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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
58/105

懐かしき思い出



俺は里津さんの店で購入した装備や弾薬を車両に積んだ。

折角なので、ついでとして荷台に積んでいた弾薬の残りを確認しておく。


M5はまだ一発も撃ってはおらず、12.7x99mm弾が五百発もある。


DFはDE弾が百四十七発と、サブアームにしては十分の量がある。暫くは持つだろう。


YF-6の弾は廃病院でかなり消費してしまったが、新たに7.62x51mm弾を五百発も余分に補充したので、千と百七十五発とかなりの余裕がある。

しかし、これは俺とラビィのメインアームであるからコレ位は持ってないとな。それに物々交換に使う可能性もあるらしいし。


Y-M20の十二ゲージは七十九発。護衛依頼は外での戦闘が主になるだろうし、コレはそんなに気にしなくて良いだろう。


MGL64はHE弾が五十四発と、発煙弾が十八。爆発系で威力も高さそうだし、発煙弾でサポート的な使い方もできそうだ。

今回の護衛依頼では何が起きるか分からないし、これ位の準備は当然と見ておこう。


残弾数を確認し終え、俺は家の中に戻った。

居間に戻って中を覗くと、なんとこの短時間で既に冷蔵コンテナ二つと金庫は開錠されていた。


買い物したり、整理したりと色々してはいたが、恐らく一時間も経ってはないはずなのに……。


驚きで目を見張る俺の視界には、ラビィが最後のコンテナを開錠しようと奮闘している姿が目に入った。

それはスカベンジャー達の武器が入ったコンテナであり、彼女はコネクタで繋がれたPDAを軽快な手付きで操作している。



「――終わりました」


「ぅえ?」



ラビィが静かにそう告げると同時にコンテナの蓋が軽い金属音を伴って開き、空気が擦れる様なか細い音が聞こえた。

しかし、それと同時に鉄臭い匂いが居間へと充満し、俺は咄嗟に鼻と口を押さえる。

恐る恐る武器が収められていたコンテナに近寄ると、乾いた血で色付けされた多数の銃器が中に収められているのが見えた。


成程。最後まで武器を手に持って奮戦していたのならば、攻撃を受けた際に血が被るのも当然だったのだろう。

思わぬ所で同業者達の闘志を感じ取って僅かに哀愁を覚える俺だが、それも背後から聞こえてきた足音で直に晴らされる。

慌てて後ろを振り向くと両腕を組んだ里津さんが居間の入り口で仁王立ちしており、此方と視線が合うと彼女はにこやかな笑みを浮かべながら言う。



「ねぇ、沿矢……。家の中がすっごい鉄臭いのは……私の気の所為じゃないわよね?」



俺はその言葉を受けて神妙な顔付きで頷きを返し、懐からボタが入ったホルダーを取り出すと口を開く。



「……消臭剤って、どこで売ってますかね?」



しかし、その問いに返ってきたのは言葉ではなく、里津さんの諦めた様な深~~い溜め息であった。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






「とまぁ……そんな感じになったんです」


『はっ……ソイツはとんだ不運だったな』



組合所で別れた後、何が起こったかを伝える為にPDAを使って弦さんに連絡すると、彼は溜め息混じりに答えた。

ちなみにPDAの番号を押した時に『ピ、ポ、パ』と昔ながらの音が鳴ったのに少し驚いた。変な所でアナログですな。



『しかし、そうか……先頭に居たあの男には見覚えがある気がしていたが、あいつ等はクルイストだったか。確かに、俺達も数日前に奴等から護衛依頼の件で誘いを受けたぞ』


「え!? あ、そっか!! 弦さん達も車両持ちですもんね!! そ、それじゃあ……!?」



まさか、弦さん達が集められたチームの一つなのだろうか!?

