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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
75/105

殺す理由

※連続更新分です。注意してください。




「ほら、此処が今日からテメェ等の住処だ。って、言っても……数日程度の新居だろうがな、ぐひっ」



これが悪役だと言わんばかりの台詞をご丁寧に吐きながら、無法者達は俺達を鉄格子付きの独房へ押し込んだ。


とは言っても、俺達は二十人以上も居る大所帯だ。

押し込まれた部屋の広さは教室程度の広さもなく、大の男達がそこに入るとなると肩が触れ合うほどの距離しか確保できない。



「大人しくしてろよ? まぁ、縛られた状態じゃマスも弄くれないだろうがな!! 明日には悪臭で酷い事になってんだろうよ」



そう吐き捨てると、無法者達の何人かは鉄格子から僅かに離れた所にあるテーブルを囲み、椅子へと腰を下ろした。残りの大多数はどこぞへと去って行くが、流石に見張りを配置しないほどに愚かではなかったか。



「隊長……足の具合は大丈夫ですか?」


「弾は貫通してるし、動脈も外れていそうだが……。いかんせん、奴等は縛る程度の治療しかしてくれなかった。消毒もされてない、正直このままじゃ壊死しそうだ」


「ったく……!! なんだってんだ、奴等は!!」



クルイストの面々はカークスさんを囲み、気遣っている。

それを横目に俺は両手、両足に巻かれたロープに注視しながら、少し力を込めたりして耐久度を確認していく。



(うん、この程度なら問題ない。力任せでどうとでもなる。問題は、行動を起こすタイミングか……)



それと気になるのがテラノ住民の安否だ。

まさか数百人も及ぶ人達を虐殺したとは考えられないし、考えたくも無い。

恐らくだが、彼等はマックスに夫……あるいは妻子を人質に無法者達の世話をさせられていると考えたい。


しかし、そうなってくると新たな問題が浮上してくる。

それは此処から俺が今ここに居る面々と共に脱出して反抗を開始したとしても、奴等はテラノの住民を人質にして此方に降伏を迫る可能性があると言う事だ。つまり、俺達が反撃を開始するとしても街の住民の安全を確保、あるいは完全制圧するまで敵に最後までバレない様に行動するしかない。


前者の案は正直むずかしい。

俺達はこのテラノに入ってから街の住民を見掛けていないし、それに確認できたとしても数百人にも及ぶ人達の安全など確保できる筈も無い。


ならば後者の案で進めるしかないだろうか?

幸いにも時刻は夜中、見張りは複数とは言えど今は談笑して油断している。

更には加えて俺とラビィと言うイレギュラーが居るんだ。

ラビィに任せると伝えた以上、恐らく彼女もチャンスが巡ってくれば即座に動くはずに違いない。


そんな風に密かに考えを深めていると、何時の間にか近くに寄ってきたコープが小声で話しかけてきた。



『おい、木津! 何してやがる、お前ならこんな拘束一発で解けるだろ?!』


『……そりゃあね。だが、そう簡単にはいかないんだよ』



俺はそう答え、先程まで思考していた己の考えを小声で伝える。

するとカークスさんがそれに反応して、此方に賛同の意を飛ばす。



『確かに、木津君の言う事は尤もだ。我々が反抗を開始するにしても、タイミングとスピードが重要だ』


『はい、一度行動を起こしたら、最後まで一気に行くしかない。後戻りはできませんからね』


『だとすると……私は足手まといだな。この足では満足に動けない』


『た、隊長……』



確かに、スピードが重要なこの作戦でカークスさんの足の負傷は大きい。

そもそも、動脈を外れているとは言えど、大量の血液を流した事に間違いは無いのだ。

更に言うと今の彼の血色具合を見るに、まともに動けるかどうかも怪しい。



『そう、ですね……。なら、カークスさんと何人かは此処で待機してはどうですか? 見張りの交代が来ると同時に無力化してもらえば、俺達が脱走した事実が漏れるのを防ぐ時間稼ぎになります』


