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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
17/105

赤く染め上がった奴は強い

8/23 誤字や脱字を修正しました。

病院の中が広くて助かった。

あんなに格好付けておいて、いざ入ろうとした時に入り口の両脇で廃車が詰まったらコントだからな。


時折天上に設置されてある、恐らく無人警備用の銃が此方に向けて撃ってきたが、この廃車を貫く程の威力は無い様だ。

ただひたすら弾が切れるまで待つ事もできたし、リロードに入った所をディフェンダーで撃ち抜いて破壊する事もできた。


俺は設置されていた長椅子やテーブルを薙ぎ倒しながら、時折出くわしたLG式の警備ロボを廃車を使って無理矢理壁に叩き付けて始末する。


ただ、LG式の銃撃は強力なのか段々と廃車をへこませてきやがる。


このままではいずれ大破してしまう、いや既にボロボロなんだけどさ。

一度戻って廃車を交換しようか……? いや、それでは生存者達の救出に間に合わないかもしれない。


焦りと廃車を抱えながら俺が十字路の半ばまで足を進めた時に、視界が遮られて見えない廃車の向こうから銃撃が飛んできたのが分かった。


慌てて廃車を床に着け踏ん張るようにして耐えるが、俺の優れた聴力がその銃撃音が重なって聞こえてくる事を捕らえて眉を顰める。



「に、二機いやがるのか?!」



誰に問うわけでもないが、金属が叩く耳障りな大音量の中で驚きの声を上げてしまう。


い、いかんぞ。確実にもう限界が近づいてきてる。

だってたまにヒュンって聞こえるもん、絶対弾が廃車を貫いてますやん。


俺が思わず力任せに通路の壁をぶち抜いて退避しようか悩んだ矢先、その音が止んで代わりに規則正しい金属音を伴った足音が聞こえて来た。恐らく弾が切れてLG式が接近戦モードに移行した様だ。



「っしゃあ!! 鉛弾のお釣りは廃車となっておりまーす!!!」



これ幸いと思い至り俺が廃車に足を当てて全力で蹴り出すと、廃車は少し浮くようにしてボーリングの玉の様に通路の壁を削りながら弾き飛んでいく。


此方に向かってきていたLG式はこの狭い通路でソレを避けきれず、そもそも避けようなどと思わなかったのかもしれないが、素直に廃車に床へ押し潰される様にして耳触りな音を立てながら通路の奥へ消えていった。


盾を失った俺はディフェンダーを構えながら十字路の真ん中に立って左右を確認すると、二人の女性が今まさに階段から降りてきた所に出くわした。


俺は思わず安堵の息を吐き、左手で大手を振って近づいてく。

一人は無事な様だが、一人は右腕から血を流している、早く此処から出た方がいいだろう。



「大丈夫ですか!? ささっ、ここから直に出ましょう!! 来る時に天井の銃は破壊したんで直に抜けられます!」



矢継ぎ早に声を掛けながら、俺は彼女達の前に立つと唖然とした彼女達の視線が武鮫に向いてる事に気付いた。


ここまで来て隠しても仕方ないし、俺は彼女達を安心させようと武鮫を持ち上げて語りかける。



「コイツがあれば大丈夫です! さぁ、行きましょう」


「え、えぇ……。ええ、そうね! 行きましょう!」


「助かったよ……ありがとう」



怪我をしてない女性はハッと何かに気付いたように銃を下ろし怪我をしてる女性に肩を貸す、俺が支えてやろうと思ったが俺は道を先導した方が彼女達も安心するだろう。


彼女達を背後に来た道を戻ろうとして、十字路の反対側に寂れた自動販売機らしき物体を見つけた。

思わぬ天の恵みに感謝しつつ俺は自動販売機に小走りで駆け寄り、勢いをそのままに武鮫を突き刺して先程の廃車の様に盾にする。

先程より大分小さいが無いよりはマシだ、それに小回りも良いし案外悪くないかもしれん。

俺は自動販売機を抱えて準備できたと彼女達に向き直って頷いてみせると、彼女達は引き攣った顔で頷きを返してくれた。


そりゃあ怖いかもしれないけどさ、少し傷つくなぁ。

これで武鮫がHAじゃなく偽者だって気付かれたらどうなっちゃうの?

