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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
29/105

敗者の背中

9/5 サニア=サリアに直しました。

誤字や脱字も修正しました

迎撃戦は思ったより早く終わったのだが、逆に針通しと言う行為で時間が掛かるとは予想外な展開であった。

俺はこの後どうなるのかと、質問に答えてくれていた金髪の同業者に疑問を飛ばす。

彼は嫌な顔一つ見せなかったが、代わりに五ボタ払えば説明してやると応えた。


五ボタってアンタ……。いや、まぁ五ボタあれば芋とかネズミ肉くらいは買えるけどさ。

俺は素直に五ボタを取り出して彼に渡すと、駐屯地に戻る道中で説明してくれた。


金髪の同業者が言うには、迎撃戦が終わればまず軍が編成した回収班なる部隊が無人兵器の部品を回収し、後々に駐屯地で部品の分配をするらしい。


組合所に所属してる俺達は無事な部品だけを分配し、軍は回収作業の手間や塹壕を貸し出した代金として、壊れた部品や穴が開いた装甲板を持っていくのである。


なんでもメイン居住区には宮木伍長も言っていた《プラント》なる物が存在し、そこで壊れた部品を修理、もしくはリサイクルできるらしいのだ。


そういう壊れた部品も全く金にならない訳ではないが、無事な部品に比べるとやはり大幅に値は落ちるし、売り捌くのも楽ではない為彼等も納得している様だな。


聞いてて思ったのだが、もしかしたら俺がレイルガンでスパイダーの胴体を吹き飛ばしでもしていたら、俺達の分配品は足だけとかになってたのか? そう考えると上手く足だけ破壊できて運が良かったなぁ。とは言え、あんな状況では俺がそんな事情を知っていたとしても手加減できたとは思えないがな。


