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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
53/105

オールクリア



Q:質問『けいびロボにハイシャをいきおいよくたたきつけたらどうなるの? これってト○ビアになりませんか?』


A:答え『壊れます』





俺が放った射撃ならぬ、車撃が通路に飛び込んできたLG式の数機を纏めて破壊する。

その音は轟音、等と言う生易しい言葉で表現できる物ではなく、まるで建物内で複数の自動車が猛スピードで激突事故を起こしたと言われても納得できる物だった。


全力で蹴りだした廃車は通路の奥の壁をもブチ破り、後に残された物は四肢の何処かを欠損したLG式の残骸のみ。

だが、流石は機械と言うべきか、そんな苛烈なダメージを負っても機能を停止してないLG式が二機いた。が――そんなLG式に向かって、同じく機械であるラビィがYF-6を使った正確な射撃を叩き込んで止めを刺していく。


仕留めた数は恐らく五機程だろうか? 残骸を見て区別しようにも、無惨に散らかりすぎて判断が出来ん。

しかし、俺がそんな苦労をするまでもなく、ラビィが残敵数を口にしてくれた。



「四機撃破、残り二十七機です。次にLG型が正面通路に飛び込んでくるまで二十秒。しかし、来るのは二機だけです。他はまだ遠い」


「わかった、相手が集まるまでしばらく射撃戦だな。俺は次の廃車をセットしてそのまま盾にする。ラビィは通路を覗き込みながら射撃を頼むな。廃車を打ち出す時は合図する」


「了解しました」



その会話を終える頃には、確かに金属質な重低音を伴った足音が通路の先から聞こえてきた。

俺は急いで脇に置いていた廃車を掴んで位置を動かし、正面の通路に向けるとそのまま盾にする。

次は一旦シャベルを足元に置き、肩から下げていたYF-6を手に取って安全装置を切りコッキングレバーを操作した。

その準備を終え、スコープに目を通した所でラビィが攻撃を開始したのが分かった。


スコープに映る通路の先、そこから姿を現したLG式は人間の様に身を隠そうともせず、悠然とした足取りで通路の真ん中に立っている。

装甲の所々に彩られたブルーカラー。しかし、それは長年の月日の経過で剥がれ、色褪せ、黒ずんでいた。

そして、その僅かに残った印象深いブルーカラーで彩られた装甲を7.62x51mmが貫き、中のコードを傷付けて放電する様子が見えた。


だが――相手は機械。鋼の体を持つガーディアン。

長年の月日が経過しようとも、彼は自分の役目を忘れてはいやしない様だ。恐らくそれは、侵入者を排除せよと言う数世紀前に受けた命令だろうか。

LG式は自身の体が削られていく事を気にも留めず、火器が内蔵された両腕を振り上げ――装甲カバーが開いて隙間から銃口が覗き見えたその瞬間、其処から光が放たれた。が、それは相手の射撃が開始された訳ではなく、右腕が突如として不自然に乾いた音を立てて吹き飛んだのだ。


LG式は残った左腕を動かし、またもや此方に向けた所でその左腕も弾け飛ぶ。

そこまで目撃した所で、ようやく俺は何が起こっているのかを理解してしまった。


――ラビィは、LG式の装甲の隙間を狙って内部構造に銃弾を撃ち込んでいる。


そう理解した時、俺は自身の肌に鳥肌が立つのを感じ取った。

この世界に来てからと言うもの俺も銃器を扱っている。だからこそ、ラビィが起こした今の光景は実にとんでもない事だと分かってしまう。

銃器のブレを抑える腕力、狙いを定めるスピード、物事を冷静に判断する思考力、これ等を全てラビィは兼ね備えているのだ。


しかし、LG式は両腕を弾き飛ばされても諦めた様子は無い。

LG式は接近戦モードに移行した様で、一直線である通路を迷い無く駆けてくる。

もっとも、両腕が弾き飛ばされた事による重量変化をAIが計算しきれていないのか、その足取りは頼りなくふらついていた。


そして、そんな状態で次の攻撃を回避できる訳は無い。

ラビィは手に持つ武器をYF-6からY-M20に切り替えており、既に迎撃の構えを取っている。

彼女は相手が十分に近づいてくるまで引き付け、トドメの一撃を放った。


LG式はそれをマトモに受けて後方に弾き飛ばされ、遂にバイザーから光が消える。

数百年の時を過ごし、遂に迎えた数十秒の戦闘でLG式は遂に己の役目を終えた。

そんな事実に俺は僅かな感傷を抱いたが、言ってしまえばそれだけだ。 引き金を引くのを止める理由にはならない。


俺は新たに通路に誘い込まれてきたLG式にYF-6の銃撃を叩き込み、ラビィが行うYF-6のマグチェンジが終わるのを待つ。

一本道の通路、しかも待ち伏せしていた事も合わさってか、LG式に面白い様に銃弾が吸い込まれていく。

まずは肩の装甲が弾け飛び、次にバイザーが割れ、最後に膝を打ち抜かれたLG式は足を止めてしまう。

最後の抵抗と言わんばかりにLG式が両腕を振り上げた所で、マガジンの交換を終えたラビィが再度の射撃を開始する。

自身に降り注ぐ銃弾の数が倍になった事も構わずにLG式は反撃の銃火を放ったが、自身のダメージコントロールにAIのリソースを割かれているのか、放たれた銃弾は俺達の目の前の床に途切れ途切れで撃ち込まれていった。


