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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
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敗者の末路

先程まで俺は『やだ……私、見られてる?』ってな感じだったのだが、今では『貴様!! 見ているなッ!!』と言った風である。

迎撃地点への案内の道中、武市さんが肉食獣を思わせる笑みをチラつかせながら俺を見ている事に気付けたからだ。


背後を振り返らず、どうやってその事に気付けたのかと問われれば、単純に俺には《見えて》いるからだ。

宮木伍長から借り受けたレイルガンとゴーグルの機能を駆使し、俺は肩に置いてあるレイルガンの銃口を少し背後に倒して状況を把握したのである。


とはいえゴーグルの右半分に映った視界の上下は反転してるし、徒歩の揺れの所為で画像がブレるわで気分が最悪ですの。

一般市民の皆様は余程の理由が無い限り、背後が気になったらレイルガンを使わず普通に振り返って見る事をお勧めします。


ともあれ、お陰で武市さんが俺に興味津々であろう事は確認できた。

俺が底なしのナルシストなら『おや、あの麗しいレディは僕に惚の字なのかな?』と勘違いするだろう。


しかし、武市さんは組合所で迫田の身に何が起こったかを調査していた様子だった。

故に彼女が俺に興味を抱いているのは、俺にまたもや疑いを持っているからだろうな。

俺の失言で一度は危うかったが、何とか乗り切れたのに……ついてねぇぜ。


状況は当然最悪だ。

俺がHAもどきである武鮫を装備していると分かったなら、武市さんは俺が迫田を倒してもおかしくはないと考えているはずだ。

普通なら武鮫の様な一部装着型HAで、迫田の様な全身装着型HAに対抗できる可能性はかなり低いとは思うのだがな……。

背後の彼女の表情を見る限り、僅かでも可能性があるなら諦めないタイプの様だ。どこぞの主人公なの? それだと僕チン負けちゃうんですが。


そもそも迫田を倒したというか……殺したのが俺だってばれたらどうなるのかなぁ?

田中さんは賞金がどうこう言ってたし、罪に問われる事はないのか?

いや、仮に事情聴取を受けて、その際に武鮫を調査されれば偽者だと一発で分かるであろう。


そうなれば重さ数キロ。下手すりゃ十キロを余裕で超えてるであろう、タダの鉄腕を軽々と装備していたと分かれば俺の異常性がバレてしまうじゃないか。


里津さんはそうなれば軍に徴兵されるかもと言ってたが、最悪軍で人体実験でもされそうだよな。

もしかしたら俺の怪力を軍が見込んで、肌にピッチリ吸い付く股間モッコリスーツと丸っこい盾を持たされ、『キャプテン・ヤウラ』として活躍する事を期待される可能性があるかもしれんが、まぁ限りなくその線は低いと言う事は明らかだろう。勿論、そんなオファーを受けても困るがな。


この世界、と言うかヤウラには黙秘権やジュネーブ条約に似た法があるかも分からないし……。うぅ、困ったなぁ……。

俺が幼女なら『ふぇぇ』って涙目になってる所だが、今の俺は背後から受けるプレッシャーの所為で吐き気に似た『おぇぇ……』って感じで気分が最悪である。


パワ○ロだったら絶不調であり、試合開始前に選手を入れ替える事は間違いないのだが、今はタダ黙々と迎撃地点へと歩みを進める事しかできない。


そうこうしている内に駐屯地のキャンプ場から離れ、荒野に幾重も張り巡らされた塹壕が視界に入ってきた。

木の板じゃなく、鉄板で土が通路へ零れ落ちない様に補強している所を見ると、やはり緑溢れる様な自然はヤウラ周辺には無いのだろうか?

むぅ、下手すれば世界全体が荒野になっていると言う可能性もあるか? いや、空気は吸えてしるなぁ……。よう分からんですわ。


そんな事を考えながら最初の塹壕を飛び越え、さらに先へと歩を進めようとしたら案内の為に先頭を歩いていた兵士が足を止め、背後を振り返った。

てっきり此処で迎撃するのかと思いきや、彼は最後尾にいる訓練兵達を連れた武市さんへ向けて声を掛ける。



「教官殿!! 流石に最前線への見学はご遠慮願いたいのです。申し訳ありませんが、此処で訓練兵達と待機してくださりませんか……?」



言葉の後半がトーンダウンしたのは、恐らく武市さんの方が階級が高いからかな?