まぁ迫田の様に『すげぇ!』って言われても困るけどさ。


釈然としない思いを抱えつつ、自動販売機を盾に通路を進みながらふと思い立った事を口にする。



「そういえば……生き残ったのは貴方達だけなんですか? 病院の三階から男性が一人飛び降りて、ルザード先輩がキャンプに運んでは来たんですが」


「三階から……? ああ、はぐれた男ね。ウスタゴの人達とは分断されたし、多分もう生きてはいないわ。いや……そもそも奴等の所為で……!」



女性は何かを思い出す様に視線を彷徨わせていたと思ったら、突然顔を憎悪で染め上げながら憤怒の声を漏らす。

俺はそれ受けて少しビビりながら、自販機を構えなおして先を急ぐ。


そうか……あの人達死んだのかな。

確かに他からもう銃撃は聞こえてこないし、分断されて罠に掛かったっぽいし絶望的っぽい。

ハードな仕事とは思ったが、まさかイキナリ同業者と死別するなんて思わなかった。

それとも俺の想像が乏しかっただけなのだろうか……。


そうこうしている内に入り口近くのフロアへ続く通路を抜けた所で、構えていた自販機に衝撃を受ける。

慌てて後ろの二人に右手を向けながら通路に戻って顔を覗かせると、何と受付がある広いフロアで五機のLG式が待ち構えてやがる。

廃車だったら無理矢理突破できたろうが、自販機じゃ被弾する可能性が高い。



「あと少しなのに……」



どうしたもんかと、通路の壁に後ろ頭を当てて溜め息を零す。

と、その時耳を劈く鋭い発砲音が聞こえて来た。

慌てて通路の左右に目配せするが、俺達が撃たれた訳では無いようだ。

だが彼女達はその発砲音を聞いて不安そうに顔を顰めている。


数回鳴ったそれが終わると、次にフロアから五機のLG式から発射されたであろう連なった銃撃の轟音が響き渡ってきた。


だが、銃弾は此方に飛んできてはいない。

訝しげに顔を覗かせると、LG式達は何と外に向けて攻撃しているではないか。



「っ……! よし、少し待っててください! すぐに戻ります!」


「な、なに?」



俺は彼女達の返事を待たずに通路から自販機を構えて飛び出すと、一気にLG式の群れに襲い掛かる。

俺の接近に気付いた一機が此方に銃口を向けようとしたが、自販機を上からハンマーの様に叩き付けて押し潰す!


当然他のLGの火砲が集中する。俺は自販機を他のLG式が居る方向に全力で投げ飛ばし、フロアに並んでいた長椅子の間に飛び込んで身を隠す。


自販機がLG式の群れに激突する音を確認しつつ、長椅子を武鮫で持ち上げて身を乗り出す。

自販機の衝突を受け、大破したのは二機だけのようだ。


残りの二機は今まさに起き上がろうとしていた場面であったが、俺はそうはさせじと駆け寄りながら上から長椅子を突き刺す様にして一機目にトドメを刺すと、二機目にそのまま武鮫の拳を叩き付けて乱雑に破壊する。その衝撃で地面が揺れて、床に皹が入って僅かに欠ける様な音がした。


安堵の息を吐きながら外に目線をやると、廃車の陰から僅かに此方を覗き込んでいたルザード先輩と眼が合った。


どうやら、先程の援護は彼女がしてくれた様だ。

俺は右手を挙げて彼女に感謝の合図を送った後、先程の二人を迎えに戻る。

通路を覗き込むと、彼女たちは地面に座り込んでいた。

一人は俺を見つけると、涙目で胸を撫で下ろした。


どうやら心配させてしまった様だが、あのタイミングしか無かったから許してくださいな。



「さぁ! 入り口は片付きました! ここを出ましょう!!」


「分かった。ほら、立って……もうすぐよ」


「ぅ……ぁ、あぁ助かったの……?」



一人は反応したが、怪我をしている方は意識が朦朧としている。


これはいかんと俺が彼女達に近寄ろうとした所で、パラパラと天井から塵が落ちてきた。

何だ? と眉を顰めた瞬間に天井が崩れ落ちて、何かが俺に勢いよく圧し掛かってきた!



