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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
82/105

ゾルダート



「藤宮、貴方達は暫く十階で待機してください。まず私だけで十一階での敵兵との戦闘を試みます」


「え!? ど、どうしてですか!? 私達もサポートぐらいはできますよ!」



ラビィの指示に藤宮は反発し、タルパーを掲げて戦意を覗かせる。

しかし、対するラビィはメアを一瞥し、それに否定の意を返す。



「微力とは言え、貴方達のサポートが受けられるなら私もそうします。ですが、メアを連れ回したまま動けば此方の位置が随時向こう側に知られてしまうのです。かと言って、彼女を置いていく事など、貴方達は了承しないのでしょう?」


「そ、れは……そうですけど」


「……」



藤宮が言葉を詰まらせ、顔を伏せる。

それを受けて、メアは罪悪感で表情を曇らせた。

しかし、此処で『自分を置いていけ』等と言える強さと気力は、既に今の彼女には残っていなかった。


ラビィはフィブリルに預けていたタルパーを受け取ると、続けて指示を出す。



「先程までツーマンセルだった歩哨が合流し、フォーマンセルに移行した為、これまでの様に暗殺での排除は無理でしょう。恐らく……いえ、必ず戦闘になります。銃撃音がしたら貴方達も来て下さい。戦闘になれば恐らく無線指示で敵兵の大半が貴方達を追うでしょう、私は単独で動いてそれ等を急襲して数を減らします」


「わ、分かりました。フル……いえ、ラビィさん! ご武運を!」


「貴方達は生き残る事を何よりも優先して下さい。無理な戦闘は避ける様に……それでは」



そう告げると、ラビィは階段を上がっていく。


今現在、九階の異常を察知して向かってくる増援は下層からであった。

それは恐らく、藤宮達が監禁された位置を考えるに、上層の警戒度が下層より高いからだ。

だが、今上層に残る巡回班は十一階と十二階のみ。


下層全体の歩哨を撃破するよりも、上層に残った歩哨の排除を優先するのは、この状況下において理に叶っていた。



『九階で異常があったみてーだな。何だろうな?』


『さぁな、多分だが、あのガキに手を出そうとして逃げられたとかじゃないのか? しかも銃でも奪われてよ』


『ははっ、そこまでやらかしてたらマックスに殺されるな。ヘマした奴は』



十一階に辿り着いたラビィは、フロアに繋がる扉の前で歩哨の会話を捉える。

会話の内容を聞くと、あくまで深刻な状況とは捉えられていないらしい。



「お粗末な警戒ですね……。ですが、それでいい」



無法者達の危機感の無さ、それが今のラビィには有難かった。

懐からナイフを取り出しつつ、遂に彼女は十一階のフロアに侵入する。


この階層に存在する歩哨は十二人、それ等がフォーマンセルで動いているので班は三つ。

その内の一つは急襲で問題なく排除できる自信があるので、実質的な脅威は八人になるとラビィは認識する。


ラビィは目星を付けた班の一つを追い、その通路を覗き込む。

すると歩哨は縦二列、横二列での行進でフロアを進んでいくのが見えた。

通路の広さ的にはそれで正しいのだが、その位置関係では一度の攻撃で同時に目標を始末できない。



「……交戦を開始します」



呟き、ナイフを両手で投擲する。

それと同時にスリングで下げていたタルパーを構えた。


ナイフの軌道は後ろを歩く男達の頭部。

それがほぼ同時に突き刺さると、男達は前のめりで倒れこむ。

当然、前を歩いていた二名は驚きで背後を振り返る。

たが、男達が異常を完全に感知する前にその額に銃弾を叩き込まれ、沈黙した。


けれども、フロアに響き渡った二発の銃声は隠せない。

ラビィは無線機の電源を入れ、混乱を見せる敵方の様子を伺う。



『此方、十一階の巡回班! 銃声がしたぞ! 何が起きた!? 異常は九階で起きたんじゃなかったのか?!』


『此方は警備室。ガキの位置は今十階だ。十階で交戦してるんじゃねぇのか?』


『馬鹿が!! ガキが移動したならそう伝えろよ!! 使えない奴だな!!』


『馬鹿はテメェだ!! ガキが無線機を使用してたらこっちの行動が筒抜けだろうが!! 何の為に警戒の合図を伝えたと思ってやがる!! ったく、もういい……!! おい、十階の誰か! 答えろ! 何が起きている!! 援護に向かってる奴はまだか!?』



