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第10話 ちょっとしたイタズラのつもりが

 僕が、カズちゃんから慰めてもらってから数日後。


 それは、昼過ぎの事であった。




 「うわぁ〜、冷たい〜」




 たまたま居間に入ると、冷たい空気を肌に感じてしまい。

その感触は、寒さを感じる位であった。


 僕は女の子になってから、ちょっとした事で、すぐに体が冷えてしまう様になってしまった。


 どうやら、冷え性になってしまったみたいである。


 例えば、女の子になって向かえた、始めての冬。


 あの時は外に出たりすると、すぐに膝から下、手首から先が冷えて、とても困ってしまった。


 しかも一番困るのは、勉強する時。

部屋の中でも、手を外気にしばらく(さら)すと、手が上手く動かなくなる位に(かじか)んでしまう事だ。


 でも、手首や手の甲を上着の(そで)で隠す。

俗に言う萌袖にすると、冷えが緩和(かんわ)されて楽になるのを発見する。


 あの萌袖はただ可愛く見えるだけなく、防寒の意味があるのだと、その時初めて気付いた。




 「ちょっとカズちゃん、冷房、効き過ぎだよ〜」




 平日の今、家に居るのは、夏休み期間中の僕とカズちゃんだけである。


 叔父さんはもちろん、叔母さんも仕事に出ている。


 だから、こんなに冷房を掛けているのは、彼だけだ。


 確かに、男の子の方が体温が高いので、暑がりなのは分かるけど。

これでは逆に体に良い訳は無い。


 少し、注意しようと、彼を探すと。




 「もお〜、こんな所で寝ている〜」




 カズちゃんは、ソファーの上で昼寝をしていた。


 僕は彼を起こそうと、ソファーに近寄る。




 「ほらっ、カズちゃん。

 こんな所で、寝ちゃダメでしょう〜」


 「むにゃむにゃむにゃ・・・」


 「もお〜、起きなさい!」


 「後、5分、後5分だけ・・・」




 彼を起こそうとするけど。

いくら揺すっても、寝言を言うだけだった。


 何度も揺すっても、起きる気配が見えないので。

一旦、揺するのを止めて、彼を見てみる。


 すると僕の目が、カズちゃんの胸板に止まった。




 「・・・ごくり」




 僕は彼の胸板を見て、思わず喉を鳴らした。


 カズちゃんの胸板を見て。

彼に抱き締められ、慰められた時の事を思い出したのだ。



 見かけよりも、(たくま)しい腕。


 暖かい体温をした肌。


 安心して身を任せられる、広い胸。



 その事を思い出して、顔が熱くなるが。

それでも、彼の胸板から目を離すことが出来なかった。




 「・・・ちょっとだけだよ」




 誰とも無く、そういう言い訳を言うと。

他に人が居る訳でもないのに周りをキョロキョロ見た後、熱に浮かされたようにソファーとテーブルの間に座り込んだ。


 そして座り込みと、寝ているカズちゃんの胸に頭を乗せる。




 「うふふっ」


 「(すりすりすり)」




 寝ている彼の胸に、頭を乗せたら。

満足そうな笑みを浮かべつつ、頬ずりを始める。




 「(ギュ〜ッ)」




 頬ずりをして、カズちゃんの広い胸を堪能(たんのう)している内に。

いつの間にか、彼の体に抱き付いてしまっていた。




 「(しかし、男の子の胸が、こんなに気持ち良いなんて。

 自分が男の時には、想像もしなかったけどなあ〜)」




 寝ているカズちゃんにイタズラしながら、熱に浮かれて頭で、そんな事を思っていたら。




 「(バッ!)」


 「(ギュッ!)」


 「(えっ?)」




 寝ているカズちゃんが、イキナリ僕を抱き締めてきた。




 「・・・カズちゃん、起きているの?」


 「むにゃむにゃむにゃ・・・」




 ビックリした僕は小声で聞いてみるが、返ってくるのは寝言のようなので。

どうやら寝ボケているみたいである。


 突然のカズちゃんの行動で、冷静になった僕は。

何とか、彼の腕から脱出しようとするけど、寝ている割にはビクともしない。




 「(すーっ、すーっ)」


 「(なんなの?)」




 そうやって何とか抜けそうと、必死で藻掻(もが)いていたら。

どう言う訳か、不意にカズちゃんが僕の頭を撫で出した。




 「大丈夫・・・、ミズキちゃん大丈夫だから・・・」


 「・・・カズちゃん」




 ビックリする僕を余所に、そう言い出したが、まだ起きてる訳ではない。


 しかし、夢の中でも僕の事を心配しているカズちゃんに、ジ〜ンとしてしまった。




 「(すーっ、すーっ)」


 「(カズちゃん、もっと、もっと撫でて・・・)」




 頭を滑る感触が気持ち良くて。

僕は心の中で、更なる愛撫を要求していた。




 「(ギュッ)」


 「(すりすりすり)」




 僕は、カズちゃんに頭を撫でられながら。

彼に、強く抱き付いて頬ずりをする。


 冷えた部屋の中で頬に当たる暖かい彼の肌は、とても気持ち良くて、思わずトロけてしまう。


 こうして、ホンの出来心でしたイタズラであったが。

カズちゃんの予想もしない行動に、僕はトロけてしまった。



 ・・・




 「ふぁ、あああ〜っ。

 って、ミズキちゃん!」


 「んんんっ・・・。

 あれ、カズちゃん?」




 頭の上で狼狽(うろた)える、カズちゃんの声で気が付く。


 眠気があって、頭が良く回らないので。

どうやら、いつの間にか眠ってしまったみたいだ。




 「あの、その、えっと、ミズキちゃん・・・」


 「くすくすくす、良いのよカズちゃん」




 僕を抱いたまま、寝ていた事に気付いた彼は、シドロモドロになるが。


 カズちゃんに、ギュっとされながら寝ていた僕は、とても満足な気分で笑っていた。



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・思い出の海と山と彼女
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