銃弾の雨に晒されていたLG式は遂に諦めた様に両腕をダラりと下げ、割れたバイザーから漏れ出ていた光を途切れさせる。

両膝を着いたまま機能を停止させたのは、まるで此処を守るガードとしての最後の意地だと言わんばかりの出で立ちであった。


俺はそんなLG式の様子を注視しながらも、YF-6のマガジンを交換する。

中にはまだ数発残っていたが、敵が途切れた今が交換するチャンスだ。俺は増設されたパウチから予備のマガジンを取り出して装填する。

ちなみにYF-6から取り出したマガジンは、同じく増設された空きのあるポーチの方に押し込んでおく。

空いたパウチにマガジンを納めないのは、またマグチェンジする際に間違って選ばない様にする為の工夫だ。

戦闘の最中では咄嗟の切り替えが重要となる。俺はその事をこの世界に来てから学んだからな。



「六機撃破、残り二十五機です。次にLG型が正面通路に飛び込んでくるまで二十九秒。数は五機です。どうやら近くに居たLG型が組んだようですね。もしかしたらプログラムを組んだ人物は、状況によって対応を変える様にコマンドを組み込んでいたのかもしれません」



その言葉を聞き、俺は前に此処から脱出した事を思い出す。

あの時も確か……俺や生存者達が逃げ出さない様に入り口を五機のLG式が塞いでいた。

すると――あれは俺が多数のLG式を撃破した事によって、あいつ等の行動パターンに変化が訪れたと言う事か?


じゃあ、各機体は多少なりとも情報をリンクしているって事だろうか?

ふむ、それは厄介だ――と、普通なら思うだろうが今回は違う。廃車を打ち込む用意をしている今は、纏まって来てくれた方が大変にありがたい。


この病院に配置されたLG式のプログラムを組んだ人も、まさか廃車を武器に使う様な輩が侵入してくるとは想定外だった訳だ。

俺は戦闘を開始した事で自身のテンションが上がっている事に気付いたが、それは悪い気分ではない。

戦争映画とかで戦闘中にも関わらず、仲間同士で軽口を叩いていた場面を見て『リアリティが無いなぁ』なんて思ってたが、間違ってたのは俺なのかもしれない。


そんな事を考えていると、五機のLG式が奏でる重厚な足音が聞こえてくる。

それは通常ならば相手に恐怖を与える響きなんだろうが、残念ながら今の俺にはそれは心躍らせる物だった。


通路に飛び込んできたLG式の群れは綺麗に横一列に並び、火器が内蔵された腕を振り上げようとした所で俺は声を張り上げる。



「打ち込むぞ!! 下がれ!!」


「了解しました」



普段なら使わない言葉使い。しかし、ラビィはソレに不満を見せず素直に通路から少し距離を取った。 俺はそれを見届けると全力で廃車を蹴りだす。

廃車を蹴りだしたのは前の時と合わせてこれで三度目だが、何時も足に感じるのは重みではなく、まるで階段を踏み外した時の様な頼りない感覚だ。


腕力よりも脚力の方が高いと言う話は、恐らく誰もが聞いた事があるだろう。

それは怪力を付加された俺も例外では無いのだろうが、数百㎏はありそうな廃車を苦にも思わないとは驚異的だ。

しかし、数十tはありそうな戦車を押しながら走り回ってたから、その疑問は今更だろうか。


そんな力で押されて急発進した廃車は、前世界で地上を走り回っていた頃を再現するかの様に盛大な風切り音を伴って通路を駆けて行く。

そして今日二回目の衝突事故が病院内で起こり、新たな犠牲者が生まれた。しかも先程よりも犠牲者は多いときたもんだ。最高だね。


二台も廃車を打ち込まれた通路は壁や天井にダメージを受けてボロボロであり、通路の奥はさらに大穴が開いて酷い有様だ。

しかし、まだ最後の一台が残っている。が……思ったよりも数を減らせてはいない。



「十一機撃破。残り二十機。次にLG型が正面通路に飛び込んでくるまで二十一秒。数は先程と同じく五機です。それと……他のLG型が進路を変えました。他の通路に向かっています。どうやら今度は防壁を突破する事を試みるつもりでしょうか」


「三分の一を失った所で対応に変化を織り交ぜてくるか……。柔軟だなぁ」



お前ん家、柔軟剤使ってるのか? って某有名CMの名台詞を呟きたい程に柔軟だ。

前の戦果と合わせると廃病院に居た半分のLG式を始末しただろうか?

