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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
94/105

崩壊の足音





『此処で待機して下さい。弁護士への連絡は今現在不可能です。通信が回復すれば此方から連絡しますので、連絡先を教えてください』


「……ベンゴシなんざ知らねぇよ。とっとと失せろ」


『弁護士の要請は無し。ならば警察組織への引渡しとなりますが、今現在連絡が取れません。通信が回復次第通報し、貴方達を移送する手続きになります。それまで待機して下さい』


「勝手に言ってろ……ブリキが」



ダッシュはそう舌打ちし、牢獄へと足を踏み入れた。

その後に続いてミノルが押し込まれ、鍵を閉められる。


彼等が収監されたのはオーソドックスな鉄格子が嵌められた部屋だ。

一つの大広間に幾つかの通路と牢屋が並び、その合間をガードが巡回している。


ミノル達が足を踏み入れたその牢屋は、夥しい数の白骨で埋め尽くされていた。足の踏み場すらもなく、ダッシュとミノルはその場に立ち尽くして息を飲む事しかできない。明確な死の形が雪が降り積もるが如く残っているのだから、それも無理はないだろう。



「これが投降した奴等の末路か……。まぁ、想像通りではあるな」


「すまない、皆。でも……生きていればどうにかなるさ」



警報が鳴った際、当然として彼等は混乱した。

何時もならばその場に息を潜めて警備をやり過ごすか、安全な場所へ移動するかを瞬時に判断しただろう。


しかし、仲間であるロングが居なくなっていたのならば、どうする事もできない。見張りをしていた双子の姉妹はロングを止めなかった罪悪感からか、探しに行こうとした。だが、それを止めさせようと他の仲間が説得していたのだが……その結果、外から近付いてきていたFG型の足音を聞き逃してしまったのである。


入り口を押さえられる形となり、彼等は逃げ場を失った。

タルパーを使えば確かに迎撃できるが、一機に見つかった時点で周囲のFG型に通信され、居場所は既にばれている。 増援を避ける為には見つかる前か、見つかった直後に奇襲でAIを一撃で打ち抜くしか無かったのだが、それはもう無理だった。


一度戦闘を開始してしまえば、戦闘モードに入ったFG型相手に降伏はできない。

苦渋の決断を強いられ、ミノルは暫く悩んだが……他から迫るFG型の足音を捉え、最後には降伏を選んだのだった。その後はガードに囲まれ、こうして収監フロアに移送される流れと相成った。



「でも、良かった……。こっちにはロングが居ないよ! そっちはどう!?」



ダッシュとミノルが居る反対側の牢から、ミレイがそう伝えてくる。

彼女はブックと共に牢に押し込まれており、不安そうな面持ちでミノルを眺めていた。



「こっちにも居ねぇぞ。ツインズはどうだ?」


『……居ないよ! そもそもロングが居たら、私達の会話を聞いて返事してるでしょ……』


『ごめんね、皆! 私達の所為で……』



他の二組より少し遠くの位置に収監されたイチとラン。

彼女達はその声色に暗さを交えており、罪悪感を表していた。



「二人とも謝る必要はない。リーダーとして気を抜いた僕が悪かったんだ……」


「リーダー、貴方とミレイに休む様に勧めたのは僕です。その理屈で言うなら責められるのは僕ですよ」


「ブック……すまない。そんなつもりじゃ無かったんだ」



こんな状況下でも、まず彼等は互いに気遣って慰めあった。

ダッシュは白骨を蹴散らして端にどけ、ドッと勢いよく腰を下ろす。



「なんにせよ、ロングが此処に居ないのは良い事だ! きっとアイツなら助けを呼んできてくれる! 俺達はのんびり待とうや!」


「助けに……来てくれるのかな? 来たとしても、此処の警備は……」



ミレイは顔を青ざめながら、牢から外を見回した。


収監フロアの広さは大きく、そして其処を巡回するFG型もその大きさに比例して多い。

それだけならまだしも、その中には明らかなリーダー格が混じっていた。


他のFG型とは違ってその機体は左肩部にガトリング砲を備え付け、背部にはそこから排出されるであろう弾薬を携えたバックパックを背負っている。悠然と周囲を眺める様に首を回しながら、その機体はフロアの片隅に陣取っていた。


