添い寝。
「……っ」
青白い顔をして浅い呼吸をしている先生は、今にも死んでしまいそう。
思わず体をひねって腕から飛び降りると、先生に駆け寄って頬に触れようとして、体がピクリとも動かなくなってしまった。
「何かあれば、すぐに呼んでください」
ぱたんと扉が閉まって、部屋にいるのは私と意識を失っている先生だけになる。
広いベッドの上に先生の細い体が横たわっている。
震える手で頬に指を滑らせると、ぬくもりを感じた。
「ごめ、ごめなさい……」
涙があふれてきた。私のせいで、先生はこんなふうになってしまった。
手当をしたまんま、上着を着させられないで、むき出しになった白い肩が掛布団から出ている。
それを見て私は、位置を直そうと、布団の端を掴んだ。いたるところに張られたシールににじむ血に目を背けながら、首元まで布団を引き上げてやる。
あの剣戟で切り刻まれたのだろうか。
消毒液のにおいと血のにおいが混ざっている。もう、見てられなくなって、私は狼の形に姿を変えて、ベッドの足元に丸くなった。
「おい」
不意に聞こえてきた声に、驚く。
はっとベッドに足をかけてのぞき込むと、青白い顔をしているものの、しっかりとした目で私を見ていた先生がいた。いつ、意識を取り戻したのだろうか。
「寝るならこっち来い。風邪をひく」
「……でも」
のぞき込んだ私の鼻づらに手を伸ばして、弱く掻いた先生は、表情を少しだけ緩ませた。
「俺は貧血なだけだ。けが自体大したことない」
しっかりとした声に私は先生の顔をのぞき込んで、顔を伏せる。その様子を見てか、先生は深くため息をついて、ゆっくりと口を開いた。
「だいたい、悪いと思うなら俺のいうことを聞けよ」
顔を上げて先生を見ると、先生は、私にはわからないやわらかい表情の顔をして、私に右手を伸ばした。
「ショウに何を言われたのかはわからないが。俺は大丈夫だ」
右手で私の頭を撫ぜてくれる先生に、私は伏せたままその手に頭をこすりつけていた。
「おいで」
やわらかく誘う声に、抗うこともできずに私はせめてと、先生の無事な右側に体をすべり込ませて伏せた。
「済まなかった。心配をかけたな」
そういった先生に驚いて見ると、そっぽを向いていた。いつぞやに見た光景。
右手でわしわしと私の毛並みを撫ぜて、体をくるりと反転させて毛並みに顔をうずめてきた。
「ちょ、先生っ!」
「好きにモフモフさせろよ」
さすがにくすぐったくて身をよじると先生が収まりのいいところを見つけたようだった。
「先生?」
おなかに回った腕が重たくなったのを感じて先生をずらさないように見ると、すやすやと眠っていた。
「……」
その様子にベッドから出ることもできずに先生に体を預けると、抱き寄せられて、ほおずりされて、満足そうなうめきがその喉から漏れたのを聞いた。
下に兄さんいるんですけど。
私より血が薄いから、上の状況を逐一知るなんてことはできないだろうが、万一上に上がってきたら、さすがにわかってしまう。
怖いなあ、と思いながらも私は耳をぺたりと伏せて目を閉じていた。
背中から感じる規則正しい呼吸と、ぬくもりと、消毒薬臭いが、それでも先生のにおいに、なぜか安心しきって眠ってしまっていた。