軍隊だと全滅判定でも下されそうな感じだが、相手は機械だ。文字通り"全滅"するまで攻撃を止めるつもりはないだろう。


とりあえず俺は最後の廃車をセットし、目の前に飛び込んできたLG式達に向かって"機械"的な動作で廃車を打ち出した。

ボーリングならストライクを取れる感じにど真ん中へと廃車が吹っ飛んで行き、再び見事にLG式の群れが吹き飛ばされる。

しかし、彼等がボーリングのピンの様に再度立つ事は無く、辛うじて機能を停止しなかったLG式にさえ俺とラビィが銃撃でトドメを刺す。



「十六機撃破。残り十五機。次にLG型が正面通路に飛び込んでくるまで二十一秒。数は先程と同じく五機です。それと、二つの防壁へ遂にLG型達が到達した様です。別々で五機ずつが取り付いています」


「うん、めっちゃ叩いてるもんね」



そうなのだ。俺が塞いだ通路の二つから苛烈な音が聞こえてくる。

流石に相手も機械。その腕力は相当な物らしく、廃車はともかくとしても、立てかけていた長椅子なんかは揺れで倒れていく。

左右の通路を塞いだのに使った廃車は七台。実はもう駐車場に残っていたのは十台だけだったのだ。

四台で防いでいた通路は後少し持ちそうだが、三台で防いでいる方は少しやばそうである。


俺は仕方なく自分のYF-6をラビィの傍に置くと、彼女に命令を下す。



「ラビィ、俺のYF-6を貸すから暫く正面を押さえててくれ。無理に倒そうとはしなくていい。怪我をしないように注意するんだ」


「了解しました。損傷しない様に最大限の注意を払いつつ、相手の足を止めます」



ラビィの返事を聞くと俺は床に落ちていたシャベルを右手で持ち上げ、廃車を三台使って防いでいた通路に駆け出していく。

そこへと近づくに従って金属同士が擦りあう耳障りな音が大きくなり、僅かに空いた隙間からLG式のバイザーの光が漏れ出ていた。

つまりは相手も俺を視認出来たと言う事だろう。廃車を叩く音が止まり、揺れが収まってしまう。


恐らくだが、LG式達は向こうで俺に銃口を向け始めたと予測する。

以前、廃車を盾にした時は二機の銃撃で廃車が貫通してしまった。今回は三台を重ねているとは言え、恐らくは防ぎきれないだろう。


だが――俺はもう廃車を盾にするつもりは無い。

俺は廃車で作った防壁に辿り着くと、走り出した勢いをそのままに跳躍し、二本の足を使って全力で蹴りだした。

この崩壊世界で初めて、いや……人生で初めて繰り出したドロップキックは俺の想像以上の威力を発揮し、防壁に使っていた三台の廃車ごとLG式を吹き飛ばし、そのまま病院の外壁までも突き抜けて外へと転がって行ってしまった。


パラパラとした外壁が崩れる小気味の良い音と、僅かに覗き見える外の景色に俺が少し余韻を感じていると耳を劈く発砲音が聞こえて来た。

慌てて床から起き上がって後ろを振り向くと、ラビィが通路に銃撃を加えている。

しかし、やはり一人で五機を相手にするのは少し厳しいのか、彼女は機敏な動きで通路から飛んでくる銃弾を回避しながら反撃していた。


廃車四台で塞いでいた通路はまだ少し持ちそうだと思っていたが、LG式は銃撃と打撃を交互に加えながら急激に防壁を破壊し始めている。

俺は舌打ちを放ちながらラビィの援護を行うべく正面通路に戻ったが、俺が使える武器はDFだけだし、通路から飛んでくる銃弾の嵐が此方の反撃を許さない。


ラビィは既に二丁あったYF-6のマガジンを使い切っており、今はY-M20を手に奮戦している。

YF-6のマグチェンジを行おうにもラビィは通路を挟んだ反対側に居るし、YF-6を渡してもらう間にLG式が無理矢理に突破してきそうな勢いだ。

俺は堪らず右手に持ったシャベルを槍投げをするかの様に持ち直すと、ラビィに声を掛ける。



「今から俺が相手の攻撃を止める!! その隙にトドメを頼む!!」


「――了解しました」



何を? どうやって? そんな疑問を口にせず、ラビィは静かに応えた。


それが今の緊迫した状態ではとてもありがたく、俺は一つ覚悟を決めると正面通路に横っ飛びで身を投げ出し、シャベルを全力で投擲する。

不安定な姿勢で放たれたにも関わらず、シャベルは大きな風切り音を立てながら通路に悠然と立っていた三機のLG式の内、一機を盛大な金属音を伴って貫いていた。射撃途中で後方に吹き飛ばされたLG式の銃口がずれてしまい、ソコから放たれた幾つかの銃弾が背後から味方を打ち抜いてしまった事で、残された二機は僅かにバランスを崩す。