いや、そう言えば金髪の人も足を吹き飛ばしてたな……。俺が足を吹き飛ばしたのは偶然だったんだけども……。まさか、彼は狙ってやったのだろうか? だとすると凄いよね。


雑談を交わしながら同業者達と駐屯地へと向かっていると、突如として手を叩き合わせた乾いた音が聞こえてきた。

何事かと音が聞こえて来た方向に視線を向けると、訓練兵達を差し置いて塹壕から一人抜け出した武市さんが拍手を此方に向かって送っているではないか。



「素晴らしい!! うむ、やはり組合所に所属する諸君の働きはこのヤウラに多大な貢献をしてくれているのだと、この眼を通して改めて実感させてもらったぞ!!」



そう芝居掛かった口調で俺達に賛辞を向けると、武市さんは一人で納得するかの様に細かく頷きを繰り返す。

唐突な賞賛ではあったが彼女の様な美人さんに褒めて貰えたのは素直に嬉しいのか、同業者達は『へへっ』等と口に出しながら頬や後ろ頭を掻いて満更でもない反応を見せる。


何が『へへっ』だよ。迎撃地点に案内してくれた兵士を無視した態度とはえらい違いだな。

俺的には武市さんに捕まってしまい、どこぞのハム太○の様に『へけっ』てな具合である。


まさか此処で彼女に捕まるとは予想外であった。てっきり彼女は俺が一人になった頃を見計らって声を掛けてくるのではないかと予想していた。


だが、彼女は予想に反して大胆にも迎撃戦直後にすぐに絡んできたではないか……。俺の考えはお子様カレーより甘口だった様である。ちくしょうめ。



「ほら、お前達!! 何時までも鼠の様に狭い所に籠もってないで早く上がって来い。組合所の勇士達の中には、貴様等とそう歳の変わらん者もいるようだぞ?」



武市さんが塹壕内に居た訓練兵達に声を掛けながら、俺へと刺す様に鋭い視線を飛ばす。

弦さんに勝るとも劣らないその睨みを受け、俺は何時彼女が迫田の事を問い詰めてくるのかと心底肝を冷やしてしまう。


訓練兵達は武市さんの言に従い、素直に塹壕から這い上がってくると直に綺麗に横一列に並んでみせる。

ただ、彼女の言葉を聞いたお陰で訓練兵全員の視線が俺へと突き刺さった。


確かに同年代である事を確認したからか、それとも武鮫やレイルガンを装備している事に驚いたのかは分からない。

だが、訓練兵達の表情には確かに目に見えて変化が起きた。素早く瞬きをして動揺する者もいれば、瞬き一つせずに俺を凝視する奴も居る。


あれれぇ~? おかしいぞぉ~? 目を潤ませ顔を赤らめながら俺を見つめる美少女の一人ぐらい居てもいいはずなのだが、何処にも居ないな。

ふむ、俺の平凡フェイスが嫌になってくるね。イケ面になれる顔装着用HAとか無いのかな? あったら探索を頑張るんだけど。


俺が新たな計画を脳内で組み立てていると、武市さんは一歩前に出て此方に言葉を飛ばした。



「この通り、私は今背後に居る訓練兵達を受け持っており、彼等を一人前の兵士として育て上げたい気持ちがある。そこで、だ。厚かましいお願いではあるだろうが、諸君等の経験談を彼等に語って貰えないだろうか? そうなれば訓練兵達の気構えも一層と強固になってくれるはずだ。勿論、貴方達の時間を長々と奪うつもりは無い。回収班の作業が終わるまでの間でいいのだが……どうだろうか?」



武市さんは言葉を紡ぎながら、最後に僅かであるが顔を横へ向けて流し目でお願いする。

元々切れ目が目立つ瞼から覗くその視線は大変に威力があり、周りの同業者達のハートを打ち抜いた様だ。

彼等はまるで事前に打ち合わせていたかの様に声を揃えて了承の返事をし、だらしない表情を浮かべている。


此処で俺だけが『僕はママが作ってくれたアップルパイが待ってるから、先にお家に帰ります! 門限もあるし!!』とか言えたらどんなに爽快な気分を味わえるだろうか。


勿論、そんな評価がズタボロになりそうな言葉を現実で吐く勇気は今の俺には無い。


とりあえず駐屯地に向かってから話を伺うとの武市さんの言葉に従い、歩みを再開する。

足取りは軽くウキウキした表情を見せる同業者達を他所に、俺はただ一人暗い気分でその後をトボトボと着いて行くのであった――。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






駐屯地に戻り、スパイダーの情報を受け取ったパイプテントへと戻ってくると、設置されていたパイプ椅子を幾つか前へと動かして同業者達と並んで座る。


訓練兵達と武市さんは対面に並んである元々設置されていたパイプ椅子に座り、こちらに向き直る。

そうすると、まるで記者会見を受ける俳優気分を味わえた。違いがあるとすれば彼女達との間にテーブルが無い事くらいか。



「貴重なお時間を割いて頂き、改めて感謝を申し上げます。さて……まずは誰からお話を伺いましょうか……?」



武市さんはそう言うものの、明らかに視線は俺を向いているんですが。少しは自重してくれませんかね? 僕のガラスな精神が持たないよ。


このままだと俺からトークを開始する破目になりそうであった。だが、この世界にもKYな輩が存在したようであり、一人の同業者が椅子から腰を上げて高らかに名乗りを上げた。



「仕方ないな、まずは俺が語ろう! 俺の名前はルフ・コドレス。クラスはE+、ポイントは51021で先日昇級したばかりだ」



名乗りを上げたのはスパイダーに先制攻撃を回避された男であった。

彼は針通しでも真っ先に名乗りを上げていたな……目立ちたがりなのだろうか? とは言え、俺的には助かった。


俺の優れた聴力が武市さんが放った僅かな舌打ちを捉え、少し冷や汗が浮かぶ。

だが、彼女はすぐに穏やかな笑顔を浮かべるとルフと名乗った男に感謝の意を伝える。



「真っ先に話をして頂ける様で感謝を申し上げます。では、手短にどうぞ」



武市さん、本音が零れてますよ。『手短に』ってアンタ……。

だが、ルフさんはさり気に漏れた武市さんの毒に気付かずに話を始める。



「ああ!! アレは俺がEクラスに昇級したばかりの頃の話だ。Eクラスは中級の入り口に差し掛かってる時期と言われていてな、俺としてもようやく生活が安定し始めた頃だった。だが、欲ってのは怖い。スカベンジャーに成った当初は『ただ、食い繋ぐ事ができればいい』そう思ってた筈なのに、俺は気付けば順調に事を運べていた事実に油断してしまったのか、ようやく馴染んできていた近場の探索場所じゃなく、探索場所の一つである廃都市ドノールへ初めて探索に出向いたんだ」