敵の混乱っぷりは実に見事であった。

所詮は無法者、数は居てもその練度までは脅威ではない。

ラビィは今の応答で自身の攻撃がまだ完全に悟られている訳ではないと判断、直に動く。


しかし、次の班は流石に銃を構えて警戒を厳にしていた。

前面の二人は前を、後方の二人は背後を警戒している。


ラビィは自身の姿を見られない様にしながら、静かに待った。

即ち、彼女が何を待っていたかと言うと――。



『! おい、ガキがフロアを出て十一階に向かった! 十一階の巡回班! 階段に向かって奴を捕まえろ!』


『おう、直に向かう! お痛をしたガキには躾が必要だからな』



これだ、銃声を合図に藤宮達が動くその時をラビィは待っていた。


今の無線を受け、後方を警戒していた二人が階段がある方向、前面へと向きを変えて、その場を去ろうとする。


当然ながら、急襲のチャンスだ。


ラビィは曲がり角から姿を現し、タルパーの引き金を強く引いた。

フルオートにも関わらず、その銃弾は目標の殆どに着弾する。

背後に居た二人は反撃する暇も無く倒れ、反撃を試みた前面の二人も銃弾を二、三発程倒れながら撃つ事しかできなかった。


当然ながら、そんな苦し紛れの攻撃がラビィに当たる筈も無い。

ラビィは素早くマグチェンジを行い、再度無線機の電源を入れた。



『おい、また銃声だ!! しかも複数聞こえたぞ!! 敵だ! 敵が侵入してやがる!!』


『落ち着け!! お前は何処の班だ!?』


『十一階、十一階だ!! ガキとは違う、別の敵が既に十一階に居る!!』



混乱した口振りではあったが、最低限の情報を伝えられてしまう。

ラビィは既に隠密行動を取りやめ、全力でフロアを駆けて次の目標へと向かう。



「おい、警備室!! こうなったら、さっさとアイツを寄越し……!」



ラビィは上げていたスピードを落とさず、曲がり角の壁を蹴って通路へと飛び込んだ。

無線機に声を荒げていた男は突如現れた銀髪の乙女に目を奪われ、声を詰まらせた。


直後、空中でラビィが構えたタルパーの火が吹く。

無線機を構えていた男は無線機と共に銃弾に貫かれ、絶命する。

続けて、その隣に立っていた男も横に薙ぎ払われる様に振るわれたタルパーの銃弾を受けて倒れてしまう。


が、其処でラビィのタルパーが弾詰まりを起こす。

ラビィのスピードと、無茶な撃ち方が合わさり、整備も碌にされてなかったタルパーは容易く整備不良を起こした。


しかし、ラビィは予定調和だと言わんばかりにタルパーを迷い無く放棄。

続けて通路に転がる様に着地して懐からナイフを取り出し、流れ作業の様に迷い無く投擲する。



「くっ!」



が、流石に目の前から放たれた攻撃を相手は辛うじて回避――した直後に、続けて放たれていた二本目が頭部に直撃、三人目も沈黙した。



「な、なんだテメェは!?」



そこでようやく、残った四人目が反撃を開始する。

ラビィは近くにあった男の死体を掴み、それを持ち上げて盾にした。

死体は防弾チョッキを纏っている為、それなりの防御力を発揮する。

その間に懐のナイフを手にし、反撃の準備を終える。



「っぶへ」



と、直後に通路の先に居た男が背後から撃たれて倒れた。

その奥の通路には藤宮達が立っており、ラビィと視線が合うと彼女達は安堵の息を零す。



「よかった、ラビィさん! 無事ですか!?」


「問題はありません。この階の歩哨は全て排除しました。残りは……ッ!?」



直後、ラビィのセンサーは過剰な熱量を探知した。

その熱量はこの上、十二階から発せられ始めている。



「これは……! 藤宮! 下に向かいます! 作戦は中止、下層を強行突破します!」


「え? し、下に?」



先程とは違うその指示を受け、藤宮達は混乱する。

そうしている間にも熱量は動きを見せ、自分達の方向へと向かって来ているのだ。

ラビィは説明している間も惜しいと判断し、自身が先導して階段へと向かおうとする。


が、そうはさせじとラビィが向かおうとした通路の上部が崩れ落ち、そこから何かが降りてきた。

