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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
8/105

一人の男

8/22 誤字、脱字の修正を行いました。



自分の中に湧き出た感情、それが何なのかが一瞬迫田には分からなかった。

だが確かに自分はそれを知っている、遠い昔に感じていた懐かしいモノだ。



――ああ……悪くない。この感情を呼び覚ましてくれた、あの男に感謝をしたい。



ああ、でも――いつもこの感覚を覚えた時には、自分は何かを壊してしまっていたのだ。

どうか、どうか――あの男は壊れないでくれ。


まるで縋る様に手を大きく広げて、迫田は一歩ずつ歩みだした。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






どうやら、俺をゴミ山に埋めてくれたのはあの黄色いガチムチ巨体ロボの様だ。

此方に大手を広げて近づいてくる異形を見ても、何故か恐怖は感じなかった。


それ以上に強い疑問が俺の中を埋め尽くしていた所為であろう。

背後を振り返ると、ゴミ山が一つ消えている。

うん、これをやったのは俺だ。

ただ、どうして? 何故? どうやって? what? 等と言う疑問が次から次に湧いてくるのみだ。


ふと自分の右腕が視界に入った。

血に濡れても、ハッキリと浮かんで見える黒い線。

そしてこの世界に来た時の事を思い返す。

なるほど、どうやら俺は宇宙生物共に人体改造でもされた様だ。


つまり初日にロボットを破壊せしめた俺のパンチは偶然でも、相手にガタが来ていた訳でもなかったのか。


力強さは大体把握した、次に俺の耐久力はどうだ?

