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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
99/105

訓練兵



「その命令は……本当なのですか?」



武市 詩江は思わず声の震えを抑える事ができなかった。

そんな彼女の様子を見て、上官は質素な机に両肘を付け、口に両拳を当てる様にしながら沈痛な表情を浮かべて言う。



「そうだ、武市"中尉"。これは確定事項だ。訓練兵を総動員したテラノ住民の保護撤退作戦、これは二日後の正午に開始予定である」


「しかし……彼等に実戦などまだ早すぎます!!」


「そんな事は君に言われずとも分かってるさ。だが、そういう命令なのだよ。それとも、"また"命令違反を繰り返すかね?」


「くっ……」



思わず歯を食いしばり、武市は上官の言葉に耐える。


彼が言っているのは、武市が宮木伍長を脅して無断でクースに行き、果てには無断で貴婦人をレイルガンで狙撃した行為の事を咎めているのだ。


無論、真実は伍長も協力しての事だったのだが、彼を巻き込まない為に武市はそれを黙ったまま軍に戻った。しかしである、クースの地下施設発見と言う功績、加えてレイルガンでの狙撃が貴婦人を打倒せしめる切欠となったと軍は判断。


軍は直ぐにクースの地下施設に部隊を派遣、機材を確保。

続けて狙撃の件でも口頭でこそ武市を罰しはしなかったが、体面の為に降格処分と相成った。

宮木伍長に関してはただの被害者であるが故に何も沙汰はなく、そのままである。


その後は大人しく武市は訓練兵の指導に力を入れていたのだが、突如として新たな命令が下された。


それは護衛依頼遂行中のハンターチームが無法者に占領されたテラノで拘束され、突発的な解放戦を繰り広げる事になったのが発端だったと言う。ハンターチームの孤軍奮闘とも言える活躍でテラノは無事に解放、しかし住民男性の殆どが殺害された事で防衛力が低下、テラノの放棄を住民は決意する。


その後は組合所のハンターがヤウラに彼等の保護を要請し、軍はそれを了承。

しかし、正規兵を動かせば北部にある二つの都市を刺激しかねないと上層部は判断。

それを避ける為に訓練兵の野外遠征演習と称し、テラノ住民の保護に向かえと言うのだ。


もし、歴史の教科書でその一文を見ても『大胆な作戦だ』との思いしか武市は抱かないだろう。だが実際にそれをやれと言われたならば『何て馬鹿な作戦だ』と思ってしまうしかない。


無論、そんな事を言える訳もなく、武市は了解の返事をするしか無かった。



「了解、しました。それで、その任の指揮を執るのは誰でしょうか……?」


「君だ」


「……は?」



武市はその言葉を受けて頭が真っ白になった。

しかし、上官は事も無げに少し苛立った口調で再度告げる。



「だから、君だよ。武市中尉、君は訓練兵およそ982名と各教官と指導兵、並びに送迎班の六班を指揮下に置き、部隊を編成したまえ。分ける小隊数やどの教官を部隊長にするかも君が決めろ」


「な、何を言うのですか!? 自分は中尉ですよ!? 千人規模の指揮をするには階級も勿論、経験だって低いのに……」


「中尉、貴様はまだ分かってないな? いいか、これは建前上は"演習"だぞ? 実戦ではない。そして演習を率いる教官連中の中で一番階級が高いのは君だ。ならば君が指揮を執るのは当然ではないか」


