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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
57/105

行動の結果



俺は久々に弦さん達の軽トラに乗せてもらって、組合所に向かっている所だ。

こうしていると初めてこのヤウラに来た日を思い出して懐かしい感じだが、あの時とは随分と状況は違う。


左腕に付けた鉄腕、隣に座る銀髪の乙女、二百万以上の借金、何時の間にか手にした中ニ病チックな二つ名、一ヶ月とちょっとの時間でどうしてこんな風になってしまったのか。


そんな風に少し思い悩んでしまったが、荷台の対面に座っている弓さんの楽しげな笑顔はあの時のままであり、そんな陰険な思いも吹き飛んでしまった。


買う物は既に決まっていたので、組合所に着くと素早く買い物を終える事ができた。

俺が手に入れたPDAは一万六千も値が張った代物である。

確かに一万で売ってる物もあったが、やはり機能は最低限の物しか備え付けられてないらしいのだ。

色々と使える用途がある物だし、此処でケチってもあれなので少し奮発してみた。


これ位の値段になると基本性能も格段に高くなるから、ラビィが言うにはハッキングできる可能性も高くなるらしい。

後は映像を数時間記録できたり、PDAに備え付けられた高画質のカメラで双眼鏡の代わりにできたり、果てには暗視装置の代わりにも使えるのである。

まるで電子機械のサバイバルグッズの様な存在感、ご家庭にお一つどうぞと誰かに勧めたいぐらいだ。

カメラの機能を使う時は必然的に片手は塞がるが、使い様によってはかなり使えるだろう。……赤外線機能とかねぇのかな?


