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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
71/105

存在証明



俺達は既にブクスを離れ、次の集落へと向かって南下している最中だ。

昨日とは違って空は雲一つとして無い快晴である。


そのお陰か日差しが強くて熱気が渦巻いており、時折荒野の先に蜃気楼が見える時があるぞ。

昨夜は結構寒かったのに気温の上がり幅が激しいな。

荒野の気象は砂漠に似ているのだろうか。


しかし、視界は良好だ。

隊商のトラックにも乱れは生じないし、雨も降ってないから昨日の様に泥にタイヤが嵌ったりもしない。


ただ、ベース・ウォーカーと遭遇するかもしれないと言う危険性があるので油断はできないな。とは言っても、山の様にデカイとの特徴がある敵だ。もし居たとしても遠目から直に視認できるだろう。



――pppppp……!!



PDAに設定しておいたコール音が車内に鳴り響く。

無線の定期交信の時間なので、無線機の電源を入れる。



『各員、間もなくロード・キャッスルに到着する。今日はトラブルもなく、そろそろ気が抜けてきている頃かもしれないが最後まで集中する様に頼むぞ』


『あぁ、分かってるよ。しっかし、ここら辺は少し建物が残ってるな。だからと言って探索したくはねぇがな。ハハハ』



そんな風にカークスさんの注意が飛んだが、軽く雑談が返ってくる反応を見るに効果は今一と言った所か。


だが、誰かが述べたその言葉通り、ここら辺では時折に前世界のビルや建物がポツポツと見える。


地面にはコンクリート道路の名残も僅かに残ってたりするし、もしかしたらこの辺りは無人兵器の攻撃を受けて壊滅した街があったのかな?


しかし、ロード・キャッスルとは面白い名前をしてる集落だな。

ブクスとは違う外見をした場所なのかな? 今から見るのが楽しみだ。


とまぁ、俺もそんな風に若干気が抜けていた。

だが、その時であった。

遠く彼方に突如として黒い物が霞める様に見えてくる。


ベース・ウォーカーの存在の懸念していた俺はまさかと思い、一瞬だけ体が固まりかける。

しかし、荷台に居るラビィは何の反応を見せない。

つまりは……何の問題も無いと言う事だろうか。


一応警戒しながら車両を走らせていると、徐々にその姿がハッキリと見える様になってきた。

あれは……高速道路の立体交差点か? だとしたらかなりでかいかもしれない。

海外とかで良く目にする様な巨大なタービン型だろうか? それともクローバー型?

まぁ、適当に言ってみたが区別は着かない。何となくそんな種類があるってのは知ってるけども。


その浮かび上がった高速道路の下には、トラックが荷台として使う大型のコンテナが散乱している。

一見すると打ち捨てられた様にも見えるのだが、それは妙に正しく並べられており……。



「……ん? 人が居る? あ、もしかして家代わりにしてんのか?」



前に屈む様にしながら視界を凝らすと、そのコンテナの周りには結構人が居る事を確認できた。


中にはブクスにあった様にキャンピングカーを家にしている人達もいるが、此処では大型のコンテナを家屋として使っている人のが多い様だ。


しかし、高速道路の下だけでも結構な数の住人が居る。

多分、上の方にも住人は居るのだろうが、だとしたら百人以上は軽く居るかもしれない。


そのまま考察をしながら高速道路に近づいていくと、高速道路の上では幾つか砲塔の様な物が飛び出ているのに気づいた。


それだけならそんなに驚きはしないのだが、なんとその砲塔は少しづつ横に動いていってる。

まさか戦車が巡回してる? いや、それとも大砲に車輪でも着けて動かしてるだけなのだろうか?