そして――ラビィにはその僅かな隙で十分だった。

彼女はその様子をセンサーで捉えていたのだろう、そのチャンスを見逃さずに通路に素早くY-M20を向けると連続で射撃する。

フォアエンドを壊してしまいそうな位に素早く薬室へ装填された銃弾はすぐさま銃口から放たれ、二機のLG式を見事に打ち抜いて後方に弾き飛ばした。

俺は念の為にDFを引き抜いて寝転びながら構えを取っている。が、その心配は余計な物だったようであり、見事に二機は機能を停止していた。


シャベルが突き刺さって吹き飛ばされたLG式はと言うと、奥の通路で大の字に倒れて動きを停止している。

LG式の胴体部分に深く刺さったシャベルが墓標の様に聳え立ち、陰険な様子を醸し出していた。


思わず通路の様子に気を取られていると、俺の近くに乾いた音を立てて銃弾が着弾した

慌てて身を起こすと最後の防壁の大部分が既に破壊されており、その隙間からLG式が腕を突き出して射撃を開始し始めている。

俺は慌てて正面にあった通路へと逃げ込み、少し遅れてラビィも銃器を抱えながら通路に身を隠す。

彼女からYF-6を受け取ると俺はホルスターへDFを戻し、近くの壁に寄りかかる様にしながら後ろ頭を当てて素早くマグチェンジして一息を吐く。



「ラビィ、残りはあの五機だけだよな?」


「はい。二十六撃破。残りは防壁の向こうに居るLG型の五機だけです」


「そうか……。フロアに広がったあいつ等と、この一本道の通路で撃ち合うのは拙い。とりあえず奥に逃げ込んで体勢を立て直そうか」


「了解しました」



惜しくも殲滅するには至らなかったが、まずまずの戦果だろう。

が、此処で油断する訳には行かない。俺はノーラさんとの戦闘で油断し、罠に引っ掛かって一気に形勢を逆転されてしまった経験がある。


俺とラビィは素早く通路を駆けて奥の通路に辿り着くと、左右に分かれて射撃位置を取る。

その際にLG式から片手でシャベルを引き抜こうかと思ったが、思ったより見事に突き刺さっていたのでシャベルごとLG式は浮き上がってしまう。

仕方なく、俺はLG式を踏みつけながらシャベルを引き抜いた。その衝撃でLG式の胴体は二つに分かれ、僅かに漏電して見せた。


手にしたシャベルの先端は衝突した時の衝撃が強すぎたのか僅かに潰れており、欠けている部分もある。が、鈍器としてはまだ十分使えそうだ。

そんな風に気を抜いていると、遂に元居た通路からLG式が迫ってくる音が聞こえて来た。

俺は通路を挟んで対面に居るラビィに左手を翳し、攻撃のタイミングを見計らう様に合図を出しながら右手に持ったシャベルを持ち直す。


今度は銃撃が飛んできていないので、俺はゆっくりと息を吐きながら心を落ち着かせる。

そして、遂に覚悟を決めると通路の正面に立ち、今度は右手に持ったシャベルをブーメランを投げる時の様に横へ寝かせながら投擲した。

中央を狙ったはずなのだが、それは僅かに逸れてしまい、端に居た二機のLG式を巻き込むことしか出来なかった。


しかし、出鼻を挫く先制攻撃としては十分だろう。俺が攻撃を開始すると、合図を出すまでも無くラビィもYF-6を構えて銃撃を放っている。

その援護射撃の間に俺も落ち着いてYF-6を構え、通路へと向かって苛烈な攻撃を開始し始めた。

勿論の事、LG式も反撃を開始するが、真っ先に隊列を崩された事が敗因となってしまったようだ。


そもそもとして、残った三機中の一機は既に銃弾を撃ちつくしていた様なのだ。

それが過去に他のスカベンジャーと戦闘していたお陰なのか、それとも先程防壁を破壊した際に撃ち尽くしてしまったのか分からない。

だが、そのお陰で俺とラビィが攻撃を開始するとまず一機が通路を駆けてきていたのだが、背後に居たLG式は同士討ちしない様にプログラミングされていたのか、銃撃を抑えて撃ってきたのである。