後は物資を纏める袋や、借金の返済記録を書くのに使うメモ帳とペン、PDAの充電器、コンテナのハッキングに使うコネクタ等を購入する。

締めて一万八千と二百ボタを消費する事になったが、そこは必要経費と割り切るしかないだろう。


エレベーターが階に到着するまでの間、俺は片手間に手に入れた新品のPDAを操作する。

PDAの見た目は新型の携帯ゲーム機みたいだが、使い心地は携帯電話に似た感じだ。

基本は画面をタッチする感じだが、必要なら空中にディスプレイを投影できるみたいだ。


手持ち無沙汰にそれ等の機能を確認しているとエレベーターが到着し、俺達は中に入って一階のボタンを押した。

扉が閉まると直に僅かな浮遊感が足元を襲い、廃病院で地下施設に落下した事を思い出して寒気が過ぎる。


そのまま一階に辿り着くと、田中さんが以前に言っていた周辺地図のデータを受け取ろうと思い至り、フロントでPDAを差し出してデータをダウンロードして貰う事になった。


今日は田中さんも居ないし、御川さんも見かけなかったので弦さん達と世間話をして待つ事にする。

とは言っても、殆ど弓さんが一方的に話しかけて此方がそれに答え、弦さんが偶にツッコミを入れる感じだった。


ラビィはただ静かに俺の近くに佇み、周囲の様子に気を配っている。

彼女としては此処は俺がノーラさんの攻撃を受けた場所だから、思う所があるのかもしれないな。


そんな時間を数十秒ほど過ごした時であった。

唐突にラビィが俺の肩を叩き、小さく警告の言葉を発する。



『沿矢様、此方を注視する集団が居ます。ローブの下で銃に手を伸ばしている者もいますし、友好的な態度には見えません』


「……ん? うん」



俺はラビィから耳打ちを受けると、弦さん達との会話を続けながら周囲に視線を走らせた。

すると確かにフロアの一角に集まっている目立つ集団が居て、彼等は揃って此方に視線を飛ばしている。

集団の先頭に立つ大柄な男が居て、彼は隣に立つ男に向けて何やら語り掛けている様に見えた。

落ち着いた態度で語りかける大柄な男とは違い、隣に立つその男は身振り手振りを交えて、必死に説得している風にも見える。


此処からだと少し離れすぎているし、フロアの喧騒に紛れて会話の内容は聞こえてこない。

ただ、どうにも穏やかな雰囲気で無い事だけは確かだ。


流石に俺が視線を逸らしている事に気付いた弦さん達、二人もフロアの一角に居る目立つ一団を見つけて眉を顰める。



「ふむ、どうにも面倒な事になりそうだな」


「知り合い……じゃあないよね? 沿矢君」


「はい。自慢じゃないですが、友達は少ない方です」



気付けば、自然と彼等と視線を向け合う形となってしまった。


そうするとあら不思議。彼等が向ける眼差しの中の幾つかに敵意が宿ってる事に気付く。

彼等は結構な大所帯であり、十人以上の相手からそんな敵意を向けられる形となる。


幸いと言うべき所は、彼等は俺一人に思う所があるらしく、弦さん達には一切の興味が無い事だ。

しかし、このまま二人と行動を共にしていたら要らぬトラブルを引き寄せるかもしれない。


俺は素早くそう判断すると、二人に此処で別れた方が良いと告げた。



「で、でも!! フルトちゃんと二人で大丈夫なの? 今別れたりしたら、即座に絡まれるんじゃない?」



こう言っては何だが、嬉しくも弓さんは心配してくれた。

俺は彼女を心配させない様にと微笑を浮かべながら、片手を振ってみせる。



「大丈夫ですよ。むしろ、そうしてくれた方がありがたいです。彼等の目的が不透明なまま逃げた方がスッキリしないですし、此処は幸いにも組合所ですからね。向こうも騒ぎは起こしたくないでしょう」



