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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
4/105

初めてのお泊り!! ただし場所は廃墟 編

疑問は尽きないが、とりあえず自分がすぐに元の場所に戻れないって事だけは分かった。


思考を切り替えていこう。

とりあえず今日の寝床と食料を確保し、明日に向かって生き延びるのだ。

な、涙目なんかになってないんだからぁ……。



「此処はヤウラですか……。おーけ、分かりました。さっき言った通り、俺が住んでた場所は違う所なので……この辺りに泊まる所ってあります?」


「んー……。えーっと、ちょっと待っててね」



弓さんは少し考えると、弦さんの方へと小走りで駆け寄っていった。

弦さんは弓さんが来るとそのまま店の外に向かおうとしたが、弓さんは弦さんの腕を掴んで何やら話しかけている。


ホテルの場所でも聞いてくれてるのかな、少し長引いてるようだ。

やる事がないので里津さんに視線を向けるが、ロボを解体するのに忙しいのか既に此方への興味を失っている。



「木津君! ごめんね、お待たせ。行こっ」


「ぅえ、あ、行くって?」



まさか此処で俺の人生で女の子から聞きたい言葉、第六位の『ごめん、待った?』系が聞けるとは思わずドモってしまった。



「弦爺が泊まれる所に送ってくれるって、本当は家に泊める様お願いしたんだけど……ごめんね」


「あ、いえいえいえ。そんな事気にしなくておーけっす!」



何て娘だ、俺の胸がドキドキしすぎてヤバイ。

こんな心優しき生物が存在するなんて、感激です。

だけどお陰で弦さんからの睨みが半端ないんです、某伝説のポケ○ンに負けちゃいないぜ。



「あ、志菜木さん。ちょっと待ってて!」



弓さんに断りを入れると、近くに置いてあった変な部品を手に取ってカウンターに向かう。

とりあえず確認すべき事が一つあるのだ。



「あの、里津さん。これ、いくらしますかね」



恐らく此処での取引は先程もらったボタンを使うのだろう。

しかし確信はない、だからとりあえず里津さんを使って確かめておくのだ。



「ぁん? アンタまだ居たの? ……これは三ボタでいいわ。だけどこれ単体じゃ使いようがないわよ? それでも買うの?」



ノロノロと面倒くさそうに顔を上げ、里津さんが部品を見て聞いてくる。

そんな里津さんに向かって、俺は最高の笑顔で答えて見せた。



「いえ! 買いません! じゃあこれで!! お世話になりましたっ!!!」


「……変なガキねぇ。はいはい、じゃあね」



里津さんの気の抜けた声を背中に受けつつ、部品を元の場所に戻して弓さんと一緒に外に出る。

既に弦さんはトラックに戻っており、エンジンを掛けていた。


とりあえず荷台に上る前にお礼を言っておいた方がいいだろう。

運転席近くに行き、少し腰が引けつつも弦さんに声をかける。



「あの~志菜木さん。今日は何から何までお世話になって助かってます。その、本当にありがとうございます」



弦さんは此方を向いたが、何も言わない。

窓は開いていたので聞こえてるとは思うのだが、耳が遠くなってるのかな?

数秒、耐え難い沈黙が続いたが弦さんは一つ溜め息を零すと後ろ頭を掻いた。



「俺は弓の我侭に付き合ってるだけだ。だから礼なら弓の奴に言ってくれればいい。……ほら、さっさと荷台に乗らんか」


「あ、はい。それじゃ、失礼します」



弦さんに促され、頭を下げつつ荷台に乗る。

トラックが動きだし、風が吹き付けて来た所でようやく自分が冷や汗まみれだった事に気づいた。

だって弦さんったら凄味があるんだもん……。


そんな風に疲弊している俺を、弓さんは膝を抱えてジーっと見つめてくる。



「ど、どうしました? まさか俺の背後に見えてはいけないモノが見えちゃってたりします?」



俺に言わせれば、この世紀末的な景色全体が見えてはいけないモノなんですがね。



「あ、ううん。違うの。他の町から来たなら知らないだろうけど、ここら辺って私と同世代の子ってあんまりいないんだ。みんなずっと前に軍へ連れてかれちゃったから……。だから木津君とお友達になれたらなぁ、なんて……」



言って、恥ずかしそうに顔を伏せる弓さん。

はぁぁぁぁん……何なのこの可愛い生き物は? 僕チンもう堪らんですたい。


しかし、軍に連れて行かれたとは一体……徴兵制でも敷かれてるのかこの町は。

いや、と言う事は少なくとも政府、またはソレに似た体勢があると言う事か?