意外にも、ルフさんの話は引き込まれるモノがあった。

彼から視線を外し、チラリと訓練兵達へと向けてみれば僅かに前へと体を乗り出している者も既にいる。



「それだけならまだいい。だが、俺は愚かにもたった一人でそのまま新しい場所で探索を開始してしまった。一人で探索すれば確かに物資を独り占めできるが、その分危険も大きくなる。 小さな町とは違い、都市部の路上は都市全体を徘徊しているCG式と言う奴がいる。 俺が今まで探索していた探索場所なら廃墟内部だけを気をつけていれば良かったんだが、都市部だとCG式が居る所為で一度都市に入り込んでしまったら気が休まる暇が無かったんだ。もし俺があの時誰かと組んでいたなら、もう少しやり様はあったんだろうがな……」



ほ~、CG式かぁ。ソイツは厄介ですな。

確かにクースでも街中では何の危険にも遭遇しなかった。

だが、都市部だとCG式と言う存在が彼方此方に居る為、探索難易度が大幅に上がってしまうらしいな。



「俺は少しでも物資を掻き集める為とは言え、何時もの探索場所に向かう感覚で最小限の装備と弾薬しか用意してなくてな……。襲い掛かってくるCG式の対処に手間取ってしまい、気付けば弾薬が底をついちまった。普段持ち歩いてるボタも最低限の分しかなくてな、キャンプで補給もできなかった。暫く、己の無力さを痛感した日々を過ごしたよ。俺は結局、一度も廃墟に入り込めないままドノールでの日程を過ごし終えてしまったんだ。要するに、俺が何を言いたいかと言うとだな『自分の力を過信しすぎるな』って事だ。とは言え、俺と違ってお前達は頼りになる仲間達が居るだろう。自分の手に余る事態に遭遇した時は素直に助けてもらえ。意地を張りすぎても、俺の様な無様な結果になるだけだろう……以上だ」



お、おぉ!! なんか普通に良い話じゃない? 教訓を学べる良い感じの内容である。

俺としても少し感銘を受けたぞ。ただ、彼が真っ先に攻撃を外した事実が無ければ満点だったがな。

あれってさ、やっぱまだ自分の力を過信してたんちゃうの? ねぇ? お兄さんにコッソリ教えてよ。


冗談はさておいて、俺は素直にルフさんへ拍手を送る。

それに釣られてか他の人達も拍手をルフさんへ送り、ルフさんも満更ではない様子で片手を上げてソレに答えていく。

最初はどうなる事かと思ったが、パイプテント内にはどことなく和やかな雰囲気が流れ始めていた。



「貴重な体験談を話して頂き、感謝します。では、次は……」


「俺が話そう。と、その前にまず自己紹介をしようか、俺の名はオリバー・フィールズだ。クラスはDで、ポイントは113502。コドレスの話の内容にケチをつけるわけじゃねぇが。やっぱり、組合所の《勇士》としては勇ましい体験談も語らんとな」



武市さんがまたもや俺に視線を向けようとした途端、今度は塹壕で仕切っていた黒人の男性が名乗りを上げる。

勇士、と口にしてチラリと武市さんに視線を向ける辺り、彼女を意識しているのがバレバレである。純情な男子中学生かっ!!



「……そうですか。では、始めて下さい」



そう言った武市さんの表情には軽く口角の端を上げた笑顔が張り付いているのだが、その端が僅かに引くついてるのは僕の気のせいであってほしいな。


その内話を始める相手に『三行でお願いします』なんてネット住民の様な無茶振りをしてこないだろうな?