そう思うと兵士の視線も心なしか、落ち着かない様に細かく動きを見せている気がしないでもない。



「ん……了解した。お前達、ここで待機だ! 戦闘を注視するのにあまり夢中になるなよ! あくまで慎重にな。身を乗り出した所に流れ弾が飛んできて負傷しても、別段おかしくはない位置にいるんだからな」



意外にも、武市さんは素直に兵士に了承の意を返すと訓練兵達に指示を出し始めた。

それを見て安堵の息を僅かに零した兵士と共に、俺も静かに胸を撫で下ろす。


よかったぁ。流石にこのまま間近で武市さんの視線を感じたまま、迎撃できる精神状態ではなかったからな。

一部の特殊な性癖の持ち主達は見られてる方がモチベーションが上がるらしいが、生憎俺にはその様な隠れた部分は無かったらしい。


俺は少し気を取り直し、また歩みを再開した兵士の後を追う。

と、その途中で土を盛大に巻き上げる音が聞こえて周囲を見回すと、一台の戦車が駐屯地から荒野へ発進している様子が見えた。

その戦車の周りを数名の兵士が囲み、小走りで駆けている。どうやら彼等が俺達の迎撃が失敗したら後始末をしてくれる部隊っぽい。

やはりそういう光景を見ると、『襲撃』なんて言う異常事態に彼等が慣れきっている事が分かる。


俺が元居た場所だと異常事態と言えば、精々学校の校庭に犬が迷い込んでくる事が関の山だってのによ。

今では荒野から街に向かって無人兵器が突撃してくる様な場所に身を置いてるんだからな。人生って不思議だよね。



「よし、此処でいい。各自、少しでも射線が被らないように散開して狙撃位置に着いてくれ。迎撃に失敗したら塹壕に伏せて軍が撃破するのを待つか、身を低くして素早く通路を駆け戻るかは個人の判断に任せる。では、幸運を」



そう言うと兵士は、小走りで来た道を駆け戻っていく。

同業者達は兵士に返事をする事も無く、ただ淡々と塹壕に体を下ろし、各々散らばって武器を構え始める。

俺も射線が被らない様にとのアドバイスを元に、彼等の傍から少し離れて狙撃位置を探す。


勿論、ド素人の俺には何処が最適な場所かなど分かるはずも無く、適当な位置に陣取ってレイルガンを構える。

暫くレイルガンのつまみを弄くりながら倍率を調整していると、急にゴーグルに表示されていたレティクルの色が白から赤く染まる。


まさか早速壊れたのか? 一瞬脳裏を過ぎった不吉な考えに心臓が嫌な鼓動を刻むも、それはすぐに静まった。

ゴーグルに異常は無く、むしろ正常であったのだとレティクルが捉えた物体を見て分かったからだ。


時折砂塵で霞む視界の先、遠く荒野の果てから大量の土を巻き上げながら猛スピードで此方に近寄ってくる謎の物体。

それを一言で表すのならば――『点』であった。何も遠くに居すぎて正体が判別できないとかではない。

今の俺はゴーグルの倍率と優れた視力のお陰で正確にソレを捉える事ができている。だが、どこからどう見ても『点』なのだ。


と、突如近くから耳を鋭く突く銃声が聞こえて来た。

チラリと横目で其方に視線を向けると、少し離れた場所に居た同業者、彼が地面に着けていた対戦車ライフルの周りが撃った時の反動の所為か少し土埃を上げており、それで彼が攻撃を開始したのだと理解する。


