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太陽はさんさんと輝いて。風は生活の匂いを届け、人が住む村が近いことをオレに教える。


歩き出してから、30分。初めは獣道でしかなかった道は、だんだんと幅が広がり、人工的に整えられた道に変わる。


それと共に、オレ達の足取りも軽くなる。


そんなオレの隣を、小さいものがポテポテと行く。


昨日とは打って変り、元気いっぱいのそれを、横目でちらりと見ながら、オレは、本日4度目になる溜息をついた。結局、一緒に連れてきてしまった。


本当は、あまりいいことじゃないって、解ってる。


けれど、あのままほっとけなくて。守ってやりたくて。いずれは別れが来るだろうけど、今だけは一緒にいようって。


これは、オレの勝手なエゴだろうけど・・・。チビはオレが守るって決めたんだ。


「そうだ。名前、決めなきゃな。いつまでもチビじゃあ、あんまりだしな。」


何がいいんだろ。黒い身体を見下ろして、振り仰いだチビと目が合う。赤い瞳がオレを見つめて。


その時、ふと脳裏に一つの言葉が浮かぶ。


「アーク・・・。そうだ。アークにしよう。お前は、今日からアークだ。」


「シャーッ」


我ながらいい名前だと思う。その赤い瞳が、なんだか、神話に出てくる古の神に似てると思ったから。


吟遊詩人が語る、神話の中に出てくる多くの神の中でも、オレの一番好きな神様。


火烈神『アラクセイト』


燃え盛る焔のような深紅の瞳を持つ、神々の中で最も強い神。


その姿はもともとは竜であったという。竜が千の時を重ね、神になったのだと。


纏う焔は、全てを焼き尽くす。闇も、光も。何もかも全て・・・。ありとあらゆる物、全てが消えた世界に、孤高の神は今も独りでいる。


豊穣を約束する水の神、オルセイヤ


実る穂を優しく揺らす風の神、フィオレリーナ


暖かな光で人々を照らす太陽の神、アソリオン


偽らぬ真実と託宣を下す神、クラン


人々に幸を与える多くの神々を祭り、讃える神殿は各地に多く点在するが、アラクセイトを讃える神殿はない。


吟遊詩人がこの烈火の神を語るのは、全てが消え、無となった世界に、再び光を与えた太陽神を讃える為だ。


誰もが嫌いだと言った。


与えずに全てを焼き尽くし、奪うだけの神なんて、禍々しいって。


けど、オレは、そうは思わなかった・・・


「何だろな。なんか、思い出せなくて、気持ちがもやもやする。なんか、わかんないんだけど・・・。あっ・・・。」


上を見上げながら歩いていたオレの目に、徐々に光が増していく。広がっていく青い空。


木々が急に開けた。森を抜けたそこは、小高い丘だった。


駆け出したアークの黒い身体を追い、オレも走り出す。


丘の向こうに村が見えた。


 「やった・・・。村だ・・・。」


ほっとして、地面に座り込む。森を抜けたとはいえ、まだ、しばらくは緩やかな下り坂を下りなければならないだろうが、ゴールが近いと分かっているので、心理的にはかなりの差がある。


「シャー」


隣りを見ると、どうよ。助かっただろう?といわんばかりに、アークがしっぽをぱたぱたさせていた。


「うん。助かったよ。」


どうやら、行き倒れの危機は過ぎたようだ。仰ぎ見た、空の太陽がやけに綺麗に見えた。



************************


人生、何が起こるかはわからない。まだ、生まれて15年と数日しか立ってないが、オレはしみじみそう思った。


ほんの数時間ほど前は、森をさ迷い、空腹でこのまま死んでしまうのでは・・・?と考えていたのに、今、オレの目の前には、食べきれないほどのご馳走が、これでもか、これでもかというくらい運ばれてくる。


湯気が立ち上る、肉団子と野菜が入ったスープ。


ガラスのコップに注がれた甘い果実酒。


皮に、香辛料と蜂蜜を混ぜ合わせてパリッと焼き上げた、肉汁のこぼれる大きなステーキ。


川魚の中に香草を詰め、塩で固めて、蒸し焼きにしたもの。


バターの香る、ふっくらとした焼き立ての胡桃入りのパン。


真っ赤に熟れた果実で飾られた、クリームたっぷりのケーキに数種類の果物。


我慢するのに、一生分の忍耐を使い果たしてしまうのでは。というくらい辛かったけど、オレは、自分の置かれた現状整理を優先させた。


森を抜け、無事にたどり着いた、ここ、パラデア村は、土壌も豊かで、気候も穏やかな、ごくごく普通の村だった。


森が近いためか、時折、獣が出るものの、たいした被害も無く村は平和そのものであったといえる。


ところが、数ヶ月前から、魔獣が餌を求めて下りてくるようになった。


初めは、鶏や豚といった家畜が一週間に数等いなくなるだけだったが、被害はだんだんと大きくなり、最近になると毎晩のように家畜がいなくなる。


困り果てていたところに、旅の少年が、退治をかってでて、自分は強い勇者だからと、村人の静止も聞かずに、森に入っていった。


しかし、2,3日しても出てこないので、可哀想に。きっと、喰われてしまったに違いないと噂をしていたら、今朝になって、熊に似た魔獣が村の真ん中に冷たくなって、転がっていた。


おお。なんということだ。あんな幼い少年が、こんな大物をもろともせず、みごと退治してくださるなんて!!と、村人達が集まり、騒いでいる所に当の勇者が現れたものだから、さあ、大変。


