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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
83/105

開戦



「あれがホテルかぁ……。さて、どうやって中に潜入すっかね」


「あぁ? ……テメェがさっきみたく入り口の見張り共をぶっ飛ばせばいいだけだろ?」


「潜入っつてんだろ。お前の言ってる事をやったら開戦しちまうよ」



コープの提案に対し、俺はそうツッコミを入れる。


田辺さん達と別れた俺達は、ようやく目標であるホテルへと辿り着いた。

しかし、やはり入り口には見張りが居て、時折中を巡回する人影も見える。

更に物陰から様子を伺っていると、偶に無線機で交信しているのも確認できてしまう。



「おいおい、厳重だな。……けど、俺達の捕まってた所に居た奴等はあんなの持ってなかったよな?」


「……人質がどうとか言ってたが、やっぱ男は何かあれば直に殺すつもりだったんじゃねぇか? テラノ住民の男連中を軒並み殺してる奴等だ、躊躇する理由がねぇ」


「クソが、反吐が出るぜ。連れてった奴等に何かしてたらただじゃおかねぇぞ!」



と、チームラウルが仲良く話すのを尻目に俺は黙ってホテルの監視を続ける。

そのまま良いアイデアが浮かぶ事もなく、何分か過ぎてしまうと自然と焦りが浮かび始めていた。



「うーん、マジで強行突撃しかないか? あぁ、けど藤宮さん達が人質に取られたら……」



無理に押し入って、女性陣の命を盾にされたら俺にはどうしようもない。

ラビィが近くに居るとは思うが、個別に監禁されている恐れもある。



「さっきの奴等の話じゃ、マックスも此処に居るらしいからな。女達を助けたら、奴もどうにかしねぇと子供を盾にされる」


「わぁってる……。最悪、奴を殺してもラビィさえ居ればセンサーで子供達を見つける事もできるだろうが……。何があるか分からないし、奴の殺害はなるべく避けたい」



ホテルの警備がこうして厳重である以上、マックスが此処に居ると言う話は嘘ではないだろう。


女性陣は上層に連れられてるとの話ではあるが、何階に居るかまでは聞き出せなかった。

無法者達も彼方此方から集ってきた輩が多く、さっきの奴等みたいな新参はホテルの警備には加われないらしい。



「……また無線交信か……ん? おい、木津! 何か様子が変だぞ?」



コープの言葉通り、無線を受けた見張りや歩哨の様子が落ち着かない物となっている。

それと同時に既存の場所から去り、どこぞへと慌しく向かっていく奴等も居た。



「確かに急に慌しくなった……。いや、待て! ラビィが動いたか? だとしたら、こうしちゃいられない」



任せると指示を出した以上、ラビィが大人しくしている筈がない。

きっと監禁場所から脱出したか、交戦状態に入った恐れがある。


俺は先程奪った無法者達のハンドガンを握り締め、物陰から飛び出す準備をする。



「い、行くのか?」


「それしかない。ラビィがヒューマノイドだからと言って、全ての危険を無条件で打破できるとは限らない」


「木津、戦闘になったらお前が頼りだ。俺達もできるだけ戦うが、まともにやりあえば全滅するのは目に見えてる」



コープ達も装備を整えてはいるが、万全ではない。

田辺さん達にも銃器を幾つか渡した為、弾約数も心許ないだろう。



「分かってるよ。最悪、俺が死んだら逃げていい。責めはしない」


「へっ、テメェが死んだ時点で俺達もお仕舞いだ。だから精々頑張りやがれ」



コープがそう悪態を吐きながらも、笑みを浮かばせた。

きっと、これが彼なりの気遣いなのだろう。

俺は一つ頷いてみせると腰を深く落とし、飛び出す準備をする。


今現在、ホテル入り口の外に居る見張りは二人。

だが、その二人は無線機から聞こえてくる交信に集中しており、周囲の警戒を疎かにしている。


俺は軽く息を吐き、覚悟を決めて物陰から飛び出した。

両の足に全力を込めた為、背後から地面が欠ける様な音が聞こえる。

しかし、それも両耳に飛び込んでくる風切り音に閉ざされ、視界は既に目標の見張り二人を間近まで捉えていた。



『! ガキがフロアを出て……!』


「な、何だ……ッぶ!!」



無線機を聞いて油断していた一人に接近すると同時に右肘を腹に叩き込み、相手をホテル内部に叩き込む。 ガラス戸を突き破り、奥の壁に激突した相手は口から大きく吐血して倒れこんだ。