あんなデカブツに殴られた顔面の痛みよりも、ゴミ山に衝突した時にできた切り傷とかの方が痛い。

いや、勿論顔面も凄く痛いよ? ただそれは普通に喧嘩してて顔に一発良いのを貰った時の様な感じであり、命に別状を感じないのだ。

それを考えるとどうやら俺は衝撃に強く、尖った攻撃に弱いようだ。



「それだけ分かれば十分だ……」



蹲って口の中にある血を吐き出す。

こっそり相手からは見えないであろう位置にあった金属片を掴むと、ゆらりと起き上がってみせる。

少しハイになっていた俺が二ィ、と笑って見せると相手はおよそ二十m先で足を止めた


その瞬間を見逃さずに金属片を投擲して走り出す。


喧嘩ってのは大抵先制を取った方が勝つ。

つまり俺は大変不利な状況だった訳だが、追撃を受けなかったのが幸いした。

まぁ、あんな攻撃を受けたら相手が生きてると思う訳も無いだろうが。


あれで倒せるとは勿論思っていなかったが、どこかに当たる事は期待していた。

だが、相手は半身で金属片を避けると此方に向かってすかさず走り出した。


戦いのゴングは俺が鳴らしたのだ、ある程度やる事は頭の中で組み立てている。

相手と俺の進路の間に地面から突き出ていた鉄骨を掴むと、立ち止まる事はせずに無理矢理力任せに引き摺りだす。

その頃には衝突まで、あと僅かという場面だった。


勢いをそのままに、相手に上段から鉄骨を叩き付ける。

ロボはクリーンヒット直前に、咄嗟に両腕を交差して防御の構えを見せた。


鈍い金属音と、鉄骨に纏わり着いていたコンクリの破片が砕ける小気味の良い音が響き渡る。

一撃、二撃、三撃、と鉄骨で攻撃を加える度に崩壊していくのは相手方の装甲ではなく、此方の武器だった。

何度目かの衝突を終えた瞬間、鉄骨は折れ千切れてどこぞへと飛んでいく。


その瞬間を待っていたのであろう。

攻撃が終わった瞬間、俺の腹部に衝撃が走った。

蹴りを受けたと分かったのは、後方に転がって体勢を立て直した時だった。


だが、追撃のチャンスだったはずなのにロボはその場に立ち尽くしている。

鉄骨で与えたダメージは右腕の装甲をへこませただけで、致命傷には程遠い様に見える。

訝しげに思いつつも、立ち上がって構えを取る。



「……小僧。お前、名前は何て言うんだ?」



突然、ロボの顔部分の装甲が下がったと思ったら中からオッサンが現われた。

歳は三十後半って所だろうか、大きく頬に一線傷が付いた強面だ。

俺はてっきり、また暴走したロボットに襲われているのかと思っていたので驚きを隠せなかった。



「名前だぁ……? おいおい、人様にイキナリ襲い掛かってきておいてそれはないだろ」


「俺の名前は迫田 甲。 頼む、教えてくれねぇか?」



此方を睨みつけながら、頼むも何もないとは思うのだが……。

しかし、人間相手なら不意が打てるというものだ。

ゆっくりと爪先を地面に転がっている金属片の下に潜り込ませながら、その行為がばれない様に大きく声を荒げて注意を逸らす。



「俺の名前は木津 沿矢だ!! お前がゴミ山を占領していると言う、噂のお山の大将ならさっさと此処を明け渡せぃ! 今なら見逃してやる!!」



準備は終えた。

此方の降伏勧告を聞くとは到底思えないが、そんなの顔面にイキナリ殺人パンチを食らった時点でとっくに分かりきってる。

これは相手の出方を見る、タダのお試しにすぎない。



「見逃す? そうか……。なら、此処は渡せねぇなぁ。こんな楽しい事を終わらせるなんて……っ!」



相手が逝っちゃってる表情を見せ、拒否する言動を吐いたところで、俺は金属片を全力で蹴り上げて気勢を制した。

金属片は迫田の顔面の近く擦れ擦れを通過して、皮膚を切り裂いたのが見えた。

迫田は慌てて後ろに下がりながら顔の装甲を纏い始めているが、その間は前が見えていないのか蹈鞴を踏んでいる。


その隙を見逃さずに懐に飛び込んで、装甲が薄く見える下肢部分に思いっきり外側から右ローキックを叩き込んだ。



「っぅ!! このガキィ!」



俺から見て下肢部分の右側が大きくへこみ、体勢を崩した迫田が膝立ちになる。