「そうだな……。都市部の危険性は先程コドレスが話してくれたお陰でなんとなく分かってきただろう? 実は都市部にある廃墟内部のセキュリティも段違いに危険なんだ。俺はある日、チームを組んでる仲間達と……」



その後も一人が話を終えると俺以外の各々が名乗りを上げ、武市さんの表情から何かが抜け落ちていく展開となった。

俺がどこぞのバラエティの大御所なら『すべらんなぁ~』と相槌を打つぐらいには面白いし、為になる話も多かったのだが、武市さんは全く興味が無かったみたいである。


でも、訓練兵達も『おぉ』とか口に出るくらい何時の間にか夢中になってたし、体験談聞けた事は彼等にとって良い経験だったのは間違い無い筈だ。


しかし、そうこうしている内に遂に六人目の話が終わり間近であり、俺の出番が刻一刻と迫ってきているのを感じ取って焦りが浮かぶ。



「……で、俺は言ったんだ。『おい、ボブ!! それは銃じゃなくて、チョコバーじゃねぇか!!』ってな!! 愉快な奴だろ? だが、こういう仲間がいると気分が盛り下がることも無く、探索を長く続ける事が出来る。ストレスは集中力を奪うし、下手すりゃ仲間割れなんて事態も起こす。組む相手の腕も確かに重要だが、それ以上に人格が伴っていないと駄目だと俺は思う……以上だ」



最後の同業者が話した内容も上手くコメディとシリアスな部分が混ざり合ってて楽しめました。

いやー、良かった。じゃあ、そろそろお開きの時間かな? ママのアップルパイも冷めちゃってるだろうし。


俺的にはもう大満足で映画のスタッフロールまで見終えた気分なのだが、当然そこで話は終わらない様だ。

武市さんはようやくこの時が来たと言わんばかりに、疲れた笑みを浮かべながら此方へ向き直る。

当然、話をしていないのは俺だけなのだから訓練兵達はもとより、同業者の視線も俺へと向く。


俺は溜め息を零したい衝動を押さえ、ゆっくりと口を開いた。



「……俺の名前は木津沿矢です。えー必然的に俺が話を締める感じになってしまいましたが、見ての通り俺はまだ若造です。クラスもGでポイントは580と経験も浅く、皆さんの期待に副えるような話ができる自信はあまりありません。と、まぁ後でクレームが付けられないように予防線を張っておきますね」



俺が最後にそうおどけて言うと経験談を聞いて大分緩やかな空気になっていたお陰か、訓練兵達の間から少し笑い声が響く。

とりあえず何を話そうかと少し思考を探らせていると、武市さんが突然声を上げた。



「なるほど。君は経験が浅いのか……。しかし、君の若さで組合に所属した経緯や、そのHAやレイルガンをどういう事情で持つに至ったかなど興味が惹かれる部分が多い。そこで、だ。よければ訓練兵達や私の質問に答える形式で話を進めないか? どうだ? お前達も同世代の彼に興味があるだろう!?」


「「「「「はい!! 武市教官!!」」」」」」



テント内に響き渡る大声量の中、俺は表情を引き攣らせる事しかできない。

明らかに武市さんは最初からこの流れに持っていって俺から情報を探るつもりだった様だ。

訓練兵達の表情は活き活きとしており、誰もが目を輝かせている。


ここで俺が断りの一言でも放とうモノならば、組合所内では体験談を語った同業者が俺をチキン野郎と罵り、軍では訓練兵達の間で話の最後に全てを台無しにした爆弾男として語り継がれそうだ。


そして最終的には俺は稀代のKY野郎としてヤウラに名を轟かせそうである。

中学時代のとある日にブルマ廃止を止める為に生徒会長に立候補し、全学年の女子と先生方に蔑んだ眼差しで見られた貴重な経験を持つ俺でもそれは流石に勘弁です。


まぁ、流石に皆の前で武市さんの口から『迫田を倒したのは君か?』なんて質問は飛んでこねぇだろ。

ここは一つ覚悟を決めるしかないな。今は『どうしてこうなった?』と脳内で愉快なダンスをする前に、此処を乗り切る事に全神経を集中させるのだ!!