「ぁ? は!? 待ッ……!」



何事かと戸惑うもう一人の見張りに対しては、奪ったハンドガンで頭を撃ちぬく。

これで開戦だ、もう後戻りはできない。


コープ達の到着を待たず、俺は内部に入り込む。

中のエントランスは広く、中に居た男達は吹き飛ばされた男と俺を交互に確認し、驚きを露にしていた。



「て、テメェ! 何者だ!!」


「――ッ!」



返事はせず、ハンドガンを撃ちながら全力で両足に力を込めて突貫する。

牽制目的で撃った弾は当たらなかったが、その攻撃に慌てふためいた奴等に容易に接近できた。



「ごっ……」



近づくと同時に右の拳を振りぬき、誰かの頭を容易に打ち砕く。

左腕を薙ぎ払う様に叩き付け、その隣りに居たもう一人を吹き飛ばす。

吹き飛ばされた男が他の誰かに当たり、その誰かが倒れると軽くジャンプする様にして近づき、驚愕で目を見開いた男の顔面を容赦なく踏み砕いた。



「う、うわ!? な、何だこいつ! どうなってやがる!!」


「義体野朗か!? 撃て、撃つッが……?!」



と、其処でようやくコープ達が入り口にたどり着いて援護の銃撃を開始。

俺に注目していた数人がそれに対応できず、倒されていく。

その銃弾の雨の中、俺は混乱を利用して一人ずつ接近して始末するか、ハンドガンで打ち抜いていく。



「クソ!! どうなってやがる!! こいつ等は何なんだ!!」


「ガキだ!! ガキを狙え!! アイツはやべぇ!!」



エントランスに各通路から増援が雪崩れ込んでくる。

俺は近くの壁を打ち破り、銃撃を回避しながら別の部屋に退避した。

昔のホテル関係者が使っていたであろう事務所を通り抜け、銃撃音を頼りにまた壁を打ち破り、一人で居た無法者の間近に出る。



「ひぁ! ま、待て! 殺さ……」



腰を抜かして地面に倒れこみ命乞いをする相手の言葉を無視し、俺は蹴りを顔面に打ち込んで黙らせた。


直後、また銃撃が此方へと向けられたが、俺は直に別の壁を打ち壊して退避する。



『くそ!! 何処から来るかわかんねーぞ!!』


『散らばれ、壁から離れて散らばるんだ!! 数を利用してあいつ等を追い詰ぶっ』


『一人やられた!! 入り口の奴等も無視できねぇ! 下手に移動できねぇよ!!』



相手側の混乱は酷く、統率が取れていない。

俺はどこぞの部屋に飾られていた変なポーズを構える男性の彫像を見つけ、それを抱えて壁を打ち破る。



「こ、コイツ!!」


「何を持ってやがんだ!?」



突然現れた俺に驚く無法者達が四人。

それに対し、俺は手にした彫像を振り回して挨拶として答えてみせる。

すると瞬時に"血煙"が周囲に散り、その四人は直にエントランス内に"バラバラ"になって吹き飛んでいく。



「う、嘘だろぉ……?」



振り回し終えると、真っ白だった彫像は紅く染められており、部位の彼方此方が崩壊して素敵な奇怪オブジェへと変貌していた。



「嘘じゃないんだなぁ、これがッ!」



怯える敵に向かって俺は気楽に笑い掛け、その相手の隙を突いて彫像を真上から叩き付けた。

その一撃で遂に彫像は砕けたが、お陰で敵方に恐怖を植え付ける事には成功したみたいである。



「だ、駄目だ!! 化け物だ! かないっこねぇ、俺は逃げるぞ!!」


「待てよ! 逃げてどうするんだ、オイ!」


「お、俺も行く! あんなの相手してられっかよ!!」



流石に仲間を一瞬にしてミンチにされた絵は堪えたのか、無法者達の士気が一気に崩壊し始める。


だからと言って容赦する筈もなく、俺とコープ達は逃げ惑う残党を追いかけて全員始末しに掛かる。



「ま、待ってくれよ。な? ほら、武器はもう捨てッ……」


「うるせぇ、黙ってろ」



追い詰められ、武器を放棄した男に向かってコープが止めを刺す。

今の状態で捕虜を確保している余裕はない。

非道だが、それが正しいだろう。



「一階は確保したか。これでマックスの逃げ場はねぇぞ!」


「おう、後は倉庫を制圧した奴等が援護に来てくれれば安泰だ」


「木津! どうする? お前はお嬢様達を助けに向かうんだろ?」


「勿論、とりあえずラビィと合流できれば……何だ!?」



突如、一階に轟音が響き渡った。

俺とコープ達は警戒を厳にしつつ、音のした方向に向かう。

辿り着いた場所は複数の発着場が並ぶエレベーターフロア。

その内の一つの扉の隙間から、粉塵が僅かに漏れ出ていた。



「何だ、何かが落ちてきたのか?」


「だと思うが……」



銃を構えつつ、俺達は警戒しながらその扉に近づいていく。

視線を交わし、その扉に手を沿えて開けようと手を伸ばす。

すると次の瞬間、俺はその扉ごと反対側の扉まで弾き飛ばされた!!



「木津ッ?! な、何だこいつ!?」


『あぁ? テメェ等こそ何だ? 何で銃を向けてやがる』



咄嗟に扉を手で弾き飛ばし、立ち上がって驚愕する。


白と黒で彩られた人型の機械、それがフロアへと浸入してきていた。

しかも、その背中からは異形の腕がもう二本生えており、特殊なタイプである事を匂わせる。言葉を話している事から推測すると、あれは百式の様な機械ではなく、恐らく迫田の様なHA装着者であろう。