その正体を確かめ様にも、此処からじゃ少しばかり難しい。


高速道路自体は少し行った所で崩れてたりして、どの車線も不安定ではある。

が、幸運にも立体交差として機能していた部分全体は現存しており、そこを拠点とした集落の様だ。


此処の立体交差はとにかく巨大であり、幾つかの車線が交差してできている建造物だ。

近くに行くと威圧感にも似た雰囲気を感じてしまう。

なるほど、ロード・キャッスルとは確かにこの場所に相応しい名前だ。


隊商の車列を護衛したまま俺達はその真下に入ろうとしたが、その寸前で車列が停止する。

窓を開けて身を乗り出して見れば、どうやら先頭で集落の人達からストップが掛かった様だ。


身分証明でもしてるのかな? ブクスではそんなに時間が掛からなかったのだが、此処では嫌に時間が長い。


そのまま車内で暫く時を過ごしていると、先頭から銃を携えた守衛っぽい二名が歩いてきた。

彼等は此方に真っ直ぐと近づき、窓を叩いて開ける様に指示してくる。

チラリと周りを見渡せば、他の車両も同じ様な対応を受けているのが見えた。

仕方なく、窓を開けて相手と顔を合わせる。



「ヤウラのハンターだそうだな? ライセンスを出してもらおうか」


「後ろのお前もだ。早くしろ」



とまぁ、少しばかり高圧的な態度の二人だ。

此処で渋ってトラブルを起こす訳にもいかないし、素直に従ってライセンスを見せる。



「はい、これが俺のライセンスです。後ろの彼女は……俺の同行者で、組合には所属してないんです」



なんとなく、この人達にはラビィがヒューマノイドである事は伏せておこう。

要らぬ興味を惹いて時間を取られたら厄介だし。



「同行者だぁ? まぁいい……ふっ、確認した。おい、次に行くぞ」



オイコラ、その含み笑いは何だ。

畜生、俺のランクを見て馬鹿にしたな?

こうなってくると意地でもランクを上げてみたい気もするが……まずは借金の返済が先だ。我慢我慢。


ロード・キャッスルはブクスとは違って壁はないが、立体交差の高さを生かして多数の砲を上部に備えているみたいだな。


近づかれる前に倒すってスタイルなのか。

だとしても、ステルス型の様な相手だと危なくないかね?

それとも接近を判別できる機材とかあんのかな?


そんな事を考えていると、ようやく車列がゆっくりと進み始めた。

そのまま徐行を維持したままで立体交差の真下に入り込み、直に停車する。

すると何としたか、周りからその様子を伺っていた集落の人々が直に隊商のトラックに群がる様にして集まってきた。


余りの勢いに唖然としてしまうが、こういうのは普通の事なのか?

言ってしまえば繁盛してるって事だもんな。


そんな風に戸惑いを覚えながら、一応トラブルが発生していないか無線機の電源を入れてみる。

すると案の定、俺と同じ疑問を抱いていた各々が会話を交わしていた。



『おい、カークス!! あいつ等を止めなくていいのか? 少し異常だぜ』


『私もそうは思うが、隊商の人達が無線に反応しない事を考えるとトラブルではないのだろう。見た所、略奪を受けている訳でもない』


『で、でも一体どうしたんでしょう? まるで、みんな飢えているみたい……』



藤宮さんのその呟きを聞いて、確かにそうかもと思い当たった。

隊商との交渉が済み、人混みから離れた一人の男性がその場で手にした缶詰をこじ開けて食っていたりもする。


まさに餓鬼と言った様な、鬼気迫る姿で無意識に唾を飲んでしまう。



「カークスさん。もしかしたら、これ……」


『ふむ、私も同じ考えが過ぎったよ』



俺が確認取るように無線で呟くと、カークスさんの強張った様な声が返ってくる。

しかそ、そんな会話は無線機の電源を入れている各々にも届くわけで、直に他の人達が食いついてきた。



『何を話してるんです、リーダー? この状況に心当たりがあるのですか?』


『……確証は無かったのだが、ブクスである情報を耳にしていた。ベース・ウォーカーが南の地でうろついていたと言う、な。今の状況を見ると、それは当たりかもしれない。南から訪れる来訪者が最近ヤウラにも来なくなった言う現状もあるしな。恐らく、ベース・ウォーカーの存在がこの付近一帯の交通を塞き止めているのだろう』