「っな!! こ、こいつ!」



咄嗟に前の通路にその物体を投げ飛ばすと、ソイツは上手に受身を取って素早く立ち上がって見せた。

どうやら新手のLG式の様だ。


その反応速度もそうだが、何よりも驚いたのが俺と同じくらいのでかさだった先程のLG式達より一回り大きい事だった。

奴はバイザーの赤い灯りを此方を睨みつけるように向けてきた、それはまるで奴が憤怒しているかの様な印象を受けた。

迫田が着ていたHAとまではいかないが、太い腕と足はまるで格闘技の様に構えをとって此方に見せている。

そして――本来の蒼いパーソナルカラーを打ち消す様にソイツは全身が血に塗れていた。


まだ滴りを見せる血痕は、コイツが誰かを殺して来た事を主張しているのだ。

だが、その相手との死闘のお陰で弾薬を使い果たしているのか、銃撃は加えてこない。


俺は武鮫を装備した左手を前に構え、右手はホルスターに収まっているディフェンダーを掴みつつ、通路に足を踏み入れてLG式の視線を遮る様に彼女達の前に立つ。



「二人とも、外をすぐ出た所にルザード先輩がいます。先輩と一緒にキャンプへ行って下さい。もしその人の怪我が重傷なら、先に町に戻ってていいです」


「で、でも……君が怪我したら治療できなく……!」



大変な目にあって直にも逃げ出したいであろうに、嬉しくも彼女は震える声で俺を心配してくれた。

もう一人は既に気を失ったのか反応を見せない、不味い状況だ。


俺は視線をボスっぽいLG式に固定したまま、内心の嬉しさを覆い隠し、彼女の迷いを断ち切るようにキッパリ言った。



「じゃあ怪我はしません。いいから行って下さい。頼みますから」


「……分かったわ。気をつけて」



後ろから彼女の励ましの声と、徐々に遠ざかる足音が聞こえた。

奇妙にも、目の前のボスLG式は何の動きも見せない。


最初の交差でどこか故障でもしてくれたのだろうか。

と、その時だった目の前のLG式は構えを解いて棒立ちとなってしまった。

俺は突然の事態に困惑し、動きがとれない。



《……プログラムをテロリスト殲滅から、対外骨格装着者殲滅に変更します》


「はっ?」



ボスLG式が流暢に何事かを呟いた瞬間、両腕の装甲板が降りて両手に覆いかぶさり、まるでナックルの様な形状になった。


瞬間的に俺はこれは不味いと悟り、奴が先程とはまた違った構えを取ろうとした瞬間を狙ってディフェンダーを素早く引き抜き、連続で引き金を引いた。



《火器使用確認、反撃……残弾0。補給を要請……エラー。補給を要請……エラー》



ディフェンダーの銃撃を受けビクともしないのを確認すると、俺は直にディフェンダーをホルスターに戻し、右手も前に出して構える。


どうせ、誰も見てないんだし構わない。それにコイツは少しやばそうな感じがする。



《……攻撃を開始します。お近くの民間人は避難を開始してください》


「っ……!」



ボスLG式がそう宣言した途端に俺は胸に衝撃を受け、気付けば背後に勢いよく弾き飛ばされていた。


俺はフロアの長椅子を弾き飛ばしながら武鮫を床に突き刺して何とか勢いを殺し、直に体制を立て直して視線を向けると、なんと先程まで俺が立っていた位置に奴はいた。



――速い!!



