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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
77/105

命を張る理由

※連続更新分です。注意してください。



「こ、これで全部だ。嘘じゃねぇ、許してくれ……」


「安心しろ。言われなくても、もう一人が起きたらソイツにも同じ事を聞くからよ。もし言う事が食い間違ってたら……わかんだろ?」



相手から情報を全て聞き出すと、コープは凄みのある口調でそう脅す。


まるっきりDQNだな。

ただのチンピラにしか見えないぞ、コープ。

しかし、そのチンピラ効果は抜群だったようであり、相手の男はそれを受けて顔を青く染める。


それを眺めていると、カークスさんが顎を擦りながら唸り声を上げ始めた。



「敵方の数はおおよそ二百人近くか……予想以上だ。しかも、マックスなんて賞金首の名に覚えが無い。無名の奴がこれ程の大人数を纏め上げたのか?」


「隊長、偽名と言う線は?」


「それも当然としてあり得る。奴のふざけた態度を見るに、搦め手が得意そうだったからな。くそ、PDAがあれば記録しておいた賞金首の画像をチェックできるんだが……」


「しかし、テラノ住民の子供達を人質に取られてるとは参りましたね……。おい、お前!! 本当に子供達が何処に居るか分からないってのか!?」



当初の俺の予想通り、テラノの人達は子供達全員を人質にされており、無法者達にいい様に使われてるらしい。しかし、肝心なその子供達の居場所はハッキリとしておらず、それを疑ったクルイストのメンバーが恫喝する。



「ほ、本当に知らねぇんだ!! マックスは人質が解放されてテラノの住民達が反抗しない様にと、注意を徹底しているんだ。俺みたいな下っ端にはそこまでの情報は伝わってこねぇよ!!」


「拙いな……。我々の脱走がバレてしまえば、マックスは子供達を餌に自分の部下のみならず、テラノ住民も我々の捜索に送り出してくる可能性が高い」


「参りましたね、隊長。これじゃ本当に隠密ありきの作戦だ。バレずに無法者達の大半の無力化をするか、或いはマックスを捕まえるかをしなければ勝利はあり得ない……」



こうして言葉にするだけでもその難易度は計り知れない。

相手は二百人、それ等に気取られない様にしながら行動するしかないのだ。



「とりあえずやるしかないですよ。早く行動して、ラビィ達と合流しないと……。おい、俺達の装備は何処に保管してある?」



俺がそう声を掛けると、拘束された男は答える。



「取り上げた装備や車両なんかは、何時も街の入り口近くの倉庫に運ぶ。そうしないと、出し入れが面倒だからな」


「まぁ、その意見には素直に賛同できる、恐らく嘘じゃないだろう。問題なのは……」


「ラビィ達が捕まっているホテルとは、反対側って点ですね……」



男から聞き出した情報で、自分達の現在位置とラビィ達が連れて行かれた場所は既に把握済みだ。倉庫は街の入り口近く、ホテルは街の奥地側に存在し、俺達は大体その中間地点と言った所である。



「仕方ない……三組に別れるしかないだろう。少数で此処に残って交代の人員を待ち伏せする班、倉庫を占拠して戦力を確保する班と、フィブリル殿達を助け出す班だ」


「でしたら、俺はラビィが居るホテルへと向かいます。そして、此方側の戦力は極少数で構いません。自分で言うのもなんですが、俺とラビィが数の差を補います」


「あぁ、それが最善ではあるだろうが……本当に任せていいのか?」



カークスさんがそう問いかけてきたが、俺は力強く頷いて見せた。

それを確認し、彼は各所に指示を飛ばし始める。



「よし、チーム『ラウル』はこのまま木津君と行動を共にしてくれ! 我々クルイスト、並びに隊商の方々で此処で見張りの交代を待ち始末する班と、倉庫へ向かう班を結成する!」