思わぬ幸運に俺とラビィは迷わず飛びつき、此方は遠慮せずに銃撃を撃ち込む事ができてしまった。

YF-6を撃ちつくすと俺自身はDFを引き抜き、ラビィはY-M20を構えて損傷を負ったLG式にトドメを刺していく。

そして――遂に俺達は全てのLG式を排除する事に成功する。


だからと言って吼える訳でもなく、歓喜の言葉も交わさずに俺とラビィは静かに弾を装填する。

病院内にはただ、侵入者に降伏を呼びかける機械音声が響き渡るだけだ。

その音声をBGMに俺とラビィは消耗した弾薬数を確認していく。


YF-6に使用している7.62x51mm弾。これは俺とラビィの分を合わせて二百と二十五発を消費。


DFに使用しているDE弾は六発を消費。


Y-M20に使用している12ゲージは二十一発を消費。


シャベルは……うん。結構ボロボロになってしまったが、値段以上の効果は発揮してくれたよ。ってか、接近戦に使用できなかったよ。

まぁ、使いやすかったよな。投擲武器としては最高です。里津さんも入荷してくれないかな。


俺とラビィは自分達の残弾数を確認すると、一旦外に出て弾薬箱から弾を取り出してマガジンに弾を込める。

それも滞りなく直に終わり、パウチにマガジンを詰め込んで準備を終えた。

そこでようやく俺は気を抜いて息を吐くと、ラビィに労いの言葉を掛けてみる。



「ありがとう、ラビィ。ラビィが居なかったら、こんな大胆な事はできなかったよ。まだ探索は続けるけど……大丈夫か?」


「心配は無用です。ラビィは沿矢様の命令を忠実に守り、損傷を負ってはいません」



そう告げたラビィは何時もなら得意気に胸を張ってそうなのだが、彼女は僅かに俯いていた。

俺は彼女のそんな様子に直に気付くと、彼女に歩み寄って視線を合わせて問い掛ける。



「どうした、ラビィ? やっぱ疲れてる? 遠慮しなくて言って良いんだぞ?」


「いえ、此処を見てください」



ラビィは僅かに目尻を下げると、自身の防弾ベストの脇腹付近を指差した。

其処には解れがあり、ケブラー繊維の小さな切れ端がヒラヒラと風に揺れている。

しかし、あくまで銃弾が少し掠れただけなのだろう。中に差し込まれているセラミックプレートは覗き見えていない。

俺は一つ確かめる様にそこを撫でると、安堵の息を零す。



「よかった……怪我はしてないな。何時かさ、余裕が出てきたら俺と同じグレードⅤのベストを用意するから。それまで勘弁な」


「…………はい、マスター」



ラビィは僅かに悩む素振りを見せたのだが、結局はソレを言葉にしなかった。


何を思ったのか無理矢理に聞きだしてもアレだし、それにこれから廃病院の全体を探索する予定もある。

俺は仕方なく一旦ラビィの様子に目を瞑ると、彼女の肩を軽く叩いて言葉を掛けた。



「さてと、後は罠やタレットに注意するだけだ。物資を集めるこれからが本番だぞ、ラビィ。頼りにしてるからな」


「はい、お任せ下さい。沿矢様」



とは言ったのは良いが、俺とラビィはまず撃破したLG式から無事な部品や弾薬を抜き取った。

流石に激戦を繰り広げた訳だから損傷が酷く、そのどちらも一機から取れる量が少ない。しかし、俺達が始末したLG式の数は三十一機だ。

何だかんだで全ての部品や銃弾を抜き取ると、用意していたリュックやポーチは満杯近くにまで膨れ上がってしまった。


恐らくだが、これだけでも使った弾薬費や燃料代を余裕でカバーできるだろう。やったね!!

戦った相手から身包みを剥いでいると何だかRPGの勇者にでもなった気分だが、ドロップキックする勇者なんて居るだろうか?

そんな事を考えつつ、荷台に戻ってリュックから部品や銃弾を置いていく。


しかし、リュックから弾薬を手にしたその時だった。流石に剥き出しの弾薬を放って置くのは拙いと思い、俺は少し頭を悩ませてしまう。

何か無いかと車両に積んだ荷物を漁って俺が見つけた物は思わぬアイテムであった。

それは念の為に買っておいたラビィの寝袋である。これなら結構中に詰め込めそうだし、持ち運びも楽そうだ。


ラビィに一言断って、俺はそれをLG式から抜き取った一時的な銃弾保管庫にする事にした。

彼女が特に気にしていない事が幸いだが、俺としては何だか複雑な思いだ。

帰ったら物資を纏めるのに使う袋を買うか……。完璧に準備したと思ったのたが、実際に体験してみないと分からない事があるもんなんだな。


物資の整理を終え、俺とラビィは再び内部に潜入した。

整理の時間に少し時間を掛けてしまったからか、病院内に響き渡っていた機械音声が止んでいた。思わぬ幸運ですな。


またもや二階に続く踊り場付近にまで素早く戻ってくると、ラビィは其処からゆっくりとした足取りに変わった。

俺はその様子を見ると、一つオーダーを付け加える。



「ラビィ、邪魔なタレットがあったら排除しても構わない。帰る時は気楽に行きたいからね」


「了解しました」



そう聞くとまたもやラビィの足取りは軽くなり、素早く二階を探索して行く事が出来た。

固定された無人タレットに銃弾を浴びせる事は容易であり、今の所は全然脅威ではない。

やはり、これ等はLG式の存在と組み合わさって初めて最大限の効果を発揮するみたいである。


それとタレットの大部分は窓辺付近にあり、外からの侵入者を防ぐ役目を果たしていたみたいだ。

時折、同じフロアにタレットが三つ配置されてたりして少し苦戦したが、LG式よりかは全然楽である。

そんな風にラビィと脅威を排除しながらどの部屋を探索するかで頭を悩ませていると、不自然な血痕を見つけてしまった。


どう不自然かと言うと、明らかに致死量の血が薄汚れた床を大きく色付けしていたにも関わらず、それは其処から"動いている"。

いや……正確には引き摺られた跡みたいだ。俺はラビィにその跡を辿る様に指示を出し、血痕の後を追う。

それを辿っていると徐々に血痕が薄れてしまい、最後には手掛かりを失うかと思いきや、別の通路からも引き摺られてきた新たな血痕が合流した形となって目印が途切れる事が無かった。


