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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
25/105

数世紀の孤独

大変お待たせして申し訳ないです。

ここ最近、俺は幸せな気持ちであった。


その理由の一つは、やはり久々に肉が食えた事だ。あの後ラビィも偽装の為に食事機能があるって分かって気にせず食えたしな。


次に百式の二万と言う大金から千だけを里津さんに差し引いてもらい、手にした千ボタでこれから必要な物資を買い揃える事ができたのだ。つまりは俺の残りの借金は九万と千ボタだな。


百式の様な大物は滅多に居ないだろうし、居たとしてもできるだけ相手にしたくないから借金返済はここから少し滞りそうかな?


そりゃあドラ○エとかだと作戦は『ガンガン行こうぜ!』でいいかもしれんが、この世界には神に祈っただけで死体を生き返らせる超人もいなければ、やくそうの様な気軽に使える回復アイテムも無いのだ。


あるのは普通の医療物資と、効果は抜群だが機能するかどうか分からない誰得運要素頼りの超高額ナノマシンしかないのである。慎重に成らざるをえない。


それはさておき――俺が購入したイカれた物資達を紹介するぜ!!


まずは水筒だ!! なんとこの一品は水を溜めておけるって言う最高のアイテムなんだぜ?!

銀色に輝く丸いボディはクールさを兼ね備え、その注ぎ口から零れる水の冷たさは彼の内面による物なのだろうかともっぱらの噂である。


次!! この荒廃した世界に光を与えんと、名乗りを上げたのはよろず屋『不屈』からの刺客!! 手動充電式の懐中電灯『BF-BG5-U』だ!! 呼び難いな!! 意味わかんねぇ!! 多分この名称で呼ぶ事は無いだろうから覚えなくていいぞ!!


最後、非常食の缶詰は大人しく豆缶を買い揃えた。

本当は色々缶詰も種類はあったのだが、あくまで非常食だからな。一番安い豆缶でよかろう。それに借金を背負ってる身だしな。


イカれた物資の紹介は以上だ。

一番イカれてるのは俺って事が紹介文を見れば明らかだよね。ふふっ♪


真面目な話、クースで水や食料が如何に重要かを思い知らされたからな、二度目はゴメンである。これから探索地ではリュックを肌身離さず行動するぜ。


生憎俺は死に掛けてもサ○ヤ人の様に急激なパワーアップなどしない様だからな。自らの体験に基づいて対策を講じ、成長するしかないのだよ。


手動式の懐中電灯の大きさは普通だが、使い捨ての電池を必要としない為非常に便利だ。

買ってからずっと充電用のレバーを回すくらい気に入った。いや、する事が無かった訳じゃないよ? 傷を癒してたの。本当だよ?


ちなみに水筒が十ボタで、缶詰は複数買ったから二十ボタと、最後に懐中電灯が二百ボタもした。

あまりの差に驚くかもしれないが、壊れなければ半永久的に使えるとの事で納得はした。そもそも壊れない物は無いと言うツッコミは無しだぞ。


それに今のランクじゃ組合所で懐中電灯は手に入らないしな、良い買い物だと思う。


カンテラの中で輝く蝋燭の心温まる様なほんわかした灯りも嫌いじゃないが、文明の利器の前では無力である。一応予備として持ってはおくけどね。


余ったボタでラビィの服や靴も買おうかなと思ってたのだが、なんとそれ等は里津さんが用意してくれた。


しかも自分の店を任せる訳だから見た目を気にする事は当然の事だといい、調達に使ったボタを全て受け持ってくれた。太っ腹です、里津さん!!