ブックはそのリーダー格を眺めながら、冷や汗を流す。



「FG型133式……あれは拙いですね、百式の中でも厄介な指揮官タイプです。あの一機が居るだけで周囲のFG型の連携は遥かに向上します」


「ご丁寧な説明どうも。泣けてくるぜ……」



仲間を元気付けようと声を上げたのに、ブックの説明でそれが無と化した。

ダッシュは溜め息を零し、遂には寝転がって宙を見上げる。


と、その時である。

収監フロアの扉が開く音が聞こえ、それと同時に何か不自然な音が聞こえてきた。



――ズッ、ズズッ。



ダッシュ達は腰を上げ、鉄格子に近寄って入り口の方を確認しようとする。

しかし、そこまで必死になる必要もなかった様だ。

何故ならすぐに"それは"FG型によって運ばれてきたからだ。



「マジかよ……」


「酷い……」



鉄格子の向こう側で、幾つかのスカベンジャーの死体がFG型の手によって引き摺られていた。

よくよく見れば通路の彼方此方に乾いた血の跡が見えて、彼等は体を震わせる。



「あの人達は……昨日確か七階で出会ったよな?」


「あぁ、俺達に態々と『このフロアには何もないぞ』と教えてくれたハタシロの奴等だ。まぁ、俺達はそれを信じなかったけどな……」



その死体の顔に見覚えのあったミノルがダッシュに尋ねると、答えが返ってきた。


つまり、彼等が警報に引っ掛かった人達なのだろうか?

それとも自分達の様にガードに発見され、抵抗もむなしく散ったのか、今となってはもう分からない。


死体は別の部屋へと運ばれていき、見えなくなった。

しかし、香る鉄の匂いと通路に描かれた真新しい血痕が、先程の光景が幻でない事をキッチリと伝えてくる。



『あたし達……死ぬのかな? 怖いよ、お姉ちゃん……』


『……大丈夫、大丈夫だから』



遂にはランが泣き出し、悲壮な雰囲気が漂う。

ミノルはその泣き声から意識を反らすかの様に牢の中を見回し、白骨を掻き分け始めた。



「何か……何かないか?! ダッシュ、君も何かないかを探してくれ!」


「リーダー……お前のそういう所は素直にすげぇとは思う。けどよ……牢から抜け出てもあの数のFG型をどうにかするのは無理だ。だから誰かが来るまで待つしかない」


「だけど……!!」



渋るミノルを無視し、ダッシュは大声を上げた。



「いいか、お前等!! 今俺達の希望はロングが助けを呼んできてくれる可能性だけだ!! 無駄な行動は控え、できるだけ体力を温存しろ!!」


「ダッシュ、そんな他力本願な事を……!」


「それしかねぇだろ!? いい加減現実を見ろ!! リーダー、これは本来お前がしなければいけない事なんだぞ!!」



仮にもチーム内で最年長者であるダッシュ。

そんな彼の言葉は重みがあり、何よりこの状況下では一番理に叶っていた。


ミノルは悲痛に顔を歪め、項垂れる。

その様子を眺めていたミレイも心を痛め、彼女も悲嘆に暮れた。

ブックはそんな彼女に近寄ると、その両肩に優しく背後から手を置く。



「ミレイ、貴方も休んでください。ほら、僕が白骨を退けましから……あそこで寝たらどうですか?」


「ありがとう、ブック。だけど、こんな状況で寝るなんて……」


「こんな状況だからです。ダッシュさんの言う事は正しい、今は体力を温存するべきです」


「……そう、だね。はは、これじゃ副長なんて呼べな……い?」



ミレイは其処で違和感を覚えた。

その違和感が何か分からず、彼女が頭を悩ませているとブックが再度話し掛けてくる。



「どうしました? "ミレイ"、貴方はやっぱり疲れてるんですよ」


「……大丈夫、まだ少し起きてるから」



違和感の正体に気付き、ミレイは表情を強張らせた。

今までは"副長"としか呼ばなかったブックが、自分を名前で呼んでいるのだ。

無論、ミレイとしては今更仲間である彼に名前で呼ばれる事など気にしない。


しかしだ。何故、どうして、このタイミングでそうしたのか?