『ベース・ウォーカーだと!? カークス、お前そんな怪物が居るかもしれないって情報を俺達には黙ってたのかよ!?』


『……お前自身が言ってるとおり、あくまで"かもしれない"との不確定情報だったんだ。無闇に不安を煽るのは避けたかったんだよ』



コープが非難の声を大きく上げるも、カークスさんは対照的に冷静な態度で釈明した。

が、ベース・ウォーカーと言う驚異的な存在を耳にし、無線機からは皆の戸惑う様な声が漏れてくる。



『き、機種は!? 判別できているんですか? リーダー!』


『馬鹿が、一番小さい奴でも全長が軽く百メートルは超える怪物だぞ!? 俺達では手に負えん、火力不足だ!!』


『い、一旦ヤウラに戻って報告すべきでは?! 今南進するのは危険だろう!!』



ラビィの説明を受けて薄々とベース・ウォーカーの脅威を分かっていたつもりでいたが、それは自惚れだったかもしれない。


今の様に同業者達の不安混じりの声を聞いて、俺は初めてベース・ウォーカーが並大抵の敵ではないと確信できた。



『落ち着け!! まだ確証は得られていないと言っているだろう!! ……とりあえず、此処の住民達からも情報をできるだけ集めるんだ。これからの行動を考えるのはそれが済んでからだ』



カークスさんがそう言うと、暫くして各自から小さく了解の返事が聞こえてくる。

不味いな、みんなが浮き足立ち始めているのが俺でも分かる程だ。

こんな調子ではベース・ウォーカーどころか、そこ等辺の無人兵器相手でも苦戦しそうだぞ。

カークスさんが情報を黙っていたのは、コレを見越しての事でもあったのか。


とりあえず、此処はもう集落の中だ。

隊商から少し離れた位置に車両を動かし、停車させて降りる。

すると、俺から少し離れた場所で停めた偵察戦闘車両からカークスさんが降りてきた。

彼は俺を視認すると一つ頷きを返し、真っ直ぐ歩いてくる。



「君の推測が正しい可能性が出てきたな。この状況では仕方ない、私はフィブリル殿にベース・ウォーカーの事を伝えてくるよ」


「え? でも、情報を集めてからでも遅くは無いんじゃ……」


「とは言ってもな、さっきの会話は無線交信で流れてしまった。隊商の誰かが密かに聞いてたりしたかもしれん。ならば不審を抱かれる前に先に報告しておく必要がある」


「……そうですね。分かりました、俺はまた情報を集めてきますんで」


「あぁ、気をつけてな。……見た所、ここの住民は随分と殺気立っているからな」



そう言ってカークスさんは鋭い視線を周囲に向けた。

それに釣られて俺も周囲を見渡すと、何やらコソコソと此方を眺めながら会話をしてる輩が目に入る。


こういう場所では完璧な自給自足が難しいのか、食料や水が不足してるのだろう。

だから交通の便が途絶えた今、外部からの来訪者がそれ等を所持していないか目を光らせてると言った所か。


一応周囲を確認するも、畑らしき場所や豚とか牛を飼育してる場所も小規模ながらあるにはあるんだが……。どうやら、ここの住民全てをそれで食わせていくには難しいのだろう。


ってか、豚とか牛ってこの世界で普通に居たんだな。

見た所は造形に異常もなく、奇形化もしてない。

以前食べた鶏肉に関しても味に異常はなかったし、何だか安心したぜ。



「ラビィ、すまないが此処で待機しててくれ。車両を放置するとヤバそうだからな」



そう命令するとラビィは不満気に目を細めた。

恐らく、俺の単独行動を快く思っていないのだろう。

そんな彼女の分かりやすい反応に苦笑しながら続けて言葉を発する。



「大丈夫だ。また藤宮さんか、他の誰かに同行してもらうからさ」


「……その前に無線機をお忘れなく。沿矢様、どうかお気をつけて下さい」



ラビィの注意を受け、助手席から無線機を取り出して車両から離れる。

向かう先は藤宮さん達のテクニカルだ。

彼女達も車両を停止させ、三人で周りを様子を伺いながら警戒している。



「どうも、何だか大変な事になってきましたね」



片手を上げながらそう言って話を振ると、まず真っ先に里菜さんが声を上げた。



「大変と言うか、災難と言うか……。まさかベース・ウォーカーが話に絡んでくるとは思ってなかったよ」


「あの、木津君。ベース・ウォーカーの件はまさか……?」



藤宮さんはそう言って、確かめる様に聞いてくる。

俺はそれに頷きを返すと、軽く頭を下げて謝罪した。



「はい。トテさんの話がどうにも気になってラビィに確認してみたんです。そしたら山の様にデカイ無人兵器が存在するって分かった物ですから、一応カークスさんに伝えておいたんです。黙っててすみません、あくまで仮定の話として考えてたもので……」