ノーラさんが此処で騒ぎを起こした時は余程の異常事態だったと思うし、滅多にあんな事態には陥らないとは思う……はず。

それに見た所、集団の先頭に立つリーダー格っぽい男は理性的に見えるし、話し合えそうだ。


弦さんは暫く悩んでいたが、一つ溜め息を零すと弓さんの肩を叩く。



「弓、木津の判断に従おう。木津よ、生体義手の件は任せておけ。それと……これは俺のPDAの番号だ。何か用があるなら連絡してこい」


「あ、ありがとうございます。弦さん」



弦さんは懐から紙とペンを取り出すと、素早く番号を書き記して渡してくれた。

彼は俺の判断を尊重してくれただけじゃなく、暗に『困った事があったら連絡しろ』と告げてくれたのだ。

思わぬ気遣いを受けて自然と頭が下がる思いだったが、弦さんは突然に素早く弓さんの手を掴むと、彼女の戸惑う声を無視しながら外へと出て行った。


そんな行動を起こした理由はただ一つ、遂にフロアの端に居た集団が此方に向けて歩みだして来たからだろう。


フロアの床を多数のブーツが踏みつけて小気味の良い音を盛大に奏で、周囲に居る人達の注意を惹いた。

トラブルの匂いを嗅ぎ取った警備員は足を止め、興味を惹かれた同業者達は目に浮かばせた好奇心を隠す事も無く、静かに事態の成り行きを見守る。


集団が此方に向かってくると、ラビィが自然と俺の前に出て守ろうとしたが、俺はそれを手で押さえて制止した。

見れば、同じく集団を率いるリーダー格の男が自分の前に出ようとした者達を制止する所であった。

思わぬ互いの行動の一致、気付けば俺とリーダー格の男は苦笑しあってしまう。


リーダー格の男はそのままにこやかな笑みを浮かべ、集団を引き連れて俺に近づいてくると右手を差し出した。



「お初にお目にかかる、ストーム・フィスト。噂の拳に触れてみたいのだが……どうかな?」



紳士的な態度で接してきたその大柄な男は白人で、目尻が下がった瞼から覗き見える瞳の色は、見る者に空を思い浮かばせる穏やかな蒼だ。

少し長めの茶髪は視界を遮らない様に上手く切り揃えられており、首筋近くの髪は紐で結んである。

差し出された右手は背丈の高さに比例して大きくも厚いモノであり、細かく刻まれた傷跡がこの人が歩んで来た生き様を表しているかの様に見えた。


俺は彼の目線に合わせる為に首を少し後ろへ傾け、見上げる形に持っていく。恐らくだが、百九十cm近くはありそうだ。



「木津 沿矢です。できれば、名前の方で呼んでもらいたいですね。どうにも、その呼び名はむず痒くて……」



そう言葉を返しながら手を掴むと、ゆっくりと確かめる様に上下に手を振りながら相手が言葉を放つ。



「これは失礼した。私はドノバン・カークス。チーム『クルイスト』のリーダーだ。よろしく」



この集団はチームを組んでた人達だったのか。

クルイストと巻き舌を駆使して発する感じは、慣れないと舌を噛みそうだ。

幸運にもカークスさんは友好的だが、彼の背後に控えるメンバーは相変わらず敵意を隠そうとはしない。

この構図にはどうにも違和感を覚えて仕方が無い。


一体、彼等は俺の何が気に入らないのだろうか?

多分『空気を無駄に消費してんじゃねぇ!!』等と不良みたいな不満は抱いてはいないとは思うのだが。


そんな風に俺が考察していると、ようやく握手を解いたカークスさんが思わぬ提案をしてくる。



「挨拶は此処までにして、手短に用件を話そう。君には、私達が受けた隊商の護衛依頼に協力して欲しいんだ。勿論の事だが報酬は君にも分けるし、不安なら先払いしても良い」


「……? 護衛依頼ですか? えらく唐突で色々と聞きたい事はありますが……。そもそもとして、どうして俺なんです?」


「君に協力を頼むのは、今フリーな車両持ちが君しか居ないからだ。先日、車両登録しただろ? 組合のデータに載ってたよ。武装してるのも確認した」


「ああ、なるほど……」



そういうデータも調べようと思えば、組合所で調べられるのか。

まぁ、そもそも車両なんて目立つ物は隠し通せる物でもないし、不利益に繋がる事も無いだろう。


ふーむ……疑問は解決したが、あまりに突然な提案すぎて話が見えてこないな。

俺に協力を頼むにしてはクルイストに所属する人達の敵意が気になるし、先払いどうこうだのと話が美味すぎる気もする。

それに何で依頼を受けてから戦力を集めているのだろうか? 一体全体、何がどうなってこんな状況になったんだ……?


そのまま暫く頭を悩ませて沈黙を貫き通していると、カークスさんの隣に立ち並んでいた男が苛立たしげに吐き捨てた。



「ちっ! テメェが俺達の戦車をオシャカにしてなけりゃ、こんな事になってねぇよ!! 協力しねぇならとっとと失せろ!!」


「バスクッ!! お前は黙ってろ!!」


「っ……スミマセン。隊長」



バスクと呼ばれた男は謝罪を口にしたものの、此方への敵意は瞳に宿したまま後ろに下がった。

俺はと言えば、彼が口にした言葉を聞いて後ろ頭を殴られた気分に陥っている。


――つまりは、この人達は俺が壊した戦車の持ち主だった訳だ。


敵意を抱くのも無理はない。俺は状況を理解すると、慌てて頭を下げて謝罪を口にする。



「す、スミマセンでした!! あの時は本当に必死で……いや、これは言い訳ですね。本当に申し訳ないです」



俺が頭を下げると、此方の様子を伺っていたフロアの人達の間で交わされていたどよめきが一層と大きくなった。

しかし、そんな事は気にしてはいられない。今はただ申し訳ない気持ちで胸が一杯なのだ。羞恥心など微塵も気にならない。

だが、突然に俺の肩を誰かの手が掴み、頭上から柔らかな声色が響く。



「いや、気にしなくていい。君が頑張っている事は知ってるからな。クースでの廃病院攻略は私達も耳にしている。戦車は玄甲で順調に修理されているし、その修理費用も君が負担したと聞いている。……借金を返そうとしているのだろう?」