『了解!!』



その指示を受け、各々が動き出す。

まずは皆で倒した男達の中から装備を漁り、それをカークスさんの指示の下で配っていく。

しかし、俺は差し出されたハンドガンの受け取りを拒否し、辞退する。



「装備は道中で奪います。大量の装備を保管している倉庫の警備は厳重な筈です、其方で使用して下さい」


「しかし……いや、分かった。コープ達も、それで構わないか?」


「へっ、コイツの馬鹿力っぷりは嫌と言う程知ってる。別にいいぜ、木津一人でたっぷりと働いてもらうからよ」


「テメェも働くんだよ。 なーに、ちょっと大人しく俺に担がれてくれればいい、盾にするから。それとも足でも持って振り回して武器として使おうか?」


「お、お前が言うと洒落になんねぇよ……」



コープの震え声をさらりと受け流しつつ、俺は覚悟を決める。


これはこの世界に来てから最大の戦いだ。

俺達の命のみならず、この街に住む人々の命運も掛かっている。

当然、失敗は許されないし、失敗は恐らく死を意味している。


俺達が捕らえられていたのは元は警察署と思われる廃墟の地下だ。

しかし、此処の電源は死んでおり、光源が無い。

だが、隠密で行動するには最適である。

何よりもセキュリティが起動していないのが大きい。


その後は無理矢理目を覚まさせたもう一人の男にコープが尋問を施し、先程手に入れた情報の真偽を確認し終えた。


これで俺達は準備を終え、捕虜二人は縛り上げて放置し、俺達は出口を目指す。


途中、何名かの歩哨を確認できたが、奴等は少数でカンテラを持ち歩いており、此方から容易に位置を特定できた。戦力の無力化も必要である為、歩哨を見つける度に俺が自ら率先してそいつ等を始末した。


人体の急所と言うものは正中線に多く存在している、即ち体の中心から上下末端までの大半が急所と言い換えてもいい。


人中、股間、鼻骨、女性ならば金的を狙えと習う事も多いだろう。

しかし、股間を攻撃すると言う事はだ、その位置関係からどうしても咄嗟に蹴りが必要となる。


実戦において蹴り技は多様するものではない。

しかも、大多数を相手取る時には特に注意が必要だ。

蹴り上げた足を掴まれれば、此方側が容易に倒されて形勢が決定的に不利になる。


俺の様に一撃必殺が可能であれば蹴りは選択肢に入るが、そうでない場合はまず放たない方がいい。が、金的以外でも女性ですらが攻撃を当てれば上手く致命傷となり得る箇所、もしくは威力が足りなくとも致命的な隙を作れる場所が人体には存在する。



「な、なに……ッえ!?」



右手で手刀を形作り、俺は男の喉を突いた。

すると男は顎を引き、後頭部を愚かにも晒す形となる。

俺はその晒された頚椎を断ち切る様に左拳を叩き込む。


人体には反射と言う機能が存在する。

そして、大多数の人間が喉を攻撃された場合に取る行動が、顎を引いて喉を防御する事である。


しかし、それが致命的。本来なら縦位置に属している頚椎が、顎を引いた事で横位置になってしまうのだ。


人間は体の構造上、真っ直ぐに拳を打ち込むよりも、振り下ろすと言う動作の方が力を強く発揮できる。それは空手の瓦割り等を見た事があれば、納得できるだろう。


そして威力を増した拳で頚椎を攻撃すれば、当然ながらそれは致命的なダメージと成り得る。


そして、それは俺も例外ではない。

俺は今のたった二動作で男の命を奪った。

その証拠に、床に倒れた男は既に動く気配を見せない。


無論、そんなの関係なしにしてもただ全力で俺が拳を叩き込めば、殆どの人間は死亡するだろう。


しかし、それをやってしまえば大半の相手が吹き飛ばされる形となり、大きな物音を立ててしまう。


今回は隠密が鍵となる為、この様な技が生きてくる。



『にしても……おっかねぇな。どこでそんな殺し方を習ったんだ?』



俺が何人も敵方を屠っていると、コープが静かに問いかけてきた。

俺は集中を切らさない様にしながらも、言葉を返す。



『……漫画やドラマだ。特に漫画の影響が強いな』


『はぁ? そういうのって娯楽作品じゃねぇのか? しかも高いんだろ?』


『あぁ、DVDは特にな。たった二話ぐらいで何千円もしやがる。学生の身だと辛かったよ』


『エン……? よくわかんねぇよ。ボタだと幾らするんだ?』


『ボタだと買えないだろうな』


『マジかよ……』



こっちは元居た世界基準で勝手に話を進めているので、どうにも噛み合わない。

とは言え、今はコープとの軽口が俺の救いとなっている。

覚悟を決めたと言え、こうも短時間で次々と人の命を奪っているのだ。

勤めて気にしないように努力はしているが、完全に振り払う事はできない。


そうこうしている内に建物の出入り口が見つかり、俺達は此処で別れる準備をする。



「よし、私はマークとタケルとこの建物に残り、此処へ来た連中を始末する。バスク、倉庫襲撃の指揮は任せたぞ! 失敗は許されん」


「了解です。任せてください、隊長」


「木津君、君達はフィブリル嬢達との合流を優先してくれ。そして見事救出に成功したら、此処か倉庫へ向かうといい」


「はい。けど、その後はどうします……?」



今の所、敵対勢力の十名以上は始末している。

しかし、それでも敵方の数はまた二百名近く残っているのだ。

ラビィ達と合流し、装備を整えても此方が不利であるし、何よりも人質の件がある。



「……もし上手く合流できれば……そのまま脱出する。テラノの人達は……一先ず後回しにする他ないだろう」



その言葉を受け、俺はハンマーで後頭部を殴られた気分になる。

俺は自然とテラノの人達全員も救うものだと決め付けていたが、カークスさんはそうはしないと言ったのだ。


しかし、そう思っていたのは俺だけじゃなかったようであり、バスクと呼ばれているクルイストの福リーダーが声を上げた。



「お、お言葉ですが隊長!! 我々が此処を去れば、奴等は間違いなく気付きます! そうなれば、奴等は証拠隠滅の為にどう動くか……!!」


「我々がここを去り、ヤウラ……もしくはバハラへと撤退し、街に協力を呼びかけ討伐隊を編成し、そのまま戻ってきたとしても……マックス達は既に居ないだろうな。テラノの人達も……恐らく無事では済まないだろう」


