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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第二章 荒野を駆ける日々
48/105

新たな重荷



廃墟の中は危険だ。

こう聞いた新米スカベンジャーが思い浮かべる危険は三つに分けられるそうだ。


一つ、廃墟内を彷徨う警備ロボの存在。

これを思い浮かべた新米は中々に見所がある奴らしい。

なんせ良い物資ってのは基本、警備ロボとセットになって存在している物なのだから。


二つ、廃墟の損傷度合い。

これは意外にも思い浮かべる輩が少ないらしい。

当然ながら前世界から数世紀の時が流れて風化している建物は、大変に不安定な状態である。

建物内で警備ロボと銃撃戦を繰り広げた挙句に追い詰められた輩が手榴弾を使用してしまい、その衝撃で崩壊した建造物などもあるらしい。

これを思い浮かべた新米は意外性がある奴との事。


最後、廃墟内に仕掛けられた多数のトラップ。

意外に思うかもしれないが、スカベンジャーの大多数がこのトラップが原因で命を落とすらしい。

各所に配置された無人タレットや、警備ロボを引き寄せる赤外線センサーや警報トラップ、これ等が基本的な物だ。

しかし、聞く所によればとある重要施設ぽかった廃墟ではセンサーに引っ掛かった際、自爆装置が起動した所なんかもあるらしい。

だから、これを思い浮かべた新米は長く生き残る奴らしい。


ちなみに俺こと、木津 沿矢が廃墟内が危険と聞いて思い浮かべた事は『ふーん、ガラスとか散らばってそうだしな』である。

これは一見すると二つ目に該当しそうな感じだが……どうだろうな?

そもそも組合所で登録する際に田中さんから説明を受けた時の俺は、この世界の基本的な情報を全然知り得てなかったからな。

そんな頓珍漢な事を思い浮かべても仕方の無い事であろう。



「沿矢様、この先の曲がり角の先のフロアにOG式が三機居ます。どうされますか?」



そんな下らない事を俺が考えている内に、目の前を歩いていたラビィが何時の間にか足を止めていた。

此方を振り返った彼女はポンプアクション式ショットガンである『Y-M20』を前方に向けたままであり、警戒を厳にしている。

対する俺は両手に持った二つの軍用シャベルを構え、一つ頷きながら返事を返す。



「まぁ……排除しといた方がいいよな。回避できそうにないだろ? 多分」


「はい。三機は上手く交互に徘徊しているようで、回避するとしても一機は確実に始末する必要があります」


「分かった。ラビィはそのまま先行してくれ、不意を突けそうなら俺が突撃する。ラビィは援護を頼むな」



俺がそう言うと、ラビィは小さく頷いて通路を進みだす。

そのまま曲がり角の近くで歩みを止めると、彼女は集中するかの様に僅かに俯いた。

その脇で俺は腰を落とし、突撃の姿勢を取る。

手持ち無沙汰に軍用スコップを僅かに揺らしつつも、俺は気分を落ち着かせる為に静かに息を吐いた。



「――今です。一機がフロアから離れ、二機だけになりました」



ラビィが合図を出すと同時に、俺は返事を返す手間も惜しんで曲がり角から飛び出し、フロアに突撃した。

当然ながら二機のOG式が反応してしまい、警告の言葉を飛ばしてくる。



『警告!! 此処は……本商事の……!!』


『警告!! 此処は山本商事のオフィス……!!』



二機が同時に警告してきたがその内の一機は劣化が見られ、警告音声のノイズが酷い。

フロアの両端に分かれる様にして二機は待機しており、それぞれが両腕を上げて此方に構えつつある。どうやらどちらも内蔵火器の弾は切れてないらしい。


俺は先制のチャンスを最大限に生かす為、比較的に無事そうなOG式の方に進路を向け、走り出した勢いをそのままに軍用シャベルを頭部に向かって突き出した。無防備なOG式の頭部にそのまま素直に軍用シャベルが突き刺さり、胴体から頭部を引き離す。 胴体と頭部を繋ぐ配線が勢いよく千切れ、僅かに電気が漏れ出た小さな光が薄暗い廃墟内を照らし出した。