自分を慰める為? ブックは穏やかな気性を持つ男性だ、確かにその可能性は高いが……。


チラリと、自分の両肩に乗せられたブックの手にミレイは視線を向ける。

今までこの様なスキンシップを彼がするのを、彼女は見た事がなかった。

それは女性陣に対してだけではなく、男性陣に対してもだ。


自分の考え過ぎだろうか? いや、そうに違いない。だけど、もし他に理由があるのならば……。



「み、ミノル! 貴方も休んで! 貴方が元気じゃないと、私や皆が落ち込んじゃうよ!!」



ミレイはその考えに至ると咄嗟に立ち上がり、ブックの手から強引に逃れた。

反対側の牢に居たミノルはそんな恋人の不自然な振る舞いには気付かず、笑みを浮かべる。



「ミレイ……。そうだね、僕がしっかりしないと……! よし、とりあえず少し休もう。今日は一日中探索してたから、疲れを癒さないと」


「そうそう! その通りだ! 皆も休め休め! もし脱出のチャンスが来てもヘバってたら失敗しちまうぞ!」


『……そうだね、希望は持たないと。さぁ、妹よ。久しぶりにお姉ちゃんが膝枕しちゃうぞ~?』


『ひっく……お姉ちゃんの膝って肉付きが良くないから痛いんだよぉ……』


『この拳骨で痛め付けられるよりマシでしょ? いいから来なさい、ね……?』


『……うん』



各々が、体力を温存しようと動き出す。

しかし、ミレイだけは鉄格子の傍でずっと動かない。

そのまま暫く時を過ごしていると、背後からブックが声を掛けてくる。



「ミレイ、寝てください。リーダーもそう言ってたでしょ?」


「……先に寝てていいよ。私はもう少し……ッ!?」



再度、ミレイの肩にブックの手が乗せられた。

しかし、今度は握る様にして小さく力が込められ、彼女の肩が僅かな痛みを訴える。



「駄目です。貴方は見張ってないと意地を張ってずっとそうしてそうですから……ね? 大人しく寝てください」



其処で初めてミレイはブックに恐怖感を覚え、今更ながらに彼が"男性"である事を自覚した。

ウララカに迫る崩壊の足音は静かに、だが着実に近付いている――。







▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼







俺達はとりあえず、警報が解除されるまで長身のお姉さんの仲間が居た場所で休む事にした。

その際に彼女は仲間が置いていった装備を手に取り、ラビィに差し出してくる。



「これを使って。YF-6も良い銃だけれど、FG型を相手するには少しきついわ」


「タルパーFRGですか。しかもレイルバレルとコンデンサーを装備している……。ふむ、充電もバッチリですね。予備の弾やコンデンサーは?」


「えっと、少し待って。確か予備は……」



ラビィは遠慮なくそれを受け取ると、彼女に残弾数を尋ねる。

お姉さんは周囲を見渡し、袋の中を漁っていく。


俺はふと、どうして銃器が回収されてないのかをラビィに尋ねた。

クースではこういう武器が回収され、保管されていた筈だ。



「恐らく、それはガードが証拠として残したからでしょう。ここはプラントによる製造施設であり、警備は此処までの道中を振り返れば分かる通り、厳重です。そんな施設に侵入者が忍び込めたとすれば相手は優秀な工作員か、他国企業に雇われたエージェントでしょうからね」