胸に受けた威力は迫田と比べるとそうでもないが、あのスピードは厄介だ。

今度は見逃すまいと目に力を込めて瞼を細めた瞬間、奴が大きく右手を振りかぶって突っ込んできたのが見えた。


俺も前に出てカウンター気味に素早く右手でジャブを打つが、あろう事か奴は巨体にあるまじきスピードで変則的に体勢を崩しながらそれをかわして見せた。



「マジかよ……っ!!」



俺が驚愕の声を上げた瞬間に頭へ鈍い痛みが走り、視界が大きくブレて視線が低くなる。


すぐに右手を頭部に叩きつけられたと認識し、その場を転がって距離を取ろうとした瞬間に今度は腹部へ衝撃を受け、続けて背中にも遅れて衝撃が響く。



「っは……!!」



俺の回避行動を妨害し、壁に向けて蹴り飛ばされたと分かったのはその一連の動作が終わってからだった。


不味い。ダメージはそんなでも無いが、こうまで一方的だとその内俺の耐久力の許容範囲を越えるかもしれない。


俺は近くに落ちていた長椅子を掴むと、大きく振り回して奴が回避できないであろう軌道で叩き付ける!!


だが、奴は見事なスウェーでソレを後ろに下がって回避すると、ナックルを素早く解除して俺の右腕を掴んで雑に通路へ向けて投げ飛ばす。


通路を転がりながらも何とか俺は体制を立て直すと、直にその場から走って奴から逃げる!!


奴と迫田との最大の違いはまさしく速さだ。

迫田は一撃が遅くもHAの巨腕が生み出す破壊力が凄まじかった。

だから俺でも回避できていたし、俺の耐久力のお陰で何とか勝つ事も出来た。


だが奴のスピードは見切れる様な次元ではない、少なくとも今の俺には無理だ。

ダメージが低い内に撤退した方がいいかもしれない、生存者達も恐らくルザード先輩が確保してくれてる筈だ。


そうなると、既に俺が此処に居る意味も無いのである。


幸いにも此処は一階だ。

どこぞの窓でも見つかれば直に抜け出せる。


俺は通路を素早く曲がるも、彼女達と合流した十字路に差し掛かった所で足を止めてしまった。



――何故なら、十字路の中央にボスLG式が立っていたからだ。



思わず顔が引き攣るのを押さえられない、奴はまるで其処にずっと鎮座していたかの様に動きを止めている。


しかし、いまだ付着している血痕が先程の奴と同型と言う証だ。

ここが奴のホームグラウンドだと言う事を俺はすっかり忘れていた。

奴のメモリーにあるであろうここの正確な地図と、あのスピードがあればこの様なホラー染みた事もやってのけられる訳だ。


どうやら逃げる事ができないってのは分かった。

ただ正面から無謀に殴り合っても、先程の回避性能を見れば俺の拳が当たる確立は低いって事は明らかだ。 殴ろうとしては弾き飛ばされ、蹴ろうとしたら掴まれて投げ飛ばされるのがオチだろう。


――せめてボクシングの様に限定された空間とかならまだしも……。


そう考えた時、俺の脳裏を馬鹿げたアイデアが過ぎる。

最初は却下しようと思ったが、この絶望的な状況ではやるしかない様だ。



「うっわ……いけるか? いや、やるしかねぇ」



俺は自分に呆れた様に溜め息を零すと、直に踵を返して通路を駆け戻る!

奴は俺が驚いたの見て満足したのか、今度は普通に走って追ってくる事を決めた様だ。

背後から徐々に近づいてくる足音がまるで、俺の心音とシンクロする様に高鳴っていく。


あと少しで追いつかれると言う所で俺は途中の通路にあった両開きの鉄の扉を無理矢理開け放ち、中に逃げる様にして素早く潜り込み壁に勢いよく後ろを向いて背を当てた。


ボスLG式は扉の前で足を止めて、バイザーを向けて此方を見下ろしている。

それがまるで機械の癖に戸惑っている様に見えて、俺は思わず手招きしてニヤリと笑って見せた。



「どうした? 男――か、どうかは知らんが正々堂々と《此処》で殴り合おうぜ」



俺が逃げ込んだ先はエレベーターだ。

この狭い空間なら、奴のスピードは生かせまい。

しかし、俺の耐久力は最大限に生かせる場所である。


俺の挑発が効いたかは知らないが、奴はゆっくりと中に入り込んでくると構えを取る。

俺も両腕を前に突き出して構えを取ると、既に触れ合いそうな程近い距離である。


俺達はまるで睨み合う様にして動かない。

いや、俺は僅かに呼吸が乱れ肩を動かしているが、奴は彫像の様に微動だにしない。



――最初の一撃を此方から放つべきか?