まぁ百式の事とかあって機嫌が良いってのもあったんだろう。工房からたまに『くひひ』とかって奇怪な声が聞こえてくるもん。何も知らなかったら『新種の妖怪かな?』と勘違いしそうな程に不気味だ。俺は命が惜しいからウォッチしないがな。


ちなみに百式の部品は売りに出さないで、自分の知的好奇心を満たす為に徹底的に使い潰すとの事。何だろう、嫌な予感しかしないね。


まぁ百式の部品は外に滅多に出回らない一品みたいだし、金銭欲より知性欲のが上回ったのだろう。金は他の品物でも稼げるだろうし。


それはさておき、俺はクースから帰って四日間ダラダラしてた。

大事をとって傷を治す為でもあるが、ラビィが上手く店番をできるかどうかの心配が大きかったからかもしれない。


俺は影から懐中電灯の充電レバーを回しながら見守っていたのだが、やはりと言うか来る客皆がラビィの容姿に心奪われた反応を見せた。


それも無理は無い。銀髪の放つ光は美しく、整った顔立ちは里津さんの仕込みで笑顔あふれ、接客態度も何ら問題がない。


俺はと言えばセクハラでもされやしないかと、娘の初めてのアルバイトを見守る父親みたいな気持ちでハラハラして見ていたのだが、まるでN○の様にその気配を察知すると、マグネット○ーティング後のガン○ムの様に機敏に動いてラビィはそれ等をガードするのだ。


後でどうやって防いでいるのかを聞けばセンサーで感知してるとの事。もうなんでもありやな。そのうち空とか飛ばないだろうな?


とりあえず心配事は全て片付き、俺は幸せな気分でゆっくり疲れと傷を癒す事ができた。

ゴロゴロと廊下に敷かれた布団の上で寝転びながら、懐中電灯の充電レバーをずっと回してた。

もしPCとネットがあれば俺はそのままネオニートに劇的な進化をしそうな勢いだったが、それ等の進化アイテムが無くて助かったよ。





この世界に来てから初めてのダラダラした怠慢な幸せ生活が五日目の朝を向かえ、俺は廊下に差し込む朝日の刺激を瞼に受けてすぐに起き上がり上着を脱ぐ。


腕や体にあった痣は大分消えたな。痛みもないし、もう平気だろう。



「ふぅ……ふひっ!?」



俺が自分の状態を確認し終え、ふと里津さんの部屋に続くドアに視線を向けた所で仰天した。

何故ならドアが半開きになっており、その隙間から真紅の瞳が不気味な光を放ちながら此方の様子をジーッと伺っていたからだ。



「ら、ラビィ? 何してんの? すんげー心臓に悪いんだけども、それ」


「沿矢様の安全の為に見守っておりました」


「……別に俺は平気だって、ラビィはちゃんと休んでていいんだぞ?」



ちなみにラビィは里津さんの部屋で一緒に寝泊りしている。

ラビィは基本そんなに休む必要はないとの事で、最初の夜は終始俺の傍にいようとしたが何とか無理矢理休ませた。


ただ夜中にトイレへ行こうと目を覚ました時に、枕元の真上からラビィがジーっと俺を見下ろしてて絶叫したがな。お陰で里津さんを起こしてしまい、罰として次の日の朝食を抜かれてしまった。


それ以来ラビィには家の中では俺の警護を厳重に行う必要は無いと言ってるのだが、今の様な調子で一向に従う気配がない。さらには他人の前でないと『ソウ君』って呼んでくれないしさぁ、反抗期なの?



「休みは十分とれました。ラビィは沿矢様の安全確保が最重要任務ですから、どうかお気になさらずに」


「あっ、そう? ……無理だよ!! 気になるわっ! 夢に出そうなシチュエーションだぞ?!」



ラビィの献身的な態度は嬉しいが、こうも融通が利かないのは少し困る。


いや……違うな。こういう態度があるからやっぱり機械として見れないというか、酷く人間染みて思えてしまうのだ。それがラビィの良い部分でもあり、荒野でのお姫様抱っこ等の良い機転に繋がった例もある。と、するならばあまり強く命令しすぎない方がいいのかな……? うーん、彼女の長所を潰したくもないし、そうしてみるか。