『敵対行……視認!! 攻撃を……!!』



残った一機には劣化が見られるとは言え、流石にAIチップに異常はないようだ。

こちらの攻撃が"同僚"を壊した事を確認すると、すぐさまOG式は警告を取り止めて攻撃を開始しようとする。

が、次の瞬間にはOG式の頭部は鋭い発砲音が廃墟内に響き渡ると同時に、既に吹き飛ばされていた。

OG式は振り上げていた両腕をだらりと下げ、糸が切れたかの様に地面へと音を立てて倒れこむ。


そこまで終えた所で、今度はフロアに繋がっていた別の通路から重厚な足音が聞こえてきた。

俺はすぐに体制を立て直すと右手に持った軍用シャベルを高く振り上げ、その通路に向かって牽制の為に軍用シャベルを投げる。

そのまま近くの物陰に身を潜めようとした所で、何かを壊す様な盛大な物音が軍用シャベルを投げた通路から響き渡った。


まさかと思いながら左手に持っていた軍用シャベルを右手に持ち直し、通路を慎重に覗き込むと胴体の中央から見事に分断されたOG式の姿が見えた。

上半身がうつ伏せに倒れており、下半身はなんと床を踏みしめたまま器用に鎮座している。

とは言え、OG式の機能は未だに停止してはおらず、両手を動かして器用にフロアへとにじり寄って来ていた。


俺がOG式に止めを刺そうとホルスターからDFを引き抜こう手を添えた所で、何時の間にか近くに着ていたラビィがY-M20の引き金を引いていた。

これまた見事にヘッドショットが決まり、OG式はそのまま静かに機能を停止する。

隣に立つラビィへと視線を向けると、ラビィはY-M20のフォアエンドを動かして次の弾を薬室に送りながら、注意深い眼差しをOG式に向けていた。



「沿矢様。分解しますか?」


「うーん……。いや、そろそろ日が暮れそうだし、とりあえず弾薬だけ抜いておいてくれ。今は探索を急ごう。俺は通路のOG式から弾薬を抜き取るから、ラビィはフロアの二機を頼む」」


「了解しました」



ラビィは俺の命令を聞くと、すぐさま行動に移る。

俺はそれを確認すると通路のOG式に近寄り、腕の装甲板を引き剥がしてOG式に内蔵されている火器から弾を抜き取っていく。

ふと視界の隅に何かが映り、何事かと通路の奥に目を向けると……奥の壁に軍用シャベルが突き刺さっていた。



「あ、危ねぇ……。また外壁を突き破って失くす所だった」



俺は素早くリュックの中に弾を詰めると腰を上げ、軍用シャベルを壁から引き抜いた。

その際に外壁が少し崩れてしまい、そこから僅かに赤くなった太陽の光が飛び込んでくる。

廃都市ドノールを夕日が照らす光景は何処か神々しく見え、俺は僅かに見とれてしまった。


しかし、何時までもそうしている訳にはいかない。

俺は軍用スコップを両手に持ち直すと、背後を振り返って廃墟内の薄暗い闇に身を溶かしていった。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






「あ、沿矢君!! お帰りなさい!! どうだった? 怪我してない? 何かあった?」



八階建てである廃墟のオフィスビルから抜け出すと、弓さんが軽トラの荷台から飛び降りて駆け寄ってきた。

弦さんは此方を振り返ることはせず、軽トラの近くでライフルを抱えて周りを注意深く見渡して警戒している。

俺は駆け寄ってきた弓さんに笑いかけると、背中を向けて物資が大量に詰め込まれてあるリュックを見せつけた。



「わわっ、今回も大量だね~! やっぱり沿矢君は凄いなぁ……」



弓さんはそう感嘆の声を出すも、俺はゆっくりと弓さんに向き直り、片手を軽く振って謙遜して見せる。



「いやいや、ラビィのお陰ですよ。彼女のセンサーがある限りは警備ロボとバッタリ遭遇する事はまずないですし、トラップも感知してますからね……。な? ラビィ」


「はい。ラビィは敵施設への単独潜入も視野に入れて開発され、センサー類も当時に存在していた最新鋭の技術を駆使して作られましたから、警備が厳重な政府施設や軍事基地に設置されたトラップ類でさえ、ラビィがそう簡単に見逃す事は無いでしょう」