この世紀末的な風景で絶望しかけたが、そんなに心配しなくてもいいのかな。

少し安堵を抱きつつ、弓さんに笑顔で頷いて見せる。



「俺なんかで良ければ、勿論友達になりましょう! じゃあ、俺の事は沿矢って呼んで下さい」


「あ、じゃあ私の事も弓って呼んでね。よろしく、沿矢君」



友達と言えば、高田君は元気だろうか……彼のツッコミセンスは好きだったのだがな。


トラックのスピードは街中だし、道路は欠けてるしでスロー気味だ。

しかし、街中なのにこのトラック以外に動いてる乗用車を見かけない。

あるのは明らかに動かないであろう錆びだらけの廃車のみ、しかもよーく見ればその中で寝泊りしてる輩がやたら多い。

もう辺りは暗闇に包まれつつあるが、街灯等は折れており、近くに見える明りは道端でドラム缶を使った焚き火とトラックのライトのみだ。


しかし、遠くあった壁と高いビルには明らかに人口的な、電気を使用してると思われる光が全体的にではないが所々で見える。

その明るさを見ると、こちら側の暗さがさらに際立っているように感じてしまう。

こんなに暗い夜を過ごすのは恐らく山堀デー以来だ。



「着いたぞ。町の外周に近いわけじゃねぇから何時も部屋は空いてるし、その分トラブルも起き難い場所だ」



この町の様子を眺めて薄々気付いてはいたが、案内された所は当然旅館でもホテルでもなく、寂れた三階建てのオフィスビルっぽい所でした。

入り口は道端で見たドラム缶を使った焚き火を、両脇に置いて照らされている。


うん、宿泊施設と言うよりかは廃墟を利用した遊園地のお化け屋敷みたいだ。

ガイドブックに載ったら星一つか半分しか貰えない様な場所であろう。いや、そもそも載らねぇな。

だけども弦さんの勧めなら大丈夫だろう。と言うか、今はとにかく体を休めたい。



「弓さん、宿の事をお爺さんに頼んでくれてありがとう」



荷台から降りる前に弓さんに頭を下げる。

この二人がいなければ一体どうなってた事だろう、そう考えると感謝しきれない。



「ううん、いいんだよ。私がやりたかっただけだから」



そう言ってのけられる人間がこの世に何人居るだろうか、感動すら覚えるね。

弓さんの人柄に感銘を受けつつ荷台から降りて、二人に向けて手を振って見せる。

弓さんは勿論の事大きく手を振り返してくれたが、弦さんも小さく手を上げて挨拶してくれた。


見た目に反して弦さんもすんげーいい人だったなぁ、やはり人間中身が大事なんや。

トラックは動き出し、ゆっくりと、だが確実に暗闇の中に消えていった。


一人になると途端に心細くなる。

周りの暗さもその気持ちに拍車をかけているのだろうか、とりあえずチェックインしよう。

ビルの扉は恐らく元あった扉は壊れたか、撤去されており、鉄屑と薄板で構成されている。

見た感じノブはない、恐る恐る押してみると怪奇的な音を立てつつ、ホラーチックに扉は開かれてしまった。

もしも俺に自分の守護霊を見る事ができたならば、俺を必死に止めようとしているかもしれん。


しばらく呆然としていたが、その音が呼び鈴代わりとなったのか、奥からカンテラを持った人が歩いて来た。

顔は薄暗く確認できない、体付きからみるに男性だ。



「どうした、早く入ってこい。それとも冷やかしか?」


「あ、いや。失礼しますぅ……」



覚悟を決め、中に入る。

これがホラー映画だったら背後の扉が二度と開かない事になってしまうが、そうならない様に祈っておこう。


建物の中に足を進め、そこでようやく男の全容を伺える事が出来た。

男は白髪交じりで細身だ、着ている物は半袖のシャツの上にエプロンとジャージのズボンと言う組み合わせ。

とても客商売する格好ではないが、ここでは格好など気にする事ではないのだろう。

年齢は四十後半か、五十前半って所だろうか、どうやら彼がここの主人と見ていいだろう。




「一日泊まるだけなら二ボタ、食事も取るなら三ボタ、暫くここで泊まるなら一週間十五ボタで、食事も取るなら十八ボタだ。それと生憎ここはシャワーなんて物はないからな、水は一ボタでバケツ一杯分提供してやる。飲み水に使うか体を拭くかは自由にしろ」



主人はそれだけ言うと押し黙った。

言う事は全部言ったって感じらしい。


とりあえず様子見で一日だけ泊まろう、勿論食事付きで。



「あーじゃあ、一日だけ泊まります。食事付きでお願いしますね……。はい、じゃあこれで」



里津さんがくれた鞄の中から十のホルダーを探し当てると、中身からボタンを三つ取り出して手渡す。

正直、これで本当に泊まれるのか不安で動悸が少しやばかったが、主人は何も言わずに懐へとボタンを仕舞った。



「分かった。少し待ってろ」



主人は一つ頷くと、フロントに入って壁際にある棚の中を漁りだした。

暫く待っていると鍵束の中から一つを取り出して、此方に向かって手招きした。


フロントの近くに向かうとそのまま鍵を手渡された。

鍵には木製のタグが付いていて、『201』と表示されている。



「食事は朝は八時から九時、昼は十二時から十三時、夜は十九時から二十時までに一階の食堂まで来ないと用意はしない。お前は今から泊まるから……明日の昼の食事までなら面倒を見てやる。いいか?」


