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人狼のフィーネ  作者: 真川紅美
2章
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状況の把握。

 夜遅くの訪問なのに、ショウさんは私を快く迎え入れてくれた。


「受けましたか……」

「はい。あの、お言葉添えありがとうございます」

「あ、いえ、あの後私も受けるように言ったんですが、突っぱねられてしまいましてね。どうしたものかと、思っていたんです。絆したあなたの勝ちです」

「絆した?」

「毎日通っていたでしょう? おかげで夜な夜なこっちに来て愚痴交じりの酒に付き合うことになりましたが」

「……あ、すいません」


 苦笑交じりのショウさんの声に思わず謝ると、機嫌がよさそうに私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。今、私、狼の形してたっけ。


「いえいえ。あいつもまだ女の子の頼みを突っぱねる屑じゃないことを確認できてうれしいです。して、どういったようで?」

「えっと、最近、妖魔や、混血児の殺害、行方不明などの、似ている事件についての報道を確認したい、と」

「ああ、スクラップですね。ちょっと待ってください」


 案内された、整理の行き届いた居間のソファーに座って書斎へ消えていった彼の背中を視線で追いかける。


 医院兼自宅といったところだろう。近くに消毒液のにおいや施術の時に使う金属のにおいが漂っている。それと、ごみの血のにおい。


「お待たせしました」


 ショウさんは三冊ほどファイルを抱えて、もう片手にお茶とお茶請けをお盆に乗せてやってきた。


「どうせ、もうそろそろ酒片手に現れるころです。先に読み進めておきましょう」

「酒片手に?」

「おい、ショウ!」


 玄関から聞こえた声にびくと体を震わせてショウさんを見ると、彼は苦笑していた。


「読みましょう」


 ファイルを手にショウさんは声を無視して、私の向かいの椅子に腰を掛けて優雅に足を組んだ。


「おい……」

「うるさいですよ? 人にものを頼んでいる立場です。わきまえてください」


 顔をのぞかせた先生はばつが悪そうな顔をして舌打ちをすると、私の隣に腰を掛けてファイルを手にパラパラとめくり始めた。


 先生は、部屋は汚いけれど、身だしなみはそう汚いことはない。毎日欠かさずにお風呂に入っているみたいで、たまにいいにおいがする。


「……やっぱり、おまわりに突っ込むしかないな」

「ばかを活用するんで?」

「ああ。こんな面倒な客を寄せたんだ。それなりに使わないと俺の気が済まない」

「ほどほどにしてくださいね? しわ寄せがこっちに来ますから」

「知らねーよ」


 酒の瓶に口をつけてめんどくさそうに目を細めた先生はため息をついてファイルの文字に視線を落とす。


「……最近になって、増えてるな」

「ええ。あれと懸案事項として話していました。私の医院にも、けが人が増えましたし、瀕死の重傷者も増えました。代わりに、彼らのけがが少なくなっているのが気になります」

「……」


 静かにショウさんを見た先生は、目を閉じて口の中で何かをつぶやいた。


「なんですか?」

「いや、何でもない。……増えているとしても、性質は違うな」

「ええ。巧妙なもののと、模倣犯と。おまわりの連中はいい加減に調べているようで、ごった煮でやっているみたいですが」

「分けたものは?」

「やっていると思いましたか?」

「お前のことだ。地図にまとめていると思った」


 そういった先生に、ショウさんはあきれたように笑って立ち上がってまた、書斎へ戻っていった。


「タバコ、いいか?」

「え? あ、大丈夫です」


 一つ断りを入れる彼に、どこか、ほかの人とは違うものを感じながら、近くにあった灰皿を彼の近くにおいてやる。


「すまんな」


 煙草をくわえて火をつけた先生は、深く吸い込んで吐き出すと、くわえたままメガネをはずして、着ていた干しっぱなしでクシャクシャの綿シャツでレンズを拭いた。

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