「はいはーい!! じゃあ、私から質問してもいいかな?!」



突如として大声を張り上げ椅子から腰を浮かしたのは、ゴールドブラウンの髪がヘルメットの端から少し覗き見える女の子だ。

とは言え椅子から立っても、背格好が心なしか小さく見える。あんまり背が高くないのかな? 150cmちょっとくらいだと思う。


ただ、制服の胸部分がやけに張りがあって大きく見える気が……。いや、間違いなくデケェ。

まさか元の世界でもお目に掛かれなかったロリ巨乳に崩壊世界で出会うとは……。思わず手を合わせて拝んでしまいそうである。



「……サリア。貴様は相変わらず落ち着きがないな。少しは自重しないか」



武市さんが諭す様にそう言うものの、『よくやった』と言わんばかりに口角の端を持ち上げている。

確かにサリアと呼ばれた女の子のお陰で、俺が質問に答えると言う流れは確立されたと見てもいいだろう。



「えへへ……。すみません」



サリアちゃんは花の様な笑顔を浮かべてそう謝罪する。

幼さがまだ残る顔でそんな締りがない表情を見せると、とてもじゃないが軍に所属している人物とは思えないな。

俺から見ると彼女は学校の花壇に水をやりながら、お花に赤ちゃん言葉で話し掛けてそうなタイプだ。

あくまでそのイメージは俺のアニメ脳に犯された主観である。もう駄目かもしんねぇな、俺。


俺が自分の脳に不信感を抱いていると、サリアちゃんは早速質問を飛ばしてきた。



「じゃあ、そのHAは何処で手に入れたんですか?」



ふむ、やはり武鮫に関する質問が飛んできたか。

HAは大変に珍しい装備みたいだし、全員の興味を惹いてたみたいだからな。その質問が来る事に驚きはないぜ。

俺は全員の眼が届く様、武鮫を持ち上げて宙に翳しながら質問に答える。



「実は、このHAは俺のじゃないんです。知り合いの人が俺のある事情を見かねて貸してくれたんですね。型番なんかは削れてて見えなかったし、持ち主も名前を付けてなかったので、俺はこの前腕部分にある連なった装甲板から鮫肌を連想して、武鮫という名前を付けて呼んでいます。あ、ちなみに鮫ってのは海に居る生き物で何百って種類がいるんですが、人を襲う獰猛な種類は実は数十種類のみなんですね。それと鮫には獲物が放つ体内の電気信号を遠くから受信して狩りをすると言う特殊な能力があって……」


「え、えーっと。は、はぁい! 分かりました!! 私からの質問は以上です!!」



サリアちゃんは突然俺の話を打ち切るかの様にパイプ椅子へ素早く腰を下ろしてしまった。


ふっ、勝ったな。里津さんですら俺の鮫談義に五分として持たなかったからな。

そう言えば里津さんにクースから帰ったら鮫談義する事をすっかり忘れていたな。帰ったらすぐにでも話してみようかな。ぐふふ。


俺が内心で勝利の味を噛み締めていると、次の挑戦者が遠慮がちに手を上げながら腰を浮かした。

表情に幼さがまだ残る黒髪の男の子は今度はレイルガンに向けて指を指しながら、質問を口にする。



「では、そのレイルガンは何処で手に入れたんですか?」



俺に関する質問が飛んで来ない辺り、彼等の興味度合いが分かりやすくて助かるね。

AK○48とかのメンバーで、握手に来てくれるファンが居ない子の気持ちが凄くよく分かったよ。

ああ言う光景を見ると、とても憂鬱な気分になれるよね。思わずチャンネル変えちゃうもん。


まぁ、俺に関する質問が来た所で答えられる回答が無いんだよなぁ……。出身地とかどうするよ。あ、ちなみに彼女はいないよ。

俺は脳内でそれ等の対処法を思い浮かべながら、レイルガンを抱えて回答する。



「実はこのレイルガンも今回の迎撃戦に参加する時に知り合いの……人が貸してくれたんです。その人には貸しと言うか、ある事情があってこの様な立派な武器を借り受けられたられたんですね。はい」


「……貸しと言うと?」



自重しろよ、ルーキー。明らかに言葉を濁してるでしょうがっ!!

