表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
15/105

妄想は程々にしないとヤバイ



クースはそんなに遠い場所にあるわけでは無かったらしい。太陽がまだ高い位置にある事からもそれが伺える。

俺は今、兵士に借りたテントを組み立てている最中だ。とは言っても、もう殆ど終わりかけている。

俺は最後のテントを固定する為の杭を持ち、周りが誰も見てない事を確認しつつも、一応武鮫を装備している左手で無造作に無理矢理地面へ押し込んだ。


これで完璧だ。

一息吐いて周りを見渡すと、どうやらテントは自ら用意している者もいたらしい、俺の一人用のテントと比べるとすんげーでかい。


今の現在地はクースから数キロ程離れたこんもりとした茶色い丘の上だ。

腰を上げて少し先にあるクースを見渡せば、確かに廃墟の中に大きく目立つ廃病院が見える。

その他にも看板が崩れたデパートらしき建物も見えるが、基本的に目が行くのがその二つだ。


町を見渡すのをやめ、人が集まっているトラック付近に目を向ければ、江野田が演説するかの様に身振り手振りで話している様子が伺える。


俺は呆れた様に一つ溜め息を零し、丘の上に横になって天を仰いでいると、突然俺の頭の上から顔を覗き込む様にして誰かが立った。


逆光で隠れてその人物の顔は見えず瞼を細めていると、その人物は俺の横に腰を下ろした。

俺は慌てて体を起こして驚いた、その人物は江野田の誘いを断った女性であったからだ。


彼女のセミロングの茶髪が風に揺れて乱雑に動く。

しかし、それが翠の宝石を思わせる瞳の近くを過ぎっても瞼を閉じる仕草を見せない。

歳は十代後半か、二十丁度くらいか? かなり若く見える。

高い鼻には絆創膏が、頬にはガーゼが貼られている。怪我でもしたのだろうか? しかし、血は滲んでないようだ。

突然の事態にチラチラ横目で様子を伺っていると、彼女の水気を帯びたピンクの唇から短く声が発せられる。



「どうして断った?」


「ぅえ?」



俺は思わず間抜けな声を発するも、彼女は表情を変えず機械的に言葉を繰り返す。



「どうして断った? 遠慮なんかせずに、黙って奴等に着いて行けば美味しい汁を吸えたかもしれないのに」



そこで初めて彼女は俺の方を見て視線を合わせてきた。

俺は彼女に苦笑して見せると頬を掻いた。



「俺を登録してくれた受付の人に忠告されたんです、病院は危険だって。それに……俺は《演技》をした他人と美味しい汁を啜るのは嫌でして、せっかくの汁が不味くなりそうなんで」



俺がそう言うと、彼女は僅かに眼を見開いた後で賛同する様に小さく頷いた。

言葉の含みに気付いたのだろう、俺が遠慮ではなく彼等を警戒していた事に気付けた様だ。



「そうか、中々良い判断だ。君は良いスカベンジャーになれるかもな」



そう褒めると、もう言う事はないと言わんばかりに彼女は町へ視線を向けた。

俺はなんとなくココで会話が終わるのが惜しい気がして、自分から名乗りを上げた。

ちなみに脳内議論の結果握手はしない事になった。相手から差し出してこない限りはね、俺の中でトラウマになってるからね。



「俺は木津 沿矢と言います。Gクラス、ポイント0の輝ける新人です」


「……フェニル・ルザード。Eクラス、ポイントは20870だ」



ちなみにポイントは組合所に寄付しなければならない物資の量や値段、あとランクを上げる為に自ら入金したボタの額である。

つまり彼女は二万八百七十ボタを組合に納付している訳だ。

となると彼女自身が稼いだボタを入金してない限りは、その倍近いボタを稼いでいてもおかしくない。


簡単にランクがどの様にして上がるか、田中さんに貰った紙に書いてあったので記載しよう。


G→ G+=1000P


G+→ F=5000P


F→ F+=10000P


F+→ E=20000P


E→ E+=50000P


E+→ D=100000P


D→ D+=200000P


D+→ C=500000P


C→ C+=1000000P


C+→ B=2000000P


B→ B+=5000000P


B+→ A=10000000P


A→ A+=20000000P


A+→ S= 未定




と、なっている。ここまで来たらSに入る数字は何となく分かる。

パッと見て思うのは、設定した奴の頭の中身を疑う構造であると言う事だ。

それともこんな額を簡単に払えてしまう程にこの職業は稼げるのだろうか?