「ううん、謝らないで下さい。その考えに至らなかった私が未熟なんですから」



そうやって許しを得ていると、車両に寄りかかっていたルザード先輩が静かに口を開く。



「とりあえず、今は情報を集める必要があるな。木津もそのつもりなのだろう?」


「はい。けど、此処の雰囲気が少し妙でしょう? だから、このまま一人で出歩くのは心細くて……良かったら、誰か同行してくれませんかね?」


「ハハハ、デートの誘い文句にしては少し弱気だな。この状況下では、もう少し強気の方が女は安心するぞ?」


「へ? じ、じゃあ……少し顔を貸せ、女が居た方が男の口が軽くなるからな……な~んて!」



珍しく、ルザード先輩が冗談を口にするので俺も乗っかってみた。

すると彼女は口角の端を持ち上げて愉快そうに笑う。



「ハハ、強気ではあるが女性への気遣いが今一だぞ。まぁ、今はそれで十分か。シズ、クミ、私が木津と情報を集めてきてもいいか? 昨日は一日中銃座に着いてたからな、気分転換がしたいんだ」



そう言って、ルザード先輩が二人に同意を求めた。

直に快諾の声が返ってくるのかと思ったのだが、同意を求められた二人は微妙な表情を浮かべている。



「……フェニル、一応確認するんだけど……昨晩の事は冗談だったんだよね?」


「何だ、まだ気にしてたのか? そうだと言っただろう、疑い深い奴だな」


「いや、それにしてはアンタの態度がやけに……ねぇ?」



里菜さんは渋い表情を浮かべながら、何やらルザード先輩に不審の眼差しを向けている。

確かに、そう言われてみれば何時ものクールさとは違う気がする様な……。

何だろうか、爽やかさが増してる感じがする。



「……分かった。二人とも、気をつけてね? 無線機の電源はずっと点けておくから、何かあったら連絡して」


「はい、それじゃ行きましょう。ルザード先輩」


「ん、そうだな。二人とも、なるべく早く戻るよ」



そのままルザード先輩と横並びになり、集落を見て回る。

とは言っても、歩いてる場所は立体交差の高速道路の下だ。

上へ向かうには少し離れた所にある道路を登っていかないといけない。



「とりあえず、まずは下に住んでる人達に話を聞きましょうか。ベース・ウォーカーの目撃情報を期待するなら、この上で見張りをしてた守衛の人達に話を伺った方がいいんでしょうが、そっちは後回しで……って、どうしました?」



話をしながらチラリと横目を向けると、ルザード先輩が微笑みを浮かべていたので思わず言葉を中断してしまった。



「いや、何。思えば、木津とこうして横並びになったのはクースの時以来だなと思ってな」


「はははは、そうっすね。あの時は色々と大変でしたが、何とかなりましたよね。ルザード先輩のお陰です」



あの時、ルザード先輩がキャンプに負傷者を運び込んできたお陰で、病院で何が起こってるのかが分かった。


言うなれば、彼女のお陰で藤宮さん達を助け出せたんだよな。

更に言ってしまうと、ラビィとの出会う切欠を作り出してくれた事にもなるのか?

まぁ、その代償として百式と真正面から殴り合う破目になったが……。



「……前々から思っていたのだが、どうして私だけ先輩呼びなんだ? 組合に属した時間で言うならば、シズやクミも木津より上だぞ?」


「え? あ、いや……最初はそう深い意味はなかったんですが。ルザード先輩はクースで廃病院に向かう人達に警告したり、負傷者を助けてたりしてたでしょ? それを見たり聞いたりして『ああ、この人は頼りになる』と思って……今では尊敬の念を込めてそう呼んでる感じですかね。あ、でも他の人達を尊敬できないって訳ではないですよ?! 藤宮さんや里菜さんも、よくあの状況で生き残っていたと思いますし……」