そう言ってくれたのはカークスさんだ。

顔を上げて視線を合わせると彼は強い眼差しを浮かべており、何かを確かめている様にも見えた。

その問い掛けに一つ頷いて見せると彼は直に瞼を細めて口角の端を上げると、これ見よがしに盛大な笑い声を上げながら俺の肩を叩く。



「そうか!! ならば何の問題もない!! むしろ戦車を整備する手間が省けた様な物だ!! はははははは!!」


「た、隊長……」



そんなカークスさんの高笑いを受けて後ろに居たメンバー達は戸惑った表情を浮かべ、此方の様子を伺っていた人達もトラブルではないと判断したのか、少しづつ散り散りになってその場を離れて行く。


それ等を確認し終えると、ようやくカークスさんは笑い声を収め、少し気恥ずかしそうに咳をする。



「んんっ! つまりだな、私は君が背負った負担を知っているし、それを返そうと努力している事も知ってる。それで全てチャラとしたい……皆もいいな?」



カークスさんがそう言ってメンバーを見渡すと、ようやく彼等は渋々と納得してくれた。

勿論、中にはまだ俺を睨みつけている輩も居るが、最初に比べたら大分マシである。


俺はカークスさんの気遣いにこれまた頭を下げ、謝罪と感謝の言葉告げた。

彼はそれを笑顔を浮かべて受け入れたが、直に苦々しい表情を浮かべる。



「話を戻そうか。一ヶ月前、キスクから出て南を目指しながら行商したい隊商が、各都市の組合所に向けて護衛依頼の詳細を記した手紙を出した。都市別で依頼を受けたチームは次の都市までの護衛を引き受け、無事に隊商を都市へ送り届けるとその都市の組合所に所属するチームと交代する。ようするに、リレー方式で隊商を守る手筈となっていたんだ。ずっと同じチームが護衛を請け負うと武器や弾薬の消耗も酷くなるし、疲れが出てくるからな」



カークスさんはそこで一旦言葉を止めると、此方が理解してるかどうかの目配せを飛ばしてくる。

俺はそれにゆっくりと頷きを返し、軽く右手を上げて話の続きを促した。



「当然の事ながら、荒野は様々な危険に溢れている。無人兵器、無法者、中にはネームド付きや賞金首が紛れている事も珍しくはない。故に隊商を護衛する戦力は高いに越した事はないんだ。そして、我々が依頼を受注する為に組合へ提出したチームの戦力を記した報告書には、勿論の事だが戦車を含めていてな。報告書を見た隊商側は当然、それを考慮した上で我々のチームに依頼を申し込んだのだろう。我々へ依頼した事を知らせる指名報告は、二週間前に組合所から届いた」



アカン。つまり、その後に俺が戦車を破壊してしまったのだ。

クルイストのメンバーが憤るのも無理はない。ってか、下手したら隊商側も怒るだろう。



「た、隊商はもう出発したんですか?」


「うむ。八日前に組合のメッセンジャーに事情を書いた手紙を託した時には既に遅く、四日前に出発したとの手紙が逆に届いてしまった。既に依頼は開始されてしまった様だ。戦車の修理は……間に合わない」



くああああ!! 電波の通信妨害さえ無ければPDAの長距離連絡で上手くいったのだろうが、手紙のやり取りでは致命的な遅さだ。


前に地図を見た時はキスクは地図の北端に描かれており、ヤウラからかなり遠い位置に存在していた。

しかし、出発したとの手紙が届いたのが四日前ならば、既にもう結構近づいてきてるのではなかろうか?



「そんな訳でな、隊商側の予定もあるだろうし、スムーズに事を運ぶ為に戦力の増強を何とかしている所なんだ。幸いにも君と同じ様なテクニカルを持つチームの参加は二チームを確保できた。が、そこで手詰まりでね……こうして君に協力を頼む流れになったと言う訳だ。隊商側には事情を話し、戦力の穴埋めをした事を説明して改めて依頼を受けたいのだ。報酬額は七十万ボタで、我々が四十万。後の三十万は集めた二つのチームと君達に十万ずつ分ける手筈だ。先程も言った通り、必要なら先払いしても良い。どうか……協力してもらえないだろうか?」



