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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
39/105

風雲急を告げる

武市 詩江は拍子抜けしていた。

クースにある廃病院の危険度の高さは当然の事ながら知っていたのだが、今の所なんの危険にも遭遇せずに探索できているからだ。


しかし、武市は不可思議な光景を幾つか目撃する。

何かに押しつぶされる様にして壁にめり込んで機能を停止しているLG式や、何故か"廃車"の下で床に押し潰されている二機のLG式。

それ等に近寄って詳しく調べた結果、銃撃を受けた損傷は見られなかった。


スカベンジャーと言う集団は戦闘行為を極力避ける。

当然、いざ窮地に陥れば反撃はするのだろうが……こうも"激しく"はしない筈だ。


恐らく、これ等は沿矢が生存者を助ける為に行った戦闘の痕跡に違いない。

だが、幾らHAを装備していたとは言え余りにも……。


と、そこまで武市が考えを深めた時である。

彼女の視界の端で宮木が壊れたLG式の傍らに膝を着き、何かを漁っている様子が見えた。

武市はこれ見よがしに大きく溜め息を零し、宮木へ向かって憮然とした口調で語りかける。



「宮木伍長……みっともない真似は止めないか。我々の目的は他にあるだろう?」


「"武市大尉の"……でしょ? こちとら安月給で扱き使われてるんです。少しばかりの金策は見逃してくださいよ」



とは言いつつも宮木は素直に武市の注意を聞き入れ、幾つか無事な部品を手にすると直にLG式を漁るのを止めた。

腰に巻いたベルトポーチに部品を納めながら、宮木は独り言を呟く様な小さい声量で意見を吐く。



「さてはて、これからどうします? 木津に助けられた嬢ちゃん達は一階に降りてから木津と合流したと言ってました。奴の事を調べるなら、このまま一階を重点的に調べた方がいいんでしょうが……。百式がうろついてる可能性もあるんだよなぁ……」



最後にそう怯えを含んだ言葉を漏らし、宮木は周囲に向けて素早く視線を走らせた。

それに釣られ武市も周囲に視線を向けた所で、彼女は薄汚れた廊下を僅かに紅く色付けしている何かに気付く。

すぐさま彼女はその紅い何かがこびり付いてる場所へ近寄り、軽くソレを手で擦る。すると紅い何かはポロリと呆気なく床から剥げた。



「血……か? ふむ」



こうも素直に剥げるとは、この血痕はまだ真新しい物に違いない。

入り口付近でも目立つ血痕は見つけたのだが、あれは恐らく大怪我による流血の物であるとすぐに分かった。

しかし、ここにあった血痕は流星を描いたかの様に細長く描かれた物であり、傷口から流れ出たと言うよりかはまるで何かに振るい落とされたかの様な――。


武市がそう推測しながら顔を上げると、すぐ近くの床にまた血が垂れている事に気付いた。

いや、良く目を凝らせば血は点々として廊下の所々にこびり付いている。


武市はニヤリと大きく歯を向く様な笑みを浮かべ、宮木に話しかける。



「宮木伍長、手掛かりを見つけた。私がポイントマンとなるから、貴方は後方警戒を厳にしながら着いて来てくれ」


「いいですけど、俺は絶対に上の階には着いて行きませんからね。そこん所は頼みますよ?」



宮木はそう念を押しながら素直に武市の背後に回る。

自身の背後に宮木が回った事を確認し、武市は慎重に歩を進めだした。


二人が履いているコンバットブーツが奏でるコツコツとした小気味の良い音は見事に合わさり、聞く者がいれば聞き惚れてしまいそうな響きだ。

これでも最小限に気をつけて音を低くしているはずなのだが、あまりにも病院が静か過ぎてその音さえ大音量の様に宮木は思えてしまう。

時折、廊下の両端に設置されているセンサーの赤外線が通る極小の穴を武市は目ざとく見つけ、注意を促してくる。その度に宮木は武市の注意深さに舌を巻く思いであった。



――壁に配属されても、雌豹の牙は抜かれてはいなかった。



宮木はそう感嘆し、目の前を歩く武市の背中に尊敬の眼差しを向けた。

武市が壁に配属されて既に二年が過ぎている。しかし、己の技量を磨く事を怠る様な真似はしなかったらしい。


壁に配属された軍人は当然と言うべきか、メイン居住区と外居住区を行き来できる様になる。

大抵はメイン居住区の環境の良さに気を抜いてしまい、自らの鍛錬を少しづつ怠る様な者が多いのだが、どうやら武市にはソレは当て嵌まらなかった様だ。


いや、それとも武市は元からメイン居住区の生まれだった可能性もあるか?