そう考えて僅かに右手の指先を動かした時に奴の左手がぶれて見え、次に俺の腹部に衝撃が走る!

壁に押し付けられる様にして受けた攻撃は、やはり先程とダメージが段違いに強く、重い。

だが、俺が攻撃を当てる為には此処しかないのだ――!!



「ッらあああああああああああああああ!!!」



攻撃を受けた反動を利用して、ボスLG式に武鮫を装備した左手で素早く突きを放つ!!

だが、見事と言うべきか奴はそれをこの狭い空間でもギリギリで回避する。

俺の攻撃は僅かに奴の胴体である装甲の一部を弾き飛ばしただけで終わってしまった。


しかし、それで十分だ。先程までは触れる事もできなかったのだ。


――奴の体を一部ずつ削り取っていけばいいだけだ!!


次にお返しと言わんばかりに頭部に衝撃を受けて壁に叩きつけられる。だが負けじと此方も我武者羅に拳を放つ!


それを発端として先程の静寂が嘘の様にエレベータの中は轟音に包まれた。

まるで子供の喧嘩の様に足を止めて殴りあう様は、傍から見たら滑稽かもしれない。

だが俺の一撃が次々に奴の装甲を削ぎ落とし、奴の攻撃がジリジリと俺の命を削り取っていく様子は子供のソレではない。


テクニックも糞もない。

ただ頑丈なのを良い事に必死に拳を放つのみ!


奴の拳が俺の腹部に刺さると、お返しに右手のフックで肩の装甲を押しつぶす。

次に顔を殴られると、その勢いを利用した裏拳で胸部の装甲を弾け飛ばす。

蹴りを受けると膝と肘を使って挟み壊す。


そんな時間がタダ過ぎて行くのみ。


既に俺の耐久力は限界を向かえようとしているのか、少しずつ喉を通って鉄臭さが込み上げて来る。

受けて反撃するのでは最大限のダメージを与えられないと判断した俺は、奴の攻撃に合わせる様にして武鮫の拳を強く握って打ち放つ!!


その判断は功を成し、奴のバイザーごと頭部の一部を削り取る様にして弾き飛ばした。

そこで初めてボス式LGは機械的な動きをやめ、まるで人の様に蹈鞴を踏んでエレベーターから抜け出して行く。


俺がソレを追撃のチャンスと見極め、エレベーターから飛び出そうとした瞬間、奴が突然此方に向かってカウンター気味にタックルしてきた。



「しつこいんだよ……っ!!」



俺はまた強くエレベータ内の壁に叩きつけられ、僅かに血を吐き出しながらも反撃をしようと右腕を振りかぶった所で何かが千切れる音がした。


――何?


俺が疑問を感じた瞬間、足元がふらついて浮き上がった。


持ち上げられた? いや、違う――エレベーターが落ちている!!

此処は一階のはずでは? 地下があったのか!? それにしては長すぎる?!