カークスさんはそう言うと、僅かに視線を伏せた。


気にするなと言った手前、俺にこの様な協力をお願いするのは、暗に責めている様な物だと思っているのかもしれない。

だが、此方としてはそんな事は気にしていられないし、カークスさんやクルイストのメンバーに迷惑を掛けたのは事実だ。


俺は直に首を大きく縦に振り、気合を証明するかの様に拳を握って見せる。



「わ、わかりました。勿論、協力させて下さい!! 元々、俺の所為ですし……」



此処で協力を断ろうものならば、罪悪感で眠れない夜を過ごしそうだ。

それにカークスさんの話では南とはいえ、別の都市に行くそうだし、もしかしたら其処にある組合所で迫田の賞金を受け取れるかもしれない。

御川さんの話では小額か、賞金が掛かってない可能性もあるとの話だが、それを確かめる良い機会だ。


カークスさんは俺の快諾を聞くと表情を緩め、僅かに開いた口の端から空気を静かに漏らした。

恐らく彼も緊張と言うか、色々と切羽詰っていたのだろう。

背後に控えるメンバーの生活も掛かっているのだろうし、リーダーである彼のそんな気苦労も仕方の無い事だと思う。


今後の予定を俺が聞こうとした所でフロントから声が掛かり、周辺地図のデータをインストールされたPDAが返却される。

カークスさんは俺がPDA持ちである事に気付くと、思わぬ誤算であると言いたげに嬉しそうな表情で彼も懐からPDAを取り出した。

その後はPDAの番号を交換し、隊商から連絡が届くか、隊商がヤウラに着いたら連絡を寄越すと告げて、カークスさんはメンバーを引き連れて去っていった。


どうやら思わぬ休暇期間になってしまった。何時ヤウラに隊商が着くかも分からないし、街から離れる訳にはいかない。

恐らく一週間以内には何らかの動きはありそうだが、それはあくまで予想だ。


廃病院の攻略を済ませ、上手い具合にスタートダッシュを決められたと思ったらこれだ。

しかし、今回の件は俺が起こした行動の結果だ。受け入れるしかあるまい。

それに俺もノーラさんから受けた傷が全快していた訳でもないし、丁度良いと思う事にする。



「沿矢様、大丈夫ですか?」


「うん……。にしても、隊商の護衛かぁ……。今の装備で大丈夫かな」


「そうですね。護衛任務となりますと対象を見捨てる訳にもいかないでしょうから、逃亡できません。撃破か撃退を心掛ける必要があるでしょう。勿論、最悪の事態となった場合は別ですが……」



ラビィは其処で言葉を区切ると此方を真っ直ぐ見つめてくる。

彼女が言う"最悪の事態"に陥った場合、俺一人だけでも抱えて逃げようと思っているのだろう。


そんなラビィの物言わぬ忠誠心を感じ取って俺が無言で一つ頷いて応えると、彼女は微笑を返してくる。

組合所での用は全て済んだので、外に出て徒歩で帰路に就く。



「うーむ……とりあえず、里津さんの店で装備を探してみるか」



車両に搭載した装備がM5一つでは色々と不安が出てくる。

"隊"商の護衛依頼となると護衛する対象も多そうだし、無人兵器なんかに襲われた場合は逃げ切れる可能性は格段に低いのだろう。

そうなってくると彼らを守る為に矢面に立って戦闘をする必要が生まれ、相手を撃破か無力化する必要がある。

しかし、何度も戦闘を繰り返すとM5が弾切れするか、不具合を起こしてもおかしくは無い。

これは早急に高火力の武器をもう一つくらい調達しておいた方が良いだろう。


そんな風に頭を悩ませながら、俺はヤウラの街中を悠然と闊歩する。

そうすると相変わらず注目を浴びてしまうが、以前とは少し向けられる視線の種類が違う様な気がする。

前は言うなれば『へー、アレが?』みたいな感じだったが、今は『おー、アレが!?』みたいな感じである。


思わぬ変化に頭を傾げる俺だが、組合所でカークスさんが言っていた事を思い出す。



――クースでの廃病院攻略は私達も耳にしている。



つまり……廃病院の件も噂になっていると言う事だろう。

成程、だとすると今の変化にも頷ける物がある。

つまりは期待の新人で噂になっていた野球選手が、見事にデビュー戦で活躍した感じかな?