その光景を見て、藤宮と里菜は嫌な記憶を思い出す。

即ち、クースの廃病院で起きた悲劇と、今回のそれが似た様な状況だったからだ。

立ち上る煙は直に収まり、降りてきた物体が明確に姿を見せる。


漆黒の流線形頭部にバイザーが備わり、胴体と脚部部分はナノスーツと特殊装甲版が組み合わさり、細身を維持して動きやすさと防御力を共に高めている。胴体の目立つ位置にはナイフの形でキルマークが描かれており、装甲に施されていた煌びやかな白の塗装を台無しにしていた。



「HA-typeD-34:ゾルダート……!! 軍事用HAを所持しているとは、流石に予想外でした」



苦々しくラビィはそう呟いた。


そのHAの最大の特徴は四本の腕を持っている事であった。

特殊なヘルメットを装着し、それが使用者の脳波を読み取って背中から突き出る異形の二本の腕を、まるで自分の腕の様に操る事が可能である機種だ。


ただ、本来は存在しない部位を操作すると言う集中力は高く必要であり、適正者はそう多くは無かった。腕の生えている位置関係の都合で背中の武器マウントスペースも減る為、熟練のHA装着者でなければその真価はまず発揮できない。



『あぁ……? おいおい、ガキどころか今日捕まえた奴等も逃げてるじゃねぇか!! どうなってんだ、こりゃあ』



ゾルダートの装着者は背面から突き出る腕を上手く操作し、ポリポリと後ろ頭を掻く。

自前の両手にはHA装備専用の大型ショットガン『DER-7』を所持しており、それをラビィ達に向けている。



『何? 十階の奴等も逃げてんのかよ!? クソ、だったら生け捕りにしろ!! ガキだけなら殺してよかったが、そいつ等はそうもいかん! 殺したら俺等がマックスに殺される!!』


『へいへい、了解でさぁ。コイツは無しってね』



警備室からの指示を受け、HA装着者はDER-7を背部にある腰付近の磁力マウントに納めた。


ラビィはゆっくりと背後に数歩下がり、床に転がる死体の近くに落ちていたタルパーを拾い上げながら藤宮達に囁く。



『藤宮、貴方達は下層に向かいなさい。ラビィはアレを引き付けます』


『ッ……タルパーでは、やはり倒せないですか?』


『残念ですが、ナノスーツの部分ですら貫通できませんよ。あの装甲に至ってはHB仕様のレイルガンですら突破するのに二発以上は要します』


『そんなのを相手に時間を稼ぐってのかい?! 自殺行為じゃないか!!』


『問答をしている時間はありません。行きなさい、貴方達が離れればラビィも直に退避できます』


『……分かりました』



藤宮は自身の唇を噛み締めながら、苦痛に満ちた声で何とか了承の意を伝える。

しかし、そんな彼女達の動きを察してか、HA装着者は陽気な声で降伏を呼び掛けてきた。



『おっと、逃げようってのかい? 俺はこれでもまだ紳士な方だぜ? 下の奴等に捕まったら、その場で犯されたってオカしくねーぞ。な? 大人しく此処で捕まっておこうや』


「紳士が着るスーツにしては随分と品がないですね。それは脱いだらどうですか? 今ならラビィがお相手しますよ」


『へへっ、参ったな……。アンタみたいな美人にそんな誘いを受けちまうと、股間部がきつくなって困るぜぇ!!』



そう言葉尻を荒げ、HA装着者は突撃してくる。

ラビィは慌てずタルパーを構え、バイザーを狙って引き金を開く。

その目的は相手の撃破ではなく、視界を一時的に奪う為。


真っ直ぐに突撃していたHA装着者はバイザーに着弾する銃弾の雨に一時的に怯み、その動きに精細を欠く。


直後、ラビィは藤宮達に頷いて合図を出し、彼女達はその脇を抜いてHA装着者の背後にある通路へと抜け出た。



『ッち! 行かせるかよ、馬鹿が!!』



HA装着者は咄嗟に背部の腕を動かし、藤宮達に向かって伸ばす。

だが、彼と対峙するはヒューマノイド、そんな彼女がその隙を見逃す筈がない。

タルパーを放棄し、ラビィは素早く接近して両の足に最大の力を込めながら勢いを加速し、ナイフを突き出した。 狙いはヘルメットと胴体の接続部分、その一ミリにも満たない僅かな隙間を狙って繰り出された必殺の一撃。



