第12話 二人で買い物へ行く(後)
僕とカズちゃんは。
ショッピングモールの中を、手を繋いで歩いていた。
チラチラと、周囲から視線を受けるけど。
それでも、離そうという気にはなれなかった。
「ねえ、ミズキちゃん」
「ふえっ!」
突然、カズちゃんから話し掛けられたので。
変な声で返事をしてしまった。
「可愛い女の子から、チョットしたワガママを言われるのは、男として嬉しいよ。
それに、ミズキちゃんのワガママなんて、むしろ可愛い位だよ」
「カズちゃん・・・」
僕を見詰める、カズちゃんの瞳はとても優しい。
そんな彼から、”可愛い”と連発され。
思わず、舞い上がってしまった。
「お〜い、和也〜」
僕が、カズちゃんの顔を見ながら、舞い上ったままボンヤリとしていたら。
向こうから、カズちゃんを呼ぶ声がした。
見ると、一人の男の子が、こちらに駆けて来ている。
その男の子は坊主頭に、全体的にダブッとしたファッションの。
何というか、田舎のヤンチャ坊主と言った風情であり。
顔もちょっとニヤけた、少々、軽そうな印象を受ける表情であった。
「あちゃ〜、あいつに見つかっちゃったよ〜」
カズちゃんが紙袋を持った手で、頭を抱えた。
「なんだよ和也。 お前、彼女が出来たのかよ〜」
「違うよ! この娘は、従姉のお姉ちゃんだよ」
「その割には、手を繋いでラブラブじゃないか〜」
「はぐれちゃイキナイと、思ったから、手を繋いでいたんだよ!」
「そうかな〜。 そんなに、混んでるんだっけかな〜?」
「んぐっ!」
その男の子は、僕達の前までくると。
開口一発、そんな事を言ったので、慌ててカズちゃんが否定するけど。
その子は辺りを見廻し、意地が悪そうな事を言う。
「ねえねえねえ。
お姉さん、名前は何て言うの〜?」
「えっ、わ、私は瑞樹って言うんですけど・・・」
「あれ、声優みたいに可愛い声だね。
そう、瑞樹ちゃんかあ、良い名前だし良く似合ってるよ」
その子の言葉に、カズちゃんが絶句していると。
男の子が今度は、僕に詰め寄ってくる。
僕は、その余りの勢いに、タジタジになる。
「はあ〜、ミズキちゃん、コイツは大海 航。
僕と同じクラスの人間で、いわゆる腐れ縁の関係だけどね」
「和也、腐れ縁とはヒデエなあ〜」
カズちゃんが溜め息を吐いて、男の子を紹介すると。
その航くんと言われた男の子が、大げさに嘆きながら抗議する。
「瑞樹ちゃん可愛い顔している上に、声も可愛いし、それにスタイルも良いね。
でも、こんな娘なら絶対に忘れるはず無いなのに、今まで見たこと無いねえ〜」
「あ、えっと・・・、最近ここに引っ越して。
カズちゃんの所に、ご厄介になったんです・・・」
「そうかあ〜、だからなんだ〜」
僕の顔と体、特に黒のボーダーシャツを押し上げる胸と、白いミニスカに包まれたお尻。
そして、そこから出ている素足を、不躾に見ながら。
航くんが、そう畳み掛けるようにして、僕に聞いてくる。
「ねえねえ、瑞樹ちゃん。
今度、一緒にどこかに行かない?」
「えっ、ええっ〜!」
「こらこら、なに人の家族をナンパしているんだよ!」
しれっと、ナンパまでを始めた航くんに、業を煮やしたカズちゃんが。
僕の両肩を掴み、自分の後ろの方に廻し隠した。
「ふ〜ん〜、 本当にタダの家族なのかなあ〜?」
「どう言う意味だよ・・・」
「従姉弟なら、結婚できるからねえ〜」
「わ、航!」
「・・・」
カズちゃんの顔を覗き込むようにして、航くんがそう言うと。
カズちゃんは声を荒げ、僕は彼の後ろで顔を俯せてしまう。
「・・・おい、航。
お前、何しにここに来たんだよ」
「え、今日は・・・。
いけねぇ〜、今日はデートで、映画館前で待ち合わせだってんだ〜!」
「・・・で、時間も良いのか?」
「あああっ、遅刻しそうだ〜」
ウンザリした顔でカズちゃんが、そう尋ねてみると。
航くんが答えている内に、思い出したようだ。
しかし、他の娘とデートなのに、僕にナンパするの?
「じゃあ俺、急ぐから、それじゃあな和也。
あ、そうそう、瑞樹ちゃん。
今度、一緒にどこかに行こうね〜」
「お前、デート前に、ナンパなんかするなよ!」
脱兎の如く。
モールの奥にある映画館に向かって駆けてゆく、航くんに向かって。
カズちゃんが声を投げ掛けた。
「はあ〜、疲れたなあ〜」
「ごめんね、ミズキちゃん。
あいつ、悪い奴じゃないんだけど、女の子にはダラシないんだよねぇ」
嵐が過ぎた後。
僕は、カズちゃんの後ろから出てきて、一息吐くと。
彼が、そう言って謝った。
「可愛い娘には、見境なくアタックして。
その結果、中には根負けして、付き合い始める娘もいるんだよ。
でも、他にも可愛い娘を見かけると。
付き合っているのにも関わらず、ナンパしまくったりして。
結局、それが原因で、すぐに別れるんけど。
それでも懲りずに、同じ事を繰り返すんだよね」
「なに・・・、それ・・・」
「だからアダ名が、諸星あ○るとか、冴○僚とか言われているんだよ」
「・・・どうして元ネタが、大昔のアニメなの?」
僕は、航くんの余りにも強烈なキャラクターに、絶句していた。
************
「ねえ、ミズキちゃん。
疲れてしまった様だから、とこかで休まない?」
「あ、うん、ありがとう」
何か、気疲れしまった僕を見て。
カズちゃんが、そう言ってくれた。
「先の方にアイス屋があるから、そこで休もうか。
僕が奢ってあげるから」
「えっ、いいよ、そんな」
「良いから、良いから、可愛い女の子に奢るのも、男の甲斐性だし」
「ありがとう、カズちゃん♡」
僕は奢ってもらう事よりも、再び”可愛い”と言われた事が嬉しくなり。
再び、舞い上がってしまった。
「(ギュッ)」
「ミズキちゃん?」
「ねえ、カズちゃん、良いよね」
「う、うん」
余りにも舞い上がり過ぎて。
カズちゃんの手を、また握る。
でも、先ほどみたいに、周囲の目が気にならなかった。
なぜならば、舞い上がり過ぎて、そこまで注意が向かなかったのである。
こうして僕は上機嫌のまま、カズちゃんと一緒に。
アイス屋さんへと、向かったのであった。