ラビィは俺の問いに胸を張って答え、僅かに笑顔を浮かべてさえいる。


うーむ、出会った当初でさえラビィには人間臭さが目立ってはいたが、最近になってますます人間味が目立ってきた気がする。

これで堅苦しい言葉使いがなかったなら、簡単に彼女がヒューマノイドとばれる事は無いだろう。

まぁ、既にラビィがヒューマノイドであると言う事実はヤウラでは知れ渡っており、後の祭なんだがな……。


それでも偶にラビィへ交際を申し込んでくる輩がいるのには驚いたがな。

しかし、機械だからと差別的態度を向ける奴よりかは大分マシなんだよな……。


俺がそんな風に物思いに耽っていると、弦さんが軽トラの運転席のドアを開けながら声を掛けてきた。



「木津よ、そろそろ日が暮れる。夕日が沈む前に都市から離れてキャンプを張りたい、話は後にしてさっさと自分の車に乗れ」



弦さんはそう言うと、預けておいた車のキーを此方に投げて寄越してくる。

俺はそれをキャッチすると、腰を低くして言葉を返した。



「あ、はい!! すみません、弦さん。行こうか、ラビィ」


「はい、沿矢様」



弦さんに一つ注意を受けた俺は頭を下げ、ラビィと一緒になってそそくさと自分の車両に向かう。

弓さんも軽トラの助手席に乗ろうと小走りで駆け寄って来たが、彼女は弦さんに向けてブツブツと不満を零す。



「もー……相変わらず弦爺は愛想が無いんだからぁ……。沿矢君達と出会ってから結構経つんだよ? そろそろ下の名前で呼んであげたりしたら?」


「そういう役目はお前に任せてるんだ。それに名前呼びなんざ、別に大した問題じゃねぇだろ?」


「大した問題じゃないなら、『沿矢』って呼んでみてよぅ……」


「……さっさと行くぞ。ほれ、シートベルトを締めろ」



弦さんは弓さんの問いをそう言って誤魔化すと、軽トラのエンジンを掛けて抗議しようと口を開きかかけた弓さんの言葉を掻き消した。

俺は前から聞こえて来たそのやり取りを見て苦笑を浮かべると自分の車両に乗り込み、運転席のドアを閉める。

背後から銃座に着いたラビィの合図を受け、俺はCG式を警戒しながらもボロボロになった路上へと車を走らせた。


とは言え、今回探索した廃墟は廃都市ドノールの外周付近に建っていたので、直に都市部からは抜け出せた。

それにセンサー類を内蔵しているラビィが居るのならば、俺が警戒を厳にする必要性はそんなにないのである。

その証拠にバックミラーへ視線を向けると、今もラビィが周囲の様子を探るのに集中する姿が映っている。


そうこうしている内にドノールからあっという間に離れて茶色の大地が目立つ荒野に辿り着き、まだ夕日が照らしている内に素早くテントを張った。

張ったテントは二つ。一見すると男用と女用って感じで分かれてると思うだろうが、そうではない。

正確には俺とラビィ用のテントと、弦さん達のテントとで分かれているだけなのだ。


弓さんも最初はラビィに興味津々だったのだが、ラビィ自身は俺以外には素っ気無い態度を貫いている。

一度だけ弓さんのお願いでラビィと弓さんを同じテントで一晩を過ごさせたのだが、その一晩で弓さんは見事に撃沈してしまった様だ。


ちなみにその時は必然的に俺自身も弦さんと二人っきりで一晩を明かす事になったのだが、見事に会話が続かなかった。

俺自身は色々と聞きたい事があったのだが、弦さんったら厳しい目付きで銃の整備を黙々と続けてたんだもん……。


テントを張り終えると、今度は夕食の準備に取り掛かる。