『ぁ? マジかよ!?』



ナイフが僅かに隙間へとめり込むその音を聞き、HA装着者は焦った声を出す。

そして咄嗟に右腕を下からの軌道で打ち上げ、それがラビィの腹部にカウンターの形で着弾する。


容易に後方へと跳ね上げられ天井を破壊する程の速度で激突すると、ラビィはそのまま強い反動で床に打ち付けられて転がり、その勢いが止まると沈黙した。



『やっちまった……。一番の美人を殺しちまったぞ』



呆然とそう呟き、HA装着者は焦りを覚えた。

恐る恐るラビィへと近づき、見たくない現実を疑う様にその手を伸ばす。



「予定通り、です」


『――ぁ?』



直後、ラビィは跳ね起きてHA装着者の懐に飛び込んだ。

背部を相手の胴体に当て、踏み込む両足に力を入れ、両腕を翳して勢いを増す。

鉄山靠の呼び名が有名だが、正しくは貼山靠と呼ばれるその技。



『っ!! なんだとぉ!?』



その技が見事に発揮され、重さ数百キロのHA装着者を吹き飛ばす。

壁を打ち破り、ホテルの一室に叩き込まれた彼は混乱と驚愕に満ちていた。

なんせ死んだと思った相手が生きており、生きていたと思ったら直後に思わぬ反撃を受けたのだ。


そして、ラビィはそんな混乱に隙を見出し、その後を追って追撃を開始する。

今まさに立ち上がった直後の相手に飛び込み、攻撃を放つ。

左手を正面に真っ直ぐ打ち出し、右手は相手の顔に打ち込む。

その両手突きが決まり、またもや吹き飛ばされたHA装着者は壁を打ち破り、今度は反対側の通路に押し出された。



『何だか知らねぇが、押してるだけじゃ死なねぇぞ!!』



通路に押し出されたHA装着者はそう怒鳴り声を上げ、飛び込んできていたラビィに向かって背面の腕と自身の腕を素早く振るう。


しかし、その四本の腕からの攻撃は空を切り、気付けばラビィは既にその懐に飛び込んでいた。



――また吹き飛ばされる。



そう判断し、両の足に力を入れてHA装着者は衝撃に備えた。

が、今度はそうはならず、ラビィはするりとその場から離れて体勢を立て直す。



『はっ、どうした? 押し合いはお仕舞いか?』


「押してたのはラビィだけですが……。素手ではその装甲は打ち抜けないので、策を弄しました」



言うと、ラビィは片手を上げてピンを見せた。

それを見て、HA装着者は自身の腹部に視線を向けた。

直後、閃光と轟音がフロアを埋め尽くし、ビル全体を僅かに揺れさせる。


爆発したのは圧縮電磁手榴弾だ。

前世界では爆発による破壊より、電気を利用した攻撃が機械に有効だった。

故にと開発されたのが電磁手榴弾だ。


爆発すると同時に電気が放射されるこの型。

暴走機械鎮圧用の低ボルト型から、対兵器用の高ボルト型まで広く開発された。

今ラビィが使用したそれは警察の特殊部隊等で使われた低ボルト型であり、その威力は瞬間的に二百万ボルトまで匹敵する。


無法者の一人が持っていたそれを奪って隠し持っていたのだが、最高の形で使用できたとラビィは自負する。ナノスーツと装甲の隙間に電磁手榴弾を押し込む事ができたのは、不意の奇襲と連続した攻撃で上手く相手の混乱を生み出せたからだろう。



