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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
40/105

三者三様



「また君か……」



応接室に入ってきた御川さんが俺を見て放った第一声がこれだ。

思わず口にした一言って感じだが、それも仕方なかろう。

なんせ俺が御川さんにお世話になるのはこの短期間にも関わらず、もう既に四回目なのだ。


登録監禁事件だろ、クース帰還時でしょ、あと今朝のノーラさんの爆弾発言で暴徒と化した同業者達から俺の身を守ってくれた時、そして今回の殺害予告と来たもんだ。


いやー、最初に会った時はこんなにお世話になるとは思ってなかったなぁ。

でもですね、今回はマジでやばいんですよ。どうか助けてください。オナシャスッ!!


俺はとりあえず礼儀としてヘルメットを取ろうとして……ラビィに上から無理矢理押さえつけられた。

な、なにをするだぁーー!! まぁ、俺の安全の為なんだろうが……イキナリだから驚くわ。

やめる様に言おうかとも思ったが、ラビィに発言を許すと不自然さを感づかれる可能性があったので仕方なく妥協する。


俺は腰を低くして、頭を下げながら御川さんに挨拶する。



「はい、また俺です。御川さんには色々お世話になって本当に助かってます。あの……田中さんに聞いたとは思うんですが、俺……」



そこで俺が少し口篭ってしまうと、御川さんは一つ頷きながら言葉を紡ぐ。



「ノーラ・タルスコットからの殺害予告……。田中君から聞きはしましたが、色々と分からない事が多いですね。一体何がどうなってそんな事に? 君が彼女から依頼を受けた事と関係しているのかい?」



む、むぅ……どうしよう。もう迫田の事とかを含めて、一から十まで話すしかないのかな?


俺がそう考え始めた時である、ソファーに座っていた里津さんがトンデモナイ事を口にした。



「痴情の縺れよ、私やそこに居る美人とコイツはアレな関係なのよ。貴婦人さんったら良い感じにコイツに好意を抱いてたみたいでね。なんだか裏切られた気持ちになったみたい。あーやだやだ、嫉妬って怖いわよねぇ」



コイツ、と俺に指差しながら里津さんはスラスラと根も葉もない事を口にする。



「ぅえ!? ぇ……えぇ……そうなんですぅ。アレな関係なんですぅ……」



俺が堪らず抗議しようとしたら、里津さんに鋭い視線を飛ばされた。

仕方なくゆっくりと頷いた俺に向かって、田中さんが養豚場の豚を見るような蔑んだ眼差しを送ってくる。ぶ、ブヒィ……。

対する御川さんは里津さんとラビィの両名の間で素早く視線を数回行き来させ、最後に俺を見て『コイツがぁぁぁぁ!?』みたいな驚愕の視線を向けてきた。


色々釈然としないが、俺の異質さを隠し通すための里津さんなりの優しさと言うか、フォローなのだろう。

ありがたく、ソレを受け取って話を進めていくしかないか。そもそもノーラさんが俺に襲い掛かってくる理由がまだ分かんないしな。


ようやく気持ちを落ち着けた御川さんが一つ咳を零し、神妙に頷きながら俺の肩に手を置く。



「そうか、事情はよく分かったよ。実は組合ではこういう恋愛絡みでの同業者同士のトラブルはさして珍しくないんです。実際、自分の恋人を取られたと言うか……そんな感じになって、自宅にロケットランチャーを撃ち込まれた奴だって居ましたし」


「えぇ!?」



過激ってLvじゃねぇぞ!! 一昔前のバラエティみたいな事やってんじゃないよ!! 馬鹿じゃねぇの!?

いや、でもそういう過去の偉人(?)達の例があるお陰で御川さんも素直に信じてくれたみたいだな。


御川さんは驚愕の視線から一転し、哀れんだ眼差しで俺を見つめながら優しいお言葉を送ってくれる。



「とりあえず、事の確認が終わるまでは組合所で待機してください。食堂なんかもございますので、一歩たりとも外へ出ないようにお願いします。私はとりあえずタルスコット殿に連絡を取ります。木津君を疑う訳ではないが、あちら側からも一応は事情を聞く必要があるので……それでは」