宮木伍長の事を話すのは彼が武市さんに苦手意識を持っていた様だから咄嗟に伏せたのだが、その所為でいらぬ興味を煽ってしまったのだろうか。



「うーん。すみませんが、本人に了承も取らずに話せる内容ではないので……」


「そうですかぁ……。分かりました」



質問した訓練兵は俺の返答に気分を害した様子を見せず、素直に椅子に腰を下ろす。


そもそも組合からはクースでの件は口止めされてるしな。こうした対応になってしまうのは仕方の無い事である。

ってか、こうして話してみて分かったが借り受けた物が多いな俺は。

多大な借金もあるし、ホント救い様がねぇよ。ラビィにも苦労を掛けてるしなぁ……情けねぇマスターだ。

正確には武鮫は里津さんから貰った物なんだが、HAと偽ってる以上は貸しって事にしとかないと周囲の反応がとんでもない事になりそうなんだよね。


二つの質問が終わり、少し間が空いてしまう。

今このタイミングで回収班が戻ってきてくれたらお開きになりそうな感じだ。

そうなれば俺は彼等を英雄と見なして鼠肉を奢ってやったのだが、そんな奇跡は起こらなかった。


代わりに遂に恐れていた事態が訪れてしまう。

一体どうしたのかと言うと、今まさに目の前で武市さんがゆっくりと見せ付ける様にして手を上げたからだ。


いや、待てよ? もしかしたら武市さんは唐突に片手を上げてクリ○ンの必殺技である、気円○を投げる練習をしたかった可能性があるかもしれん。


俺が思わず淡い期待を抱いて現実を逃避している間に武市さんはパイプ椅子から立ち上がると、俺に鋭い視線を向けながら小さな唇から質問を放った。



「色々と聞きたい事はあるが……。まず、HAを貸してもらう事となったある事情というのは答える事ができるかな?」


「……えーっと、実は俺って以前に大怪我した事があって……。その治療費を払う為に俺は組合所に所属したんですね。で、その際に知り合いが少しでも負担が軽減できる様にとHAを貸してくれまして……。まぁ、良い人なんですよ。はい」



思ったより普通な質問だったな。

武市さんの質問で俺が組合所に所属した経緯も話せたし、大分訓練兵達の興味も薄れてきたんじゃないかな?



『…………HAを装備したのは組合所に所属してからと言う訳か。時期的に合わない……か?』



武市さんは質問が終わったと言うのに、そのまま立ち尽くしたまま小声でそう呟いた。

俺の優れた聴力が言葉の内容を捉えるも、一瞬彼女が何を言ってるのかと呆然としてしまったが、すぐに彼女は俺が組合所に所属している時期を知っていた事を悟る。


お、おいおい……以前組合所であった後で俺の事をそこまで調査してたのか?! 迫田の舎弟が吐いた名前の響きが似てるってだけで?!


武市さんが幾ら賢いと言えど、大勢が所属する組合の人達の中で全員の所属時期を覚えておける訳が無い。

そう考えると彼女は少しでも可能性があった俺に目星を付け、調査をしていたに違いない。


むむ……先程の回答は少し迂闊だったか!?

いや、待てよ? そもそもHAを装備した時期が迫田を倒した後だと分かったならば、彼女の俺への疑いは晴れる方が高いか?

