初めての探索へ行こう!! ※立ちはだかる障害多々あり
8/27 誤字や脱修正を行いました。
最初はどうかと思ったが、廊下ってのも中々悪くない。
トイレには近いし、足の裏とか熱くなったら床に当てれば冷やしてくれるし、何より耳栓を使わずに済むようになったからな。
ただ最初の二日間くらいは里津さんが俺の近くを通る度に、顔を赤くして無意味に蹴ってくるのが最高に謎だった。
二日目後半くらいにしてようやく怒りが収まったのか蹴ってはこなくなったがな、まぁ痛くなかったから気にしてなかったけど。
俺は鉄腕を開発して貰った後の日に、クースに滞在する時に必要な物を調達した。
ベースキャンプに使うテントや、カンテラに使う蝋燭は無料で配布されるらしい。
勿論帰るときにはテントは返すし、余った蝋燭も返さなくてはいけない様だが、絶対蝋燭は借りぱくされてるだろ。
まぁそれはさておき、じゃあ俺が何を調達したかと言うと、まずは灰色のローブと物資を入れるのに使う大きなリュックサックだ。
ローブは茶色とで悩んだが、廃墟を探索するとなれば灰色の方が溶け込みやすいだろう。
まぁ本で見る限り警備ロボは熱源とか音で感知するのが多いから、あんまり意味無いかもだけど。
次に弾薬等を入れておくベルトポーチと銃のホルスターだ。
だがこれ等は里津さんの店に置いてあったので直に調達できた。
後は服だが、鉄腕を着けるのを考慮するとゴワゴワしたのは着れないので、大人しく変えのTシャツを三枚と少しぼろいジーンズを二枚を手に入れた。
次に動きやすそうな運動靴を一応二つ、少し解れてたけどしゃあない。
さらに鉄腕に装着する黒いグローブも手に入れた。男はやっぱり黒だよな。
ちなみに全ての装備に使ったお値段は総額七五ボタである。
俺の手持ちは残り三ボタとなった、そろそろヤバイです。缶ジュース飲んだら怒られそうな感じ。
本当は弦さんが着ていた防弾チョッキやプロテクター等も欲しい所だが、俺の財力では無理である。
いや、でも防弾チョッキはともかくプロテクターはいらないのかな? いや、まぁ考えるのはボタを手に入れてからだな。
今持っているディフェンダーの残弾数は三十五発、マガジンに換算すると五個。
ちなみに俺が所持しているマガジンは二個だ。これが切れたら一々手でまた弾を込めなおす必要がある。
つまり戦闘で突発的に使える弾数は十四発、または元からチャンバーに入れておけば十五発だけだ。
戦闘で弾を込めなおす時間が取れるとは限らないので、その事を頭に入れて慎重に行動するべきだろう。
ちなみにこの銃に使われてる弾の種類はDE弾というそうで、六十口径あるそうだ。
たしかにデカイが俺は反動を感じないので命中率に異常は無く、ただの威力が強い銃って感じだ。
そうこうしている内にクースに向かう日が来て、俺は朝から準備している。
組合所から出る乗り物の出発時間は朝の十時で、今はその二時間前だ。
俺は朝飯を食べた後、服を着替えてローブを纏い、ホルスターとベルトポーチを装着し、リュックに物を詰めて異常が無いか確かめている。
こうしていると子供の頃の遠足を思い出す感じだが、俺が今から行く場所は命の危険があるデンジャーゾーンである。
初心者向けとは言え、油断は出来ん。俺は入念に一度終えた作業を繰り返して異常が無いか確かめる。
そんな俺の様子を、廊下の壁に寄りかかって見ていた里津さんが声を掛けてくる。
「沿矢、あんたって意外に慎重な男ねぇ。物も大事だけど、ちゃんと知識の方は大丈夫なんでしょうね? ……民間型警備用OG型-77式の注意点は?」
ちなみに何時の間にか里津さんは俺の事を下の名前で呼ぶ様になっていた。
だから俺も冗談交じりに『理乃』って呼んでみたら、廊下の端から態々助走をつけて蹴られた。
理不尽。
それは良いとして、今は里津さんのクイズに答えなくては……えーと。
「デパートや小さな企業ビル、それに裕福な家庭だった所に多く存在しており。正常ならば警告してくるが……えー壊れていると警告無しで突然攻撃してくる。主武装は腕に取り付けられたマシンガンで、周囲に弾をばら撒いて来るので注意が必要……ですよね?」
つまり最初に出会った荒野に居たロボは正常だったのだろうか?