「あ、はい。その、今って何時ですかね? 時計あります?」


「時計は其処と、各階の廊下に一つだけ用意してある。部屋には無いからよく見ておけ。ほら、これを持て」



何時の間に用意したのか、彼が持ってたのとは別のカンテラを手渡された。

部屋の中央高くに一つ時計があり、それに向かってカンテラを掲げる。

薄暗いし、ちょっと皹が入ってるわで見辛かったが、時間はもうすぐ丁度十九時になる所であった。



「今泊まってるのはお前だけだ。だから食事の用意は直にできる、部屋に荷物を置いたら時間内に来いよ」


「ぁ、分かりました」



さらっと経営難である事を告げつつ、この宿の主人は廊下の奥に歩いていった。

恐らくあちらに食堂があるのだろう。


鍵のタグの数字を見るに、俺の部屋は多分二階だ。

カンテラの薄暗い灯りを頼りに、手すりが欠けてて安全基準が満たされていない階段を上がって行く。

傍から見れば明らかに肝試しにしか見えないであろう。


部屋は上がった所にすぐにあり、時計もまたそのすぐ近くの壁に飾ってある。

ふむ、位置的に当り部屋を振り当ててもらった様だ。

しかし、他の客が居ないのに何故一階ではないのかが気になった。

それとも一階全ては宿の主人の生活スペースなのかもな。


立て付けが少し悪い部屋の扉をあけて、カンテラを掲げつつ部屋に入る。

部屋の中は一室のみ、他に続く部屋の戸はなく、唯一この部屋を別の空間へと繋いでるのは入り口の扉と奥の窓だけだ。

ベッドは右側の壁際に二つ並んでおり、左側の壁際には中の綿が飛び出しだソファーが一つ、部屋の中央にテーブルが一つとシンプルな物だ。



「……思ったよりは、全然まともだな」



中央のテーブルには箱が置いてあった。

カンテラを横に置き、中身を覗くとカンテラに使うであろう予備の蝋燭が幾つかあった。

とりあえず、今はまだ変える必要は無さそうなので箱を閉じる。


カンテラの位置はどうやらテーブルの上で問題ないようだ。

乏しいが、薄っすらと部屋全体を照らしてくれている。


恐る恐るベッドに腰掛ける。

うん、堅いね。全然弾力と言うか柔らかさはない。

まぁ、この廃墟の中に羽毛布団とウォーターベッドが用意されていたら違和感丸出しだがな。

とにかく、変な臭いがしないだけまだマシだろう。

とりあえずどんな部屋かは大体分かったので食堂に向かうべく腰を上げる。


正直な所、腹具合がもう限界近い。

ただこの荒れ果て具合の町中で、一体どれ程の食事が提供される物なのだろうか……。


一つの不安はあったが、そんな事を気にしている場合ではなかろう。

主人は荷物を置いてこいとは言ってたが、唯一の命綱であるボタン全部がこの鞄の中に入っているのだ。

動きを阻害する物でも無いし、このまま身に付けたまま食堂に向かおう。


所々床に置かれたカンテラの灯りと、手持ちのカンテラの灯りだけではやはり暗い。

距離はそんなに無いはずなのだが、警戒して移動してしまう所為で遠く感じてしまう。


一階の扉は殆ど閉まっていたが、一つだけ開いていた扉があったので覗いてみる。

六人ぐらいが囲めそうな長方形のテーブルが二つ、そのテーブルを囲める様に長椅子が四つ、それと奥にキッチンカウンターがある。

そのキッチンの中に宿の主人が見えて、少し体がビクついてしまった。不甲斐ないでござる。



「来たな、適当に座れ。もうできる」


「あ、どうも。失礼しま~す……」