俺とラビィの二人なら俺だけ食事を摂ればいいから、借金もあるので豆缶で済ませる所なのだが、玄さん達と行動を共にしてからは豪華な夕食にありつけている。


意外って言うと失礼なのだろうが、食事の用意はもっぱら弦さんがしてくれている。

弦さんは軽トラの荷台に積んでいた袋から携帯用のガスコンロを取り出し、その上に鍋を乗せて中に水を注いで火を点けた。

鍋に注がれた水が沸騰する前に、弦さんは荷物の中から取り出した幾つかの干し肉やジャガ芋、ニンジン等の野菜類をナイフで細かく切り刻むと無造作に放り込んでいく。


それが終わると複数の調味料なんか入れて豪快に味付けしていく、コレが一見すると適当な動作に見えるのだが、ちゃんと計算されているものらしく、味に違和感を覚えた事は無い。


弦さんが鍋をかき混ぜる様子を俺がボーっと眺めていると、何時の間にか近くに寄って来ていた弓さんが俺の隣へ静かに腰を下ろし、話しかけてきた。



「お疲れ様、沿矢君!! 今日も頑張ったねぇ……。まさか三日で荷台の半分を埋めるなんて思わなかったよぉ! あの調子なら、あっと言う間に借金も返せるんじゃない?」


「そうだと良いんですけどねぇ……。けど、荷台にある物資を全部売り払っても一万にさえ届かないと思います。量はありますが、大物は混じってないですしね」


「うーん……それでも大分凄い方なんだけどねぇ。沿矢君の借金はあと……幾らだっけ?」


「えーっと、確か……」



俺は懐から借金の額を記載していたメモ帳を取り出し、さっと目を通すと直に懐に戻して溜め息を吐いた。



「……あと、二百万と二万四千二百ボタですね」



十五歳でこの借金ってやばない? 自己破産とかできたら迷わずしてる所だよ。

まぁ、ヤウラの法にそんな便利な物はないらしいがな。アイ○ルとかもないし。



「う、うーん。まぁ、まだ時間はあるしね。そう焦らなくてもいいと思うよ? 私達もできるだけ協力するからさ」


「はい、弓さん達の助けには本当に助かってます。……ありがとうございます」



こういう時に受ける他人の優しさってのは大変に有り難いものだ。

弓さんの明るい性格には自然と此方も感化され、笑顔になっている事も多い。


ホンマ、弓さんは荒野に咲く一輪の花やでぇ……。


気付けば既に鍋は煮えており、香ばしい匂いが鍋から漂っていた。

弦さんは携帯用ガスコンロの火を弱火にすると、プラスチック製のお椀を取り出して鍋の中身をそれによそっていく。


用意されたお椀は三つでラビィの分は無い。

彼女は食事をする必要もないし、むしろ擬似内蔵で食料を分解するのに余分なエネルギーを消費してしまうらしい。

とはいえ食事時に除け者にするのは大変に心が痛むので、何時もラビィには俺の傍に待機してもらっている。


ラビィも最初はジーっと俺の食事風景を眺めてるだけだったのが、最近になって俺が水を飲みたいと思うタイミングを察して水筒を差し出してくれたり、不注意でスプーンなどを落としたりすると見事に空中でキャッチしてくれたりと、彼女の活躍の幅は探索時だけに留まらない物がある。



――やっぱり、渡せないよなぁ……。



今も俺の隣に座るラビィに目を向けると彼女の紅い瞳は此方に向けられており、視線がかち合った。

すると、彼女は小首を傾げながら柔らかな笑みを浮かべる。

俺も彼女に笑みを返すと、数週間前に起こった事を思い返した――。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






