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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
72/105

思い出はありのままで




情報を集めようと歩き出したのはいいが、誰かに話しかけようにも躊躇ってしまう。

ブクスでも経験したが、情報を聞く代わりに物を要求される流れは確実にあるだろう。


しかし、こんな状況で下手に缶詰でも取り出してみたら、四方から人が押し寄せてきそうだ。

飢えているならば、弾では妥協してくれるかも怪しいし……。



「ふむ、下手に話は聞けそうにないな。どうする、ソウヤ?」


「そうですね、何とか比較的に冷静な人達が居れば……ん?」



と、其処で俺達の前に誰かが立ち塞がった。

そしてそれを見ると周囲に居た人々も早足で駆け寄ってきたので、俺は咄嗟にローブをずらして武鮫を見せ付ける様にし、続けてDFもホルスターから抜く。



「ま、待ってくれ! 撃つな!」


「撃ちはしない、其処を退いてほしいだけだ」



見れば、フェニル先輩もハンドガンを構えていた。

彼女は正面に立つ人々に道を譲ってほしいとの趣旨を伝えたのだが、彼等は構わずに言う。



「あ、あんた達はハンターなんだろ? 食料を持ってたら分けて欲しいだけさ! 勿論、対価は支払う」



立ち塞がった一人がそう言うと、持参した何かの機械の部品を此方に見せてくる。

フェニル先輩はそれを見ても冷たい眼差しを浮かべたまま答えた。



「隊商の方に行け、私達はハンターだ。商人ではない」


「勿論行ったさ!! けど、他の集落にも売り分ける必要があるって言って、これ以上は無理だと言われたんだ!!」



フィブリルさんは一つの集落で全ての荷を捌く訳ではなく、分け与える様に商売してたのか。

まぁそうでもしないと、いざ他の集落で貴重な部品があったとしても、大量の食品との交換だとか言われたらお終いだもんな。



「そうか。だとしても、だ。私は食料を持ち歩いていない。持っているのは私達を包囲している輩を撃ち殺せるだけの弾薬だけだ」



そう吐き捨て、フェニル先輩は威圧するかの様に小さく笑った。

その物騒な言葉を受けて周囲の包囲が少し下がったが、今度は俺に矛先が向く。



「き、君はどうだ? そのリュックの中には何か入ってるんじゃないのか? いや、そうに違いない!!」



何を根拠に断言してるんだ、貴方は。

まぁ、確かに幾つか缶詰を入れてはいたけどさ……。


しかし、そのまま素直に出そうとしてもマズイだろうな。

かと言ってリュックの中身を見せずに立ち去ろうとしても、穏便に行かせてくれそうもない。

仕方ない、此処は一つ人の絆を試してみるか。



「……うーん、ちょっと待って下さいね」


「おい、ソウヤ!?」



素直にリュックを下ろそうとすると、フェニル先輩が声を上げて止めようとしてくる。

俺はチラリと目線を配り、心配ないと伝える為に少し口角の端を持ち上げた。

そのままリュックの中を漁り、俺は一つ頷いて見せる。



「えぇ、ありますねぇ。缶詰が十個ほど」


「やっぱりそうか! じゃあコレと交換してくれ!! 一つでもいい!!」


「俺にもくれ!! このバッテリーと交換しよう!!」


「私は無誘導弾を持ってるわよ!? 交換して!!」



とまぁ、こうして混乱が起きる訳で。

気付けば人々は互いを押し退けて怒声を上げ始める。

下手をすれば殴り合いすら起きそうな勢いだ。


そうなる前にと俺は武鮫の拳を勢いよく振りかぶり、そのまま右手に当てると大きな音を鳴らした。



「はいはい!! 皆さんの主張は分かりますが、この缶詰は十個しかないんです。だから……俺とゲームをしませんか?」


「ゲーム? 何をするって言うんだ?」



呆然と動きを止めた人々の中からそう質問が飛ぶと、俺は注目を集める為に両手を振り翳して説明する。



「ルールは至って単純!! 俺の合図で手を上げた人達とだけ缶詰と部品を交換します。けれど、もし手を上げた人数が十人以上居たら缶詰は交換しません。あくまで交換できるのは十人だけ、それ以上は駄目、十人以上居たらそこで御終いです!! 交換は無し!!」


