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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
49/105

『G-』



玄甲から立ち去って俺が直に向かった場所は、やはりまずは里津さんの所である。

しかし、里津さんの家兼店へと向かう道中ではやたらと住民から視線を向けられてしまった。


最初は俺の包帯姿やラビィの容姿が目立っているのかと推測していたが、どうやらそうではない様なのだ。

何処と無く市民が俺に向ける視線は恐れや怯え混じりであり、視線が合うとすぐに慌てて外されてしまったのを見て確信する。



――今とて、ヤウラ市内では君の話題で溢れているのだよ?



剛塚大佐が述べたその言葉、どうやらそれに間違いはなかったみたいだ。

つまりは俺が起こした一連の騒ぎはすっかりヤウラ中に知れ渡ってしまったらしい。なんてこったい。


ってか、俺の容姿や身体的な特徴なんかも知れ渡ってるって事か? 参ったなこりゃ……。

まぁ、ノーラさんと戦う際には手加減なんぞする余裕は無かった。 生き延びた代償として、そこら辺は仕方ないと割り切るしかないだろう。


玄甲付近の地理はさっぱりだったので、駅の線路が見える道を辿って外周付近まで出た。

外周まで来ると組合所の高いビルが目印となり、お陰で自分が何処にいるかが大体分かる。

外周付近を歩いているとすれ違う同業者が必然的に多くなっていた事に気づいた。

しかし、彼等は市民と違って怯えた様子を見せず、興味津々って感じでかなり注視されてしまう。


時にはフレンドリーな感じで見知らぬ人から軽く挨拶もされたりして、俺は大変に驚いてしまった。

どうやら彼等は特に俺に対して思う所が無いのかな? 随分と肝っ玉の大きい人達やで。

まぁ、それ位の度胸と言うか、余裕がないと探索や狩りなんぞやってはいけないか。


朝早くに玄甲を出たはずなのだが、里津さんの所に着く頃にはすっかり太陽は高い位置に昇っていた。

店に入ると客が二人居た。彼等は以前ラビィが店で働いてた際に来てた客らしく、随分と馴れ馴れしい感じでラビィに話しかけてきた。

が、当の本人であるラビィは店番モードを解除しているらしく、随分と素っ気無い態度で言葉を返した。すると――。



「何だよ。フルトちゃんって、マジでヒューマノイドだった訳? うっわ~ショックだなぁ」


「そうか? 俺的には納得って感じだがな。フルトちゃんの美しさは正に作られた美! って感じだったし」


「マジか……」



予想外のその言葉に、思わず俺は呟いてしまった。

どうやら俺の異常性だけではなく、ラビィがヒューマノイドと言う事実も何時の間にかヤウラでは知れ渡っていたらしい。


俺が呆然と立ち尽くしていると、店のカウンターに居た里津さんがラビィに話しかけてきた男達を一喝する。



「あのね!! 女を引っ掛けるんなら他所でやんなさい!! 此処でトラブルを起こすと容赦しないわよ!!」


「お~怖っ……。うーん、里津に比べると素っ気無くても大人しいフルトちゃんのが良いかもな」


「調子の良い奴だな、お前は……。まぁ、その気持ちも分からんでもないが」



里津さんの言葉を受け流して、男二人が懲りずにまたもや軽口を叩いた。

すると里津さんはカウンターの下に置いていたショットガンを取り出し、フォアエンドを動かして物騒な音を立てる。

その音を聞くと、慌てて男二人は店の中から早足で出て行った。


それを見届けた里津さんは嘲る様に鼻を鳴らし、ショットガンを下げる。

次に彼女はカウンターから抜け出すと、俺とラビィに向かってスタスタと歩み寄って来た。

一瞬、感動の再会を演出して抱擁でもすべきだろうかと俺は僅かに手を広げながら悩んだが、当の本人である里津さんは俺とラビィの間を鮮やかにすり抜けて店の入り口に向かうと、そのまま入り口の鍵を閉めた。