俺としては名が上がった所で借金まみれでクラスもG-だし、注目を浴びた所で少し困ってしまう。

だが、名声が上がる事で面倒な奴が絡んでこない事になるんなら、それだけでも満足だ。


そんな風に少し街中の変化を実感しつつ、俺は無事に里津さんの家に帰宅した。

里津さんは相変わらず居間でコンテナの施錠に奮闘していたが、俺達が居間に入ってくると両手を高く上げて降参して見せる。



「あーも!! 駄目駄目!! 全く……面倒な構造にしてくれたもんだわ。無傷での開錠は無理ね」


「あははは……お疲れ様です」



俺は里津さんを労いながら苦笑するが、ふと彼女が暗に『無傷との条件がなければ、開錠できる』と言っている事に気付く。

それだけでも大変に凄い事だ。俺は静かに心中で彼女に抱く尊敬の念を強くする。


その後は大の字で床に寝転がった里津さんに向かって、組合所で起こった事を話す。

すると彼女はゆっくりと眼鏡を取り外し、眉間を揉みながら唸る様にして言葉を漏らした。



「アンタって……外を出歩く度にトラブルを抱えて戻ってくるわね」


「……へへっ」


「な、何を笑ってんのよぅ……」



鼻の頭を擦りながら俺が笑みを浮かべると、里津さんは理解し難い物を見たかのような畏怖の眼差しを浮かべ、口の端を引き攣らせた。

そんな彼女の視線を受け流しながら、俺も居間に腰を下すとPDAとコネクタを取り出してラビィに手渡し、コンテナの開錠を頼む。



「了解しました。ラビィにお任せ下さい」


「う、うむ。けど、無理な様だったら諦めて良いからな?」



ラビィは待ってましたと言わんばかりに大きく頷くと、頼もしい言葉を吐きながら胸を張った。

俺としては買ったばかりであるPDAの回路を防壁プログラムで破壊されても困るので、あまり無理はしない様に念を押す。


するとラビィは此方を安心させるかの様に柔らかな微笑を浮かべると、PDAにコネクタを差し込みながら言う。



「大丈夫です。97.8%の確立で開錠は成功するでしょう」



うん、スパ○ボだったら安心できない確立だ。

今の状態としては『必中』を発動させたい感じだが、俺にできるのは『応援』ぐらいである。


ラビィの頑張りを横目に見ながら、俺は組合所で買ったメモ帳とペンを取り出して今の懐事情を記載する。


四万四千と四百九十ボタ。これが俺の所持金だ。

PDAを買った事で不吉な数字が並んでしまっているが、これが今回の騒動を呼び寄せた訳ではあるまいな?