その直後にゴーグルに映る映像に急激な変化が起こり、意識を戻される。どうやら地面を走っていた点が大きく跳ねた様だ。

必然、その行動の所為で大きく土埃が巻き起こったが、次の瞬間には土埃の中央に大きく穴が開き、僅かに向こう側の景色が覗き見えた。

その光景を確認し終えた後、俺の優れた聴力が同業者が放った僅かな舌打ちを捉え、それで最初の一撃を外したのだと悟る。


点は大きく宙に逃れて最初の攻撃を回避したが、跳ねたのならば落ちてくるはずだ。

俺は素早く落下地点を予測し、レイルガンの位置を変えようとした所で点から幾つもの線が飛び出してきた。いや、正確には《足》だった。

その姿を見て、瞬時に俺の心中に生理的嫌悪が沸き起こった。


一瞬で大きく体積を膨張させ、突如大空に姿を見せたそれはまさしく蜘蛛(スパイダー)だ。どうやら……先程の高速移動は体を丸めて行っていた様である。


不気味に赤く光る八つの眼が真っ直ぐ此方へと向けられ、同じく八つの足はまるで風を捉え、少しでも滞空時間を増やそうと言うかの様に大きく開いている。体の色は黒く鈍い輝きを放ち、穴が開いた装甲板から千切れたコードがはみ出しており、ソレが風で激しく揺れる。