『……あー? 何だ、どいつもこいつも倒れてやがる。……待てよ、お前らがやったのか? 見た事ねぇ顔だし、多分そうだろ?』



HA装着者は異形の二本腕を周囲に向けながら、自身の腕は前で組んで頭を捻りつつそう話し掛けてくる。


俺は一歩前に踏み出しながら、コープ達に向かって口を開く。



「コープ、先に行け。ラビィ達を頼むな、コイツは明らかに俺向けの相手だろ」


「木津……。いや、分かった。お前に任せる! いくぞ、お前等!」


『いやいや、答えろよ。何無視してんだ……よっ!』



異形の腕がコープ達に向かって放たれる。

しかし、俺は瞬時に床を蹴ってその間に入り、それをガードして見せる。

ガードした腕に走る衝撃は重かったが、ダメージは入らない。


しかし、ガードした際に発せられた衝撃と音は凄まじかった。

それ故か、背後からコープの気遣う声が飛んできた。



「木津!! 大丈夫か!?」


「平気だよ!! さっさと行け! 貸しだからなぁ!」


「へっ、勝手に言ってろ!!」



コープ達の立ち去る足音が遠ざかる。

そのまま暫く腕を交差したまま互いに膠着し、出方を見計らっていると、相手の口から溜め息混じりで思わぬ言葉が飛び出てきた。



『おいおい……お前もビックリ人間か? "あの女"といい、何なんだよマジで』


「……――ぁ?」



その言葉を聞いた瞬間、脳が沸騰したかの様な怒りを覚えた。

俺は奴の背中から伸ばされていた異形の左腕を右手で掴み、それを引っ張って相手を引き寄せた、すると容易に蹈鞴を踏みながら相手が此方に向かって倒れこんでくる。



「じゃあな」



倒れこんでくる相手に向かってそう告げ、左手を打ち上げる。

しかし、何かが噴出す音と同時に俺の右手は重みを失い、打ち上げた左手は風切り音を伴いながら空を切っていた。



『……冗談だろ? 数百キロもあるこの機械を力任せに引っ張るとか、有り得ないだろ』


「…………腕を切り離すとか新種のトカゲかよ? 大人しく殴られてろ」



掴んでいた異形の腕は、何時の間にか奴の背中から切り離されていた。

その背中からは、圧縮した空気が抜ける様に白い煙が立ち上っている。

どうやら瞬間的に部位を切り離して俺の拘束から抜け出し、体を捻って攻撃を回避したらしい。

迫田の着ていたHAの様に各部位は緊急的に取り外しが可能なのだろうが、俺は驚きを隠せなかった。


今の一瞬でその様な切り返しと判断ができたなんて、並大抵の反射速度ではない。

警戒心を高めつつ距離を詰めようとするが、相手はそれを避ける様に後方に下がっていく。



『……お前も随分と楽しめそうだが、さっきのお姉さんとも決着をつけなきゃなんねぇ。だから――!』


「ッ!!」



俺は咄嗟に床を蹴って奴に近づき、左拳を打ち込んだ。

しかし、それも空を切る。

そして奴は後方へと飛び退きながら、何時の間にか腰から取り出した大口径の銃を向けていた。



『悪いなぁ!! これでお仕舞いだッ!』


「なめん、な!!」



強く波打つ鼓動と背中に走る悪寒を無視し、俺は咄嗟に右手に持っていた異形の腕を投げた。