開け放たれられた扉の向こうでは、灰色の壁が次々と下から上に高速に消えていく。

まるで永遠に続くように思われた時間は何かを盛大に打ち砕く音と共に終わりを告げ、俺の意識はそれと同時にブラックアウトした。







▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼








ベースキャンプでは兵士達による安堵の溜め息が沸き起こっていた。

何故なら運び込まれてきた男の手当てはようやく終わり、直に組合所に戻れば命は助かるはずだからだ。


宮木伍長は汗を拭い、曲げていた腰を労わるように手を当てながらその場に立ってゆっくりと背筋を伸ばした。



「っぅああああ! ったく! 大変な事になっちまったなぁ。この分だと残りは全滅しててもおかしくねぇぞ」



宮木は溜め息を零しながら廃病院へと目線を向けるが、既にそこは暗闇に包まれておりその様子を確認できない。


せめて病院へ救出に向かった二人は無事でいてくれよと、まるで縋る様に願っているとクース方面にある暗闇の中で何かが蠢いて見えた。


慌てて銃と携帯していた懐中電灯の灯りを向けると、浮かび上がったのは三人の女性であった。


血に濡れた里菜を両脇で抱えているのはルザードと藤宮であった。

宮木はすぐさま構えていた銃を下ろし、彼女達へ近くに居た兵士と共に小走りで近寄っていく。


そして彼女達から怪我を負っている里菜を受け取ると、直に宮木は顔を顰めた。

何故なら里菜の顔色は蒼白であり、血を大量に失いすぎているのは明白だったからだ。

慌てて宮木は衛生兵を呼び寄せて、彼女の怪我の具合を尋ねる。



「どうだ?! ヤウラまで持ちそうか?!」


「っ……どうでしょう、輸血で持つか?! まさにギリギリと言った感じです! 言えるのは、出るなら直じゃないと彼女は死にます!」


「分かった!! おい!! テントを畳め!! 雑でいい!! すぐに撤収するぞ!!」



宮木は直に判断を下し、全員に撤退命令を出す。

己もその作業に掛かる前に彼女達を労おうと視線を向けた所で、宮木は困惑した。



「お、おい。木津……新米の小僧はどうした?」



宮木がそう問いかけると、藤宮の瞳から涙が零れ落ちた。

それを直に拭うも藤宮の瞳から次々と涙は溢れ返り、遂には今まで押さえていた物全てを開放するようにその場に座り込んで泣き喚いた。


それを見てますます混乱する宮木の前に、ルザードが立つと短く告げた。



「彼は――彼女によると病院でLG-103式と対峙したらしい。生還は絶望的かもしれない」


「ひゃ、百式シリーズがあそこに?!」



宮木が驚いて大声を出すと、撤退作業に励んでいた兵士達の手が止まった。

無理もない、百の型番を背負う物は他の同型機とは一線を画す性能を有している。


倒された百式の分解を進めた結果、普通の同型機に掛かるコストの五倍は注ぎ込まれている事がわかり、搭載されたAIチップや装甲、装備は上質だと言う事は勿論。いざとなれば他の同型機の指揮をとって、連携を取って襲い掛かってくる事もできる特殊なタイプも確認されている。


中級スカベンジャーが四人で奇襲しても倒せなかった記録すらあるのだ、思わず彼等の手が止まってしまうのも無理はない。


ただ、彼等もプロだ。すぐさま意識を取り戻し、集中して作業を再開する。


――百式シリーズは基本もっと重要度の高い場所に配置されているはず、それが何故病院に? ライフライン施設とは言え大袈裟すぎやしないか?


宮木の脳裏を様々な事が過ぎったが、直にそれを打ち消して一つ頷いて見せた。



「そうか……。疲れてる所悪いが、お前さん達も良かったら作業を手伝ってくれねぇか? 俺達も急ぐが。何せ死んだ奴等のテントも回収せにゃならんからな」


「分かった、直に取り掛かろう」


「……わっ、わたしもやり、ます」



ルザードは直に頷きを返し、藤宮も袖で顔を擦ると気丈に立ち上がる。

それを見届けて宮木は直に自身も撤退作業を行う為に他の兵士に駆け寄っていく。


ルザードが最初に手を着けたテントの中を覗き込むと、其処には木津が背負っていたリュックが置かれていた。


それを木津の物であると直に気付いたルザードは目を見開いた後、すぐにゆっくりと瞼を閉じて呟いた。



「良いスカベンジャーにはなれなかったかもしれないが……君は英雄になれた。誇りに思え」



まるで手向ける様に呟かれた声は、寂しさを伴っていた。




――かくして、後にクースの悲劇と名付けられた事件が幕を下ろした。


死亡率が高いこの職業でも、向かった半数以上を失う事は滅多にない。


――組合所に凶報が届けられるまで、後数時間程であった。





ちなみにボスLG式が戸惑いを見せたのは、主人公が装備していた武鮫のサーチに手間取っていたからです。


「あれ?? HAにしては質量が低くね?? でも俺を投げ飛ばしたしなぁ?? まぁいいや、殺そう!」


ってな感じですね。勿論こんなフレンドリーな思考ではありません。

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