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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
60/105

希望と嵐



初弾、初手、つまりは戦いの際に放つ最初の一手や行動と言う物は大変重要である。

俺が言っているのは向かいあった状態で放つ一撃とは別であり、戦闘を開始するまでの行動だ。


相手方の人数、所持している武器や装備、立ち振る舞いから伺える実力の程。


これ等をもし、戦闘を開始する前に見極める事ができたのならば、それは大変に有利だ。


俺がこの前に廃病院でLG式を一掃できたのは、最初に訪れた時にLG式や百式の強さを学んでおり、次に訪れた時にはラビィのセンサーで位置や数を正確に把握できたお陰である。


が、その逆の立場。つまりは不意打ちを受けたり、此方の事を調べられたら大変にまずい。

その事は先の迫田戦やノーラさんとの戦闘でもあったとおりだ。

不意を打たれればダメージと言う物は格段に大きくなる。

それは肉体面が受ける傷に限った話ではなく、精神面な部分も大きい。

相手は無事なのに自身は戦闘開始前からボロボロなのでは、戦う気概も萎えてしまうだろう。


例え運よく最初の攻撃を受けなかったとしても、突然の攻撃にはどうしても浮き足立ってしまうのが人の心理と言う物だ。



「……つまりだな、ラビィ君。隊商の護衛依頼では俺達はどうしても待ちの状況で事を進めなきゃならん。その時点で結構不利な状況なのだよ。要するに……今回の仕事はかなりキツイと思う」



何しろ"隊商"の護衛だぜ?

列を成した車両ってのは、障害物が少ない荒野では恐らくかなり目立つだろう。

巻き上げる砂塵、排気音、無人兵器の視点から見れば熱源も容易に感知できるはずだ。

どう警戒したとしても、戦闘をする際の俺達の立場は恐らく先制攻撃を受ける側だろう。


現代戦では……と、言うより俺が居た世界での基本は見つかる前に撃てだ。

その言葉はFPSをちょっと齧った事がある人間ならとても共感できる物だと思う。

あの世界での戦闘機や潜水艦も一番重要視されていたのはステルス性だったしな。


それにああ言うゲームをしていると徐々に分かってくるのだが、単に強い銃を使って敵を倒すと言う単純な話では勝てない。ならばどうすれば良いのかと考えると、如何にして敵陣営の裏側を突くのかが重要になってくるのだ。


