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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
81/105

大きな節目



「見張りはドアの前に二名、内部には生命反応が一名、そして内部に動き無し。無線機を所持している事からも、あの二人がこの階の監視班で間違いないでしょう」



ラビィ達一同は十階から九階に進み、ラビィのセンサーを頼りに捕虜の位置を探り当てた。

このフロアを巡回していた二人一組で動く歩哨は既に五組の内の二組を既に排除し、順調な滑り出しである。



「あそこが捕虜の居る部屋かい? 内部に動き無しって……寝てるのかね」


「いえ……その一名は壁を背にし、座っています。強く警戒している様ですね」


「ふん、それはそうだろうな。こんな所に監禁されて、いきなりベッドに寝転ぶ馬鹿の方が貴重だ」


「五月蝿いよ、フェニル。私はね、いざという時の為に体力を温存しておこうと……!!」


「お、お二人とも! 落ち着いてくださいな! 気付かれますわよ?」



藤宮達は既に十階で奪った装備でフルに身を固めていた。

手にした銃はアサルトライフル『タルパ―FRG』


これはヤウラで独自に開発したY6とは違い、各地の探索地にある警察署や大企業跡地に保管されている事が多く、その事から分かる通り前世界で流行した名銃の一つである。


タルパーは必ずと言っていい程に上記に述べた施設に存在する補給室に保管されている事が多く、其処を巡回するガードが装備しているパターンが多い。


使用している弾薬は5.45x39mm弾、箱型弾倉、内部に収容できる弾数は30発、ここまで述べると普通の銃の様に思える。しかし、タルパーは銃口付近に極小カメラを搭載した電子制御銃であり、それに加えて専用の電磁ソケットにレイルバレルとコンデンサーが装着可能だ。


つまり、タルパーはレイルガンとしての使用も可能であるのだ。

当然ながら、レイルガンのみでの使用を想定した型のそれとは違い、耐久度に大きな差がある為、使用できる弾のサイズを小口径にして威力を低くし、反動を抑えてある。


加えて、装着できるコンデンサーのクラスも低く、次弾までの発射可能チャージ時間並びに発射回数も少ない。


けれども、サブウェポンとして……否、いざと言う時の切り札として咄嗟にレイルガンを扱えるメリットは大きく、傑作銃として高い名声を得たのだ。


だが残念な事に、今の藤宮達が装備しているタルパーにはその装備が装着されていない。


タルパーに装着できるコンデンサーやレイルバレルは、地域によってはタルパー本体より価値がある為、今の荒廃時代では中々手が出せない一品となってしまっている。


グレード2の防弾チョッキも奪えたので、それを着用。

しかしPALS採用式ではなかった為、藤宮達は男達から奪ったマガジンをこれまた奪ったポーチの中に仕舞う。


だが、奪ったマガジン数はあまりにも数多くあった。

けれども何が起こるか分からない為、放置していくのも躊躇われる。

故に余ったマガジンの多くは、戦闘を行う際の機動力低下を避ける為にフィブリルが持つ事となった。


藤宮達にフル装備させると、ようやくラビィも自身の装備を充実させ、準備を終えている。

ただ、タルパーを背負うと暗殺の際に音が漏れる為、今はそれもフィブリルが抱えていた。



「だ、大丈夫ですか、フィブリルさん。重くないですか?」


「これくらい……なんてことないですわ。気にしないで下さいな」



とは言うものの、タルパーだけでもその重みは四キロを超えており、加えて防弾チョッキ、持たされた数多のマガジン。これ等を全て合わせれば、その重量は十キロを余裕で超えている。