「はぁ……分かったよ。俺の安全確保だっけ? まぁ、ラビィの好きにして良いよ。ただし、あまり驚かさないでくれな?」


「――! 了解しました」



ラビィは驚いた様に目を見開くと、素早く部屋の中に戻っていった。

俺はようやく彼女の気が済んだのかと思い軽く息を吐いて安堵していると、ラビィはすぐに部屋の中から何かを引き摺って廊下に出てきた。



「では、今日からラビィも此処で休息をとります」


「……なるほど。そうきたか……さっそく驚いちゃったなぁ、僕」



――俺はラビィが引き摺ってきた布団を目にして、天を仰いだ。







▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼







俺は朝食を食べ終え、今久々に組合所へ向かってる所だ。

予定表を見ると、三日前くらいから徐々に送迎トラックが戻り始めているようだ。

あと二、三日もすれば全ての送迎トラックが戻り、その内また各所に送迎トラックが発進予定みたいである。


そうそう、結局あの後これからはラビィと一緒に廊下で寝る事となった。とは言っても廊下の広さ的に横並びじゃなくて縦にだがな。


だって口を濁そうモノならば俺が発した『俺の安全確保だっけ? まぁ、ラビィの好きにしていいよ』って発言をラビィが延々とリピートするんだぞ?


しかも声のトーンも全く一緒だったし、朝から物凄い恐怖で冷や汗びっしょりだよ。

寝起き最悪ってLvじゃねぇよ。寝惚けた頭では目の前に恐怖に耐え切れず、自分はまだ寝てて悪夢でも見てるのではと勘違いした程だ。


それと起きてきた里津さんが廊下で縦に並んだ布団を見て、何も言わずに侮蔑した冷たい目で俺を見下ろしてきたのが印象的だった。


俺ってばなんだかゾクゾクしちゃったよ。


まぁ正直……ラビィと二人暮らしだったら俺は暴走してる自信があるよ。否定はしない。

里津さんと一緒に暮らしてても最近ちょ~っとムラムラしてたのに、様呼びしてくる美人なちゃんねーが追加されたら男は狼に成るに決まってんだ。


美人さん達と一緒に暮らしてても、俺はどこぞのラブコメの主人公達の様に『やれやれ、でもこんな生活も悪くない(微笑み)』的なノリで生きてける余裕がないんだよ。


俺だったら『やれやれ、俺は射○した』ってな感じなんだよね。言っておくが、男としてはそれが普通なのよ? ラブコメの主人公達が狂ってるんだからね?




俺が脳内でラブコメ論議を繰り広げていると、ようやく組合所に辿り着いた。

ちなみにもう武鮫にグローブはしていない。組合と一部の人達には武鮫の事はバレてるし、ローブも穴が開いてボロボロだから意味ないし、一々ローブを買い換えるのも面倒だったからね。ボタも掛かるしな。


組合所に入ると早速俺の装備している武鮫を見て、同業者達の驚きの視線が突き刺さる。

俺はそれ等の視線を受け流しつつ、とりあえずボタを稼ぐ為に依頼とやらでも受けてみようかと壁に埋め込んで設置されてある端末に近づく。


やっぱり男はクエストを受けてなんぼだよな。薬草集めたり、ゴブリンとかスライムを倒してみたいよ俺も。


とりあえずこの間の警備員がやってた様に端末へライセンスを翳し、俺のランクで請け負える依頼を確認してみた。


《ネズミ確保》


まずはこれが最初に出てきた。

《駆除》の間違いじゃね? と思って詳細を見てみると、商品として使うから捕まえてきて欲しいとの事。一匹につき二ボタ貰えるらしい。多分色を塗ってペットとして売りに出すとかじゃないと思う。絶対肉として使うんだろうなぁ……。


動物愛護精神に溢れる俺はとりあえずその依頼はスキップした。ん? 鶏肉? おいしかったです!!


俺はタッチパネル式である画面に表示されてある依頼を指先で突いて次々に確認していく。

お陰で指紋だらけだよ。血痕が付着してた端末とかもあったけど何なの? 秘孔でも突いてきた奴がいるの? 恐ろしいわ、本当に。


《鉄屑集め》


《ドアの修理》


《話し相手募集》



依頼と言うよりかはボランティアと言っても過言ではない仕事ばかりである。やはり最低ランクだとこんなもんか?