生き物である蜘蛛と機械である奴との違いがあるとすれば、空中に居る奴の体の彼方此方から先の開いた棒が飛び出しており、それが銃口である事は明らかであった。


スパイダーが最高高度に達した瞬間、その幾重もの銃口が連動して細かく動き、此方へ向けられる。

その光景を見て、俺は瞬時に奴は回避行動の為だけに跳ねたのではなく、空から塹壕内への射線を確保する為の行動でもあったのだと悟った。


だが、俺は愚かにもまもなく降り注ぐであろう猛攻を脳内に思い描いてしまい、体を僅かに硬直させてしまう。



「伏せろぉ!! チェーンガンの掃射が来る!!」


「……ッ!」



俺と同じく奴の行動の真意を見抜いた誰かが大声上げた。

そのお陰で俺は意識を取り戻して硬直を解く事ができ、すぐさまレイルガンを抱える様にして塹壕内に伏せる。

直後、腹の其処まで響くような轟音が周囲を包む。盛大に土が巻き上げられ、それがパラパラと小気味の良い音を立てながら塹壕内へ雨の様に降り注ぐ。


銃撃が止み、遠くから大きい物が落ちた音と響きを感じ取り、奴が無事に地面への着地に成功した事を知る。

俺はすぐさまレイルガンを抱え上げ、お返しにコイツの弾を叩き込んでやると意気込みながら塹壕から顔を出して唖然としてしまった。

周囲は猛攻のお陰で砂埃に満ちており、とてもじゃないがすぐには狙撃できる状態ではなかったからだ。



「おいおい、まさか狙ってやったってのか……?」



俺はスパイダーの行動が此処まで狙い済ましていた事に気付き、胸の中に焦燥感が湧いてくるのを覚えた。

奴はまさしく《兵器》だ。どうすれば相手の行動を阻害できるかを瞬時に見極めている。


だが、此方も黙ってやられる訳には行かない。

俺は素早くレイルガンを抱えると、塹壕内の通路を駆けて射線が確保できそうな場所を探す。

とは言え、あまり時間を取られると相手に接近を許してしまう。俺は土埃の中から抜け出すと、すぐに其処が不安定な場所である事も気にせずレイルガンを構える。


スパイダーは細かく足を動かしながら、攻撃が飛んでこない間に猛スピードで此方へと突進してくる。

このままでは不味い。俺は奴の撃破ではなく、とりあえず行動を阻害する為に狙いを定め始める。

ゴーグルに表示されたレティクルはスパイダーに当たると白から赤へと色を変化させる。

上手く狙いが定まらず、チラチラと白と赤の変更を繰り返していたが、俺は一つ覚悟を決める様に息を吐き、次にレティクルが赤く光った瞬間、迷い無く引き金を引いた。


直後のレイルガンが放った音は、俺の予想に反して『キンッ』とした小さい音であった。

だが、確かにレイルガンから放たれた光が一線として荒野の砂埃を引き裂きながら駆け巡り、スパイダーの機体の左側面にある足二本を弾き飛ばした。


レイルガンの絶大な威力を証明するかの様に盛大に鉄粉と部品を撒き散らしながら、それ等は遠くへ跳ね飛んでいく。

その所為で奴がバランスを崩し、地面に体を擦らせた大音量が聞こえてくる。


しかし、奴は諦めていない。不安定な姿勢で此方へ反撃の銃撃を飛ばしながら、体を大地に伏せたまま残った足を器用に動かしてにじり寄って来る。

とは言えそんな有様で撃った弾が当たるはずも無く、俺から大きく外れた場所へと着弾して空しく乾いた音を立てる。

そのまま止めを刺してやろうと思った瞬間、レイルガンの廃熱口から盛大に蒸気が噴出して周囲を白く染め上げ、僅かに視界が遮られた。


思わず舌打ちを零した折、ゴーグルの右上に表示されていた白いバーが少しずつ減少を始める。

それと同時にレイルガンの姿が表示されていた場所の上に新たに《チャージ中》の文字が浮かび上がり、点滅を繰り返す。

構わず引き金を引こうとしても引き金は緩々として手ごたえが全く無く、先程の様にカチッとした確かな感触を指先に伝えてはくれない。



「れ、連射できないのか!?」



超絶である威力の代償は、どうやら莫大な待ち時間である様だ。

予想外の展開に俺は戸惑いを隠せなかった。その動揺ぶりは射程外である事も構わず、咄嗟にホルスターのDFへと手を伸ばした程である。


だが、俺が一人で泡を食っていると血気盛んな声が聞こえて来た。



「よくやった小僧!! MVPはお前だな!! 一番良い部品はテメェにくれてやるよ!!」



誰かが口にした言葉と同時に、幾つもの銃弾が銃声を伴ってスパイダーに向かって放たれた。

それ等はまず不気味に赤く光る八つの目の内五つを打ち砕き、次に装甲に多数の風穴を開けて中のコードも傷付けた様だ。

その事は、僅かに覗き見えた装甲内で輝く放電が示している。


だが――スパイダーは諦めない。少しづつ歩みを進め、塹壕に向けて反撃の銃火を放つ。

しかし、センサー類をやられたであろうか、狙いが定まっていないようだ。

滅茶苦茶な軌道で放たれたソレはスパイダー自身の近くにある地面を掘り返し、宙に放たれた弾はただ空を切るだけで終わる。


時折、スパイダーは銃弾をかわす為に地面を大きく跳ねて転がる事もあったが、その行動は己の体をただ悪戯に傷付けるだけの物であった。

必死に行うその回避行動で装甲板が次々と剥がれ落ち、体から覗き見える銃口は地面に押し潰されて捻じ曲がる。

どうやら……ダメージコントロールも出来ない程にAIの機能が低下しているらしい。


あと少しでチャージが終わると言う所でまたもや荒野に眩い光が走った。

ソレは瞬時にしてスパイダーの右側面の根元近くを通過し、胴体の一部ごと削り取る様にして三つの足を吹き飛ばした。

スパイダーはとうとう堪らずと言った様子で盛大な土埃を立てながら地面に体を横たえ、遠く離れた大地で空しく僅かに残った無事な銃口を動かして滅茶苦茶に撃ちまくっている。

恐らく、レイルガンを持っていたもう一人がケリを着けた様だ。


勝敗が決したと言う事は目の前の光景を見れば明らかであり、俺は深く溜め息を零す。

すると其処でレイルガンの緩々だった引き金が張りを取り戻し、ソレと同時にチャージ中の文字が消えてゲージも動きを止めた。

どうやら、ようやくチャージが終わった様だ。


戦闘を注視しながらだったのでよくは分からんが、恐らくチャージの時間は二十秒か三十秒くらい掛かったのかな?