そして背後を振り返り、里津さんは腕を組んで高らかに言う。



「さてさて、どうせ壁では碌な目に合わなかったんでしょ? 話してみなさい」



そう言った里津さんを見て、俺はどこか安堵した思いが心中に広がっているのに気付いた。

ようやく日常に戻って来た感じだが、それも長くは続かないだろう。

軍、いや……ヤウラ市から請求された借金の額は相当な物だ。

それを返すと決めたならば、これから息吐く暇も無い程に慌しい日々が始まるに違いない。


俺は新たに気合を入れると、里津さんに頷きを返した。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






――話してみなさい。


とは言われたものの、俺の拙い説明よりも手渡された書類を見せた方が早いだろう。

居間に腰を落ち着かせた俺は、とりあえず軍から渡された書類の束を里津さんに見せた。

彼女は俺から受け取った書類を随分長い時間を掛けて真剣に眺め、全てを確認し終えると呆れた様な溜め息を吐く。



「まっ、確かにアンタの暴れっぷりは凄かったけどさ。けど……あまりに無慈悲よね~」


「そうでしょう。里津、貴方と初めて意見が合いましたね。軍が沿矢様に課した、此度の仕打ちにはラビィも呆れの一言です」



珍しくもラビィが自分から他者に話しかける。

しかも、その内容にも俺は驚いた。ラビィが不快感を口にするなどそうは無い、そんなにも腹に据えかねていたのだろうか?


俺は内心の驚きを隠しつつも、里津さんに言葉を返す。



「でも、俺が戦車や公共物を破壊したのはその通りですし……何も言い返せませんでした。勿論、まずは里津さんの借金を返す事に全力を尽くしますから!! そこは安心して下さい!! 早速ですが、明日から探索に向かおうと思います」



俺がそう高らかに宣言すると、里津さんは後ろ頭をボリボリと掻きながら口を開いた。



「はぁ……。沿矢、そう考えなしに動くのを止めなさい。これ程の大金よ? そう簡単に返せるはずはないわ。まだ時間はあるんだから、落ち着いて行動しなさい。そもそもアンタまだ包帯巻いてるじゃないの……全快してないんでしょ?」


「ぅえ!? そ、それはそうですけど……。二百五十万ですよ!? 百式を百機仕留めても返せない額なんですよ!? 落ち着けって言われても……俺」



言葉を詰まらせながら俺がそう言うと、里津さんは少し慌てた様子で答える。



「わ、分かったから……涙目になんないの。私が悪かったから……ね?」


「な、泣いてなんかないですし……。これは朝露ですし」



里津さんに諭されて、ようやく俺は自分の気が高ぶっていた事に気付いた。

自分が思っているよりも焦っていると言うか、参ってるかもしれない。


俺は大きく息を吸い、それをゆっくりと吐き出して気分を鎮める事に集中した。

それを何度か繰り返して気を持ち直し、俺は小さく言葉を漏らしながら考えを纏める。



「でもマジでどうしましょう……。俺には何の考えも……あ!!」



どうやって金を稼ぐべきか俺が無い頭を絞って考えていると、ある事を思い出してしまった。

その考えは正に暗雲を切り裂く眩い光の様な希望を俺にもたらし、活力を与えてくれる。


あぁ、やっぱ俺ってば天才だわ……。


俺が一人で悦に浸っていると、里津さんが訝しげに見つめてくる。



「……どうしたの? また下らない事を考えて現実逃避してんの?」



失礼な、それだと何時も俺が現実から目を背けている駄目人間みたいじゃないか。



「ふっ、組合所に所属してない者にはわかるまい。俺のこの素晴らしい考えは……」


「はぁ? 何か思いついたんならさっさと言いなさいよ。その素晴らしい考えとやらが、アンタの小さい脳ミソから消えてしまう前にね」



俺が調子に乗って発言すると、里津さんが辛辣な口調で言葉を返してくる。

うむ、里津さんも相変わらずの調子で安心したな。相変わらず過ぎて少し怖いです。


俺は勿体ぶるかの様にゆっくりと腰を上げると、ラビィと里津さんに交互に視線を合わせた後に口を開き、高らかに言い放つ!!



「――迫田の賞金ですよ!! もう俺の異常性が知れ渡ったんなら何の遠慮も要らないんです!! 堂々と組合所に賞金を貰いに行けばいいんですよ!!」



そう言うと、俺は見事なキメ顔を浮かべて見せる。ドヤァ……?