彼女とはそういうプライベートな会話をした事がない宮木はふと疑問に思った。

しかし、バイタリティ溢れる彼女の生き様はスカベンジャーやハンター達にも勝るとも劣らない物だ。

その事を考えると、やはり劣悪な環境で育った可能性が高いとは思うが――。


そのまま宮木が危うく思考の奥底に意識を委ねてしまいそうになった所で、武市は背後に手を向けて歩みを止める。

宮木は素早く気を取り直したものの、今まさに自分が犯しかけた失態を深く恥じた。


これはいかん。帰ったら暫く禁酒でもして気を引き締める必要がある。

数人とは言え、自分は部下を従える立場だ。この様な不注意を起こさない為に気をつけるべきだ。

宮木は深く反省し、己の心中に向かって自重を促した。


武市は勿論の事、背後に居る宮木の反省に気付かぬまま血痕が途切れた場所を注視している。

三つのエレベーターが並んでいる両開きの扉。その内の一つは開け放たれており、中は暗闇に包まれていた。

しかも、その場にあったのは血痕だけではなかった。

エレベーターとは反対側の壁に転がり落ちている物体は、一見するとタダの鉄屑の様にも見えたが武市はソレを見逃す様な馬鹿ではない。


武市はその物体に近づくと片膝を着き、左手でY6のストック部分を床に着けて安定させながら右手でソレを拾い上げる。



「LG-61式? 頭部の一部か……? いや、違う! これは……!」


『ちょ!! た、武市大尉!! 声を潜めて下さいよ……!』



宮木が武市に向かって小声で注意を促すも、彼女の興奮は収まらない。

武市は思わず銃から手を離して勢いよく立ち上がると、すぐ右手の掌に乗せた物体を空いた左手で指差しながら宮木に見せつけた。



「これを見ろ!! 伍長!! ここのバイザー上部部分に刻み込まれた数字を! 途中で千切れてはいるが『10』とまでは残っている!! 後に続く数字なんて……もう言うまでもなく分かるだろ!?」



武市の勢いに飲まれ、宮木は首を竦めながら指差された部分を凝視した。

確かに、彼女が言う様にナンバーが刻み込まれてはいるが……。


宮木は首を傾げながら、ポツリと疑問を口にする。



「……ところで、コイツの"持ち主"が見当たらないのは何でですかね? 戦闘がここで起きたと仮定しても、痕跡が全くありませんぜ?」


「む……確かにそれはおかしいな。他に何か残ってても良いはずなのに……」



近くの壁には銃痕らしい穴は無く、所々朽ち果てて僅かに欠けているだけだ。

床にもコレと言って目立った損傷は見当たらず、武市が追いかけてきた血痕が点々として数滴残っているだけ。

それすらも、遂に此処で途切れているではないか。手掛かりが残してくれたのは武市が持つ"百式らしき"部品の一部だけである。


いや、もうコレを見つけただけでも十分ではないだろうか?

宮木自身とて、これ等を見つけただけで沿矢への疑問を確かに抱きつつあるのだ。



――後はヤウラに帰ってコレを持ち出し、木津に事情を聞いて終わらせませんか?