一時的な難聴、右腕の上腕と肩に銃創、額二箇所に裂傷、左腕に細かい裂傷が複数と軽度の火傷、胸部に受けた軽度の打撲と、これ等が俺が負った傷である。

出血量はそれなりだったが幸いにも致命的な物ではなかったらしく、そういう意味では助かった。

ちなみに俺がその時に怪我の度合いを把握できたのは、ラビィが態々と医者の診断を紙に書いて見せてくれたからである。気遣い抜群やな。

しかし、組合所で俺は最低限の治療しか受けられなかった。まぁ、難聴自体は既に大分回復してきていたのだが。


それは何故かと言うと、組合所に勤める医者が俺に最低限の緊急治療を施すと、御川さんは俺に玄甲への移動を促してきたのだ。

此処だけ聞けば御川さんの株が劇的に下がってしまうだろうが、それにはちゃんとした理由がある。


倒れこんだノーラさんにキリエさんが駆け寄って行った時から薄々気付いてはいたのだが、やはり二人は親しい間柄だったらしい。

その時のキリエさんは大人しくしていたのだが、ノーラさんを瀕死に追い込んだ俺に難癖を付けてくる可能性を考慮し、御川さんは後の治療を玄甲で受けられる様に手配してくれた訳だな。


御川さんの気遣いに感謝しながら俺は玄甲へ移動した。

ノーラさんと死闘を繰り広げた俺は勿論の事だが、ノーラさんと格闘戦をしたラビィにも軍は用があったらしく、彼女も玄甲へ着いて来る事となった。

俺的にはラビィの素性を考えると苦々しい所があったのだが、当の本人はそもそも元から俺に着いて来る気が満々でしたね。

流石に一市民である里津さんは玄甲へ通す訳にはいかなかったらしく、軍用トラックに乗る際にストップが掛かってしまった。

里津さん自身もそう上手く行く訳がなかったかと、そこはすっぱりと受け入れると、壊れた武鮫を修理しながら待つと言ってくれた。


玄甲へ着くとすぐにアレコレ聞かれるかと予想していたのだが、まさか治療の最中に聞かれるとは思ってなかった。

しかし、医者はそんな周りの様子を一切気にせずに俺に局部麻酔を施して肩の弾をとってくれたりと、仕事のプロって感じでしたな。

その後は怪我の経過を見る為に個室を一つ軍は用意してくれて、暫く泊まっていく様に進められたのだが、それは好意ではない。

そもそも軍は始めから俺を暫く拘留したかったらしく、それは建前であると直にわかった。ずっと銃を持った兵士が二名着いて回って来てたしな。


そんな訳で暫く玄甲の一室でラビィと一緒に過ごしたのだが、一つ分かった事がある。

それはメイン居住区での生活は恐らく想像以上に裕福であると言う事だ。なんせ俺が元居た世界と何ら遜色の無い食生活が送れたからな。


普通に朝食で味噌汁が出てきた時は我が目を疑ったね。思わず感動して涙目になっちゃったもん。

そんな俺を見て、食事を持ってきてくれた女性兵士が引き気味だったのも気にならないぐらいには感動した。

その後も普通にデザートとして果実やプリンなんかも出てくるから、最高だったな。


ただ、そんな幸福な日々も当然ながら長くは続かない。

玄甲に滞在して一週間くらいたった日であろうか、とうとう俺の個室にお偉いさんが訪れたのだ。


彼はライフルを持った兵士を二名従えて部屋に入って来た。

その軍人はこの世界では珍しい肥えた体を持っていた。少なくとも俺は初めて見たかな。

頭髪の生え具合も寂しいモノだったが彼はその事を別段気にする素振りは見せず、悠然と腹と顎の肉を揺らしながら俺が寝ているベッドの傍らに立つ。

彼は一般兵士が着ている地味な色合いとは違う軍服を着ていて、胸には幾つか煌びやかな勲章を身に着けており、明らかに高階級である事が伺えた。


