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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
55/105

閑話 紡がれ始める物語

※ 連続更新分です!! 注意して下さい。



玄甲内のとある一室。

その窓辺に一人立つ男が居た。

彼は外の景色を見ながら僅かにグラスへ注いだ、貴重な果実を使用している高級酒に舌鼓を打っている。


しかし、時刻は真夜中もいい所であり、ようやくスカベンジャーやハンターの大半が床に着こうと考える時間帯だ。

それに比例して高いボタを払い、メイン居住区から電気を供給されている店舗等もようやく灯りを落としていく。


唯一、玄甲やメイン居住区に存在する摩天楼からは電気の灯りが絶える事は無く、世界の大半を包む漆黒の闇に抗おうと奮闘している。

だが、これ等が光を放つ度に周囲に落ちる深淵に誘うかの様な影は強くなるばかりであり、高い位置から町を見下ろしても景色を楽しむことは出来ない。



「ふむ……駐屯地から此処を見ていた時は、どんなに素晴らしい景色が見られる物かと期待していたのだがな……」



何度呟いたか分からぬその言葉。

剛塚 茂道大佐はつまらなそうに瞼を細め、過去の記憶を脳内に再生させようとしていた。


薄暗く、寒さが包む駐屯地から見る玄甲やメイン居住区の灯りは宝石の如く輝いて見え、見る者に楽園を思い起こさせた。

しかし、在りし日の絵は既に色褪せ、途切れ、不確かな物に成り代わっている。


あれだけ思い焦がれていた地位も、名誉も、景色も――手にしてしまえば、無価値に等しい物に成ってしまう。


そして、彼は既に気付いていた。

自分が追い求めていたのはそんな物などではなく、脳裏に浮かべていたありもしない理想だったのだ。

それに気付くには遅すぎて、今更それを否定する事などできるはずもない。


ああ――でも……今、全てを投げ捨てて広大な荒野に一歩を踏み出し、自分が思い描いていた理想を求め歩く事ができたならば、それはどんなに満たされる事だろうか!!