合流する血痕は徐々に増えて行き、その血痕の上をラビィと俺が歩くと僅かに剥がれていき、鉄臭さが鼻を突く。

まさか、血の臭いまでもがこの通路に染み付いているのかと静かに戦慄を覚えたが、そうでは無かった。

曲がり角を曲がると、血痕は遂にある一室へと伸びていた。そこのドアの脇にはナンバーを打ち込む機械があり、電子錠式のロックが掛かっている様だ。


だが、俺には鍵なんぞあって無い様な物だ。

一応ラビィにトラップの有無を確認すると、どうやら無理矢理にドアを開くと警報トラップが発動するらしい。

それならば、LG式が居なくなったので何の問題もない。

俺は大きく息を吸うと一つ覚悟を決めてドアに足を当て、そのまま無理矢理にドアを内部へと蹴り倒した。


すると一気に何とも言えない悪臭が通路へと流れ込んでくる。

恐る恐る中を覗き込んだ俺の視界に真っ先に飛び込んできたのは、血と蛆虫に彩られた死体が入り口近くに六体。

中に何があるのかは何となく想像していたが、やはりキツイ物がある。俺は堪らずYF-6のスリングを肩へ掛けて両手を自由にすると、身に纏っていたローブを使って口と鼻を塞ぎ、悪臭と吐き気を堪える。