上手く敵の背後を取れて先制攻撃できたならば、一人で五、六人は倒せる位だ。

ゲームではやられても『あぁ!! あそこに居たのか!! じゃあ気をつけよう』ってなるが、現実だとそうはならない。


しかも、今回は護衛依頼で荒野を行く訳だから、単に戦って勝てばいいと言う話では済まない。

如何にして隊商を守り抜くかも重視しなくてはいけないのだから、頭が痛むばかりだ。


素人視点から見た俺のそんな考えではあるが、それはどうやら正しかった様だ。

ラビィは小さく頷きを見せ、賛同の意を口にする。



「そうですね。沿矢様の仰るとおり、何時来るか分からない襲撃を予測し、長々と身構え続けていたら精神的な疲労も大きいでしょう」


「うむ。でだ……ここでハッキリさせておきたいのは、ラビィ君が持つセンサーの感知範囲は如何程に? って事なんだな」



教会に続く瓦礫の山を撤去した翌日の朝。

里津さんが用意してくれた朝食を食べ終えて居間でごろ寝しながら、俺はラビィにふと思った疑問を発した。


弦さんに『気を張るな』と忠告を受けたのは確かだが、できるだけ無事に依頼を終えたい。

荒野みたいな広い場所では銃器を使った遠距離戦が主だろうし、俺の怪力やらはあまり役に立たないであろう。


そこで、だ。やはり護衛依頼で重要となるのはラビィの能力だと思う。

そんな訳で今の内に彼女の能力を把握しておきたいと思い至ったのだ。


ラビィの戦闘能力はノーラさんとの格闘戦や、廃病院で見せてくれた銃の腕前を察するに、かなりの高Lvである事が分かった。


ただ、彼女が言うセンサーなるものの範囲がよく分からない。あれだけ巨大な廃病院の内部を把握する位だから、結構凄いのは確かなのだろうが……。


ラビィは俺の質問を聞くと軽く一つ頷き、紅い瞳を此方の視線に合わせてくる。



「……沿矢様も知ってのとおり、ラビィは敵地に潜入して破壊工作を行う等の、多目的撹乱行為を主としたMMHシリーズ開発の為に設計されました」


「うむ」


「つまり、ラビィが本来活動する場所は相手側の市街地、または軍事基地、はたまた研究所等の敵施設への潜入がメインであると考えられて設計されたのです」


「ほぅ」


「ようするに……ラビィのセンサーは荒野の様な広範囲を索敵するのがメインではなく、立体構造内部を瞬時に、そして正確に把握するのが本来の用途であると言う事です」


「……つまり?」


「里津の話では、衛星軌道上に存在する軍事衛星が発する妨害電波で世界全体が軽いジャミング状態であると聞きました。ですから、ラビィのセンサーは本来のスペックを満足に発揮できておりません。荒野ではラビィのセンサーに頼るより、倍率ズームを駆使した有視界による警戒行動や、音源感知による注意の方がお役に立てるでしょう」



ラビィはそう言うと、そっと瞼を伏せて閉口する。



「えーっと……うん。そっか、分かったよ」



どうやら荒野ではラビィのセンサーをあまり当てに出来ないようだ。

しかし、彼女の真価はそれだけではない。機械である彼女は疲れを知らないし、集中力だって途切れる事もないであろう。そんな彼女が何時も銃座に居てくれるだけで自然と此方の気も楽になるし、余裕が生まれると言うものである。


だが、当の本人であるラビィはどことなく悲しげな雰囲気を纏い始めている。


前々から思ってはいたが、ラビィは己の性能に誇りと言うか……自信を持っている節が見受けられていた。


ここは一つ、励ましの言葉でも吐き出した方が良いのだろうか?

いや、むしろスルーしてあげる事で彼女の傷を深くしない方がいいのか?


そんな風に悶々と対処法を思い浮かべていると、突如として聞き覚えの無い音が耳に飛び込んできた。



『prrrrrrr……』


「沿矢様、PDAに着信が入ってます」


「ぇ? あ、PDA? えーっと……あったあった」



てっきり里津さんがそこ等辺で放置しているガラクタが勝手に起動したと思っていたが、ラビィの指摘でPDAが鳴ってると気付いた。


なんとも慣れない手付きで懐からPDAを取り出して操作すると、誰からの着信かを確認する。

すると、なんとカークスさんからのコールである事が分かって不意に胸が嫌な鼓動を刻む。


も、もしや……遂に隊商がヤウラに着いたのか?