俺は思わぬ展開に目を大きく見開き、瞬時に驚愕と歓喜の思いが胸へと広がったのを感じ取った。が、しかし……。



『いや、その話は断った。普通に生活する分には十分に稼げてるからな』


「そ、そうなんですかぁ……」



返ってきた言葉は望んでいた物ではなく、期待が大きかっただけにテンションがガタ落ちだ。

あの時は弦さん達を巻き込みたくは無い、なんてドヤ顔で思ってた。

しかし、クルイストの人達が抱く敵意が正当な物だと分かった今は、とんでもなく心細い。


護衛依頼の途中で後ろから撃たれたりしないだろうな……?

そこ等辺はカークスさんのカリスマ性と言うか、抑えに期待するしかないだろうか。

バスクと言う男を一喝した場面を見た限り、カークスさんもただ紳士的な大人の男って訳でも無さそうだし、大丈夫とは思うけど……。


気を落とすのは此処までとして、その後はコンテナの中身に入っていた物資の話へと移っていく。


コンテナの開錠は無事に終わったが、武器が入ったコンテナは一旦外へと持ち出して濡れた布で血を拭き取る事となった。

中には多数の銃器が収められてはいたが、中にはストックや銃身に損傷があったりと売り物にできない物もあった。

何とか無事だった銃もパーツの細かい部分に血がこびり付いていたりして、地味に分解して拭き取ったりと細かい作業で大分時間を消費して疲れたよ。


ちなみに冷蔵コンテナの中に収められていたのは、予想していた通り薬品類だった。手術室にあった物だしな。

流石に医療用のナノマシンなんかの大物は無かったが、思った以上に薬が入った瓶が大量に詰まっていたので、結構な額になりそうである。


薬も里津さんの専門外らしいので、一旦中から薬を取り出して居間に並べ、瓶に張られたラベルが見える様にPDAで写真を撮った。

これは弦さん達が生体義手の件を医療施設で交渉する際に、この薬品類の事も話してくれないか頼む為だ。

幸いにも弦さんはその話も快諾してくれたので直に写真を送った。


それと情報保存チップもPDAを使って、中の情報を確認しておいた。

病院では様々な場所にチップが落ちていたので、地味に数がある。

調べてみると十六個と結構な数を手に入れてはいたが、中にはPDAに差し込んでも情報が表示されない物も多かった。

壊れていた物は十と多く、無事なチップは手元に六個しか残らなかったが、これでも運が良いほうだろう。


無事だったチップの中に記録されていた物はやはり患者の診療録が記されていたが、里津さんもこれ等に高値が付くかは分からないとの事。

どうやらこれも正式な医療機関に持っていき、情報を照らし合わせて使える情報かどうかを調べて貰うしか無い様だ。

この情報は流石にPDAでデータのやり取りをする訳にもいかないので、後日に弦さんへチップを手渡す流れとなった。


不満を零す事無くチップの件も快諾してくれた弦さんに改めて感謝の言葉を吐くと、彼は小さく溜め息混じりに『おぅ』とだけ応える。

その際に彼の後ろからクスクスとした笑い声が聞こえてきた。

万が一の可能性としては女性の霊が弦さんに憑いている可能性もあるが、恐らく弓さんの声だろう。


お陰で和やかな雰囲気となり、自然と世間話をする流れとなって時間を有意義に過ごせた。


それと地味に期待していた金庫の中身は葉巻が入った木箱だけであり、とんだ肩透かしを味わう事となった。

が、しかしである。里津さんによると葉巻なんかの嗜好品は地味に貴重らしく、普通に高値で売れるらしい。

彼女も常連の中でこういう物を嗜む客に心当たりがある様で、快く千ボタで買い取ってくれた。やったね。


弦さんの話によると、前世界で流行ったレトルト食品が詰め込まれたコンテナを発見して持ち帰り、大儲けしたスカベンジャーもいるらしい。

レトルト食品やら葉巻やらと部品や武器よりも高額、または同額の品があるんだなと、俺は密かに心へ新たな価値観を刻んだのである。


そんな話を交えつつ、弦さんと会話をスムーズに進めていく。

彼は寡黙な人物なので、基本的には此方が喋って向こうが相槌を打つ流れだ。

暫くそんな和やかな時間を過ごしてはいたが、話す事も無くなってきた所を見計らって俺は一つ問い掛ける。



「隊商の護衛依頼なんですが、注意する事とかってありますかね? 装備は整えたんですが、どうにも落ち着かなくて……」


『お前にはフルトも居るし、そう心配する事も無いだろうが……。そうだな、適度に気を抜くことだ』


「気を……?」


『おう、隊商は様々な町や集落を巡りながら南下するんだろ? 恐らくだが、目的地の都市に着くまで数日は掛かるはずだ。幾ら護衛だからと言って、ずっと気を張って集中してると身が持たん。気合を入れすぎて空回りしない様に気をつけるんだな』


