表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人狼のフィーネ  作者: 真川紅美
3章
25/42

妙薬

 そのあと、断片的に覚えているのは、先生の声と、手の冷たさ、そして――。


「……やっぱり、あなた、持っていたんですね」


 しみじみとした、ショウさんの声と、無言の肯定を返す先生の息遣いを感じた。


 どこだかわからない。


 でも、痛い首を支えられながら抱き起されている。そして、突然、唇を、生温かくて何かやわらかいものでふさがれて、そして、ぬるい甘い液が流し込まれて飲み込む。


「……っ!」


 体の一部が動いたことに驚いて、目を開くと、私を抱き起しながら、唇を手で拭った先生が、紅い目をして目の前にいた。


 燃えるように傷口が熱い。


 痛みに目を潤ませると、先生は、自分も痛そうな顔をして、私を抱きしめてくれた。


 目を閉じる。先生のにおいが信じられないほど近い。


「……ショウ」

「なんです?」

「後は頼む」


 静かな声に、そして、離れていくぬくもりに行かないでと、手を伸ばすが、その手は空を掻いたようだった。ぱたんと自分の手が固い寝台の上に落ちたのを感じ、そして、完全にベッドに寝かせられたのを感じて、また、意識を失っていた。


 そして、目覚めて見えたのは、暗い天井の風景。


 体を起こし、軽く、首を撫ぜると、驚くことにつながっていた。


「?」


 死んだのだろうかと、とりあえず寝台から抜け出して、近くにおいてあった靴を履いて部屋の外に出る。ちょうど、兄さんが様子を見に来たのか、そこに立っていた。


「フィーネっ!」


 驚いたように兄さんが飛んできて、私を抱き上げる。


「いきなり起きてだめだろう!」


「だって、誰もいなかったんだもん」


 普通に声が出ることも驚きだった。というか、兄さんがいるってことは死んでない?


 いまいち状況が理解できてなくて、兄さんの腕から抜け出すことをあきらめた私は、わけわからないから説明してと、せがんでいた。


 兄さんは、首を傾げ、そして、何かを考えるようにしてから、私が寝かせられていた場所から離れて、見慣れたショウさんの居間へ入っていった。


「あらぁ、フィーネちゃん」

「こら、気持ち悪い話し方しないの!」


 居間にいたのは、包帯ぐるぐる巻きのレネさんと、その傍らにどこかあどけなさの残しながらも、どこか冴えた美貌の少年。


 そして、驚いているショウさんだった。


「もう、回復したんですか……」

「あの、何が……?」


 自分が首を斬られたことはとっくに理解できていた。それで死んでたはずだと。


 あの時あきらめたのに、どうして生きながらえているんだと、たぶん目で訴えていたんだと思う。


 ショウさんはため息をついて少し長話になるからと、私に飲み物を用意してくれた。


「実は、ヴィンが、エリクシルを持っていたようでして……」

「エリクシル?」

「伝説では不老不死の妙薬。ですが、現実的な物言いをするのであれば、どんな怪我もたちどころに癒してしまう魔法の薬です。それを君に飲ませたと」

「それで、私のけがは?」

「ええ。きれいに治りました。どれだけ持っているのかは知りませんが、君が斬られて、君を斬ったやつを始末して、そのあと、君のけがに治癒魔術を施したヴィンは、家に戻って、エリクシルを持ってきましてね。君に飲ませたんです」

「実際、それがなければ、あなたのけがは、人狼といえども、あなたの命を奪うものだったよ」


 美少年がショウさんの言葉を継ぐようにいきなり話しかけてきて、反応に困っていると、彼は朗らに笑って見せた。


 一気にその美貌が女性に傾くのを感じながら、私は、ふと、胸に目を奪われていた。緩くだが膨らんでいないか――?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