「上層部は……"マトモな"上級仕官の派遣もなさらないと言うのですか?」


「中尉、口を慎め!! これは既に決定している事である!! 異議を唱えるなら、貴様を作戦から外してもいいのだぞ!?」



遂に上官が荒い口調でそう怒鳴ると、武市は気分を落ち着ける様に瞼を伏せて非難の声を納めた。

しかし、その閉じられた瞼の下には反抗の鈍い光が爛々と輝きを放っている。



「一つ、聞いてもいいですか?」


「何だ?」


「テラノの事を報告したハンターとは一体誰なのです?」


「そんな事を知って何を……いや、まぁいいだろう。そうだな……」



上官はせめてその位の質問には答えてやるかと慈悲を抱き、書類を漁る。

そして目的の物を見つけると、これ見よがしに眉の片端を上げて驚きを露にして見せた。



「はっ、これは驚いた……報告者は『木津 沿矢』と『Hand of Hope』と言うチームだ」


「木津 沿矢……本当ですか!?」



思わぬ名前を聞き、武市は両目を見開いて上官に詰め寄った。

彼はその勢いに気圧されながらも、書類を素直に手渡す。

手渡された書類に目を通し、武市は複雑そうに呟く。



「全く……君とは縁があるな」



しかし、先程までの苛立ちは少し和らいでいた。

そんな彼女の様子を尻目に、上官は次の指示を出す。



「とりあえず、君は各教官に今作戦の事を伝えろ。そして訓練兵には演習だと言うんだ。それと……この後の授業内容を一部変更したまえ」


「変更ですか? 一体何に?」



武市はもう、どうとでもなれと言いたげな心境ではあった。

だが、上官から放たれた言葉はまたしても彼女の心を乱す破目になる。



「…………"遺書"制作練習と称し、訓練兵が書いた物を提出させろ」


「………………万が一の場合には、それを利用して軍部への批判を減らす為ですか?」


「それは、言う必要があるのかね……?」


「えぇ、分かってしまった自分が嫌になる……! ッ……失礼します!」



遂にそう吐き捨てると、書類を投げる様に返して武市は退出した。

普段なら強制的に呼び戻す所だが、上官も同情故にそうはしなかった。

残された彼は宙を見上げる様にしながら、言葉を吐く。



「全く……憎まれ役は辛い」



何時の世も、憎まれ役は必要なのだ。

例え世界が崩壊した後でも。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






「よっしゃあ! 野外訓練だ!! くぅ~また壁の外に行ける!!」



ロブ・マーケ訓練兵は、宿舎に戻ると同時にそう大声を上げた。

するとそんな彼の背中を蹴り、同じく声を荒げる者が現れる。



「うっさい!! 入り口で叫ばないでよね! この馬鹿!」



サリア・トレイター訓練兵がそう注意すると、彼女に賛同するかの様に周囲の女子訓練生達が頷く。すると直ぐに他の男子訓練生達が結託し、彼女達に向かってブーイングを奏でる。



『うっせー、馬鹿女ぁ!』


『背は小さい癖によぉ、胸がでかいと態度もでかくなるのかぁ?』


『ちょっとジャンプしてくれる?』



等々、子供染みた罵倒から、少しセクハラ混じりの罵倒まで種類は様々だ。

それもその筈、訓練生である彼等は年齢を問わずに同じ宿舎に集い、寝食を共にしているのだ。


下は最低でも十二歳から上は十八歳までと、青春真っ盛りの時期を彼等は共に過ごしている。

無論、男女の部屋は別々にあるが、その所為でこうした対立は宿所内で何度となく繰り返されているのだ。



「大体、何が野外遠征演習よ! しかも二日後とか急すぎるでしょう!? なのに大喜びしちゃって……どうかしてるんじゃない?」


「馬鹿だなぁ。実戦配備されたら何時敵が襲ってきてもおかしくないんだぞ? この程度でウダウダ言ってて軍人に成れるかよ」


『そうだそうだ!!』



マーケの主張に対し、男子訓練生は大声を上げて賛同する。

彼等は興奮気味であり、士気が極めて高い状態だ。

そんな彼等を見て、サリアは額に手を当てて宙を仰ぐようにしながら嘲笑う。



「は~これだから男子は……。きっと、野外遠征演習を遠足か何かかと勘違いしてるのね。低脳で羨ましいわ」


「んだとぉ!? だって別に……ちょろっと行って帰ってくるだけだろ!?」


「馬鹿ね。荒野に出ればそこはもう無法地帯よ? 過去の遠征演習では無人兵器の襲撃を受けて死者も出た事があるんだから!! それに酷い時には荒野でキャンプ中に、音も無く忍び込んできた無法者に攫われて居なくなった子もいるらしいわよ?」