いや、俺を大根おろしにしようとした時点で正常じゃねぇな。
「そうね。それと奴等は腕に取り付けられた武器で交互に射撃してくるから、攻撃は弾が無くなるまで途切れないわよ。弾が切れると接近戦モードに移行して殴りかかって来るけど。まぁHA-75型に耐えたアンタなら平気でしょうね。一番良いのは奴が警告している最中にさっさと倒すことよ。企業が制作費削る為か知らないけど、ソイツの制御チップはお粗末にも装甲が薄い頭部にあるの。だからさっさと撃つか、アンタが頭部を殴り飛ばせば直に終わるはずよ」
ぱ、ぱねぇ。里津さんの知識量が本文ならば、俺の知識ってあらすじ程度しかないな。
俺がまた里津さんへの尊敬の念を強くしながら、荷物に異常が無い事を確かめ終える。
そして、いよいよ鉄腕を装着しようと手を通してベルトを締める。
異常が無いか軽く動かした後、用意していた黒のグローブを嵌めてローブの中に左腕を仕舞う。
立ち上がって歩いたり、体を揺らしてみながら里津さんに話しかける。
「どうです? 違和感とかあります?」
「ん、まぁ平気そうね。走ったりするとやばそうだけど。まぁ、その時はその時よ……何だっけ? 『本物のHAみたいに活躍してみせる』だったっけ? 二言は無いわよね?」
里津さんが茶化すようにニヤニヤして聞いてくるが、俺は一つ頷いてみると口を開いた。
「勿論二言はないです! 俺頑張りますから、期待して帰りを待ってて下さい!」
「そう……。けど、無茶はするんじゃないわよ? 死んだら何もかもお仕舞いなんだからね」
里津さんは微笑むと、そう忠告してくる。
一度死に掛かった身とはいえ、二度目は俺も御免である。
俺は真剣に頷きを返し、ふと大事な事を思い出して慌てて里津さんに問いかけた。
「そ、そう言えばこの鉄腕の事がばれた時に、名前とか聞かれたらどうしましょう?」
「んーHAなんて貴重な遺物は何種類あるか把握されてないし、適当に名前でも付けるか知らないとでも答えとけば? その為に態々型番が書かれてそうな部分を削って、字が消してある様に見せかけてるしね」
里津さん用意周到すぎるだろ。何なのこの人? 寝相とイビキ以外完璧すぎない?
そうか名前か……確かにそうだよな。
鉄腕だけだと思わずア○ムって言いそうになるもん。
俺はローブから左腕を出して動かしながら眺める。
廊下に差し込む朝日を受け爛々と輝きを放つ鉄腕は、思わず溜め息が出そうなほど素晴らしい一品だ。
ふと、前腕部分の凧形に似た複数の装甲板を見て、俺の中に電撃的な勢いで名前が浮かんで来た。
俺は思わず興奮を隠しきれない口調で里津さんに名前を発表する。
「里津さん!! 《武鮫》ってどうですか?! この連なった装甲板が鮫肌に似た感じで良いと思うんですよね! うわ……俺ってセンスいいわぁ」
俺が勢い余って自分自身を褒め称えていると、里津さんが眉を顰めて考え込む様子が見えてしまった。
まさか気に入らなかったのであろうか? それとも他に良い名前でも考えているのかな?
