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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
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ヤウラを離れる日



「んじゃ、気をつけていくのよ。無茶しない様にね。何かあったらラビィに任せんのよ」


「はははは、そう心配しなくても大丈夫っすよ。隊商の私兵戦力も凄かったですし、カークスさんも指揮官として信頼できる人柄でしたし」


「……タルスコットと事を構えた時を思い出しなさい。油断したら一瞬で死ぬ時は死ぬわよ」


「ぅ……確かに、そうですね」



あの時だって、俺の周りには御川さんが率いる警備員達や同業者達が沢山居た。

その事実に油断してしまい、レイルガンによる手痛い一撃を受けたのは今でも痛恨の極みである。

里津さんの忠告を受けて改めて気合を一新し、頬を叩く。



「うし!! これでもう大丈夫です!! 安心して帰りを待っててください!!」


「相変わらず単純な奴ねぇ……。はいはい、いってらっしゃい」



気だるげに後ろ頭を掻きながら里津さんは別れの挨拶を済ませる。


もうちょっとこう、ハグの一つ位してくれてもいいんじゃないですかねぇ……。


そんな不満を抱きつつ車のドアを開けようとした所で、朝特有の静けさを打ち消すかの様にクラクションが遠くから聞こえてきた。


何事かと驚いて音がした方向を向いてみれば、なんと弓さん達の軽トラが走ってきていた。


それだけならまだしも、なんと荷台にはぺネロさんとルイとべニーが乗車しており、こちらに向かって子供達は大手を振っている。そのまま軽トラは俺達の近くで停止し、まず弦さんと弓さんが車から降りてきて話しかけてきた。



「おはよう!! 沿矢君!! いよいよだね、気をつけて行くんだよ?」


「朝から騒がしくしてすまんな、木津。弓がどうしても見送りしたいって聞かなくてな……」


「そんな……嬉しいです。態々すみません」



思わぬサプライズであったが、これは嬉しい出来事だ。

自分でも思わず顔がニヤけているのが分かる位である。



「ソーヤぁ、怪我をしちゃヤダよ……?」


「大丈夫だって、ルイ!! きづにーはマジですごいんだから!!」



心配そうにするルイとは対照的に、ベニーは力強くそう言って安心させようとする。

ったく、初対面で『お前、本当に強いのか?』なんて聞いてきた頃とは正反対だな。


とりあえず嬉しさを誤魔化す為に二人の頭をガシガシと撫でていると、ぺネロさんが一歩前に踏み出してくる。



「木津さん。本当にお気をつけて……道中での無事をお祈りします。父や他の子供達も見送りに来たいとおっしゃっておりましたが、あまりゾロゾロと駆けつけるのもご迷惑かと思いまして……こうして三人で見送りにきました」


「そうですか、ありがとうございます!! ロイ先生や他の子供達にもよろしく伝えといて下さい、ぺネロさん」



一通りの挨拶を済ませ、各々と会話を交わしていると出発時刻があっと言う間に迫ってきてしまった。名残惜しいが仕方ない、最後にみんなに軽く頭を下げて別れの言葉を口にする。



「見送りありがとうございました!! 直に終わらせて帰ってきますんで、気楽に待っててください」


「おう、木津よ……死ぬんじゃねぇぞ」


「は、ははは……。よし、行こうか、ラビィ」



最後に見事なフラグを立ててくれた弦さんに苦笑しつつ、運転席に乗り込んでエンジンを掛けた。


そのまま出発しようとした直後、コンと窓を叩く音が聞こえてきたので横を振り向くと、里津さんが手を下に向けて窓を下ろす様に指示を出してくる。



「どうしました? 何か忘れてます、俺?」



慌てて窓を開けて問いを投げかけると、里津さんは眼鏡の淵を弄りながら予想外の言葉を放ってきた。



「アンタって……何が"コウブツ"だっけ?」


「……鉱物? あ、いや、好物っすか?」



一瞬何を言われたか分からず混乱してしまった。

いや、今でも混乱してるけどね。

何でこのタイミングで好物どうこうの話になるんだ?



