行くとは、思いもよらなかったので。
当然、水着なんか持って無かったから、慌てて買いに来たのだ。
と言う訳で、ここまでやって来たけど、今日は一人である。
なぜなら、あまりカズちゃんに、一緒に来てもらうのも悪いのと。
当日に、ビックリさせたいからと言うのもあった。
「さてっと、可愛いのを選ぶぞお〜」
そう意気込みなら、僕はモールの中へと入って行った。
・・・
モールに入ってから、水着売り場を見つけると。
そのまま中に入り、しばらくの間物色した。
「(恥ずかしいから、ワンピースを選びたいな)」
僕はそう思いながら、ワンピースが掛かっているコーナーを探していた。
やはり、僕と同じような考えの娘が多いのか。
ワンピースのコーナーには、露出を抑えた可愛いデザインの水着が置いてる場所があった。
そこを重点的に探し、いくつか見繕った後。
それらを持って、試着室へと向かう。
・・・
「あれ、これも合わないなあ・・・」
そこで、選んだものを着てみたが。
どれも、いまいちキツい。
僕のサイズにピッタリと合うのが無いので、近い物で選んだのだが。
やはり、どれも苦しい。
ある物は、胸とお尻のサイズが合うが、腰廻りがダブダブであったり。
ある物は、腰のサイズが合うが、今度は胸とお尻のキツかったりする。
その選んだ中には、憧れていた白ワンピースもあった。
これを選んだのは。
男時代、白ワンピースが好みだと言う、単純な理由からである。
折角、女の子になって、憧れの白ワンピースを着れるようになれたのなら。
着てみようと言うのは、人情?ではなかろうか(意味不明)。
しかし、その白ワンピースもキツかった。
それも含め、結局、選んだワンピースはどれも合わなくて、全滅だ。
仕方がない、ビキニを選ぶしかないのか。
ビキニなら、ウエストを考えなくて済むが。
でも、その分、露出が増える。
そう思いながら、僕は合わなかった水着を持って、試着室を出た。
・・・
「これなら、良いかな」
今度は、ビキニの水着を持って、試着室で着替える。
ワンピースと違い、ウエストのサイズを考えなくて良いが。
その分、露出が増えてしまう。
出来れば、恥ずかしくないデザインの物を選びたかったので。
色々探している内に、何とか着られそうなデザインの物を見つけた。
今着ているのは。
フリルとスカートが付いた、トロピカル柄のフリフリビキニである。
フリルとスカートのおかげで、それほど極端に露出している訳でもなく。
またその反面、適度に肌も見えている。
その一方で、そうやって色々とビキニを付けて、カズちゃんの事を色々考えている内に。
なぜか、肌を見せる事に、抵抗感が薄くなってきていた。
いや、正確に言えば。
カズちゃんには(・・)、肌を見せたくなったのだ。
"これを見たら、褒めてくれるかな?
それとも、恥ずかしがって目を逸らすかな?"
僕は、色んなビキニを着ている内に。
カズちゃんには、見せられる所は見せたくなった。
一瞬、自分が露出狂になったかと思ったが。
他の男の子に対しては、恥ずかしいと言う思いが先に出て来る。
"でも、カズちゃんには、この姿を見せたい"
僕はそう思いながら、更衣室の姿見の前で。
ビキニの水着を着た、自分の姿を見ていたのであった。