「あ、どうもありがとうございます。お世話になります……」



俺が再度頭を下げると、御川さんは慰める様に俺の肩を数回叩いてから部屋を出て行った。


むっちゃ良い人やな。その分気苦労も絶えなさそうな感じだが……それが彼の運命なのかもしれない。


応接室の中にまだ残っている田中さん。

彼女はしばらく悩んでいたようだが、最後に俺へ向かってニコリと微笑みながら問いかけてきた。



「木津君……。この話、同僚にしてもいい?」


「駄目です。本当に勘弁してください。後生ですから」



俺は即座に土下座し、田中さんに向かって必死に懇願して見せた。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






「武市大尉……やっぱりやめましょうよ。こうまでする必要ないですって!」



宮木誠一はエレベーターシャフトの前に立つ武市 詩江に向かって、懇願するかの様な情けない声で訴えかけた。

エレベーターシャフトの前に立つ武市の腰周りにはフック付きロープが装着されている。

長く伸びているロープの元を辿ると、近くのフロアにある支柱に巻き付けられていた。


武市はしっかりとロープが結びついてるかの確認を入念に行いながら、語り口調で言葉を吐き出す。



「宮木伍長。壁に配属された軍人が受ける訓練の中には、壁の最上階からロープを使って高速降下する内容もあったのだ。これくらいは……どうって事はない」


「いやいやいや!! 全然状況が違うでしょうに!! 下は懐中電灯でも確認できないほどの深さで真っ暗闇ですし!! ケミカルライトもないんですぜ!? もし下で多数のLG式に囲まれたら!? 上がってくる間に集中砲火を受けてお陀仏ですよ!!」



