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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
74/105

荒野の獣



実戦に勝る訓練は無い。

誰が述べた言葉か、或いは本に記されてた言葉かは知らないが、それはどうやら正しかった様だ。



『左翼に三機行ったぞ!! 後方の誰か!! 援護に回れ!!』


「俺が行きます! ラビィ、リロードは済んだか?!」


「はい、滞りなく」


「よし!! じゃあ行くぞ――!!」



ロード・キャッスルを出立してからと言うもの、明らかにこの旅の難易度は激増した。


無人兵器の襲撃は頻度を増し、砲兵の人たちが話してくれた様にグループを組んでる事が多い。


その目まぐるしい襲撃に対処しているお陰で、何時の間にか俺の運転技術も向上しつつある。


命が掛かってるんだから、それは当たり前だがな。

クラッチとギアを素早く操作し、アクセルを一気に踏み込んでスピードを増加させて素早く左翼に回る。


今の状況は最初にステルス型と遭遇した時の様に足を止めての戦闘ではなく、此方に追いすがろうとしてくる無人兵器と並走しながらの戦闘だ。


やはり隊商のトラックの最高速度はそんなでもなく、無人兵器の追撃を振り切るのはまず不可能である。必然、敵と遭遇したら戦う必要があるのだが、一つ幸運なのは必ずしも相手を撃破する必要が無いと言う事だ。



「ラビィ!! 足を狙え、足を!! あのカシャカシャと煩くて素早くて最高に気持ち悪い動きを止めてくれ!!」


「了解しま――!!」



ラビィの返事はM5の銃撃音に掻き消され、排出された薬莢が荷台に軽快な音を奏でた。

荒野でのデスレースを行うと、猛スピードで駆ける車両も無人兵器も大量の砂埃を巻き上げる事となる。


故に互いの位置は容易に分かりはすれど、車体や胴体に狙いが付け辛い。

が、そんなのは知った事かと言わんばかりに、ラビィが操作するM5が放った銃弾が砂煙に飛び込んで行き……盛大に何かが転ぶ音が聞こえた。


それと同時に更に大きく土煙が巻き上げられ、その中から反撃の銃火が飛んでくる光景がサイドミラーに映る。


しかし、それはダメージを受けた直後のバランスを崩した体勢から放った、苦し紛れの最後の反撃だ。狙いは大きく外れて地面か空の彼方に飛んで行き、相手が足を止めた事から一気に射程外へと逃げ切る事に成功する。



「いいぞ!! あと二機だ!!」



ああなってしまえば、凶悪な無人兵器とて荒野に置かれた素敵オブジェの一員だ。

機動力が鈍い兵器など死んだも同然である。

最初こそはパーツが剥ぎ取れなくて勿体無いとか思ってたが、この状況ではそんなアホな事を言ってられん。



『う、右翼からも新たに二機が追随してきます!! 反撃します!!』


『ああ!! ったく、こんなド派手にドンパチしてりゃあ、そりゃパーティに気づくわな!!』



そんな声が無線機から聞こえてきたと同時に、盛大な銃撃音も響いてくる。

外でも銃撃音が鳴り響き、中も無線機から絶え間なく大きな雑音が鳴り止まない。


まるで映画館の最前列で戦争映画でも見てる気分だが、今は自分がそれを行っている一人だと思うと泣きたくなってくる。


無人兵器の大半は虫、または四足歩行の動物を模った形をしている奴が多い。

中にはゾ○ドに出てくる様な奴もいたが、マジマジと眺める暇も無く集中砲火で撃破した。

今の所、その中でも一番厄介なのは以前に迎撃戦で撃破したスパイダー型の飛び蜘蛛である。


奴は体を丸めての高速移動で一気に接近してくるし、その体勢のお陰で流石のラビィも弱点への狙いが定まらないのだ。


しかも通常形態に移行したとしても、その名に相応しい跳躍を見せて攻撃を回避してくれるんだから驚きである。


塹壕で落ち着いて攻撃できた迎撃戦の時とは違い、今は走行しながらの射撃だから皆の攻撃もそう簡単には当たらない。


その証拠に、左翼ではまだラビィが撃破した一機以外はまだ追いすがっている。

左翼のチーム、ラウルとクライストのテクニカルが放つ攻撃は当たりはしているのだが、深刻なダメージを与えるには至っていない。


が、あの二つの車両が狙いを惹き付けてくれてるお陰で隊商のトラックが無事なのだ。

それに今の状況では此方としてもその方が動きやすい――!!