「ふふ……そうか。だとしても、な。少しばかり他人行儀で私は寂しいよ」



えぇ? そうかな? 俺は先輩呼びって好きだけどなぁ。ギャルゲーの後輩キャラって可愛いし。


これから花の高校生活が始まり、いずれは先輩呼びして俺を慕ってくれる後輩女子に巡りあえたかも知れなかったのにUFOに拉致されたからな。


そう思うと宇宙生物共にまた新たな怒りが浮かび上がってきてしまうが、マスター呼びしてくれる銀髪美人に出会えたのだからチャラかもしんない。



「だから、な? 先輩呼びをするにしても、これからは名前の方で呼んで欲しい」



そう言うと、ルザード先輩は流し目で此方を見ながら様子を伺う。

対する俺は思わぬ提案に少しだけ驚いてしまった。



「え、え? ルザードじゃなくて、フェニル先輩……で良いんですか? でも、俺は年下ですし……」


「組合に属した身では、歳の差など何の意味も無いさ。大事なのはお互いに認め合えるかどうかだ。私は木津を認めている。君はどうだ……?」



そんなカッコイイ台詞を言われたら、俺にはもうどうしようもない。

此処で断りの選択肢を選ぶ奴は、ギャルゲーのBADENDを見たいだけの輩ぐらいだろう。



「勿論、俺も認めていますよ。それじゃ……フェニル先輩、これからもよろしくお願いします。俺の事も、これからは名前で呼んでください」


「ああ、分かった。ソウヤ、此方こそよろしく頼むぞ」



フェニル先輩は笑顔を浮かべながら右手を差し出してくる。

この世界に来てからという物、あまり握手に良い思い出が無い俺は少しビビッてしまうが、何とか此方も右手を差し出す。


柔らかく手を掴む俺とは対照的に彼女は力強く手を握り締め、軽く上下に揺らす。



「よし、それでは行こうか。あまり二人を待たせると私がどやされる」


「ハハハ、仲が良さそうでいいじゃないですか。ラビィも良い子なんですが、やっぱりジョーク類にはあんまり反応してくれなくて……」



殺伐とした周りの雰囲気を他所に、俺とフェニル先輩は和やかに会話をしながら歩み進めた。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






「そうですか、ベース・ウォーカーが……。ところで、ベース・ウォーカーって何か分かるかしら? ニルソン」



カークスからベース・ウォーカーの件を報告されたミル・T・フィブリルは、隣で顔を青くし始めた付き人であるニルソンにそう尋ねた。


尋ねられたニルソン本人は驚愕の余り目を見開き、先程とは違って瞬時に顔を赤く染め上げながら大声を出す。



「え、えぇ!? し、知らないんですか?! ベース・ウォーカーですよ?!」


「貴方、馬鹿? 知ってたら尋ねないでしょ」



ミルはそう言って呆れ顔を浮かばせたが、呆れたいのはこっちだとニルソンは心中で吼えた。



「ベース・ウォーカーはその名の通り、無人兵器達の動く基地その物なんです!! しかも、厄介な相手になるとその内部に小規模なプラントと製造工場を構えている型もあって、素材さえあれば無人兵器達の修理、整備は勿論の事、新たに製造もできるんですよ!! つまり、奴等の破壊活動の過程で幾つもの都市や集落を壊滅させる度にダメージを受けたとしても直に回復できるし、下手をすれば搭載している無人兵器を増やす事も可能なんです!!」



鬼気迫るニルソンの説明を受け、数秒の時を要して徐々にミルはその表情を驚愕の形に動かしていく。



「まぁ!! そんな危険な無人兵器が存在しているの!? 大変じゃない!!」


「そうですよ!! しかも、素材さえあれば整備や修理ができるベース・ウォーカーの護衛に就いている兵器達は、荒野を彷徨っている奴等と違って万全な状態なんですよ!! つまりはフルスペックで動く事ができるから、桁違いの戦闘力を誇ります!! だから、大変どころの話じゃないんですよぉ~~!!」