俺が動きを止めて里津さんの様子を伺ってると、里津さんは悩んだ末にゆっくりと顔を上げて聞いてきた。
「沿矢…………さめって何?」
あ、なるほど。そういう知識は無いわけですか。海無いもんね、此処。
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あの後、俺は里津さんに鮫と言う生物が如何に恐ろしいかをじっくりと語った。
そして里津さんが顔を青くして耳を塞ぐ様になる頃には、既に出発時刻が迫っていた。
思わぬ里津さんの弱点に興奮してすっかり時間を忘れていた俺は、朝からフル装備で街中を駆ける破目になってしまった。
まぁ重さとかは全然気にならないからどうでもいいが、突き刺さる視線が痛いのである。早速目立っちゃったよ。
ふふふ、里津さん。まだまだ鮫の話は終わってないぜ? 帰ってきた時が楽しみである。
俺が息切れしているのはその事を思って興奮しての事か、それとも単純に疲れかの判断がつかない内になんとか組合所に辿り着いた。
組合所の前には数台のバスやらトラックやらが並んでいる、どうやら間に合ったみたいだ。
しかし、大半のスカベンジャー達はまだ組合所の中で待機している様だ。
自動ドアのガラス戸の向こう側で、大勢の人が賑わっているのが見える。
まぁ中はエアコン点いてるしな、体力を温存する為にも合理的な判断である。朝から走ってる俺とは大違いだね。
何とか組合所の自動ドアを潜り、一息を吐いてると、何と田中さんが人垣を掻き分けて此方に向かって来たではないか。
田中さんは息を切らしながら俺の近くに来ると笑顔を浮かべ、次に眉を顰めた。
「はぁはぁ……遅いわよ! 木津君! 私、君を見送るために態々クースへ行く日にシフトを入れたんだからね?!」
あ、シフト制なんだ。そう何処と無くずれた考えを浮かべつつ俺は苦笑した。
「いや……すみません。はぁはぁ……ちょっと、予想外の事があって……」
「全く……。そうそう! 予想外と言えば知ってる?! 壊し屋って言う凶悪な賞金首が始末されたんですって! 今此処はその話題で持ちきりなのよ~~! あそこ見て! 軍からの詳細と、各町事で貰える賞金総額が書いてるのよ!! 君も将来の勉強の為に一度見ておいたら?」
「っはぁ!? がっは!! っは……はぁ……こ、壊し屋……」
完全な不意打ちだった。
息を整えていた俺はあまりに突然の事で咽てしまった。
田中さんが指差した方向を見ると、壁に貼られた掲示板に大勢の人が集っているのが見える。
掲示板の近くには制服を着た兵士が両脇に立っており、ライフルを上に向けるようにして抱えている。
俺が呟いた言葉を聞いて、田中さんは次々に詳細を教えてくる。
「何でも、数年前まで大暴れしていた奴なんですって!! けど突然消息を断って最近は姿を現していなかったの。 けど、最近このヤウラに来てるって情報があったのよ。まさか本当だなんてねぇ?! だけどね、誰がやったのか分からないそうなのよ!! 謎よね!? 何で賞金を受け取らないのかしら!?」
俺は返事を返そうとはせず、ただ掲示板を眺めるだけだった。
誰もが口々に『俺がやった』とか『ざまぁねぇな』等と好き勝手に盛り上がっている。
俺はその光景を見て、腹が立つような、悲しいような、そんな不思議な感覚に襲われていた。
迫田は碌な男じゃない。そんなの戦った俺が一番分かってる。
ただ――奴が最後に見せた安らかな表情が脳裏に焼きついて離れない。まるで俺を戒めるかのように。