とりあえず、小生はキリエさんマジすげぇと思う所存である。


ルザードさんはどうしてEなのに此処へ来たのだろう? それともEはまだ初心者の域なのだろうか? ようわからんな。



「そうですか……。Eかぁ……。凄いですね、ルザード先輩」


「先……輩?」



突然彼女は素早く此方を向くと不思議そうに呟いた。

俺は彼女の気に触ったのかと慌てて弁解した。



「あ、いや……すみません。ルザードさんのが良いですかね?」


「いや……最初の呼び方で構わない」



ルザード先輩はゆっくり頭を振るとまた前を見つめた。

どうやらあまり話すのが得意ではないようだ。

だからと言って無言で彼女と並んで座っていても別段苦痛ではない。


そのまま暫く穏やかな時が流れていたが、突然ベースキャンプに大きな声が響き渡る。

俺は一瞬江野田がまた何かやったかと眉を顰めて視線を向けると、兵士の一人である男が箱を複数積んである所の前で声を張り上げていた。



『これより! 今日の分の銃弾や物資をランク別に合わせて配給する! ここに並んで、ライセンスを提示した者から順に配っていく!! さらに欲しいなら、ボタを払えば物資は補充してやる!!その後、各自自由とするが!! 何が起ころうとも、街中での行為に我々は関与しない!! それを頭に入れて慎重に行動しろ!!!』



彼は最後の言葉を特に強調して病院に向かう連中に鋭い視線を向けたが、当の本人である彼等は何の気にも止めない様子で早速並び始める。

なんとなく彼等に混ざって受け取るのは嫌なので、人がいなくなるまで俺は待とうと思う。


隣に座る彼女も俺と同じ心境なのか動こうとはしない。

ただ、暫く沈黙を保っていた彼女の小さい口から鋭い一言が放たれた。



「帰りは――静かになるだろうな」


「――っ!」



危険なのは分かってはいるが……それ程の場所なのか?