彼は俺の傍らに立つラビィには一目も向けず、ジロジロと遠慮する事無く俺を一通り眺めると関口一番にこう尋ねてきた。



「木津 沿矢君だね? ……君が壊し屋を仕留めたと言うのは本当かな?」


「ぅえ!? あ……はい。その、ゴミ山で迫田に襲われて……俺が殺しました」



てっきり俺はまずノーラさんの事を聞かれるのではないかと予測していたので、迫田の事を聞かれて大変に焦ってしまった。

しかし、そんな俺の動揺を気にする事は無く、彼は表情を緩めると鷹揚に頷きながら言葉を紡ぐ。



「うむ!! HA-75型に搭載されていたブレードに君の血液が付着していた事からも、君が奴と接触を持った事は確定的な事実だ。一つ聞くが……壊し屋をどうやって仕留めたのだ?」



あー……治療を受けた際に俺の血液も採取されたのか。やはり、ヤウラにはDNA鑑定技術があったんだな。

俺の異常性がばれてしまった以上、その事を隠し通せる訳もないから今となってはどうでもいいか……。



「あの……その前に名前を聞いても?」



俺がそう言葉を返すと彼に付き従っていた兵士の一人が顔色を変え、一歩前に足を踏み出して大声を張り上げた。



「貴様!! 黙って大佐の質問に答えぬか」



そんな兵士の高圧的な態度を受け、傍らに立っていたラビィがスッと瞼を細める。

思わずラビィを止める為に俺が手を翳そうとした所で、それより早く大佐と呼ばれた男が兵士を諌めた。



「よいよい、私が年甲斐も無く興奮してしまって礼儀を忘れたのがいけないのだ。下がりたまえ」


「はっ!」



諌められた兵士は素直に一歩下がると、そのまま大人しくなった。

それを見て大佐は満足気に頷くと、俺に視線を合わせてゆっくりと名乗る。



「私は剛塚 茂道、階級は大佐だ。さて……もう一度聞くが、君はどうやって壊し屋を仕留めたのかな?」



一見すると剛塚大佐は穏やかな笑みを浮かべてはいたが、余分な脂肪と笑みによって細められら瞼の間からは鋭い視線が覗き見えた。



「どうって言われても……。俺はただ、迫田の隙を突いて左の直突きを胴体に放っただけです」


「おぉ!! 素手でHA-75型の装甲を貫いたのかね!? 実に素晴らしい!! では、君がクースで百式を仕留めたと言うのも間違いはないようだな!!」


「……!? ひゃ、百式? 仕留めたって……一体」



俺が驚愕で言葉を詰まらせながら問うと、剛塚大佐はニヤリと笑みを零しながら得意気に言い放つ。



「ヤウラの軍人を甘く見ない事だな、木津君。君の調べは既に終えている。クースの廃病院にあった隠された施設や、百式の件に君が関わっていた証拠も揃っている」



んなアホな!! まさか……武市さんか?!

俺に興味を抱いていたと言う軍人は彼女ぐらいしか思い浮かばない。

だからって態々調べに行くか? なんつー行動力なんだ……。



「おやおや、そう驚かなくていい。むしろ誇るべき事ではないかな? 賞金首のビッグネームを仕留め、百式を破壊し、二つ名持ちの凄腕を退けた……。実に輝かしい功績だ!! 今とて、ヤウラ市内では君の話題で溢れているのだよ? 堂々と胸を張りなさい!! 君にはその資格がある!!」


「は、はぁ……。どうも」



剛塚大佐は鼻息を荒くしながらそう豪語し、俺を褒め称えた。

だが、彼は直に気を取り直す様に一つ咳を零すと、懐から束になった書類を取り出して俺に差し出してくる。

俺は訳も分からないままそれを受け取り……絶句した。


何故なら、その書類には俺がヤウラに支払うべき損害賠償の額が記されていたからだ。

その額――なんと『六百万』ボタである。


質の悪いジョークかな?