しかし、どうやら驚くにはまだ早かったらしい。

中は窓も無く薄暗かったのでリュックから懐中電灯を取り出して中を照らすと、すっかり白骨化した遺体がズラリと並んでいて悲鳴を上げそうになってしまった。


部屋の広さは入り口のフロアと同程度くらいだろうか? そうするとかなり広いはずなのだが、並べられた多数の遺体で部屋の広さが大幅に狭まっている。



『な、南無南無……。安らかに眠ってください』


「沿矢様。此方の施錠されたコンテナ内部に多数の銃器が納められています。恐らく、彼等の装備でしょう」


『銃器だけ……? 確かに服なんかはそのままだな。にしても一体誰が集めたんだ?』


「恐らくですが、LG型でしょう。無力化した目標を収容しておく部屋みたいですね。此処は」


『うへぇ……。道理で道中で死体を見掛けなかった訳だ』



とりあえず俺は近くにあるフレッシュな死体。某ハムナプトラの吹き替え名台詞風に言うと、『ジューシー』な死体の顔を見て驚いた。



『ドン……? そうか、やっぱり死んでた……か』



死体の欠陥具合は酷い物だ。片腕は千切れ、着ていた服には幾つもの穴が開いており、銃撃を受けた跡がハッキリと見受けられる。

態々と千切れた片腕も拾ったのか外れた部分に合わせてあるが、大量の蛆虫がその繋ぎ目や眼窩部分で轟いており、凄くグロテスクだ。

よくよく見れば江野田やウスタゴのメンバーもその中に居たし、死体の数から考えると、この真新しい死体全部が『クースの悲劇』で亡くなった人達みたいだ。


正直、此処から抜け出してさっさとゲロってしまいたいが、そうはいかん。

俺は以前、武鮫を隠す為に使っていた黒いグローブをジーンズのポッケから取り出すと両手に嵌め、死体の懐に恐る恐る手を突っ込んだ。持ってて良かった、黒グローブ。


一応言っておくが、俺は何も仏を冒涜している訳ではなく、彼等のライセンスを探しているのだ。

組合のライセンスは言ってしまえば兵士でいうドックタグみたいな物だと思うし、回収して組合に届ければ遺族も心の整理が付けられるやもしれん。

もしかしたら『生きているかもしれない』なんて淡い期待を打ち砕く事になるかもしれんが、それは仕方ないだろう。


それにこの廃病院の脅威を俺は取り除いてしまったのだ。遠からず他のスカベンジャーにこの死体は見つかり、直に噂になると思う。

俺はラビィにも彼等のライセンスを集める様にお願いし、暫く無言でライセンスを抜き取っていく事に集中した。

中には血で汚れてたり、銃弾で穴が開いたりしてたりする物もあったが、一応ソレも回収しておく。


それ等の作業も終えると、俺は軽く手を叩き合せて頭を下げた。

自己満足だが、しないよりはマシだ。それにUFOが居るのならば幽霊も居るかもしれないし、礼儀正しくしておくのが吉である。

さてはて、暗い気持ちは此処までだ。俺は彼等の装備が納められてあるコンテナに近づくとソレを持ち上げた。



「非情な様ですが、これは頂いて行きます。ライセンスを届ける代金だと思って下せぃ……」



悪いが、俺には莫大な借金がある。

まさしく『スカベンジャー』って感じの所業だが、僅かに胸が痛むの事実。

しかし、センチメンタルな思いに流されて物資を放って置いても、どうせ同業者に荒らされるのがオチだろう。


そんな言い訳を心中でしつつ、俺はコンテナを担ぎながら二階を探索して行く。

まずは近くにあったナースステーションを覗いてみたが、特にコレと言った物は見つからず。

しかし、保全機能が施されていた棚の中に仕舞われていたメディカルゴーグルを三つ追加で手に入れた。


一つはバッテリーが切れていたが、他の二つは電源が点いてしまった。

少しワクワクしながら装着してラビィへとチラリと視線を向けるも、彼女の服は透けてなかった。が、彼女には人間と同じ様に脈があるのを確認できた。

彼女曰く『人間のソレと遜色の無い生体パーツを使用している』との言は正しいみたいだ。別に疑ってはいなかったがな。


そんなお遊びをしつつ各所を回ってタレットを破壊し、気になる部屋に忍び込んで使えそうな物資を詰め込んでいく。

偶に病室のベッドの上でボロボロに風化した白骨死体なんかもあり、何だかお化け屋敷を見て回ってる気分だ。

二階部分はまさかのハズレなのかと思いきや、最後に探索した倉庫では遂にケースに納められていた生体義手を見つけてしまった。


しかしである、ケースは廃病院の非常電源を使って内部に納められている生体義手を保全している。

ならば……一体どうやってコレを持って帰ればいいのだろう?


抱えていたコンテナを脇に置き、俺が暫く頭を悩ませているとラビィが静かな口調で進言してくる。



「沿矢様。生体パーツを使用している物を運ぶ時には、冷凍保全機能付きの配送用小型コンテナが必要です。此処は医療施設で倉庫の一室、周囲を隈なく探せばコンテナが見つかるかもしれません」


「それって……さっき一階の手術室で見つけて荷台に乗せた奴か?」


「いえ、それとはまた別のコンテナです。生体パーツを保全する技術は高い物が要求されます。例えて言うならば、ラビィサイズですと地下施設に設置された大型のコンテナ、加えて機材が必要となります」


「え? あれって全部がラビィを保存するのに使う機械だったの?」


「はい。私は義手とは違い、繊細な扱いを要求するAIチップや擬似内蔵等がありますので、慎重に扱う必要があったのです」



ふむ、ようわからん!!


とりあえずだ。この倉庫に生体義手を納めるのに使えそうなコンテナがあるかもしれないらしい。

俺はラビィのその言葉を頼りに二人で倉庫を漁ったが、風化した書類、触れると崩壊する注射、ボロボロになった人体模型しか発見できなかった。

特に最後の人体模型が物陰に埋もれていたのには大変にビビッてしまった。長年の時を越えたドッキリが成功した訳だな。微笑ましいね。


仕方なく、生体義手を一旦放置して三階へと歩を進める。

もしかしたらその専用のコンテナを三階で発見できるかもしれないしな。


外から見て気付いてはいたが、廃病院はこの階で最後だ。

階段の手すりを何となく指でなぞると大量の埃が指先にへばり付く、まるで雪みたいだ。


最上階まで来ると何だか感慨深い物がある。廃病院自体は少し小高い位置にあり、窓辺に近寄って覗くと目下にクースの町並みが見える。

ベースキャンプ地から見る景色とは全く別物であり、俺はしばし足を止めてその光景を目に焼き付けた。

俺にとって初めての探索地であり、百式と死闘を繰り広げた場所であり、ラビィと出会った場所でもある。


しかし、ここの物資は大量に手に入れた。

そして廃病院以外に稼げそうな場所はデパート位だが、其処は何時か訪れる後輩スカベンジャーの為に残して置こう。荷台も病院で集めた物資で一杯になるだろうしな。


だからもう、俺が此処に来る事はないだろう。そう思うと何処か寂しく思えてしまう。


そんな風に突然湧いてきた感傷を振り切り、俺は此方を振り向いて小首を傾げていたラビィに一言謝ると探索を再開させる。

三階も脅威だったのは無人タレットのみであり、俺達は無人の野を進むが如く探索を進めて行く。

なんと其処で初めて薬品管理室とやらを見つけてしまい、俺は大変にテンションが上がってしまった。


もしや、治療用ナノマシンがこの部屋にあるやもしれん。

俺は入り口の脇にコンテナを下すと少し鼻息を荒くしながら侵入し、ラビィと分かれて戸棚を漁り始める。

だが、そんな期待は無惨に裏切られてしまった。残っているのは未使用の小型冷蔵コンテナ一つであり、薬品類は全て持ち去られていたのだ。


多数のLG式やタレット、それにトラップ何かを掻い潜って、此処に辿り着いたスカベンジャーがいたとは思えない。

これは推測なのだが、恐らく前世界の人たちが此処から逃げ出す時、真っ先に持ち運びやすい薬品類を掻き集めたのだろう。


適切で冷静な判断だが、俺としては少し複雑な気持ちだ。

まぁでも、そういう風に冷静な行動を起こした人達が居たから、人類は今まで長く生き延びたのだろう。

そう割り切りながら小型冷蔵コンテナをリュックに詰め込み、俺達はその場を後にした。


三階にも倉庫があったので中を覗いてみる。

此処にも保全機能付きの棚が置かれており、中には何と四脚持ちの小型人形っぽい二体がチョコンと存在していた。

一見すると精巧な大型のプラモデルみたいなソレは、ラビィの説明によるとHCと言う清掃用の機械であるそうなので大変に驚いてしまった。

コイツはマスターの設定なんかをする必要は無く、清掃範囲を設定するだけで起動して塵やゴミを集めて来るそうだ。何だか、小さいスカベンジャーって感じで可愛いね。


二機あるんだし、普段お世話になっている里津さんに一つプレゼントしようかな?

