四話「第一次報告書」
四話「第一次報告書」
「・・第一次報告書?」
「この実験が始まってから一週間目だからね。この報告書に必要事項
を記入しろだってさ」
奇妙な同居生活が始まってからすでに一週間。アヤが学校にも慣れ
てきた頃、二人の家に書類が送られてきた。その書類の表紙には
第一次報告書と書かれている。書類を一通りみるとマーク形式と記
述が混ざったものであった。一番上には深く考えずにお答えくださ
いと記入されている。
「・・じゃ、私も自分の部屋で書いてくるから」
「ああ」
報告書の注意書きの欄には相手とは別々の部屋で行う事。決して
見せることがないようにと書かれている。太助は筆箱からシャーペ
ンを取り出し、書き始める。
「えっと・・始めは・・はいなら1でいいえなら2か・・」
〈正直に言ってこの実験を中止にしたいと思っている〉
太助は迷わず1を塗りつぶす。そんな調子でずっと二択のマークが
続いていく。そのころアヤも隣の部屋で書き始めていた。
「・・えっと・・はいなら1でいいえなら2ね・・」
一つ目の問を見てアヤは迷わず2をマークする。アヤもさっさとマーク
を続けていく。二人ともマーク形式の方はすぐに終わった。そして
記述の部分にとりかかる。
〈相手のことをどう思っているか〉
「・・かなりうざい奴」
太助は素直に記入する。確かにアヤが来る以前はずっとこの家に一人
だったので少し楽しかったりもするが、やはり居ないほうがいい。ア
ヤがもし悪魔でなかったのなら、話は別だろうが。やはり悪魔との同
居などずっと続けたいとは思わない。むしろ早く終わって欲しいと
思っている。次の質問を太助は見る。
〈もし相手が悪魔(もしくは退魔師)でなかったのならどう思うか〉
「・・」
太助は思わず黙ってしまう。もしアヤが悪魔で無かったのならどう
なのだろうか。思わず手を止めて考えてしまう。アヤが嫌いなわけ
ではないだろう。悪魔が嫌いなだけだ。アヤのことを本当に憎んで
いるのであれば一週間もこの生活は続きはしない。結局太助にとって
憎むべきは人間の敵となる悪魔なのだ。人間と共存しようと考えてい
る悪魔なら何とも思わないのだろう。アヤのように。そのころアヤも
隣の部屋で悩んでいた。全く同じ質問で。
「むむむ・・・」
アヤは別に太助が退魔師であろうと普通の人間であろうとどちらでも
良いと思っている。太助は太助だ。退魔師であっても普通の人間で
あってもその部分に変わりは無い。何とも思わないはずだ。だが本当
にそうだろうか。もし、太助が普通の人間ならこんな同居は成立して
いないだろう。その後数分経って、アヤは太助の居る部屋に戻る。
太助も報告書を書き終えたらしく、封筒に報告書を入れていた。
「書き終わったみたいね」
「ああ。お前もか?」
アヤは頷く。アヤは太助の隣に座った。いつもなら正面に座るのだが
今日は隣に座りたい気分だった。
「これ、どうするんだ?」
「明日、誰かが取りに来るらしいよ」
アヤが聞かされた話では二人の日常を誰かが常に監視しているらしい。
悪魔と人間それぞれ代表者一人がその役に就いているらしい。その誰
かが報告書は回収に来るようだ。
「・・太助は・・さ、やっぱりこんなのやめたいよね?」
「・・別に。どっちでもいい」
「え?」
思いもしなかった返答に思わずアヤは驚いてしまう。昨日までなら絶
対に早く終わらしたいと言っていたのに。何か心境の変化でもあった
のだろうか。
「・・俺はどっちでもいい。・・お前は?」
「私は・・もう少しは続いてほしいかな・・」
アヤはそう言ってから何故か顔を赤くする。太助は首を傾げ不思議そ
うに見ていた。
「熱でもあるのか?」
「そ、そんなんじゃないわよ」
「だったらいいけど・・」
太助の隣でアヤは小さくため息をついていた。今はそのため息の理由を
太助に話すわけにはいかない。だが、もう少しすればいずれは言うつも
りだった。その時まではずっと自分の中だけに留めておかなくてはならない・・