緊張を解す為に乾いた唇を一つ舐め、寝転がっていた床から体を持ち上げ、なんとなく姿勢を正しながら意を決してPDAのボタンを押す。



「……木津です」


『朝からすまないね、カークスだ。……起こしてしまったかな?』


「いえ、大丈夫です。あの……もしかして隊商が?」


『はははっ……いや、そうじゃない。実はだね、もし暇なら今の内に他のチームと顔合わせを済ませておいた方が良いと思ってね。こうして連絡した次第だ』



滲み出る緊張感が声に出ていたのか、カークスさんは少し苦笑気味に言葉を返してきた。

俺はと言えば、予想外の提案に少し唖然としてしまう。


顔合わせ……? 確かに、そうだよな。護衛依頼を開始する寸前まで互いを知らずに連携など取れる訳が無い。


暫く考えを纏めている間に沈黙を貫き通していると、カークスさんの少し戸惑った様な声色が聞こえてくる。



『勿論、まだ隊商から正式に依頼を受けられるかは分からない。ただ、できるだけの事はしておくつもりだ。どうだろうか? 今が無理なら、後日でも構わないよ』


「あ、いえ!! 全然大丈夫です!! すぐに出れますよ!! 是非是非、顔合わせしておきたいです!!」


『それは良かった。他のチームも顔合わせの件は既に了承してくれていてね、君が最後だったんだ。それじゃあ……昼の十二時に組合所まで来てくれ、細かい事はそこで話そう』


「分かりました、それでは失礼します」


『待ってるよ』



通話を切り、一息を吐く。

カークスさんの紳士な態度も相変わらずであるものの、今回は新たに仕事への熱意も確かに感じられた。


流石は、あれ程の人数が所属するチームを一つに纏め上げる様な人物と言った所だろうか。



「集合予定時刻まで、後四時間と十七分三十二秒ですね。此処から組合所までの距離を考えると車両もありますし、十分前に出れば間に合うでしょう」


「え? 聞こえてたの? 今の会話」


「勿論です。ラビィは敵方の情報を探る用途でも使用される予定でしたから」



言うと、ラビィは少し得意気に胸を張る。

先程まで見せていた悲しげな雰囲気はどこへやらと、思わず少し笑みを浮かべてしまう。



「それにしても顔合わせ……か。良い人達だといいんだが」



そう呟いた言葉だが、それが腕前的な意味で言ったのか、人柄的な意味で言ったのかは自分でもよく分からなかった。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






そんな訳で集合予定時刻十分前と言う所で組合所に辿り着く。ちなみに昼食は摂らずに来てしまった。


カークスさんが指定した時間的に、もしかしたら食事をしながら自己紹介なんて和やかな展開を予想したからである。


ラビィを連れて組合所のガラス戸を押して中に入り、なんとなくまずは受付に田中さんが居ないかを探してしまう。


しかし、残念ながら今日は彼女は見当たらず、少しションボリしながらそのままフロアへと足を運ぶ。相も変わらず俺やラビィに向けられる好奇の視線は多いが、これでも落ち着いた方なんだから驚きだ。



「そういや……カークスさんは何処にいるんだろ?」



言ってから、正確な待ち合わせ場所を知らない事に気付いた。

とりあえずは入り口近くにある備え付けの長椅子に腰を下ろし、一息を吐く。

ラビィは隣に座ることは無く、俺の傍らに立ちながら静かな様子で周囲を見渡している。



「まっ、いざとなればPDAで連絡できるか」



懐からPDAを取り出すと、手持ち無沙汰にそのままPDAを弄繰り回す。

こうしていると元居た世界で過ごした日常の一コマって感じで、なんとなく懐かしい気分だ。


そのまま暫く時を過ごしていると、傍らに佇んでいたラビィが静かに足を動かし、俺の前に立ったのに気付く。


何事かと思って視線を上げると、一人のお姉さんが己の前に立ち塞がるラビィに困惑した眼差しを向けていた。


サイドテールに纏められた艶のある栗色の髪が物憂いに揺れる。

青み掛かった黒い瞳と此方の視線が合うと、彼女の口角の両端が僅かに持ち上がるのが分かった。

血色の良さが伺える赤みが差す両頬を彼女は手で押さえると、そのまま静かに桃色の唇を上下に開いた。



「あの、お久しぶりです。……私の事、憶えていますか?」


「ぅえ!? ぇー……っと」



突然の問い掛けに言葉を詰まらせると、彼女は目に見えて落胆して見せた。

目尻を悲しげに下げ、僅かに俯いた事で釣られてサイドテールの纏められた髪も垂れる。

そんな様子を見せられると、ただでさえ焦っている心中が大きく波打つ。


待て待て待て!! 落ち着け俺、まずは冷静に状況を整理しよう。

まさか『前世で会ったじゃない!!』なんて電波な展開ではないはずだろう。

まずは彼女の容姿を眺め、落ち着いて推理していくのだ。


ローブを纏っている事と、組合所内に居る事を考えると彼女は同業者だろう。

しかし、俺はそんなに同業者達と接触を持った事はないはずだ。


最近だと……迎撃戦の時だろ? その前だとクースで……って、ああ!!