まさか生身で俺が全身装着型HAを装備していた迫田を倒したと言う結論には、流石に至るはずがないと思うが……。


俺は考えを纏めながらも自分の心臓が嫌な鼓動を刻むのを感じ取る。

てっきり武市さんは此処に着てからHAを装備している俺を見て、迫田への疑惑を再燃させたと思っていた。

だが、いざ蓋を開けてみれば彼女は既に組合所で分かれた後で俺への疑念を抱いており、調査を進めていたのである。動揺するなってのが無理だ。



「ふむ、次の質問に入ろう。君が負った大怪我の原因は?」



武市さんが続け様に質問を放ったので、パイプテント内に少しどよめきが起こる。

俺としても彼女が本格的に攻勢を強めてきたので焦ってしまう。


落ち着け俺、迫田や百式と戦った事に比べれば別段何てこと無いさ。冷静に対処するのだ……。



「いやぁ、つまらない理由ですよぉ。外居住区でトラブルに巻き込まれる事なんて別段珍しくないでしょう?」


「つまらなくなんか無い。ヤウラの治安維持は我々軍が請け負う重要な任務である。君が巻き込まれたトラブルとやらを話してくれれば、私が対処してやろうじゃないか」


「いえいえ、もう終わった事ですから。それに武市さんは訓練兵達の相手でお急がしそうですしね」


「大丈夫だ。彼等はこれからフル装備でランニングしながら玄甲へ帰還する手筈となっている。私は暫く手が空くんだ」



おい、訓練兵達が『そんな事聞いてない!!』って表情をしてるぞ。彼等は武市さんの調査の犠牲になったのだ……。

それより、だ。HAを装備している時期が迫田が死んだ時期と合わないと言うのに、彼女は俺への疑いを晴らす事無く追求を強めてきた。


ど、どういう事だ? 何がそんなにも武市さんの興味を惹くの? 実は俺に惚れてるの? いかん、動揺しすぎて願望が漏れ出てしまった。


武市さんの勢いに飲み込まれつつも、俺は何とか断りの言葉を吐き出そうと喉を震わせた所でパイプテント内に兵士が駆け込んできた。



「お知らせします!! 回収班が帰還しました。組合に所属している人達は……。あ、あの、お邪魔しましたか?」



兵士がパイプテント内の異様な雰囲気を察してか、言葉を途切れさせて様子を伺う為に武市さんへそう尋ねた。

武市さんは小さく息を吐くと、己の高ぶりを鎮めるかの様にゆっくりと瞼を閉じてから兵士へと向き直り返事をする。



「いや、もう終わった。彼等を案内してやってくれ」


「は、はぁ……。では、組合の皆さんは私の後に着いてきてください」



意外にも武市さんは大人しく追及の手を緩めてくれた。

同業者達は兵士の言葉に気を取り直した様子で、少しおぼつかない調子でパイプ椅子から腰を上げていく。

俺は溜め息を盛大に零すのを我慢し、武市さんや訓練兵達に一つ頭を下げてから彼等の後に続く為に席を立つ。


そのまま武市さんの近くを過ぎろうとした折、彼女の口から鋭い一言が漏れ出た。








「君は――A型なんだな」


「…………ぁ」



し、しまった。俺の左足の脹脛には宮木伍長が親切心で張ってくれた血液型を示す紙が張られているんだった!!

ゴミ山で血だらけで暴れまくった俺の血痕はあそこに大量にあったはずだ。迫田の事を調査した際にそれ等も回収されたに違いない……!!


血液型なんかはとっくに解析されていたのだろう。だからあんなに食って掛かってきてたのか!?

それにもしヤウラにDNA鑑定技術があればゴミ山にあった血液と、俺から採取した血液があれば俺への特定なんて容易く出来てしまう。

今はまだゴミ山にあった血液だけだが、俺自身から流れる血液も検査されればあそこに居た事は確定的な事実となってしまう。


いや、それだけじゃない。迫田のブレードには俺が右腕で受け止めた時に大量の血液が付着したはず。

それが俺と迫田が接触した事実をも示す証拠にもなってしまうじゃないか……っ!!


瞬時にそれ等の事実を認識し、思わず足が硬直しそうになった。

しかし、俺はすぐに気を取り直すと勢いよく足を動かしてパイプテント内から抜け出る。


もしかしたら、今の俺の後姿は武市さんから見たら敗者のソレに見えたのかもしれない――。




サリアがサニアになってて慌てて直しました。

何時もプロットを眺めながら話を投稿してるのに、一向に誤字や脱字が無くならないし、今回の様なミスも犯すとは……。

小説を書くって大変ですね。初めての作品ですので、注意深くしてる筈なのですが……。お恥ずかしい。

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