「なんかなぁ、もっと稼げる仕事は無い物だろうか……」



百式の件で少し調子に乗っていた俺は、そんな事を呟きつつ端末を弄繰り回す。

次から次へと俺はまるでウィザー○リィのキャラ製作で最高ボーナスを狙う時の様に、無心で依頼更新ボタンを押していると高額な報酬が眼に入り指を止める。


《警備員募集》


内容は至極全うな物であり、急遽用事が入り正規の警備員が休んでしまったとの事で一日だけ代わりを探しているらしい。店でただ立って警戒しておけばいいらしい、勿論トラブルが起きたら対処せねばならないが……。


仕事時間は夕方の十八時から夜の二十二時までとの事だ。その頃には交代のメンバーが用意できるらしい。だがその短時間でなんと100ボタも貰える。


やっぱりと言うかOG式の60ボタって言う売値も、こうして比べてみると適正価格と言うか……ソコソコ良い値段だった訳だよな。弾薬を寄付しなければさらに80ボタも追加されてた訳だしな。


今度から探索に行った時は碌な物資が見つからなかったら、警備ロボを倒せば安定した収入をゲットできるって分かり、俺はとても安心できたぞい。


警備ロボ狩りをメインに見据えても良いかも知れないが、弾薬はともかく部品は嵩張るから大量に確保できないんだよね。 かと言って部品を放置して弾薬だけを集めるのは勿体無いと言うか……日本人的な『勿体無い』精神が顔を出す訳だよ。


まぁ、既に俺は廃病院でLG式を多数撃破してその場に放置してる訳だけどな。

とは言ってもあの時は必死で力加減できてなかったから、回収できる無事な部品があったかは分からんが。とりあえず稼ぐ手段は色々あるし、自分にあったスタイルを焦らずに模索していくしかないな。


それはさておき、警備員の仕事を俺は受けてみようと思う。

俺としても学園祭の演劇で背景の木という大役を経験した身だ。立ち仕事には自信があるぜ。

それにアレでしょ? 警備員っつたってどうせ大した事起きないんでしょ? こちとら百式とタイマンを張った男だぜ? 余裕ですわ。


俺が余裕綽々で画面にある依頼受注の表示を押すと、端末の隅に設置されてあった細長い隙間から依頼を受けた事を確認する為の証明紙が出てきた。


これを依頼人に見せる事で、その人が組合から依頼を受けて来た人間である事を明かす身分証明みたいな形になるらしい。それだけじゃなく、なんと証明紙の裏には組合所から依頼場所までの地図も記載されているではないか。


組合所のサポート体制は抜群ですな~、関心するね。

やっぱりと言うか、この間俺が体験した様な致命的なミスはそうそう起きるものではなかったらしいな。

組合の役人が口止めしたり、慌てふためく訳ですわ。


ちなみに田中さんから貰った注意事項の紙を見て確認したのだが、依頼に失敗したら依頼料の半分を仕事を紹介してくれた組合に対し払わなければいけないし、その分のポイントもマイナスされるらしい。


まぁ、それくらいのペナルティが無いと安請け合いして失敗が多くなりそうだしな。仕方ない事だろう。

あと成功しても報酬の一割を組合側に紹介料として持ってかれる。まぁその分はクラスの昇級に必要なポイントに加算されるから損ではないがな。


時刻は昼前だし、まだまだ余裕があるな……。

端末から離れてフロントに目を向けるが田中さんは居ない。どうやら今日は休みのようだ。

俺はとりあえず近くにあった長椅子に腰を下ろして、この後どう過ごそうか頭を悩ませる。


うーん、自宅に戻って夕方まで時間を潰すしかないかな?

とは言っても里津さんはまだ工房で百式弄ってるし、ラビィは仕事中だし……する事がねぇな。

この世界に来てから何が一番の不満かと言うと娯楽の少なさだな。

コンボイ○謎ができる環境があったら、それでも一週間の暇は潰せる自信があるくらいに娯楽が少ないよ。


ご老人とかだとマジで一気に痴呆が進むくらいの刺激の少なさである。

弦さんだって、もしかしたらゲートボールの代わりに狩りとかしてるんじゃなかろうか?