丁度良い位置に顔面が降りてきたので、最初のお返しとばかりに思いっきり弓引くように力を溜めた渾身の右ストレートを叩き込んだ。


すると迫田は後方にぶっ飛んで、最初の俺の様にゴミ山の中へと轟音を立てながら姿を消した。

顔面の装甲はもう纏っていた様なので、死んではいないだろう。多分、メイビー。



「大丈夫か? ベニー」



どうやら頭も怪我していたらしい、額を垂れてきていた血を拭いながら遠くに居たベニーに走り寄って安全を確かめる。



「あ、う……うん」



ベニーは怯えた表情を浮かべて頷いた。

無理もない、正直俺だって怖いわこんなもん。

誰だって、血だらけで変な機械を纏った奴とバトルを繰り広げた男と関わり合いになりたくはないだろう。


つまり、今の俺は凄味があるって事だ。

そうとなると話は早い、俺は近くに居たゴロツキ共を睨み付けた。



「知ってます? ここ、ゴミ山を独占しようとしていた輩がいるって事。俺は許せないなぁ、そんな我侭」


「なっ、何を言って……」


「お、おい!!」



一人が反論しようしたが、周りがそれを抑えた。

彼等の大半は俺が言いたい事を分かった様だ。


俺は笑顔を浮かべて近くにあった鉄屑を拾い上げると、彼等の前でゆっくりと握り潰した。



「そんな酷い奴等が居たら教えてください。俺が始末しますんで」



そう告げると彼等はガクガクと震えだした。


やだ……快感。私ったら力の欲望に飲み込まれそうだわ。

ヨー○が見たら速攻で斬りかかってくるやもしれん。



「お、俺達には関係ねぇ事だ!! い、行こうぜ!」



何故か既に倒れていた男を抱えると、彼等はそそくさと路地裏の闇に姿を消していった。

色々あったが、何とか無事に終わった。


正直、血を失いすぎてる気がする。

この町にマトモな医療施設があるかもわからないし、さっさと俺も帰るべきだろう。



「ベニー、帰ろうか。此処にはまた今度来ようぜ、俺も手伝うからさ」



すっかり怯えてしまったベニーは頷きを返すだけ、その事に一株の無念さを抱きつつ歩き出した。

しかし、背後から何やら音が聞こえてきて歩みを止める。

背後を振り向くも、何もないのが分かるが次第に不安が募ってくる。


と、迫田が埋まっているゴミ山の一部から奇妙な音が聞こえてきた。

金属同士で高速にぶつかり合うような、甲高い音。

それは次第に大きくなって、ゴミ山を揺さぶる響きを奏でている。


俺は一つ溜め息を吐くと、ベニーに向かって苦笑して見せた。



「ベニー……先に帰ってろ。どうやら終わってなかったみたいだ」


「う、あ……わ、わかった」



ベニーも何が起きるか分かったのか、素直に頷くと急いで走り出した。

正直俺もさっさと逃げるべきだと思うのだが、迫田の狂気が深く染みた視線が忘れられない。

今此処で何らかの決着を付けないと、あの男は何かしらやらかしてくれそうな雰囲気を纏っていた。


また近くにあった鉄骨を引き抜いて、それを構え終える頃には既に奴は姿を現し始めていた。

ゴクリ、と緊張で喉が鳴ったのは仕方の無いことだろう。


迫田が纏っている機械の左腕の前腕から鋭利な刃物が飛び出していた。

刃渡り八十cmって所だろうか、ただあれは普通の刃物とは別格を規す恐ろしい物である様だ。

それが普通の刃物と違うのは力を込めてない様に見えるのに、鉄屑や鉄板があっさりとバターの様に切り開いていくからだ。


先程までの戦いでは正直命の危険を感じなかったが、ここからは別の様だ。

ようやく邪魔となっていた物をすべて排除すると、迫田はゆっくりとゴミ山から抜け出した。



「嬉しいなぁ……。待っててくれたのかよ? 最高だぜ沿矢ぁ! お前は最高だぁぁあ!!」



先程の一撃で顔の装甲が破れたようだ、迫田の表情が伺える。

血塗れだと言うのに、迫田は本当に嬉しそうに笑った。

僅かに残った顔の装甲を、瞬きもせずにこちらを見つめながら無理矢理引き剥がす様は狂気を感じる。


どうやらコイツは完全にイカれてるな。

なら、逃げなくて正解だった。

コイツを放ってしまっていたら、最悪な結果を生んだかもしれないのだ。



「俺は最低な気分だよ、迫田ぁ……!」