「なるほどぉ……」



流石の弦さんだ。

確かに、俺は護衛依頼を何とか成功させようと装備の調達や弾薬を早急に補充したりと、少し焦りすぎている気がする。

隊商はまだ来ないはずなのに、罪悪感に負けて気合を入れすぎている様な気がするのだ。

そう認識すると心なしか身に宿る疲労も大きい気がするし、弦さんの指摘が無かったら護衛依頼の開始時点でグロッキー状態に陥ってたかもしれん。


俺は自分の状態に気付いて心を整理すると静かに息を吐き、弦さんに改めて最後にお礼を告げると今日の会話を終えた。

着信を切ってPDAの薄く光る画面を眺め、やはりコレを買って良かったと自分の判断を褒め称える。


今日だってコンテナの開錠や薬の写真を撮ったりと早々に大活躍だし、弦さんのアドバイスも貰えた。

これからもPDAは俺やラビィの大きな助けとなるだろう。


その後は特にやる事も無かったし、廃病院で暴れた疲れも残っているのでダラダラと過ごす。

里津さんは夕方頃にあれ程あった物資の値踏みが済み、ボタが入ったホルダーを手渡してきた。


買い取る事が確定していたメディカルゴーグル等の代金は三万五千、細かいのが五百三十ボタだった。

其処に冷凍保全コンテナと金庫や、気密保全コンテナとその中に収められていた銃器、これ等の代金が二万七千だ。


細かく書くと冷凍保全コンテナが三千、金庫が千五百、気密保全コンテナが二千五百、多数の銃器が一万九千五百だ。

ただ、銃器に関しては里津さんが『切りが良いから』と五百ボタを追加してくれたので二万である。


それ等を合わせて六万二千、細かいのが五百三十八ボタを手にした。

言うまでも無く、とんでもない大金である。


ただ、薬を収めている冷蔵コンテナ二つは商品に加える訳にもいかないので、まだ里津さんは買い取ってはいない。

薬は医療施設が買い取ってくれるまで、冷蔵コンテナの内部で厳重に保管しておく必要があるのだ。

まだまだ薬や生体義手、それと情報保存チップや薬を収めている冷蔵コンテナ二つの売却は済んでいない。

その事を考えると、やはり最終的に俺は十万ボタを超える金額を手にしてもおかしくは無いだろう。



夕食を食べ終えると、俺は廊下の寝床に向かった。

夜は特にする事も無いので、自然と就寝時間が早くなっているのだ。

今の俺は還暦を迎えたお爺ちゃんの如く早寝早起きの生活である。


しかし、今日の俺は一味違う。

里津さんから受け取ったボタのホルダーを床に並べ、廃病院での成果を噛み締めながらニヤニヤと下品な笑みを浮かべて達成感に浸る。


ただ、対面に座ったラビィが無表情なので直に正気に戻されてしまった。

大人しく越後屋ごっこを止めて、布団に潜り込んで懐中電灯の灯りを消す。


なんとなく薄目を開けると、相変わらずラビィが暗闇の中で此方を注視している事が分かる。

最初は色々と戸惑ったが、今はもうすっかり見慣れた光景になってしまった。

しかし、ふとある疑問が脳裏に浮かんだので俺は一つ彼女に問い掛けてみる。



「なぁ、ラビィ……」


「はい、何でしょうか」



俺が声を掛けるとラビィは直に無表情を崩して微笑みを浮かべ、小首を傾げながら柔らかな口調で言葉を返してくる。

暗闇の中で光る彼女の真紅の瞳は瞼が細められた事で輝きを小さくし、赤み掛かった半月の様にも見えた。



「ラビィにはセンサーがあるんだから、別に俺を近くでずっと見守る必要はないんじゃないか?」



