第1話 意外な形での再会
お久しぶりです、獅子丸です。
何とか、目処が付いたので、これから少しずつ復帰する予定です。
いつも通りのチラシの裏で、アラが有りまくりですが、よろしくお願いします。
世間では、夏休みが始まった最初の日。
「はあ〜、ついたあ〜」
僕はキャスター付きのトランクを、引きずりながら木造の駅舎から出た所で、一度止まり。
午後の日差しの下、大きく伸びをし、一息付いた。
「ここは、変わらないなあ・・・」
大きく広げた手を下ろし。
それから、目を細めて周囲を見渡した。
目の前に見える駅前の駐車場には、タクシーどころか車の影形すら無く。
周囲には、コンビニもどきの店と、数件の家があるだけである。
遠くには、自然豊かな山々が見え。
昔、何回も来た時のままの風景が広がっていた。
「(あれかな?)」
そうやって待ち合わせをしながら、ボンヤリと周囲を見て、昔の事を思い出していたら。
遠くのバス停にバスが止まり、一人の男の子が出てきた。
その男の子は駅前を見回して、僕が立っているのを認めると、そのまま真っ直ぐ、こちらにやって来る。
男の子は高校生くらいで。
ジーンズにTシャツと言う、シンプルで飾り気の無い姿である。
その男の子の顔は、とても整った顔をしていて。
昔、見たよりも、大人らしくなっていたが、それでも昔の面影がまだ残していた。
男の子の反応と、その顔を見て、僕は約束していた相手だと確信する。
男の子は、僕を見ながら、困惑と恥ずかしさとをない交ぜにした様な表情をして、こちらにやって来た。
「あ、あの・・・、ひょっとして古山 瑞樹さんですか・・・」
「うん、そうだよカズちゃん」
「えっ! 本当に、ミズキちゃんなの?
本当に、女の子になってしまったんだね・・・」
「・・・うん、カズちゃん。
なぜか、そうなっちゃったんだよね・・・」
頭一つ分だけ、大きな男の子が。
つば広帽子に、ノースリーブの花柄ワンピース、サンダル姿の僕の前に立つと。
遠慮がちに僕に尋ねてきたので、そう答えたら、驚いたように絶句する。
それに対し僕の方も、肩までの長さの髪を掻きながら。
苦笑いしつつ、そう返した。
************
僕の名前は、古山瑞樹。
こく普通の男子高校生であった。
そう、つい1年ほど前までは。
なぜならば、僕は、ある奇病にかかった結果、女の子になってしまったからである。
・・・
それは一年前の、今頃。
突然、原因不明の高熱が何日も続き。
しばらく安静にしたが、それでも下がる気配が見えないので、急遽病院に緊急入院する事となる。
しかし、入院してからも熱が下がる事はなく。
今度は、全身に激痛が走るようになった。
それから三ヶ月もの間。
僕は、高熱と全身の激痛に悩まされ続けた。
こうして三ヶ月が立ち。
ようやく、熱と激痛が収まった頃。
何とか起き上がれる様になった僕は、自分の体に、異変が起きた事に気付く。
”物心付いた頃から、慣れ親しんだ。
男の大事な物が無くなっていた事”
”それに代わり、胸には。
もの凄く、大きいと言う訳ではないが。
それなり大きな物が、出来ていた事”
”手足がホッソリとなり。
肌が白く、肌理細やかになった上。
腰が細くなるとのと相反して、お尻が大きくなった事”
”そして、鏡を見ると。
美人では無いが、それなりに可愛い女の子の姿が写っていた事”
”しかも、その女の子の顔は、タレ目でノンビリとした。
どこかで見たような、顔であった事”
・・・どう言う訳か。
僕はいつの間にか、女の子になっていた。
「えっ? 誰なの?」
鏡に映った自分を、しばらく認識できず。
アニメ声とまでは言わないが、結構、甘い声でそう呟く。
そうやって、しばらくの間僕は、呆然となっていた。
少しして来た、医者(先生)の説明によると。
この数年の間に、世界中で急に発生するようになった奇病で。
しかも、十代の男子にだけ、発生するとの事である。
しかも原因が全く不明で。
ここ数年の間に、急に発生する様になった上、報告例が少ない病気なので。
治療法どころか、まだ正式な病名すら確定していない状況であった。
一応、仮に突発性性転換症候群という名前で、呼ばれているのである。
そんな、医者(先生)からの話を、僕は愕然としながら聞いていた。
しばらくの間、死ぬほど苦しんだかと思ったら。
知らぬ間に、自分の性別が変わってしまったからだ。
それから僕は、数日間。
ショックの余り、何も考えられなくなってしまっていた。
・・・
ショック状態から立ち直った後。
しぶしぶながらも僕は、女性として生きるしか無い事を覚る。
こうして僕は、リハビリとして。
女性としての生きるための、色々な事をレクチャーされる事となったり。
あるいは、戸籍を初め、性別を変更する為の手続きをしたりと。
急激に変わった、周囲の状況に翻弄されていた。
こうして、ある程度落ち着いた頃。
今まで通っていた学校には、通えなくなってしまったと言う問題に、直面する事となる。
なぜならば、突然、男子から女子に変わった生徒が通う事による。
予想も付かない混乱が、発生する可能性が高かった為だ。
例えば。
”着替えは、普通の女子と同じでも良いのか。
また、元男にだった事による、拒否反応は無いのか?”
”仮に女子から拒否されても。
当然、男子と一緒にする事なんて出来ない”
”かと言って、一人だけ特別扱いすると。
それはそれで、様々な手間が掛かって大変である”
他にも、どんなトラブルが起るのか、予想も付かない為。
遠回しながらも、学校側から戻る事を拒否されたのだ。
それに、前の僕を知る近所から。
僕に関する、色んな噂話が聞こえ始めてもいた。
そう言った諸々(もろもろ)の理由で。
僕は、男時代を知っている人間が居ない。
違う土地で、新しい生活を始める事を強いられる事となった。
そんな訳で、行き先を探した両親が、行き着いた先は、父方の叔父さんの家に厄介になる事だった。
始めは迷惑ではないかと思われたが。
叔父さん夫婦は、男しか子供が居ない家に、女の子が来る事を非常に歓迎してくれた。
という事で僕は、これから叔父さんの家で。
女として、一から始める事になったのである。
************
「最初見たとき、信じられんかったよ。
だって、とっても綺麗な女の子だから・・・」
男の子は、テレながらも、そう言ってくれた。
この男の子は、僕の一歳下の従弟に当たる。
古山 和也である。
小さい頃はいつも、ここに来た時は一緒に居て遊んでいた。
大人しくて、人見知りなカズちゃんだったが。
なぜか、僕とは馬が合い。
ここに居る時は、常に”ミズキちゃん、ミズキちゃん”と言いながら、僕の後をよく付いて来たものである。
「えっ、そ、そう言うカズちゃんも、結構格好良くなったよ」
「じょ、冗談だよね・・・」
「違うよ、冗談なんかじゃないよ」
カズくんは僕より大きく、存在感があるが、決して威圧感などは無く。
むしろ、優しそうな顔立ちと相まって、穏やかな雰囲気を漂わせていた。
例えるなら、ピレニーズとかゴールデンなんかの、温厚な、大型犬に近い印象を受ける。
しかし僕は改めて、彼を近くで見て、予想以上に格好良くなっていた事に内心驚く。
そんな相手から、テレながら“綺麗”と言われて、僕の方もドキッとしてしまった。
今の内心の動揺が、顔に出ない様、必死に誤魔化しながら。
僕は彼に、思った事を口に出してみたのである。