俺はとてもじゃないが、口々に好き勝手に言うあの集団に近づく気にはなれず。
近くの長椅子を指差し、田中さんに出発時間まで相手をしてくれないか頼んだ。
田中さんは少し戸惑った様子だったが、了承してくれた。
二人で並ぶ様に腰を下ろし、息を吐く。
朝から何だが疲れる事が多すぎるな、先が思いやられるぜ。
「木津君、大丈夫? なんだか様子が変よ?」
俺の様子を見て、田中さんが此方の顔を覗き込むようにして心配そうに問いかけてきた。
俺は力なく笑みを浮かべ、後ろ頭を掻く。
「ははは……何だか緊張しちゃって。すみません」
俺が愛想笑いを浮かべていると、近くで掲示板の喧騒を眺めていた一人の女性が突然こちらに向き直り、近づいてきた。
その女性は他の兵士と同じ制服を着ているが、他の兵士の様にライフルは所持しておらず、腰に巻いたホルスターに収めたハンドガンだけを携帯している。
此方を睨みつける様に向けられた、切れ目が目立つ瞼の中で輝く漆黒の瞳が此方を逃がさないとばかりに向けられていた。
同じく漆黒の黒髪も団子状に後ろ頭に纏めており、綺麗にライトの光を反射して輝きを放つ。
薄く赤色で塗られた小さい唇をキッと一直線に閉じ、それが彼女の意志の強さも表しているかのように見受けられた。
彼女はツカツカと小気味の良い足音を俺達の前で止め、上から見下ろしてくる。
田中さんと顔を見合わせて戸惑っていると、その女性は短く言葉を発した。
「何と言った?」
「「えっ?」」
思わず田中さんと声を合わせ言葉を返すと、彼女は苛立ったかの様に口調を強くした。
「そこの女、今なんと言ったと聞いたんだ!」
「え…っと、大丈夫って……木津君に」
田中さんは女性に怯える様に首を竦め、此方を見て思い出すように言葉を呟く。
「きず……だと?」
そう彼女は呟くと、俺を見て信じられない様に目を見開いた。
微妙に言葉が違うような気がするが……。まぁいいや、俺達に何の用だろう?
俺達が熱々のバカップルにでも見えて、彼女の怒りでも刺激しちゃったのかな?
等と俺が馬鹿な事を考えていると、彼女は突然目が覚めた様にハッとし、軽く頭を下げて名乗った。
「突然の無礼、すまなかった。私は武市 詩江。階級は大尉だ。……そこの君、良ければ名前を教えて貰えないか?」
態度は良くなったが目線は未だにキツイですよ武市さん、メッチャ睨んでますやん。
俺は彼女の視線になるべく眼を合わせない様にして、ハッキリ名乗った。
「俺は木津 沿矢です。えっと……はい、ここの新米なんです」
俺はリュックの脇のファスナーを下ろすと、其処からライセンスを取り出して彼女に見せた。
本当は懐に入れた方がいいかもだが、落とすといけないしね。
彼女は俺のライセンスに眼を通すと、眉を顰めた。
まるで欲しい答えが書いてなかったかのように。
「クラスG……ポイントも0? ふっ……私も焼きが回ったな。すまない少年、少し勘違いしていたようだ」
彼女は自虐的に疲れた笑みを浮かべると、謝罪した。
俺はと言えば、完璧に馬鹿にされた感じがして引き攣った笑みしか浮かばない。
「い、いえいえ、誰でも間違いは犯しますよ。けど……一体どうしたんですか?」
「なーに、あれだよ。壊し屋を倒した男の名が、君の名前の響きに似ていたんだ」
武市さんは顎を掲示板に向けて見せ、そう言った。
瞬間、俺の胸が大きく高鳴った。
名前がばれている? いや、恐らくあやふやなのだろう。
俺が名乗った時、捕まったゴロツキ共はベニーと遠くに居た。
大丈夫、ばれる訳がないさ、なんたって俺はGクラスでポイント0の男だぜ?!
