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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
93/105

FG型





フラフラと、覚束ない足取りでロングは通路を歩く。

無論、彼女の目的は用を足す為ではない。

自分の想い人が恋人と"甘える"空間になど、身を置きたくなかったからだ。


武器はYF-6を手にしているが、それを周囲に向けて警戒する様子も見せない。

ついでに言うと彼女の視界は涙で曇り、周囲の様子など見通せる状態でも無かった。



「ぅ……っ……ぐす」



涙を流し、嗚咽を零し、鼻を啜る。

どうしようもなく惨めで、辛く、そして悲しい。

ロングは今まさに孤独であり、その孤独を埋める術を探す様に彼女はただ漠然と歩を進めていた。



「……どうして、ミレイなの? どうして私じゃないの? もし二人がああなる前に――」



――気付けていたら。



そう呟こうとして、ロングは自虐な笑みを浮かべる。

例え気付いていたとしても、自分は何もできなかったに違いない。

ロングはそう考え、どうしようもない無力感に襲われた。


気分を晴らす為に出歩いた筈なのに、気分は晴れない。

それ所か気分は重くなるばかりで、想い人に対する想いは募るばかり。

堂々巡りのそれを胸に秘めたロングは、遂に耐え切れない様にして膝を着いた。



「……もう駄目かな。この探索が終わったら、抜けよう……ッ」



今まで長く耐えてきたが、それももう限界だと遂にロングは自覚した。

チームを離脱する事で得られる収益は減るかもしれないが、このままでは精神がどうになかってしまいそうだ。


そのまま暫くロングは一人で嗚咽を零していたが、突如として事態が急変する。



『―……z……浸入を感知! 侵入者に告げます、武器を放棄しての降伏を要求します。ガードによって降伏が確認されれば貴方達の命を保障し、危害は加えません。その後は地下十階まで連行し、収監します。尚、この収監が解かれる為には弁護士の到着か、或いは警察組織への輸送を待つ必要があります。今現在は通信状況が芳しくない為、そのどちらの到着も遅れるでしょう。暫くお待ちください。尚、抵抗すれば射殺されますので、何卒ご了承ください』



「なっ!?」



突然の警報、それを聞いてロングは涙を引っ込めて驚きの声を上げた。

通路は赤いランプの光で点滅し、各所からガードの足音が僅かに響き渡ってくる。



「誰かがトラップに引っ掛かったの!? こんな時に限って……!!」



工場都市クラスクの探索難易度が高いのはこの為だ。

全てのフロアは進入口で別々の地下施設に分かれてはいる。

しかし、その警戒システムは全てを監視し、同調しているのだ。

広大な地下工場の探索が進まないのは、クラスクが有するこの特性の為でもある。


とは言えど、全員が一斉に位置を捕捉される訳ではない。

無論、警報トラップを作動した者は位置を知られている。

が、その他の者は警戒行動をし始めたガードを回避し、トラップに引っ掛からない様に行動すればいいだけだ。


とは言うものの、"それが"難しい。

クラスクのガードは倒しても暫くすると補充されている為、基本としてベースキャンプの設営や物資確保のタイミングを除いて排除がされないのだ。


つまりとして言うと、各階層を警戒するガードの数は常に一定数存在し、その脅威は極めて高い。

故に、此処で命を落としたスカベンジャーの数は計り知れないのだ。



「皆と合流しないと……」



涙を拭い、ロングは走り出す。


しかし、赤いランプで照らされた通路の雰囲気は先程とはまるで違う。

そして何より茫然自失に近い状態で彷徨っていた居た為、何処からどう歩いてきたのかの区別がロングには難しくなっていた。


通常であれば、その場に立ち止まって痕跡なりを探せば済む話だ。

しかし、彼方此方からガードの足音が響き渡る様な状況では、そんな悠長な事をしていられない。



――……!!