「はぁ!? それの何処がゲームだってんだ!? そんなの破綻するに決まってるじゃねぇか!!」



至極全うなツッコミが入るも、俺は構わずに続ける。



「破綻? どうしてですか? 別に貴方達で誰が手を上げるか相談しても俺は構いませんよ」


「そ、相談してもいいってのか?」


「勿論、これは貴方達に有利なゲームです。なにせ俺は部品の優劣も構わずに交換しますから。酷い鉄屑を持ってる相手を代表にしても俺は恨みませんよ? 但し、相談する時間は十分だけです」


「な、何でそんなゲームをやるんだ? 君に何のメリットがあるってんだ?」



そう問われると俺はニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、腕を組みながら言う。



「そりゃあ勿論、貴方達の絆を試す為ですよ。極限的な状況下で人は互いに信じる事ができるのか!? ってね。いやーこういう機会がないと人の信頼関係の有無って見られないですよねぇ」


「な……随分と悪趣味な奴だな」



そう呆然と呟いた男を睨み付け、俺は憮然とした態度で声を出す。



「あん? こっちは代わりに不利な条件でゲームを提示してるんですよ? それとも何ですか? 貴方達は隣人を信じてないんですかぁ? 信頼してるなら、こんなの悩む程の条件でもないですよね?」


「そ、そういう訳じゃない!!」


「だったらさっさと話し合って決めて下さいね~。誰が交換する事になっても、納得できる人員をね。はい、スタート!!」



俺がPDAを構えて時間を見ながらそう言うと、集落の人々は顔を見合わせて戸惑ったが、暫くすると輪になって話し始める。



『よし、誰が手を上げる?』


『……こうなったら、チヅさんが手を上げたらどうだ? 貴方は幼い子供も居るんだ』


『え? だけど……いいのかしら?』


『いいもなにも、缶詰は十個しか無いんだ。なら、もっとも必要な人が手にするべきだろう? 欲を見せて失敗したら目も当てられない』


『あ、ありがとう。そう言ってもらえると助かるわ』


『よし、次は……』



どうやら人々はこの異常な流れで気分が落ち着いたのか、冷静に状況を見極め、行動する事にしたらしい。


その様子を腕を組んで眺めていると、フェニル先輩が小声で話し掛けてきた。



『おい、ソウヤ。君は何がしたいんだ? 交換するならするで、適当にしてしまえば良かっただろ? 逃げるにしたって君なら簡単だろうに』


『それでも良かったんですがね。そうすると交換できなかった人と仲間内で争う火種になるだけです。それに逃げたって状況は変わらないですよ。此処はそう広い集落でも無いですし、混乱が広まる可能性が高い。もしそうなれば、ヒートアップした人々が隊商の略奪に走るかもしれない』



俺の懸念はまさにそれだった。

断るにしても人々は殺気だってるし、逃げるにしても混乱が起きる。

更には交換に応じたとしてもだ、彼等は互いに手にした缶詰を巡って奪い合いが起きるかもしれないのだ。



『このゲームを介する事で火種にならないと?』



フェニル先輩が怪訝にそう問いかけてきたが、俺は曖昧に笑いながら首を傾ける。



「どうですかね、咄嗟の思い付きですから……。はい! 十分ですよ!! 散って散って!!」



俺がそう注意すると集落の人々は輪を崩し、緊張した面持ちで此方にやってくる。



「よし、準備はいいぞ。けれど、一つ質問がある」


「何ですか?」


「例えば、手を上げたのが九人だとしたら、余った缶詰はどうするんだ?」


「どうもしません。何時か俺の昼飯になるだけです。チャンスは一度きりですよ」



俺の答えを聞くと相手は背後を向き、頷いて合図を送る様にした。



「……よし、やってくれ」



そう言うと、男は息を吐いて気合を入れる。

俺はチラリと各々に視線を向け、勿体ぶるかの様に腕を組んでニヤリと笑って見せた。



「よーし……じゃあ行きますよ~? …………缶詰欲しい人は手を上げてっ!!」



ババッ、と勢いよく手が挙がる。

そしてその手を上げた数は九人。

俺はそれを見て顔を片手で押さえると、これ見よがしに悔しそうな素振りを見せる。



「うそぉ!? そこは誰かが欲を出して失敗するパターンでしょ~~? あーぁ、参ったなぁ……」


「へへっ、俺達の信頼関係を舐めるなっての。よし、これで交換してくれるんだよな」


「念の為に九人でセーブしてた癖に、よく言いますね……」



恐らく、万が一のミスを恐れて九人で手を上げる事にしたのだろう。

十分と言う時間でよく話を纏める事ができた物だ。

しかし、返ってきた言葉は実に堂々とした物であった。



「違う、これは俺達の信頼を確かめる為だ。俺達はあえて十人目を選ばなかった、互いを信じる為にな。もし誰かが欲に釣られて十の手が挙がれば、俺達の信頼関係が崩れ去るのは目に見えてる。けど、そうはならなかったろ? 残念だったな、人の信頼関係が崩れる所が見られなくて」



