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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
18/105

信じてる

「っは……っはぁ?!く、暗い! 怖い!」



目覚めた俺は、まず混乱した。

何故なら視界全てが真っ暗闇だったからだ。


まさかさっきの戦闘で目を負傷したのか? そう思って瞼を擦るが、生憎目脂っぽいのしか取れない。

いや、それでいいんだけどさ。目玉とか取れたら発狂するわ、絶望のあまりディフェンダーで頭を撃ちぬくかもしんない。


次に体のダメージはどうだ……? 体の熱を持っている場所をゆっくりと触っていく。



「っあ……痛いぃ……。けど、まぁうん……死にはしないか」



青痣ぐらいはできるかもだが、それで済めば御の字だろう。

胴体を良い様に殴られすぎたな、顔も痛いが別にアイドルじゃないしどうでもいいや。

多分骨は折れてないはずだ、最悪としても皹くらいだと思うが多分平気だと思う。


次に状況を探るべく手探りで周りを調べると、直に何かが手に当たった。

すぐにソレを覆う様にして掌を置いて、さわさわする。


ヒンヤリとしたソレは所々尖った様な部分もあって……!!



「ボスLG式だこれー!?」



慌てて弾き飛ばすと、耳障りな音を立てて奴が俺から勢いよく離れていくのが分かった。

しかし、次の瞬間急に眩い光が暗闇の中で凝らしていた俺の眼を不意打ち気味に焼いた!!



「ぐああああああああ!! め、眼がーーーーーー!!」



体の耐久力は上がったが、こういう刺激には弱いらしい。

俺はどこぞのラピュ○王の様に瞼を押さえる事しか出来ない。

俺は暫く悶えながら徐々に掌の中で瞼を開き、少しづつ明かりに鳴らしてからようやく手を退ける事ができた。


空けた視界の先には《通路》があった。

眩いほどに磨き上げられた白い廊下は天井からの白い輝きを跳ね返し、光を増幅させている。

一瞬夢でも見てるのかと思ったが、通路の先にボスLG式の姿を見つけその考えを没にする。


とりあえずエレベータの中から転げる様にして這い出て上を見上げる、すると大きな穴が開いており其処から落ちてきたのだと分かった。

何とか覗き込むが、この明かりの中でも中は真っ暗であまりよく見えない。



「どれだけの高さから落ちたんだ……?」



それに此処は何処だ? 病室っぽい部屋とかは無いし、困ったな。


俺はとりあえずボス式LGに近づいて膝を着く、そして残り僅かになっている装甲板を引き剥がして中を漁る。

コイツは凄い強かったし、もしかしたら部品が高値で売れるやもしれん。

とりあえず無事そうな部品を中から取り出して廊下に並べた所で、俺はある事に気付いた。



「そうだよ……リュック置いてきたんだった。抱えるだけ抱えるしかないか」



重さは問題ないが、細かい部品とかが落ちてしまう。

そういう物はできるだけジーパンのポッケや、ベルトポーチの中に詰めて俺は廊下を歩き出した。


広い廊下に寂しく俺の足音だけが響き渡る。

たまに右に曲がったり、左に曲がったり、またまた右に曲がったりを繰り返すだけで一向に何のドアすらない。


おいおい、何なの? 暫くして曲がった先に一緒に落ちて来たエレベーターがあったりしたら俺泣くよ?

俺はゲームにある迷いの森系とか大嫌いだからね、製作者の悪意を感じるから。

ゴール手前で最初に戻るとかなったら積みゲーと化すからね?


俺が辛い現実を避ける為の自己防衛妄想システムが作動し始めた頃、ようやく通路の途中に一つのドアを見つけた。

何とか発狂する前にソレを見つける事ができてよかったと、深い安堵の溜め息を零しながら近づいていく。


扉は両開きで鉛色、一瞬エレベーターかと期待したがボタンは無い。

代わりに、何か小さいガラスみたいな四角形の物が近くの壁に張り付いてあったので指で押してみる。



《エラー! 登録されたDNAではありません》



初めて扉に拒絶されてしまった。

何か好みに似た女性の声だったし、少し傷ついた。


とりあえず、他に行く場所もないので俺は床に部品を下ろすと気だるげに武鮫を構えた。



「ふーん……なら覚えておけ。これが俺のDNAだっ!!」



色々と疲れ切っていた俺は傍から聞いたら誤解されるであろう台詞を放ち、何の考えも無しに武鮫を扉に叩き付ける!!