物資を受け取る彼等を見れば、ライフルやらショットガンなどで身を固めた重武装な奴だっている。

人数も九名と、あの病院の広さなら互いに邪魔をせずに上手くカバーできそうな丁度良い感じに思える。


俺はただ、彼女の言葉に困惑を強める事しかできなかった。








▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼








あの後物資を受け取った俺は、廃墟が立ち並ぶクースの街中を慎重に警戒してデパートらしき所に向かって進行中である。

ちなみに受け取った物資は豆缶三個と蝋燭に火を着ける為のマッチ、それとディフェンダーの弾が十四発である。


俺は意外にも最低ランクにしては気前が良いと頬を緩めた。

しかし、補充する弾薬の種類を確認する為に、ホルスターに収まったディフェンダーを見せた時は良かった。

『うっわ、コイツ良い銃持ってやがる。この弾は貴重なんだがなぁ』的な兵士の表情が何となく、プギャー! と指を突きつけたくなる程に見事な物だったからである。


それはさておき物凄く警戒して歩く事数十分たったが、俺はどことなく気が抜けてきている状況だ。

最近確信したが俺はやはり聴力も良くなっているらしい。

いや、百メートル先に落ちた小銭の種類を聞き分けるなんて事は勿論出来ないがな。

どことなく眼も良くなってるような気もするが、此方は元々不便してなかったので判断はつかない。


聴力に確信を持ったのは、廊下で初めて寝た時に分厚いコンクリの向こうから里津さんのイビキが聞こえてきたからだ。

まぁ、耳栓を着けなくてもいい程の音量だったのでまだ助かった。


多分一般人を凌駕している聴力と視力を兼ね備えた俺は、街中を動く時に大変有利であると言う事だ。

それを裏付けるように、今も何の緊急事態にも遭遇してはいない。


迫田に不意を打たれたのはベニーと話してたし、自分の力に確信を抱いてなかったからだろうな。

もしそうじゃ無かったら、問答無用でベニーを抱えて逃げれたかもしれないのに……。


ふと過去の出来事に思いを馳せていると、廃墟の中を抜けて広い場所に出た。

廃車が数台乱雑に並ぶ駐車場の向こうには、俺が目指していたデパートが陰険な雰囲気を覗かせながらポツンと佇んでいるのが見える。

俺は一つ呼吸を整えて、高鳴る胸を押さえると覚悟と度胸を搾り出せと深く念じる。



「俺はできる。やらなくちゃいけないんだ。こんな事は――アイツの時と比べれば、楽勝だ」



不覚にも、俺の心を静めたのは迫田と戦った時の記憶だった。

苦笑しながら一つ確かめるようにローブの下で武鮫の拳を握る。

そして俺は右手だけでディフェンダーを構えながら、デパートに向けて歩みを再開した。



駐車場は何の問題もなく抜けられた。一応進路上にあった廃車の中も少し眼を通したが、使えそうな物は何も無かった。


全損したであろう自動ドアの枠しか無い僅かな段差を乗り越え、散らばったガラスや原型を留めていない物を踏まないよう注意して、デパートの中に慎重に足を踏み入れる。

デパートの中は崩壊した壁と、窓から差し込む太陽光で明かりは問題ない様に見える。

どうやらカンテラは使わないで済むようだ、手が一つ塞がればそれだけ厄介だからな、良い事である。


とりあえず耳を澄ます、すると僅かに何かが動く音が聞こえ、俺は近くの欠けた棚や廃品に隠れてその音に歩み寄る。

入り口近くに良い物があるとは思えないし、あったとしても他のスカベンジャーに取られた後だろう。


だが、スカベンジャーは稼ぐ手段として警備ロボには目を向けない。

彼等が警備ロボと戦うのは物資の近くに居る時か、突発的に戦闘が起こってしまった時、それか楽に排除できそうな時だけだ。

何故なら軍事ではなく警備ロボとは言え、ある程度の火器を装備しているし、装甲も数世紀耐えてきた物だ。

それに戦闘になってしまえば、弾薬費も掛かるし、命の危険だってある。


俺は里津さんからそう聞いた時に、ビビッと脳裏を過ぎるある考えが浮かんだ。

彼等が警備ロボを倒そうとしないのはあくまでデメリットが大きすぎるからだ、それに彼等は俺の様にHAの装甲を貫ける程の威力が高い武器は持ち歩いていない。

嵩張るし、あまりに大きいと徒歩で探索する彼等は疲弊も大きくなる。

彼等はあくまで物資を狙う《スカベンジャー》なのだ。ハンターや戦士ではない。


俺が持ちえる最大の武器で、反撃を許さずに警備ロボを一撃で仕留めてしまえば、部品や中に装備している弾薬を奪える。

無謀かも知れないと思うが、俺だってただ何の考えもなくこんな事をしようと思った訳ではない。


警備と軍事との違いは――警告の有無だ。

荒野を彷徨う軍事兵器達は、恐らく最後に打ち込まれた最終コマンドに従って、ただ殺戮を繰り返しているのだそうだ。

何故そんな事になってしまったのかは分からない。

自国に敵の侵入を許したからか、それともそれ等は敵国に送り込まれた兵器だからか、世界の崩壊を前にして命令を下していた者の気が狂ったのか――。

今では何も分からない、知り様が無い、世界は混沌とし、無人兵器達は人間達の命令を忠実に守り―――あるいは、支配からの開放を喜ぶかの様に殺すだけ。


その点警備ロボは個人の打ち込んだ、または企業が発令した命令に従っているだけだ。

警備ロボの大半は打ち捨てられた廃墟の中を彷徨い、主の居なくなった空間を守り続けている。

警告の有無は前世界の時に事故を起こさない為か、絶対に排除できないようプログラミングされているとの事。


彼等が警告しなくなったとすれば、まず思考ルーチンが焼き切れ壊れてしまった時か、あとは制御チップに損傷を受けた時、それと建物の警報トラップに引っ掛かり戦闘態勢に入ってしまうか、あるいは電波の影響等で異常を受けた時ぐらいだそうだ。


大丈夫だ。俺を掴んできた荒野で彷徨っていたロボは、その場に居た事からも分かる様に壊れてただけだ。


ようやく視界に入れた警備ロボを前にして、俺はそう心落ち着かせる。

ある一定の場所で止まり、また進んでは止まって周囲にバイザーを向ける汚れた人型のロボは正常の様に見える。


彼はこの壊れた世界で、何世紀の間彷徨い続けているのだろう、俺は本当に職務を忠実にこなしているだけである彼の安寧の時を奪ってしまっていいのか?