廃病院でもラビィは俺が足を止めると直に気付き、背後を振り返ってきた。

つまりは俺の様子なんて肉眼で確認せずとも、センサーがあるから余裕で捉えているはず。

態々と生真面目に床へと座って此方を眺めなくとも、布団へ横になって少しでも疲れを癒しながら警備してくれた方が俺としても助かるのだが。



「…………」



特に深い意味は無かったその質問。

しかし、何時も直に返答をしてきたラビィがこれには応えない。

数秒が経ち、俺が徐々にこの状況を訝しんでいると、ようやく彼女は小さく口を開く。



「沿矢様は色々と危険な目にあわれています。故に、警備体制は万全に整えておく必要があるのです」


「う、うーむ。そう言われるとそうなんだが……」



確かに、俺はこの世界に来てからの短期間で幾つも命の危機に瀕し、生傷が絶えない。

昨日、廃病院で暴れた時も幾つか銃弾は掠めていたしな。怪我をしなかったのは運が良かった。



――けど、そんなに気を使ってくれなくていいんだがなぁ……。



そんな風に言葉を返そうにも、ラビィが微笑みを打ち消して急に無表情へ戻ってしまったので俺は大人しく口を噤む。

何とも気まずい状況下で寝付く破目になったが、瞼を閉じればなんて事は無い。

意識が遠のく感覚が直に襲い、俺はそれに抗う事無く身を委ねた。


――ふと、意識が落ちる寸前に前髪を何かが揺らした気がしたが、揺らした物が何であるかを確かめる気力は既に無かった。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






後日、俺はボタを稼ぐ行動で思い悩んだ。

G-である俺は組合から依頼を受ける事はできない。

つまりは組合関連で俺が稼げる手段と言えば迎撃戦くらいの物なのだが、突発的なレアイベントに運よくめぐり合える訳も無い。


隊商の護衛をする予定があるのならば、探索に出かける訳にもいかない。

何故ならば、もし探索に向かう途中で無人兵器と遭遇し、車両にダメージが加算されるといけないからだ。

むしろダメージで済めば御の字だろうが、以前スパイダーが放ってきたチェーンガンの威力を考えるに、最悪として廃車もありうる。


そこで俺は潔く開き直って、ヤウラに隊商が着くまでの間は休暇を楽しむ事にした。

それに自分でいうのもアレだろうが、ここ最近は色々と事件が起こりすぎている。

俺が兎だったら度重なるストレスで可愛くお陀仏している所だ。


そんな訳で、今日は久々に教会へ向かう事にした。

ロイ先生にも顔を合わせておきたかったので、彼が仕事に出かける前にと思い至り、俺は朝早くにラビィを伴って家を出た。


俺は借金があるものの、手持ちのボタは結構な額だ。

それにゴミ山で俺に焼き芋をねだってきた子供の記憶も新しい。

手ぶらで訪れるのもアレだったし、ルイと歩いた懐かしの大通りに向かったのだが、やはり早朝と言う時間と合わさって出店の数が少ない。


以前、夜にルイと巡り歩いた熱気溢れる活気はなく、物寂しい雰囲気が漂っている。

まるで廃れた町内会の夏祭りぐらいの寂しさで胸に訴えてくる悲しい光景だが、出店が全く無い訳でもない。

朝早くからボタを稼ごうと思い立っていたのであろう出店の主人たちは、車両持ちである俺とラビィを見逃す訳も無く、此処が正念場と言わんばかりに朝の静けさを打ち破って大声を張り上げる。