ハンドルを勢いよく回し、此方に気が向いていない無人兵器の左斜め後方に一気に詰め寄る。

自分でも惚れ惚れする程のベストな位置だ。



「よし!! ラビィ頼むぞ!!」


「了解しまし……? 失礼、弾が詰まりました。処理に数秒下さい」


「ぶっ!! そ、それはヤバイ!!」



今度はラビィの声が銃撃音で掻き消されず、そんな予想外の言葉が返ってきた。


こんな大胆な接近を試みたのはラビィの射撃の腕を信じていたからだ。

無人兵器とて馬鹿ではない、ここまで接近されれば流石に気がつくに決まっている。

神速的な攻撃で撃破すれば問題はなかったのだが、そんな欲が裏目に出てしまった。


見れば、無人兵器の体の彼方此方から突き出ている銃身から放たれていた銃弾が止まり、その黒光りする素敵な棒が一斉に此方へ向き始めた。


俺は咄嗟に左手でハンドルを右に切りつつ、助手席に放置していたMGL64を右手で掴むと運転席の外へ向ける。ラビィと会話する為に左の窓を開けといて良かった、もし閉めてたら一か八かの賭けで放つしかなかった。



「全弾持ってけ!! 締めて九百ボタだ畜生!!」



意を決して引き金に指を添え、連続でHE弾を打ち出す。

かなりの至近距離まで接近していたお陰か、ポンと気が抜ける様な音と共に発射されたHE弾は無事に全弾六発が着弾する。


発射音とは違って爆発した時の音は凄まじく、その大音量は勿論の事だが、熱量までも一瞬だけ感じ取れる程であった。



『ハハハハ!! 派手な事をしやがるじゃねぇか!! 自殺願望でもあんのかよぉ!? お前は!』


「うるせぇ!! 死にたくないからやったんだよ!!」



今の光景を目撃したコープがそう茶化し、俺はそれに怒鳴り返す。


そんな事を話している内にHE弾が作った爆炎が晴れ、無人兵器の姿が露になり始めた。

惜しくも撃破するには至っていないが、体の彼方此方から出ていた銃身は折れ曲がるか消失しており、装甲の幾つかも弾き飛ばされて内部が露出している。



「処理完了。沿矢様、今の相手のダメージを見て判断しますが。どうやら相手の足を落とすよりも、ここまで来ると直接止めを刺した方が弾薬費が安上がりで済みます」


「既に九百ボタの出費だがな!! まぁいいや、あいつに止めを刺せるなら仕留めてくれ!!」


「了解――!」



今度はちゃんとラビィの返事が掻き消え、M5の轟音が鳴り響く。

何だかこの音が心地よくなってきたよ、mp3に変換して一日中聞いていたい位だ。


ダメージを負いつつも辛うじて並走していた無人兵器は、装甲を失った箇所に12.7x99mm弾を集中的に浴びせられて体勢を崩す。地面へと盛大に体を擦り、倒れこむ姿がサイドミラーに映る。


ラビィが狙った場所にはAI、もしくは動力源でもあったのか、その機械の目から光が消えるのが確認できた。


それを確認しつつ左手でハンドルを操り、右手を器用に使ってMGL64の回転式弾倉を引き出し、薬莢を排出して床に落とす。その後は一旦助手席にMGL64を放置し、運転席の後ろに置いておいた弾薬箱を右手で探り当てて取り出す。


中を開けて弾を取り出し、そのまま弾倉に装填しようとした所でふと疑問に思った。



「やべぇ、発煙弾との違いが分からん」



俺にはそれがHE弾なのか、それとも発煙弾なのか分からない。

同じ位置に置くんじゃなかった、ってか印を付けておけばそれで済んだのに……。

どうするかと少し戸惑ったが、直に問題を解決する手段を思いついた。



「なぁ、ラビィ!! これってHE弾か?!」


「……はい、HE弾です。ですが、爆発物なので迂闊に落としたりしない様に注意してください」



少し苦しい体勢で右手を外に出し、確認を取ると直にラビィの返答があった。


流石はラビィさんだ。

今の俺にとって、彼女はグー○ル先生並みに頼りになる存在である。

流石のPDAも検索機能は備えてないからな、そもそもネットが駄目みたいだし。


そんな戦闘中とは思えないマッタリとした時間を過ごしていると、左翼に追いすがっていた最後の一機が撃破されるのが見えた。それを確認すると俺は元の車列に戻ろうとハンドルを動かし、少しだけ速度を落とす。