そんな疑心はさておき、大分資金は減ってしまった。


とは言え、廃病院で手に入れた物資を売り捌いてはいない状態でコレだ。

今の所、追加で三万と五千ボタが手に入る事は確定済みであり、そうすると八万ボタ程が俺の手持ちとなる。

コンテナの中に入っている物資や、コンテナ自体を売り捌けばさらに追加でボタが手に入るだろう。

それに弦さんが生体義手の売り先を見つけてくれるそうだし、思っている以上に資金を確保できる算段だな。


俺はそこで初めて弦さんにPDAの番号が記された紙を受け取っていた事を思い出す。

しかし、今はラビィがPDAを手にしているので連絡は出来ない。


仕方なく今は連絡する事を諦め、俺は里津さんに向けて車両に搭載する装備を見繕いたい事を告げた。

彼女は直に快諾すると床から起き上がり、店内に向かってノロノロと歩き出す。

その後に続いて店内に足を踏み入れると、即座に周りを見渡して装備を確認する。


そのまま暫く商品を見つめていると、里津さんがアドバイスを飛ばしてきた。



「分かってるとは思うけど、重量高の状態で長距離を走行すると色々と負担が出てくるわよ。燃料の消費具合とかも段違いだからね」


「そうなんですよねぇ……。一体どうしましょう?」



俺がそう言葉を返して里津さんに視線を求めると、彼女はニヤリと笑みを返してきた。


どうやら、此方が助けを求める事は既に予測していた様である。

何だか此方の考えが見透かされている様で、悔しくてビクンビクンしそうだ。


里津さんはどうやら既に適切な装備を思い浮かべていたようであり、店の中を迷い無く歩いてとある棚に辿り着くと、其処から取り出した物を俺に手渡してくる。



「MGL64よ。回転式弾倉、アンタにも分かりやすく言えばリボルバー式を採用していてね。口径は40mmで、40mm×46弾を六発装填できるわ。重さは七㎏ちょっとしかないし、使う弾薬の種類によっては威力も抜群よ。射程距離は六百m程だけど、少し上に向けて撃てば七百は行くと思うわよ」



里津さんが手渡してきた物は一見すると小型のショットガンって感じだが、弾倉に嵌める穴のデカさを見てみると、12ゲージぐらいではスカスカになってしまいそうだ。つまりこれは……。



「グレネードランチャー……ですか?」


「ん、火力自体はM5で十分だと思うけど、こういうサブウェポンも積んでるといざという時に役に立つと思うわ。軽いし、場所も取らないしで丁度良いんじゃない?」


「なるほど……」



うーむ、グレネードランチャーと聞くとターミ○ーター2に出てきた奴か、天空の城ラピ○タで主人公が使ってた様な単発式を思い出す。

だが、今手にしているMGL64とやらは六連射も可能らしい。

これ位の重さで強力な武器は他には無いのだろうし、それに照準器も標準装備されているのでお得ではある。購入を即決しても良いだろう。


ただ、この照準器が少し傾いていると言うか……ずれているのが気になる。

暫く頭を捻りながら照準器を触っていると、里津さんが『仰角っていうのよ、覚えておきなさい』と教えてくれた。

何でも、こういう放射線を描く武器の狙いを定める為に態とこういう形で照準器が装備されている様だ。


新たなトリビアに感心しながら俺がMGL64の使い心地を暫く確かめていると、里津さんは店の一角から箱を抱えて戻って来た。



「ほら、HE弾と発煙弾よ。必要な分だけ買うと良いわ。必要なら無料で弾薬箱も付けるわよ。ってか、遠慮なく持って行きなさい。爆発物だし、そこ等辺に無造作で放置していい物じゃないからね」


「どうもです。ちなみに……お値段は?」


「MGL64が三千で、HE弾が一つ百五十ね。発煙弾は百よ」



むぅ……やはり高火力の武器はそれに比例して弾薬の値段が高いな。

MGL64自体がそれほど高くない事が唯一の救いかな?

まぁ、カークスさんも護衛依頼の報酬は十万も分けてくれると言っていたし、必要経費としてこれまた割り切るしかないな。


MGL64の購入を決め、まずは三千ボタ。次にHE弾は五十四発を購入し、八千百ボタ。発煙弾は十八発、千八百ボタ。

締めて一万二千と九百ボタの大きな消費となったが、M5の値段や弾薬費に比べたら安いもんだ。


メイン火力であるM5は護衛依頼で頼りにする可能性があるので、さらに12.7x99mm弾の弾帯を二つ、つまりは二百発分を追加購入しておいた。四千ボタの消費。



「沿矢、これも買っておきなさい」



里津さんはそう言うと商品の中から所々穴の開いた鉄の棒を取り出し、俺に手渡してきた。

まさかイキナリ近接武器をお勧めされるとは思わず少し唖然としてしまったが、そうではない。

手に持った鉄棒の中は空洞であり、それに見覚えのある代物だったのだ。



「それはM5に使う代えの銃身でね。M5はQCB……アンタにも分かりやすいように細かく言うと、Quick Change Barrelってのを採用してるから、交換も安易よ。私が説明してやっても良いけど……。まぁ、アンタにはラビィが居るしね。後で代え方を聞いておくか、実際に見せてもらうと良いわ」