「…………あぁ!! 確かにビッグネームである壊し屋の賞金なら、結構な額でしょうね~」



里津さんは細かく頷きながら賛同する。

対するラビィは力強く一つ頷くと、口を開いて予想外の言葉を述べた。



「では、組合所へ向かうのですね? それならばラビィもお供します、沿矢様」


「へ? あ……そっか、ラビィの事を隠す必要はもうないのか? バレちゃってたもんな……。あ!! でも里津さんの店が……」



俺がそうオロオロとしていると、里津さんはプラプラと片手を振りながら答える。



「あぁ、別にもういいわよ。百式の解析も終わったし、他にしたい事もないしね。ラビィの給料は用意しとくから、組合所に行ってくれば?」


「ぁ……そうですか? 短い間ですが、家のラビィがお世話になりました。……な? ラビィも里津さんに挨拶しておこうぜ」



俺は里津さんに頭を下げながらそうラビィに促すと、彼女はコクンと小さく頷き、その潤った桃色の唇を開け放った。



「里津、貴方の店にある火器は素晴らしかったです。ですが、客の質は最低でした。どうか、これからもあの無礼な輩達を相手に頑張って下さい」



え? なんで唐突に喧嘩を売っちゃってるのこの子は? アレかな? 前世界での『挨拶』ってそういう意味だったん? それなら滅びたのも納得だな。


突然ラビィが放った暴言に思わず俺が現実逃避していると、暴言を受けた里津さん本人はラビィの言葉を聞いてケラケラと愉快そうに笑っている。

色々とずれている人だな、里津さんは。何処が壷に入ったのか俺にはサッパリだよ。

何なの? 崩壊世界ジョークなの? とてもじゃないが、高度すぎて僕には理解不能です。


この世界の笑い事情に頭を悩ませながら、俺はラビィと共に組合所へ向かうべく家を出た。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