ほう、十人で手を上げなかったのは自分達の信頼関係を見せ付け、俺を悔しがらせる為だったのか。


実際としては俺は全然悔しくもないし、そう合って欲しかったんだけども。

しかし、そんな事を言う訳にもいかず、悪役らしくその挑発を肩を竦めて受け流す事にする。



「はいはいっと、当選者は前にどうぞ~」



俺が無愛想にそう言うと手を上げた代表者の男女が素直に並び、次々と交換を済ませていく。

交換される物はよく分からない部品ばかりだが、少なくとも全くのゴミって訳でも無さそうだ。

全ての交換が終わると彼等はまた輪になって談笑し始め、和やかな雰囲気を築き上げている。



「驚いたな……険悪な空気がこうも晴れるとは思わなかったぞ。これを狙ってやったのか?」



フェニル先輩が唖然とした面持ちでそう言うが、俺はそれに苦笑しながら答える。



「人間、共通の敵が立ち塞がると協力し合う物です。ですから、今回の例でいくと俺がその敵になってみました。とは言え、失敗したらしたで大変な事になってたかもですが……」



ぶっちゃけ、賭けに近い対処法だった。

仮に失敗してたとしたら、缶詰ばら撒いて逃げる所だったわ。


それに此処の人間関係が俺の所為で破綻する恐れもあったのだから、実に笑えない。

まぁ、俺とフェニル先輩に彼等が襲い掛かってもおかしくない状況での対処だったし、それ位のリスクを背負わせるのもアリだろう。


今度こうした殺気渦巻く所を歩く時は、威嚇の為にM5でも翳しながら歩いた方がいいだろうか……。


そうして自分の今後の振る舞いを思い悩んでいると、フェニル先輩の賞賛の声が飛ぶ。



「いや、実に面白い対処法だった。こうした面倒など、武力で解決するのが一番だと思ってたよ。銃を撃てば、人は退くか襲い掛かってくるかの二択だし、気楽だからな」


「えぇ……? 随分と殺伐としてません?」



そういう場面は映画とかでもよく見るけどさ、現実では見たくないよ。



「何を言うか、今の荒廃時代では極普通の対処だ。逆に自分が危機的状況なのに相手を気遣う君の方が異常だぞ?」


「まぁ、穏便に済むならそれが一番ですからね。上手くいって良かったです。にしても、此処の人達はよっぽど食料に困っ……て?」



そう言いつつ、俺の脳裏にふと違和感が持ち上がった。

それはこのロード・キャッスルに訪れた時に身分証明を要求してきた守衛二人の様子である。


彼等は少し無礼な立ち振る舞いではあったが、あれはストレスからくる横暴な態度と言うよりは彼等自身の性格っぽかった。つまり……守衛達は満足な食事を摂れているのか?


俺に浮かんだその考えをフェニル先輩に話すと、彼女は小さく首を縦に振りながら賛同する。



「確かに、彼等の健康に異常はなさそうだった。兵士に満足な状況を与えなければ反逆される恐れもあるしな。この集落の指揮を執る者の判断は妥当ではある」


「じゃあ、やっぱり此処の住民じゃなくて守衛の人に話を伺った方がいいですね」



守衛相手なら弾薬でも話してくれそうだし、それにもう缶詰も一つしかない。残りは車両にしか無いのだ。


そうと決まると話は早い、近くで見回りしていた守衛が居たので俺は早速話しかける。



「すみません。ちょっと聞きたい事があるんですが……その、これで」



話しかけた瞬間に『あん?』と言わんばかりに睨みつけられたので、俺は素早く懐から7.62x51mm弾を取り出して見せた。すると今度は『分かってるじゃないか』と言わんばかりに笑顔を浮かべ、素早く俺の手からそれを掻っ攫ってポケットに仕舞う。