レイルガンの威力が抜群であるとは分かったが、単独での戦闘行為には向かない事は明らかだ。隙が大きすぎる。

今回の様な複数人でカバーできる環境ならば、レイルガンは最大の効果が発揮できる兵器なのだろうな。


最初はどうなる事かと思ったが、気付けば五分とも経たずに迎撃戦は終わってしまった。

だが、今の俺はこの短い間で行われた戦闘で大変に疲れている。

ゴーグルのスイッチを押してスナイピングモードを解除した後で、塹壕内にゆっくりと腰を下ろし、そのまま暫く立ち上がる事が出来ない。


銃弾が掠める感覚は廃病院でも味わったが、やはり心臓に悪いよなぁ。大人しく依頼だけ受けてれば良かったのかな?

まぁお陰でスパイダーを撃破出来た。高額な部品を七名で分配できるとなると百式の二万とまでは言わんが、ソコソコの稼ぎにはなるんじゃないか?


俺が休みがてらそう頭の中で思考を展開していると、近くに寄ってきた同業者が手を伸ばしてくる。

彼も俺と同じくレイルガンを所持しており、その事から考えると彼がスパイダーを無力化した人物の様だ。



「良くやったな。お前のお陰で形勢が逆転したぞ! レイルガンはともかくとして、HAを装備している所を見ると……やっぱり上級なのか? けど、見かけた事ないんだよなぁ。他の街から来たスカベンジャーなのか?」


