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「今の俺を見たら、あいつは悲しむだろうな」
「え?」
「……あいつは、……あいつが好きだった俺は、こんな引きニートじゃなくて、言葉が足りないなりでも、きちんと神官として、わけ隔てなく導くような、そんな神官だったから」
ふっと目を開いて、確かに潤んだ目で、泣き笑いのような、そんな表情を浮かべた先生に、私は、たまらずに抱き付いていた。
「……」
先生は、私の背中を掻き抱いて肩口に顔をうずめ、そして、声を殺していた。
「先生」
先生の息が落ち着いたころ、私は先生を呼んだ。
「そばに置いてください」
短く告げた言葉に、先生の肩が、かすかに震えた。リハビリでも、いいだろう。誰かをそばに置いている自分。それを忘れている先生のそばにいたい。
そして、私の肩から顔を離した先生は、どこか意地の悪い笑みを浮かべて私を見た。
「どうせ、ダメだといっても、お前は付きまとってくるだろう」
「付きまとうって……」
「あの時みたいに」
ふっと鼻を鳴らし、懐かしそうに目を細めた先生に、ショウさんから言えば絆したという、お屋敷に勝手に上がり込んでは掃除してご飯作って夜に帰るっていう生活を思い出す。
そういえば、あの時から気になっていたのだ。
「いいっていうまで通いますっ!」
なんとなく、そうしろといわれているような気もして、そして、レネさんの言っていたように、この後もここに来てもいいといわれたような気がして、私は、先生に抱き付いていた。
「お前な、曲がりなりにも男の体に乗ってるっていう自覚ないのか?」
「え?」
先生のおなかに乗っているものの体重をかけているわけではない。首を傾げると先生は深くため息をついて体を起こした。
「うひゃっ」
「おっと」
いきなり体を起こすもんだからさすがに私も体勢を変えられなかった。
先生に腕を掴まれ、頭をベッドに強打することはなかったけれど、気が付けば先生の股の間に倒れこんで大股広げて先生を受け入れる体勢になっていた。
「ちょ、せんせ」
さすがに、この体勢は恥ずかしいと、私に覆いかぶさろうとしている先生を見上げると、すっかり、あの時の、いじわるな先生に戻っていた。
「恥じらうぐらいならやるな。お前は人狼でも」
先生が私の顔の前に肘をつく。それは、まるで、行為の時、愛をささやくような、そんな恰好で。
「男はみんな、狼なんだぜ――」
低く耳元にささやかれた声に、ふるりと体が震える。額にかさついた感触が触れたと思ったら先生の体が遠ざかった。
「さて、起きたことだ。飯食うか」
先生は何事もなかったようにベッドから出て、扉の方向へ向かった。
「ああ、言っておくが」
茫然としている私に、先生が振り返ったのを感じて顔を向けた。
「……俺はもう、お前がいないと眠れない」
きっぱりとした言葉の意味がよくわからずに、ぱたんとしまった扉を見つめていた。
「え……?」
それは、まるで一緒にいていいよといっているような言葉で、私は兄さんが呼びに来るまで、呆けていたのだった。
ドヤ顔で良い大人が言うセリフかよ……