凄いな、ここまで来ると呆れるよりも関心しちまうよ。人間、ここまで即物的になれるんだな。



「聞きたい事と言われてもな。見ての通り、最近は色々と問題が重なってて忙しいんだ。何を知りたいんだ?」


「まず聞きたいのだが、此処の住民が飢えかけているのは来訪者が激減したからと言う理由で合ってるか?」



何を聞こうか迷っていると、フェニル先輩がそう言って確認をしてくれた。

聞かれた守衛は肩を竦めながら皮肉った言い回しでそれに答える。



「おぉ、凄いな。良く分かったもんだ。冗談だよ……そう睨むなって。確かに、アンタの言うとおりだ。都市部からの商人どころか、ハンターやマーセナリーすら訪れん。かれこれ二ヶ月位になるかな? 最後に此処へ来た来訪者はヤウラからの商人だな。前はヤウラ、バハラと商人が交互に来てくれてたんだが、バハラからの来訪者が途切れちまった」


「……ブクスと同じだ」



俺が呟く様に言うと、守衛はそこで初めて真剣な表情を浮かべた。



「何だと? ブクスも同じ状況なのか?」


「えぇ、まぁ……。その、此処では誰か南の方角で変な物を見たとか騒いでたりしてません?」


「南? それに変な物って言われてもな……」



馬鹿正直に『ベース・ウォーカーを見ませんでしたか?』等と聞けば要らぬ混乱を招きそうなので、曖昧に尋ねてみた。


彼はそのまま暫く唸る様にして考え込んでいたが、やがて諦めた様に溜め息を吐く。



「すまんな、見ての通り俺は居住区を警備する仕事なんだ。そういう周囲の状況を見たり聞いたりって話は、上の砲兵達のが詳しいだろう」


「そうですか。じゃあ……無人兵器の襲撃回数が増えたとかってあります?」


「ふむ、確かに最近は少し多かった様にも感じたが……上の奴等がすぐに吹き飛ばすからな。よくは分からん」


「……そうですかぁ、砲兵の人達は随分と腕が良いんですね」


「当たり前だ。あいつ等の父親も砲兵で、そのまた爺さんも砲兵だ。代々受け継がれてきた知識と技術を継承してるのさ、あいつ等は」



まぁ、数世紀と言う長い年月の間、此処を無人兵器の攻撃から凌いできたのだ。

当たり前と言い切る彼の口調は自慢気でも何でもなく、ただ極普通の事を述べただけだと言う態度である。



「上へ行くにはどうしたら? やっぱり道路をあがって行くしか無いんですかね?」


「はっ、そんな事したら撃たれちまうぞ。ほら、あそこを見ろ。俺達の手製エレベーターがある」



あそこ、と指差された場所を見て我が目を疑う。

幾つ物パイプを組んで上部まで繋がっているそれを良く見ると、確かに内部に籠らしき物がある。その傍らにはエレベーターの操作をするであろう守衛が一人居て、近くには鉄の鎖が巻きつけられた滑車があった。


随分と古いタイプのエレベーターだな。

とは言え、梯子で上り下りするよか大分マシか。



「俺達でも乗せてもらえます?」


「あぁ、"然るべき対処"をすればな」



また物々交換かよ。

里津さんの忠告を聞いて補充しといて良かった。

この調子じゃ護衛依頼を終えるまでに何発消費するか分かったもんじゃない。

下手したら戦闘で消費するよりも多くなるんじゃないか?