「ッ……!?」



何処からか銃声が聞こえ、ロングは足を止めて耳を澄ます。

このフロアに滞在するスカベンジャーはそう多くない筈、居たとしてもまだ探索していない場所に居る筈だ。


つまり、この銃声は自分達がベースキャンプを築いた場所から発せられている可能性が高い。

そうであって欲しくない気持ちもあったが、状況的にはそう判断する他ない。

ロングはそう覚悟を決め、その音がした方に向かおうとして――自分のミスを悟る。



『侵入者に告げます、降伏しなさい。 武器を放棄すれば、危害は加えません。ですが、抵抗すればガード憲法第98条に記された管理会社の自衛権を行使し、貴方を殺害します』



ロングが振り返れば其処にはFactoryGuard、通称はFG型が通路に立っていた。

プラント群の多くに配置されていたのが、このFG型だ。

プラントはその国の生産力や経済に多大な影響を与える為、配置されたFG型の戦闘力も高い。


その太い脚と腕は女性の胴周り程の大きさがあり、近接攻撃力も、その内部に収納された火器も比例して強力だ。右腕には5.45 x39 mm弾を発射可能な内臓機銃を二門装備し、弾詰まり等の不具合を起こしても戦闘行動が継続出来る様に工夫されている。左腕には対近接武器として高周波ブレード『B21式』を内臓しており、これは対外骨格装着者用の兵器としても高いパフォーマンスを発揮する。


両脚部には無誘導弾を発射可能なランチャーが備わっており、数の差を覆す事も可能にしていた。

とは言えど、彼等の職務はあくまで施設の防衛であり、破壊が目的ではない。

故に、余程の緊急事態でもない限りそれは使用されないし、ガード所持者の意向では無誘導弾を装填させていない場合もあった。


しかし、今ロングと対峙するFG型は全ての装備を備えた万全な状態だ。

加えて今の彼女は単独であり、一人の火力ではFG型のAIが収まる胸部装甲を撃ち抜けない。


OG型とは違い、他のガードは胸部や腹部等の装甲が厚い部分にAIが収まっている場合が多い。

頭部は完全にセンサー類だけが詰め込まれており、索敵と戦闘処理に特化しているのだ。

バッテリーは被弾しにくい背部装甲内に設置されるか、バッテリーが内臓された外付けの"ランドセル"を背負わせている型もある。



(タルパーはツインズが持ってる!! レイルガンを使えれば、こんな奴……!!)



ウララカはタルパーを二丁所持しており、そのどちらもレイルバレルとコンデンサーを備えている。

FG型の装甲を貫く事も可能であり、彼等の切り札として重宝されていた。

しかし、今その二つは見張りをしていた双子の姉妹が所持しており、現状どうする事もできない。


暫く膠着状態が続いたが、ロングはこの状況を打破できないと判断した。

ゆっくりとYF-6を床に置き、両手を後頭部に置いて膝を着く。



「降伏するわ……危害は加えないで」


『ネガティブ! サーチの結果、腰付近に火器を確認しました。それも放棄して下さい』



堪らず、舌打ちを鳴らす。

ロングがホルスターに下げていたのはハンドガン、型はDF-112だった。

女性が扱うには反動が強すぎるが、ロングはその体格故に撃つ事ができる。


降伏を確認して相手が接近した際に撃てば、装甲を破壊できると思ってわざとロングはそれを放棄しなかったのだ。だが、それも見破られてしまい、大人しくDFもホルスターから抜いて地面に置く。



『確認しました。では、連行を――中断します』


「え?」



突如、近寄ってきていたFG型が接近を取り止めた。

続けてFG型は後ろを振り向き、右腕を向けてカバーを開き、内臓機銃を露にした。



『侵入者に告げます、降伏しなさい。 武器を放棄すれば、危害は加えません。ですが、抵抗すればガード憲法第98条に記された管理会社の自衛権を行使し、貴方を殺害します』


「本当? はい、武器は捨てまぁす」


(えぇっ!?)