何となく、カウンター席ってのは俺は嫌いなので長方形のテーブルに足を進めた。

待ってる間、少しでも俺が口を通す物の正体を探ろうと臭いを嗅いでみたのだが、主人が何を作っているのか全く分からない。

焼く音はせず、煮込んでる音がするのでスープ系だとは思うのだが……。


と、部屋の隅に台が置かれているのに気付いた。

その上にはバケツとコップが置かれている。

席を立ってバケツの中を覗く、なんとなく予想できてたが、中には水が並々と入ってる。

どうやらセルフサービス形式の様だ。



「あの、此処の水って飲んでいいんですか?」


「……ああ、食事代に含んではいるが。飲みすぎないでくれよ」



主人は皿に食事を盛りながら答えてくれた。

とりあえず、その場で試しに一杯飲んでみる。

試しに、なんて思ってたが一度口をつけてしまうと止まらなくなってしまった。

自分で感じるよりよほど喉が渇いていた様だ。


一気飲みしてしまったが、味に変な所があるとすれば少し鉄臭いくらいだろうか。

気にしても仕方ないし、そのままコップに並々と水を掬いながら席に戻ると、丁度宿の主人が食事を持ってきてくれてる所だった。



「ほら、三回までなら注ぎ足してやるぞ」


「……ど、どうも、頂きます」



出てきた物はお粥であった。

ネギも味噌も無い、混じりっ気なしのお粥百パーセントである。

どこぞのイ○ゴ百パーセントと違うのは、ラブはなく、米のみって所かな……。

期待はしてなかったさ、する方がどうかしてたのさ。


まずい、くやしい、けど食べちゃう。パクンパクン。

だってお腹が空いてたんだもの……成長期なんだもん。

食事と言うよりかは、エネルギー補給をしている気分だ。

味に変化は無いし、その感想も仕方ないだろう。

あれ? 少し塩味がするぞ? あ、俺……何時の間にか涙を流してらぁ……へへっ。


何だかんだ思いながら、しっかり三回分お代わりしました。

今の状態でしっかり食事を取れる状況が何回あるか予測できんからな。


部屋に戻る前に主人に一ボタを支払って水を要求しておいた。

ついでにタオルか何か貸して貰えないか頼むと、テーブルを拭いていた布をそのまま渡された。

ここが元いた場所なら俺は主人から宣戦布告を受けた事になるのだろうが、この世紀末世界だとこれでも感謝すべき事なのだろう。多分。

主人が普通に水道からバケツに水を注いでいたのは少し予想外だった。

水道管とかは無事なのかね、ろ過とかされてりゃいいけど……。


バケツは重くは無かったが、水を零さないよう移動するのに少し手間取った。

部屋に戻って鍵を閉め、バケツをソファー近くの床に置いた。

カンテラをテーブルに乗せた所で、蝋燭が短くなってる事に気付いて溜め息を零す。



「そろそろ一息吐かせてくれよ、全くよぅ……」



予備の蝋燭を箱から出して、初めての作業に戸惑いながら何とか蝋の交換を終える。

今日は一体いくつの初体験を経験した事だろう、できれば一生体験したくなかったよ。


ソファーに腰掛けつつ、バケツを近くに引き寄せて布を取り出す。

そして今、台拭きで顔を拭くと言う初体験をしてみようと思う。

布をバケツに浸して水を全部汚す訳にもいかないので、手で水を掬って布に塗りこんでいく。


少し躊躇したが、一度布を頬に当て冷たさを感じてしまうと、その心地良さでもうどうでもよくなってしまった。