『木津!! …………良い腕だ。助かったぞ』



戻る途中で聞こえたその言葉、それが誰の物なのか一瞬分からなかった。

が、何とそれがコープが放った物だと気づいて俺は絶句する。

幻聴かと戸惑いつつも、何とか無線機に向かって反応してみた。



「……オイオイ。まさか、さっきの戦闘で被弾でもしてて、死に際の最後の台詞とかじゃないだろうな」


『うっせぇ!! どっちかって言うと、死に掛けてたのはお前だろうが!!』



そんな風に元気の良い反応が返ってきた所を見るに、どうやらコープは死に掛けではないらしい。


まぁ、今の様な状況下で、何時までも過去の事は引き摺っているのは馬鹿らしいわな。


そんな風に苦笑していると、右翼からも撃退したとの連絡が入る。

周りを見渡すと確かに無人兵器の姿が消えており、銃撃の音も止んでいた。



『各員、よくやってくれた。被害は出てないか? 弾薬の残りは十分か? 異常があれば直に言ってくれ』


『今の所は問題ないんですが、こんな戦闘が続けばバハラに着く頃には弾薬が枯渇してそうです』


『そうだな、何ともギリギリな旅路だよ。こんなにスリル満点なドライブは初めてだ』



確かに、今の所は何とか被害らしい被害は出てないが、弾薬の消費が激しいのが気掛かりだ。

後部にいるラビィに確認を取ると、既に12.7x99mm弾は二百五十発以上を放っており、残り半分を切っている。


仕方ない、次の集落に着いたら隊商の人達に弾薬が余ってないか聞いてみよう。

そうでなくても商売用の重火器を積んでるとも言ってたし、いざと言う時はそれ等の購入に踏み切るのも手か。



『皆、次の集落まであと少しだ。激戦続きで疲れているだろうが、頑張ってくれ』


『了解!!』



戦闘の熱が抜け切っていないのか、そんな風に威勢の良い返事が聞こえてくる。

当初はどうなるかと思ったが、士気の方は上々だ。

あんな風に多数の無人兵器を相手にし、無事に撃退できれば気分もいいだろう。


それは俺自身も例外ではなく、胸に宿る達成感が妙に誇らしかった。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






気付けば荒野を照らす光は赤へと変わっており、間もなく夜の到来である事を告げ始めている。


流石に夜での戦闘は御免だと少し焦りが出てきたが、次の無線交信で遂に待ち望んでいた言葉が聞こえてきた。



『各員、聞こえるか? 間もなく次の目的地であるテラノへ到着する。とは言え、最後まで気は抜かないでくれ。まずは左翼、問題は無いか?』


『此方はラウル、問題は無い。さっさと体を休めたいぜ……』


『だな。あー……シャワーでも浴びたいぜ。車内が男臭くて溜まらん』


『その点、Hopeの車内は花の香りで満ちているんだろうなぁ……。あぁ、想像したら余計に空しくなってきた』


『お前、その童貞臭い発言をやめろよ。そもそも花の香りなんざ知らねぇだろうが!! 俺だって嗅いだ事ないぞ!!』


『よし! それを確かめる為にもテラノへ到着したらHopeの車両へ赴こうぜ!!』


『お前さぁ……この会話がHopeにも届いてるって気付いてる?』


『…………さて、冗談は此処までにして集中しようぜ』



と、カークスさんの注意の声を無視して彼方此方で雑談の声が聞こえてくる。

これには俺も思わず苦笑い……どころか今の会話が変に壺に入って爆笑してしまう。

それに釣られた誰かも笑い声を上げ、暫く無線機からは大きな笑い声しか聞こえなかった。



『――かに。――各員、静かにしろ』


『おいおい、そう言うなよ、カークス。こんな会話も士気の向上には必要なんだぜ?』



流石にカークスさんが注意すると皆は口を噤んだが、コープはそう言って諭そうとする。



『私とて、諸君との会話を楽しみたいがね。残念ながら時間切れだ。ほら、アレが次の目的地テラノだ』


『おっと、いけね。もうそこまで来てたのか?』


『先程そう言ったろ? あそこは数百人は住む中々の規模である集落だ。何か情報を聞ければいいが……』



闇夜の先に浮かんできた集落。

いや、あれは……普通に町ではないのか?

