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二話「譲れぬ考え」

二話「譲れぬ考え」

「私だってね、考えを変えるつもりはないわ」

「なら、家から出て行け。ここは俺の家だ」

 机を挟んで二人は対立していた。退魔師原田太助の前に上級魔

 アヤが現れたのは昨日の事だ。あれから1日が経つが、二人とも

 些細な事で衝突を繰り返していた。

「それとこれとは話が別でしょ!」

「嫌なら出て行けばいい。ただ、それだけじゃないか」

 二人が睨みあう。この言い争いの原因はアヤが太助と同じ学校に行

 くと言い出したからだった。さすがにそれだけは止めてくれと太助

 は頼んだが、アヤは絶対に行くと言い張った。そこで二人の争いが

 始まった。

「一緒の学校に行かないと意味がないでしょ?」

「俺が気にすることじゃない」

「この計画には人間側の代表者も期待してるのよ」

 二人は悪魔と人間の共存を考えている両種族の穏健派達の提案した

 実験の被験者だ。悪魔と人間の共存は可能なのかのテストなのであ

 る。アヤはその実験何故か、乗り気である。しかし太助はかなり否

 定的だった。そんな実験が上手くいくはずがない。悪魔と人間の共

 存など不可能なのだというのが彼の持論である。退魔師としては当

 然の考えだ。

「勝手に期待されてこっちは迷惑だ」

「くじ引きで決まったんだから、仕方ないでしょ」

「そんな重要なことをくじ引きで決めていいのかどうか疑問だ」

「とにかく、私は絶対に学校に行くからね」

 アヤが当然だというように主張した。しかし、太助は悪魔は学校に

 いけるのかと尋ねる。するとアヤは得意げに一枚の紙を広げる。そ

 れを見て太助は唖然とする。

「許可書よ。偽装なんかじゃないわ」

 太助は何も言えなくなった。アヤはこれでどう?というような顔を

 している。悪魔の在住はある程度は認められている。だが、やはり

 人間と同等の扱いをされることはまず無い。選挙権はもちろんない。

 義務教育も受ける権利も無い。それに悪魔が住める地域も限定され

 ている。ちなみに太助が住むこの地域は本来悪魔の在住は認められ

 ていない。だが、アヤは特例ということになっている。太助はため

 息をついて、立ち上がる。

「どこに行くの?」

「仕事だよ」

 太助は高校生であるが、夜は退魔師としての仕事をしている。今回

 の実験の際に別にこの仕事を止めるようにとかは言われていない。

 だが、アヤがどう思うかは別問題だ。太助はさっさとアヤがこの生

 活に嫌気がさして、出て行ってくれればいいと思っていた。同居し

 ている相手が自分の同族を殺すのだ。そう何日も続かないだろう。

「私も行くわ」

「・・お前・・本気か?」

 太助の想像とは全く違っていた。精神的にショックを受けるかと

 思っていたのに、それどころか同行するとまで言い出した。

「何か文句あるの?別に罪の無い悪魔を殺すわけじゃないでしょう?」

「俺はそんなに綺麗な人間じゃない」

「悪魔なら誰だって同じ?なら、どうして私を殺さないの?勝てない

 から?」

 アヤが問い詰めてくる。悪魔は全て同じ。人間に危害を与える有害

 な生物。生きていても何の価値も無い生物。だから消滅させなけれ

 ばいけない。それが太助の持論だ。悪魔は全て同じ。だから悪魔と

 人の共存など不可能。だが、どうしてアヤを殺さないのだろうか。

 いや、殺せないのだろう。相手に戦意がないから。アヤがこちらに

 敵意を見せてこない限りは刃を向ける必要も無い。

「・・悪魔との同居なんて調子が狂うだけだ」

「なら、私を斬ればいいじゃない」

 にこにこ笑いながらアヤが言う。それが逆に嫌だ。結局太助の仕事

 にアヤはついてきた。今回の仕事は街の見回りなので、悪魔が街の

 中にいなければ戦う必要も無い。

「あなたは・・今回のことどう思ってるの?」

「早く終わればいいと思っている。お前は?」

 逆に尋ねられ、アヤは少し戸惑う。昨日からアヤから話すことは

 あっても太助がアヤに話しかけてくることはなかった。アヤは少し

 考え込んで答えた。

「私はおもしろそうと思ってるわ。これから何があるかは知らない

 けどね」

「おしもろい?」

 憎むべきはずの相手と同居して何がおもしろいのだろうか。太助に

 は分からない。太助から見ればアヤは敵だ。それはアヤから見ても

 同じはず。その敵と暮らすことで何の利益が生まれるのだろうか。 

 イライラするだけだろう。

「だって、こんな事滅多にないでしょう?おもしろいじゃない」

「・・変わってるな、お前は」

「あなたもね」

 この日結局悪魔はいなかった。仕事を終え、家に帰宅した太助は布団

 の中に潜り込んだ。そして考えていた。どうすればこんな生活から抜

 け出せるのかを。どうすればアヤがこの生活をやめたいと思うかを。

 隣の部屋ではアヤが座り込んで考えていた。

「全く・・もう少し楽しそうにしてくれてもいいのに・・」

 どうすれば太助は笑ってくれるだろうか。どうすれば同じように楽し

 んでくれるだろうか。

「まぁいいわ・・焦っても結果は出ないもの・・。ゆっくりでいいのよね」

 そんなことを呟きながらアヤは目を閉じ、眠りについた。

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