そんな不満を何とか押し殺しながら、俺は頭を軽く下げて感謝の言葉を口にする。



「それでは、俺達はもう行きます。ありがとうございました」


「おう、じゃあな。ここの上からの眺めは絶景だぞ」



そう言って彼はブラブラとしたやる気の無い足取りで去っていった。



「それじゃ、行きましょうか。フェニル先輩」


「……あぁ、そうだな」



早速エレベーターへと向かい、その前に居た守衛に7.62x51mm弾を渡して上に送る様に頼む。

彼はそれに沈黙で答え、慣れた手つきでエレベータの扉を開ける。

中に入るも籠の中は狭く、精々入れるのは五人程度位だろうか。足元は網状の床であり、余裕で足元の景色が見える。


これを組み立てるパーツが余程少なかったのか、それとも製作者の意地の悪さが出ているのか判断に悩む。



「……? あの、フェニル先輩? どうしました?」



籠の中に乗って振り返ると、フェニル先輩が口元をローブで隠す様にしながら俯いていた。

そんな彼女は話しかけられると素早く顔を上げ、少し早足で乗り込んでくる。



「な、何でもない。行こう!」



彼女が籠に乗り込むと直に守衛が扉を閉め、ロックする。

彼はそのまま近くの滑車に向かい、滑車のレバーを掴むと徐々に動かし始めた。

一瞬だけガクンと籠が揺れ、バランスを崩しかける。



「きゃ……!!」


「ぅえ? だ、大丈夫ですか?」



何とも可愛らしい悲鳴を上げ、フェニル先輩が俺のローブを掴んでくる。

確かに今の揺れは俺も驚いたが、何よりも彼女の悲鳴の方が驚いたよ。

思わぬレア体験に満更でも無い気持ちを抱いていると、彼女の表情が優れない事に気づいた。



「まさか……フェニル先輩って高い所が駄目ですか?」



すると彼女はカーッと顔を赤くし、此方の視線から逃れる様に顔を背けた。



「し、仕方ないだろう!? 大半の人生を地上で過ごして生きてきたのだから、宙に恐れを抱くのは人として当然だ!!」



なんか、ガン○ムに出てきそうな台詞だな。

そのまま繋げて『だから、私はスペース○イドを駆逐するんだ!!』とか言いそう。



「ハハハ、大丈夫ですよ。俺は以前エレベーターごと落下しても無傷でしたから。いざって時はフェニル先輩を抱えて守ります」



廃病院で落下した距離は相当だったが、俺は普通に無事だった。

もしかしたら百式に殴られたダメージに隠れて、落下のダメージに気づかなかっただけかもしれんが。


まぁ、ダメージはいいとしても落下の浮遊感が最高に気持ち悪かったんだけどね。



「そ、そうか? じゃあ……いざと言う時に備えて、もっと近づいておく必要があるな」



フェニル先輩はそう言うと、俺の方にしなだれかかる様にして体を預けてきた。



「ぅえ!? え、あ……そうなる……のかな?」



これは思わぬ僥倖である。

まさか、女の人を合法的に抱けるチャンスが来るとは。

と、思ったが既に昨晩ラビィから長時間抱きしめられてたな、俺。


昨晩の記憶を思い起こせばなんて事は無い、俺は至って冷静に表情を保ち続ける。

もし昨日の体験がなければ、俺はさぞキモい笑顔を浮かべていたかもしれない。


ありがとう、ラビィ。

君は俺に様々な初体験をさせてくれるね、お陰でこうして助かってる。

けど、その内にアハーンな初体験もラビィで済ませそうで怖いわ。


そんな未来予想図が脳裏を過ぎって静かに戦慄を感じていると、ようやく籠が上に着いた。


上にもエレベーター前に待機している守衛が居て、彼は何とも訝しそうな表情を浮かべながら扉のロックを外す。



「余所者が上に何のようだ? 言っておくが、此処はカップルにお勧めの観光スポットなんかじゃないぞ」



そう妬むなよ、オッサン。

俺がリア充にでも見えているのか、少し憮然とした態度で守衛は出迎えてくれた。



「ほら……着きましたよ、フェニル先輩」


「あ、あぁ」



フェニル先輩はようやく俺から離れ、少しふらついた足取りで一足先に籠から降りていく。