顔全体を拭って一息を吐く、流石に体を拭くには布が小さいし、予備の服も持ってないしで今日の所は止しておこう。



「…………ここって、どこなんだろうなぁ。宇宙生物共は俺に何をしたんだ……? もう帰れねぇのかなぁ~……」



答えを期待している訳ではないが、口に出さないと胸が張り裂けそうに辛い。


やる事も無く、俺は今日一日を思い返していた。

見た事の無いようなロボット、雲を衝くかのように高い尊厳としたビル群、そしてそれを囲む様にできた広大な金属で出来た壁。

弓さんが可愛い事、弦さんのクールっぷり、里津さんのナイフを振りかざした時の眼、初収入がボタン。

何よりも気になるのが、知らない場所なのに言葉は通じる事、そう通じてしまったのだ。



「未来の日本……なのかなぁ? うっわ……絶対そうだ。どうするよ…………」



頭に浮かんだ事をそのまま口に出してしまってたら、その考えが一番合ってしまった。

此処が剣と魔法の異世界とかだったら魔王を倒すとか、究極魔法でどうちゃらとかで帰る手段はありそうな物だが、こんなモヒカンが火炎放射器振り回してそうな世界では、元の時代に帰る手段などありそうもない。

だってボタンが通貨代わりだよ? どんだけ世界崩壊してるんだって話だよ。


一発逆転を期待するなら、またUFOに攫われるとかかね。

いや、今度は人類自体がいなくなった時代に送り込まれるかもしれん。


そもそも何をするにしたって、俺がどうこうできる事は何にもありはしないのだ。

ここまでくると絶望と言うか、何の気概も湧いてこないね。


ふと、今自分が抱いている気持ちが初めてではないように思えた。

そうだ、あの山堀デーだ。



「……っは~! マジかよ俺! あの時と一緒かよぉ! はははははは!」



あの頃は何も怖くは無かった。

例え山で迷おうが、腕に重りを落として骨折しようが、病室で一緒になった爺さんがブツブツ言ってようがだ。

毎日が新しい事の連続で楽しくて仕方がなかった。


そして今こんな状況に陥っているというのに、俺はこの状況を何処かで楽しんでいる事に初めて気付いた。

俺の芯は子供の頃から何も変わっちゃいなかったのだ。



「はー……そうだよな。嘆くのは俺らしくねぇ。何で忘れてたんだろうなぁ、この気持ち」



起こってしまった事は仕方ない、恐らく俺はもう元居た場所には帰れない。

此処で生きていくしかないんだ。


そう割り切ってしまうと、随分と気は楽になった気がする。

両親に恩返しができなかった事が少し気掛かりかな、子供は俺しかいなかったし、老後とか大変だっただろうな。

初収入で何かしてやろうとか思ってたが、俺の初収入はボタンになっちまったよ。



「もう寝るか……。やる事もねぇし」



小銭を入れたら見れるTVとかも無いしな。

窓の外の景色を見ようにも、隣のビルの外壁しか見えないし。


そうと決めるとベッドに横になる。

色々と考えるのは明日にしよう、今はただ疲れを癒したい。


明日は一体何が起きるだろうか。




最初は普通に弓さん達に泊めてもらうはずだったんですが、書いてる途中で

『あれ? 世紀末な世界でそれは少し楽勝すぎかな?』と思って変更しました。

結果的にはこの世界の文明レベルを、主人公に考察させる為のいいクッションになりました。行き当たりばったりですね、ふふ。

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