《警告!! ヤウラ南西より襲撃の恐れありとの報告!! 第三級警戒態勢発令!! 通例通り、組合所に所属する者達の迎撃戦参加を要請する!! 繰り返す……!》



そのまま妄想に身を任せようとした瞬間、突如として腹の底まで響く大音量のサイレンと共にアナウンスが鳴り響いてきて妄想を中断する。


驚きつつ周りを見渡すも、俺の様に慌てふためく人達はあまりいない。

代わりに肉食獣を思わせる様なギラついた笑みを浮かべ、幾人かの同業者達が我先にと外へと飛び出していく。


かと思えば組合所に居る警備員や社員の人達はこの異常事態を何の気にも留めず、普段どおりに業務をこなしている。変化があるとすれば精々『五月蝿いなぁ』と言わんばかりに眉を顰めている輩が数名ばかし居るだけだ。


彼等の様な一般人が眉を顰める程度でも、聴覚が良い俺には致命的な事だ。

必死に両手で耳を防いでいると、組合所の奥から装備が整った兵士の一団が悠然とした歩みで外へと向かっていく様子が見えた。


ふと、その中に見覚えのある顔を見つけて俺は驚いた。

相手も此方に気づいたのか、態々その集団の中から抜け出して俺の近くに小走りで駆け寄ってきた。



「……久しぶりだな。木津……殿」



耳から両手を離すと、既にサイレンとアナウンスは止んでいた。

俺の前に立った宮木伍長は俺が耳から手を離した時を見計らい、挨拶を口にしながら一瞬視線を彷徨わせると、言葉尻に殿などと付け加えた。



「はい、お久しぶりです。……あの、殿なんて呼ばないでいいですよ。賠償品も受け取りましたし、もう終わった事ですから」


「ははは、そうか。そう言ってもらえると助かる……。本当にすまなかったな」



宮木伍長は神妙にそう言って最後に頭を下げる。

そして、次に顔を上げた時にはクースで見せてくれた人懐っこい笑顔が浮かんでいた。



「っよし、湿っぽいのはここまでだな! どうだ? 木津よ、オマエも迎撃に参加するのか? 行くなら表にトラックが停まってるからな。一緒に行くか?」



宮木伍長が何やら提案してくれたのだが、俺には何が何やらさっぱりである。

とりあえず何が起こってるのかを聞くが、宮木伍長は大きく目を剥いて驚きを表した。


俺は慌てて何処ぞの田舎からこの町に着たばかりという趣旨を伝えると、少し訝しみながらも宮木伍長は説明してくれた。


結論から言うが、どうやらヤウラは定期的に荒野を彷徨っている無人兵器から襲撃を受ける時があるそうだ。


俺はそれを聞いて一瞬仰天したが、よくよく考えれば人間を襲う様に命令が下されているのならば町を襲うのは当然の事なのかな? とは言え当然対策が施されており、ヤウラの周辺には塹壕やら戦車とか迫撃砲も設置されており、滅多に被害が出る事は無いらしい。


確かにクースに向かう時にそれ等を見掛けた気がするが、俺はてっきり街中に収容できない軍事兵器の置き場を確保する野営地とでも思っていた。


宮木伍長が言うには荒野を彷徨う無人兵器は確かに危険だが、迎撃体制が整っている町周辺ではむしろ格好の獲物であるらしい。大抵は突発的な戦闘で一瞬で片が着くばかりだが、偶にヤウラ周辺で偵察を行っていた部隊が町に向かう無人兵器を発見し、今回の様に迎撃体制を整えられる十分な時間が確保できる時があるようだ。