そんなこんなで久しぶりに組合所へ向かったのだが、組合所前にある大通りの荒れ果て具合に俺は驚いてしまった。

広いコンクリート道路は全体が盛大に罅割れており、下の地面が完全に見えている場所が幾つもある。

ノーラさんが爆破した建物の破片はまだそのままであり、撤去作業は進んでいない。

それもそのはず、まずは荒れ果てた大通りの整備が最優先なのだろう。

数十人の兵士達が割れたコンクリの破片を運び、下の地面が覗き見えている箇所には何処からか運び込んだ土を足して高さを調節しようとしている。


流石に俺が転がした戦車は撤去されていたが、戦車を取りに行く際に俺が放り投げた廃車が建物に突き刺さっており、そのままであった。

俺が投げたマンホールで穴が開いた建物では、その箇所を何とか鉄板で防いで営業をしている。

最後に逃げ込んだレストラン、もしくは酒場っぽい場所は当然の事だが損傷が大きすぎて営業してはおらず、中もボロボロのままだ。


正直に言うと戦っている最中は雨も降ってたから暗かったし、周囲の状況があまり目に入ってこなかった。

だか、こうやって落ち着いた状況で見ると、大通りの荒れ果て具合は一目瞭然で酷いと分かってしまう。



「……そりゃあ、借金も発生するわなぁ……」



その悲惨な光景を見てしまい、俺は軍に腹を立てていた事を恥かしく思ってしまう。

某ウィル・ス○ス主演のヒーロー映画でも力を持て余した主人公が建造物を破壊してしまい、市民が怒っていたシーンがあった。

やりすぎてしまうと、それが自分の身へと返ってくるのだ。仕方ないね……。


すっかり俺のテンションは下がってしまい、俯いた状態で組合所の前へと辿り着いた。

組合所の入り口は軍が何とか急ピッチで修復したのか、なんとスッカリ元通り……と、思いきや自動ドアではなくなっていた。

入り口は手押し式のガラス戸へと変更されており、その厚さも前の物と比べると倍の差がある。

どうやらノーラさんの急襲を受けた影響が出ているようだな。アレには俺も度肝を抜かれたしな、組合所の対応には納得がいく。


ガラス戸を押して中に足を踏み入れると、僅かにどよめきが聞こえてきた。

そこで俺が顔を上げると受付嬢や社員は勿論の事、巡回中だった警備員ですら態々と足を止めて俺とラビィを注視している。


こんなに注目を浴びたのは初めてのはずだが、俺は不思議とすんなりそれを受けれてしまった。

まぁ、この世界に来て色んな初体験を経験してるからな。これくらいどうって事は無いわな。


そう思うとスッカリ心が吹っ切れてしまう。

早速と俺は賞金を受け取るべくフロントへ視線を向けると、此方を見ている田中さんに気付いた。

彼女は俺と視線が合うと輝かしい微笑みを浮かべ、なんと手招きしてくれる。

それに釣られてホイホイと俺が近寄っていくと、此方が声を掛ける前に田中さんが口を開く。



「すっかり有名人になっちゃったわね、木津君!! まさか痴話喧嘩であんな事になるなんてねぇ……」



あ、まだその設定を信じてたん? もしかして言い触らして無いだろうな、この人。


俺は田中さんの言葉に思わず苦笑しながらも、両手を振って否定の意を返す。



「あ……いや、あれは質の悪い冗談なんです。すみません。本当は殺害予告を受けた理由は分からないんです。ってか、今も俺は何の事情も知らなくて……。ノーラさんも、今はどうやら昏睡状態みたいですし……」



結局の所、ノーラさんが俺に殺意を抱いた理由はまだ謎である。

迫田が関係しているのではないかと俺は推測していたのだが、結局話し合うことはできずに俺はマトモに先制攻撃を受けてしまったからな。


まぁ……彼女が目を覚ました所で合う事は叶わないだろうな。

そもそも俺は殺し合いをした彼女とどう向き合えば良いか分からないし、ぶっちゃけると……もうノーラさんとは会いたくはない。

俺は全力で彼女と戦った。が……俺の実力は及ばず彼女に追い詰められてしまい、最後にレイルガンの援護射撃が無ければ間違いなく俺は殺されていただろう。


苦手意識と言うか、俺がノーラさんを嫌悪してしまうのも無理はないと言う物である。

最初に出会った時はまさかこんな事になるとは思いもしなかったよ……。


それはさておき、俺はひとまず田中さんの誤解を解くと早々に本題を切り出した。



「あのぉ……田中さん。その、聞いてるかもしれないですが俺は迫田を仕留めたと言うか、殺しちゃったと言うかですね……」


「へ……? ぁ、あぁ!! そ、そうね、確かに軍から知らせが届いてたわ。賞金を受け取るなら、まずはライセンスを見せてくれる?」


「あ、はい!! どうぞ……」



俺はリュックからライセンスを取り出すと、田中さんに差し出した。

彼女は俺のライセンスを何かの機械に差し込むと、フロントに設置されてあるPCっぽい機械の画面を見ながら素早い指使いでキーボードを叩く。

その軽快な音に何処と無く俺が和やかな気持ちを抱いていると田中さんは突然に動きを止め、引き攣った笑みを浮かべる。



「あ、あはは、おーけーよ。後は五階長の承認を得れば賞金を受け取れる……んだけどぉ」


「ぅえ? ど、どうしたんですか?」


「い、いやー。その、ね? 木津君ってポイントをマイナスされたじゃない? だから……ランクがこんな具合に……」



おずおずと田中さんは俺のライセンスを差し出しながら、ランクが記載されている場所を指差す。

それに釣られて俺も目を向けて――思わず大きく口を開いてしまった。



――『G-』それが俺の新たなランクとなっていた。ポイントはやはり-499310と記載されている。



え? Gより下とかあったん? 凄いなぁ、何だか逆に得した気分だよ。最底辺って感じだよね。

此処まで来ると乾いた笑い声しかでねぇわ。情けなさ過ぎて泣けてくるぜ……。


俺がライセンスを受け取った状態で動きを止めていると、田中さんは申し訳なさそうに次の言葉を放つ。



「そ、それでね、木津君。ランクがG-になると、その……組合所から受けられるサポートに少し変更が出てくるの」


「ぅえ!? あー……買い物ができなくなるとか、配給品が無くなるって事ですか?」


「いや、流石に買い物は出来るわよ? けど、木津君が言う通りまずは配給品が無くなるし、後はマイナスが解消されないと一切の依頼が受けられなくなるの。それと……探索地で見つけた物資の半分が問答無用で査定に回される様になっちゃうし、しかも査定に回す物資は軍が選ぶ事になっちゃうわ」