宮木がそう提案しようとした直後、武市は不意に眉を寄せながら開け放たれているエレベーターの扉に近づいて行く。

彼女はそのままエレベーターシャフトを覗きこむ様にして身を乗り出すと、直に慌てた様子で後ろに下がってきた。



「ちょ!! た、大尉!!」



宮木はすぐさま武市の背中に手を伸ばしてバランスを崩しかけた彼女を支える。

武市は荒く息を吐きながら、震えた指をエレベーターシャフトに向けた。



「み、宮木伍長。エレベーターシャフトが遥か先の地下にまで伸びていた!! あ、あんなに高いなんて反則じゃないか……」


「地下ですかい? 遥か先って、そんな大袈裟な……」



顔を青く染め上げながら震え声でそう告げた武市の意外な一面に保護欲をかき立てられた宮木。

彼はそんな自身の思いを悟られない様、茶化す口振りで武市へ言葉を返しながらエレベーターシャフトを覗き込んで絶句した。


深淵、そう呼んで良いほどに暗闇が支配する深さ。

ずっと注視してしまえば、思わず吸い込まれそうな程の雰囲気。

寒気が走るシャフト内の冷たい空気が一段とその雰囲気を強くし、宮木の恐怖心をこれでもかと煽り立てた。

気付けば宮木自身も武市と同様に震える足取りで後ろへ下がってしまう。


対する武市は少し冷静さを取り戻しつつあった。

彼女はY6からマガジン取り出すと続けてマガジンに装填されていた弾も取り出した後、それをエレベータシャフトに向かって投げ込む。

暗闇にスッと溶け込んでいった黄金色の弾は数秒の沈黙後に、僅かに地の底から音を響かせて自身の役目が終えた事を二人に告げた。


宮木と武市の両名は思わず顔を見合わせる。

二人の脳裏に過ぎった考えは、寸分違わずに同じ事であった。



――この地の底には何かがある。



しかし、ソレを調べようと言い出すまでには少しばかり時が過ぎる必要があった。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






俺は今まさに里津さんとラビィの間に挟まれる形で並んで歩みを進め、組合所へと向かっている最中だ。

そして今の俺の格好はコレでもかと言う程の重装備である。


里津さんはなんと俺の身を深く案じてくれて、まずグレードⅤの防弾ベストを用意してくれた。

とは言うものの、これがまた凄くゴツイ代物なのだ。


前面には勿論の事、背面にも特殊な合金プレートを入れたこれは里津さん曰く『戦車の砲撃にも一撃なら耐えうる』と述べた。

まぁ、使用者の体は確実に巨大な衝撃に耐え切れないらしいが、"幸い"にも俺は普通ではない。

迫田が放ったHAロケットパンチに生身で耐えた俺なら、このグレードⅤの防弾ベストを着てさえいれば生半可な武器でダメージを負う事はないだろう。


俺的にはこれだけでも十分だったのだが、里津さんは次々にプロテクターやらヘルメットを用意して俺に押し付けてきた。

お値段、何と迎撃戦で手に入れた部品全部!! いや~命を買う値段と思えばお買い得ですなぁ。

そもそも部品全部のお値段を結局まだ聞かされてないけど、まぁ大した問題ではないのかな?

何処となく用意された装備一式が埃を被ってた様に見えたけど、それは俺の気の所為ですよね? 里津さん!!


ちなみにフル装備した俺の体重を量ろうと思い至り、体重計に乗ると軽々と百十kgを超えてしまった。

まぁ武鮫も装備してるし、当然の事と言えばそうなのだろうが……道行く人には驚愕の目で見られてしまう。


今の状況的には俺は両手に花の状態なのだが、花の間にフルアーマーガン○ムの如く重武装な輩がいるのだから、花達よりも目立ってしまっている始末だ。


少しでも目立たない為に俺は牛歩の如くゆったりとした歩みで組合所へ向かおうかと思ったのだが、二人が俺の両腕を掴んで早足で歩くものだから俺もそれに着いて行くしかなかった。


俺がそれとなく里津さんにその事を訴えても、『もう怪力どうこうを隠すのに気を使ってる状況じゃあないでしょうが!!』と一喝されてしまった。

すっごい正論ですね。今では俺は借りてきた猫の様に大人しくしている有様です。


そうこうしている内に組合所へと辿り着き、俺はまず受付にいる田中さんに事情を話す。

彼女も最初はたちの悪い冗談かと思って笑い飛ばしていたのだが、フルアーマーな俺の両脇に並ぶ里津さんとラビィの冷たい視線を受けて徐々に笑い声を小さくしていった。


田中さんはようやく俺を取り巻く深刻な状況を認識すると、クースの件でお世話になった応接室へと案内してくれた。

次に彼女は五階長の御川さんを呼んでくると俺達に断りを入れ、部屋から素早く小走りで抜け出していく。


里津さんは物珍しそうに部屋を見回しながらソファーに腰を落ち着け、銀色に輝く皿の中に置かれた包み菓子へと手を伸ばす。

俺は里津さんの対面のソファーに腰を落ち着かせ……ようとして盛大に腰が埋まりかけた。じゅ、重量が重すぎたか?