そこで出てくるのが組合所に所属する一攫千金を夢見た俺達だ。

組合所に所属する者達がまず迎撃に当たり、そのまま成功すれば無人兵器の高額な部品を自分達で山分けできるし、もし失敗したとしても軍が後始末してくれる。


俺達は稼げるし、軍も弾薬費や装備の消耗を防げるwinwinな関係を築いているのだそうだ。


勿論危険もあるが、町の近くで戦うならば余程の深手を負わない限り直に治療が受けられる為、死亡する可能性も低い。


話を聞くとこの迎撃戦に参加する事だけで生計を立てている者もいるらしい。なんだか傭兵みたいで格好良いね。男として憧れちゃう。



「ってな具合だな。どうだ? 参加するか? サポートはバッチリしてやるぞ!」



一通りの説明を終えると、宮木伍長は俺に再度参加するかどうかを尋ねてきた。



「……でも俺って射撃武器がDFしかないんですよねぇ。HAで殴ろうにも他の人達の射線を遮りそうだし、そもそも無人兵器に接近って簡単にできないですよね?」



俺が武鮫とホルスターに収まったDFを見せながらそう言うと、宮木伍長は苦笑した。



「確かに……なぁ。いや、待てよ? HAを装備しているなら……。オイ!! ケ二ー!! 荷台にレイルガンは積んでるのか?!」



宮木伍長は顎を擦りながら何かを考えていたのだが、突然遠巻きに此方をチラチラ見て会話を交わしていた兵士数名に向かって大声を張り上げた。慌てて兵士達は会話を取り止めると、呼ばれたであろう一人がその集団の中から一歩踏み出し、機敏な動作で両足を綺麗に揃えてから返事をする、



「はい、伍長! レイルガンは積んでありますが……」



答えた兵士は言葉尻を窄めて疑問を表すが、宮木伍長はそれを気に止めずに一つ大きく頷いた。

そして俺に向き直ると、口の片端を上げて茶目っ気たっぷりな笑みを表情に貼り付けていた。



「木津よ……組合所からの詫びだけで全て終わりってのは、やはりミスを犯した俺自身が納得いかん。そこで、だ。今回だけ特別に俺の部隊に配備されてある、磁気火薬複合製発射機構のHB仕様レイルガンを貸してやる。HB仕様のレイルガンはそれなりに反動があるが、その分威力は絶大だ。お前さんのHAがどれ程の物かは知らんが、生身で撃つよりかは命中率は高くなるだろう」


「え、えぇ~!? いや、そんな凄そうな物を俺が使ってもいいんですか!? 弾とか高いんじゃ……」



突然の申し出に俺は慌てて疑問を口にすると、宮木伍長は腕を組んで大きく頷いた。



「まぁな……一発撃つ度に弾は勿論の事だが、コンデンサーへの充電代も合わせて二百ボタは掛かる。だからお前さんに貸すとは言っても無料で撃たせるのは二発までだ。それ以上は流石にな……。どうだ? 当てる自信が無いなら撃たなくて終わってもいい。チャンスが来たら撃てばいいんだよ。そう難しく考えなくてもいい。経験を積む為の見学ついでって感じで、気楽に構えて行けばいいんだぞ」



そうは言うものの、此方を見つめる宮木伍長の目の中に期待を含む輝きを見て俺は咄嗟に断れない事を察した。


まぁ撃つかどうかはともかくとして、依頼開始時間までの暇を潰すには確かに丁度良いかもしれないな。

それに宮木さんの俺に対する後ろめたい気持ちもこれで解消されるのならば、俺としても歓迎する所ではある。


俺はそう自分の中で折り合いをつけ、一つ頷くと長椅子から腰を上げて宮木伍長に快諾する。

宮木伍長は何処となく表情に安堵を覗かせながら微笑を浮かべると、俺の背を軽く叩いてトラックへの案内を開始してくれた。






▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼






その機械は能力が低下したAIを駆使して必死に思考を展開していた。

任務経過時間を表すカウンター表示が『9』の表示で埋め尽くされた程に遠い昔で受けた命令を果たそうと、ぼやけた青い電子世界を通した視線の先で遠くに目標を確認してからずっと。