『……やってくれるじゃねぇか。少しビビったぞぉ!!』



しかし、煙が晴れた先に居たHA装着者にダメージは見られない。

装甲とナノスーツに僅かな焦げができている事以外には、以前との違いが見られない。

それでもラビィ・フルトに焦りは浮かばなかった。


何故なら一番の懸念は目の前の男が自分を無視し、藤宮達を追われてしまう事だったからである。


だが、一連の攻撃で完璧に相手は彼女だけに固執した。

で、あれば何も問題はない。

何分、何十分だろうと時間を稼ぐ自信がラビィにはあった。

それは自分の実力もそうだが、一連の流れで相手の動きを容易く見切れる事ができたからに他ならない。



『あんた、只者じゃねぇな。正直、分が悪い気すらするぜ』


「そうですか。ならばどうします? 武器を使用しますか?」


『それもいいが、それじゃ俺の気がすまねぇ。生意気な女は直接叩きのめすに限る』



言うと、HAに備わっていた前面格納スペースが開き、其処から何かが取り出される。


ラビィは瞬時に攻撃を警戒して腰を下ろしたが、HA装着者は構わずに取り出したそれを首元に持っていく、すると首元のソケットが開き、迷い無く其処にそれを差し込んだ。



「ッ! そんな物まで用意していましたか……」


『お? これが何か分かるのかい? へへ、この街を占領してから良い事だらけさ。こんな凄い物は着れるし、こんなに"ハイ"になれる薬だって手に入ったからなぁ!? へへへへへ!!』



HA装着者はそう笑い声を上げ、首に刺していたそれを床へと投げ捨て、首元のソケットを閉じる。


表面に『SB-R』と表示されているソレは、前世界で兵士が使用していたナノマシンの一種だ。


ソルジャーブラッドと呼称されるそれは様々なタイプが存在し、活用された。


ただ、機械による代理戦争に拍車が掛かるとそれ等の開発は徐々に縮小され、やがてその姿を見る事は滅多に無くなった。


しかし、機械が敵となった今の荒廃時代においては自身の身体機能を高める事ができる為、それを求める者が多い。


SBを見つけるには軍事施設か政府施設への探索が必須であり、その場所の攻略難易度と見つかる数の少なさからどれも高値が付く。


一部の例を出して言うなら、目の前のHA装着者が使用したR型は使用者の中枢神経を刺激し、反応速度や体感時間の増幅、更には空間把握能力等の潜在能力を大幅に強化させる。しかも驚くべきなのはその持続時間であり、中枢神経を刺激する物でありながら最大で十分もその状態が続く。


唯一のデメリットは連続した使用ができない事だ。

効果が切れると最低でも三十分の時を待たなければならず、待たずに使用すると中枢神経はナノマシンが放つ刺激に耐えられない。


禁を破ると最悪死ぬか、よくて植物人間の末路しかない。



『へへ、来た来たきたきたきたぁぁぁぁ……! すげぇ、神になった気分だぜ!!』


「……紳士は一体何処にいったのですか?」


『うっせぇ! こちとら盛り上がってんだ、水を差すなよぉおおおおっと!』



第二ラウンドがそうして始まった。

先制はHA装着者の突撃、からの右から放たれたフックの軌道を描く二つの拳。

それを寸前で回避したラビィの長髪がその風圧で揺れる。


続けて、ラビィがカウンターの流れで腰を落として左の肘を胸部に打ち込んだ。

常人が相手なら胸骨が砕けると共に肺を損傷せしめたであろうその打撃も、軍事用HAにはまるで通じない。


僅かに押されるにして蹈鞴を踏むも、直に相手は再度として向かってくる。



『スゲェ! アンタマジでスゲェよ!! これならどうだぁ!?』



右、左、上、上、左上、右下!!

