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人狼のフィーネ  作者: 真川紅美
終章
39/42

日常に。

 そして、あとになって先生に聞いてみると、


「……自分で考えろ!」


 と、顔を真っ赤にして私を軽く怒鳴ったので、ショウさんが来て大変だったけれど、つまりはそういう意味だったそうです。



 私は今、先生のおうちで暮らしている。



 先生は、あの日以来、探偵として働かないで、また、酒浸りの日々になっている。でも、心なしか、そんなに酒臭くない気がするのは気のせいだろうか。


 先生を刺し、そして、兄さんをさらい殺しかけ、そして、たくさんの混血児を殺したあの男は、ロスさんの手によって、きっちりと法に裁かれることになった。

 それを報告された先生は複雑そうな顔をして、ただ一つうなずいただけだった。


 先生の言いたいことはなんとなくわかる。


 彼だけを裁いても、対して変わりがない、ということだ。


 そして、私よりは時間がかかったものの、あの大けがを一週間と少しで回復させた先生は、家に引きこもっている。


「暇だー」

「暇じゃなくて、仕事を得ようとしないだけでしょうが」


 ソファーでじたばたしている先生に、様子を見に来たショウさんがあきれている。傍らにはなぜか狼の形をした兄さん。


「ロベルト、GO!」

了解わん


 兄さんはそのままショウさんの医院に残って医者見習いとして働いている。このまま働いて技術を磨いたら医者になるそうだ。


 私より血が薄いし、めったやらに変身しないから人に溶け込めるだろうというショウさんの見込みからだった。


 私はびっくりしたらたいてい変身してしまう。よく尻尾をしまい忘れるのも言われる。そんな私より、ずっと兄さんのほうがなじめるのは当たり前な話だ。


 そして兄さんの尻尾叩き(嫌がらせ)に叩き起こされた先生は、くしゃみを連発し、しぶしぶ散らかった酒瓶を片付けて水を飲む。


「いいじゃねえか。もうじきお達しだって来るんだからよ」

「……そうしたら、このだらけた生活なんて、できなくなりますよ」

「うう……」


 嫌な顔をした先生。


 お達しってどういうことだろうか。


 首を傾げると、兄さんがそれを見て、人の形に戻って先生をぶった。


「お前、フィーネに何も言ってねえな!」


 先生に兄さんがぞんざいな口調で話しかけるように、いや、口調だけじゃない、扱いだってぞんざいになったのはあの日以来。


 あとから聞くと、兄さんと先生、意外にも年が近かったようで、先生が二、三才上らしい。意外に若いと思ってしまったのは墓場までの秘密だ。


「ん? ああ、正式に決まったわけじゃないからな」

「ほぼ正式に決まっていることですが」

「たって、紙切れ一枚ないと動けねえだろが」


 肩をすくめた先生に、私の謎は深まっていくばかり。


 眉を寄せていると、先生は深くため息をついて口元をかすかにゆがめた。


「左遷だよ」

「させん?」

「仕事でへまやった人間が地方に飛ばされることです」


 ショウさんの説明にもついていけてなくて、兄さんに救いを求めると、兄さんは深くため息をついた。


「つまり、今回の事件は、もともと、こいつが聖騎士団をほっぽっといたから起きたことだろ? まあ、お門違いだとは思うけど、こいつに責任が来たんだ。聞いてみりゃ、前聖騎士団団長、紅の死神とはこいつのことだそうだ」


 紅の死神とは、少し前まで、後ろ暗い裏に出入りする人たち、もちろん、妖魔、混血児から人間まですべてを刈り取っていた、この王城下の街の人からすれば、正義のヒーローみたいな人のことだった。


 混血児のほうも、彼に助けてもらったとか、妖魔も、見逃してもらった、とむやみやたらにぶっ殺す人じゃないと、良く口にされていた人のことだった。


 最近その名前を聞かないからすっかり忘れていた。

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