「アンタが帰ってきたら作ってあげるから……教えなさい」


「――――あ、あぁ!! なるほど、そういう意味ですか!! はははは……」



いかん、一瞬だけ気を遠くしてしまった。

まさか現実世界でこんな見事なツンデレを味わえるとは思ってなかったんだもの。


しかし、好物と言われても返答に困る。

いや、素直に言うならばラーメンとかカレーとかハンバーグが好きだよ?

けども此処は崩壊世界だぜ?

そんなメニューを述べた所で里津さんが作れるかどうか怪しいし、そもそも知ってるかどうかも分からないし、それに材料を揃えられるかどうかも分からないのである。


鼠の唐揚げが食べたいです!! とか言うのもどうかと思うし……。いや、食いたくないけどな。

仕方ない、此処はテンプレートな返答を返しておくか。



「いやぁ、里津さんが作るものなら何でもいいですよ」


「アンタって子はこれまた悩む様な事を……。はぁ、分かったわ。何時も通り適当に作るわよ? それでいいのね?」


「えぇ、何時も通りでお願いします。その方が多分、"帰ってきた"って気分になるでしょうし」



俺がそう答えると、里津さんは一瞬だけ呆けた様な表情を浮かべた。

次に彼女は堪らずと言った調子で噴出し、小さく微笑みながら車両から下がる。



「はいはい、手間の掛からない同居人で助かるわ。呼び止めて悪かったわ。じゃあね」


「はい、いってきます」



その言葉を最後に遂に俺は車両を発進させた。

バックミラーを見ると、皆が軽く手を振りながら別れを惜しんでいる様子が見える。

それが嬉しくて仕方なく、助手席に座るラビィに向かって思わず語りかけてしまう。



「いやぁ、こういうのって何かいいよな。ラビィ、早く終わらせて戻ってこような」


「はい、拠点を守ってくれる味方が居るのは戦術的概念から見ても、助かる要素です」


「あ、そうっすね……」



とまぁ、感動的な出来事の最後にラビィが見事なオチをかましてくれたのだ。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






思わぬ見送りを受けて時間をロスしてしまったが、組合所に辿り着いたのは俺が最後ではないらしい。


クルイストの人達は勿論だが、隊商のトラックや戦闘車両もいるし、藤宮さん達も既に組合所前に到着している。が、ラウルの連中だけが見当たらない。


まぁ、まだ集合時間になってはいないからいいんだろうが……。

もしもこれで遅刻してきたりしたら最悪だな。


そんな不安を抱きつつ、車両を停止させて降りる。

周りをざっと見回せば、カークスさんは隊商の人達と会話を交わし、最後の確認をしている様子であった。


ふむ、する事が無いので手持ち無沙汰に荷台に置いてある荷物の整理でもしようかな?