するとそれが銃口付近に当たり、放たれた銃弾が跳弾して奴の持っていた銃のバレルを破壊する。



『あぁ!? んだよ、使えねぇな!!』



奴は苛つきを隠さず、持っていた銃を床に叩き付けてストレスを発散させる。

俺は奴に歩み寄りながら両手を前に出し、構えを取りながら口上を述べた。



「大層な着ぐるみ着てんのに銃なんかに頼るなよ。それともアレか? 俺が怖いんか? ぉ?」


『ガキが……どうやら痛め付けられて死にてぇみてぇだな』


「どーせ此処で俺が命乞いしても、無残に殺すタイプだろうが」


『へへっ、まさか! 俺は紳士だぜぇ? それに……そんなに返り血を浴びてるお前が言えた事か?』



確かに、今の俺は先程の戦闘で無法者達の血を大量に浴びていた。

参ったと言わんばかりに一つ笑って見せ、俺は奴に答える。



「そうだな、言い訳はしないよ。俺はアンタの仲間を殺した。そして今からアンタも殺す。だから――さっさと構えろ」



俺の宣戦布告を受け、相手は僅かに声を詰まらせた。



『ッ……ガキの癖になんつー表情を見せやがる……。まぁいい、相手してやるよ』



奴はそう言い切ると、ゆっくりと構えを取る。


不思議と、頭は冷えていた。

これから間違いなくどちらかが死ぬと言うのに、そこに恐怖はない。


怖いのは、ラビィ達を救えない事。

だから、負けられない。

その過程で何人、何十人と殺す事になろうが、俺は構わない。



『っらぁ!! いくぞぉ!!』



先制はあっちからだった。

奴は大きく三本の腕を振りかぶり、突撃してくる。

それに対し、俺は大きく腰を落として迎撃の構えを取った。


まずは相手の右腕が振るわれ、それを左腕を持ち上げてガードする。

すぐさまカウンターの形で右拳を突き出したが、それを相手は屈んで回避し、異形の腕を器用に使って顔面を上から殴られた。



「ッ!」



構わず、屈んでいた奴の顔面に向かって左の膝を打ち上げる。

が、これもスルリと回避されてしまい、右の脇腹に奴の鉤付きが決まってしまう。



「くふっ……!」



ダメージはそうでもないが、反射的に息が零れた。

まずは当てる事を最優先とし、薙ぎ払う様に右のフックを放つも、それも紙一重で後方に下がる事で避けられた。



「素早いなッ?!」



追い討ち気味に体を回転させながら前に出て左の裏拳も放つが、それも紙一重に回避された。

奴はそのままするりと後方に抜け出し、そこで動きを止めて話しかけてくる。



『……三発だ、三発当てたんだぞ! 普通ならもう戦闘不能か、下手すれば死んでるってのに、どうなってんだお前ぇ?』


「たった三発、の間違いだろ? 全然痛くも痒くもないぜ」



問題は攻撃を当てられない事だ。

確かに奴のHAは全部金属でできていた迫田のHAとは違い、変なピッチリスーツと装甲が組み合わさって出来ている。


その細身さ故に攻撃速度、移動速度も素早いのは納得できる。

だが、ダメージ上等で攻撃を受けてカウンターを放ったにも関わらず、攻撃を回避されるとは思わなかった。


あの百式ですら、密着した状態では僅かに攻撃が掠っていたんだぞ……?