そう告げた田中さんの言葉を聞いて、俺は心中が一気に泡立つ様な思いを感じ取った。



――なるほどな。



恐らく、軍はこれを見越していたに違いない。

クースでは査定に回す物資を決める際、宮木伍長がOG式の弾薬を欲していたが、あの時は俺の意思を確認していた。

でも、どうやらG-だと此方の同意を求めずに物資を持っていかれてしまうらしい。マジファック。


そうなってしまうと、探索地での収入が大幅に減少する破目に陥ってしまう。

どうやら、これで借金の返済がまた一段と困難になってしまった。

マイナス分のポイントは五十万近くあり、これが思わぬ負荷になってしまった。参ったな……。


うぅ……そもそもG-になる奴が馬鹿なだけなのかな? ってか、俺以外にそんな奴いるのか? 何だか不安になってきたぞ。


俺が新たに判明した障害に思わず頭を抱えていると、今まで沈黙を保っていたラビィが声を掛けてくる。



「沿矢様。心拍数と脳波と呼吸が乱れておりますが」


「乱れもするわ!! どないせいっちゅうねん!! くああああ……チクショウ……。ごめんな、ラビィ。俺、もう駄目かもしんない」



立ち塞がる障害に思わず過呼吸になってしまいそうだよ。ってかなりかけてるよ。


仕方なく、ダース・ベ○ダー卿の独特な呼吸法を真似て俺が息を整えていると、田中さんから連絡を受けた御川さんがフロアから歩いて来た。

彼がフロアに姿を表すと警備員が数人付き添おうとしていたのだが、御川さんはそれを断ってしまい、一人のお供もを従えぬまま俺の傍に立つ。



「久しぶりだね、木津君。まずは……君に感謝の言葉を送ろうか。……ありがとう。君の勇敢な行動が、無意味な爆発を食い止めたのだ。このヤウラに住まう一市民として、私は君に感謝と敬意を表するよ」



御川さんはそう言うと、俺に向かって深く頭を下げる。

その行いは俺達を注目していたギャラリーのざわめきを誘発し、フロアの喧騒を大きな物にした。



「い、いえいえ!! そんな事は止めてください、御川さん!! 気持ちは十分に受け取りましたから……ね? 頼みますよ、本当に」


「そうか……すまない。君は慎み深い男なんだな、尊敬するよ」



顔を上げた御川さんは、そう言って眼鏡の奥で瞳を僅かに潤ませている。


前々から思ってたけど、この人も随分変わってると言うか……天然だよな。

まぁ、そういう部分は俺的には微笑ましいと言うか、好ましい感じではあるが。


御川さんは眼鏡を取って袖で顔を拭うと、すぐに眼鏡を装着し直して本題を口にする。



「それで……田中君から君が壊し屋の賞金を受け取りたいとの趣旨を聞いたのだが、それで合ってるかな?」


「あ!!そうです!! それです!! ギブミーボターなんです!! どうしても必要なんですよ!!」



そうだそうだ、目的をすっかり忘れていた。

上手く行けば迫田の賞金でポイントのマイナス分をカバーできるやもしれん。そう考えると諦めるにはまだ早いのだ。



「う、うむ。君が壊し屋を仕留めた事は軍から通知が届いている。そのお陰で面倒な手続きや、検証は一切無い。今すぐ部下に賞金を用意させよう。しばらく待っていてくれ、木津君」