「あの……おはようございます。木津……クン」



そんな風に悩んでいると横から挨拶された。

相手は藤宮さんであり、彼女は何故か固い笑顔を浮かべている。



「はい、おはようございます!! いやー今日は絶好の護衛日和ですよね……うん」



空を見上げれば太陽は雲で隠れてるし、少し空気に湿り気もあるし、偶に小さく雷の音も聞こえてくる。


はい、どう見ても雨降る直前ですわ。



「う、うん。本当にそうですよね!!」


「ぇ、あ……はい」



まさかの皮肉に対して、こんなにも全力で賛同してくるとは思わなかった。

思わず気の無い返事をしてしまい、なんとも気まずい雰囲気が漂いだす。

すると、これ見よがしに大きく溜息を零しながら里菜さんが近くの物陰から姿を現した。



「はぁ……あの子は駄目駄目ね。おはよ、木津!!」


「あ、おはようございます。里菜さん」


「うん、じゃ……悪いけどこの子を借りてくわね」



挨拶もそこそこに里菜さんは藤宮さんの下へ行くと、彼女の手を引っ張って離れた場所に向かう。

突然手を引かれた藤宮さんは戸惑った様子であり、小声で里菜さんに話しかける。



『く、久美? どうしたの?』


『どうしたもこうしたもないわよ。何なの? あの答え方は……見てらんないったらありゃしない』


『えぇ!? だ、だって久美が相手の言う事に賛同してれば、会話なんて上手くいくって言うから……』


『いや、確かに言ったけどもさ……もう少し考えてから発言しなさいよ……』



そのまま二人を眺めていると、同じく呆れた様に彼女達を見つめているルザード先輩に気づいた。

彼女も此方に気づいたのか軽く頷いて見せ、そのまま此方に歩み寄ってくる。



「おはよう、木津。今日はよろしく頼む」


「おはようございます、ルザード先輩。此方こそ、よろしく頼みます」



彼女は相変わらずのクールっぷりだ。

と、思いきや珍しくも彼女は笑みを浮かべている。

いや、本当にちょっとだけ口角の端を上げただけのもであるが、確かに微笑んでいる。



「ところで木津、いい車両だな。車両搭載武器としてM5を積んでいるのも中々に評価できるポイントだ」


「え? あ、ありがとうございます。って言っても、まだ一発も撃ってないんですけどね……」



はははは、と乾いた笑みを浮かべながらそう謙遜する。

そのまま会話が終わるかと思いきや、ルザード先輩は立ち去る気配を見せない。

しばらくお見合い状態で場を過ごしていると、彼女は一つ咳をして口を開く。



「んんっ……。よければだが、私達の車両も見るか?」


「え? ルザード先輩達の車両……あ!! アレですか? あの灰色の奴」



組合所の前に停まってる車両の中に、一つだけ見覚えの無い型の車両があった。

パッと見はトップ○アでお馴染みのハイラ○クスに似た車両だが、所々に鉄板を貼り付けて防御力を底上げしてある。


それだけならともかくとして、荷台にはとてつもなく物騒な兵器が搭載されているではないか。



「ふふ、そうだ。アレが私達の車両だ。改造費用と23mm機関砲を搭載するのに溜め込んでたボタを全て使ってしまったが、それはこれからの働きで一気に取り返せる」


「いやー……凄いっすね。俺も借金が無かったら、あれ位ド派手に改造してみたいんですが……」


「素晴らしい装備ですね。これ程の火力があれば大抵の任務はこなせます」



これにはラビィも思わずと言った調子で賞賛する。

心なしかウキウキとした様子にも見えるが……やっぱり火器が好きなのか?



「ふふふ……ヒューマノイドの視点から見ても素晴らしいと来たか。嬉しい褒め言葉だよ」


「えぇ、実弾兵器の強みはどの環境下でも安定したパフォーマンスを発揮できる事です。その点、レーザー兵器は雨天で威力が下がったり、ちょっとした汚れで直に動作不良を起こしたりと不安定な部分があります」


「ふむ、しかしそう馬鹿にはできないぞ。一度だけ迎撃戦でレーザー砲が使われたのを見た事はあるが、着弾するまでの速度はまさに一瞬だった。あれを回避するのは至難の業だ」


「えぇ。ですが、そのデメリットとして連射がきかないなどの欠点があり、兵器としては些か不安な部分が目立ちます」



なんとした事か、二人はそのまま兵器の話に没頭し始めた。

俺としてもラビィが他人と仲良くするのは望んでた事だが、まさかルザード先輩と気があうとは……。


でも、こうして傍から眺めていると似た雰囲気の二人だし、そう可笑しい事でもないのか?


そんな風にボーっと兵器談義を聞いていると、ようやくラウルの車両が組合所前の大通りを通ってやってきた。


チラリとPDAを見て時刻を確認すれば、出発時刻の五分前である。

時間ギリギリでようやく来るってのは余裕があるからか、それとも依頼主を舐めてるのか、単純にズボラなだけか……。あいつ等とトラブった身としては、どうしても好印象は抱けない。



「すまん。待たせたな、カークス」


「ん、間もなく出発する。準備はいいか?」


「あぁ、大丈夫だ」



ラウルのメンバーはそのままカークスさんの元へ赴き、軽く挨拶する。

そのまま少し会話をした所で話は終わり、各々の車両へ散っていく。

カークスさんは自分の車両――隊商が率いてきた偵察戦闘車両に似た車両の上に登って手を叩く。



「諸君!! こうしてチームが集まり出発時間も間もなく訪れるが、その前にルートの確認と新たな問題が浮上した事を話しておきたい!!」


『問題?』


『ここまできて面倒事が増えるのかよ……』



カークスさんが述べた言葉に対し、各々が小さく不安そうに愚痴を零す。

対する俺も盛大に溜息を零したい気分ではあるが、流石に依頼人が見ている前では自重する。



「実はこの前、組合所からある注意を受けた。まずは先月、南駐屯地が受けた襲撃回数が目立って高い事と、ここ最近は南からの来訪者が全く訪れていないとの話だ。これ等の状況を踏まえると南にキャリアーがうろついてるか、あるいは強力なネームド付きによる妨害で交通が閉ざされているのではないのかと言う懸念だ。それ等の真偽を見極めてもらいたいらしく、組合所は我々に依頼を申請してきた」