足手纏いにはなるまいと気丈に振る舞うフィブリルではあったが、その顔色はお世辞にも良いとは言えない。



「ここからの脱出に成功する間だけのサポートです。フィブリル嬢、もう少し辛抱して下さい」



フェニルが申し訳なさそうにそう頭を下げる。

依頼主でもある彼女に対してあんまりな対応だと思っているのだろう。

しかし、この危機的状況下においては、そうせざるを得ない。



「わ、わかりました。気遣い、痛み入りますわ」



気丈に振舞ってはいたが、こうして気遣われるとやはり安堵してしまう。

フィブリルはそんな自身の卑しい部分に嫌悪を抱きながらも、それを内に秘めて冷静さを取り戻す。


そうこうしている間にラビィは懐からナイフを二つ取り出し、準備を終えると曲がり角を飛び出してナイフを投擲。



「っあ?」


「……ぐ」



すると見事に頭部にヒットし、見張り二人は倒れこむ。

ただ、その際に見張りの一人が扉へと背をぶつけてしまい、少し物音を立てる。

その直後、扉の向こうから怒鳴り声が響き渡った。



『く、来るなぁ!! 来たら、舌を噛んで死んでやるから!! 本気だからね!!』


「おい……この声」



思わず反射的にフェニルが大きく眉を潜めた。

何故なら部屋から聞こえてきたその声はまだ若く、少女とさえ言える程の物だったからである。



「女の子……?」


「この街の子なのかね……。可愛そうに」



思わず動揺を隠せないフェニル達を尻目に、ラビィは淡々と見張りの死体からカードキーを抜き取り、それを扉に通す。しかし、浮かび上がるホログラムに暗証番号を打ち込まなければ、扉は開かれない。



「そういや、こんなのあったね……。どうしようか」


「……PDAがあればこのレベルのセキュリティなど、容易にハッキングが可能なんですが……。隠密行動が第一とは言え、見張り二人を始末したのは不注意でした。一人生かしておけば、拷問を用いた情報収集をできたのですが……」



物騒な事を言いながら、ラビィは空中に浮かぶホログラムを注視する。

浮かび上がるホログラムは長年の劣化で流石に鮮明ではなく、時折消えかかったりもしてしまう。

しかし、それが今のラビィに思わぬ幸運を引き寄せた。


注視したホログラムの後ろにある壁、其処にラビィはふと注目する。

ある事を思い付き、彼女は自身のALS機能を立ち上げ、網膜を通してそれを照射した。

するとその壁に幾つかの指紋が浮かび上がり、ラビィは呆れた口調で言う。



「……ホログラムに番号を打ち込む際に指が突き抜け、その後ろの壁に触れたみたいですね。指紋が残っています」



空中に浮かび上がったホログラムと、その背後にある壁に残った指紋。

これ等を重ねてみれば、どの番号を押したかなど容易に分かってしまう。



「はは、間抜けだね。折角のセキュリティ機能が台無し……って言っても、打ち込んだ番号順なんかは分からないだろ?」


「使用されている番号は四桁、つまり通常であれば十の四乗で一万通りを試す必要があります」


「一万!? 勘弁してよ、それじゃ何時まで掛かるか……」


「通常であればと言いました。指紋の位置を見るに使用されていた番号はバラバラではなく、三通りですので、これなら4320通りで済みます」


「それでも、そんなにあるのかい……」



絶句した様子で里菜が項垂れる。

ラビィは一旦ホログラムから離れ、藤宮達に告げた。



「使用されている番号が分からない場合はそうです。が、今回は使用されていた番号が1と4と9と解析できましたので、これなら36通りで済みます。とりあえず、ラビィはこのフロアに巡回する歩哨を始末してきます。その間、藤宮達は番号を打ち込んで解除を試みてください」