その後を追って俺も籠から降り、周りを見渡して感嘆の息を零す。


立体交差である高速道路の高さはやはり結構あった様で、遥か先の荒野が一望できる。

道路の各所には大小様々な砲や銃が置かれており、どうやらそれ等の銃身が下から見えていた様だ。


突然降り立った部外者に誰もが一度は視線を向けてきたが、直にそれを外して荒野を見つめる。

そんな態度から推測するに、どうやら彼等はかなり仕事熱心の様だ。



「ようこそ、ロード・キャッスルへ。俺達の城壁に何の用だ? 見学なら隅で頼むぜ」



誰に話を聞こうか迷っていると、一人の男が歩いてきてそう話しかけてきた。

城壁と言いながら彼は右足を軽く上げて道路を叩いて見せ、言葉を強調させる仕草を見せる。


暗に『出て行け』と言われている様だが、そんな微笑ましい脅しで引き下がる程、俺も柔な体験をしてきた訳じゃない。



「生憎と、立派な壁はヤウラで見飽きてましてね。用があるのは貴方達です」



礼儀には礼儀を、皮肉には皮肉で対応するのがベストである。

すると相手は一瞬だけ呆然とした表情を見せ、次に顔をくしゃりと歪ませて笑い声を上げた。



「ハハハ!! た、確かに玄甲と比べられたらどうしようもねぇわな!! 全く、いい返しをしやがるじゃねぇか」



何が彼の笑いを誘ったのかは分からんが、先程とは打って変わって上機嫌になる。



「久々の来訪者だってのに、無礼な態度を見せてすまんな。最近は色々と問題があってな……」


「いえ、気にしてないです。それより……よければその問題とやら話してくれませんか?」


「別に構いやしないが……面白い話じゃないぞ?」


「大丈夫だ、私達は少しでも情報が欲しいからな。何でもいいから話してくれ」



と、其処でようやく気分が回復したのかフェニル先輩が参戦してきた。

彼女にそう諭された守衛は負けたといわんばかりに後ろ頭を掻き、渋々と重い口を開く。



「下で聞いたかもしれんが、まず無人兵器の襲撃回数が明らかに増加した。更に異常なのはどれも単独じゃなかったんだ。最低でも二機、多い時は五機のグループを組んでた時もあった。それと……やけに機動性が高いのが混じってる時が一度だけあった」


「高いと言うのはどれ位だ?」


「そうだな。何時もなら二、三発と砲撃を撃ち込んで相手の突撃スピードを落とした所に本命を叩き込むんだが、その一機は牽制の攻撃が着弾する前にさらに加速してきやがった。これはやばいと判断して、素早く全砲門をソイツに向けて撃ち込んだよ。流石にそれ程の面攻撃を受けちゃ、スピードは意味を成さない。ようやく被弾して機動力が落ちた所を集中的に攻撃して何とか仕留めた」


「……もしかしたらネームド付きの可能性もあるな。そいつのパーツは残ってるか? もしあるなら確認してみたい」


「おいおい、話を聞いてたか? ソイツに火力を集中させて仕留めたって言ったろ? パーツどころかネジ一本すら残らなかったよ」



流石にそれは誇張しすぎだろとは思うが、見るも無残な姿になったのは容易に想像できる。

フェニル先輩もそれ以上は追及できないと悟ったのだろう、残念そうに溜め息を零して見せた。



「機動性が異常だったのはその一機だけですか? 他には居なかった?」


「あぁ、後は何時も通り楽なもんだったぜ。とは言っても数ばかりは多いもんだから、お陰で弾薬の消費がやばい事になってたんだ。あんた等が来なかったら、ヤウラかバハラに誰かを向かわせてたかもしれないな」



それにしても……動きの良い無人兵器か。

ベース・ウォーカーと何か関連性があるのかな? これも後でラビィに聞いてみよう。



「他に異常は無かったですか? ほら、此処は見晴らしもいいじゃないですか? だから、例えば何かを見たとか……」


「……ふーむ。いや、悪いが何も見てないと思うぞ。此処の連中は目が良い奴ばっかりだからな、何か見たなら気づいた筈だ」



ベース・ウォーカーは此方側に来てないのか?