「ちょ、ちょっと待てよ!! 隊商の護衛をしながら、調査もしろってのか?」



何処からか上がったその声に対し、カークスさんは首を一つ振って答える。



「いや、あくまで護衛依頼の片手間に……との事だ。これから訪れる集落や道中で出会う者達に、何か異常はなかったかと積極的に話を聞き込んでほしいそうだ」


「まぁ、それは別にいいんだが……。報酬はあんのかよ? 組合所に属している身とは言え、俺達は小奇麗な制服を着た社員じゃねぇんだ。タダ働きは御免だぜ」



そう仏頂面で報酬の有無を確認したのはコープだ。

しかし、その疑問は此処に集った誰もが気にしていた点なのであろう、皆は静かにしてカークスさんの反応を伺っている。



「報酬は……ポイント三百万だ」


『…………』



カークスさんが放ったその言葉に対し、辺りが静まった。

が、一人が手を上げて詳細を聞き出そうとする。



「勿論、一人に対して……って訳じゃないよな? 分配する形なんだろ?」


「そうだ。しかし、今回の依頼に参加するのは我々クルイストから二十三人、ラウルが三人、Hopeが三人、木津君とフルト君で……あ、いや彼女は除いて一人でいいのか。すなわち合計で三十人だ。単純に計算して一人十万ポイントが配布される形となる」