これは何かがオカシイと疑問を覚えたが、その答えまでは見つける事はできない。



『ったく、口の減らないガキだ!』



奴がそう吼えると同時に、その異形の腕が伸びてきた。

俺はギリギリまでそれを引き付け、それが着弾する間近に左の肘を上げて迎撃しダメージを与えようと試みたが、それは直前で止まった。



「これも駄目なのかよ……ッ!?」



呆然としてしまう俺の顔面に、右のストレートが入った。

視界を一瞬阻まれて後方に下がってしまうが、奴が追撃に入るのは分かっている。

今度は大きく踏み込んできたであろう奴に向かって、ノーモーションで前蹴りを放つ。



『がっ!?』



ようやく、攻撃が当たった。

奴は大きく後方に吹き飛ばされ、近くの壁を破壊しながら奥に消えていく。


反射的に放った蹴りだったが、それが功を成した様だ。

俺は急いで後を追い、その壁に出来た穴を潜って飛び込んだ。



『おらぁ!!』


「ッ!]



飛び込んだ直後、穴の近くで待ち構えていた相手のアッパーが腹部に突き刺さる。

天井に背中を打ち、落ちてくる俺に向かって今度は蹴りが放たれた。

咄嗟に腕をクロスしてガードをするが、その衝撃までは殺せずに吹き飛ばされる。


飛び込んだ部屋はロッカールームだった様で、それ等を薙ぎ倒しながら壁の端まで飛ばされた。

何とか体勢を立て直そうとした所に、奴は飛び掛る様にして真上からロッカーを振り下ろしてくる。



『おらおらおらあ!! 死ね、死ね、しね! シネよ!!』



何度も叩き付けられ、ロッカーが変形して尖った部分ができてくる。

武鮫を装備していた何時もの癖で左腕を使って防御をしようとして、尖った部分が掠って血が舞った。



『ぁ? 何だ、そういう事か!? へへっ、テメェの弱点はそれかぁ!?』


「誰だって刺されば死ぬっつーの!!」



一瞬戸惑った奴の隙を突き、俺は地面に滑らせる様にして水面蹴りを放つ。

それが見事に決まって奴が転倒すると、今度は俺が近くのロッカーを担いでそれを振り下ろす。


一撃、二撃、三撃、四撃、五撃!

何度も振るい、ロッカーを突き立てる様にする。

しかし、地面に倒れた状態ですら奴は器用に体を捻り、曲げ、転がってそれを回避していく。



「気持ち悪い動きしてんじゃねー……よっ!!」



俺は堪らず右足を振り上げ、奴に向かって叩き付ける様にして踵を振り下ろす。

それも回避され、放った右足は床を打ち砕いて僅かに埋まってしまう。


しかし、"それでいい"。


俺は埋まった右足を無理矢理に動かし、床ごと蹴り上げて奴の死角から胴体を蹴り上げた。



『グッ!! こ、この野朗!!』



空中に浮き上がってしまえば、もう回避はできまい。

俺は瞬時に全力を込めて右腕を振るい、奴の胴体に拳を放つ!!



『がああああああああああああ!』



全力で放った拳で部屋の中に暴風が吹き荒れ、奴の前面の装甲を僅かに打ち砕いた感触が伝わり、破片が散らばった。苦悶の声を上げながら相手は吹き飛ばされ、ロッカールームの壁を破壊しながら別の空間に消えていく。



「はぁ、はぁ~……マジでキツイ」



一旦、そこで腰を下ろして休憩する。

ここまで交戦し、与えた攻撃は僅かに三発……。いや、蹴り上げた分を含めると四発か?


しかし、先程の渾身の一撃は装甲にダメージを与えはしたと思うが、その下にあったスーツ部分までは貫通できてはいない。


つまり、まだ致命傷を与えてはいないのだ。



「くそ……何で奴はああも……」



俺だって、戦闘に自信があるとは胸を張って言えない。

しかし、こうも攻撃を回避され、逆に良い様に攻撃を当てられるとは思いもしなかった。


あのHAが余程凄いのだろうか? それとも使用者が凄腕なのか?

馬鹿な、ノーラさんみたいな凄腕がそこ等辺をウロウロしてて堪るか。


だが、こうして現実に俺は苦戦しているのだ。

相手が無法者だからと言って油断せず、今交戦した相手の実力の高さを強く認識し、更に警戒した方がいいかもしれない。



「……そろそろ行きますか」



考察も程ほどにし、覚悟を決めて立ち上がる。

その際に、床に散らばった装甲の破片が目に入り、俺は瞼を細めた。






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