宮木は今正に自分が危険度の高い探索場所に居ると言う状況を顧みず、そう大声で武市に訴えかける。

対する武市は訴えを無視して既にエレベーターシャフトに身を乗り出していた。

武市は宮木に向かって一つ不敵に微笑んでみせると、シャフトの暗闇に体を下ろして行ってしまう。



「ああ!! もう!! 糞ッ!! なんたってこんな……」



宮木は最後に悪態を吐くと、Y6を構えて周囲を警戒し始めた。


エレベーターシャフトの中は冷たい空気が流れているのだが、下に進む従ってさらに気温がさらに低くなった様に武市は思えた。

それとも、まさか自分はこの状況に恐怖心を抱いているのだろうか? 武市はふとそう考え、すぐに苦笑を漏らしてそれを否定する。

地下に降りるにつれて彼女の肌は冷えていく一方ではあるが、心は興奮で熱く煮え滾っていく思いであった。


クースに来てからと言うもの、武市は様々な発見をしてしまった。

自身の考えが正しかったのだと言う事実に、彼女は性的快感に似た満足感を覚えつつもある。



――だが、まだだ。まだ足りない。この謎を解き明かすまで自分は諦めない。



きっとこの下には真相を解き明かす"何か"がある。

これは自分勝手の妄想などではなく、確定した事実であると武市は既に強く確信していた。

だからこそ、この二つの眼でしかとソレを見届けたい。


武市が自分の中の想いを再度確認していると、すでに底が迫ってきている事に気付いた。

彼女は一旦降下を取り止めて懐中電灯を地下に向ける。

すると彼女は驚愕の余り大声を漏らしそうになった。


エレベーターシャフトの底の底。

厚いコンクリートの壁をブチ破り、ボロボロになったエレベーターの籠が暗闇の中に浮かび上がったのだ。

武市が驚愕したのはエレベーターの籠があった事ではなく、さらに下の"空間"があった事に気付いたからである。


武市は一つ大きく息を吸い、冷たい空気を大量に取り込んで自身の興奮を治めるように努めた。

しかし、それは上手く行かず、まるで異性に恋焦がれる少女の様に胸の高鳴りが止む事が無い。


武市は気を静めるのを諦めると、代わりに一つ覚悟を決めて再度降下を開始する。

崩れてない床にゆっくりと着地した後、彼女はまず上に向かって自身の無事を宮木に伝える為に声を張り上げようとして……止めた。

それをするのは下の空間の安全を確かめてからでないと危険だと悟ったからである。

もしLG式が地下をうろついていた場合、大声に釣られてすぐさま集まってくる事は分かりきってる事実だ。


武市は地下の空間に下りる為、一歩を踏み出した。

まず彼女は慎重にエレベーターの籠の上に降り立ち、避難用の救出口を開け放とうと懐中電灯の灯りを照らして、一つ舌打ちを打つ。

落下した時の衝撃が強すぎたせいか救出口は僅かに歪んでおり、施錠する事はまず不可能である事は明白だったからだ。


仕方なく武市は身を低くして、下の空間にあった"天井"とエレベータの間を潜り抜けようと試みる。

その際にロープが障害物に擦れて千切れないよう、彼女は最大限の注意を払ってゆっくりと地下に降り立った。


その直後、急激に眩い光が視界一杯に広がって武市は瞼を閉じてしまった。

しかし、彼女は冷静さを失った訳ではない。すぐさま懐中電灯を放り投げて身を屈め、腰に吊るしておいたY6を前方に向かって構えて耳を澄ます。

一秒、二秒、と時が過ぎるも何も聞こえてはこない。引き金に乗せた指をそのままにして、武市はゆっくりと瞼を開け放った。


武市の視界に飛び込んで来たのはまず眩い輝きを放つ白い廊下。

それは何処までも続いている様に見えるが……と、其処まで確認した所で武市は近くの廊下に転がっている"異物"に気付いた。

それに気付いた瞬間、武市は大きく目を見開きながら笑みも零してしまう。



「は、ははは……! どうりで見つからない訳だ」



してやられた。そう言わんばかりに武市は悪態を吐くが、それはどこか陽気な声色であった。

武市は無惨な姿と成り果てている百式に近づき、片膝を着いて注意深く眺める。

百式は乾いた血が所々にこびり付いており、ホラーな雰囲気を醸し出していた。

しかし、武市はそれに怯える様な"可愛い"性格の持ち主ではない。彼女はその乾いた血を擦ると、ポツリと呟く。



「なるほど、これが上の階で目印となっていたわけか……。ん? 部品が……抜き取られてる、か」



百式の内部からは不自然にコードが幾重にもはみ出しており、武市はすぐさま百式の部品が漁られている事に気付いた。

しかし、近頃の組合所では百式の部品が査定に回されたと言う話は聞いてはいない。

もしあったとしても、クースに向かう片手間で宮木が話してくれただろうし……。そこまで考え、武市は思考を打ち切った。


今は"そんな事"はどうでもいい。折角現場に居るのだから、他に手掛かりが無いかを調べた方が懸命だ。

武市はそう思考を切り替え、次に背後に落ちているエレベーターの籠の中へ視線を向ける。

と、其処で彼女はニヤリと肉食獣を思わせる獰猛な笑みを浮かべた。


武市はまるで獲物を追い詰めるかのような確かな足取りで籠の中へ足を踏み入れ、床に落ちている灰色のローブの一部を拾い上げた。

まるでテイッシュを散らかしたかの様に、籠の床には丈夫な筈のローブの切れ端が彼方此方に千切れ落ちている。

武市はそれを強く握り締め、勝ち誇ったかの様に言葉を吐く。



「これ等を前にして、君がどう言い訳するのか……楽しみだな」



そう呟いた武市の頬は紅潮しており、興奮を隠しきれていない事は明白であった。

彼女はすぐに気を取り直し、なんとなく籠の内部を見渡して……愕然としてしまう。


籠の内部には明らかに落下の際でできた歪みとは別の、まるで"殴り"つけた様な跡が彼方此方にスタンプされていたからだ。



「君は……一体どうやって百式を仕留めたんだ…………?」



一つの可能性としてある考えが武市の脳裏に浮かんだのだが、彼女はソレを受け入れるべきか頭を深く悩ませた――。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