「了解した。打ち込んだ番号は記録しておく」


「お願いします。それでは」



フェニルの了解の意を聞くと、ラビィは軽い足取りで離れていく。

それを見届けると、藤宮達は顔を見合わせ、ホログラムを前にして小さく溜め息を零す。



「とりあえず、打ち込もうか。えーと……まずは」



1149、それをまず最初に打ち込んだ。

しかし、それで扉が開く事はない。

フェニルがそれを確認し、近くの壁にナイフで番号を刻む。

黙々とその作業が続く……かと思われたが、十一回目の試みで扉は早くも開いてしまった。



「え!? あ、もう開いちゃった! ど、どうしよう?」


「どうしようもなにも……入るしかないだろう」


「そ、そうだよね。行こうか」



意を決して、部屋の扉を開く。

しかし、中は真っ暗闇。

藤宮達は見張りから奪っていたライトを取り出し、中を照らす。

そのまま中に足を踏み入れ――ようとして彼女達は眉を潜めた。



「この、臭いは……」


「……行こう」



部屋に充満する悪臭、廊下から差し込む僅かな灯りでも分かる程の部屋の散らかり具合。

それ等を見て、女性である藤宮達はこの部屋に居た者が受けた屈辱を悟った。


――ギリッ……。


誰かの歯を食いしばる音が嫌に響き渡る。

いや、もしかしたらその音は自身が放った物だったのだろうか。

そんな区別もできない程に、彼女達の内心は怒りと嫌悪で満たされていく。



「こないで、こないでよぉ……!」



辿り着いた部屋の奥、其処に彼女は居た。

酷く汚れた毛布にも構わずにそれを深く頭から被り、迫り来る恐怖を視界に映すまいと必死なその様子。


その姿を見て、藤宮と里菜は廃病院で逃げ惑った記憶を思い出す。

藤宮はタルパーを傍らに置き、そっとその毛布の上から彼女を抱き込む様に両手を広げて包み込んだ。



「もう、大丈夫だよ。助けに来たから」



そう告げた彼女の声は掠れていた。

藤宮に抱きしめられた相手は、その言葉を受けて静かに泣きながら言う。



「嘘だよ。"また"街の女の人を使って、私を騙そうとしてるんでしょ」



――あの時の絶望は計り知れない。



「嘘じゃないよ。私は藤宮 静、ヤウラのハンターなの」


「だって、戦闘の音なんて聞こえなかった」



――こんな希望など、訪れる筈がない。



「……私達は凄腕の人に従って何とかここまで来れたの。それこそ、戦闘行為なんて必要のない隠密でね」


「嘘、嘘嘘……嘘だよ! もう信じたくないのぉ!」



――容易に信じてしまえば、また裏切られるから。



藤宮達は彼女の言動から彼女が受けた仕打ちと、その残虐さを察して思わず言葉を詰まらせる。それこそフィブリルに至っては、涙を浮かばせながら吐き気を覚えている程であった。



「……辛かったね。苦しかったんだろうね。けど、もう……大丈夫だから。だから、お願い。最後にもう一度だけ私を……ううん、誰かを信じる事を思い出して」



そう告げると、藤宮は一層強く彼女を抱きしめた。


彼女を慰める言葉など思い付かない、彼女を救う方法など見付けられる気がしない。

だが、生きてほしい。必死になって足掻き、苦しみ、それでも諦めなければ……自分と同じ様に救われる時がくるかもしれない。


何分、そうしていたかは分からない。

真っ暗な部屋で、藤宮達はただ沈黙を貫いた。

しかし、藤宮はずっと相手を抱きしめたまま、動かない。


そして、遂にその時が訪れた。

毛布の端から、小さな掌が恐る恐る差し出されてくる。

藤宮はそれを見付けると、ゆっくりと右手で掴み、優しく包み込む。



「……暖かい」


「そう? それなら良かった」



暫くすると、か細い声で相手は言う。



「もう、ね。限界なんだ。これが嘘だったら、多分……もう駄目だよ」



泣き笑いの様に、その声の最後は震えていた。



「大丈夫。大丈夫だから……」



今度は力強く右手を握り締め、藤宮はエールを送る。

掴んだ手は小さく震えていた。

けれど、確かに藤宮の手を握り返し、少女は恐る恐る頭を上げて毛布を退けた。



「……初めまして」


「ぁ……ぅ、ああぁぁぁぁ……!」



藤宮がそう微笑むと、少女はポロポロと涙を零す。

彼女は嗚咽を漏らしながら藤宮に縋り付き、泣きじゃくる。

彼女が泣き止むまで藤宮はずっと相手の背中をさすりながら、自身も一筋の涙を流した。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






「捕虜救出の任は滞りなく済んだようですね。ご苦労様でした」



ラビィ・フルトが部屋に現れると部屋の電気が付けられ、彼女がそう告げた所でようやく藤宮達は気を取り直した。敵から奪ったであろうタルパーを彼女は一つだけ肩から提げ、マガジンを幾つか右手に抱えている。