そんなセンチメンタルな思いが、俺に最後の決断を下させない。

口を横に強く結びながら、俺はただ彼の後をつけるだけしかできてない。


そんな事を考えていたからか、俺は彼の突然の方向転換に対応できず姿を晒してしまった。

警備ロボはまるで信じられない、そう言わんばかりに一瞬動きを止め、次に掠れた音声で話しかけてくる。



《警こ……! 本館……は……九百九kkkkkkkk! 前に……! 坂……長の、めめめめめめ令……! ふ、封鎖され……》



俺はデパート内に今までの静けさを打ち破る様にして、大きな足音を響かせて駆け出していた。

視界に映る警備ロボはまだ警告を口にしている、俺はもう聞きたくないと言わんばかりに声を張り上げると、武鮫の拳を強く握り締め警備ロボの頭部に向けて素早く打ち放った。



「ッ……! すまない!!」



何故そんな事を口にしたのだろう、驚きに眼を見張る俺の前では容易く警備ロボの頭部は胴体から引き離され、勢いよく転がっていく、それと同時に胴体は崩れ落ち、まるで天を仰ぐかのように後ろに倒れこんだ。



《接近を……め! kkkkk……………》



遠くで鎮座する頭部から響いていた声が鳴りを潜める。


デパート内にまた静寂が訪れ、聞こえるのは僅かな俺の呼吸の音だけが空しく響く。

思わず唖然として佇む俺を包み込んだ静寂達が、まるで俺を攻め立ててる様に感じてしまっていた。







▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼







あの後俺はすんごい罪悪感を抱きながらロボを解体し、大量にあった無事な部品と弾薬をリュックに詰めた。

予想外にその作業で手間取ったし、結構部品も取れたし、日はまだ高かったが帰りの時間を考慮して、周囲を軽く探索して

使えそうな物を集めるとキャンプに戻る事にした。


ある本でとあるスナイパーがスコープを覗いた時に、相手が誰かと笑いあってるのを見て撃つのをやめたと記されていた。

俺はあの時分からなかった、彼の気持ちがよく分かってしまった。


あの薄暗い建物の中で、何世紀の間孤独に過ごしたんだろう。等と妄想力の高い俺が考え込めば決断が鈍るのも当然の事だった。



「次は何も考えない。すぐ殴る、殴り壊す。俺はできる子なんだ……。保育園の時は砂場で山を作っては壊してを繰り返してたろ? あの無心の気持ちを思い出せぇ……!」



ちなみにその所為で俺に向ける歳若い女性保育士の視線が大分変わってしまったがな、主に恐れと言う意味で。


俺がブツクサと呟きながら雑念を捨てる様に努力をしている内に、なんとかキャンプに辿り着くが、やはりと言うか戻って来たのは俺だけらしい。

まぁ結構早めに戻る決断したしな、それに病院はデパートより遠い所にあったし。


兵士達は楽しそうに雑談していたが、俺を見つけると一人の中年兵士が会話をやめて、ニヤニヤしながら近づいてきた。



「はははは、駄目だったか坊主? だがな、生きて帰る事が一番重……要……が、がんばったな」



俺のリュックから突き出ていた警備ロボの腕を見つけると、中年兵士は口を開けてそう言葉を漏らした。

周囲の兵士も俺をチラチラ見たり、指を向けて何事か囁きあっている。


ふん。どうせ俺が初心者だからって、無事に帰ってこれるかどうか賭けでもしてたんじゃねぇのか?


何処と無く心が荒んでいる俺が、そんな根も葉もない妄想をしてしまうが、それを何とか頭から振り払って中年兵士に声を掛ける。



「あの、物資は検査を受けると聞いたんですが。此処でもう受けられるんですか? 俺としても荷物が減らせたらありがたいんですが」


「ん……ああ、そうだな。歳若い割りにしっかりしてるな。いいぞ、コッチに来い」



中年兵士は俺を手招きしながら物資回収用の軽トラに近寄っていく、荷台にはまだ当然何の荷物も載ってない。

中年兵士が若い兵士に声を掛けると、仲が良いのかその兵士は気楽そうに軽く敬礼して見せ、軽トラの中からある物を取り出した。

彼は手に俺の時代の一昔前の携帯に似た何かを持っている、あれが物資を検査する機械か何かなのだろうか?