「それが分かっているのならば!!」


「だったらどうすればいい……!?」



食い下がるバスクに対し、カークスさんが唸る様にしてそう返す。



「こうして無事に脱出できただけでも奇跡なんだ!! 木津君が居なければ我々はあのまま殺されていただろう!! 違うか!? たった……たった一つの切欠がなければ、我々は全滅していたんだぞ!?」



当初の発端、俺がクルイストの戦車を破壊し、依頼へと参加したその流れ。

確かに、アレが無ければ俺は間違いなく今回の護衛依頼に参加していない筈だ。

たった一つのその切欠が、カークスさん達の命を救う事となった。

それがどれ程の幸運なのかは、今の状況を考えると言うまでもないだろう。



「幸運は……長くは続かない。我々が今成すべき事は、自分達が受けた依頼を完遂する事だ。我々はハンターだ。……間違っても、ヒーローではない。それを忘れるな」



そうカークスさんが呟いたのを最後に、沈黙が場を満たす。

しかし、暫くすると後ろ頭を掻きながらコープが溜め息を零しつつ口を開いた。



「はぁ、なんつーか……。"だせぇ"よな、カークス」


「……なんだと?」



コープの言葉を受けて、カークスさんが眉を潜めた。

周囲に居た面々も、コープの言葉を聞いて表情に疑問符を浮かべている。



「だせぇっつたんだよ。それはお前に限った話じゃねぇ、俺達は間抜けにも奴等に出し抜かれ、包囲され、女達に言う事を聞かせる為っつー下卑た欲望の為に殺されもせずに捕まったんだ。これがどういう事か分かるか……? "舐められてる"んだよ、俺達ぁ!!」



そう最後に怒声を上げたコープ。

しかし、今は静かにしないといけない状況であるにも関わらず、誰もそれを止めようとはしない。



「そのまま依頼主を殴られ、女は連れて行かれ、此処を抜け出すのにも木津一人に頼りっぱなしでよぉ! 悔しいと思わねぇのか!? あいつ等をぶちのめしてぇと思わねぇのか!? いいか、カークス! これは"善悪の問題"じゃねぇ。"気に食わねぇかどうか"の問題だ!! ここで尻尾巻いて逃げ出して、テメェはそれでも男なのか!? あぁ!?」


「そんなの……言うまでも無い」



歯軋りしつつ、カークスさんはそう喉から声を絞り出す。

しかし、それでもコープは止まらない。



「いいや、言う必要があるね!! あいつ等をぶっ殺してぇって!! ほら、声に出して言うんだよ!! それとも何だ?! カークス、お前はそんな事も口にする度胸もねぇってのかよ!?」



ヒートアップしたコープはカークスさんの胸元を掴み上げ、彼に唾が飛び散る程の勢いで叫ぶ。


それを受けて、遂にカークスさんも目を見開き、コープの胸元を掴み返して怒号を飛ばす。



「――――ぶっ殺してやりたいさ!! あぁ、お前が言う様に私の足を撃ち抜いたマックスとかいうふざけた中年野郎をこの手で叩きのめし、奴が許してと懇願するまで殴り、蹴り、最後には足だけと言わず両手足をこの手で撃ち抜いてやりたい!!」


「そうだ!! それでいいんだよ!! 理由なんざどうだっていい、ハンターだ組合の勇士だの大層な肩書きなんか必要ねぇ。俺達が男である以上、やられたらやり返すだけだろう?! なぁ、そうだろうがぁ!!!」


『うおおおおおおおおおおおお!!』



歓声が上がる。

気付けば、俺も声を荒げていた。

殺意で塗り固まっていた心に、それとは別の火が灯るのが分かる。


やる気だとか、気合だなんて言う生温いものではなく、正しく火が宿ったのが分かる。

それが活力となり、体の隅々にまで染み渡る様な錯覚さえ抱く。

そうだ、今この瞬間、俺達は依頼だとかそんなの関係無しに正しく一つとなった。


目的はただ一つ……借りを返す。


それだけの為に、それだけの為だけに、男ってのは命を張れる生き物なのだ。




今日の更新はこれで終了です!

ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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