迫田は顔面に傷を負い、機械の正面から見て下肢右側部分に深い損傷を受け歩きにくそうだ。

此方は最初の一撃でできた全身の切り傷から流れ出る出血量が、そろそろ許容範囲を超えそうである。

互いにダメージはソコソコだが、圧倒的に不利なのは俺だ。

短時間でケリを着けねば、昇天してしまう。


だが睨み合ったまま俺達は動かない。

相手はどうだか知らないが、俺はこの先の戦いが生死の域に踏み込む事を思って躊躇いを抱えてしまっている。

いや、確実に迫田は相手の生き死にに感情を動かす様な男ではない。

今の状態で戦闘に入ってしまえば、確実に俺が負ける。


あのブレードをどうにかする事さえできれば……。

俺が如何に相手を無力化するかを、愚かにも考え出した時に戦いは始まってしまった。


迫田は先程俺がやって見せた様に、不意に右手に隠し持っていた金属片を投げつけて来た。

すっかり左腕のブレードに気を取られていた俺は、金属片をかわす為に大きく体勢を崩してしまった。

その一瞬を見逃す筈が無い、迫田は地面の金属片を大量に巻き上げながら怒涛の勢いで突進してくる。



「沿矢ぁ!!」



迫田の悲鳴に似た鋭い叫びと共に左腕のブレードが振るわれる。

咄嗟に構えた鉄骨で防ぐ事に成功するも、それが長く持たない事を先程の光景を見て知ってる俺は、すぐに鉄骨を放棄して後方に下がる。


だが、迫田は諦めない。

後ろに下がる俺を執拗に追跡しながら、狂気に満ちた眼差しと共にブレードを振り回す。

先程、下肢にダメージを与えておいて正解だった。

でなければ俺はあっさりと追いつかれて切り裂かれていた事であろう。


反撃をしなければ、そう思うのだが、相手の殺気と狂気に満ちた眼差しを受け体が震えてしまっている。

完全に勢いに飲まれ、防戦一方の俺はここが物溢れるゴミ山である事をすっかり忘れ、後方にあった何かの物体に足を躓かせて倒れこんでしまった。



「はははは!! もう終わりかぁ?!」


「っ……らぁ!!!」



覆いかぶさる様にブレードを構え、倒れこんで来る迫田に向けて足を翳し奴の胴体に密着させる。

すると奴の勢いを殺さずに、そのまま巴投げの要領で後方に投げ飛ばす。

機械を纏った迫田は余程の重量があったのか、周囲の金属片を派手に巻き上げて盛大に音を立てる。


このチャンスを逃すまいと俺は素早く立ち上がると、倒れこんでる迫田の左腕を抱え込む様にして押さえ込む。

だが、これは失敗だった。

迫田は俺が乗ってる事なんて微塵も感じさせない様に、軽々と左腕を無造作に持ち上げて地面に数回、勢いよく叩き付けてくる!


衝撃に強いとは言え、痛くないわけじゃない。

思わず手を離して、急いでその場から転がって距離を取ろうとする。

だが、それ見逃さずに迫田は俺の上に馬乗りになって攻撃を加えてくる、降ってきたのは顔面へのブレードの突きだった。



「っひひ……!!」



迫田は少しの躊躇を見せず、代わりに笑顔を覗かせながら、刺す! 刺す!! 刺す!!!

必死に首を動かしながらも、頬のすぐそこを死を纏った微風が吹き荒れているのが分かる。

何回目かの死線を潜り抜けた所で、勢い余ってブレードが深く地面に突き刺さった。

その好奇を見逃さずに左腕を掴むと、勢いよく起き上がって額を奴の顔面に叩き付ける!

迫田が怯んだ隙に奴の下から力任せに這い出して、ようやく体勢を立て直す事に成功した。



「っ……! はぁ、いいぜ。最高だ、全力って感じだよなぁ!! はははっははは!!」


「こういうのは必死って言うんだよ、馬鹿が……っ!」



盛大に湧き出す鼻血を拭き取ろうともせず、迫田は狂気に染まった笑い声を上げる。


だが、あの出血量なら呼吸は相当に苦しい筈だ。

苦しいのは此方も同じだが、今は一息を吐いている場合ではない。

また近くにあった鉄骨を引っ張り出すと、それを両手で構えて突撃する。



「そんな棒でどうしようってぇ!?」



あちらの間合いに入ると瞬時に横薙ぎでブレードが風を切り裂いて迫ってくる。

足を止め、鉄骨でそれを受け止めると、すぐにそれを放棄して迫田の懐に飛び込んで、そのままの勢いで右ストレートを放つ!!