様々な角度から四本の腕が襲い掛かり、ラビィはそれを必死でかわす。

が、相手の上部に注目するあまり、下部からの攻撃に反応が遅れてしまう。



「ッ!!」


『はっはぁ、ビンゴぉ!!』



相手の左足の蹴りが太腿を掠る、ダメージはそうでもない。

けれど、その一撃で体勢を崩した所に右の鉤付きが脇腹に突き刺さる様にして決まり、ラビィは吹き飛ばされて壁に叩き付けられてしまった。



『ん~見事な攻撃だったろぉ?』


「……えぇ、本当に。私を生け捕りにするつもりではなかったのですか? 今の一撃は致命傷に成りえますよ」



事実、ラビィの左腹部は重大な衝撃を受けてダメージが発生し、ナノマシンによる修復が既に始まっていた。


ダメージを受けた部分はあくまで生体部分であり、フレームに異常はない。

しかし、常人ならば今の一撃で内臓を損傷して勝負が決していただろう。



『生け捕り……? あぁ、まぁ……うん。どうでもいいや、後でなんとでも言い訳できんだろ! 今は楽しくて仕方がなくてよぉ!』



そう吼えると、HA装着者は追撃の左突きを放ってくる。

ラビィはそれを前進しながら屈んでかわし、その勢いをそのままに相手の股下を通り抜けて背後へと回る。


外した左突きは壁に突き刺さり、容易にそれを崩壊させた。



『おお、格好いい!まだまだ元気一杯……って、おい!!』



背後を振り返れば、ラビィはその場から走り去ろうとしていた。

HA装着者は冷や水を浴びたかの様に気分が急落し、落胆の声を漏らしながらそれを追いかける。


真っ向からの勝負は不利である事は明白であり、ラビィの思考は既に戦闘での時間稼ぎを諦めた。

しかし、このまま相手を連れて藤宮達の後を追う訳にもいかない。ならば――



『あ? どうした、逃げるんじゃなかったのか?』


「先程までの場所は少し狭く、戦闘行為に向いていませんでした。ここなら十分に戦えます」



ラビィが逃げ込んだ場所はフロアは広々としており、両開きの鉛色の扉が幾つか並んでいる。

彼女の言葉を聞き、HA装着者は周囲を見回して声を弾ませながら構えをとった。



『スゲェ度胸だな……。やべぇよ、俺マジでアンタに惚れたわ。なぁ、どうだ? 俺の女にならねぇか?! マックスとか他の奴等もぶっ殺してさぁ! 二人で好きに生きるってのはどうよ!?』


「ラビィが機能停止するまで共にすると誓ったのはただ一人のみ。その誘いは却下します」


『んだよぉ!! 釣れない……なぁ!!』



先程まで求愛していたにも関わらず、HA装着者が振るった攻撃は大きな風切り音を纏っていた。


ラビィは伸ばされたその腕を寸前で見切り、それを掴んで全力を振り絞る。すると相手の勢いとラビィの膂力が合わさって容易に浮き上がり、HA装着者は鉛色の扉へと叩き付けられた。



『だからよぉ……投げ飛ばしたりするだけじゃ、俺は倒せないっての』



失望したかの様に溜め息を零しつつ、HA装着者は余裕を持って立ち上がる。

対するラビィは大きく腰を落とし、突撃の構えを見せた。



「えぇ、ですから――今から貴方を、"叩き落します"」


「……はぁ? いや、待て! そうか、此処はッ」



ラビィが逃げ込んだ場所、そこを正しく呼称するならエレベーターフロアだった。

先程、HA装着者が叩き付けられた扉はその発着場。

一連の流れと、ラビィの意図に気付いた時には既に遅い。


ラビィはホテルの床が反動で破壊される程のスタートダッシュを決め、真っ向から体当たりする。


HA装着者が咄嗟に取れた行動は全腕を利用した防御のみであり、その防御の構えですら打ち抜く程の衝撃が彼を襲う。


鉛色の扉は容易に破壊され、二人はエレベータシャフトの奥の壁に叩き付けられる程の速度で内部に侵入した。


進行ルート上にあったケーブルは今の衝撃で千切れ、途中にあった箱が下層へと落ちていく。

その後を追うかの様に二人も空中に投げ出され、落下していく。



『ッち! これが策か!? ここから俺が何もせずに落ちたって、この装甲は破れないぞ!!』


「ええ、そうでしょうね」



ラビィは言うと懐から出したナイフを構え、HA装着者に両足を叩き付けて反動で飛び、壁に勢いを付けてナイフを叩きつける。


火花が散り、直にナイフが折れる、続けてナイフを放棄して指を突きたて、生体スキンがその速度に耐え切れずに破れた。


そのままラビィは疑似血液の紅い線を壁に描きながら速度を急激に落とす。

暫くすると完全に動きが止まり、彼女は近くの発着場に視線を向ける。



『糞が!! 逃げるのかよぉおおおおおお!!』



ラビィの行動の真意に気付き、男が声を荒げる。

しかし、対する彼女は涼しげな表情を浮かべて言う。



「誤解しないで下さい。貴方が勝手に落ちていくだけです」



SBを使用した軍事用HA装着者の相手など、愚の骨頂である。

幸いにも、SBの使用時間が切れるまでの逃走経路とそれを可能にする手段があった為、そうしただけだ。



『っああああ!! 待ってろ、直ぐに追いかけ……!!』



直後、最下層に叩き付けられた衝撃と轟音がエレベータシャフトに響き渡り、男の声を掻き消した。




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