内心混乱の極みであったが、何とかそれを抑えつつ返事を返そうと口を開く。
「ははははは!! まさかぁ! 俺がHAを着た相手と戦って勝てる訳ないですよぉ、ね? 田中さん」
「え? う、うん。けど、HAを着てたってよく知ってるね。そんな事掲示板に書いてなかったわよ」
完璧にやらかした。
俺は完全に動きを止めると、少しずつ首を動かして武市さんの方へと向ける。
武市さんはポカンと小さい口を開け、瞼をパチパチと鳴らしている。
俺は突然の事態に慌てず、心を落ち着けて頭を回転させながら言葉を次々に放つ。
「え? いや、有名じゃないですか! 壊し屋の代名詞みたいなもんですよ!? HAと言えば壊し屋! 壊し屋と言えばHA! ぐらいの関係性ですよ?! まさか二人とも知らないんですか?! だって生身で壊し屋なんて異名を付けられたなんて、普通誰も思わないでしょう!?」
「う、うむ。そうだな……。その通りだ。すまない、私は余程疲れているらしい……。ここで失礼させてもらう」
っしゃあ!! と勝○並に叫びたいのを堪え、グッとローブの下で拳を握る。
武市さんは頭を押さえる様にして、俺達から遠ざかっていった。
危ない危ない、俺の初めての冒険が始まる前に終わる所だった。
俺は大きく溜め息を零したいのを堪え、怪しまれない様に田中さんへ話を振る。
「いや~参っちゃいますよね。何だかバタバタしちゃって……」
「そうねぇ。けど、壊し屋を倒した人かぁ……。素敵な人なんでしょうねぇ」
そう言うと、田中さんは頬を押さえて熱っぽい溜め息を零した。
この人ミーハーだわ……OLか! いや、オフィスレディの略だから合ってるのか? もういいや……何考えてんだろ俺。
俺が完全に項垂れていると、大量の足音が聞こえて来た。
まるで幽鬼の様に俺が顔を上げると、フロアにいた人達が外に向けて移動を開始していた。
まさかと思ってフロント近くに飾ってあった時計に目線を向けると、時計の針が出発時刻を指しているのに気付いて慌てて腰を上げる。
「た、田中さん! じゃあ俺行きますね! 見送りありがとうございました! 無事に帰ってくるんで、心配しないで下さい!」
「う、うん! いーい!? 焦らず頑張るのよ!! 応援してるわ!」
俺は田中さんのエールに大きく頷きを返すと、慌てて組合所の入り口に駆け出した。
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今俺を揺すっている乗り物は、この間教会に続く瓦礫の山の前で停まっていたのと同じ種類のトラックだ。
あの後俺は慌てて外に飛び出すと、兵士達が真面目な顔して行き先が書かれた看板を乗り物の前で掲げていたので、盛大に噴出してしまった。
だって、年末にダウン○ウンがやってる罰ゲーム企画みたいな感じだったんだもん……。
あ、でもあれ今は罰ゲームじゃないんだっけ? 罰ゲーム時代の方が好きだったんだがなぁ……。まぁ、もう見れないからどうでもいいけど。
このトラックに俺と乗り合わせているのは、まず運転席と助手席に兵士二人、次に荷台の入り口を塞ぐ様にして座る兵士二人。
そして俺と同業者であろう女性が四人と、最後に男性が俺を合わせて七人である。あ、ちなみに兵士も全員男である。
合計で十五名と、まぁ切りのいい人数ではなかろうか。
トラックの中もギュウギュウ詰めでもないし、お互いに少しずつ体を離して距離を取っている。
しかし、元からチームを組んでいる人達もいるようで、近くに座りあって小声で話し合っているのが偶に聞こえてくる。
俺は最後に乗り合わせたので、必然的に荷台の入り口近くに座る事となった。
見渡す限りの過ぎ去っていく荒野を見ていると、この世界に来た時の事を思い出す。
ちなみに物資回収用の軽トラっぽい車も着いて来ている。
あちらは助手席と運転席の男兵士二人のみなので気楽なのか、メッチャ話し合って笑い合ってるのが見える。
そんな光景を見るとこいつ等絶対乗る前にくじ引きとかで、あっちに乗るかどうかを争ったんだろうな等と思ってしまう。
そう思うと親近感が湧いてくる。
兵士とは言え、血の通う生き物である事を感じさせてくれるね。
まぁ俺の完全な妄想なんだがな、だってやる事ないんだもん。
俺がそのまま脳内で前に見た海外ドラマのOPを流し始めようとした途端、トラックの中に大きく声が響いた。
「みんな! 突然の事だがよく聞いてくれ! 私の名前は江野田 拓也! 我々のチーム『ウスタゴ』は、クースに着いたら廃病院を探索する! だが、人手が多ければ多いほど探索は進むだろう! よって、我々と共に行きたい者は良ければ挙手してくれないか!?」
視線を向けると、荷台の奥に座っていた二十代前半くらいの男が中腰で立ってそんな事を言っていた。
何だか締まらない絵面だな、腰痛めるよ? えーと、チーム『ウズラの卵』だっけ? 何を思ってそんな名前を付けたんだよ。
俺は田中さんにも忠告を受けていたし、全く興味が無かったのでそんな事を思っていた。
当然、荷台の中は困惑した声で溢れ返る。
男の両脇に座っていた男二人が彼のチームの一員なのかな? 彼等も車内を見回す様に首を動かしている。
当然と言うか、彼に賛同する人はいない。
いや迷っている感じはするのだが、あと一押しが足りないと言った所か?