サリアが得意げにそう言うと、その背後からおずおずと別の女子訓練兵が意見を述べる。



「無法者? 私が聞いた話だと、"白いお化け"に攫われたって話だったけど……」


「あのね、そんなのより無法者が攫ったって話の方が納得できるでしょう? 大体、白いお化けって……子供じゃないんだから」


「べ、別にそんなの……普通だろ! 分かってるって、それくらい!!」



そう言い返したはいいが、マーケが放った声には明らかな動揺が浮かんでいた。

特に低年齢の者はサリアの言葉を聞いて少し浮き足立つ。



「し、死者って……どのくらい?」


「さぁね。けど、数人程度で済んだとは思えないわ。だって相手は兵器ですものね?」


「……ぅう」


「な、なにビビってるんだよ! 今回の演習では俺達訓練兵全員で行くんだぜ?! 無人兵器の一機や二機が来た所で、別にどうってことはないだろ!?」



マーケがそう賛同者を募る様に見渡すと、各々が小さく頷いた。

しかし、最初の勢いはそこになく、場の空気の流れはサリアが少し優勢気味となっている。



「あんた、射撃訓練では十発中二発当たれば良い方なのに、よく自信満々ね……」


「そ、それとこれとは関係ないだろ?! それに的が小さすぎるんだよ!! 無人兵器ってのは十数メートルもあってデカイって聞くのにさぁ!!」


「馬鹿ね。無人兵器のその大きさを視認できる距離まで接近させたらお仕舞いよ。対無人兵器戦の基本は遠距離からの狙撃で仕留めるのがセオリーなの。この間の迎撃戦での見学でもそうだったでしょう? まったく……君ったら何も学んでないのね、マーケ訓練兵?」



呆れた様にサリアはそう溜め息を零し、態々と名指しで挑発する。

対するマーケもその時の様子を脳裏に浮かべながら、反撃を試みた。



「あれは……レイルガンを使ってたからだろ!? 電子制御銃のサポートがあれば、俺だってあれ位……」



その言葉を聞くと、待ってましたと言わんばかりにサリアは大声を上げる。



「あれ位?! 敵の銃撃を受けながら冷静に狙いを定めて撃つ。その行為がどれ程難しいか分かって言ってるの? 後方に居た私達ですら、その迫力に気圧されてたじゃない。けれど、最初に攻撃をヒットさせたのは私達と"同世代の少年"だったけどね? あーぁ、あれ位優秀な人があんた達の中にも居たらいいのになぁ~?」



言うと、サリアは周囲を見回す様にしながら威圧する。

150cm台の身長しかない小柄な彼女だったが、その迫力と吐く言葉の挑発に負けて誰もが目を逸らす。それを確認すると満足気に鼻を鳴らし、サリアは腕を組んで勝利の余韻に浸る。



「いい? 私達は文字通り訓練兵なの。調子に乗ってたら演習で怪我するわよ? 怪我をするにしたって調子に乗った自分だけじゃなく、他の皆にも被害が及ぶかもしれないのよ? だ・か・ら!! 今みたいに騒がずに、演習では落ち着いて教官達の指示に従いましょう! いいわね!?」


『い、イエス・マム』



どうやら、今回は女子達の勝利に終わったらしい。

いや、サリア一人の勝利と言うべきだろうか。

何時も成績上位の彼女のその資質は、既に芽吹く気配を覗かせている。

武市が常に彼女を目を掛けている事からも、その期待度の高さは伺えるだろう。



「ちっ、何だよ……。何時も威張り散らして」



ただ一人、マーケ訓練兵だけは面白くなさそうにその光景を眺めていた。







▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼








「はぁ!? 同行は許可できない!? 何ですか、それ!?」


「ど、どういう事なんですか!?」



仮眠室で休んでる最中、ふと御川さんが真剣な表情で俺の元に訪れた。

彼はまず藤宮さん達も俺の部屋に呼び集め、そして話し始める。

急な訪問にも驚いたが、その内容にも俺達は大きな驚きを隠せなかった。


何と俺達の軍への同行は許可できないと突然に告げたのだから。



「な、何でですか!? 別に邪魔はしませんよ!? 自前の車両で行くし、装備だってあります!」


「木津君、そうじゃないんだ。実は君とHopeの同行の事を軍に話したら、思い掛けない事を言われてね……。とりあえず、座ってくれないか?」



御川さんは気まずそうにしながら、立ち上がりかけた俺にベッドへと再度腰掛ける様に勧める。それに従って素直に腰を下ろすと、彼は部屋の壁に背中を預けながら腕を組んで眼鏡をクイっと持ち上げた。