崩れたビル、立ち並ぶ住宅地、そしてそれ等を囲む3、4メートル程の継ぎ接ぎの防壁。


パッと見た感じではあるが、クースのそれと似た雰囲気だ。

そんな疑問をポツリと零すと、カークスさんが答えてくる。



『元々、テラノは探索地だったんだ。しかし、二百年程前に全ての建物を探索し終えると、何処からか定住者が集まりだしたみたいでね。今ではすっかり一つの住居地として知られている』


「でも、態々こんな所に住むメリットがあるんですかね? ヤウラみたいな都市に居た方が安全じゃあ……」


『さてなぁ、なんせ二百年も前の話だ。私も詳しい事は知らない』



廃棄された町ではインフラが生きてるかどうかも怪しい。

今のテラノは多分大丈夫なのだろうが、当時は探索し尽くされてもいたそうだし、マジで何も無かったと思うのだが……。


そんな疑問を抱いていると、今度は無線にコープが割り込んでくる。



『今でこそ人類が生存している各都市は比較的安定してはいるが、数百年前まではそうじゃなかったんだ。権力争いや軍部の横暴さも酷く、貧富の差も今より更に酷かった。そんな場所に嫌気が差し、新たな安住の地を求めたんだろう』


「安定してる、ねぇ……」



今のヤウラでも路上で寝泊りしている輩は珍しくない。

けれど、コープに言わせればそれでもまだマシな方みたいだ。

今の世界状況を考えれば分からない事も無いのだが、少しばかりショッキングだな。



『ほぅ、コープ。やっぱり君は中々に博識なんだな』


『はっ、お前等が物を知らねーだけだろ?』



そんな風に煽ってくるコープに対し、俺はにししと忍び笑いを浮かばせながら言葉を返す。



「そう言ってくれるなよ。けど俺、綺麗な女性の芳しい香りは知ってるんだぜぃ?」



まぁ、もれなくその人と殺し合う羽目になったがな。



『あぁ!? くっ……! テメェが言うとマジで悔しいんだが……!!』


『あ、あのぉ!! も、もう香りどうこうの話は止めましょうよぉ!!』



結局俺達はそんな風に賑やかに会話を交わしつつ、テラノの正門前へと辿り着いた。

当然ながら、そこにも守衛が待機しており、各車両へと近寄ってライセンスの提示を求めてくる。

その提示も終わると、隊商のトラックが何時も通り中へと通っていく。


俺達は例の如く何時でも襲撃に対処できるようにと、町の外へ待機しようとしていたのだが、点けっぱなしにしていた無線機にカークスさんから連絡が入る。



『あー各員、聞こえているか? もし聞こえているなら返事を頼む』


『此方、Hope。どうしました?』


『ラウルだ、聞こえてるぞ』


「木津です、此方も聞こえてます」



各々が答えはしたが、その言葉には戸惑いが含まれていた。

しかし、その疑念は思わぬ朗報で散らされる。



『テラノの人達が折角だからと宿を用意してくれるみたいだ。どうやら此処でも碌に来訪者が訪れなかったみたいでね。格安で泊まらせてくれるとの事なんだが……』


『へぇ! 気が利くじゃねぇか!! いいじゃぇねぇか、お言葉に甘えようぜ!』


『で、でも私達は護衛の任を任されてるんですよ? そんな勝手していいんですかね……?』


『私もそう最初は辞退を申し出たのだがね、どうしてもと言って引き下がらないんだ。幸い、此処は集落にしては大規模な部類に入るし、それに比例して防衛力もそれなりだ。此処は一つ、疲れを癒すのも手だろう』


「カークスさんがそう言うなら、俺としても反対する理由はないですよ」



弦さんも『適度に気を抜け』とアドバイスしてくれてたし、別に悪い事ではないだろう。

それにいい加減、テントで毎晩ラビィに抱きしめられていては俺の理性が危うい。



『よし、今夜は疲れを癒す事にしよう。各員、今日はゆっくりと過ごしてくれ』



その交信を合図に、カークスさん達の車両が前進を始める。

俺達も続けて門を潜り、テラノ内部へと車両を走らせた。



「んー……何か人通りが少ないですね? もう皆寝てるのかな」



テラノの道路には人っ子一人見当たらず、各所に点滅する光源も少ない。

数百人は住む集落とは聞いていたが、夜だとこんな物だろうか?