最近の彼が思い描くその想像は、新兵時代にヤウラで成り上がる事を夢見ていた頃を思い出す。

だが、ふと目が覚めると鏡に写る肥えた体や、頭皮が覗き見える頭部、これが今の自分なのだと思い出し、彼は全てを諦める。

そして自棄に陥り、乾いた喉を酒で潤し、空いた腹の中を必要以上に貴重な肉や果実で埋めていくのだ。


何時もと変わらぬその流れ、そして明日もそれを繰り返す事になるのかと、剛塚の心中には絶望に似た諦めが埋め尽くしていく。


しかし――今日は違った。

何時もは深夜に鳴らぬPDAの着信が部屋に響き渡り、剛塚の悪循環を一時的に打ち切った。

彼は夢から覚めた時の様に頼りない手付きでPDAを操作して、通話に出る。



「剛塚だ」


『夜分遅くにすみません。失礼かと思いましたが、組合所で面白い情報を手に入れたもので……』


「構わんよ。丁度、退屈していた所だ」



電話の相手は送迎班に送り込んだ剛塚の私兵だ。

様々な探索地に赴く任務を請け負う彼等に一人でも私兵を忍ばせておけば、偶に思わぬ情報が飛び込んでくる。

今の荒廃時代では娯楽が全くと言って良い程に少なく、こうした"楽しみ"を剛塚は密かに開拓していたのだ。


スカベンジャーが探索地で起こした出来事や、手にした物資の情報は、聞く者を年甲斐も無く興奮させてくれる。


剛塚は組合所に所属する勇士達を尊敬し――いや、彼等に憧れているのかもしれない。

まるで前世界で流行したコミックの主人公達の様に彼等は勇敢で、無謀で、熱意に満ち溢れている。


もしも自分が軍人を志さす事は無く、彼等の様に生きていたらどうなっていただろう――。

そんな想像を剛塚は何度も脳裏で繰り返していた。


さて、今日はどんな面白い話が聞けるのか。

剛塚は電話相手に気付かれぬ様に熱を孕んだ息を零し、耳を傾けた。


電話相手も今日仕入れた情報を聞いて僅かに興奮しているのか、紡ぐ言葉には熱意が宿り、早口だった。

そして、その熱に剛塚も感化され、眠気で細めていた瞼を徐々に開け放っていく。


剛塚が聞いた情報は言わずもがな、クースに存在していた難攻不落の廃病院が攻略された件である。

しかも、それを成し遂げたのが、今のヤウラを騒がせている噂の少年『木津 沿矢』であったのだ。


沿矢と面識のある剛塚は病室で会った事を思い出し、口角の端を持ち上げた。



「ふむ、やはり噂に相応する実力は持っていたのだな。危うく……騙される所だったよ」



そう、剛塚は沿矢が持つ実力を疑っていたのだ。


賞金首のビッグネームを仕留め、百式を破壊し、二つ名持ちの勇士を退けた。

そんな輝かしい功績を持つ噂の人物に会える興奮で、剛塚は僅かに病室の前で二の足を踏んだ記憶もある。


しかし、実際に沿矢と顔を合わせて――剛塚は静かに落胆した。

幼さの残る顔立ち、覇気を感じさせない眼差し、交わした言葉に感じられない余裕。


突き付けた借金の書類に対する反応だってそうだ。

彼は直にそれを受け入れ、反抗する気概を見せなかった。

どこまでも普通、大人しく軍との戦力差を受け入れ、従う子供。


だけど――もし、そんな"普通な子供"が本当に絶大な力を所持していたら?


ヤウラの組合所に君臨する紅姫こと、キリエ・ラドホルト。彼女の"扱い"には注意が必要だ。


気紛れで、我侭で、言う事を素直に聞かない。


とある重要施設の攻略の際には『気乗りしない』なんて事を"ほざく"彼女に対し、軍は態々とノーラを雇って手綱を操った時もあった。


だが――キリエに匹敵しそうな実力者が遂に現れた。それも随分と歳若く、"扱いやすそう"だ。


あの少年は自分の力量を見極め、軍と言う組織に対抗できないと賢くも認識している。

愚かにも"姫"などと呼ばれ、調子付いているキリエとは比べるまでも無い程に貴重な存在だ。


幸いにもキリエは昏睡状態に陥ったノーラに付きっきりであり、メイン居住区の病院から離れる様子が見られない。

さらには表舞台に立った一人の少年に対し、世間は熱狂している。

とは言え、それは剛塚が"態と"噂を流させたお陰でもあるのだが……。今の所、それは想像以上の効果を発揮している。


沿矢に請求した莫大な借金、それを返済する為の働きで彼は実力を徐々に兼ね備え、何時か本当に紅姫を越えるかもしれない。


上層部の連中はヒューマノイドなどと言う"過去の遺物"に目を奪われ、愚かにも真の宝が何なのかに気づけていない。真に目を向けるべき存在はあの少年だと言うに――。


剛塚は彼等を嘲るかの様に笑みを強くし、また外の景色に目を向けた。


気付けば荒野の果てから太陽が顔を覗かせ、ヤウラを黄金色に染め上げていく場面だった。


ああ、胸に宿る歓喜はこの素晴らしい景色を見る事ができたからか、それとも自分の脳裏で思い描く未来を見ていたからか。


不幸にも、剛塚にはそれが分からなかった――。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼





ヤウラを闇が包み込んだ時刻。

弦は自宅のリビングで装備の点検の終え、静かに息を吐いた。

しかし、ここ最近は狩りに出かけていないから点検の必要は無く、この作業は自身の腕が鈍らぬ様にと始めた物だった。


弓は沿矢に関する噂を聞くと酷く混乱し、暫く手が着けられなかった。

最後になると全くの別人に関する物が流れてると決め付けて憤慨していたが、それも里津が否定した為に破綻してしまう。

弓は様々な"功績"を打ち立てていた沿矢に"お姉さん面"していた事を恥ずかしく思い、落ち込んでしまって部屋に篭りっきりになってしまった。

弦としてはどうしてそういう行動を取るに至ったのかに理解不能であったが、年頃の娘の思考など読めるはずも無いと、既に考える事を放棄してしまっている。


このままではイカンと思い、弦は何度か弓の説得を試みたが、全てが上手くいかなかった。

部屋の前で語りかけたが応えてくれない、食事を運んだ時も部屋から出てこないし、少し目を離せば部屋の前に置いていた食事が入った容器が空となっており、部屋の前に置かれていると言う徹底ぶり。


