第14話 冗談だったんだけど・・・
8月に入って少し経った、ある日。
「”今年の、最新の流行は・・・”」
「”話題の、観光スポットは・・・”」
「・・・」
今、僕は、ショートパンツにTシャツと言う、部屋着を着たまま。
冷房の利いた居間で、昼間のテレビを黙って見ていた。
一応、テレビを見ているけど、別に面白いとか言う訳でも無く。
ただ何となく、暇つぶしのつもりで見ていたのである。
「(パタン)」
「あれミズキちゃん、居たの?
ねえ、となりに座って良い?」
「あ、うん、良いよ」
そうやって、テレビを見ていたら。
カズちゃんが居間に入って来て、ソファーに座っている、僕の横に座った。
「(ぽすっ)」
「はぁ〜、暑いねえ〜」
「(ピッ、ピッ)」
「ああっ、カズちゃん!
温度、下げないでよぉ〜!」
カズちゃんが座ると同時に、リモコンを押して温度を下げ始めたので。
僕は慌てて、止めるように言った。
「ええっ〜、だって熱くて熱くて、たまんないんだよ〜」
「こっちも、これ以上温度が下がると、体が冷えてきちゃうの〜」
「・・・ミズキちゃんって、寒がりなんだね」
「女の子になった途端、寒さに弱くなったのよ」
そう、女の子になってから、体が冷えやすくなったのだ。
まあ、男女の筋肉量とかの関係とか、色々あるんだろうだけど。
しかし、これ程までに、冷えやすいとは思わなかった。
しかも、それに加えて。
どうやら僕は、冷え性にもなってしまったみたいで。
初めての冬の時は、特に手足が冷えて、とても辛かった。
「それに、冷え性みたいだから、手足も冷えやすいんだよ」
「母さんもだけど、女性は大変なんだね・・・」
「私も、自分がなってみて、初めて分かった」
僕は、手を擦る動作をしながら、そう言った。
余り、冷房を掛けすぎると体が冷えてくるので。
一応、冷えた時の為に、膝掛けを置いている。
でも、冷えるからと言って。
今度、冷えた時用の服装で居ると、外に出たときが暑くなってしまうので。
そう言った物で、温度調節をしていたのだ。
「ねえ、ミズキちゃん、お願い。
少しだけ、少しだか下げても良いかなあ?」
「え〜、これでも、私には大分涼しいんだよ〜」
「僕は暑いんだけど・・・」
カズちゃんは、余りの暑さに、少しでも温度を下げようとするが。
僕も、これ以上、下げると逆に寒くなってしまうので。
お互い、平行線のままである。
「じゃあ、私をギュッとして温めてくれたら、下げても良いよ♡」
「・・・」
何とかして涼みたがる、カズちゃんに。
僕は笑いながら、冗談でそう言ってみた。
そう言ってみても。
カズちゃんは多分するはずが無いと、思ったからだ。
僕は、そうだと、思ったのだけど・・・。
「(ガバッ!)」
「きゃっ!」
「(ひょいっ)」
「(ギュッ!)」
隣のカズちゃんが、僕の背中に腕を通し。
それから、僕を抱え上げると、僕を自分の足の間に入れた。
「ねえ、ミズキちゃん、これなら良いでしょ!」
「・・・あ、う、うん」
「(ピピピピッ)」
僕を、脚の間に入れたカズちゃんが、そう尋ねると。
呆気に取られた僕が、思わず返事をするのを聞いて、急いでリモコンのボタンを連打する。
どうやら恥ずかしさよりも。
余りの暑さに、我慢できなくなったみたいだ。
「(ゴ〜ッ〜)」
「きゃっ! 冷た〜い」
カズちゃんが温度を下げた所為で、冷たい風が当たってしまう。
「(ぽかぽか)」
「(あれ、暖かい?)」
初めは、冷たい風を感じるが。
それが過ぎると、カズちゃんの体温を感じて暖かくなる。
「ミズキちゃん・・・、
ミズキちゃんの体はヒンヤリしていて、気持ちが良いね・・・」
暑さが引いたのか。
カズちゃんが恥ずかしそうに、そう言った。
落ち着いた所で、やっと自分がやった事に気付いてみたいである。
だが、僕が暖かさを感じたのとは対照的に。
カズちゃんは、冷たさを感じている様だ。
「カズちゃん・・・、
私は、カズちゃんの体が暖かくて、気持ちが良いよ・・・」
僕はむき出しの足に、膝掛けを掛けて冷えないようにしたが。
それ以外は、カズちゃんが暖かくて、その必要がなかった。
そのカズちゃんの、暖かさが心地良くて。
僕は、ウットリとした声で、彼にそう返した。
「ミズキちゃん、気持ち良い・・・」
「カズちゃん、気持ち良い・・・」
お互いに、相手の体温に、気持ち良さを感じていたが。
その感覚は、全く逆であった。
こうして僕は、カズちゃんに後ろからギュッとされながら。
しばらくの間、ソファーに座っていたのである。