そう思って俺は書類の束を捲って『ドッキリ!!』の四文字が隠されてないかと注視していくと、それが冗談ではない事がすぐに分かってしまった。


まず目に入ったのが、ゴミ山で俺が吹き飛ばした大のゴミ山の賠償値段が百万。

次はその時に俺が吹き飛ばした鉄屑が破壊した廃墟の値段が五十万と、ゴミ山の破片が降り注いで壊れた家屋等の修理費用が百万。

それと破片が降り注いで怪我をしてしまった人達への治療費や、心的賠償値段を合わせて百万。

さらに組合のルールを破って百式の部品やラビィを違法にゲットした罰金が五十万と、ポイントも同じく五十万がマイナス。

最後はノーラさんとの戦闘で俺が利用したマンホール、街灯、戦車、壊した道路や建物等の修理費用が二百万。

どうやらあの戦車はかなり高い品物だったらしいな。そういう物は基本的には遺物らしいし、それも当然か……?


ってかポイント五十万マイナスってどうなるんだ?

えーと……今は580Pが俺のPかな? いや、ノーラさんの依頼で110Pが増えてたはずだから690Pか?

つまりは、俺の今のポイントは0。もしくは-499310Pって事なのかな? そうだとすると色々と凄いな、驚きを通り越して何も感じないぜ。


俺が一通り書類に目を通した所で、剛塚大佐が話し掛けてくる。



「見て分かる通り、細かい費用は温情でカットしてある。ヤウラ市の気遣いに感謝したまえよ、木津君」



細かい費用ってか、どれもこれも大雑把すぎる値段だよ。絶対適当に決めただろ、コレ。

里津さんの借金だけでヒーコラ言ってたのにこんなん払えるか!! 責任者を出せ!!


などと色んな思いが心中に溢れ出てはいたが、どれも俺の口から出る事はなかった。

実際、こうして書類に記載された俺の行為はどれも紛れも無い事実であり、ヤウラの法がそれを許さないと言うならば俺にはどうしようもない。

今まで忙しくてあまり気にしてはなかったが、俺が吹き飛ばしたゴミ山の破片で壊れた家屋や怪我人が出てたんだなぁ……。うぅ、心が痛む。


俺が沈んだ気持ちでそれを眺めていると、突如としてラビィが俺の手から書類をゆっくり取り上げた。

彼女は文字数が少ない少年漫画を眺めるかの様に、次々に書類を捲って内容を把握していく。

一分も掛からない内にそれ等を全て見終えると、ラビィは瞼を細めて剛塚大佐に意義を唱えた。



「傲慢もいい所ですね。こんな内容は到底受け入れられません。そもそも沿矢様が迫田 甲と戦闘を繰り広げる一因となったのはヤウラの軍人が彼を雇い、ゴミ山を不法に占拠した事が原因ではないですか。貴方達さえしっかりしていれば、そんな事は起こらなかったでしょう? それに悪名高い賞金首の街中への潜入を見逃すなどと……軍の職務怠慢なのでは? むしろ沿矢様に賠償金を払うのは貴方達でしょう。沿矢様は迫田 甲との戦闘で大怪我を負い、生命の危険さえ味わったのですからね。それにタルスコットとの戦闘も沿矢様が避けようと思えば避けられたのです。しかし、沿矢様は爆弾を解除する為に彼女と死闘を繰り広げて見事に勝利し、街の被害を最小限に留めたのです。それとも……あのまま放置してれば良かったとでも? その言葉をヤウラ市民が聞いたら反発するでしょうね。聞く所によれば、軍はこの街ではあまり好かれてないそうですし」


「ら、ラビィ……」



色々と怖い物知らずやな。

とは言え、確かにラビィが言う事には一理ある。

その証拠に剛塚大佐はラビィの言葉を受け、僅かにうろたえて見せた。



「ふ、ふむ……。高性能なヒューマノイドとは聞いてはいたが、成程な……。中々に興味深い」



剛塚大佐はそこで初めてラビィに興味を抱いたのか、ねちっこい視線を隠す事も無くラビィに向ける。

余った顎の肉を触りながら剛塚大佐は暫く小さく唸り声を漏らして考え込んでいたが、突如として動きを止めると大声を張り上げた。



「よし分かった!! 君の言葉にも一理はある、上層部にそれ等を伝えてみようではないか。しかし、私ができるのはそこまでだ。 組合のルールを破った事や、タルスコットとの戦闘で破壊した戦車などはどうにもできん。そもそも彼女は何とか一命は取り留めたが今は昏睡状態となっていてな、事情を聞く事ができんのだ。そうなってしまうとだ、もしかしたら……そもそもとして木津君になんならかの非があり、あの様な事態が引き起こされたと言う可能性があるのも、あながち否定できない事実だろう?」