村の広場に「勇者様ありがとう」の幕がはられ、人々は集まり、ご馳走が並び、感謝と歓迎の宴が始まる。村長がスピーチで、なんと偉大な方だと語りながら、滂沱の涙を流す。


「なんじゃそりゃ・・・。」


オレは、俯きながらこっそり溜息をついた。


そして、村に足を踏み入れた瞬間のざわめきと尊敬の視線を思い出す。


促されるまま広場まで来てみれば、この始末だ。


席についてから、村長の話を聞き、唖然として、違う。その人は、オレじゃない。そんなこと、知るか!!といっても、だあれも聞いちゃくれなかった。


剣の1本も持ってないオレが、あんな魔獣を退治できるものか。


見せられた魔獣は3メートルを越す熊の身体と、鋭い牙と爪を持つ、まさに化け物だった。


あんなものを仕留めるなんて、村の人たちが勘違いしている奴は、強いんだな。


それにしても、オレとそいつは、そんなに似てるのか?などと思いながら、ふと足元を見るとアークが切り分けてもらった肉を、はぐはぐとたべていた。


席についてまもなく、花をくれた小さい女の子に、「まあ、かわいい、犬。」と言われて、オレは、冷や汗が出た。


額の角は毛を集めて紐で縛って隠してある。


たしかに、角さえ見えなければ、パッと見は子犬に見えるだろう。


女の子に撫で回され、不満いっぱいの顔でしばらく唸っていた、こいつは食事が出たとたん、大人しくなった。


(まさか、実は、こいつ魔獣なんです。なんて、絶対に言えない・・・。)


くるるるるるる・・・・


盛大になった腹の音に、もうだめだ。我慢できないと、そろそろと、フォークに手を伸ばすと、香ばしい肉の塊に突き刺した。


目の前では、まだ村長のスピーチが続いている。どうやら、クライマックスに突入したみたいだ。


「うまい!!」


口に放り込んだ肉は、香ばしい香りとともに、次々と胃袋におさまっていく。


2日ぶりのご飯は、胃袋に、沁みるほど美味しかった。


もう、周りのことなど目にも入らず、オレは、夢中になって、食べ続ける。


しばらくして、スピーチが終わったらしい村長が、両手を揉むように近づいてきた。口髭の立派な村長はニコニコ笑って村民に手を振りながらオレの前に立つ。


「ようこそおいでくださいました。勇者様。小さな村で、たいしたおもてなしなど出来ませんが、どうぞ、何日でもご滞在ください。本当に見事なご活躍ぶりで、まだ、お若くていらっしゃるのに素晴らしいですな。真に素晴らしい。本当にこの度はありがとうございました」


美辞麗句を並べたてる村長に、オレは再度言った。


「あの・・・」


「はい」


村長は頷き、オレが口を開くのを、村人の何十もの眼が見ている。


「あの、ですね。もう、何度も言いましたけど、本当に、魔獣を倒したのは、オレじゃないんです。だから、こんな歓迎を受けるのは、ちょっと。」


何度繰り返しただろう、言葉をオレは繰り返す。


すると、周りの村人が大きくざわめき、村長も驚愕で眼を大きく見開く。


ゆっくりと芝居がかった動作で、手の平を眼に当て、震える唇を噛み締めて俯く。


ようやくわかってくれたのか。


でも、偽者なのにがつがつご飯食べちゃって、代金とか請求されたら困るな。そう思い、そろりと村長の様子を窺うと、小刻みに震えている。


「あ、あの・・・。」


あまりのショックに、どうにかなってしまったんじゃないかと、恐る恐る、声をかける。


騒がしかった村人もシーンと静まり返り、どうしたものかと思っていると、次の瞬間、目に飛び込んできたのは、村長の満面の笑み。


「そんな、ご謙遜などなさらなくても、いや、しかし、ここまで大げさにしてしまったのがお気に召さなかったようですな・・・。うんうん。やはり、勇者たるもの、質素倹約、高潔にあるもの。その心意気お見それしました・・・。このような宴で、お忙しい貴方様を引きとめてしまうとは、私どもも至りませんで・・・。」


「・・・・・・。」


なぜだ?なぜ信じてくれないんだ?というか、質素倹約と高潔って何なんだ。勇者ってそういうものだったのか・・・?


「あ、あの・・・。」


オレは、これまでに感じた事のない焦燥感を感じた。何故だろう。


「いえ、いえ、もう、何もおっしゃらなくて結構でございます。わかっております。ええ、わかりましたとも。感動いたしました。胸を打たれました。世のため人のためにと、寝食を惜しみ、尽力なさるその心の素晴らしいこと。もう何も申しますまい・・・さぁ・・・お行きなさい!!」


「ええ!!?」


くうっと涙を堪え、明後日の方向を指差した村長の言動は、オレを固まらせるには十分な威力を発揮した。


「いいぞ~村長!!」


「頑張って。勇者様!!」


村長に相乗する村人達は手を叩き、口々に、はやし立てる。


そしてまた、村のおばさん達の手により、あれよあれよというまに旅の仕度は整えられ、水に干し肉、干し果実などの食料、鍛冶職のおじさんからは短剣を。わずかとはいえ、銅貨まで持たされ・・・


「お気をつけて~。ありがとう~勇者様。」


パラデア村総出のお見送りを受ける。・・・


疲労感を感じるのは、オレの気のせいだろうか。穏やかな村を背に、オレは最初の目的地である貿易中継街、ラデリアを目指した。

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