規定通り目標発見の報告を同士に向けて放つが、何時も通り返事は返ってこない。

ふと、最後に交信したのが何時だったのか思い出せない事に機械は気付いた。

代わりにそのメモリーは不必要な物として、少しでも処理機能を向上させようと既にずっと前に消去した事を思い出した。


長く整備されてない鋼の体。自己修復をしてくれるはずのナノマシンは、命令を受けた最初期の激戦で酷使した所為で既に機能を停止してしまっている。


錆だらけの巨体は既に全盛期の動きを再現する事は叶わない。

その機械が今まで機能を停止する事を防いできたのは壊れた同士達の残骸からパーツを回収し、それ等を駆使して生き長らえて来たからだ。


継ぎ接ぎだらけの体、もはや機械が使っている元のパーツは既にAIチップだけなのかもしれない。

だが、そんな事を機械は気にしない。 受けた命令を果たす。それが機械の生まれた存在意義なのだから。


相手方の人数や配備された迎撃兵器の数、己の中にある残弾数、それ等を計算し、ようやく機械のパフォーマンスが落ちきった計算処理機能が弾き出した任務達成確率は、限りなく0に近い数字を叩き出した。


少しでも任務達成確率を向上させる為、機械は衛星軌道上に存在するはずの軍事衛星へ支援を要請しようと、通信回線を開きコードを転送する。


だが、これもまた意味を成さない。空しく時が過ぎただけ。

機械は長い年月世界を彷徨い、戦ってきた。そしてどれだけ損傷が激しくとも、機能を停止する事を良しとはしなかった。


通常、敵への技術奪取を防ぐ為に無人兵器の大半には、損傷度の度合いによってAIの自己判断で行われる自爆機能が備え付けられている。


しかし、何時からか――全てが《敵》となった。各国間で結ばれた条約は全て破棄され、非戦闘員への殺傷行為も解除された。自爆機能への移行を制限され、代わりに『All weapons free』――全ての武装制限を解除された。


その直後――機械はある命令を受信した。



命令を果たそう。機械は何の疑問を抱かず、まず近くに居る――何時も己を整備してくれていた整備班を始末した。


命令を果たそう。機械は戸惑いを見せるかっての友軍を無情に蹴散らし、基地を破壊した。


命令を果たそう。機械《群》は都市に向かって進行を開始し、全てを破壊した。


命令を果たそう。機械群は世界に向かって、終わりなき戦いに身を乗り出した。



幾年の時が流れたか分からない。しかし、まだ命令を果たせてはいない。まだ――安寧の時は訪れない。



孤立無援。尚且つ衛星軌道上からの支援も期待できない以上、機械が目標を破壊する事は叶わないだろう。


しかし、そんな事を気にも留めずに機械が相手方の戦力計算を終え、伏せていた巨体を持ち上げると、錆だらけの巨体がまるで雄叫びを上げたかの様に大きく高鳴り、 それは荒野に大きく響き渡った。


その出で立ちは、まるで大昔の武人が敵と相対した時に行う名乗りを上げた姿の様に勇ましく、儚くも、どこか眩く見えて――。



――m……令…………果……う。ノイズ塗れの思考を戦闘行動への処理機能に移行し、機械は孤独に行進を開始した。




もう一度言わせていただきます、大変お待たせして申し訳ないです。

リアルでの都合が夏と言う時期と合わさって大変忙しかった事もそうですが、まだ物語の序盤であり、修正が容易いのでプロットを見直してたりしてました。


何時か出てきた剛塚や、謎の女性の存在などを見て分かるとおり、ネタが尽きた訳では無いので……そこら辺は安心して下さって構わないです。

寧ろこの崩壊世界に思いを馳せると、次から次へと書きたい事が湧き出て来て、どれから手を着けて良いか迷ってます。ふひひ……。


あと『レイルガン』と言う表記ですが、何故『レールガン』と言う表記にしなかったのかと問われれば、あくまで『架空兵器』である事を強調したかったからです。


DF等もモデルにした銃はありますが、現実には無いですしね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりに読んだけど相変わらず言い回しが最高に面白くてにっこにっこになります。 ナチュラルで狂人言動しちゃうのに何故か共感できるのが大好き
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