剛塚大佐はそう言って挑発的な笑みを浮かべたが、ラビィは冷静に言葉を返す。



「仮に沿矢様に非があった所でタルスコットが街を無差別に爆破した事実は消えませんし、そもそも沿矢様に非などありません。期待するだけ無駄と進言しておきましょう」



ず、随分ズバッと言うなぁ……。頼もしすぎるだろ、ラビィ様。

でもこれで幾つか払う項目が減るのならば助かるぞ。流石に六百万は無理だって……。


その日はそれで何とか終わったのだが、後日に兵士が新たな書類を持参してきた。

それには迫田関連で発生してしまった損害賠償の部分は帳消しとなっていた。

つまり、俺が払うべき借金は組合のルールを破った事で発生した五十万。

それとノーラさんとの戦闘で壊した公共物や戦車などの修理費用が二百万と、合わせて二百五十万って訳だ。


これだけでも大分無理があるとは思うが、最初に提示された六百万に比べれば天と地ほどの差がある。

しかし、書類の最後の方にはある言葉が記載されていた。



――尚、これ等の返済期限は一年とし、それが果たされなければ私財を没収する。それでも足りない場合は、その代金を補う為に貴公を軍へ強制入隊させる場合がある。注意されたし。


――追伸、行方を眩ませたら賞金首として討伐命令が張り出される事となる。強く注意されたし。



とってもシンプルな内容ですね。死ね。

思わず書類を引き裂きたい衝動に駆られたが、ふとある考えが脳裏を過ぎってしまった。


Gクラスである俺の私財など、高が知れている。

軍は俺の身辺の調べなど既に終えているだろうし、そんなの分かりきっているはずなのだが……。

それにもし俺が逃げた場合は賞金首として張り出すなんて……少し大袈裟すぎやしないか?



「あ……」


「どうされましたか? 沿矢様」



思わず言葉を漏らした俺を気遣い、ラビィが声を掛けてくる。

俺が呆然とラビィに視線を向けると、彼女は小首を傾げて答えて見せた。



――軍の狙いは間違いなくラビィであると、直にそう確信した。



多分ヤウラでは……と言うか、この世界でヒューマノイドに人権などあるとは到底思えない。

軍は多分、ラビィを俺の所持品として見ている可能性が高い。 確信は無いが、まずそう考えるのが妥当だと思う。



――助かった。



俺はそう深く安堵した。

そもそもとして、組合のルールを破って手に入れた百式の部品とラビィを軍は没収する気は無いらしい。

それは大変に幸運な事である。


俺が借金を返せる筈がないと軍は高を括っているのだろうか?

それとも無理矢理に俺からラビィを取り上げた所で、マスターの権限を俺が破棄しないと思ったのかもしれない。

いや、理由はどうでもいい。重要なのは俺に残された制限時間が一年であると言う事だ。


軍の狙いに俺が直に気付けて助かった。

そうでもなければ、俺は最初から無理だと諦めて無駄に一年を過ごしてしまっていたかもしれない。



「ラビィ……」


「何でしょう? 沿矢様」



俺が呼びかけると、ラビィはすぐに柔かな声で答えてくれた。

此方に向ける彼女の真紅の瞳には、決意を秘めた俺の姿が映っている。



「明日から……忙しくなる。頼りにしてもいいか?」


「――勿論です。沿矢様の期待に、ラビィは全力で応えましょう」



次の日の朝、俺は玄甲を後にし、その日から新たな激動の日々が幕を開ける事となった。



まさかの借金、倍プッシュ。

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