「あっ!! 廃病院で出会ったお姉さんですよね!? あの時はどうもどうも」



なんとなく腰を上げながら、後ろ頭を掻いて挨拶する。

すると先程の物憂いな雰囲気を一気に跳ね除け、彼女は大きく頷いて見せた。



「――はっ、はい!! 藤宮 静です!! あの時は本当にありがとうございました!! 何度もお礼に伺おうと思っていたのですが、色々あって……」


「いえいえ、そんな……気にしないで下さい。困った時はなんとやらって奴ですよ」



思わぬ再会に自然と頬が緩み、笑顔が浮かんでしまう。

そのまま何を話そうか迷っていると、藤宮さんの背後からさらに見覚えのある二人が近づいてきてるのに気付いて思わず目を丸くする。


藤宮さんはそんな俺の様子に気付くと小首を傾げながら背後に視線を向け、次に大きく手を振って見せた。



「久美!! フェニル!! こっちこっち!!」


「こっちこっちぃ、じゃないわよシズ……。アンタいきなり走り出すんだもん」



そう言って、これ見よがしに大きく溜め息を零した女性にも見覚えがあった。

彼女は大怪我を負い、廃病院で藤宮さんに支えられていた女性である。

それだけならまだしも、その女性と並ぶ様にしてルザード先輩も居るではないか。


唖然としている俺を尻目に彼女達はそのまま藤宮さんの近くに並び立ち、此方に視線を向けてくる。



「……やぁ、木津。色々と噂は聞いている……元気そうでなによりだ」


「る、ルザード先輩。あの時は援護してくれて助かりました。遅くなりましたが、ありがとうございます」


「……君は律儀な男だな。あんなのは、君の行為と比べればなんて事はない」



ルザード先輩はそう言うと、纏っているローブの首元部分を持ち上げて口元を隠す様にする。


そんな彼女の背中を軽く叩き、久美と呼ばれたショートカットのお姉さんがニシシと怪しげな笑い声を上げる。



「フェニルったら、こう見えて恥ずかしがり屋なんだ。可愛いでしょ?」


「――久美」



ジロリ、そう聞こえてきそうな程の迫力を見せながらルザード先輩が久美さんを睨みつける。すると彼女は芝居掛かった動きで肩を竦め、次に先程とは違って穏やかな笑顔を浮かべると此方を向いて頭を下げた。



「遅くなってごめんね。私は里菜 久美、今更だけど……本当にありがとう。貴方が居なかったら、こうして生きていないわ」


「いえ、そんな……怪我の具合もすっかり大丈夫そうで、安心しました」



里菜さんは結構血を流していたし、あれは間違いなく命に関わる大怪我だったのだろう。

ただ、目の前に居る彼女はあの時の様な苦しげな様子は見受けられないし、どうやらすっかり完治したみたいだ。


そんな風に僅かに安堵していると、藤宮さんはチラチラと俺の傍らに立つラビィに視線を向けながら言う。



「あの、ところでこの人は? 噂のヒューマノイド……ですよね?」


「えぇ、ラビィ・フルトって言うんです。俺の相棒……なのかな? 頼りになる存在です」



ポン、とラビィの肩に手を置きながら彼女を紹介して見せる。

すると藤宮さんは大きく息を零しながら、晴れ晴れとした笑顔を表情に浮かばせた。



「そうなんですか? よろしくね、フルトさん」



藤宮さんはそのまま自然と右手を差し出した。

が、ラビィは静かにそれを一瞥しただけで何のアクションも起こす気配がない。


何とも微妙な空気が漂い始めたのを察した俺は、慌ててラビィのフォローに回る。



「あ、あはは!! すみませんね、この子ったらルザード先輩みたいに恥ずかしがり屋さんなんですよぉ~」


「木津……それはもう忘れてくれ」



ルザード先輩が疲れた様にそう呟くと、後の二人がクスクスと笑い声を零す。

何とか明るい雰囲気に持っていく事に成功した俺は、そのまま自然と疑問を口にした。



「それにしても……三人は何故一緒に? もしかして……?」



一つの可能性として、ある考えが既に脳裏に浮かんでいた。

どうやらソレは正解だったようであり、藤宮さんは微笑みながら頷いて見せる。



「えぇ、私達チームを組んだんです。最初は私と久美だけだったんですけど、フェニルも後から……」


「へぇ~!! 良いじゃないですかぁ!! それで……チーム名は何て言うんですか?」



と、俺がそう聞くと藤宮さんの笑顔がそのまま凍り付いた。

対する里菜さんは何故かニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべ、ルザード先輩はそ知らぬ顔で視線を向けるのみだ。