俺はてっきり手作業か何かで事に当たると思っていたので、少し驚いた。

中年兵士は荷台の上に立つと、ダンッと足を鳴らして手を叩く。



「さぁ、見せてみろ。お前さんの初めての記念すべき検査だ! 記憶に焼き付けとけ!」


「そうですね……。じゃあ、お願いします」



俺はフランクな態度を見せた彼に微笑を浮かべつつ、リュックを荷台の上に置いて中から部品と弾薬を取り出して並べていく。

ほぉ、と感嘆する声が頭上から聞こえて来たのが、何だか誇らしい気持ちにさせてくれて気分が良かった。

全ての物資を並び終えると、若い兵士が手元に持った機械の電源を入れて一つずつ丁寧に上から物資へと翳していく。

低く唸るような音が発せられているが、特にこれと言って何の異常も無かったようで、若い兵士は親指を俺と荷台の中年兵士に立てて見せた。

どうやら無事に俺の記念すべき最初の検査は終わりを告げたようだ。



「さてさて……ここはやっぱり弾薬を頂いておこうかな。こいつは幾らあっても困ることはねぇからな。お前もそれでいいか?」



ジャラジャラと弾薬を転がしながら、中年兵士が問うてくる。

俺としても、ディフェンダーの弾としては使えない物のようなので何の異論はない。

一つ頷いた後に若い兵士を見習って親指を立てる、彼は一瞬眼を丸めた後、大きく笑って彼も親指を立てて見せた。



「はっはっは! お前さん、良いスカベンジャーになれるぞ! お前さんのライセンスを見せてくれ。戻って査定を受けるまでは、名前を書いて分けて置いとかなきゃならんのでな。……おい! 袋持ってきてくれ!」



中年兵士は少し離れていた所にいた兵士に袋を持ってくるよう言いつける、彼は一つ頷くと箱の中を漁りだした。


査定か、戻ってそれを受けてから初めてポイントは加算されていく様だ。

俺はリュックの脇からライセンスを取り出して中年兵士に渡す、彼は俺のライセンスを眺めると顎を擦ってニヤリと笑う。



「木津 沿矢か……。よし、覚えておこう! お前さんは将来大物になりそうだ! 俺はお前のファン一号ってこったな、はははは!」



俺の何処が気に入ったのかは知らないが、褒めて貰えるのは素直に嬉しい。

俺は照れ笑いを浮かべながら、彼が返してきたライセンスを受け取った。

ふと、リュックにライセンスを入れながら良ければ名前を教えて貰えないかを問うと、彼はそこでまた一つ笑って見せた。



「おお、いいぞ! 俺は宮木 誠一(ミヤギ セイイチ)ってんだ! 階級は伍長だな。宜しくな、木津よ!」


「ええ、宜しくお願いします」



軍隊の印象はそんなに良い物ではなかったが、活発に笑う彼を見ているとそれも少し薄れた様な気がするのであった。







▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼







軍隊と言う場所は最悪な所だ。

魅竹 照准将はそう吐き捨てたいのをグッと堪えた。


当然と言うべきか、息子であった春由が逮捕されてから周囲の目線はまるで変わってしまった。

自分に尊敬を抱いていた者は困惑し、嫉妬を抱いていた者は愉悦し、何の興味を抱いていなかった者は好奇の目で自分に視線を向けてくる。


月に一度の会議が開かれる玄甲の会議室に向かうまでの間に、一体幾つの視線が向けられたのか分かった物ではない。

だが、その程度の事は獄中で刑を受けている息子の心境を思えばまだ軽い方だろう。

そう自分に言い聞かせ、照は会議室の扉を堂々と開け放った。

そうすれば、まるで己の不名誉な噂も吹き飛ばせるかの様に。

だが現実はそうはいかない様だ。

何時もは遅れてやってくる人物が態々同僚と噂話に励む為か、既に早々に席へ着いており、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべて話し合っている。


そして照がその場に現れると、大袈裟に驚いて見せながら席を立って歩み寄ってくる。

こちらを真っ直ぐ見ながら近寄ってくる禿げ上がった頭と肥えた体を抱えた男を見て、照は天を仰ぎたくなる気持ちであったがそうはいかない。


照の前にその男が立つと、ゆっくりと手を挙げて敬礼して見せる。

その動きがまるでその男の怠慢を表している様に思えて、照は自分はそうはならぬ様にと、まるで入隊したての新兵の様にキッチリと素早く敬礼を返す。


男――剛塚 茂道(ゴウツカ シゲミチ)大佐はそんな照の毅然とした態度を見て一瞬眉を顰めたが、次の瞬間には既に破顔して馴れ馴れしく話しかけてくる。



「魅竹准将。この度は大変な不幸でありましたな。いや、しかし誰にも予測はできませんよ! 優秀な成績を収めていた魅竹……おっと、春由少佐とお呼びした方が気が楽ですかな?」