『しかし、それだと貴重な戦力が……』


『なに、重要なのはバレてはいけないと言う事です。正面からドンパチするのは準備が終えてから、でないと俺達は詰みですよ』



俺達が包囲された時に居た無法者の数は圧倒的に此方側を上回っていた。

更には軍の保護下に無いとは言え、数百人規模の集落を奴等は制圧していると言う事実がある。

つまり奴等はその数に睨みを利かせられる程の人数は有していると言う事だ。


手にしていた武器種にしたって、携帯型のランチャーや突撃銃なんかが確認できたし、数で負けている以上まともにやりあえば不利は明白であろう。いくら俺とて宇宙生物共に付与された力とラビィ便りに、それ等を無条件に打破できる筈も無い。



『とりあえず、目の前のあいつ等を無力化する。とは言え、流石に全員の拘束を解いて回るなんて目立つ行為はできない。最初の突撃の栄誉を賜りたい奴等は、俺の周囲に来てくれ』



そう冗談めかした口調で問いかけると、愚問だと言わんばかりにラウルの面々が名乗りをあげた。



『だったら俺達がやるぜ!! やられっぱなしは性に合わねぇ!!』


『そうだな!! 女性陣やフィブリルの穣ちゃんにした仕打ちを返すぞ!!』


『おら!! さっさとやるぞ、木津!!』


『声がでけぇよ、馬鹿!! また車両を揺さぶんぞ!!』



そう脅すと、少し顔を青く染めながらコープ達は興奮を冷ます。

俺は見張り達の注意がまだ此方に向いてない事を確認し、他の面々に指示を飛ばす。



『他の人達は俺やコープ達の拘束を解いてるのを見られない様に、奴等の視線を塞ぐ壁になって下さい』


『よし、分かった。皆、静かに動け……!』



相手方に見破られない様に各々が静かに位置を変え、壁ができる。

俺はそれを確認し、音が出ない様に徐々に力を込めて両手足の拘束を打ち破った。

続けてコープ達の拘束も解き、静かに鉄格子へとにじり寄る。


相手の人数は五人か、不意を突けば……いや、違うな。

俺が"覚悟を決めれば"、こんな襲撃なんて確実に成功する筈だ。

つまりそれは……手加減なんて言う、生温い意識を断ち切る事を意味する。


静かに息を吐きつつ、鉄格子を両手で握り締め、さっきの光景を脳裏に描き出す。

皆が好き放題に殴られ、カークスさんは撃たれ、女性達はあいつ等に辱めを受けた。


俺が居た元居た世界。

いや、少なくとも俺が住んでいた国では……恐らく先程の行為だけでは死刑なんて判決は下されないだろう。


だから"何だ"。

俺が今抱くこの殺意、周囲を渦巻く環境、そしてこれから訪れるかもしれない理不尽な仕打ち、連れて行かれた女性達の安否を気遣う事から生じるストレス。


――それだけで十分だ。俺は"それだけで"奴等を殺せる。


マックスが言っていた事はある意味事実だ。

本当に欲しい物があるのならば、我武者羅に手を伸ばさなくてはならない。

それが例え……他者を排除する事になってもだ。



『いくぞ……3、2、1で行く』



そうコープ達に告げた俺の声は、自身でもハッキリと分かる程に底冷えしていた。

それを受けてコープ達が静かに頷くと、俺は大きく息を吸い込んだ。



『3……2……1……!!』



瞬時にして鉄格子を力任せに捻りながら押し開き、俺は真っ先に駆け出した。


相手との距離は数メートルも離れておらず、加えて椅子に座っていた事で奴等はホルスターに収まっているハンドガンを抜きづらい。そもそもとして言うと、相手方は俺が攻撃可能圏内にやってくるまで、唖然としていた表情を浮かべていただけだった。



「な、なっ!?」



そう戸惑いつつ、最初に反応した男に向かって俺は迷い無く左拳を撃ち放ち、それを"振り抜いた"。


当たり所は鼻っ面、そして骨が砕ける所かその奥底まで拳がめり込んでいくのが見え、その直後に男は吹っ飛び、テーブルごと巻き込んで対面に居た男二人を押し倒した。



「馬鹿な!? なん……っべぇふ!」



続けて、吹き飛ばした男の右に座っていた男の後頭部に上から振り下ろす様にして右拳を叩き込む。


すると男はカエルが潰れた様な間抜けな声を出し、冷たい床に高速で顔をぶつけて赤い花を咲かせた。



「ハッ!!」



勢いをそのままに、左に座っていた男が立ち上がろうとしていた所に左の中段蹴りをお見舞いする。当たり所は相手の腰より少し上部分、普通の喧嘩ならそのまま掴まれるかして隙を与えてしまう悪手の蹴りだ。