これを受け、先ほどまで静まっていた場は徐々に盛り上がっていく。



『マジかよ……。確かに組合の依頼ってのは美味しいって聞いてたが……』


『これをこなせば、とうとう俺もD+だ!!』


『いや、そう素直に喜んでいいのか? それだけヤバイ依頼って事じゃねぇのか?』


『ばーか、組合側も何もわかってないっつてたろうが。その為の調査だっての』



そんな風に盛り上がっていく同業者達であるが、俺はと言えば今一な心境だ。

こちとらポイントが五十万近くマイナスされてるのだ、たかが十万+された所で焼け石に水である。

言ってみれば『G-』の線が『G‐』位の短さに変わった位だろう。



「まぁ……そりゃ無いよりはいいんだろうけどさ」



こうした依頼にありつけるのは幸運な筈だ。

だったら、ウジウジしてないで素直に喜んでいた方がいいだろう。

そんな風に心の整理をしていると、近くで話を聞いていた藤宮さん達も口々に感想を述べる。



「ふむ、これは思わぬ僥倖だ。ここ最近の私達は運がある」


「そうかな? 私は何だか南に行くのが怖くなってきた様な……」


「なーに怯えてんのよ、シズ!! 大丈夫だって、危なくなったらまた木津に助けてもらいましょ」


「ぅえ!? お、俺ですか!? ま、まぁ……そりゃいざとなれば全力を尽くしますが」



唐突にそう話を振られて驚いたが、里菜さんのニヤけた表情を見る限り、どうやら冗談だったみたいだ。が、そんな彼女に対してルザード先輩が呆れた表情を浮かべて口を開く。



「馬鹿者、助けられた借りを返さずに新たな借りを作る気か。むしろ我々が年下である彼をサポートする様に全力を尽くすべきだろう」


「な、なによ~? ちょっとした冗談じゃない。そんなんだからアンタはモテないのよ」


「別に私は男を欲してはいない。その方が好都合だ」


「ふっ、その台詞が言えるのはアンタがまだ若いからよ。あと何年ソレを吐けるか見物ね……」


「そうか? だったら精々長生き出来る様に努力してみるんだな。お前が飽きるまで何時までも言い続けてやるさ」


「ったく、相変わらず可愛くないんだから……」


「はいはい、二人ともそこまでにしてね」



最初は険悪なムードになるかと思いきや、気づけば二人は軽口を叩いていた。

そして最後に穏やかな笑顔を浮かべた藤宮さんが話を締めると言う見事なオチ。

なるほど、この三人のチークワークは疑うまでも無く良好の様だ。


そんな風に賑やかな時間を過ごしていると、今度は隊商を率いているミィルさんが話を切り出し始めた。



「皆さん、お静かに。……宜しいですわ。それでは次にどのルートを通って南下するかを説明します。道中での行動は皆さんに一任しますが、場合によってはルートの指示変更等はさせてもらいますので、どうかご容赦下さいな」



流石に依頼人であるフィブリルさんの手前、荒くれ者が多い同業者達も静かな様子だ。

その事に満足したのか、彼女も落ち着いた様子で話を続ける。



「わたくしとしても、荒野の危険性はこれまでの道中で嫌と言う程に実感しています。ですが、組合所に所属する各都市の勇士達が見事にそれ等の危機を跳ね除けてくれました。どうか、皆さんにも彼らに負けない位の……いえ、それ以上の働きを期待しますわ」



ふむ、流石はフィブリル商会のご息女と言った所か。

彼女の話し方には品があるし、教養の高さが伺える。

かと言って此方を見下している訳でもなく、あくまで真摯な態度を貫いてる。


そんな彼女の態度を見ていると、自然と守る側としても気合が入ると言う物だ。

周りを見れば、俺と同じ印象を抱いた者が多いのか、誰もが真剣な表情を浮かべている。



「まず始めに訪れる目標としましてはブクス、そこから続けてロード・キャッスルと足を向け、次に……」



と、次々にフィブリルさんが述べる集落の位置をPDAで確認していく。

最終的には十を超えるかどうかの数を回るつもりの様であり、どうやら結構な日数が掛かりそうだ。



「が、最初にも言いましたが、各集落で話を伺った上で行き先を決める場合もございますので、どうか臨機応変に対応してくだい。それでは最後に……今回の依頼を遂行してくださる皆さんに対し、今の内にお礼の言葉を述べておきますわ。こう言うのも何ですが……誰かが"欠けた"状態で依頼を終える可能性もあるでしょう。ですが、此処に集った面々を見れば、失敗だけは有り得ないとわたくしは確信を抱きました。どうか、よろしくお願いします」



そう言って話を終えたフィブリルさんに対し、これ見よがしにカークスさんが拍手を起こす。

それに釣られる様にして各所から拍手が沸き起こり、彼女はそれに対して一礼しながら自分の車両へと戻っていった。


彼女を見届けたカークスさんは機敏とした動きで向き直り、歯を向いた鬼気迫る表情を浮かべながら大声を上げる。



「よし!! ここからが我々の出番だ!! 今から何処にどうチームと車両を配置するか指示する!! その前に、これを配っておこう。バスク、各チームに無線機を渡してきてくれ」


「了解です」



バスクと言う男は命令されると小走りで駆け回り、各チームへと無線機を配っていく。

俺が最後に渡されたのは偶然だと思いたいが、此方と一切目を合わせなかった態度を見るに、残念ながらまだ遺恨は晴れてない様だ。



「周波数は既に合わせている。下手に弄らない様にしてくれ。が、無人兵器に此方の動きを察知されない為に使うのは最小限に留める。十五分ごとに電源を入れ、各車両に異常がないか確かめて回るつもりだ。……頼むから、トイレに行きたくなったからといって急に停車したりしないでくれよ?」


『ハハハ……』



カークスさんが述べたジョークに対し、小さく笑いが巻き起こる。

まるで映画の様な一コマだ。

何だか自分が登場人物の一人になった様で、否が応でも気分が高鳴っていくのが分かる。



「もしも戦闘状態になったら直に無線機の電源を入れてくれ。基本は各車両が勝手に遊撃してくれて構わないが、相手の数が多かったり、ネームド付きが現れたら細かい指示を出す場合もある。その時は素直に命令を聞いてくれ」


『了解』


「よし、次に各車両の位置を確認しておこう。まず先頭を誘導するのが私が搭乗する偵察戦闘車両とその後ろに我々のテクニカルだ。その約百メートル後方に商品や荷物を積んだ隊商の車列を置く。その左翼にラウルの車両と私達のテクニカルを配備。次に同じく、その右翼にHopeの車両と私達のテクニカルを置く。最後、隊商の車列の後部を守るのは木津君のテクニカルと隊商の護衛戦力だ」



ドンケツか。まぁ、やり易い位置ではあるか?