「証拠?」


「はい。本当の一流が相手なら見つかると同時に自殺も有り得ますからね。相手が何を狙ってきたのか? 破壊工作が目的だったのか? 少しでも何かが判明すれば捜査は助かりますし、僅かな情報が手に入るならそれに越した事はないですから、ガードには現場を荒らさない様にとのプログラムが組み込まれているのでしょう。もっとも、世界が崩壊した今となっては無駄な行為ですが……」


「ほへ~……なるほどなぁ。俺には分かんない世界の話だ」



前世界のトリビアにそう関心していると、お姉さんがようやく目的の物を抱えてやってきた。



「予備の弾は二十発、コンデンサーは四つあるわ」


「弾もコンデンサーも丁度使い切れる数ですね。素晴らしい」


「ラビィ、お前がタルパーを使用してくれ。この中で一番射撃が上手いのはお前だ。戦果に期待するぞ」


「はい、お任せください」


「とは言っても、戦わないで済むならそれが一番なんだが……」



差し出されたタルパーをラビィに持つ様に指示し、彼女は弾とコンデンサーを受け取る。

残りは長身のお姉さんが持ち、彼女もタルパーを構えて準備万端といった感じだ。

彼女はチラリと俺を見ると、困惑した口振りで尋ねてくる。



「君は……そのM5が重くないの?」


「全く重くないです。俺に関して流れてる噂は全て事実と思ってくれて結構ですよ。俺は生身でHAクラスの膂力を有してます」


「な……なんて言ったらいいのか……。じゃあ、二人の恋人と自堕落な性活を送っているって噂も……?」



長身のお姉さんは顔を青くし、肩を抱きしめる様にしながら背後に後ずさって尋ねてくる。

俺はすぐに首を横に振り、それに否定の意を返す。



「すみません、五秒前の発言は取り消します。何も信じないで下さい。あえて言うなら、俺を信じて下さい。俺は無実です……!!」



ふざけやがって、そんな生活が送れるなら苦労せんわ。

こちとら自堕落どころか自我が崩壊しそうな程に忙しいんだよ!!


ってか、何処からそんな噂が流れた?

まさか田中さんか? あの人、ノーラさんの件で里津さんが吐いた嘘を他人に話しちゃったのかな?


そう内心で憤慨と困惑を織り交ぜていると、長身のお姉さんはクスッと笑みを零す。



「大丈夫、君を信じるわ。さっきだって助けてもらったしね……。遅くなったけど、ありがとう」


「いえいえ、困った時には何とやらです」


「それと……ごめんなさい、自己紹介がまだだったわね。私はララ・バノン、仲間からはロングって呼ばれてるわ」


「ロング……。あぁ、なるほど」



確かに、彼女にピッタリな呼び名だ。

何せロングさんはラビィの身長すら超える程なのだから。



「本当にありがとう。さっきの戦闘でも貴方達に任せっきりで……自分が情けないわ」


「いえ、俺がそうお願いしてましたし……。それに仲間とはぐれてたんじゃ、動揺して戦闘どころではなかったでしょう?」


「……はぐれた訳じゃないの。私は自分の都合で彼等から少し離れてて……その所為で……ッ」



と、其処でまたロングさんは涙を浮かべ始める。

俺は慌てて立ち上がり、そんな彼女に近付いて慰めを試みた。



「大丈夫、大丈夫です! 此処で戦闘した様子がないって事は彼等が生きているって証であり、それは間違いないんですから! 要は助けてしまえばいいだけなんですよ!! 人間ミスは当たり前です。けれど、だからと言って諦めたら駄目です。それを挽回する為の努力が何より重要なんです。だから頑張りましょう! ね?」