「貴方が捕虜ですか? 今現在、我々の戦力は極少数です。ですので、貴方にも戦闘への参加を要請します」


「フルトさん。それは……」



藤宮が思わず渋る声を出したが、少女は構わずに一つ頷いてみせた。



「勿論、戦うよ。皆の……仇をとるんだッ」


「結構。貴方の名前は?」



ラビィは少女に対して同情の言葉も、哀れみの目線も向けなかった。

代わりにタルパーを差し出し、その名を尋ねる。

ラビィのそんな無関心な様子が今の少女にはとてもありがたく、彼女は気分を落ち着けながら言う。



「私はメア……。メア・ラダル。バハラに所属してるハンター」



メアはその瞳に憎悪の炎を宿しながら、ラビィが差し出したタルパーを受け取った。



「私はラビィ・フルト。多目的撹乱……いえ、マスターである木津 沿矢に仕えるヒューマノイドです。今現在、この即席チームの指揮を執っています」



何時もの自己紹介をしようとして、ラビィはそれを切り替えた。

何故だか分からないが、そうしたかったのだ。



「ヒューマ……ノイド? 凄い、はじめて見た……」


「フルトは戦闘のプロさ。部屋からの脱出から此処までの敵の排除も全部彼女が先導してくれたんだ」


「そう、だから安心しろ。私達と共に此処を出よう」



フェニルと里菜がメアに対して励ます様にそう告げた。

彼女はそれを受けて一つ頷き、ようやく立ち上がる。

立ち上がり、毛布が下にずり落ちてようやく彼女の体を目にする事ができた。


身に纏う衣服はボロボロで、痩せ細った体は肋骨を浮かばせている。

それだけじゃなく、体の彼方此方には様々な痣と切り傷らしき物で埋め尽くされていた。

またもや絶句する藤宮達ではあったが、ラビィだけは何の動揺も見せずに言う。



「食事は配給されなかったのですか? 体の状態が芳しくないですよ」


「少しでも、あいつ等の興味を失わせたくて……。食事は最低限の頻度でしか食べなかったんだ。この一週間に至っては水しか口にしてないし……」


「そうですか。では、その状態では戦闘行動は無理ですね。貴方はフィブリルと同じく荷物を運ぶ形で協力して下さい」



そう判断し、彼女に渡したタルパーにラビィは手を伸ばす。

しかし、メアはそれを拒否し、銃を抱える様に持ちながら背後に下がる。



「そんな……! 大丈夫だよ! 私も戦わせて!!」


「メアちゃん。だけど……」


「大丈夫、大丈夫だから!! お願いだから、戦わせてよ……!」



目を大きく見開き、そう告げるメア。

藤宮はそんな彼女の様子を見て、これ以上追い詰めるのは得策ではないと判断した。

背後に居るラビィに視線を向け軽く頭を振ると、ラビィも一つ頷いて了承する。



「分かりました。ですが、戦闘行為は極力避ける方針です。我々の目的はまずこのホテルから脱出、そして沿矢様か友軍への合流を果たします」


「分かった。指示には……従う」



メアはそう了解の意を返し、藤宮達はようやくフロアへと出る。

廊下に出たメアはドアの近くに倒れこむ見張りの死体を見ると、小さく吐き捨てた。



「地獄に落ちろ……」


「――しまった」


「フルトさん?」



部屋を出た直後、ラビィは機敏な動きで背後を振り返ってメアを注視した。

ラビィはそのまま彼女に近寄ると、その頼りない肩を掴みながら問いただす。



「メア、貴方は彼等に何かを埋め込まれませんでしたか? それかカプセルを飲まされたか、注射をされた筈です。まさか起動するまで気付けないとは……!」


「埋め込まれたって、何を? わ、私は何も……」


「此処での摘出はまず不可能、電波は既に発信されている。けれど、彼女を置いていけば……」


「お、置いていく?! 今更何を言ってるんですの!?」



ラビィの言葉を聞き、フィブリルが疑問の声を上げる。

無線機の電源を無造作に点け、ラビィはそんな彼女の疑問に答えた。



『おい、どうした? 娘を外に出したのか? へへ、たしかにあの部屋は臭ぇけどよ。だからって廊下でやるのか?』