窓を閉じているから今は何とか大丈夫だが、少しでも開けば耳を塞ぐ必要があるだろう。

下手に降りれば無理矢理に客引きでもされそうな勢いだが、折角なのでお土産を手に入れたい。


そんな風に思い悩んで大通りを徐行していると、俺は見覚えのある顔と出店を発見する。

それは言わずもがな焼き芋を売り捌いていた出店と店主であり、彼はドラム缶の焚き火を使って相変わらずアグレッシブに芋を焼いていた。


流石に大通りへ客が来た事には気づいていた様で、焼き芋売りの店主も車両が近づいてくると寒さに引き攣らせた笑顔を浮かべて、大きく口を開く。


思わぬ再開に俺は頬を緩めながらハンドルを切って其方に進路を取った。


店主と視線が合うと俺は軽く一つ頷いて見せる。

すると彼は怪訝な表情を一瞬だけ浮かべたが、直に商売用の大袈裟な笑みを浮かべて手招きを返す。

どうやら向こうは俺の事を覚えてない様だ。


車両から降りると他の店の店主に捕まりそうだったので、失礼だが窓だけを開けて焼き芋を注文する事にした。

当然ながら窓はパワーウィンドウ式なのでスイッチを押して、窓を下げて俺は顔を出す。



「どうも、それはお幾らですか?」


「へい!! 一つ三ボタで、五つ纏めて買うと十四ボタでお得ですよ!!」



あれ……前は纏めて買うと十二ボタじゃなかったか? もしや、焼き芋屋にも不景気の波が押し寄せているのだろうか?

いや、今の俺はボタを余分に持っている小金持ちに見えるのかもしれない。

あの時とは違って今は車両を扱っているし、彼がそう思うのも無理はないだろうが、何だか釈然としないな……。


とりあえず、芋は十五個を購入した。

前は三個の芋を小さく切り分けて子供達は食べていたからな。今度は腹一杯に食わせてやりたい。

ホルダーから四十二ボタ取り出し、彼に手渡すと満面の笑みを浮かべながら袋を手渡してくる。

中を覗くと前以上の芋のでかさと分かり、思わず苦笑してしまった。


感動の再開とはいかなかったが、まぁ一ヶ月も前の出来事だしな。仕方ない。


助手席に居るラビィに芋が入った袋を手渡すと、彼女は慎重に両腕を使って丁重に抱える。

まるで宝物でも扱う仕草だが、あまりに腕と密着しすぎている。


とりあえず車を発進させ、徐行しながら横目で視線を向けてラビィに注意してみる。



「ラビィ、それ……熱くないか? もう少し腕から離した方がいいんじゃない?」


「大丈夫です。ラビィは人間に近い生体パーツを使用してはいますが、それはあくまで外見や赤外線等で敵方に正体を見破られない様にする為の表面構造カモフラージュであり、必要とあればこの擬似血管や生体スキンの擬似細胞配列を、内部に収容されている極小機械群が即座に変更し、硬度や耐熱機能を向上させる事が可能なのです。傷や機械部分の修復に使用するケースとは違い、極小機械群が使用するエネルギーは僅かですので消耗もしません。なのでご安心下さい」


「なるほど。わからん」


「……要するに、ラビィは凄いと言う事です」


「うむ、それは分かる」



廃病院での活躍は凄まじかったからな。俺の中でのラビィへの好感度は急上昇だ。

とき○モだと、電話が掛かってきたら弾んだ声色に変わる時期ですぞ。



「それなら……いいのです」



ラビィは俺の返事を聞くと満足そうに微笑を浮かべ、助手席のシートに深く背中を預けた。


こういう所は子供っぽいと言うか、クールな見た目と違って幼い感じがして可愛いな。

廃病院でラビィと出会ってもう三週間くらい経つのかな?