すると頑丈そうな見た目とは裏腹に、あっさりと扉は奥に乱雑な軌道で吹き飛んでいった。

俺は満足そうに一つ頷くと武鮫をパンパンと右手で叩く。



「困った時はこの手に限る」



困ったらとりあえず叩いとけばハプニングは乗り越えられるからね、少なくとも映画の中ではそうだった。

部屋の中は暗かった、いや一部分だけ青白い光が見える。

とりあえずソレを確かめようと部屋に足を踏み入れると、直に明かりが自動で点いた。


部屋の中は何と言うか……よう分からん床に設置された大型の機械で一杯だった。

首を捻る事しかできない俺は、次の瞬間思わず大声を上げた。



「ま、まさか宝の山じゃないのかコレ?! ど、どうしよう! もって帰れるか?! いや、そもそも此処から帰れるのか俺!?」



うわー、と鼻息を荒くしながら部屋の中をキョロキョロ見渡しつつ足を踏み入れる。

と、先程外からも見えた青白い光が見えた部分が気になったので其方に足を向ける。


その機械は細長い物で、まるで棺の様に見えた。

何となく嫌な予感を感じながらも、光を放っている部分をソーッと覗き込んで俺は絶句した。



――青白い光に包まれる様にして、女性が居た。



しかも丸裸だ、いや首元ぐらいまでしか見えてないが多分そうだ。

ただ、興奮とかはしないよ? だって真っ青だもんこの人、仏かな?



背中に広がるようにして長い白髪……というか凍り付いてる感じのロングストレートが背中の後ろまで伸びてる様に見えるが、どこまであるかはわからないな。

機械の中で眠る彼女の顔は本当に穏やかで、まるで今にも起きてきそうだ。

とはいえ、閉じられたまつ毛が急にフルフルしだしたら多分ビビルがな。


顔を見る限り……俺より年上だな二十歳くらい?

小ぶりな唇はほんの少し開いており、まるで吐息を吐く為の様にも見える。



とはいえ、白い靄が時折彼女の顔を過ぎってよく見えない。

俺は機械に手を当てながら、四方から何とか中の様子を確認すべく覗き込もうとする。

すると何かを押した感じがして部屋の中に機械音声が響き渡った。

俺は敵の襲撃かと身構えるが、流れてきた言葉に愕然とした。



《解凍を開始します。周囲のスタッフは後ろに下がってください。繰り返します、解凍を……》


「ぅええええええ!? あ、あかん!! やっちまった!! す、ストップ!! ストップ!! あ、冷たい!! っていうか痛い!!」



俺は慌てて押したと思われるボタンを、ポケモ○を捕まえる時の様に猛プッシュするが止まる気配が無い。


あ、そういやあれってデマなんだっけ? くそ騙されたぁ!!


そうこうしている内に機械の隙間から白い煙が冷気を伴って噴出し、急激に機械と周囲の空気が痛いほど冷たくなったのに耐え切れず後ろに下がる。


俺はこういうのにも弱いのかぁ、とまた一つ自分の耐久度の弱点を認識しつつ呆然と見守るしか出来ない。

ガクブルしながら先程の戦闘でボロボロになったローブを押さえている内に、徐々に煙が収まっていくにつれ部屋の温度も徐々に戻っていく。

そしてようやくヤカンの火を止めた時の様に、噴射されてた煙の動きは緩やかになり……消えた。



「……どうしよう」



思わず呟いた瞬間、最後っ屁を放つかのように機械からまた勢いよく煙が紛失されてビクッとする。

それが終わって今度は機械の蓋が持ち上がって上に開いていく。

完全に開け切った状態になったが、機械の中から先程の女性が出てくるような気配は無い。


恐る恐るすり足で近づくと、俺は思わず鼻を押さえてしまった。

先程とは違い機械の中に居た彼女は完全に肌の色も戻っており、しかも全体が何も隠されておらずバッチリと色々見えてしまったからだ。


あ、あかん。里津さんと暮らしてたし、色々忙しかったから最近リビドーを放ってない俺には刺激が強すぎる!!

だけどチラチラ見ちゃうのは男の子だからだよ? 仕方ないよね、生物の性だもん。


思わず顔を赤く染めてジーッと彼女を見つめてると、突然カッ!! とまるでホラー映画の様に彼女の瞼が開け放たれた。

俺はあまりの事態に驚きを通り越して唖然とし、機械の中にいた彼女も俺を見つけると徐々に瞼を震わせて、まつ毛に僅かに付着した粒氷を振るい落とす。


彼女はそのまま何事かを呟こうと口を数回開け閉めする。


俺を見つめて何かを言いたい様だが……瞬きを止めて此方を見つめる様は凄く怖いです。

正直近づきたくないが仕方ない、俺は彼女の体を見ない様に顔を背けつつ彼女にゆっくりと近寄って耳を寄せる。



「こ、こち……こちらを……向いて下、さい」


「えっ? み、見てもいいんですか? あ、後で怒らないで下さいよ?」



慰謝料要求されて、これ以上借金背負わされても嫌だからな?


