三話「初めての学校」
三話「初めての学校」
「学校ってわくわくかるわね・・」
「それはお前だけだ」
アヤは横からの冷たい言葉にむっとする。そんなことは気にせず
太助は学校に向かい歩いていく。結局アヤが太助と同じ学校に通
うことになるのを太助は止めれなかった。せめて登下校は別にし
ようと提案したが、それでは意味が無いの一言で却下された。
「全く・・もう少し楽しそうにしてもいいんじゃない?」
「隣に居るのがお前じゃなかったら、もっと楽しいよ」
「それって、まるで私が楽しくない原因みたいじゃない」
太助は何も言わず無視して歩こうとする。すると隣から鞄が頭めが
けて飛んできた。ギリギリのタイミングで回避する。
「やっと・・本性を現したか、悪っ・・」
太助の口をさっとアヤが手で塞ぐ。アヤは特例でこの地域に住むこ
とを許されているが悪魔であることがばれれば大変なことになる。
見た目は普通の人間の女の子と違いないので悪魔であることを言わ
なければまずばれないだろう。
「・・すまん・・」
「いいよ。今のはちょっとやりすぎたしね」
二人がそうこうしている内に学校についた。太助は教室へ向かいアヤ
は職員室へと向かった。まだ手続きが残っているらしい。同じクラス
にはなりたくないと思っているが、どうも同じクラスになりそうな気
がする。教室へ入り、自分の席に座る。
「よう。聞いたぜ、今日は誰かと一緒に来てたってな」
前の席の松田翔平が話しかけてくる。にたにたと笑っている。松田は
クラスの中で一番の噂好きだ。普段太助は一人で登校することがほと
んどで誰かと来る事など滅多にない。それも女子となら絶対にない。
松田はアヤと太助が一緒に歩いているのを誰かに聞いたのだろう。
「見た事がないって言ってたけど・・後輩か?」
「転校生だよ。家が近くなんだ。道が分からないから、一緒に来ただけ」
どうせいずれは分かることだ。言ってしまっても問題はないだろう。
だが松田は更ににたにたしながら言ってきた。
「かなり親密そうだったって聞いたんだが・・」
「お前・・見ただろ。聞いたんじゃなくて」
松田はさあなと答える。結局朝のホームルームが始まるまで松田からの
質問攻めにあった。そしてやっとホームルームが始まり解放されると担
任の口から聞きたくない言葉が聞える。
「今日は転校生を紹介するぞ。・・それじゃあ、入りなさい」
クラス中が期待する中、太助はため息をついていた。やはり同じクラスか。
あまり当たってほしくなかった予想なのだが。教壇の所にアヤが立つ。そ
して自己紹介わ初めた。アヤの髪の色は黒なので日本人としても十分に通
用する。瞳の色も日本人のそれと同じだ。だが名前が名前なのでとりあえ
ずイギリスと日本とのハーフという設定らしい。
「これからよろしくお願いします」
「席はあそこだ」
と言って担任が指した席は太助の隣だった。太助の隣はずっと空いたまま
だったが、まさかそこにアヤが来ることになるとは。アヤは太助の隣に座
る。
「よろしくね」
「・・ちっ」
思わず舌打ちしてしまう。前では松田がにたにたとしている。
「原田は、教科書が届くまでアヤに教科書を見せてやるように」
「・・はい」
渋々といった感じで返事をする。その隣でアヤはにここにとしていた。担
任が教室から去ると、アヤの周囲に人だかりが出来る。後数分すれば一時
間目が始まるというのに。太助は教室の隅へと移動する。太助は教室の一
番左隅の席に座っている男子生徒に話しかける。
「・・疲れてるような顔してるな・・」
「最近いろいろとあってな」
「ああ・・研究か」
男子生徒は頷く。名前は古川隼人。何の研究かは知らないが、とある国家
プロジェクトに携わっているらしい。そのせいか毎日寝不足のようだ。そ
してここ最近は特にそれが顕著に現れている。どうも研究が行き詰ってい
るらしい。
「あんま、無理はするなよ」
「ああ・・。研究が終わればいくらでも休みは取れる」
チャイムが鳴ったので太助は自分の席へと戻った。席に座り、一時間目の
授業の用意をしていると、アヤが話しかけてきた。隼人の方を指差して
何者なのかを聞いてくる。
「・・退魔師じゃないわよね?」
「ああ、そのはずだ。ただの高校生じゃないことは確かだが」
だが、それでも普通の人より少し技能が発達しているに過ぎない。太助
のように特殊な力を持った者ではないはずだ。
「・・それにしては少し変ね・・」
「変?」
アヤは頷いた。普通の人間の気配にしては少し妙だと。まるで人間じゃ
ない何かが隼人の周りにずっと漂っているかのような感じらしい。
「・・精霊だと・・まずいわね」
「お前の正体が気づかれるってことか」
だが、その日は何事も無く終わった。隼人が二人に話しかけてくること
はなかったし、アヤが危惧しているようなことも起きなかった。人間と
悪魔が対立しているように精霊と悪魔もかなり仲が悪いらしい。だが隼
人にまとわりついているのが精霊だと決まったわけではない。
「帰ろっか」
放課後になると、太助はアヤと一緒に家へと帰宅する。二人が教室から
去っていったのを見ていた隼人はため息をつく。
「気にしすぎだ・・悪魔が全て悪いわけじゃないだろう」
『悪魔の味方をするの?私じゃなくて?』
「お前の相手をしていると疲れる・・。あの悪魔が何も起こさない限りは
こちらから手を出す必要はないと言っている」
隼人は誰も居ないはずの教室でぶつぶつと呟いていた。だが誰かと会話
をしているようだ。隼人の肩の辺りに小さな光る物体があった。手の平
くらいのサイズだ。その物体に向かって隼人は話しかけている。
『何か起きてからじゃ遅いのよ』
「・・少し様子を見てからでも遅くないだろう」
『分かったわ。・・もう少し様子を見る』
隼人はまたため息をついた。あの悪魔がこの学校内で悪さをしない限り
攻撃する必要も無い。だが、もしあの悪魔が妙な動きを見せれば隼人は
友人である太助ごと悪魔を粉砕する必要がある。
「・・そんなことはしたくないんだがな・・」
隼人の呟きに対する返事は無かった・・