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人狼のフィーネ  作者: 真川紅美
1章
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依頼。

 首を傾げると、ショウさんは首を傾げて見せた。その目が真剣な色をたたえたのを見て、私も、本題に入ろうと息を整える。


「まあいい。とにかく、私から請けるように言っておきますから事情をお聞かせください。あと、おまわりからの差し押さえ令状というのは?」

「ああ、手荷物に……」

「……これの、ああ、これですか? 預かっておきます。いい脅しの材料ですからね」


 真っ黒い笑みでそういった彼にすべてをお任せすることにした。たぶん、この人は強い。


「最近、混血児などの行方不明が、増えているのはご存知だと思います。……その」

「君が人狼だというのはよくわかっています。傷の治りを見れば一目瞭然ですからね」

「兄も人狼でして。……ほんの三日前に連れ去られてしまって」

「君はそれを追いかけた?」

「……はい」

「そして、三日間、自分なりに探してみたものの、見当がつかずに警官のところに向かい、お門違いといわんばかりに追っ払われ、ここへきてしまったと」


 その言葉にうなずいていると、ショウさんは深くため息をついて私をじっと見た。


「彼らは君を逃がした、というわけですね」


 ふむ、と顎に手を当てたショウさんは私に目で続きを促す。彼のほしい情報は、私たちを襲った男についてだ。


「……そういうことになりますね。私たちは夜目は優れていますが、彼らは覆面をしていました」

「それでは人相もわからないと。男でしたか?」

「はい。男が、七名。どれも、同じような背格好で」

「……見分けはつきませんね」

「においもほとんど同じでした。たぶん、犯行前に、ほぼ同時にお風呂に入った」

「公衆浴場でしょう。ふむ。相手はあなた方を人狼だとわかっての犯行ですね。においと姿について慎重に動いていますね。それと組織的な人攫い。七人がかりということは、人狼の危険性を熟知していながらも、人狼をさらおうとする酔狂な連中」

「……ええ」


 矢継ぎ早の問いかけに、私は寝起きの頭がだいぶすっきりしたのを感じた。彼をまっすぐ見ると、彼は満足そうにうなずいた。


「頭の回転も悪くない。いい子ですね」

「あの……」

「話をつけてきます」

「俺は働かない」


 割り込んできた声に、扉を見ると、開いて、ランプを持った銀髪の男がショウさんを見ていた。ふわりとかおる石鹸のにおいに風呂に入ってきたあとなのだとわかった。


「ヴィン」

「……ダメだ。俺は受けない」

「ですが」

「お前が何と言おうと俺はこの案件については受けない。……今日はそこを使っていい。明日には出ていってくれ」


 そういうと、彼はランプをおいて、この場から立ち去った。いいにおいが一気に遠ざかったことから、家から出ていったことがわかった。


「……すいません。言って聞かせます」

「……」


 何とも言えずに私はうつむいてうなずくしかなかった。


 ぽん、とショウさんの暖かくて大きな手が頭を軽くなでて、白衣を翻して彼を追っていってしまった。


 私は、ぱたんと扉が閉まったのを見て、深く、ため息をついていた。そして、意外にもふかふかしたベッドにまた体を預けて柔らかな毛布にくるまる。


「兄さん……」


 たった一人の肉親なのだ。


 私と兄さんは、人狼ということで、身を寄せあって生きてきた。


 人狼といっても、人狼と人狼の子じゃなくて、人と人の夫婦から出てきた人狼ということで、親にも捨てられたのだ。


 兄さんは、私より血が薄かったらしくて、めったやらに狼になったりしなかったけれども、赤子の時の私が殺されそうになったとき、はじめて変化して、父に体当たりして、私を咥えて家を出たそうだ。


 自分でも何か予兆のようなものを感じていたらしく、はじめて狼に変化した時は気持ちよかったとすがすがしい顔をしていたが、複雑だった。兄さんはうまく隠せて父母の元で暮らせていたんじゃないかと、たまに思うのだ。


 それから、二人は孤児。混血や妖魔が集まるスラムに入って、私は、産み落とした子供を殺された妖狐のお母さんに育てられた。


 妖狐のお母さんは、兄がさらわれたことにショックを受けていた。


 私がおまわりに行くっていっても、ダメといって離さなかったけど、私の居場所はあの人たちに知られてしまっている。


 それに、取り逃がしたことも。だから、あそこにいられないと思ったのだ。


「……」


 生きろと叫んだ兄さんの声が忘れられない。嫌な予感も覚えている。


 丸くなって、私はいつの間にか、狼の姿をとって尻尾を抱いて眠っていた。

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