浮かべる表情や言葉の返し方にも柔軟さが混じってきてると言うか、人間味が益々と増してきている。


ただ、俺以外への人間にはラビィは相変わらず興味を持たない。

唯一、一緒に暮らしてる里津さんにはラビィから自分で話し掛ける時がある。

里津さん自身もラビィに話しかけたりしてるし、意外と言うとアレだが二人は結構仲が良いと思う。

この調子で弦さん達や教会の皆とも仲良くなって欲しいな。


そんな期待感を抱きながら俺は軽快に車両を走らせ、ようやく教会に続く瓦礫の山へと辿り着いた。

しかし、其処で予想外の人物達と出会ってしまう。

瓦礫の山の前には軍用トラックが停止しており、その荷台から箱を下している軍人達が居たのだ。


最近、彼等に借金の宣告を受けた俺としては嫌な顔合わせだった。

しかし、よく考えれば彼等は教会に食料を運ぼうとしている事に気付く。

教会の子供達を狙った事件のお詫びとして、教会の皆は一年だけ無料の食糧配給を軍から受けているんだったな。


路肩に車を寄せ、エンジンを止めて車内から降りると、此方を注視していた二人の軍人がライフルを持つ手に僅かに力を込めたのが分かった。


彼が手に持つ銃はYF-6の造型に似ていたが、細かい所で色々と違う。

恐らく、アレが里津さんが言っていた『Y6』だろうか。YF-6のベースになった銃だけとあって、よく似ている。


俺は敵意が無い事を示す為に、態々とローブを脱いで荷台に置き、彼等に纏っている装備を見せ付けた。

今の武装は左腕に付けた武鮫とホルスターに収めているDFだけであり、遠距離戦では不利である。

そのお陰でようやく此方の意思が確認できたのか、此方の様子を伺っていた二人の軍人は銃口を下げた。


しかし、視線は未だに此方へと向けられたままであり、注意を向けられている事には変わりはない。

ラビィに関しては焼き芋の袋を両手で抱えていたので、注意を払う必要は無いと判断したのだろうか。


そんな考察をしていると、食料が詰め込まれた箱を抱えて瓦礫の山を登る軍人に気が付いた。

彼等はやはり瓦礫の山の傾斜と足場の悪さに苦労していて、怪我をしない為にと慎重な様子である。

これを何度も繰り返しているとなると、彼等の働きぶりに頭が下がる思い――。


と、そこまで考えた所で俺はある考えを思い付いてしまった。

この案は決して悪い物ではないし、上手くいけば彼等も協力してくれるかもしれない。


そうと決まると話は早い。

俺は敵意が無い事を示す為にハンズアップしながら、小走りで此方の様子を伺っていた二人の軍人の下へと駆け寄っていく。

しかし、流石にそんな突然の行動には度肝を抜かれたのか、彼等は下げていた銃口を再び上げてしまう。



「そ、其処で止まれ!! 動くと撃つぞ!!」



流石にその言葉には足を止めるしかなく、俺は素早く動きを止めた。

しかし、突如としてラビィは俺の前へと静かな足取りで立つと、落ち着いた口調で言う。



「そうはさせません。その前にラビィが貴方を無力化します」



おいおい、そんな勇ましい事を言ったって貴方の手元には焼き芋しかないんですよ?

いや、ラビィならば焼き芋を駆使して相手を軽々と無力化できそうか……?

そんな新感覚アクションがあるのならば是非とも見てみたい気がするが、試す相手が軍では洒落にならん。


急に湧いてきた邪な好奇心を何とか打ち払い、俺は慌てて口を開く。



「待て待てラビィ!! あ、貴方も落ち着いてください。クールダウンです!! クゥルダウゥン……」



警告を飛ばしてきた軍人さんに向かって、俺は巻き舌を駆使してなんとか冷静に振舞う様にと必死に説得する。

下手な英語の発音のお陰か、はたまた此方のアホな行動に気を抜かれたかは知らないが、彼等は僅かに銃口を下げた。

その隙を見計らい、素早く話しかける。



「あの、毎朝こうして教会に食料を運んでいるんですか?」



そう問い掛けると相手も一旦は口を噤んだが、何やら思う所があったのだろう。

警告してきた軍人は疲れた様に溜め息を零してみせ、ゆっくりと口を開く。



「……いや、二日に一回だ。本当は一週間分の量は纏めて運びたい所だが、瓦礫の山が邪魔で仕方が無い。それにこの任務を任された我々の班は五人しか居ないからな。こうして細かく日時を分けて運んでいるんだ」