「今から話す事は他言無用だ、破れば"極刑"もあり得る。これを君達に話す許可が軍から下りたのは、君達が今回の件に関わっている当事者だからだ」


「そんなに重要な事なのかい?」


「そうに決まってるだろ……」



里菜さんが首を傾げて聞くと、フェニル先輩が呆れた様に呟く。

何時もならそのまま喧嘩に移行する流れではあるが、御川さんの纏う真剣な雰囲気でそれ所ではなかったらしい。彼は一つ溜め息を零し、話し始める。



「君達には言ったね? 軍はハタシロとミシヅを警戒していると。特にミシヅとは先の爆破事件で不安定な情勢だ」


「……ノーラさんの件ですね」



俺が言うと、御川さんは少し気まずそうにしながら頷く。



「それにだ、ミシヅはタルスコット殿を暗殺する為に諜報員を動員したらしい。どうやら我々に弱みを握られたくないらしくてね」


「暗殺!? と、とんでもない話ですね」


「じゃ、じゃあ貴婦人は既に殺されたのかい!?」



その話は既に弦さんから聞いていたので、俺は特に驚かなかった。

しかし、初耳である藤宮さん達は大層驚いたらしく、目を見開いている。



「いいや、襲撃してくる暗殺者は全てラドホルト殿の活躍によって排除されている。しかし、そのお陰で我々は実質的にミシヅと水面下で争った事になる。故に、軍部は今の情勢で正規軍を動かせばミシヅが何らかの報復行動に出る可能性を懸念しているんだ」


「それがどうして我々が同行できない事に繋がるのだ?」



話が読めないと言いたげに、フェニル先輩が突っ込んだ。

御川さんはそれを受けて、少し困った様に眉を潜める。



「正規軍は迂闊に動かせない……。しかし、テラノの住民も見捨てられない。故に、軍はある作戦を実地する事にした」


「作戦、ですか? って言っても、ただ軍を派遣すればいいだけじゃあ……」


「そう、軍を派遣する。しかし、それは正規兵ではない。今回、テラノに送られるのは"訓練兵"達だ」



その瞬間、俺の脳裏に過ぎったのは何時かの迎撃戦で会った訓練兵達の姿だ。

彼等の大半は俺と同世代であり、俺より下の子も居たぐらいであった。

気付けば、俺は唖然と声に出していた。



「マジですか……? だって、子供ですよ?」


「……それは違うよ、木津君。彼等はヤウラ軍が従えている訓練兵だ。それ相応の訓練は受けている」


「けど、実戦は経験してないんでしょ? もし何かあればテラノの人達を救うどころの話じゃ無いんじゃあ……」



気付けば、自然と非難の言葉が口を出ていた。

それは俺が彼等と同世代だからか、それとも迎撃戦で関わりを持ってしまったからなのか、理由は分からない。



「……なるほど、訓練兵を野外演習とでも称して動かすのか。正規軍をテラノ保護の為に動かす、と言う建前よりかは相手を刺激しずらいのは確かだな。それに、数百人規模の難民の受け入れによるヤウラ市の影響力増加も、相手方として好ましくないだろうしな」



渋る俺とは違い、フェニル先輩は何処か感嘆とした響きを持たせながら推測を飛ばす。

それを受けて御川さんは少し驚いたのか目を見張り、それを誤魔化す様に眼鏡の淵を弄りながら返答する。



「そう、君の指摘通りだ。正規軍を動かすだけでも相当なのに、難民保護によるヤウラ市民の増加も相手を焦らせる材料に成り得るんだ。しかも難民の支援はフィブリル商会が行うともなれば、実質的にヤウラ市の経済にその商会が援助する様な物だしね。数百人規模の市民が自立するまでの数ヶ月、或いは十数ヶ月の支援ともなれば、並外れた支援額になる筈だ。他の都市にとっては、それは面白い話ではないだろう?」



フェニル先輩の指摘に対し、御川さんはそう補足して危機感を募らせる。

理解はできる内容ではあるが、それを受け入れるとなるとキツイ物がある……。



「じゃあ、つまり軍の演習だから組合所に属するハンターがそれに着いていくのは不自然、って訳なんですか?」


「そういう事だね。何の関係も無いハンターが車両を伴って作戦に参加すれば、当然ながら不自然に目立つ。下手に諜報員に情報を与える訳にはいかないんだよ。分かってくれたかい?」


「…………そうですかぁ。うーん」



呟き、俺は考える。


このまま訓練兵を頼りにしていいのか?