咄嗟に舌打ちを放つ事を我慢した照は、己を褒め称えたい気持ちで一杯だった。

照は剛塚を睨みつけ――構わないと、短く刺す様に言葉を放つ。


それを受けた剛塚は、ようやく己が見たかったTV番組のチャンネルを探り当てた幼子の様な気分であった。

思わず口の端が上がるのを止められなくなり、それを隠すように慌てて言葉を口から放り出す。



「まさか《箱》を探し当て、一躍出世の道を突き進んだ魅竹准将の前にこの様な不幸の壁が訪れるとは! いやはや……人生とは怖いですな」



それを聞いて、照の中に剛塚への侮蔑の気持ちが沸き起こる。

しかし、よくよく言葉を聞き返すと己の過去の戦績を態々持ち出して批判する辺り、この剛塚は箱を自分の手で見つけたかったのではないかと推測した。

なら、自分が箱を見つけて良かった。目の前の男が箱を見つけ出世でもしていたら、この軍には良くない事であると言う事は、既に今の態度を見て分かる様に判明している。


そう思うと自分がした事に誇りを感じ、照は今日初めて小さくだが僅かに口角を上げた。

剛塚はそんな自分が思い描いていなかった照の表情を見て、思わず勢いを挫かれてしまう。


会議室の誰もが二人の様子を遠巻きに眺めている。

それも無理はない、この二人の不仲は軍では有名な噂話の一つである。


同期であるが故に抱く同期生へのライバル心とは別の何か――憎しみに近しい物を剛塚は照に抱いている。


何時の頃からそうだった? 軍学校での主席を奪われた時? それとも奴がまだ発見されていなかった町を見つけた時? それとも――自分が心奪われていた女性を奴が射止めた時?

分からない。しかし、それはもうどうでもいい。今はただこの男の数少ない不祥事を突けるチャンスなのだ。


剛塚は一気に言葉を捲くし立てようと、己の顎にある余った肉を僅かに揺らした所で会議室の扉がまた開かれた。

照はそれ幸いと言わんばかりに直に剛塚から背を向けて、入ってきた男に先程と同じ――いや、先程より完璧に敬礼して見せる。

剛塚も慌てて直にそれに習うが、照の隣ではその敬礼は彼を引き立てるだけの醜い動作でしかない。


入ってきた男――コガ・ローマン元帥は今歳六十を迎えた男だ。

父親譲りの黒髪はすっかり白く染まり、母親譲りの白い肌には皺が目立つようになってきた。

しかし、会議室の中を見通す眼差しは未だ衰えを知らず、鋭い眼光を放っている。

ふと、入り口から少し離れた所に立っていた照と剛塚にローマンが気付くと、其方に向けて歩み寄る。


剛塚はそれを見て期待に心を躍らせた。

元帥程の男の口からは一体、照に向かってどれほどの言葉が向けられるのか。

剛塚が期待に胸躍らせる中、ローマンは照の前に足を揃えて止めると、そのまま彼の肩にゆっくりと手を置いた。



「この度の事は私も残念な思いで胸が一杯だ。しかし、魅竹准将……私は君に失望してはいない。この逆境を跳ね除ける様努力し、今以上の働きを期待する。いいな?」



照は大きく眼を見開き、次にその言葉を噛み締める様に瞼をゆっくりと閉じると、会議室全体を揺るがせる程に澄んだ声で答えて見せる。



「はっ! 気遣い痛み入ります!! 今後も切磋琢磨し! この軍にこの身を捧げるよう、粉骨砕身の思いで励んでまいります!!」


「ん、是非そうしてくれたまえ」



剛塚は唖然とした。


何だ、何だそれは? 何なのだそれは?! ふざけるな!!!


そう叫んで、ローマンに掴みかかりたい憎悪が醜く胸の中で溢れかえる。

その気持ちはもしかしたら、今まで照に向けていた思いより僅かに上回ったかもしれない。


思わぬ激励を受け、感動に胸打ち震える照とは対照的に、剛塚の胸の内では新たに深い闇が根付き始めていた――。




何世紀も経っている弾薬が使えるのか? 今の技術ならまず不可能でしょうね。

そこはホラ……未来の技術的なあれで納得して頂くしかないですぅ……。

魔法と発達した未来の技術は似たような物と言いますし……多少は、ね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