女性に泣かれるのはとても心臓に悪い。

それにこの状況では彼女を相手できるのは俺だけだし、放置なんぞ論外だ。

ラビィに慰める様に命令しても碌な事にならなそうだし、そもそもそんな情けない行動は男としてNGである。


そう思いつつ慌てた口振りで何とか慰めたが、逆にそんな俺の様子に毒気を抜かれたのか、ロングさんは小さく笑う。



「……ふふ、君は随分と前向きなのね。私とは大違い」


「そうでしょ~? 何せ俺は二百万以上の借金を背負い、クラスもG-、だけど元気です! 何故なら前向きでないとやってらんないっすから! あははは……!」



自分で言ってて落ち込みそうになったわ。危ない危ない。


しかし、ロングさんを勇気付ける事は成功した様だ。

彼女は驚きつつも、苦笑しながら尋ねてくる。



「に、二百万の借金?! はは、凄い……それも本当だったんだね。一体何があったの?」


「いや~それを話せば長いんですがね? 興味があるなら、暇潰しがてらに聞いて下さい……」



警報が鳴り止むまでの間、俺はこれまで起きた出来事をロングさんに語った。

彼女は興味津々でその話に食い入る。


驚き、笑い、悲しみ、戸惑い、怒り。

様々な感情を見せながら、彼女は話に付き合ってくれた。

そして話は昨日起きたテラノの出来事にまで及び、俺はPDAの映像を見せながら話を終える。



「見ての通り、これが昨日起こった出来事です。そして俺達はテラノを維持できなくなった住民達を助けるべく、それをヤウラへ伝えなきゃいけない。ですが、テラノは男性の人を多く失って防衛も満足にできない。だから戦力の大半を残し、俺とHopeの人達だけで此処に来ました。此処の送迎班に事情を伝え、一緒に帰る事でヤウラへと安全に辿り着く為に……ってのが、まぁ今までの流れです」



南側の情勢はマックスが行ったベース・ウォーカーの投影の件で悪化している。

存在しない脅威を警戒し、南方都市のバハラのハンター達が狩りを積極的に行っていないであろうからだ。


その所為でここ等を徘徊する無人兵器の数と勢いを増している事は、ロード・キャッスルや道中での護衛戦闘で確認している。


だからこそ、こうしてクラスクの送迎班を頼りに安全策を講じてヤウラまで戻ろうとしているのだ。俺やHopeの面々だけで無理にヤウラを目指し、無人兵器と戦闘を繰り広げた際に死亡とまではいかなくても、車両にダメージを受けて足止めでもされれば、その時点でテラノに居る数百人の人達の命も共に潰える危険性があるのだ。それを思えば、どう考えても慎重に動く必要があった。


――とは言えど、こうしてクラスクで新たなトラブルに巻き込まれるとは予想外だったが……。


そんな内心を覆い隠しながら、俺はロングさんの反応を待つ。



「そっか、だから君は私達を迎えにたった二人で……。何だかなぁ……」



ロングさんは話を聞き終えると、真上を向いて憂鬱そうに息を吐いた。

俺はPDAを懐に入れながら、どうしたのか尋ねる。

すると彼女は呆れた様に噴出し、頬を赤く染めながら恥ずかしそうに語りだす。



「いや、ね? 私……ついさっきまで自分がこの世界で一番不幸なんだ~って思ってた。けど、そんな訳ないよね。私はただ、自分に酔って悲劇を演じてただけなんだ……。そしてそれが皆に迷惑を掛けた……」


「ロングさん……」



自虐的なその言葉を聞いて思わず心配して声を掛けると、彼女は大丈夫と笑い返しながら言う。



「けど、此処でウジウジしてたらまた同じ事を繰り返しちゃうわよね? だから……もう悩まない。私は絶対に仲間を助けだすわ。そう、絶対に」


「その意気です! 俺やラビィも力を貸します。絶対にウララカの人達を助けますから、一緒に頑張りましょうね」



大きく右手を振り上げて決意を表した彼女に賛同する様に、俺も右手を翳して見せた。

すると彼女はそんな俺の手に彼女の掲げた手を合わせてハイタッチし、小さく微笑みながら頷く。



「……うん、お願いします。ソウヤ君」


「沿矢様、警報が鳴り止みましたよ。どうしますか?」



と、其処で警報の赤い光が止んだ。

俺は一つ気合を入れると、装備を確認して立ち上がる。



「よし、行こうか……。ラビィ、十階では恐らく交戦を避けられない可能性が高い。その場合どんな激戦になるかは分からないが、もしかしたら俺とお前が別行動になる場合もある。もしそうなったら自分の判断で動いていい。要はテラノの時と同じだ」