作戦の成功の懸念もそうだが、もし道中で無人兵器による襲撃で死者でも出たら?

そしたら、俺達がこの件をヤウラに伝えた所為でそうなったも同然ではないのか?


無論、正規軍ならどうなってもいいと言う訳ではない。

しかし、彼等はプロであるし、訓練兵とは違って戦う心構えも既にできているだろう。

それに比べたら訓練兵達は急な実戦でテラノ住民の保護を目的にした撤退支援を任されるなど、どう考えたって浮き足立つに決まってるだろ。


どうにかできる手段は無いか……。

俺は今回の件を持ち込んでしまった罪悪感からか、そう強く思考を探る。


あんな"子供"達に何かあったら……いや、待てよ?

子供……そうだよ、子供だ!!



「…………御川さん。俺ってどう見えます?」


「え?」


「いや、ほら! 外見的に」


「外見的に? ……あれ? 木津君……少し太ったかい??」



ぐっ、今ここでそれに気付くか。

あまり接点無いのに、良く気付いたもんだ。

この人は女性が髪型とか変えたら直ぐに気付く事ができる、モテ系男子なんだろうな。


そんな妬みの念を覚えつつ、俺は続けて話す。



「そういう部分じゃなくてですね。ほら、顔とか全体的な雰囲気というか……」


「……それなら……一見すると何処にも居そうな子だが、実はとんでもない子供であり、そんな君の所為で僕はここの所ずっと忙しく、最近は君を見ると無意識に少し胃が痛んで吐き気がするんだ」



え、何? 途中からただの俺への愚痴と批判に変わってんだけど?