通路の先に居たのは一人の少年。

彼は身に付けていた装備を素直に放棄し、床に置く。


ロングは思わず内心で驚愕の声を上げ、呆然とする。

あのままなら逃げられる距離であったのに、何故すぐに投降したのか。

そもそも所持している武器とて異常だ、"M5"を携帯して探索するスカベンジャーなど聞いたこと事もない。


少年がそのまま近付こうとすると、FG型は再度警告を飛ばす。



『警告、その左腕の装備と背後の金属物を放棄しなさい』


「……結構キッチリしてんな。はいはい、これでいいですか?」



少年は左腕に付けていた鉄腕を外し、続けてシャベルを放棄。

今度こそ、彼は軽い足取りでFG型に歩み寄る。



『よろしい、それでは――攻撃を開始します』


「え!? なにそれ酷い!?」



少年が止まらずに歩み寄ってきた為、FG型は即座に機銃を発射した。

本来ならそのまま膝を着くなりすれば降伏が認められたが、その警告範囲を過ぎた所まで歩み寄ってきた為にそれが覆された形となってしまう。


しかし、少年はその第一射を腰を落としながら横に体を傾けて回避すると、一気に走り出す。


少年とFG型の距離はその時点でおよそ二十五メートル程、続けてFG型は横に薙ぎ払う様に右腕を動かす。



「――ッし!」



少年はその薙ぎ払われた射撃すら、跳躍して回避する。

FG型は即座に反応して今度は縦に右腕を振り上げるも、少年は横の壁を蹴って加速、それも危なげなく避け、一気に距離を詰め寄った。


これ以上は接近戦になると判断し、FG型は左腕の高周波ブレードを展開する。

右腕の射撃も取り止め、特有の構えへと移行した。

しかし、それでも少年は接近する事を目指す。


懐に飛び込んできた少年に向かい、FG型が展開した高周波ブレードが薙ぎ払われた。

が、それをスウェーで見切ると同時に即座に踏み込み、少年は右拳をFG型の胴体に向けて突き出した。


ロングはその行為に意味があるとは思えなかった。


思えなかったが――何かを予感した。


一連の行動と流れ、少年の軽い足取りと放つ言葉、それ等を見て何かが起きるのではと期待し、そしてそれは現実となった。


破壊音、それと同時にFG型の胴体は容易にへこみ、圧縮された装甲内でAIチップは押し潰された。FG型はその勢いをそのままに背後に飛ばされ、膝を着くロングの真横を通過して派手な音を立てる。