『いや……今は夕飯時だ。それに、前来た時はもっと活気が……なに!?』


「――沿矢様!!」



カークスさんの驚愕の声と、ラビィの警告はほぼ同時であった。

俺が反射的にブレーキを踏み込むと同時に、先頭を走っていたカークスさんの車両近くに何かが着弾し、爆発する。



『襲撃だとぉ!? ちっ! 応戦を――!!』


『待てっ……待てぇ!! どうやら……我々は詰んでいる様だ』



コープが応戦の意を発すると、直にカークスさんから待ったの声が飛ぶ。

そんな彼の言葉に従い、周囲を一瞥すると、彼方此方から武装した集団が飛び出してきた。


彼等は小銃やら携行型のロケット砲等を所持しており、此方を完全に包囲する形となっている。

一瞬でも車両を動かせば、瞬時に此方が無力化されるのは間違いないだろう。



「……ラビィ、自分の身に致命的な危険が及ぶ時以外は行動するな。俺がもし殴られたりしても、反応するんじゃない」


「……了解です。マスター」


「とりあえず、怪しまれない様に武鮫を外すか」



ラビィに短くそれだけを告げ、俺は素早く武鮫を取り外し、次に思考を走らせる。

ラビィが警告を発しなかった事を考えると、恐らく彼女も町の彼方此方にいた生体反応がまさか敵対勢力であると考えが及ばなかったみたいだ。


いや、そもそもとしてどうしてテラノの内部でこんな事が起きた?

彼等はこの町の住人なのか? それとも……。



「おら、テメェも降りろ!!」



そんな事を考えている内に、窓の外に近寄ってきた一人の男がそう怒鳴りつけてくる。


俺は大人しくその言葉に従い、ゆっくりと車両から降りる。

すると周囲にいた男達が瞬時に俺が着ていたローブを剥ぎ取り、続けて防弾チョッキを外し、腰に巻いていたホルスターを引き千切る様に取りあげた。


見れば、ラビィも似た様な対応をされていた。

俺に対する男達と違う所があるとすれば、彼等の荒い息遣いと、下卑た視線であろう。

更にあろう事か、奴らはボディチェックと称して劣情を露にしながら彼女の体を弄り始めた。



「……――ッ」



口内で、嫌な音が響き渡る。

食いしばった歯があまりの強さに悲鳴を上げているのが分かった。



「はっ、何を悔しがってるんだ、ガキ? テメェの女だったの……かっ!」



そう嘲りを受けると同時に、腹をライフルのストックで殴られた。

痛くも痒くもなかったが、俺は素直にくの字に体を曲げ、地面に両手を着いてわざとらしく咳き込んでみせる。



「軟弱なガキだな……いい気味だ」



そんな言葉を受け流しながら、俺はばれない様に周囲へと視線を向ける。

すると男性陣は俺の様に殴られて無力化され、藤宮さん達はラビィと似た様な扱いを受け始めていた。


その光景を見た瞬間、自身の中でどす黒い何かが埋め尽くしていくのを感じる。

迫田や、ノーラさんに抱いた時と……いや、それ以上に強い殺意が埋め尽くしていくのが分かってしまう。


俺とラビィだけならばいい、相打ち覚悟でも抗ってみせる。

しかし、今そうすれば確実に他の皆も巻き込んでしまう。

今我慢しなくては、確実に全てが終わる。


――だと言うのに……!!


アスファルトの地面につきたてた爪が皹を入れ、僅かな音を鳴らす。

今までどんな苦境だろうと抗って見せた。

しかし、今回は違う。今回は抗わずに耐えなければいけないのだ。


それが、こんなにも辛い事だなんて……!!


このまま何も考えず叫びだし、両の腕を振り回してしまいたい。

今すぐにコイツ等を……●×せたら――!!