それはいいとしてだ、つまり俺が言いたいのは……。



「……今回の件、もし出来るなら俺を……訓練兵として同行させて貰えないっすかね?」


「――――そ、その発想は無かったな。いや、しかし……どうだろうか? 軍に確認してみないと」


「お願いします。できるだけの事はしたいんですよ」



俺は頭を下げ、そう懇願した。

すると、其処で予想外の流れに発展する。



「あ、あの!! 私はどうでしょう!? 見た目だけなら、結構まだ若いかなぁって……」


「…………いや、流石にどうだろうか? 惜しいけど、流石に訓練兵……には見えないかな?」



唐突に志願したのは藤宮さんだ。

御川さんは真剣に彼女を凝視したが、流石に無理だと告げた。

藤宮さんは項垂れ、それに釣られて彼女のチャームポイントであるサイドテールも垂れて陰とした雰囲気を醸し出す。



「アタシはどうだい? 健康には気を使って運動もよくしてるし、それなりに若いつもりだよ」


「雰囲気がまるで駄目だね。どうみても成人女性だよ」



次のチャレンジャーは里菜さん。

しかし、御川さんはバッサリとそれを切り捨てた。

里菜さんはベッドに倒れこむ様にしてダウンし、不貞腐れる。



「…………私を見るな。余計な事を言うと殴るからな」


「も、申し訳ない……」



そのままの流れで御川さんがフェニル先輩を見ると、彼女はそう脅した。

しかし、彼女のそういう凛とした振る舞いは訓練兵には見えないだろう。



「ラビィはどうですか?」


『論外』



これには皆が口を揃えてそう答えた。

ある意味ではこの中でラビィが一番若いだろうが、その見た目はとんでもない破壊力だからな。


しかし、彼女は不満気に瞼を細めて言う。



「では、ラビィは今作戦では沿矢様と同行できないのですか? 沿矢様、危険です。荒野では何が起こるか分かりません」


「う、うーん……そうだけども」



確かに、この流れだと軍に同行できるのは俺だけだ。

流石の俺も一人じゃ少し心細い気はするが……。



『じゃあ、私が一緒に行くよ』


「え?」



突如、部屋の隅からそう聞こえてきて視線を向ける。

すると其処には体育座りで此方を眺めているメア・ラダルの姿があった。



「め、メア!? 貴方が同行するの!?」


「私なら年齢的にも見た目的にも適任でしょう? それに、そのお兄さんのお陰でホテルも鎮圧できたみたいだし……借りを返したいの」


「けど、アンタは監禁されてたんだろ? まだ体力も戻ってないんじゃないのかい?」


「少しご飯食べたらあっと言う間に回復したわ。代謝がいいの、私」


「……心の傷はそうではないだろう。訓練兵達の中には男も多く居るぞ?」



メアはホテルで無法者達に監禁されていたらしい。

即ちそれは、性的暴行を受けていたと言う事だ。


故に、その精神面を気にしてフェニル先輩が気遣いを見せる。

しかし、対するメアはチラリと俺を一瞥し、鼻で笑う。



「けど、皆子供でしょう? 私を襲った奴等はそれはもう馬鹿みたいに年食ったオッサンばかりだった。あいつ等と比べたら……まぁ"可愛い"ものね」


「どうして俺の顔を見ながらソレを言う必要があるんですかねぇ……」



言っとくが、男に可愛いと言っても褒め言葉になんないぞ。

そもそも女性が発する可愛いと言う言葉は色んな意味が複合してできている意味深な言葉だから、男性諸君は注意が必要だ。



「……じゃあ、志願者は木津君とその子だね? しかし、話してはみるが断られたら素直に受け入れてくれよ?」


「それはもう、仕方ないですから……受け入れますよ」


「私はそこまで必死じゃないし」


「よし、分かった。部屋の外で確認してくるよ。少し待っててくれ」



俺とメアの了承を聞き、御川さんは懐からPDAを取り出しながら部屋から出ていった。

残された俺達は顔を見合わせ、苦笑する。



「全く、次から次へと思い通りに事が進まないったらありゃしないね」


「……護衛依頼からの集落解放戦、そしてクラスクでの捕虜救出の次は訓練兵として作戦に参加……か。君は一体前世でどんな悪行をしてしまったんだ?」


「え!? 全部俺の所為なんですか!?」



フェニル先輩の哀れむ視線に、俺は思わず動揺する。


いや、確かにこの世界に来てから不幸続きではあるけどさ……少し酷くない?

そんな風にショックを受けていると、メアが目の前までやってきて宣言する。



「いい? 今回は私が貴方を手伝う。つまり私がパートナーよ」


「まぁ……そうだな」


「けど、だからと言って馴れ馴れしくしないでね? あくまで借りを返す為なんだから」


「別にそんな事しねぇよ。する余裕もないだろ」


「どうだかね……男ってのは獣だから。借りを理由にアレコレ言われたら堪らないもの」



このツン度は少し俺にはキツイな。

彼女の境遇を思えばこれでも優しい方だろうが、同世代のツンデレはあまり好きじゃないのだ。

いや、この分だとデレる可能性は多分ないだろうけど。


そんな風にツンデレへの好き嫌いを分別していると、外から足音が聞こえてきた。

しかし、その足音は複数ある様に聞こえる。

御川さんが戻ってきたのなら、誰か連れてきたのか?