でも、あの人に渡すと何だか分解されそうだな。この子の未来を思うと素直に売り払う方がいいのかもしれん。

そんな事を考えつつ棚からHCを取り出し、起動スイッチを押さない様に気をつけながらラビィのリュックに押し込んでいく。


その後は大量にある病室を覗いていくが、コレと言った物は見つからずに終わる。

最後に辿り着いた院長室には保全機能が付いていた小型の金庫があったが、やはりロックが掛かっており中を確認できない。

無理矢理に破壊しても良いだろうが、そもそもこの金庫自体が値打ち物である可能性もあるので、仕方なくその金庫をラビィに抱えて貰って後を引き返す。


結局の所、生体義手を保存する専用のコンテナは無かった。

しかし、だからと言って此処で諦める訳にはいかん。里津さんの家には工房があり、あそこには非常用の電源装置がある。

まずはケースから生体義手を取り出し、未使用だった小型冷蔵コンテナに無理矢理に義手を押し込む。

次は素早くケースのコンセントを外すとソレを抱えて素早くヤウラへ持ち帰り、里津さんの家でまたケースの電源を確保することで生体義手を中に戻せば、もしかしたら使い物になるかもしれん。


そんな事を考えながら俺はとりあえず一旦車両に戻り、集めた物資を荷台に積みながら俺が思いついたそのプランを話すと、ラビィは少し戸惑いながら言葉を返す。



「その作戦を遂行すると、急激な冷凍によって生体義手のフレーム部分に何らかの異常が出るかもしれません。配送用コンテナとは仕様が違いますので。ですが、幸いにもケースには生体義手の診断機能も付いておりますので、異常診断はスムーズに行えるでしょう」


「そかそか、ならやってみようか。診断機能があるのなら、不良品を売り付ける心配も無いみたいだしな」


「了解しました。では、生体義手を取りに向かいますか?」


「うん……。それと、帰りはラビィに運転して貰うよ。スピードが明暗を分けるからな。俺が取ってくるから、ラビィは車のエンジンを掛けておいてくれ」



そう言うと俺はラビィに車のキーを手渡した。

彼女は一つ頷くと、素早く運転席に乗り込んでエンジンを掛ける。

エンジンが掛かった際の衝撃で車両が震え、荷台に乗せた物資が小刻みに揺れて小気味の良い音を響かせた。


ふと冷蔵コンテナの扱い方やケースの解除方法を知らぬ事に俺が気付き、慌てて運転席の窓辺に駆け寄るとラビィは素早く窓を開けてくれた。

彼女の説明によるとだ、まず冷蔵コンテナの方は品物を内部に入れた後は箱の上部にあるボタンを押すと蓋が閉じる。次にコンテナの横にある電源スイッチを入れるだけでいいらしい。凄く簡単である。


収容ケースの方は右下に開閉ボタンがあるらしい。電源のオンオフスイッチはケースには無く、電気の供給量で自動にオンオフを切り替えるらしい。

どうやら、俺の様な低レベルな知能の持ち主でも扱える様にどちらも設計されてるらしい。ありがたいね。


そんな自虐をしつつ俺はラビィに一言お礼を述べ、小型冷蔵コンテナを片手に素早く病院内に戻り、小走りで内部を駆け抜けて二階へと辿り着いた。

俺がまず向かったのはケースの元ではなく車両が見える位置の窓辺であり、ロックが掛かっていた窓を無理矢理に開け放って内部に風を送り込んだ。

車両は既に向きを変えてあり、クースの街中へ直に発車できる体勢になっている。


俺はソレを見届けると廊下を小走りで駆け抜け、二階の倉庫に飛び込んで呼吸を整える。

ケースの近くで小型冷蔵コンテナを脇に置き、俺はケースのコンセントの位置を確認する為に線を辿って近くの戸棚を無理矢理に退けた。

コンセントの線には薄い透明なフィルムみたいな物が巻かれており、それがどうやら長い年月から劣化を防いでいる物なのだろうか?


そんな事を考えながら俺は心落ち着かせ、ケースの傍らに膝を付いて準備を整える。

廃病院の全てを探索し終え、オールクリアとようやく一息吐けるかと思いきや、最後の最後で思わぬタイムアタックが発生してしまった。


だが、これは大金を稼ぐ一大チャンスだ。簡単に諦める訳にはいかない。


俺は覚悟を決めると小さく息を零し、ゆっくりとケースの開閉ボタンに手を伸ばした――。






ちなみに主人公が『LG式』で、ラビィが『LG型』と呼称するのを分けているのは態とです。

正式には『LG型61式』と名付けられてますので、主人公や他のスカベンジャーが警備ロボを式呼びするのは、あだ名みたいなもんですね。

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