放った自分のその拳がどれほどの威力を持っているかは、打った時に聞こえた暴風に近い風切り音で感じ取った。


だがブレードを所持している左腕の無力化を狙った肩口への攻撃、それを瞬時に見極められたのか、迫田は右腕で防御してみせた。

ゴミ山に甲高い金属音が響き渡る、防がれはしたが迫田はバランスを大きく崩しながら後方へ下がる。


追撃を仕掛けようと、前に駆け出したところで迫田は右腕を此方に真っ直ぐ向けた。

何を――そんな事を思う暇さえ与えられず、次の瞬間右腕の肩口から放たれた眩い光が俺の眼を焼き、キンッとした破裂音が鼓膜を強く打った。


視界と聴覚を一時的とはいえ同時に失った俺は、次に襲い掛かってきた胸への衝撃がブレードによる物だと思った。

周囲の物を巻き込んで後方に大きく弾き飛ばされながらも、なんとか我武者羅に地面を掻き毟って勢いを殺す。

ふと追撃の可能性が頭を過ぎり、その勢いを無理矢理利用して体を捻り、地面から勢いよく跳ね上がらせる。

蹈鞴を踏みながらなんとか目を凝らして前へ向けると、迫田が着ている機械の右腕が無くなっているではないか。



「ロケット……パンチかよっ、必殺技は口に出せって習わなかったのかぁ!?」


「ひひひひ!! 沿矢ぁ! この方法を使ったのはお前が初めてなんだぜ!? なのに生きてやがる!! やっぱお前はすげぇ、最っ高だ……!!」



勢いもついていたし、流石にマトモに食らいすぎたのか鈍い痛みが胸から消えない、堪らず地面に吐き捨てた唾に血が大量に混じっている。

あの機械の右腕はどうやら自動で戻ってくる便利機能なんてのは無く、地面に無残な姿で転がったままだ。


迫田は本当に楽しそうに笑い声を上げ続けており、その様は完全に正気を失っている。

どうやら俺が死ぬか、奴が死ぬか、そのどちらかで無いとこの狂気の場を収める事は出来ない様だ。

なら、どうやら迷いを捨てる時が来たようだ。


どうやら俺は自分の生死が掛かった状況でも、最後まで相手を思いやれるような優しさは持ち合わせてはいない様だ。

一つ息を吸うと、自分の中にある迷いも捨てる様に大きく息を吐いた。

そんな俺の様子を見て何か感じ取ったのか、ようやく煩わしい笑い声を上げるのを止め迫田はブレードを構えた。



「楽しかったぜ、沿矢」



突然無表情になった迫田がポツリと言葉を零した。

まるで遊び終えた友人同士が交わした言葉の様に、気軽さと寂しさを含ませながら。



「俺はそうでもない」



俺も言葉を返して構える。

体が冷えているのは緊張からなのか、それとも血が抜け切っているからなのか。

ただお陰で頭は最高に冴え渡っている、此処に来てこの五体意外にも信頼に足る部分にようやく気付けたのだから。


腰を落とし、相手の懐に飛び込む姿勢を見せる。


迫田は此方から仕掛けてくる事が意外そうに目を見開いた。

しかし、それを見せたのはほんの一瞬で、すぐさま迎撃の構えを取る。

正面に突き出すように構えられた左腕のブレードは、奴の間合いに飛び込んだ瞬間に迷い無く放たれるであろう。


だからこそ、俺も迷い無く地面を駆けた。

相手の気勢を挫く小細工も、何も無い。

徐々に近づく迫田の表情に落胆が浮かんでいるのに気付く、何故そんな顔をする? 勝ちたい訳ではないのか?


疑問が生まれ、すぐに消えた。

そんな事を考えている時間はもう無く、終わりの時はもうすぐ其処だ――。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼







迫田は迫り来る終わりを感じ取っていた。

ようやく沿矢の表情から迷いは抜け、此方側と同じ立ち位置に立ってくれたのにだ。


いや、違う。此方側と同じ位置に立ったからこそ終わりが来るのだろう。

生身でこの強化外骨格を着た自分と互角に渡り合うなど、一体どんな人間にできるというのだろうか?


一流のハンターはどうだったか? 奴等は先手で最大火力を放って決着を狙う輩が多い、こんな戦いは望めなかった。

一流のスカベンジャーはどうだったか? 奴等はそもそもこんな状況に陥る前に退いてしまうか、戦ったとしてもあっさり片付く事が多かった。


ああ、自分はなんて幸運なのだろう。

恐らく。いや、きっとまだ誰もこの男の事を知らないはずだ。

声を大にして叫びたい、俺が見つけたのだと!!

そして俺が奴の迷いを断ち切らせたのだと!!!