しかし、ロングはそんなFG型の様子に興味を惹かれる事は無く、ただ呆然と歩み寄ってくる少年に気を取られていた。



「大丈夫でしたか、俺は木津 沿矢です。貴方は……チーム『ウララカ』の人ですか?」










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七階まで降りるのは順調だった。

ラビィのセンサーが見逃す様な敵も、トラップもどうやら無いらしい。

ただ、どのフロアも広すぎるのだ。


階段にしたって何故か全階層直通じゃなく、一階毎に場所が別になっているのだ。

ラビィが言うにはこういう重要施設ではエレベーターでの移動が主流の為、階段は侵入者対策の為に別々の位置にあるとの事。


だったらエレベーターシャフトを下ればいい、そう俺が主張するとラビィは難しいと告げた。


何故ならば、エレベーターシャフトにはスパイ映画に出て来るような網目状の赤外線センサーが何重にも重なっているからである。


PDAでのハッキングは可能かと尋ねると、成功率は半々らしくて泣く泣く諦めた。

そもそも半分でも凄いとは思うが、流石に此処でギャンブルできる勇気は無かった。


ラビィのお陰でガードやトラップを回避し、スムーズに進めたが、時間は掛かる。

PDAで確認すると、七階に到着するまでに約二時間も要していた。

ラビィを連れててこれなのだから、他のスカベンジャー達はかなりの苦労をしているのだろう。


ラビィのセンサーでも、この広大な地下は全て確認できない。

だが、六階に下りた所でウララカと思わしき生体反応をキャッチしたらしい。

人数が七人と言う大所帯の為、間違いはなさそうだ。他にも生体反応があったらしいが、そっちは少数だから恐らく別のスカベンジャーだろう。


だから急いで七階に下りたのだが……何時の間にか一人だけ他のメンバーから離れていたらしい。ラビィのその言葉を聞いて思わず首を傾げたが、このまま進めば道中で出会う予定らしく特に気にせず進んでたが、何故かそこで警報が発動してしまう。


ラビィが言うには他の誰かが引っ掛かったらしく、俺達はそれに巻き込まれた形になったらしい。其処からは大慌てでウララカとの合流を目指し、先を急いでると曲がり角の先にガードと一人の女性を発見した。


俺は咄嗟に通路から飛び出して助けようとしたのだが、何とガードは彼女に降伏を迫ったのだ。どうやらこの施設のガードは警報トラップに引っかかっても、降伏する機会を与えてくれるらしい。


ラビィが補足するには、こういう施設には企業スパイや他国のスパイが潜り込む事が多かったのだと言う。故に相手を生け捕りにし、情報を聞き出す様にしているのではとの事。


とは言えど、その性質を利用できると俺は睨んだ。

彼女がFG型の近くに居る為に銃撃戦は出来ない為、どうしても接近する必要がある。

俺はラビィにFG型の武装とAIチップの位置を再度確認し、覚悟を決めた。


その後は渋るラビィを説得し、俺は一人でガードと対峙したのだが……。



「いやー……普通に撃ってきたね。せめて、もう少し近付いてから撃たれると思ってたよ」


「当たり前です。だから警告したでしょう」



ラビィが憮然とした表情で、拾い上げた俺の装備を渡してくる。

俺はそれを身に付けながら、唖然とする長身の女性に向き合う。



「あの、大丈夫ですか? 怪我はしてないですよね……?」



先程から、呆然と口を小さくポカーンとしている長身のお姉さん。


やはり、命の危機だった訳だからショックを受けているのだろうか?

それともまた俺の戦い方で怖がらせたか? でも今回は血も被ってないし……。



「ぇ……そ、そうだ! こうしてる場合じゃない、皆の所に行かないと!!」


「ぅお!? ちょ、ちょっと!?」



長身のお姉さんは気を取り直したと思ったら、そのまま何処かへ走り去ろうとした。

俺は慌てて彼女を止めようと手を伸ばしたが、その手が彼女の肩を掴む前に彼女はしゃがみこむ。



「ぁあ~!! 何処から来たのか分からないんだったぁ……!」


「ぇぇ……」



お姉さんは四つん這いになり、涙声でそう吼える。

俺は若干彼女の挙動に引きつつも、ラビィに話し掛けた。



「ラビィ、彼女の仲間の位置は分かるか?」


「彼女の仲間が居た場所は分かります」


「ほ、本当!? 案内して、お願いよ!!」



ガバっと効果音が付きそうな勢いで跳ね上がり、彼女はラビィに縋り付こうとする。

が、当然ラビィはそれを回避し、冷たい視線を浮かべながら言う。



「ラビィに命令できるのは、マスターである沿矢様のみです」


「……案内してやってくれ、ラビィ」


「はい、沿矢様」



俺が命令すると、微笑みながらラビィは返答する。


前々から他人に冷たい所はあった気がするが、それが激しくなってないか?