「…………ショッピングって言ったよね? ノーラ」



キリエ・ラドホルトは憮然とした口調でノーラ・タルスコットに向けて話しかけた。

唇を大きく尖らせ、足の爪先をグリグリと床に押し付けるキリエの姿は微笑ましい物だ。


ノーラは柔らかに微笑みながら、"商品"を手に取って頷いて見せた。



「ええ、ショッピングじゃない。こんなに"素晴らしい品物"が揃ってるなんて……流石はヤウラね。やはりプラントがあるって素晴らしい事だわ」



ノーラが手にした商品。それは『M105グレネードランチャー』であった。

単発、かつ中折れ方式を採用しており、単純な構造ゆえに故障する事も少ない信頼できる一品だ。

40mm口径であるM105に使用する弾薬は言わずもがな40mm×46であり、様々な種類の弾薬が用意されている。

高性能炸裂弾薬であるHE、多目的榴弾などの代表的な物の他にも、催涙弾や発煙弾などのサポート的な用途に使える物もある。


カートを押しながらノーラはM105を籠に入れ、次に先程述べた各種の弾薬も幾つか入れた。

その光景を見てゲンナリしているキリエとは対照的に、店の主人である髭面の大男はニコニコとした眩い笑顔を浮かべている。

ノーラが籠に入れている商品はM105だけではなく、様々な銃器類が混同していたからだ。


その量と買い求める商品の質の高さから計算すると、一月分の売り上げが今日で達成されるかもしれない。

店の主人の脳裏には"メインタワー"にあるレストランで食事を摂る自分の姿が既に浮かび上がっていた。


キリエは仕方なく自身も周囲にある銃器類に目を向けるも、すぐにそれから目を離してしまった。

次に彼女は店の主人に向かって不満をブーブーと零す。



「ねぇねぇ、高周波ブレードとか置いてないの? 装着型ハンドキャノンは? 光学迷彩スーツ……なんてあるわけないよねぇ。そろそろ変えたいんだけど見つからないんだよ~~。ノーラぁ……何でこんなショボイ店を選んだの? 武器が欲しいならメインタワーに行けばいいのにさぁ。あそこならレーザー砲だって置いてるよ?」



店の主人はキリエの発言を受けて口角の端を引くつかせたが、大量に生い茂った黒髭がそれを覆い隠してくれた。

ノーラは気にせず買い物を続けながら、キリエに向かって言葉を返す。



「だってメインタワーで買った物は数日待たないと壁の中から持ち出す許可が下りないでしょ? この"ランク"ぐらいの武器なら直に許可が下りるじゃない。だから此処を選んだのよ」



さらっとノーラが吐いた言葉に店の主人が情けない表情を浮かべ、彼の心中には隙間風が吹いてるかの様な寂しさが漂ってしまう。

そんな主人の落ち込み様に興味など惹かれるはずもなく、キリエの顔には笑顔が浮かび上がった。



「え?! 何々?! ノーラって狩りに出かける予定でもあるの!? わ、私も行きたい!! 連れてってよ~、ノーラぁ」



ノーラの左腕を掴み、キリエは甘える様に体を預けた。

それを受けたノーラは困った様に眉を寄せ、右手の人差し指をキリエの額に当てながら言葉を紡ぐ。



「ゴメンね、キリちゃん。今回は一人で頑張りたいの……ね? お願い」


「ぅ~~……なんだよぅ。つまんないなぁ。あーあ、"アライアンス"も最近じゃ発令されないし~~。ネームド付きだって一通り狩ったしなぁ……」



文句を口にしながらチラチラと視線を向けるキリエにノーラは優しく微笑むだけだ。

そこでようやくキリエは諦めて渋々と体を離した。

代わりに彼女はまた唇を可愛く尖らせながらノーラに向かって一つお願い事をする。



「むぅ。じゃあ、今度は私の用事に付き合ってよね!! 面白い探索場所とか手強い相手を見つけておくからさ!! ねっ? ね? いいでしょう?」


「…………えぇ、いいわよ。楽しみにして、待ってるからね?」



ノーラはキリエから顔を背け、そう言葉を搾り出した。

彼女の金の瞳には僅かに涙が浮かんでいたが、それにキリエが気付くことはなく喜びの声を上げる。


と、その時である。ノーラの懐にあったPDAに着信が入った。

ノーラはそのチャンスを生かし、キリエに気取られない様に素早く涙を拭き取ってからPDAを取り出して画面に視線を向けた。


見覚えのある番号だ、ヤウラにある組合所からのコールナンバー。

それを見て、何故連絡が入ったのか直にノーラは感付いた。



「……甘いですわね。大人しく、ヤウラから逃げていれば良いものを……」



ノーラが呟いたその言葉には、何故かそうして欲しかったとも捉える事ができる響きが混じっていた。

彼女はそのまま着信を切り、スッと懐にPDAを仕舞う。

それを見て好奇心旺盛なキリエが追求しない訳が無い。彼女はすぐにノーラが着信を切った事を問い詰める。



「ねぇねぇ、何で出ないの? 私だったら出るよ!! 組合から届く私への連絡って大抵が大物出現の報だからねっ」



得意げに胸を張るキリエを見て、ノーラはクスリと笑みを零す。

彼女は一つ頷くと、口角の端を不敵に上げながら言葉を吐き出した。



「えぇ……よく分かるわ。今のも"大物出現"の報みたいだったし、ね……」



沿矢が取った組合所への避難という行動。それに間違いは無かった。


――しかし、彼はノーラの決意の強さを知ってはいなかったのである。





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