ああ――だからこそ、自分の手で壊してしまいたい。

何時もそうだった、気に入った玩具を壊しては叱られて、また懲りずに繰り返す。

物心が付いた時には、既に玩具などではとても満足できず、様々な物を壊してきた。


荒野を彷徨う機械、ハンター達が操る車や戦車、何よりも楽しいのは人を壊す時だった。

自分が練り上げた技術や、力が通じない事に気付いた瞬間に、気丈だった奴等の表情が崩壊する様を眺めるのは最高だった。


ただ――何時しかそれ等の行為に何も感じなくなってしまった。

そしてそれ等の代りになる様な行為は何も無かった。


女を抱いても、何を食べても、酒を飲んでも、叫びまわっても、何も感じない。

何も満たされない、あるのは深い空虚だけ。



ああ、沿矢――お前も俺を満たしてはくれないのか?

無鉄砲に此方へと突っ込んでくる死に様を見届けたのは、迫田はこれが初めてではない。


いつか、遠い昔にそうしてたように左腕を義務的に前へ突くだけ。

それでいつも静寂が訪れた。


この左腕に備え付けられているブレードは如何なる物でも切り裂いてきた。


人、岩、鉄。


車や戦車の装甲は勿論、その砲弾でさえ切り裂いた事がある。


ただ、今回は違った。

車の正面衝突に似た重い金属音が響き渡り。

その左腕は目標を貫いてはいなかった。



「……ってぇ。……驚いたろぉ? 俺もそうだった」



《右腕》の前腕部分でブレードを受け止めた沿矢が話しかける。

親しげに、まるで秘密を共用するかの様にか細い声で。


ブレードは沿矢の肉を裂き、骨を粉砕していた。

だが、右腕は原型を留めている。

前腕に一直線に走る短い黒い線、それがブレードを確かに押し留めている。

最後の最後に沿矢が賭けに出る為に信じた物は己の中にある異物だった。


何故それを信じたのか?


この世界に来る切欠だったから?


この生死のやり取りの中で振るった力は己の物ではないから?


沿矢の中で様々な思いはあった。

ただ、これで駄目なら仕方ない――そんな思いが漠然と胸の内にあっただけなのだ。


迫田は返事をしようと喉を震わせる。

しかし、上手くいかない。

歓喜か、恐怖か、それとも憎悪か。

自分の中を埋め尽くしていく感情が何なのか、彼は知らない。


ただ一つ言える事は、彼は小さく微笑を浮かべていた。


沿矢は返事を待つ事はせず、隙だらけの迫田の胴体に向け、左手で全力を振り絞った直突きを打ち放った。

銃声に似た乾いた音が最初に聞こえ、次に先程の衝突音を遥かに超える重低音を伴った響きがゴミ山を……否! 町全体に行き渡る!

一拍置いてさらなる轟音と何かが崩れる音が響き渡ったが、ゴミ山から町全体へ響きわたっていた奇怪な音はそれを最後に静まった。








男が居た。


男は他の人間とは違う、明らかに一線を越えた異質さを持っていた。

見た目は同じ、されど中身は同じじゃない。

他人とのズレを抱えたまま歪に生きてきた男は、今日――初めて満たされた。


それが幸か不幸かは、その男にしか分からない。








ゴミ山には静寂が訪れていた。

いや、正確には静まってしまったと言った方が正しいのか。


それを引き起こした男がいる。

男は小さく、男は悲しげで、男はそれと同時に安堵していた。



「最悪な気分だ……」



そう吐き捨てると、男は地面に倒れこむ。


肌を撫でる金属片が羽毛の様に、香る濃厚な鉄の臭いが干した布団の様に男に安堵をもたらした。

今はただ眠りたい、そう男は静かに瞼を閉じた。










後に鉄屑が町に降り注いだ日『鉄の雨』と称された、この日を境に運命は動き出す。

ただをそれを知らぬは人の性―――今はただ彼に休息を――――。





自分的には今回までがプロローグみたいなモノですね。

この後主人公は力をどう使うのか?

迫田を倒してしまった事でどう影響するのか?

ここから徐々に物語の幅が広がってきます。

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