まさか此処で会話が止まるとは予想外であった俺は少し困惑し、なんとなく視線を彷徨わせてしまう。すると向けた視線の先、組合所の入り口から今まさにカークスさんが足を踏み入れたのが見えた。


彼の視線が此方に向く、すると何故か一瞬だけ驚いた様に目を見開いたのが分かる。

しかし、次の瞬間には笑顔を浮かべており、何かを感心するかの様に細かく頷きながら此方に向かって歩み寄ってきた。



「やぁ、少し遅れてすまない。待たせたね」


「「いえ、そんな」」


「は?」


「ん?」



何故か俺と藤宮さんの声が揃い、里菜さんとルザード先輩の戸惑ったかの様な声が響く。

思わず彼女達と視線を合わせて戸惑っていると、カークスさんが予想外の言葉を吐き出してきた。



「いや、まさか既に仲を深めているとは予想外だったよ。いや、しかしとても喜ばしい事だ。この調子だと幸先が良さそうだな。ははっ」



そう言ってカークスさんは爽やかに笑う。

対する俺や藤宮さん達は互いに顔を見合わせ、予想外の展開に絶句するしかなかったのである。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






場所は打って変わって組合所の一階にある食堂フロア。

カークスさんは俺や藤宮さん達をまずそこに案内すると、まだ到着していないチームに連絡をすると一言告げてその場を離れていってしまった。


時間は丁度昼頃であり、どのテーブルも組合の職員や同業者達で一杯である。

とりあえず手持ち無沙汰に周囲の様子を確認していると、隣に座っていたラビィが唐突に席を立った。



「ん? どうした、ラビィ」


「いえ、あちらに給水場がございますので、水を注いで来ようかと……」



言われて目線を向けると、確かにフロアの中央付近に水を注ぐ機械がある。

なんとなくこの世界に来た初日に宿でバケツから水を汲んだ事を思い出し、懐かしい気分だ。



「わかったよ。ありがとうな、ラビィ」



お礼の言葉を聞くと、ラビィは僅かに微笑んでからこくんと小さく頷き、素早く水を注ぎに行った。


うーん……俺に対するリアクションだけは人間味が溢れているな。

その分、先程の様に藤宮さんの握手をスルーする等の冷たい対応が際立っている様に思える。

これは少し態度を改めるように注意を促したほうが良いのかな?