当初の目的、戦闘せずにウララカの人達を連れ戻すと言う目的は既に叶いそうにない。

故に、ラビィに新たな命令を下し、この後何が起きてもいい様に準備を整える。



「了解しました」


「ただし、だ。もし俺と別行動になった場合にウララカのメンバーと一緒だった場合、彼等を救う事を第一にしてくれ。必要なら、彼等だけでも連れて脱出しろ。俺が居なくてもだ」


「――沿矢様を置いて、ですか?」



ラビィは不満げに眉を顰めたが、俺は強く頷いて諭す。



「状況にもよるが、必要ならそうしてくれ。いいか、ラビィ? 全滅だけは絶対に許されないんだ。そして此処から素早く撤退するにはラビィのセンサーが必要不可欠だ。だからお前だけは失えない、分かるよな?」



施設からの素早い脱出を第一目標とするならば、ラビィのセンサーは必要不可欠だ。

俺では敵の位置やトラップを見分けられない。


俺やラビィの帰還が遅くなれば、藤宮さん達はきっと限界まで待つだろう。

しかし、それではテラノの食糧が持たない。

何としてもせめて明日までには帰路に就く必要がある。


そしてそれを成し遂げるには、ラビィが一番適しているのだ。

もし最悪の事態が起きて俺とウララカメンバーだけが生き残ったとしても、此処から脱出するのにどれだけの時間を要するかは分からんが、ラビィ程に素早く行う事はまず無理だろう。


故に、ラビィと言う存在を失う事態や、それを容認してしまう様な危険だけは避けねばならない。


それがたとえ俺を救う為だったとしてもだ。

俺の感情を抜きにして考えても、今の状況ではそうせざるを得ないのだ。


故に、ラビィには無茶しない様にとの念を強く押す。



「いいか、ラビィ。此処を抜けるまでは自身の生存を第一に考えろ、俺は二の次でいい。……分かったか?」


「……了解、しました……」



ラビィは俯き、そう声を絞り出す様にして命令を受諾した。

その様子が余りにも痛ましくて、俺は驚いてしまう。


彼女は本当に機械なのか? 今まで何度も自問した、そんな考えすらまた脳裏を過ぎる。



「うわぁ……」



その様子を横で見ていたロングさんは特に驚いたのか、そんな声を漏らしながらラビィから目を離せない様だ。俺から見てもそうなのだから、他人から見れば相当な驚きなのだろう。



「沿矢様、お願いです。どうか無理はなさらないで下さい……」


「あぁ、気を付ける。今のはあくまで最悪を想定しての命令だ。もし安全に事が進みそうなら、迷わずそうするって。大丈夫、俺とお前が組んでるんだぞ? もし何かあったとしても、生半可な事ではビクともしないって」



これは純粋に俺の自信でもある。

今の俺は新たに芽生えた感覚があるし、その有用性は先程の戦闘で証明された。


それにロングさんが用意してくれたタルパーはレイルガンの機能も備えている、これなら並外れた射撃能力を有するラビィの戦力を更に増大してくれる。近接戦は俺で、遠距離はラビィ、サポートとしてロングさんも同行してくれる。ここまで考えればそう不安にはならない。



「…………はい」



しかし、そんな俺の自信の程を見ても気分は晴れないのか、明らかに気落ちした様子でラビィは頷く。


一体この子は何処まで進化するのだろうか?

その進化を見届ける為にも、俺は死ねないな。


そんなフラグを立てつつ、静かに息を零しながら口を開く。



「よし、行こう。ラビィ、先導を頼む」


「はい」



頬を叩いて気合を入れ、俺達は静かな足取りで歩き出した。






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