ただ、隊商の人達と近いってのは下手に気を抜けないが……。



「フィブリル殿が搭乗するのは彼女達が連れてきたM202だ。言うまでも無く、彼女が一番の護衛対象でもある。いざと言う時にはM202を即座に援護しろ。それと隊商の私兵諸君、並びに木津君にはその位置の優位性から左右どちらかの迎撃に回ってもらう場面もあるだろう。基本的に状況判断は任せるが、慎重な立ち回りを頼む。間違っても後方をがら空きにはしないでくれよ」


「了解しました」


『…………』



って、答えたのは俺だけかい!!

隊商が連れてきた私兵達はあくまで沈黙を貫いてる。

オイオイ、何なの? 遅れてきた反抗期なの? 窓ガラスとか割っちゃうの? 切れたナイフなの?


しかし、そんな彼等の反応は織り込み済みだと言わんばかりに、カークスさんはスンナリと流す。


むぅ? こういう態度を持つ輩は珍しくないって事かね。そう心配しなくてもいいのかな?



「指示は以上だ。何か質問があれば聞くが……ないようだな。何か気になったら無線の定期交信の時にでも聞いてくれ、間もなく九時になるが、そこで最初の交信を行い、それから十五分おきに交信を行う。通信に答える順番だが、まずは左翼に配置した車両、次は右翼の車両、最後に後部と確認を取っていくので、順番を守ってくれ。それと、何らかの異常事態には先頭を進む我々が停車し、後続に停止命令を出す場合もある。その時も落ち着いて無線機の電源を入れ、指示を待ってほしい」



そう言ってカークスさんは周りを見渡して確認を取る。

それが終わると彼は大きく頷き、静かに息を吐きながら口を開く。



「よし……各員は車両に搭乗してくれ!! 車両に戻ったら、まず無線機を電源を入れてくれ。そして最初の無線交信を合図に時計の調整やPDAにコール音を設定する様に!! 最後になるが、皆の力を頼りにしてる。どうか頼むぞ!!」


『了解!!』



さーて、とうとう始まったな。

みんなが一斉に自分達の車両へと駆けていく。


当然ながら俺も例外ではなく、直に運転席に着席してPDAを起動してコール音を設定する準備を整える。それが終わると渡された無線機を手に取って電源を入れ、予定時間になるのを待つ。



「……ラビィ、準備はいいか?」


「はい、何時でもいけます」



手持ち無沙汰に窓を開けて銃座に着いたラビィに確認を取るが、相も変わらずクールな返事が聞こえてくる。それとは対照的に俺の心臓は何時もより強く波打っており、静かに息を零してソレを収めようと試みた。



――――z……聞こえ……!



が、その試みは無線機から聞こえてきた音で阻害された。

仕方なく気分を落ち着けるのを諦め、PDAにコール音を設置して無線機に耳を傾ける。



『各員、聞こえるか? まずはラウルに聞くが……異常は無いな?』


『此方はラウルだ。問題ない、始めてくれ』


『よし、次は……』



無線機からは次々と応答の返事があり、確認が取られていく。

組合所前に並べられた車両はそれに比例して順番にエンジンが始動し始める。



『最後は後部だ。木津君、準備はいいか?』


「はい、大丈夫です。何時でも出られます」



返事をすると同時にキーを回してエンジンを吹かし、ギアに手を置く。

エンジンが起動した時の揺れで荷台に置かれた荷物が小気味の良い音を奏でている。



『……よし、全ての状態を確認した。依頼を開始する。荒野に出たら先ほど述べた車列位置に移動してくれ。各員、出発するぞ』



その号令と共に車両が動き始め、大通りを駆けていく。

過ぎ去っていくヤウラの町並みを横目で確認しながら、遂に俺達は出発した。

さてはて、どうなりますかね……。




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