『おいおい、俺達は真面目にやってるってのに盛ってんのかよ?』



無線機から聞こえてきた無法者達の下卑た声。

それを聞き、全員が驚きを隠せない。



「これは……まさか」


「えぇ、彼女には発信機が埋め込まれています。しかも、ある一定の距離を出てしまうと自動起動するタイプ。迂闊でした、まさかここまで徹底しているとは……」


「ど、どうするんだい?! 発信機がある場所が分かるなら、今取り出せば……!」


「彼女に埋め込まれた発信機はナノマシン型なんです。前世界でターゲットに気付かれない様、または気付かれても容易に排除させない為に開発された機種です。この状況下で取り除く事はまず不可能です」


「そんな……」



藤宮は思わず両手で口を押さえ、ショックを表す。

しかし、今一番の衝撃受けているのはメア自身であった。

彼女はいやいやと幼子の様に頭を振りながら、絶望の声を漏らす。



「そんな……嘘だよ。だって、ようやく此処から出れると思ったのに……。こんなの、あんまりだよ……」


「……仕方ない、覚悟を決めるか」



言うとフェニルは肩に下げていたタルパーを手にとって構え、そう告げた。

彼女のその言葉を受け、藤宮と里菜は大きく頷く。

次に藤宮はフィブリルに向き直り、謝罪の言葉を口にする。



「すみません、フィブリルさん。私達は、彼女を置いて逃げる事はできません。貴方はフルトさんと共に脱出を……」


「……いえ、私も残りますわ。此処からの脱出を果たすまでのサポートが、私の役目ですから」



そう言葉を返し、フィブリルは微笑んだ。

しかし、声の震えと体の震えまでは隠せなかった。


ラビィはとりあえずの時間稼ぎにと、無線に応答する。



『此方は九階、監視班。物音がしたから中を覗き込んだらあのガキがぶっ倒れててよ。とりあえず部屋から持ち出したわ。飯でも食わせれば元気になんだろ』


『あぁ? 飯だぁ? んなもん、部屋まで持ってけよ』


『馬鹿野郎、テメェも言ってたろ? あんな臭い部屋で飯が食えるかっての。とりあえず、部屋の外に暫く出しとくわ。このままガキに死なれてお楽しみが減るのも癪だしな』


『…………まぁ、好きにしろ。そうそう、後でゲームでもしようぜ。通信終了』



それを最後に無線が切れる。


上手く誤魔化せたのかと各々が安堵した。

しかし、ラビィだけは眉を潜め、藤宮達に状況を伝える。



「……バレましたね。隠蔽は失敗です。各フロアの歩哨のルートが一斉に変化、それと同時にこの階に向かってくる歩哨も探知」


「え!? でも、今の無線じゃ……」


「声は誤魔化せても、性格までは無理です。恐らく私の言動と監視していた男の言動はあまりに不一致だったのでしょう。故に警戒された。恐らく、"ゲーム"と言う単語が各歩哨に伝わる警戒の合図に違いありません」


「ったく、アレで駄目なのかい?! 普段、この娘に対してどれだけ最低な扱いをしてたってのさ……!!」



里菜が溜め息混じりにそう吐き捨てながら、タルパーのコッキングレバーを引いて初弾を薬室に送る。


藤宮もマガジンの残弾数を確認しながら、ラビィに指示を問う。



「どうしますか?! 強行突破ですか!?」


「それは難しいですね。とりあえず最上階に向かいましょう。このままでは挟み撃ちになる。で、あれば敵数の少ない上方面の敵を排除し、下から上がってくる敵を迎え撃ちます」


「了解、先導を任せます! 私達はサポートを!」



簡易的な作戦ではあったが、手堅い一手ではあった。

事実、九階と十階の敵を既に殲滅している事は大きなアドバンテージ。

始末された味方の数を知れば、増援の敵兵も容易く歩を進める事を躊躇する筈だ。


テラノで起きた予想外の戦い、それはもうすぐ大きな節目を迎えつつあった。




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