いや、これは他人に厳しくなったと言うよりかは、俺に対する感情表現が豊かになったと言うべきか? さっきも俺に呆れる様な口調と視線を向けてきたし、前までならそんな事は無かった気がする。


ラビィが先導を開始すると、俺は戸惑う長身のお姉さんに向かって頭を少し下げた。



「すみません、彼女はヒューマノイドなんです。だから、ああいう態度は見逃してやってください」


「ヒューマノイド……? そうか、その鉄腕と今の戦い方……。貴方が最近ヤウラを騒がせている噂の子なんだ……。けど、どうして此処に? 私達を迎えにって言ってたけど……」


「その……詳しい話は後にしましょう。貴方の仲間と合流してから説明します」


「そ、そうだった!! 早く行かないと!」



俺達は話を終えるとその場から駆け出した。

通路に倒れているFG型にチラリと欲の気持ちが沸いたが、それを打ち切る。


FG型と戦い、その体格と武装の豊富さが伊達ではないのは分かった。

しかもあの振るわれたブレードは迫田のHAに装備されていたソレと似てもいる。

つまりLG型よりも上位型であり、部品を売れば金になるのだろうが、先を急ぐ身としてはそうは言ってられない。


赤いランプが照らす中、ラビィが悠然と走っていたが、その足を止める。

見れば、通路の奥から二体のFG型が此方に向かってきていた。



「あれは既に攻撃モードになっています! 恐らく、先程のFG型が周囲のFG型に攻撃された事を通信したのでしょう」


「奇襲は無理か……! 二人とも、こっちに!!」



言いながら、俺は通路にあった通路のドアを無造作に蹴り飛ばした。

ラビィは素早く部屋の中へと退避したが、長身のお姉さんは呆然としている。

俺は堪らず彼女の腕を掴みとって持ち上げ、肩に乗せる様にして中に滑り込む。


直後、外の通路を銃弾が飛び去っていく。

俺はお姉さんを床に置き、M5を構えながらラビィに命令する。



「ラビィ!! 入り口にきた所を狙え! 中に入れるな!! 隙を作ってくれれば俺がやる!!」


「了解です」



今のラビィに持たせている装備はYF-6とMGL64だ。

Y-M20の12ゲージではFG型の装甲を貫くのは難しいとの事で置いてきた。

だが、今一番の貫通力を有する武器は俺が持つM5である為、彼女には援護をお願いする。


部屋の中はボロボロになった資材しかなく、陰とした雰囲気が漂っていた。

コンテナや機械類は無く、身を隠す場所はない。


しかし、それは此方としても望む所だ。

普通なら射撃戦では機械である奴等が圧倒的に有利だが、此方にはM5とラビィが居るのだ。

さっさと短期決戦で仕留めるのが吉だろう。



「わ、私は何を……」


「ぇ!? あー……とりあえず部屋の隅で待機して、俺達に任せて下さい!!」


「ぇえ!? …………わ、分かったわ……」



特に思い付かなかったのでそう指示すると、素直に従って部屋の隅に行ったお姉さんは待機する。