そう、ベースウォーカーの真価は無人兵器達のスペックをフルに発揮させる環境を整えている事だ。

普段ハンター達が荒野で戦う無人兵器達は前世界での激戦を生き残り、その後も数世紀の時を戦い続けた"老兵"である。


搭載する弾薬は壊れた同士から貰い受け、損傷したパーツも同士から抜き取りつつ、継ぎ接ぎだらけの体で何とか生き抜いてきたのだ。


そんな状態では本来のスペックを発揮できる訳もなく、全盛期には程遠い。

そもそもとして言うならば、"そんな状態"の相手に対してですら今の人類は苦戦しているのだ。

その事を考えると、前世界での戦争が如何に激しく、絶望的だったのか容易に想像できる。


ベース・ウォーカー直属の護衛、並びに搭載された無人兵器達がいわば"真の無人兵器"と言える存在かも知れない。


各地で時折現れては桁違いの動きを発揮して多数のハンター達を屠り、組合に賞金を掛けられて"ネームド付き"となった無人兵器は、何らかの理由でベース・ウォーカーから離れた固体ではないのかと噂されている事からも、護衛無人兵器の戦闘力の高さが伺える。



「ニルソン殿の言う通り、ベース・ウォーカーは大変な脅威です。フィブリル殿、私は恥ずかしながら断言します。もしもベース・ウォーカーと遭遇した場合、我々は貴方達を守りきれないでしょう。いえ……恐らく全滅します」



真剣な表情でカークスがそう告げると、ミルの顔もそこでようやく青く染まり始める。

それはその周囲で話を聞いていた隊商の運転手や私兵達も例外とはならず、誰もが蒼白していた。



「でででで、ですが。私はお父様……いや、会長から此度の隊商を任されたのです。こ、此処で引く訳には……!」



勇ましくそう言ってのけたミルではあったが、引けない理由を持っているのは彼女だけだ。

大金で雇われて此処まで危険な旅路に付き合ってきた運転手や私兵達も、流石にそんな自殺行為に付き合うのは御免だと口を開く。



「フィブリル隊長、もう十分でしょう?! 幸運にもブクスと此処で荷の大半は売りさばけました! そりゃ……今引いたらバハラの組合所に出していた依頼が破棄され、違反金を支払う必要がありますが、それを帳消しにできるだけの稼ぎは十分にあります!!」


「そうですよ!! ベース・ウォーカー相手じゃ会長も責めませんよ。仕方の無い事です。何でしたら、俺達も会長に説明しますから!!」



自らの命が掛かっているのだ、各々がミルを説得する様子は鬼気迫る物であった。

だが、それは間違いではない。

フィブリル会長の狙いは隊商の成功の有無ではなく、あくまでミルに経験を積ませる為の物である。例え何らかのトラブルで荷が全て失われようとも、ミルが無事に帰ってくればそれでいいのだ。


が、そんな親心を知らぬは子の定め。

ミルは焦る表情を浮かべて必死に説得してくる従業員、並びに私兵達を見て沸々と反骨精神が沸いてきた。


何故に誰一人として自分の意見に同調する者は居ないのか? 形だけでもそうしてくれれば良いのに。我が身を可愛がるあまり、指揮を執る私を少し空ろにしすぎであるだろう。


これまで甘やかされ、豪華な生活を過ごしてきたミルのそんな悪い癖が出てきてしまう。



「……とりあえず、進退の有無はまだ保留とします。カークスさん、何もベース・ウォーカーが本当に存在していると言う証拠はないのでしょう?」


「えぇ、今は皆に此処で情報を集める様にとお願いしたばかりです。ハッキリとした情報はまだ掴めていません」


「よろしいですわ。でしたら……暫く待ちの一手です。皆もよろしいですわね?」



ギロリと擬音が響きそうな程に鋭い目付きを輝かせ、ミルは従業員や私兵達を睨んだ。

有無を言わせない彼女のその態度に思わず怯んでしまい、各々は口を閉じてしまう。

どうやら思わぬ所で大商人の娘であるミルの血筋の力が発揮されてしまった様だ。



――頼むから、ベース・ウォーカーの存在を証明する情報が出てきてくれ。



そんな風に皆の心中で思いが重なってしまったが、それも無理はないと言う物だろう。





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