俺が至近距離で彼女の顔を見つめる形になる、すると先程の苦しそうな表情は一体何処に行ったのか、彼女は普通に瞬きをしながら冷めた目で俺を見ているではないか。

その冷たい視線とまだ僅かに残る冷気に俺がゾクゾクしていると、突然後頭部を乱雑に彼女に右手で掴まれた。



「登録するDNAを採取します」


「は……んぅ!?」



次の瞬間、彼女はいきなり俺を無理矢理機械の中に引きずり込んで唇を合わせてきた。

正直抵抗しようと力も込めていなかったので無理もないが、それ以上に彼女の力が強すぎる気がした。

振り解こうにも彼女の柔肌に触れていいのか戸惑っていると、何と彼女は大胆にも舌を入れてきて俺の口の中を舐め回すように動かす!


息苦しさと混乱の中で俺はただ耐えるだけで瞼を必死に閉じていると、ようやく満足したのか彼女がやっと俺を解放してくれた。

俺は慌てて初キスを奪われた生娘の様に顔を真っ赤にしながら、口を押さえ後ろに蹈鞴を踏んで距離を取る。


いや、初キスだけどさ。こんな海外のAVみたいなキスだと予想してなかったし。


彼女は俺とは対照的に動揺を見せずに、ゆっくりと足を片方ずつ出して機械から出てきた。

そして前を隠そうともせずに色々揺らしながら俺の前に素早く立って見下ろしてくる。


で、でかい、180はあるかもしれん。うん、まぁ他の物もでかいけどさ。

長い白髪……ってか銀髪? は腰の辺りまで伸びており部屋の明かりをキラキラと反射している。

此方を見下ろす眼は真紅であり、その瞳の色とは違って向けてくる視線はすんごい冷たい。

鼻は高く、頬はスッキリと逆三角形を描いており顎もスッとしている。

唇は小ぶりだが潤いを保っており、しかも厚くてエロイ感じだ。


俺が彼女の放つ威圧感と豊満なボディに圧倒されていると、突然目の前で彼女が跪いて衝撃的な事を口にした。



「これより、この身は貴方の物ですマスター。どうか、私に名をお与えください」


「…………勘弁してくれよ」



当然と言うべきか、俺は彼女の問いに答える事ができないまま部屋を静寂が包んでいった。










▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼











「あーあ、最近何も狩れてないよぉ。沿矢君に自慢できないじゃん」



今日も荒野を一日中駆け回り獲物と会えなかった苛立ちからか、珍しく普段は行儀の良い弓が助手席にだらしなく背を預けながら言葉を発する。

弦は街中にあるコンクリートの皹や窪みに気をつけながら車を運転し、孫のその態度を横目で見ながら諌めるように小さく言葉を返す。



「貯えはまだあるだろうに……そう焦るな。それと木津に自慢も何も、あいつはオメェを最初から尊敬している様に見えたが?」



それどころか奴は俺にも尊敬の眼差しを隠す事無く向けてくるぞと、弦は弓に見える様に口角を僅かに上げた。

組合所に行けば、どちらかと言うと妬みの視線の方が多い中で沿矢の様な男は珍しい。


――ああ言う真っ直ぐな男が多ければ、組合に所属する同士達のトラブルも少なくなるのだろうが……。


そう小さく弦は憂いを帯びた溜め息を零す。

弓は分かってないとばかりに勢いよく体を撥ね起こすと、弦の横顔に向かってブーブーと不満を垂れ流す。



「分かってるよぉ! だから、お姉さんとして恥ずかしくない振る舞いを見せたいのっ!! 沿矢君もそうすれば私を頼ってくれるかもしれないし!」



ぷんすかと擬音がつきそうな程の勢いで、弓は大声で高らかに自分の考えを主張する。

弦は弓が何を言ってるのかと眉を顰めたが、ふと先日沿矢に会った時の事を言ってるのだと気付いて驚きつつ言葉を返す。



「弓よ。なんだオメェ、まだ納得いってなかったのか? クースは別に危険な所じゃねぇって、態々俺達も調べてから狩りに出かけたじゃねぇか」



そう、沿矢がクースに行くと聞いて二人は一応あの町の事を調べておいたのだ。

クースまさしく初心者が基本を学べる良い訓練場みたいな場所だと、弦は調べた結果で思った。


デパートやスーパーにいるOG式は行動パターンの基礎を押さえていて、それを理解すればLG式やBA式に対処する時も生かせる経験は積める筈。

それにクースは時折情報を知らない者か、程度を弁えてない無謀な者が病院に足を踏み入れた時ぐらいでしか死者は出ていない。