邪魔者扱いしては彼女には悪いが、見知らぬ人と即席で連携が取れるとも思えん。



「沿矢様!! 来ました!」



ラビィが言うと同時にFG型が入り口に現れた、入り口が狭い為に一機ずつしか入れない様だ。


その最初の一機が中に入り込みながら右腕を振り翳してカバーを開いた瞬間、ラビィがYF-6の銃弾を叩き込む。


すると爆竹が連続で爆ぜた様な音が響き渡り、FG型の右腕が大きくダメージを受ける。

その隙を狙って引き金を引くと、M5が大音量と眩い光と共に銃弾を吐き出す。

俺の体感能力の向上で狙いは容易に定める事が出来、AIがある胴体付近に全弾が着弾する。


対無人兵器用として用意した装備だ、ガードの装甲ごとき紙切れの様に粉砕した。

その破壊力はFG型を部屋の前にある壁まで吹き飛ばし、その背後のフロアの壁も損傷させる。

FG型のバイザーから光が消え、倒れこみ。これで残りは一機となった。


そのまま警戒してM5を構え続けるが、後続が姿を見せない。



「……? 後の一機が入ってこないぞ」


「どうやらM5の火力を警戒してますね。部屋の外で待機してます。このままでは周囲の機体が応援として呼ばれる恐れがあります」


「マジかよ!? クソ、前に出る!!」


「気を付けて下さい!」



てっきりガードなんて無鉄砲に突っ込んでくるだけと思っていた。

しかし、型のグレードが上昇にするに従ってAIの判断力も向上するらしい。


応援なんぞ呼ばれては堪らないと、俺は集中しながら部屋からそっと顔を出そうとして――



「伏せて下さい!!」


「うぉ!!」



ラビィの警告を受け、俺は素直にそれに従った。

すると俺の首があったその位置が、既にブレードで薙ぎ払われているのが風切り音で分かる。


無論、振るったのはFG型だ。

奴は続けてブレードを振るい、後ずさった俺を追って一気に部屋の中に攻め込んでくる。



「この芋野朗が!! ラビィ、パス!! こいつは俺がやる!!」



言うと、返事を待たずにM5をラビィに向けて放り投げる。

俺はそのまま奴が振るうブレードを回避しながら、隙を見て背後のシャベルを抜いた。


奴の大きさとそのブレードを見て、思わず迫田と戦った時を思い出して口角の端を持ち上げる。


しかし、あの時とは違って恐怖は無い。

俺はシャベルを構えると床を蹴り、一直線に突撃した。



「沿矢様!」


「大丈夫!!」



FG型は一歩を踏み込むと突きを放ち、ブレードがカウンターの形で迫ってくる。

ラビィの心配する声に答えつつ、俺はそれを鼻先で回避してシャベルを突き返した。


シャベルは寸分違わずに胴体に突き刺さり、相手を貫いた勢いをそのままに俺は奴を押して通路に叩き出した。通路に出ると同時に向かいの壁に叩きつけ、シャベルが壊れるのも構わずに無理矢理に押し込んで奴を壁に突き刺す。そのまま動きを封じた所に間近で左拳を胴体に叩き込み、相手の背後にあるフロアの壁を穿つ勢いで相手の胴体ごとAIを破壊し、二機目も仕留めた。