しかし、ブーツのつま先に感じたのは相手の内臓を押しつぶす感触と、骨盤を砕くソレである。


男はそれを受けて瞬時に白目を向き、血交じりの泡を吹きながら軽く吹き飛び倒れこんだ。



「おらぁ!! 覚悟しろやぁ!!」


「死ね!! このやろぉおお!!」



そこまでした所で、背後からやってきたコープ達三人が残りの男達に襲い掛かる。

最初の男の吹き飛ばしに巻き込まれていた男二人はそれに抗う隙も無く、容易に無力化された。


コープ達がそのまま相手を痛めつけているのを尻目に俺は牢へと戻り、皆の拘束を解く。



「流石だな、木津君。とは言え、ステルス付きを撃破した君ならこれくらいは容易だったかな?」


「いえ……そんな事は、ないです」



カークスさんの賛辞に、俺は言葉を詰まらせて返す。

両拳に宿った先程の感触が消えない。いや、消えたとしても生涯俺は忘れる事はできないであろう。


人を殺したのはこれが初めてではないし、殺そうとした事もまたあった。

しかし、これは迫田やノーラさんの時とは状況が違う。

やろうと思えば、俺はあいつ等を殺さずに無力化できた自信もあった。


しかし、万が一にも起きるかもしれない失敗を嫌い、俺は殺人を決意した。

その事に後悔はない、している時でもないし、またするつもりもない。

今は一刻も早くこの窮地を脱するしかないのだ。


そう自信に言い聞かせながら、俺は背後でヒートアップしつつあったコープに気付き、声を掛ける。



「おい……コープ! あんま殴りすぎるなよ!! 奴等を尋問して情報を聞き出すんだ!!」


「情報だぁ?! あぁ……まぁ、確かにそうか」



コープは馬乗りになりながら相手を殴り続けていたが、声を掛けると素直に従った。

しかし、殴られ続けていた相手の顔面は血塗れであり、意識は既に無い有様である。

仕方なく、唯一意識を保っていた男の一人を拘束し、カークスさんが男に問いかけた。



「貴様等は何人居る? そして、女性達を何処へと連れて行った」


「…………知るか、カス」


「あぁ!? テメェ自分の立場が分かってんのか!?」



男がカークスさんの問い掛けにそう返すと、コープが瞬時に着火した。

俺はそれを片手で押し留め、男の頭を素早く無造作に右手で掴みながら言う。



「あのさ、忘れてるかもしれないが尋問する相手はもう一人居る。お前の仲間を思う素敵な意思は尊重したいが……」



言いつつ、ギリギリと右手に力を込める。

男は徐々に目を見開き、口も空けて唾液と共に苦悶の声も漏らす。

俺はそんな男の目を真っ直ぐ見つめながら最終警告を伝える。



「死を選ぶにしても、頭を握りつぶされる最後なんて嫌だよなぁ?」



言いつつ、俺は一瞬だけ力を強く込めた。

すると何かが砕け散る嫌な音が周囲に響き渡る。


しかし、それは別に俺が相手に止めを刺した訳ではなく、隠し持っていた小石を左手の中で握りつぶしただけだ。だが、俺に頭を掴まれていた男はそれが自身の頭から聞こえてきた音と勘違いしたのだろう、奴は直に懇願し始める。



「やめ、やめろぉ!! いう、言うよ!! だ、だからやめろ……せめて"マトモに"殺してくれぇ!!」


「酷い言い草だなぁ……」



そういう風に仕向けたとは言え、若干傷付いたぞ。


とりあえず、右手を奴の頭部から離す。

気付けば、男の股間部から湿った音といやに刺激的な匂いが漂い始めたのに気付き、皆が眉を潜める。



「確かに、お前達が言ってた様に悪臭が酷くなり始めたようだぜ」



コープがそう皮肉を飛ばすと、そこで各々が小さく笑い声を上げ、それが響き渡り始めた。


さぁ、反撃の開始だ。




日曜日ですし、三十分毎に後二話ほど掲載します。

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