「そ、そうですよね。そのぉ……貴方達が車両を使って協力してくれるなら、俺が瓦礫の山を除去しますよ?」


「はぁ!? 何を言ってるんだお前は……物狂いか?」



へへっ、その発言を受けて狂化しそうですぞ?


俺が僅かに口角の端を引き攣らせていると、今まで沈黙を貫いていたもう一人の軍人が小さく言葉を吐く。



「……左腕に装備した鉄腕、右の前腕に黒い一線……。おい、コイツはあれじゃないか? ほら……ミシヅの凄腕を退けたとか、戦車をどうこうしたって噂になってた……」


「はぁ? いや……えぇ? こんなガキがまさか……」



まさかも糞もあるか。コアなコスプレをしてる訳じゃないんだぞ。


しかし、此方の事を知っているなら助かる。

まず俺は彼等に一つ断りを入れると瓦礫の山に近寄り、無造作に右手で掴んだ瓦礫の破片を瞬時に握り潰して見せた。

すると乾いた音が冷たい空気を揺さ振り、朝特有の静けさを打ち破る。



「コイツは……驚いた。尾ひれが付いたホラ話かと思ってたんだがな」



俺の事を疑っていた軍人はキザに口笛を吹き、肩を竦めて驚きを表す。

対して冷静に物事を伺っていた相方の軍人は一つ頷き、口角の端を持ち上げてニヒルな笑みを形作る。



「おい、クレス。つまり俺達はこの糞ったれな瓦礫の山を、今後は拝まなくて済むらしいぜ?」



その言葉を聞くとクレスと呼ばれた男性も徐々に笑顔を浮かべ、細かく何度も頷いてみせる。



「……おぉ!! そうだな!! そうだよな!? っしゃあ!! そろそろ足腰がやばくなってきてたからな!! 助かったぜ!!」



クレスは銃から片手を離すと此方へと近寄り、馴れ馴れしく肩を叩いてくる。

瓦礫の山を除去するには彼等の協力が必要なので俺は大人しくそれを受け入れ、乾いた笑みを浮かべて答えた。



「よし、教会に向かった奴等が戻ってきたら早速始めるとしよう。この量だと……往復する回数は結構ありそうだしな。早めに始めた方が良いだろう」



確かに、瓦礫の"山"と言うだけの事はあり、結構手間取りそうではある。

しかし、今の俺にはラビィも居るし、軍の人達が軍用トラックを使って協力してくれるならば、どうにかなりそうだ。


俺は一先ずラビィに教会へ焼き芋を届ける様に頼んだ。冷めてしまうからな。

彼女は直に了承し、両手が塞がった状態でも軽々と瓦礫の山を登っていく。

ふと、この光景を見るのもコレが最後なのだと思い至り、少し寂しくもあった。


思えば、この世界に来た初日にルイを連れてヒィヒィ言いながら登ったり、ノーラさんの軽快な動きに見とれたりもしたな。


だが、この瓦礫の山はただの障害に過ぎず、子供達が怪我をする可能性もある。

ロイ先生やペネロさんとかも大分苦労してそうだし、撤去して悪いって事は無いだろう。

瓦礫の山の除去は、色々と世話になった教会のみんなへの恩返しをするいい機会だ。


俺はラビィが瓦礫の山の向こうへ乗り越えていったのを確認すると、顔を叩いて気合を注入する。

次にジーパンのポケットから黒グローブを取り出し、両手に嵌めて準備を終えた。


さてと、此処は一つ頑張ってみますか。





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