「分かりました。お願いしますね」



俺がそう言うと御川さんは微笑を浮かべてそれに答え、懐からPDAを取り出してナンバーをコールすると何やら話し始めた。

それを確認した俺は安堵の溜め息を零し、田中さんに一言断ってからフロアに備え付けてある長椅子に腰を下ろす。



「はぁ~~……まずはポイントのマイナスをどうにかした方がいいのかな? 里津さんには悪いけども……」



探索地でレアな物資を見つけたとしても、それを査定で持ってかれたらパーだからな。

査定に回された物資はただポイントになるだけで、ボタに変わる訳ではない。

俺的にはランクなんぞどうでもいいのだが、借金を抱えている今の状態で収入が大幅に減るのは大変に困る。



「そうですね、沿矢様の判断は適切だと思います。安心して下さい、沿矢様。いざとなったらラビィが里津の店で働いて借金を返します」



ラビィはそう言うと両拳を力強く握り締めて気合を表現した。

無表情でそれを行われると違和感が半端ないな。可愛いけどね。

色々とツッコミ所があるとは思うが、今は素直にラビィの励ましに笑顔で応えて見せた。


そのまま暫くラビィと穏やかな時間を過ごしていると、銀色に鈍く輝くトランクケースを抱えた警備員達がフロアに姿を表した。

警備員は三人で彼等は同じく三つあるトランクケースを分担して所持しており、一人が一つと言う形でトランクケースを抱えている。

彼等の姿を確認した御川さんが彼等の下へと赴き、何やら話しかけて確認を取っている様にも見えた。


それも直に滞りなく終わり、御川さんは彼らをそのまま従えて俺の近くに歩み寄って来る。



「待たせたね、木津君。賞金の用意はこの通りだ。……よくやってくれた。壊し屋の悪名は私も随分前から耳にしていたが、まさか壊し屋を仕留めた勇士に賞金を手渡せる栄誉を承る日がこようとは、流石に想像してすらいなかったよ」


「い、いやぁ……。どうも」



御川さんの大袈裟な褒め言葉に赤面しつつ、俺は椅子から腰を上げて小さく頭を下げる。



「さぁ、どうか受け取ってくれ。用意した三十万ボタだ」


「どうもどうも……って、え!? さ、三十万ですか!?」



――全然足りねぇ。



用意された金額に俺がショックを受けていると、御川さんは僅かに視線を下げた。



「いや、分かっている。ビッグネームである壊し屋の賞金にしては少なすぎるだろ? それには理由があってだな。そもそも壊し屋はもっと北の方で暴れていた賞金首でね、彼が悪名を轟かせていた当時のヤウラではあまり被害を受けてはいなかったんだ。とは言え、彼はこの町で最後の騒ぎを起こしてはいたのだが、それが発覚したと同時に死亡も確認されたからね。賞金の吊り上げは行われなかったんだよ」


「そ、そうなんですか……」



足りないポイントは二十万か、参った。全然足りないぞ。


俺のそんな焦りが顔に浮かんでいたのか、御川さんは俺の肩に手を置くと慰める様に言葉を紡ぐ。



「安心したまえ、賞金首の金額は街別で定められているんだ。後で討伐証明書を渡すから、それを各町に存在する組合所で提示すれば別に賞金を受け取れる」


「あ! そうなんですか?! あ、あの、組合所が存在する街って何処にあるんですか?!」


「そうだな、大きな金額を受け取りたいならやはり北の方に存在する街だな。ハタシロ、ミシヅがとりあえず近くにはあるが、後は車両を使っても三日は掛かる距離にキスクがある。南の方にも街があるが、そっちでは壊し屋の賞金は小額だろうし、そもそも賞金自体が掛かってない場合もあるかもしれない」


「ハタシロとミシヅ……ですか」



ミシヅと言うとアレだな、ノーラさんが住んでいた街か。

恐らく彼女はミシヅの組合所に所属していた訳だろ? 彼女を瀕死にした俺が行っていいのかな? やっぱ拙いよな?


俺がそう悩んでいると、俺の考えを見透かした様に御川さんが釘を刺してきた。



「木津君。ハタシロはともかくとして、ミシヅには行かない方がいい。ミシヅの高ランク者であるタルスコット殿に瀕死の手傷を負わせた君を、当然ながら向こうは良くは思ってないだろうからね。一旦街に足を踏み入れてしまうと、そこはもうミシヅが定めた法の管轄下だ。何が起きるか分からない」