他の町と比べると発見されたばかりで比較的荒らされてもいないし、良い経験と物資を手に入れてくるに違いない。

弦はそう思い至り別段何の心配もしていなかったし、奴を案内したのが顔見知りの受付嬢だと知って沿矢が情報面も知り得ているのを確信する。


彼女の面倒見の良さは仕事の域を超えている所があり『いいスカベンジャーになりたきゃ、登録するのに田中を選べ』とまで主張する者もいる。


弦がそれ等を述べつつ、少し心配しすぎじゃねぇか? そう弦が弓に言うと弓は顔を伏せた。



「だって沿矢君って少し無茶な所があると言うか、見てると守りたくなると言うか……」



そうか? 弦はその声を漏らすのをグッと押さえた。

一言それを漏らせば、またもや大声で反論してくる事は目に浮かんで見えるからである。

黙って運転に集中し組合所で燃料を補給して帰るべく速度を上げようとした所で、バックミラーに僅かに明かりが反射したのに気付く。



「え? なに? ……送迎トラック? 今日戻ってくる日だっけ……載ってないや、ってことは怪我人が出たんだ」



弓がバックから予定表を取り出して確認を取ると眉を顰めた。


ある程度の銃創や切り傷は現場で手当てできるが、怪我の度合いが酷いと組合所でないと治せない。

あまりに酷い時はそのままメイン居住区にある病院に搬送される時もあるが、それはランクが高くないと行われない。

その様な大怪我を負った者はもう仕事に復帰できないかもしれないし、ランクが低いという事は蓄えもないであろうからだ。

非情な様だが、医療品は貴重品なのだ。誰もそれに文句を言う事は無い、組合所で治療を受けさせて貰えるだけでも御の字なのだ。


弦はトラックが猛スピードで近づいてるのに気付き、大人しく道の脇に車を寄せて道を譲る。

するとトラックが脇を通る時に感謝のクラクションを一つ鳴らした。

どうやら、礼儀の良い兵士の様だが彼等のような者はあまり多くは無い。


続いて物資回収用のトラックも過ぎていった所で、後に続く様にハンドルを戻し後ろに並んでトラックを走らせる。

トラックの荷台には査定を受けるであろう纏められた荷物は一つしか置いてない。


それを見るとどうやら今日出発した組で怪我人が出た様だが……。

弦がそこまで考え込んだ時、弓が急に瞼を細めてフロントガラスに顔を覗かせる様にした後に、突然車の窓から身を乗り出してライフルを正面に向けてスコープを覗いた。



「ばっ!! 弓!! 何してる!! やめねぇか!!」



下手をすれば、いや間違いなく銃をあちらに向けてる所なんぞを見られたら、軍に注意を受ける所ではすまなくなる。

弦が取り乱すのも無理は無い、あわやハンドルを切って脇道に入ろうとした所で弓が車の中に戻ってくる。



「何を考えてる!! 奴等が容赦をしない連中だって事を……どうした、弓?」



弦は弓の無謀な行動を大声で咎めようとしたが、弓の表情が青く染まってるのに気付いてトーンダウンさせた。

弓は胸を押さえて自分を落ち着かせようと数回を息を吐き、ゆっくりと弦に向き直った。



「あ…………君の……」


「……何?」



呟くように吐かれた言葉は、トラックの騒音で聞こえなかった。

弦が眉を顰めて問い返すと、今度は先程とは違って大声で弓が叫ぶ様にして言った。



「あれ! 沿矢君の査定物資だった!! 名前が書いてあって……クースで何かあったんだよ!!」


「…………っ!!」



弦は一瞬声を詰まらせたが、すぐに弓を落ち着かせる様に頭を素早く回転させて言葉を吐く。



「弓よ……そうだとしてもだ。査定物資があるんなら無事に戻ったんだよ奴は! 今頃はキャンプで休んでるか……下手すりゃ前のトラックに乗って戻ってきたかもしれん」


「え……あ、そ、そうか。そうだよね……。じゃあ、誰かが病院にでも行ったのかな」


「そうだろうとも。丁度いい、組合に着いたら聞いてみるか」



弓を落ち着かせはしたが、弦も内心では嫌な予感を感じてはいた。

だがそれを顔に出すような真似はせず、ただ前のトラックに追随するのみだった。


会話で溢れてた数分前が嘘の様に車内は静まり返り、ただ早く着けと願うばかりだった。

いや、もしくは着かない様に彼等は願っていたかもしれない。



――そうすれば、残酷な真実を知らずにすめるから。