一応、PDAを開いてブクスの位置とキャッスル・ロードの位置を確認する。


ブクスは此処から北東にあり、トテさんが山とやらを目撃したのは其処から南に真っ直ぐだと仮定すると、確かにズレは生じてるか……。



「そうですか、分かりました。色々と聞いて仕事の邪魔をしてすみませんでした」


「なーに、良い気晴らしになった。良かったら、下に戻る前に記念撮影でもしたらどうだ? そのPDAが撮影機能も無い安物だって言うなら、謝るがな」



何ともまぁ、嬉しい気遣いをしてくれる。

確かに、こうした風景をPDAで撮影してたら帰った時に皆に見せられるぞ。



「それじゃあ……折角ですし、お言葉に甘えさせて貰ってもいいですか?」


「あぁ、勿論だ。じゃ、PDAを貸してくれ。俺が撮ってやるよ」



おいおい、何処まで気の利く人なんだ。

確かに俺が撮影すると手ぶれとかしそうだし、素直に任せるかな。



「ありがとうございます。じゃあ、これを……」



貸してくれ、と差し出された手にPDAを乗せ、お礼の言葉を述べる。

すると何とした事か、彼はにこやかに笑顔を浮かばせながら、軽い口調で思いもしなかった言葉を口にした。



「それじゃ、お若いカップルさん達は其処に立ってくれ。笑顔を忘れずにな」


「………………あ、そういう流れかぁ。成る程な」



そこで俺はようやく彼が的外れな親切心を見せていた事に気づく。

これはイカンと苦笑しながら否定の言葉を口にしようとするが、それは俺のローブを掴んだ何者かの手によって阻止された。



「よし、ソウヤ。さっさと並ぶぞ」


「ぇ……? ぁ、はい」



グイグイと俺のローブを引っ張るフェニル先輩はやけに乗り気だ。

それともさっさとこんな事を終わらせて下に降りたいのかな?

彼女は高い所が苦手みたいだし、多分そうだろう。



「オイオイ、折角なんだからローブを脱いで腕を組んだっていいんだぜ? 人前だからってそう遠慮すんなよ!!」



何でアンタはそんなにテンションが高いんだよ。


咄嗟にそうツッコミかけたが何とか堪え、横目でフェニル先輩に視線を向けてどうするかを尋ねる。すると彼女はニヤリと意地の悪い笑顔を浮かべてそれに答え、自分のローブに手を掛けた。


どうやら、彼女はこの状況を楽しむ事にした様だ。

ならば俺が躊躇する必要も無い。

俺もローブを脱ぎ、身軽な格好になる。



「コイツはたまげた。お前HA装着者かよ?! ははっ、少しボロボロだが良い装備だ」



いえ、コイツはただの鉄腕で、昨日は無人兵器をボコったからボロボロになっただけなんです。



「ほら、ソウヤ。もう少しこっちに来い、腕が届かん」


「はいはい、これがご所望の右腕ですよ。姫様」



冗談を言いつつ右腕を差し出すと、なんとフェニル先輩は本当に腕を組んできた。

てっきり手を繋ぐかどうかして適当に誤魔化すと思ってたのだが……。

やばいな、最近少し嬉しい初体験が多いよ? もしかして俺死ぬんじゃない?


右腕の柔らかい感触に思わず笑顔が浮かんでしまい、その直後にシャッターの音が鳴った。



「よし、撮れた!! 良い出来だ。特に……お前さんの表情が傑作だ」



クックックと忍び笑いを浮かばせつつ、彼はそう言ってPDAを返してくる。

手にしたPDAの画面には当然ながら俺とフェニル先輩が写ってはいるのだが……。



「何だ? ……ほほぅ、随分と緩んだ表情じゃないか」


「…………だって、あんなの不可抗力ですよ。当然の事態が起こっただけなんです」



画面に写る俺の表情は何とも緩い笑顔であり、あらぬ想像をしてそうだ。

対するフェニル先輩は綺麗に微笑んでおり、何とも奇妙な組み合わせである。



「わ、ワンモア!! もう一度チャンスを下さい!! こんなの誰かに見せれないですよ!! すみません、もう一度いいですか?!」


「ハハハ、悪いが断る! こういうのはな、ありのままでいいんだよ。そうした方が思い出として強く脳裏に焼き付くんだ」


「いや、こんなん焼き付けたくないわ!! お願いしますから!! マジで!!」



そんな風に必死にお願いするも、彼は笑いながら断って去っていってしまった。

どうやら俺はこの記憶を引きずって生きていくしか無い様だ。ファック!!



「ふふふ、良い写真だ。もし良かったら、ヤウラに帰った時に現像して私にもくれないか? 流石にPDAを購入するのは手間だからな」


「え……えぇ、いいですよ。けど、どこで現像できるんですかね?」


「組合で頼めば請け負ってくれるぞ。あそこでは賞金首やネームド付きの画像も印刷してたりするしな」



そんな風に話し合いながらエレベーターの前に戻ってくる。

そのまま扉の前に立って担当の守衛に視線を向けると、彼はそのままゆっくりと手の平を差し出してきた。



「…………五発でいいですか?」



帰りの分も料金を取るのかよ。ふざけてやがる。

もし上って来る時に払った分で俺が無一文になってたらどうなんの? 突き落とされんの?


なんともまぁ、そんな風にグダグダとした終わりとなってしまった。

だけど、フェニル先輩との写真が撮れたのは嬉しい誤算だったな。





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