そんな風に考えを浮かばせながら静かに溜め息を零していると、対面に座っている藤宮さん達の視線が熱く注がれている事にようやくそこで気付いた。



「ど、どうしました? まさか、俺の背後にある壁に曰く付きの御札でも貼られてます?」


「あ、いえ……まさか木津さんが今回の依頼に関わっていたとは思ってなくて……」



藤宮さんは此方の言葉を聞くとハッと気を取り戻した様にし、おずおずとそう言ってくる。



「ははは……その、ですねぇ。クルイストの所持していた戦車が駄目になったってのは聞いてますよね?」


「えぇ、この依頼の協力を頼まれ時に聞かされました」



藤宮さん達は不思議そうに小首を傾げながら『今更何を言ってるんだ? コイツ』的な雰囲気を見せている。


どーせ隠してても何時かばれるだろうし、俺は気まずそうに頬を掻きながら事情を話す。



「んで……その戦車を駄目にしたのが何を隠そう、この俺な訳でして……。少しでもカークスさん達のお役に立てればと、こうして参加してる次第であります」



はははは、と乾いた笑いを浮かべながら相手側の反応を伺う。

三人はポカンと小さな口を開け放ち、唖然としている。

だが、素早く一人だけ気を取り戻した里菜さんは何故かキラキラした笑みを浮かべると、興奮した口調で言葉を紡いでくる。



「じゃ、じゃあ壊し屋や百式だけじゃなく、貴婦人とか廃病院の攻略どうこうってなってた噂も全部本当なんだ?!」


「え、えぇ。まぁ……そうですね」


「はぁ~……一部装着型HAでそこまでやれるなんてね!! 歳若いのに大した男だよ、木津は!!」



そういって大声で賞賛してくれる里菜さんであるが、彼女は一つ勘違いしたままだ。

俺は一つ苦笑するとローブを脱ぎ、見せ付ける様にしながら武鮫を外してテーブルの上に置く。


此方の唐突な行動にまたもや眉を顰める彼女達であったが、置かれた武鮫を注視していたルザード先輩が驚きの声を上げた。



「HA……じゃない」


「え……? え、ええっ!?」


「……一体どうなってんの?」



掠れた声で里菜さんが呆然と呟き、確認を取るかのように視線を向けてくる。

俺は一つ覚悟を決める様に息を吐くと、腕を組んで言い放つ。



「つまりですね、俺は生身でHAクラスの力を発揮できる人間なんですね。はい」



サラリと告げたのは良いが、相手からしたら意味不明な言葉であろう。

その証拠に三人は大きく口を開け放っており、女性としては少し見せてはいけない有様である。


やっぱりダグさんの時の様にレンチを折って見せたりしないと、中々受け入れない内容だよなぁ……。


どうしたもんかと少し頭を悩ませていると、丁度良いタイミングでラビィが戻って来た。

彼女は俺の前に水が注がれたプラスチック製のコップを置く。

そこまではいい、普通だ。ただ……。



「あの、ラビィさんや? 藤宮さん達の分は……? あっ、コップがなかったとか?」


「いえ、コップは十分な量がありましたが?」



で? ってな感じでラビィは小首を傾げて疑問符を飛ばす。

どうやら彼女の頭の中には、俺以外への気遣いは全然無いらしい。

そのままラビィは素早く俺の隣に腰を下すと、スラスラと言葉を吐き出してくる。



「既に検査は済んでおります。毒物反応は無し、どうぞお飲みになって下さい」



言われて視線を落とすと、確かにコップの淵に唇を付けた跡がある。

対面に座る藤宮さん達の視線もコップに向けられており、少し引いた様な表情を浮かべていらっしゃる。


違うんですよ。俺がやらせてるんじゃないんです。そんな趣味は無いんですぅ……。


そう弁解したかったが、下手に口上を述べた所で逆効果であろう。

そんな微妙な雰囲気を形成しつつあった所で、食堂フロアの入り口にカークスさんの姿が見えた。


救世主の登場に思わず笑顔を浮かべかけたが、彼の背後に居た三人の男達を見てそれも固まってしまう。


あれ……なんか見覚えがあるぞ? またどこかで会った人達の様な気がする。


そう心中で戸惑いを覚えながら凝視していると、彼等はカークスさんの背後から離れずにそのまま歩み寄ってくる。



「すまない、待たせたね。彼等が最後のチームだ」


「よぉ。俺達がチーム『ラウル』だ。よろし……くってええええ!! て、テメェはこの前の!!」



カークスさんに促され、リーダー格の男が一歩前に出て自己紹介し始めたが、それは途中で大声へと変わる。リーダー格の男の両脇に並んでいた二人の男もその叫びに呼応し、目を見開いて絶句したかの様に表情を固めた。


え? この反応は何? あれかな? 次に出る言葉は『今朝のパンツ覗き魔!!』とかじゃないだろうな?