仕方なく、弦は最終手段としてトイレの前で待ち構えていたのだが、部屋から出てきた弓は据わった眼差しで自分を見つめてくるだけなのだ。


罵倒もせず、恥じらいも見せず、暴力を振るう様子も見せない。


そんな弓の様子には歴戦の勇士である弦でさえ気圧されてしまい、遂には説得する事を諦めざるを得なかった。

時偶にこっそりシャワーを浴びていたりするので、衛生状態を心配する必要は無いだろうが、問題はそこではない。

気付けば、弓が部屋に引き篭もって一週間は余裕で過ぎているのだ。

幸いにも長い狩り生活で貯えたボタはまだ豊富にあるので、懐事情を憂い必要はないのだが……。


弦はそこまで考えて思考を打ち切り、窓の外に視線を向ける。

外は大分暗くなってきていたが、気分転換に久々に外へ飲みに出かけるかと思い至った。

何時もならば弦は自宅で一人飲み明かすのだが、どうにも今日は人恋しくて堪らないのだ。


そんな状態に陥った原因はただ一つ。

それはここ最近、弓と会話を交わせていないからだろう。


そうと決まれば話は早い。

弦は素早く身支度を整え、ホルスターに銃を仕舞った。

出かける際に弓の部屋へ寄って声を掛けたが相変わらず反応は無く、弦は静かに溜め息を零した。


家を出ると冷たい空気が肌を撫で、吐いた息は僅かに白く染まった。

マンションの一階に降りた所で車の鍵を持っていない事に気付き、弦は舌打ちを放つ。

しかし、これは怠けていた自分への罰だと弦は言い聞かせ、トレーニングも兼ねて酒場へ徒歩で向かう事にした。


身に纏ったローブの下ではホルスターに納めている愛銃から手を離さずに、弦はシッカリとした足取りで街中を悠然と歩いて行く。

店舗が立ち並ぶ外周付近へは少し遠く、弦は暇を潰す為にふと脳裏に湧いた考えに思いを馳せた。


弦としては沿矢に思う所は無い。

ゴミ山を吹き飛ばしたのは子供を助ける為に必要だったのだろうし、迫田の殺害に関してもまた同様の見方である。

クースでの件は此方としても少し関わった部分もあるが、同業者を助けたりしていたりと弦は概ね好意的に見ていた。

嘘を吐いたのは一端の男としての判断だったのだろうし、寧ろホイホイと口が軽い奴よりかはマシと考えた。

大通りの死闘に関しては情報が二転三転してあやふやであり判断は下せないが、過去の件から考えるに、恐らく避けられない事態だったのだろう。


沿矢と直接に言葉を交わせたら弓の件や噂の真偽に関する事の片がつくのだろうが、里津の話では沿矢は大怪我を負って玄甲へ運ばれたらしいので、弦は暫く会えないと予想している。