「三機目が高速で接近中、注意してください!!」



二機目はその攻撃で沈黙。

だがラビィの警告通り、応援で呼ばれたであろう三機目が通路の奥から迫ってくる。

俺は突き刺したシャベルを放棄、二つ目のシャベルを左手で引き抜いて逆手に持ち、ホルスターのDFを右手で引き抜きながら走り出した。


俺が走り出すとFG型は右腕を此方へと向ける。

そのカバーが開いた所を狙い、俺はDF構えようとして――止めた。



「試してみるか……」



俺は其処で集中を高めながら脚を止め、DFを仕舞って相手の攻撃をあえて待った。

すると当然、弾が発射される。


まずマズルフラッシュが見え、銃弾が幾重にも飛んでくるのが確かに確認できた。

しかし、その動きは羽虫が宙を飛ぶ様に穏やかな速度であり、余裕で回避できる程の物でしかない。


先程、あの女の人を助ける際には大袈裟に回避しすぎてしまい、無駄な動きが多かった。

しかし、今は体を最小限に動かしながら前に進んで攻撃を凌ぎ、接近を試みる。

ガードは俺の動きに反応しきれていないのか、細かく腕を動かすも、その狙いは精細を欠き始めていた。


体を逸らし、曲げ、屈み、慣れてくると顔だけを動かして銃弾を回避し、間近を過ぎる弾丸の動きを横目で見る事もできた。


そうこうして居る内に、俺は何時の間にか接近戦が可能な距離に潜り込む事に成功している。



「っと!!」



しかし、流石は機械と言うべきか。

FG型は慌てずに左腕を振るいながらブレードを展開し、此方の意表を突くかの様な行動を取る。


だが、生憎と俺にはそれも"見えて"いる。

しゃがみ込みながらそれを回避し、逆手に持ったシャベルを腹部に突き立てた。

が、回避しながら放ったそれは威力が控えめであったのか、致命傷にはならず、僅かに相手を押し留める事しかできない。


FG型はそんなダメージも構わずに右膝を突き出す。

俺はシャベルを放棄し、向かってきた右の膝に此方の左肘を上から打ち当てて迎撃する。

その一撃は最高のカウンターとして効果を発揮し、奴の右足を吹き飛ばした。



「――よッ!!」



バランスを崩して倒れてくるFG型の胴体に向けて、右拳のアッパーを一閃! 全力で叩き込む。


するとFG型は容易に吹き飛ばされ、そのまま天井に激突して轟音を放ち、そして落下。そのままオマケに空中で蹴りを叩き込んで吹き飛ばすと、相手は五体をバラバラにしながら通路の奥に消えていく。



「ナイスシュート……!」



小さく呟き、笑みを浮かべた。


やはり、新たに芽生えたこの感覚は並外れている。

銃の命中率の上昇だけではなく、近接戦での恩恵も計り知れない。


そう確信を得ていると、パラパラと破壊された天井から塵が舞い落ちてきた。

まるでそれは勝利を祝う花吹雪の様だ。


そんな余韻に浸っていると、ラビィが背後から素早く駆け寄ってくる。



「沿矢様、無事ですか」


「あぁ、だけど……もうシャベルが駄目っぽい。FG型が堅すぎて、既にボロボロだ」



ラビィからM5を受け取りつつ通路を戻り、部屋の前まで来るとFG型から突き刺したシャベルを引き抜いた。


俺の膂力で無理矢理に突き刺したのだ、当然ながらそうなる。

ただ、ブレード持ちと戦うなら間合いが大事なのだが……。


と、其処で俺は倒した二機のブレードを視界に入れ、ある事を思い付き、シャベルを放棄。

嬉々とした表情を隠さずに俺は奴等の左腕をもぎ取り、腕ごと両手に持ってブレードを翳す。



「どうよこれ!? 使えるんじゃないか!? 少し持ち難いのが難点だが……」


「そのブレードは高速で振動して対象物を切り裂く、高周波ブレードです。電気が供給されなければ、本来の機能は発揮されません」


「ぐっ……そうなの? でもまぁ、シャベルよりかはマシだろ……」



こいつ等の装甲は見た目通りに厚い、シャベルでは使い捨ての武器にしからならない。

だが、幾ら装甲が厚くても俺の膂力なら間合いに入れば一撃で仕留められる。

M5の弾薬費もタダではない、できれば接近戦を主体に戦いたい所だ。

特に今回は探索目的でもない為、奴等を漁る時間すら無いから戦うだけ損である。



「す、凄い。三機のFG型を、こんなにアッサリ倒すなんて……」



部屋から出てきたお姉さんはそう呟いて驚きを表す。

俺は褒められた嬉しさよりも、焦燥感のが強くて彼女を急かした。



「どうもです! それじゃあ早く仲間の所へ向かいましょう! ラビィ、頼む」


「了解しました」


「そ、そうね。早くしないと……」



再び走り出し、俺達は通路をひた走る。

その後は接敵せず、運良く目的の場所まで一気に近付いていく事ができた。

暫くするとお姉さんは周囲を見回し、歓喜の声を上げる。



「ここ、見覚えがあるわ! もうすぐよ!」


「そうですか!! よかった……」



これで後は彼女とその仲間達に事情を話して戻るだけだ。


とは言え、上手く説得できるかな……。

ベースキャンプでも他の同業者に同じ事をしたが、反応が鈍かったからな。

来てから二日後にすぐ撤退と言うのは、確かに仕事として来た人達としては最悪だろう。


そもそも今回の件では俺達組合所に属する者は完全にボランティアで動いてるだけなのだ。

メリットがあるのは新たな定住の地に行くテラノの人達、数百人規模の収入と労働力を手にするヤウラ市、そしてその支援で宣伝となるフィブリル商会。


その事で他の同僚に迷惑を掛けるのは気が引けるが、数百人の命運が掛かってるのならば押し通すしかない。さっき知ったが俺は問題児とか呼ばれてるらしいし、今更失う名声も無い。クラスもG-だしどうでもいいわ。