こんなむさ苦しい奴等とラブコメするのは御免だぞ。



「えーっと……どっかでお会いしましたっけ?」


「な、なんだと!? あんなふざけた真似をしておいて忘れたってのかよ!?」



後ろ頭を掻きながら返事をすると、それを聞いたリーダー格の男が顔を紅く染め上げながらそう吼えた。


とは言え、覚えてないんだから仕方が無いじゃない。最近は色々と忙しかったんだから許して下さいよ。



「す……すみません。マジで覚えてないんですよ。俺ってば最近色々と立て込んでて……」



ってか、この世界に来てから基本ずっと立て込んでる気がする。

マトモに休みが取れたのは大体怪我をしてる時だし、碌なもんじゃねぇな。



「この前だよ!! テメェは俺達の車両を持ち上げて揺さ振りやがったじゃねぇか!!」


「――……あ、あぁ~あの時の人達ですか。って……最初に難癖をつけてきたのはソッチじゃないですか」



誰かと思いきや、ラビィや里津さんに色目を向けてきたチンピラ同業者か。

思い出して損したな。それに謝って損したぜ。



「だ、だからってあんな無茶苦茶な事をするんじゃねぇよ!!」


「違いますよ。あれは貴方達の車両が道を塞いでたから退けただけなんです。脅かしたつもりは一切ありません」


「はぁ!? その後に無茶苦茶な感じで揺さ振ってたじゃねぇか!! 下手な言い訳してんじゃねぇぞ!!」


「いや、ほら、アレですよ。あまりに重い物を持つと腕がプルプルしちゃうでしょ? それですよ」


「こ……このガキっ」



そうやってのらりくらりと追求をかわしていると、遂に堪らずと言った調子でリーダー格の男が一歩を踏み出した。


それに反応してラビィが席を立つが、俺はそれに手を向けて彼女の動きを止める。

と、そんなやりとりをしている間に相手は俺の近くに来ると、胸倉を掴んできた。



「おい、止さないか!!」



事態の収拾をつけようとカークスさんがそう声を荒げると、賑わっていた食堂が此方が発する険悪なムードを感じ取り、別の意味で騒がしくなってきた。



『何だぁ、喧嘩か!?』


『よし!! ガキが勝つか、それともあの兄ちゃんが勝つかで賭けようぜ!!」


『馬鹿!! 賭けになんねぇよ!! あのガキを知らねぇのか?』


『……は? ガキはガキだろ? え? なんか違うのか?』



そんな騒音をBGMに俺達は睨み合ったまま動かない。

流石に組合所の中で銃器を抜くつもりは無いのか、ローブの中に隠れている相手の左腕は動きを見せない。


だが、此方としては場合によって銃器より凶悪な物を所持している身だ。

相手もそれはよく分かっているのだろう。

これ見よがしにスッと右腕をローブの中から出して見せると、リーダー格の男は怯んで見せた。



「……一つ言っておくと、俺はやられたらやり返す男だ。殴られたら……殴り返す」


「何が言いたい……」



アンタは死ぬって事だよ。言わせんな恥ずかしい。

まぁ、流石に殺しはしないが、文字通り"ぶっ飛ばす"つもりではいる。



「沿矢様。ラビィに命令して頂ければ、その男を三秒以内に沈黙させて見せます」



その沈黙ってのは"相手の死を持って"って意味じゃ無いですよね? ラビィさん。

とは言え、此処で空気を読まずにラビィを立ち向かわせるほど、俺はKYではない。

それに売られた喧嘩は自分で処理するのが筋ってもんだ。しかも、売ったのが気に食わない相手なら尚更である。



「――いい加減にして下さい!! これ以上、騒ぎ立てる様なら私が相手になりますよ!? 一時とは言え、私達はコレから手を組む同士じゃないですか!!」


『いいぞ!! 姉ちゃん!! ぶっ飛ばしてやれ!!』


『玉を蹴り上げれば一撃だぞ!! がははは!!』



唐突に席を立ってそう大声を上げたのは藤宮さんだ。

威勢よく啖呵を切った彼女に対し、食堂に居たギャラリーが盛り上がって囃し立てる。

俺と胸倉を掴んでる男は唐突な横槍に気勢を挫かれてしまう。

と、その隙を見計らってカークスさんが鋭い物言いを告げてきた。



「藤宮君の言うとおりだ。二人とも、彼女に免じてそろそろ落ち着いてくれないか? それでも尚、仕事に私情を持ち込むと言うのなら……残念だが、今回の話は無かった事にしよう」



瞼を細め、腕を組みながらカークスさんは落ち着いた態度だ。

どこまでも大人な態度の彼の振る舞いを見て、此方としてもようやく気分が落ち着いてくる。



「……すみません。お騒がせしました」


「ちっ……わかった。もうこの件では騒がねぇよ」



相手もゆっくりと胸倉から手を離すと、溜め息混じりにそう答える。

だが、場に渦巻く重い空気は晴れることは無く、暗い雰囲気を宿したままだ。

まるで嵐の前の静けさと重苦しさが入り混じり、なんとも言えない緊張感が漂っている。


はたして、こんな調子で無事に護衛依頼をこなす事ができるだろうか?

これから起こる出来事を脳内で思い描き、俺は静かに溜め息を零した。




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