そう思ってドアに視線を向けると、丁度ドアが開かれた。

そして、その先に居る人物を見て俺は驚いてしまう。



「――宮木伍長!?」


「よぉ、木津。聞いたぞ、お前も作戦に参加したいんだってな? 心強いぜ」



ニッと笑みを浮かべ、宮木伍長はそう確認してくる。

彼の背後には御川さんも居て、彼は宮木伍長に手を向けて言う。



「彼は南側の案内役を勤める複数の送迎班の内の一つとして訓練兵達に同行する予定でね。どうせなら彼にも協力してもらおうと思ったんだ」


「案内役ですか? それに協力……?」


「おうよ、お前さん達の中には同行したい奴がまだ居るんだろ? 一人でいいなら、最近俺の部隊から負傷者が出てな、席が一つ空いてんだわ」


「え? で、でも大丈夫なんですか?」


「軍部も無条件で戦力が増えるなら、それに越した事はないとさ。それにテラノ解放の当事者が居れば、訓練兵達に真の作戦を伝えた時の説明もスムーズに済むからな」



言うと、宮木伍長は肩を竦めて見せた。

すると当然、部屋の中の女性陣は顔を見合わせる。

即ち、その沸いて出た一枠に誰が埋まるかという話だろう。


しかし、まぁ……。



「では、ラビィが同行します。この中で一番適任なのは私でしょう?」


『くっ……』



とまぁ、ラビィが宣言すると藤宮さん達は顔を伏せた。

確かにヒューマノイドであるラビィに叶う訳も無いし、それが一番良い選択だろう。



「じゃ、じゃあ他の送迎班に私達を配備してくれませんか!?」


「それなんだが……推奨できたもんじゃないぞ? 自分で言うのもアレだが、俺みたいに気の良い奴等はそう多くねぇ。そりゃ軍に言えば今回の事件当事者であり、実戦経験がある穣ちゃん達の参加も認められはするだろう、けれど……」



伍長はそこで言葉を止め、ラビィに横目を向けながら頬を掻く。



「俺の班に入れるとしてもフルトが居るからこれ以上は過剰戦力だ。あんた等が配属されるとしたらやはり他の班になる。しかし……今回は無謀にも近い作戦だから気が立ってる奴がいる。悪いことは言わん、今回は止めとけよ。自分で言うのもアレだが、軍人の中には碌でもない奴が度々混じってる。それに、こういう事は言いたくないが……この件を"持ち込んだ"お前等に敵意を抱く輩が居るかもしれねぇ」



やっぱり……そうだよな。

今回の作戦が実行される切欠となったのは俺達だ。

その事で敵意を抱く輩が居ても、そう驚きはしない。



「うぅ……そうですか」



宮木伍長のそんな言葉を聞くと、藤宮さんは諦めて視線を下げた。

彼女には悪いが、俺としては少し安心だ。

彼女達にも何かあればと思うと、心労が更に増えるからな。



「じゃあ、ラビィは伍長の所にお世話になるんですよね? なら、彼女は銃の腕前も凄いので、戦闘は任せてやって下さい」


「噂には聞いてる。HB仕様のレイルガンでも持たせれば、かなりの戦力になるだろうな」


「それで御川さん。俺の同行許可は出ましたか?」


「あぁ、まぁね。別に君達は報酬を要求してる訳でもなかったしね。戦力が増えるなら断る理由もない。特に木津君はテラノ解放の大きな功労者だからな」



確かに、俺達はただ自己満足の為に動くだけからな。

むしろ報酬を要求したら幾らくれたのだろう。

いや、今更そんな卑しい真似はしないけども……。


そんな風にボーっとしていると、ポリポリと後ろ頭を掻きながら宮木伍長が近寄ってくる。

彼は俺の前に立つと、続けて頭を下げた。



「え? え!? な、なにしてるんすか!?」


「木津、どうか訓練兵達を守ってやってくれ。武市中尉の為にも」


「武市さん? ぁ、そっか……確かあの人は教官でしたね」



以前、迎撃戦で武市さんは訓練兵を連れていた。

ともすれば、彼女も今回の作戦に加わるのだろうか?

それを尋ねると、宮木伍長は大きく頷いた。



「そうだ、あの人が今回の隊を率いる責任者だ。だから……自分の教え子を近くで守ってやる事もできねぇんだよ」


「そうなんですか……。じゃあ、俺は彼女が育ててる訓練兵の所に配属される感じですかね?」


「お前が了承してくれればな。武市中尉もその事で悩んでたから、お前がそいつ等の面倒を見てくれれば心労も減るだろう」


「勿論、構いませんよ。それに……俺達が今回の件を持ち込んだんですから、助力するのは当然です」



この様な事態になるとは想像していなかったが、訓練兵達の動員は不安がある。

俺に出来る事なんぞそんなに無いだろうが、全力を尽くさねばなるまい。


そんな感じで俺達の軍への同行が決まった。

参加者は俺とラビィ、そしてメア。


テラノまでの道中で何が起きるか分からないが、頑張るしかないだろう。

そう決意を新たにし、俺は一つ覚悟を決めた。




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