しかし時は止まる事をしない。

組合所に着くとすぐさま送迎トラックから怪我人が二人運ばれていくのが見えた。

怪我人は兵士達と付き添う様にいた一人の女性スカベンジャーに囲まれて慎重に運ばれていく。


弓はすぐさまトラックから出てその運ばれていった二人が沿矢でない事を確認し終えると、今度は送迎トラックから降りてくるであろう荷台へ視線を向ける。

と、其処でようやくトラックのエンジンを切った弦が弓の横にならんで話しかけてくる。



「どうだ? 運ばれてたのは奴だったか?」


「ううん、今から事情を聞いてみるね。……あの! だ、大丈夫ですか? クースで何かあったんですか?」



トラックから出てきたのは一人だけで、その女性が組合所に入ろうとした所で弓は血に濡れていた彼女を気遣いづつ声を掛ける。

その女性はセミロングの茶髪をなびかせて素早く此方を向く、その女性はリュックを一つ背負いもう一つは片手に持っていた。

手に持っている方からは恐らくOG型と思われる手がはみ出ているが、背負っている方には何も入っていない。


背負う荷物が逆なのでは? そう弓が困惑した時に彼女が口を開いた。



「この血は私のではない。廃病院にアタックした奴等がいたんだ。彼等は罠に掛かり、九人中生還したのは三人だ。いや……一人は助かるかどうか分からないな。今から治療を受ける所だ」


「は、廃病院……? あ、あの新人の子はいませんでしたよね? 私と背が同じ位で黒髪の中肉中背な男の子なんですが……」


「っ……!!」



弓が不安気に問うと、冷静に話を進めてくれていたその女性の瞳が揺れた。

しばらく沈黙が流れ弓が再び問おうとした所で、その女性は大切な物を扱うかの様に両手に持ちなおしてリュックを押し付けてきた。

戸惑いながらも弓はそれを受け取ってリュックと女性を交互に見ていると、彼女は瞼を伏せて思い出す様に言った。



「木津 沿矢と言う子だろう……? 彼は……私がキャンプに怪我をした男性を運んだ後、また病院へ戻ろうとした私に着いてきてくれた。そして病院の中に生存者を救出に行って見事に女性二人を救ってくれた。彼のような……勇気を持った人物を私は初めて見たよ。それは彼の荷物だよ、私より知り合いの君が持つのがいいだろう」


「え? あの……」



弓は彼女が何を言っているのかよく分からなかった。

戸惑う弓とは違い、弦は彼女が何を言っているのかを理解して無念そうに瞼を閉じた。

そして彼女は最後に瞼を開けて弓に視線を合わせるとハッキリ言った。



「彼を最後に見た女性は、彼がLG-103式と相対して逃がしてくれたと言っていた……残念に思う。では私はこれで……失礼する」



彼女はそう言って顔を伏せると、素早く組合所に入っていった。

弓と弦はその場に佇み、しばらく沈黙の時を過ごした。


だがいつまでもそうしている訳にはいかないと、弦が弓の肩に手を置こうとした瞬間に弓は弦の方へ機敏な動きで向き直った。

弓は憮然とした表情で、弦が想像していた表情とは違い彼は呆気に取られた。



「行こう、弦爺」


「は? い、行くってオメェ……」



どこへ? その言葉を弦が発しようとした瞬間、弓は髪を逆立てる勢いで弦へ怒鳴りつけた。



「クースに決まってるじゃない!! 別に沿矢君が死んだ所を見た訳じゃないのにさ!! 何を諦めてるのよあの人達はぁ!! もし生きて戻ってキャンプが無かったら飢え死にしちゃうじゃない!! あったまきた!! 無責任もいい所だよ!! 早く私達が迎えに行かなきゃ!!」


「い、いや、だが燃料が……」


「だったら早く補給してきてよ!! 私も食料と水を用意しとくから!! ほら行ってよジージぃ!!」



弓が弦を『ジージ』呼ばわりする時は余程の不安を覚えているか、興奮しているかのどちらかである。

恐らく今回は後者であるようだ、弦は弓のあまりの勢いに押され慌ててトラックへと駆け戻っていく。

弓はそれを見届けると、顔を雑に袖で拭って食料と水を調達すべく組合所の扉を潜った。



「信じてるからね……私は」



リュックを抱える手を握り締め弓が吐いたその呟きは、クースの悲報を聞いてざわめくフロアの喧騒に紛れて消えた。



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