『やめろ、馬鹿共。 此処で盛るんじゃねぇ。テメェ等の汚いケツなんざ見たくもねぇ……。ってか、俺に断り無く"俺の戦利品"に手を出すつもりか? あ?』


「や、やだなぁ。ボス! これはただの所持品確認でさぁ……」



怒りで理性を失う寸前で、ソイツは現れた。

近くの住宅の屋根にこれ見よがしに立って見せ、注目を集めたその男は満足そうに笑う。



「やぁやぁ、ようこそテラノへ。俺が今のテラノを纏める代表者……ん~……マックスとでも呼んでくれ」



マックスと名乗ったその男は白髪交じりの中年であったが、その振る舞いはまるで十台半ばのチンピラの如く飄々としていた。


何も隠されて無いその体付きは至って普通……いや、むしろ痩せていると言って良い。

見える箇所に身に付けている装備はなく、HAを装備している様にも見えなかった。


こんな優男がこいつ等を纏め上げてるボス……?

迫田の様な深い狂気も、ノーラさんの様な凄みも、何も感じられない。


そんな考察をしていると、カークスさんが殴られた腹を押さえつつ言う。



「ふざ……けるな。テラノの代表者には会った事がある。貴様の様な者とは断じて違う!!」


「だ~か~ら、"今の"っつたろ? はい、オッサンは罰ゲーム!! やっちまえぃ♪」


「おら!! 舐めた口聞いてんじゃねぇよ!!」



マックスが罰ゲームと称すると、直にカークスさんが男達に殴られ始めた。

顔面から血が飛び散り始め、何度も殴られるも、それでも彼は膝を着く事はしない。

そんなカークスさんを眺めつつ、マックスは演技じみた動きを織り交ぜつつ言う。



「あんら、見た目通りタフだね?! つまんないなぁ……ゲームは皆を楽しませないと駄目だろぉおおおお? ……撃て」


「なっ、待て!!」



そう誰かの静止する声が聞こえた同時に、銃声が響き渡った。

驚愕で向けた俺の視線は、足を打ちぬかれて地面に倒れこむカークスさんの姿が映る。

だが、彼は苦悶の声を漏らしてはいるが、悲鳴を上げずに耐えていた。



「マジ……? うっわ、スゲェ! オジサンまさに組合の奴等がのたまう勇士って奴だね!? うほほほ♪ はいはい、皆拍手ね! 拍手!! 偉大なオジサンを称えよう!! うん!!」



マックスが頬を紅潮させながら興奮気味に拍手するが、他の面々は戸惑った様に顔を見合うだけだ。


すると突然にマックスは動きを止めると、深い溜め息を零して後ろに手を回し――た、次の瞬間には引き抜いていたハンドガンで、奴の仲間である筈の男の頭を無造作に撃ちぬいた。



「拍手っつてんだろうがよぉ!? あぁ!? 死ねよ!!」


「あ、い……す、すげぇ! すげぇよオジサン!」


「あぁ、ほ、本当に驚いた!!」



マックスが恫喝すると、ようやく他の面々は疎らに拍手を鳴らし始めた。

それを受けてようやくマックスは満足そうに笑い、ハンドガンを仕舞う。



(ちっ、こういうタイプか。迫田とはまた別の意味で狂ってやがる)



迫田は力で周囲を従わせていたが、どうやらマックスは恐怖で従わせるタイプの様だ。

一見するとキチ○イの行動の様に見えるが、恐らくあれはマックスがわざとそう振舞っているに違いない。


人間、理解できない物には自然と恐怖を抱く物だ。

アイツはそんな他者の本能を利用し、操る術に長けている人物なのだろう。

もしくは本当に狂ってるという線もあるが、もしそうならそれはそれで困るから厄介だ。



「あぁ、ほらほら! レディ達が寒がってるじゃないかぁ~。何か羽織らせなさいっ! 風邪を引いたら可哀想だろぉ!?」


「う、うっす!」



男達はそんなマックスの指示を受け、今度は女性陣に様々な衣服を羽織らせていく。

その様子をうんうん頷きながら見守っているマックス。


すると先に街中へ入場していた隊商の人達が奥の道から拘束された状態で連れられて来た。

当然ながら一緒になって連れられてきていたフィブリルさんも姿を現し、毅然とした態度でマックスに向かって言葉を告げた。



「わ、私はフィブリル商会のロン・T・フィブリルの娘、ミル・T・フィブリルと申します!! 貴方達の目的が何か存じませんが、もしも私達に危害を加えればフィブリル商会だけではなく、北方都市キスクも黙ってまわせんわよ!?」


