おめかし
そして、翌日から、時間を見て、オカマさん、後から知ったんだが、レネさん、がちょくちょく訪れるようになって、私に適当に見繕ってきたとドレスをくれて、兄さんに餌付けをしていた。
「フィーネちゃん、おいで」
薄化粧をしたレネさんが、私を手招く。
「ちょっとおめかししよ?」
と、お昼にはまだ早い時にやってきたレネさんが、私を手招きして、ドレスを着つけてくれる。時たま時間があると私にドレスを着付けて、くしゃみが出ない程度に薄化粧を施して、おもちゃにしてくれている。
「楽しいですか?」
「とっても。私じゃ、とても出来ないこともできるから。本当だったら、お兄ちゃんのほうと抱き合わせでセットして街を歩かせたいぐらいよ」
こんな状況じゃなかったらね、と笑うレネさんは慣れた手つきでドレスを着付け、そして、腰にリボン、頭を複雑に結い上げて、簡単な髪飾りを差してくれる。
そして、最後に、新しい色が出たのよと、楽しげに笑って、私に化粧を施してくれる。
古着だとしても、きれいなドレスも、お化粧も、混血児や妖魔が集まるスラム出身の私にはまったく縁のないもので、レネさんの手によってきれいに変わる自分が楽しくて、ひと時の夢だと思っても、身をゆだねてしまう。
「フィーネちゃん?」
思わず、暗い色が見せてしまっただろうか。心配そうな、ぱっと見たら男の人だと思わないような顔が目の前にある。
「すいません。……」
「何か悩み、あるの?」
この人には、もう、先生が、私と兄さんの事情を説明してある。相談、してもいいだろうか。
「本当は、早く解決すればいいんでしょうけど、……今の生活が、続けばいいって、思っちゃうんです」
ぱたんと扉をきちんと閉めて、レネさんは私の言葉に耳を傾ける。そして、私の向かいに椅子をおいて、優しげに私をのぞき込んでふっと笑った。
「解決しても、こっちに来ちゃえばいいじゃない」
「え?」
「別に、人狼の子だからって、表に出ちゃいけないことはないのよ? みんなそれを隠してか、それを受け入れてくれる人間のところで働いたり、活動してるのよ。うちもそう。大体魔術師が多いけど、でも、一時期エルフの子とか、それこそ人狼とか、妖狐とか、いろんなの雇って、そして、卒業させてきたわ」
「卒業?」
「そう。周りの人間に感づかれないようになって、自分の力をコントロールできるようになって、なおかつつがいを得て、生活基盤を得たものはそうやって卒業させて、時たま様子見がてら手伝ってもらったりしてるんだけどね」
人間に受け入れてもらえるってことは、この人たちでわかったでしょ? と首を傾げるレネさんに私は、うんとうなずいた。
「だったら、もうこの人たちとは知り合いなんだから、解決しても、何か手土産ぶら下げて、手ぶらでももちろん構わないわ、ふらっと訪ねて顔を見せに来ればいいじゃない」
そう笑ったレネさんの表情は生き生きとしていて、とてもまぶしいものだった。
「いいんですかね、そういうのって」
「いいの。普通にみんなやってることだから。そして、こうやってみんなとしゃべったり、ごはん食べたり、もちろんうちに来てつけで食べにいって構わないわ。つけは、ヴィンツか、ショウちゃんに回しておくから」
いっぱいおいしいもの食べさせたげる、と魅力的な誘いをしてくれる彼に、私はふっと気持ちが軽くなった。
「ほら、女の子は笑顔が一番の宝石よ! さ、化けた姿、みんなに見せつけなさいな」
そういって、私をエスコートするように手を取って、化粧部屋として陣取った脱衣所から出て、慣れないかかとの高い靴で、居間に戻る。