誰かが一人でも手を挙げれば、釣られて手を挙げそうな雰囲気はできあがっている。
俺がそんな考察をしていると、まるで俺の考えを見透かした様に一人の男が手を挙げた。
「おお! 良かった! 君の名前を教えてくれないか?」
「俺はドン・クレースだ。あんた等の勇気に賭けてみよう」
そんなキザな台詞を吐いて手を挙げているのは、三十前半くらいの丸坊主の黒人のオッサンだった。
江野田は彼に頷きを返すと、周りを見渡してここぞとばかりに声を張り上げる。
「さぁ! 彼の勇気に追随しようとする者はいないか?!」
――サクラだな。
俺は直に今のやり取りでそう気付いた。
まぁ色々と余裕を持って見ていたから気付けた事なのだが、打ち合わせていたであろう事から当然と言うべきか、江野田とドンの演技は完璧だった。
だが江野田の両脇に座っている男二人は駄目だ、まるで出来ちゃいない。
ようやく賛同者が現れたと言うのに、喜びもせず、驚きもせず、ただ見ているだけ。
だが、困惑していた他の乗客達は気づけていないのか、次々に手を挙げてしまっている。
気付けばとうとう残すは俺と、もう一人の女性だけが手を挙げてない状況になってしまった。
江野田は獲物を選ぶかの様に、俺と彼女を交互に見たあとで先に彼女へ声を掛けた。
「どうだい? 君も来ないか? みんなで行けば、色々な物が手に入るかもしれないよ? 生体義手や、ナノマシンなんかもあるかもしれない!」
おいおい、手を挙げるだけでいいんじゃなかったんかい。
俺が内心ツッコミを入れていると、彼女はキッパリと告げた。
「素人とは組まない。特に……見え見えの手段を使うような素人とは、なおさらね」
彼女がそう言うと一瞬ざわめきが起きたが、江野田はそれを打ち消す様に慌てて大声で俺にも声を掛けてきた。
「き、君はどうだ!? 歳若いのに大変だろう? どうだい? 僕達と行かないか?!」
とりあえず俺は断る気満々だったが、一応俺は一瞬悩んだ素振りを見せた後、照れ笑いを浮かべて頭を振った。
「いえ……俺は今日が始めての探索なので。それに武器もコレしかないし、皆さんの足を引っ張るだけだと思います」
俺がローブを退けてホルスターにあったディフェンダーを見せると、江野田は一瞬『お?』って顔を見せたが、俺が初心者だと言う言葉が効いたのか、一つ頷くと残念そうにした。
「そうか……分かった。幸運を祈るよ……。よし、それでは皆! 現地に着いたら詳しい話をしよう!」
それで話は仕舞いとばかりに腰を落ち着けると、江野田は瞼を閉じた。
荷台の中では彼方此方で自己紹介の声が聞こえて来たが、俺はコッソリと溜め息を零した。
どうやら俺の初探索は面倒臭い事態に巻き込まれつつあるようだ――。
ウスタゴって言う名前ですが、特に深い意味はありません。
何か『チーム』って思ったら『ウスタゴ!!』って頭の中で検索がヒットしたんですよね。
もしかしたら何かの作品やゲームに出てた名前かもしれません。
その時は優しく『ぱくってんじゃねぇぞ♪』と教えてください。