里津さんはそれを見ると、口に含んだ菓子を僅かに噴出しながらケラケラと愉快そうに笑い出した。あ、悪魔たん……。


俺は仕方なくソファー脇の床に胡座を掻き、何とか休息を取る。

ラビィは入り口近くに立ち、瞼を伏せて集中しているかの様に沈黙を保っている。

以前言っていた『センサー』なる物を駆使して周囲の状況でも把握しているのかな? よく分からんが心強い雰囲気である。



「うーん、組合所の中って中々立派だったのねぇ。話には聞いてたけど、やっぱり実際に体験するのが一番よねぇ」



里津さんはソファーに背中を預けながら背筋を伸ばし、そう感想を述べる。

特に反応しなくてもいいかとも思ったが、する事が無かったので俺は相槌を打つ事にした。



「俺も此処へ登録しに来た日は驚きましたよ。色々と……」



あの時は大変だったなぁ。

イキナリ変なおっさんに絡まれるし、銃で撃たれるし、白い部屋に監禁されるし、重要人物のキリエさんと突然出会っちゃうし……。


本当に碌な目に合ってないよな、俺。

今回だってそうだ。女の子による愛の告白じゃなく、妙齢の美人さんから殺害予告を先にされる様な人生を歩むなんて予想外もいい所だ。ちくしょうめ。


俺が自分の人生に不満を抱いていると、ラビィが唐突にスッと手を伸ばしてドアノブを押さえた。

突然ラビィが起こした意味不明な行動に俺が唖然としていると、ドアからノック音が響き渡った後で御川さんの困惑する声が聞こえて来た。



『む……むぅ!? た、田中君。君は安全の為に鍵でも掛けたのか? ビクともしないんだが……』


『えっ? そ、そんな事してませんよ!! それに応接室の鍵なんて私は持ってませんし……』



ドアを開けようと御川さんが外で奮闘しているのか、ガチャガチャとした音が響く中、俺は小声でラビィに話しかける。



『ラビィ!! 何してるんだ!?』


「ソウ君の身の安全を守る為、ラビィは警戒lvを引き上げたのです。通常時が二で、今は最高クラスの五です。外部からの侵入者には最大限の注意を払う必要があります」



部屋の外に他人がいるからか、久しく呼ばれてなかった俺のあだ名をラビィは口にしながら説明してくれた。



『そ、そうか……。ありがとうな、ラビィ。けどさ、今は御川さんと話す必要があるんだよ。頼むから扉を開けてくれないか?』


「……了解しました。では、念の為にラビィの後ろへ待機してください。ソウ君の待機を確認後、ドアノブから手を離します」



うーむ、以前は少しこういう行動には煩わしさを感じていたのだが、今ではラビィのこういう所が何だかとても頼もしく見えるぞ。

まぁ、Aランクの凄腕に殺害予告を受けたんだからな……。それも当然か。


俺は素直にラビィの背後に回ると、彼女の背中を軽く叩いて準備を終えた事を教える。

そうこうしている内に、ドア向こうで何やら状況が変化しつつあった。



『田中君。悪いが少し代わってくれないか? 私は応接室の鍵を探してくる様に部下のPDAに連絡を入れるから、その間だけ頼むよ』


『あ、わかりました』



御川さんが扉の開閉を諦め、ドアノブの音が止んだと同時にラビィは手を離して後ろに下がってしまった。

その直後、すぐさま扉が少し勢いをつけながら開いてしまい、田中さんが少し前屈みになりながら部屋に飛び込んでくる。



「きゃ……! も、もう!! 何なの? 立て付けが悪かったのかしら」



田中さんはプンスカと可愛く腹を立てながら、ドアに軽く蹴りを入れて鬱憤を晴らしている。

部屋の外では御川さんがPDAとやらを耳に当てながら口を呆然と開いていた。

彼は直に気を取り直し、PDAを懐に収めながらポツリと呟く。



「田中君……君は力が強いんだな」



ねぇよ、何だその勘違いは。


俺は緊急事態に陥ってると言うのに、今の光景を目の当たりにして笑い声を抑える事ができなかった。

よく思い返せば、久々にこうして思いっきり笑う事ができた気がするな。



――願わくば、どうか穏便に事態が収束する様にと、俺は心中で強く祈った。







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