「ふぃぶ……? 良く分かんないけど、どこぞの商会の娘さんなの? へぇ~……」



マックスは興味深そうにしながら屋根から飛び降り、フィブリルさんに近づいていく。

近くまで来ると奴は彼女の周囲をぐるぐると動物園の熊の様に何度も歩き回る。



「はぁ、ほぉ? ふん……? つまりアンタはお嬢様……? へぇ……パパは大金持ちなの?」


「ぼ、ボタが目的なら額を言いなさい!! 我が商会なら、大抵の額を支払えます!!」


「ボタ……? ははっ、何でボタなんて欲しがらないといけねぇの?」


「ぇ……?」



その返答は予想してなかった。

そう言わんばかりの表情を見せるフィブリルさん。

そんな彼女の表情を見ると、マックスは困った様に眉を寄せながら大手を広げて演技じみた動きを見せる。



「例えばさ、俺が百万ボタ払うからアンタとやらせてくれぇ~! って懇願したらどうする?」


「な、何を下種な……! 例え幾ら支払われようと、私はボタで体を売るような真似はしません!!」



マックスはその答えを聞くと、悲痛に顔を歪めながら吼える。



「でしょおおおおお!? そうなんだよ!! 困った事にさぁ、本当に欲しい物はボタなんかじゃ手に入らないんだよねぇ!! アンタがさっき断った原因はプライド? 世間体? それとも好み? まぁ、理由なんざどうでもいいけどさ……。つまりはボタがあった所で、結局は本当に欲しい物が手に入る機会なんざ実は全然ねぇんだよ!!」



そう怒鳴りつけると、マックスは右手を振るってフィブリルさんの頬を打った。

その音は静まり返った夜闇を切り裂く様に鋭く、大きく響き渡る。

しかし、それでもフィブリルさんは毅然とした態度のままマックスを睨み付けた。



「つまりさぁ、ボタじゃねぇんだよ。本当に欲しい物があったらさぁ、我武者羅に手を伸ばすしかねぇんだよ。法? 罪悪感? そんなの知った事じゃねぇ。 この崩壊した世界で綺麗事を抜かしてるテメェ等の方がどうかしてんだよ。お分かり?」



マックスはそう言うと、先程殴りつけたフィブリルさんの頬に手を添え、まるで愛しい我が子を撫でる様な動きを見せる。



「……ケダモノ」


「そうさ、ようやく分かった? だからさぁ、俺はアンタを好きな様に弄ばせてもらうぜぇ……?」



マックスはフィブリルさんのヘソの辺りに人差し指をゆっくりと突き刺しながら、グリグリとめり込ませて行く。周囲に居た男達がそれを見て、野次を飛ばしながら大きな歓声を上げる。



――この様子だと、男は良い扱いを受ける事はなさそうだ。



そう認識し、俺は冷や汗を流す。

奴等は正しく犯罪者だ。

やりたい放題を目的とした無法者であり、後先を考えてない。



「まっ、けど常時反抗されても興醒めだからさ。男達は人質って事にしとくね? もし俺の意向に逆らう様な事があれば、適当に殺していくんで……な? おい、連れてけ」


「おら、立つんだよ!!」



マックスの合図を機に俺達は拘束され、連行されていく。

しかし、対する女性陣は別に纏められ、どこぞへと手厚く保護された状態で去っていくのが見えた。


その際にラビィと一瞬だけ視線が合い、俺は直ぐに素早く口を動かして伝える。



――任せる。



短いその一言。

しかし、それを受けてラビィは静かに微笑んだ。

これでいい、彼女ならば拘束された状態でも容易に脱出が可能であろう。

その過程で藤宮さん達も連れ出してくれれば、それでいい。


そしてそれは俺も同じだ。

例えどんな拘束が成されようと、俺の膂力でそれを脱する事は安易だ。

問題があるとすれば……。



「此処に住んでいた、テラノの住民はどうなったんだ……?」



マックスがこの街を占拠した流れと、この場所に住んでいた住民の安否が気掛かりであった。







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