そんな事を考えている間に何時の間にか外周近くに辿り着いており、遠くから喧騒が聞こえてきた。

懐かしい空気だ。騒がしい雰囲気は好きではないが、心躍る事が無いと言えばそれは嘘になってしまう。


昔の記憶を頼りに道を辿り、弦は昔よく足を運んでいた酒場へ久々に足を踏み入れた。

が、生憎と顔見知りの店主はおらず、雇われた代理のマスターがカウンターの中に居る。


弦は中に入ると酒を一杯頼み、カウンター席に腰を下ろしながらその男に事情を聞けば、どうやら前の店主は腰を悪くしたとの話だった。

それを聞くと弦は苦笑してしまうが、逆に言えば同年代の自分もそうなる可能性がある事に気付き、気まずそうに咳を零して場の雰囲気を変える。

幸いにも代理のマスターは人柄が良く、"手癖"も悪そうには見えない。そういう意味では前の店主は運に恵まれたのだろう。


何故なら店を任せたが最後、金や備品を持ち逃げされた話なんて言うのは吐いて捨てる程にある。

何時の世も、一番の宝は信頼と安心だ。 それは狩りを生業とする弦とて例外ではない。

弓を溺愛しているから狩りに連れて行くのではなく、心から信頼しているから弦は背中を任せているのだ。



「だからこそ……今の言葉を交わせない状態が酷く辛い」



気付けば、酒が入ったショットグラスを片手に弦はマスターに愚痴を零していた。

マスターは態々とグラスを洗う手を止め、神妙な面持ちで弦の話に聞き入っている。


幸い……と言うと悪いだろうが、此処は少し目立たない位置に店を構えており、それに比例して客も少ない。

此処を訪れる者は大抵静かな雰囲気で酒を楽しみたいか、聞き上手である店主に愚痴を零す為に訪れる輩が多いのだ。


マスターの相槌に弦は気を良くし、グラスを傾ける回数が自然と増え、店の売り上げに貢献していく。

そんな状態が小一時間ほど続いた時だろうか、ふと大声で会話を交わす集団が店に足を踏み入れてきた。

彼等は横柄な態度こそ取ってはいないものの、声量を抑える事はせず、それに気を削がれた馴染みの客が次々に席を立っていく。


弦もそんな風に気を削がれた一人であり、顔を顰めながら代金を払おうと懐からボタが入ったホルダーを取り出した。

しかし、ふと気になる言葉が耳に飛び込んできて、弦は思わずボタを取り出す手を止めてしまう。



「……廃病院が遂に攻略されたかぁ。地味に行こうか悩んでたんだがなぁ」


「クースに行くと何時も視界に入るからな。自然と誘惑に駆られちまうよな!! その誘惑に負けて、死者が増えたんだろうが」


「何にしても、凄いことだよな。しかも攻略したのは噂のストーム・フィストが単独で、さらにLG式を全て排除したそうだ」


「あ? アイツはヒューマノイドを連れてるんだろ? まぁ、だとしても一人と一機での攻略だから……凄いと言えばそうなんだがな」


「何だよ? 妙に歯切れが悪いな。まさか……嫉妬してんのか!? よせよせ!! 敵わないって俺等みたいな初級じゃよ。妬む分だけ疲れるだけだ」


「……貴婦人との戦いでは戦車を転がしてたって本当かな? 俺は流石にそれは疑ってるんだぜ?」


「はぁ?! 疑うも何も、大通りの荒れ果て具合を見れば一目瞭然で真実だってわかんだろうが? 本当に馬鹿だよな、お前は……」


「…………あぁ!? んだその言い草はぁ!!」



その後は馬鹿にされた男が逆上してテーブルを蹴り上げ、話は途切れてしまった。

しかし、幸いにも弦は今交わされた短い会話で、誰の事を指しているかに気付く事ができた。



「木津……?! 戻って、きてたのか……? ったく……」



まるで参ったと言わんばかりに弦はカウンター席で頭を抱える。

彼の表情は伺えず、周りの客やマスターは店内で沸き起こった喧嘩に気を取られ、誰も注視していない。だが――



「相変わらず……人を驚かせる奴だなぁ。オメェは……」



腕の隙間から漏れ出てきたその呟きを聞けば、弦がどんな表情を浮かべていたかは瞬時にして分かった事だろう。



クースに存在し、数多のスカベンジャーが命を落とした廃病院攻略の報は瞬く間にヤウラ全体へと広がり、疑問視されていた少年の実力の程を確固たる物とした。


思えば、今日という日を境に彼の物語は人々の間で徐々に交わされ、紡がれ始める事となったのだろう。



――これは崩壊した世界を駆け巡った、一人の少年に関する長い物語の序章に過ぎず、彼が辿り着く先は――未だ見えない。




少し短いですが、装備調達&廃病院リベンジ編終了です。

次の話を始めるまでにまた少し間が空くと思います。

再開する前に活動報告を上げるかもしれません。


此処までこの話を読んでくれている皆さんに感謝です!!

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