そんな事を考えながら走っていると、お姉さんが驚きの声を上げる。



「ツインズが通路に居ない……!? まさか、私を置いて撤退した……?!」


「撤退……? いや、そんな……」



ラビィが真っ直ぐに此処へ来たのならば、彼等は間違いなく此処に居る筈だろう。

そう思いながら走っていると、ラビィがとある部屋の前で立ち止まり、此方を向いて合図を送る。

俺とお姉さんはその部屋の前で止まり、呼吸を整えながら足を踏み入れた。


中は警報ランプの赤い光で照らされ、閑散としている。

しかし、テントや本、ランタン、寝袋等が散らばっており、誰かが居た形跡は確かに残っていた。

それ所か武器ですら丁寧に床に置かれて……って、まさか!



「まさか、彼等は降伏したのか……?」


「……そんな、私の所為だわ。きっと私が居なかったから、どうするかで迷って……そしてFG型に発見されて……あぁ!」



お姉さんは構えていたYF-6を落とし、口を両手で押さえてショックを表した。

俺はそれを気まずそうに見守りつつも、ラビィに話し掛ける。



「ラビィ、どうして此処へ? さっきは彼等の居場所が分かるって……」


「いいえ、正確には彼女の仲間が"居た"場所は分かりますと答えました。あの時は既に彼等の反応はラビィのセンサーから消えてましたので、最後に滞在していた場所をマークしてました」


「そ、そうだったか? なぁ、此処から彼女の仲間達の反応はキャッチできるか?」


「いいえ……。ですが、彼等が最後に向かった方向はエレベーターがある方面です。恐らく収監される階層へ連行されたのでしょう」


「収監される階層って確か……さっきの放送では十階って言ってたよな? 此処から三階も下か……」



これは参った、ただでさえ時間が無いってのに……。


内心の焦りを抑えつつ、俺は跪いているお姉さんに近寄った。

彼女は涙を次々と零しながら、謝罪の言葉を小さく口にしている。



「ごめん、ごめんなさい。私の所為で……私の所為だ……皆ッ…………ぁあ」



とても仲の良いチームだったのだろうか、彼女の狼狽振りは見てて痛ましい

だから思わずと言った具合で俺はM5を床に腰を下ろすと、彼女の肩を軽く叩いて慰める様にする。



「あの、大丈夫ですか?」



彼女は一瞬体を震わせると、涙目を浮かべながら此方を向く。



「お願い……が、あります。どうか……どうか私と一緒に仲間を……」



その先の言葉が何なのか、言われなくても分かる。

だが、彼女はそれ以上を口に出来ず、口篭って唇を噛み締める様にした。

自身のお願いが無茶だと気付き、それを寸前で躊躇ったのだろうか。


だから、俺が代わりにその後の言葉を紡いだ。



「えぇ、彼等を助けましょう。それが俺の目的でもありますから」



どっちにしろ、俺はヤウラから来たスカベンジャーを撤収させる為に此処まで来たのだ。

捕まってる場所も予測できてるし、そう焦る必要も無い。



「え、ぁ……? ほ、本当に協力してくれるの?」


「はい。とは言え、まずはフロアの警戒が止むまでは此処で待機しましょう。その間に俺が此処へ来た理由をお話ししますよ」



とりあえず、今夜も長い夜になりそうだ。

俺はそう覚悟を決め、唖然とするお姉さんの前に腰を下ろした。




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