どうやらこの世界に存在する別の都市って、言わば"別の国"に近い扱いなんだな。

俺の世界と同じ感覚でいたら痛い目に合いそうだ。そこら辺は強く注意しとかないとな……。


となると、俺が当てにできるのはハタシロとキスクと言う場所か。

しかし、キスクはかなり遠い場所にあるらしいから大変そうだ。多分バスとかは出てないだろうし、困ったな。

まぁ、しかし……なんとか光明は見えてきた。今はその事に満足するしかあるまい。


とりあえず俺は御川さんから賞金と討伐証明書を受け取り、そのまま組合所を出た。

今ポイントを帳消しできないなら、ボタをポイントにする意味も無いからな。

それにもしかしたらこのボタを元手に何か行動を起こせるやもしれん。慎重に扱う必要があるだろう。

ちなみにトランクケースのままくれたのが地味に嬉しかった。なんだか地味にお得だよね。


それとトランクケースはラビィが全部所持している。

だって『ラビィが持ちます』って言われたら、そうするしかないよね。

まぁ、お陰で端から見ると俺が女性に荷物を押し付ける屑男に見えてそうだが、仕方ない。

そもそも借金漬けであるのにそんな些細な事を気にするのも馬鹿らしいし、もうどうにでもなれって感じですよ。


どこか吹っ切れてしまった俺はこれでもかと言わんばかりに堂々と肩で風を切りつつ、里津さんの家に辿り着く。

今日はもう営業する気は無いのか店の入り口は硬く閉じたままである。

俺とラビィは裏口から家に入り、そのまま居間に行くと地面に寝転がった里津さんが居て、彼女は見事にだらけきっていた。



「おかえり~随分と早かったわね……。まさかとは思うけど、賞金が受け取れなかった……って訳じゃなさそうか」



里津さんは身を起こしながら背筋を伸ばし、ラビィが抱えているトランクケースを見ると表情を緩めてみせる。

俺はとりあえず里津さんの対面に腰を下ろすと、受け取った賞金額とポイントマイナスにより組合のサポートが変更された事を告げた。

すると里津さんは乾いた笑いを零しながら天を仰いでみせる。



「あっははは~はぁ……。そんなペナルティがあったんだ。そりゃあ……困ったわね」


「ええ、実に困りましたよぅ。収入が大幅に減少するなんて予想外でしたね、俺も」



いや、査定物資を選定する際に軍が好きな物資を選んで持っていくのならば、半減では済まない場合もあるだろう。

依頼が受けられないってのは納得するがな。G-が派遣されてきても依頼人は困るだろうし。

っとなると……迎撃戦ぐらいしかマトモに稼ぐ手段がないかな?

でも迎撃戦は強力な火器を所持してないと参加が認められなさそうだし、そもそも不定期だしな。迎撃戦を当てにしすぎるのも駄目だろう。


俺がうんうん可愛く唸りながら今後どう動くかを考えている間、里津さんは顎を擦りながら床に置かれたトランクケースを眺めている。

その奇怪な状態が数分続いた頃だろうか、里津さんは唐突に勢いよく自分の手を叩き合せると俺の気を惹いた。



「よし!! こうなったら仕方ないわ!! 沿矢……そのボタで車両を買うのよ!!」


「ぅえ……? あ、あぁ!! そうですね!! そう言えば、自前の車両で探索地に赴いた場合は査定とか受けなくて良いんでした!!」



登録した日の説明で田中さんがそう言ってたな。

自前の車両を持てれば査定を受けなくてすむから、とりあえずはポイントのマイナスを無視できる。

それに何時でも好きな時に探索地に赴けるんだから、これから大金を稼ごうと言う俺の目的を助ける大きな力にもなるのだ。



「でも……車両って高いんじゃ? そういうのって遺物なんでしょ?」


「そりゃ戦車とか装甲車の大半は遺物だけど、普通に製造されてる車両もあるわよ。でないと、軍が大量に動かしてるトラックの説明がつかないでしょ」


「成程、言われてみればそうですね」



お~何だか突拍子の無い提案だと思ったが、段々とその気になってきたぞ。

けど幾つか気になる点がある。まずは三十万ボタで車両を購入できるのか? 次は里津さんに借金を返さなくてもいいのか?

里津さんはその点を全然気にしてない様に見えるが、それでいいのか?


俺がその事を問うと、里津さんは後ろ頭を掻きながら答える。



「……前々から言ってるけど、気長に待つってば。とりあえず今は自分の事を心配してなさい」


「わ、分かりました。ありがとうございます、里津さん」


「ん……車両を扱ってる店には心当たりがあるわ。三十万ボタもあればソコソコの物が買えると思うわよ。どうする? 今から向かう?」


「そうですね。今は一刻も早くボタを稼ぐ必要があるんで、そうして頂けるとありがたいです」


「そっ……まぁ私に任せなさい。知ってるかもしれないけど、アンタって今はヤウラで結構な有名人になってるのよ。それを上手く利用すれば、もしかしたら格安で車両をゲットできるかもよ?」



そう言って里津さんは妖しく微笑むと、素早く準備を開始し始めた。

車両を手に入れる事ができれば好きな時に探索地へ行けるし、ハタシロやキスクに賞金を取りに行けるかもしれない。

最初はどうなる事かと思ったが段々と光明が見え出している。


俺はその事に深い安堵を覚え、静かに息を零した――。






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