正直、細かく言われても頭にクエスチョンマークが浮かぶ思いであった。

とりあえず、神妙な面持ちで手渡された鉄棒を眺めて誤魔化す事にしようか。



「代えの銃身……」



うーむ、その発想は無かった。

戦争映画とかだと、ずっと撃ちまくってるシーンしか見た事なかったしな。

銃身が駄目になったら里津さんに直してもらうしか手段がないと思ってたよ。


ちなみに代えの銃身のお値段は五百ボタもした。

まぁ、これでM5の火力を継続できるとなれば心強いもんだ。

念の為に代えの銃身は二つ購入しておいた。どーせ何時か使うだろうしな。


まだM5を一回も使用してないので弾は五百発もあるし、代えの銃身も二つ。

MGL64の弾薬も沢山あるし、これで火力は十分だとは思うが、一応後でカークスさんに確認を取っておくか?


俺がそんな考えを浮かべながらボタを支払い、商品を手にすると里津さんが一つ確認を取ってくる。



「沿矢。隊商の護衛となると、彼等は道中の町や集落で商品を捌くと見て良いわ。そうなってくると、其処に滞在する事もあるかもしれないわよね?」


「? えぇ、町や集落があるなら、まぁ……そんな風になるでしょうね」


「だったら……YF-6の弾薬を余分に持っておくと良いわよ。小さな集落や町ではボタを使わず、未だに物々交換で済ませている所も多いからね。いざとなれば7.62x51mm弾をボタ代わりに使いなさい」


「うぇ!? で、でも隊商の人達はボタを稼ぐのが目的でしょ!? そんな所へ本当に寄るんですか?!」



ボタを使わない所があると聞いて驚いてしまう俺だが、里津さんは努めて冷静に言葉を返してくる。



「そういう場所では自分達の集落を襲撃してきた無人兵器を仕留め、その部品を貯蔵している場合が多いわ。プラントなんかも当然そんな所にはないだろうし、彼等にとってそれ等はあまり重要な物じゃないの。だから隊商側としては食料や武器、それと弾薬で貴重な部品を手に入れるチャンスなのよ。そして集めた大量の部品を目的地である都市で売り捌き、一儲け……って流れかしら? だから、むしろそういう場所を点々と巡りながら南に向かう流れになると思うわよ」


「そ、そういう事ですか……」



上手い具合に交易してると言うか、流れができてる訳なんだな。

町や集落みたいな小さなコミュニティでは無人兵器の部品はそれ程の価値が無く、自分達の身を守る武器や弾薬、それに腹を満たす食料なんかの価値の方が上なのだ。 隊商達はそれを狙って危険な荒野を護衛を雇ってまで巡る訳だから、きっとかなりの儲けになるのだろう。


この世界の経済(?)の回り具合に関心を抱きながら、俺は7.62x51mm弾を五百発購入した。

廃病院で消費した分もあるしで丁度良い感じだろう。お値段は四千五百ボタ。


全ての買い物が無事に終わり、使ったボタの総額としては二万二千と四百ボタの消費である。


現在の俺の所持金額は二万ニ千と九十ボタとなり、随分と懐具合が寂しくなってしまった。

しかし、PDAや新たな装備と弾薬、これ等は決して無駄な買い物ではない。

それに護衛依頼の十万と言う高額な報酬もあるし、南にある都市で迫田の賞金が受け取れる可能性もあるのだ。


だが……戦車の穴埋めとして車両持ちである俺や、二つのチームが急遽として参加する形となるそうだが、それで戦力を補えるだろうか?

そもそもとして隊商側は戦車の護衛を当然期待していただろうし、思わぬ変更を受けて激怒する可能性があるだろう。

そうなってしまうと説得もできなくなり依頼は失敗、カークスさん達がペナルティを被るだろう。


俺は今日、組合所でクルイストのメンバー達に向けられた視線を思い出すと身震いし、僅かに俯いて静かに溜め息を零した。


これも全て、ノーラさんとの戦闘で俺が起こした行動の結果だ。諦めて受け入れるしかない。



――どうか、上手く物事が進む様にと願うしかないだろう。



無意識にそう思ったのは、俺の心の弱さの表れなのかもしれない。




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