妙薬
そのあと、断片的に覚えているのは、先生の声と、手の冷たさ、そして――。
「……やっぱり、あなた、持っていたんですね」
しみじみとした、ショウさんの声と、無言の肯定を返す先生の息遣いを感じた。
どこだかわからない。
でも、痛い首を支えられながら抱き起されている。そして、突然、唇を、生温かくて何かやわらかいものでふさがれて、そして、ぬるい甘い液が流し込まれて飲み込む。
「……っ!」
体の一部が動いたことに驚いて、目を開くと、私を抱き起しながら、唇を手で拭った先生が、紅い目をして目の前にいた。
燃えるように傷口が熱い。
痛みに目を潤ませると、先生は、自分も痛そうな顔をして、私を抱きしめてくれた。
目を閉じる。先生のにおいが信じられないほど近い。
「……ショウ」
「なんです?」
「後は頼む」
静かな声に、そして、離れていくぬくもりに行かないでと、手を伸ばすが、その手は空を掻いたようだった。ぱたんと自分の手が固い寝台の上に落ちたのを感じ、そして、完全にベッドに寝かせられたのを感じて、また、意識を失っていた。
そして、目覚めて見えたのは、暗い天井の風景。
体を起こし、軽く、首を撫ぜると、驚くことにつながっていた。
「?」
死んだのだろうかと、とりあえず寝台から抜け出して、近くにおいてあった靴を履いて部屋の外に出る。ちょうど、兄さんが様子を見に来たのか、そこに立っていた。
「フィーネっ!」
驚いたように兄さんが飛んできて、私を抱き上げる。
「いきなり起きてだめだろう!」
「だって、誰もいなかったんだもん」
普通に声が出ることも驚きだった。というか、兄さんがいるってことは死んでない?
いまいち状況が理解できてなくて、兄さんの腕から抜け出すことをあきらめた私は、わけわからないから説明してと、せがんでいた。
兄さんは、首を傾げ、そして、何かを考えるようにしてから、私が寝かせられていた場所から離れて、見慣れたショウさんの居間へ入っていった。
「あらぁ、フィーネちゃん」
「こら、気持ち悪い話し方しないの!」
居間にいたのは、包帯ぐるぐる巻きのレネさんと、その傍らにどこかあどけなさの残しながらも、どこか冴えた美貌の少年。
そして、驚いているショウさんだった。
「もう、回復したんですか……」
「あの、何が……?」
自分が首を斬られたことはとっくに理解できていた。それで死んでたはずだと。
あの時あきらめたのに、どうして生きながらえているんだと、たぶん目で訴えていたんだと思う。
ショウさんはため息をついて少し長話になるからと、私に飲み物を用意してくれた。
「実は、ヴィンが、エリクシルを持っていたようでして……」
「エリクシル?」
「伝説では不老不死の妙薬。ですが、現実的な物言いをするのであれば、どんな怪我もたちどころに癒してしまう魔法の薬です。それを君に飲ませたと」
「それで、私のけがは?」
「ええ。きれいに治りました。どれだけ持っているのかは知りませんが、君が斬られて、君を斬ったやつを始末して、そのあと、君のけがに治癒魔術を施したヴィンは、家に戻って、エリクシルを持ってきましてね。君に飲ませたんです」
「実際、それがなければ、あなたのけがは、人狼といえども、あなたの命を奪うものだったよ」
美少年がショウさんの言葉を継ぐようにいきなり話しかけてきて、反応に困っていると、彼は朗らに笑って見せた。
一気にその美貌が女性に傾くのを感じながら、私は、ふと、胸に目を奪われていた。緩くだが膨らんでいないか――?