相手は白人で金髪を短く切り揃え、青い瞳が特徴的な人だ。

俺は同業者のフレンドリーな対応に少し驚きつつも彼の手を掴んで腰を上げると、すぐに彼が言った上級等という勘違いに否定の意を返す。



「あ、いや……。この街に来たばかりってのはあってますが、俺は新米です。このHAとレイルガンは運よく知り合いに貸してもらえて……」


「……HAやレイルガンを貸してもらえたのか? ふむ? ……おっ、回収班が行動を開始したか。相変わらず仕事が早い連中だ」



彼は俺の言葉に少し興味を惹かれた様で瞼を細めたが、回収班とやらを確認して俺から視線を外す。

俺も釣られて視線を向けると、数台のトラックが今まさに駐屯地から並んで出てくる所であった。



「よーし!! お楽しみの時間だ!! 回収班が到着する前に終わらせるぞ!!」



同業者の一人がそう高らかに声を上げると、歓喜の声が塹壕内に響き渡った。

突然の盛り上がりに俺はついていけず、呆然とその様子を眺める事しかできない。

そんな俺の視線を感じ取ったのか、高らかに声を上げた黒人の男性が陽気に話しかけてくる。



「お前達も《針通し》に参加するか? とは言え、流石にレイルガンで針通しは勘弁してもらいたいからな……。弾薬費を払ってくれるなら俺のライフルを貸すぜ?」


「いや、俺は良い。あんた等で楽しんでくれ」


「え、あ……俺も遠慮しておきます」



隣に立っている金髪の同業者が断りの言葉を放つと、俺もそれに続けて返事をする。

黒人の同業者は特に気にした様子も無く、そうかと一言告げると此方への興味を失ってしまった。



「誰から行く? 俺だったら一発で当てて見せるぜ?」


「はははっ、最初の一発を外してた癖によくそんな事が言えたもんだな。だが、いいだろう。その面の皮の厚さに免じて一番手を譲りたいと俺は思う! 誰か異論はあるか?!」



今この場を取り仕切っている黒人の男性がそう言って周りを見渡すも、誰も異論を挟む事は無かった。

その事に一つ満足そうに頷きを見せると、彼は気合を注入するかの様に名乗りを上げた男性の背を盛大に叩く。



「っよし! 決まりだな。よーく狙って撃てよ? 装甲内の弾薬に当てて引火させたりすんなよ!」



背をイキナリ叩かれた男性は少し痛かったのであろうか、若干眉を額に寄せながら一つ頷きを返し、対戦車ライフルを構えてスパイダーに向けた。



「そんなヘマをする方が難しいって。良いから見てろ…………よっと!!」



鋭い発砲音が荒野に響き渡り、次にスパイダーの装甲を貫いた金属質な甲高い響きが聞こえてくる。

攻撃を受けたスパイダーは抑え始めていた銃火を再び猛烈に吹かし、僅かに巨体を揺さぶった。



「惜しいな!! 着弾点は既に壊した目の部分か。まぁ他の無事な目を潰さなかっただけ、まだマシだな」


「はー……ったく、今日はどうも運が無いな。次は誰が行く?」



死に体のスパイダーに攻撃を加えた彼は盛大な溜め息を零し、対戦車ライフルを構えるのやめるとそう言った。

すぐにその様子を見守っていた一人の男性が手を挙げ、周りの同業者達に囃し立てられながら彼も己の対戦車ライフルを構え始める。


俺は彼等が一体何をしているかがとてもじゃないが分からず、困惑を隠せない。

気付けば俺は隣で一緒に様子を眺めていた金髪の同業者に声を掛けていた。



「あの、彼等は何をしてるんです?」


「ん? ……ああ、オマエは新米だって言ってたな。丁度いい、暇潰しがてら教えてやるよ。無人兵器を無力化できたとしても、AIの破壊が終わらない限り部品の回収はできん。見ろよ、あんな状態だってのに奴はまだやる気満々だぜ? まさに兵器だよなぁ。んで、何時、何処で、誰が始めたか知らんが《針通し》って言う遊びが生まれたんだ。一人ずつ交代して撃って、無事にAIを破壊する事に成功したらソイツが好きな部品を一つ持ってける。AIを破壊する弾薬費もタダじゃねぇ。こういう遊びがないと、率先して誰もトドメを刺そうとしないだろうしな。発案者は上手い手を考えたもんだぜ」


「遊び……ですかぁ」


「勿論、針通しを成功させた奴が部品を選ぶタイミングはMVPが先に選んでからだ。お前が今回のMVPである事は誰も文句は無いだろうし、安心しな」


「ははは……どうも。説明してくださって感謝します」



俺は説明してくれた金髪の同業者に感謝の意を伝え、針通しを行う同業者達に視線を向ける。

確かに誰もが活き活きとした表情を見せ、軽い調子でライフルの引き金を引いていく。

目標を大幅に外すと盛大に笑い声が上がり、無事な部品を傷つけるとブーイングが飛ぶ。

恐らくAIチップが近くであろう部分に着弾すると、『惜しい!』という言葉と共に盛大な溜め息が沸き起こる。

まるでパーティゲームを楽しむ子供達の様な雰囲気だ。


だが、遠く彼方に居るスパイダーはその行為で少しずつ損傷を深めていき、時折痙攣するかの様な動きを見せる。

当に銃弾を撃ち尽くしたのだろう、今やスパイダーがとる行動は残った足をゆっくりと動かすだけ。

パワーが落ちきっている所為もあるだろうが、残った足で巨体を動かす事は叶わず、その行為は近くの土を掘り返しただけで終わる。


俺は何故か命のやり取りを交わした相手だと言うに、スパイダーに同情を禁じえなかった。

体を動かす事も叶わず、少しずつトドメを刺されていくとは……とてもじゃないが最悪の気分であろう。少なくとも俺は御免である。


とは言え、どこぞのヒロインの様に『もうやめてあげてぇ!!』等と甲高い声を上げて制止する訳にもいかず、ただ早く終われと願う事しか俺には出来ない。


何処と無く沈んだ気持ちで針通しを眺めていると、突如として今までに無い盛り上がりを見せて塹壕内は沸き立った。



「うおおおおお!! はははっ!! 悪いな、みんな! 優勝は俺だ!!」



雄叫びを上げたのはその場を仕切っていた黒人男性だ。

周りの同業者達はブツクサと文句を口にしながらも、笑顔を浮かべ彼を軽く四方から叩いて祝福する。

俺はその様子を横目で見ながらゴーグルのスイッチを押してスナイピングモードを起動し、レイルガンを構えてスパイダーに向ける。


するとゴーグルに映し出された景色は、今まさにスパイダーの目から赤い光が消えていく様子を捉えた。

それと同時に僅かに動きを見せていた足を静かに地に伏せ、そのまま停止する。


遂にスパイダーの機能は停止した様だ。その事に俺は静かに安堵の息を吐く。


奪い、奪われ、生きていく。


その事はこの世界では当然の行為であると分かり始めていた事なのに……。何故か俺の心中では静かに哀愁が漂っていた。




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