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俺+UFO=崩壊世界   作者: にゃほにゃほタマ爪
第一章 目覚めた世界は……
11/105

ドキドキワクワクな初体験の連続の幕開け 編



借金を返すぞ!!


なんて息巻いたはいいが、俺にはどうすればいいか全くわからん。

俺が目覚めた二日後には、もうすっかり痒みも治まり体に異常はもう無かった。

とりあえず今は里津さんに借りたTシャツと、ぺネロさんが持ってきた制服のズボンを履いて里津さんの店の手伝いをしている。

当然迫田と戦った時に俺が着ていた服は全部駄目になっていた。ロイ先生ごめんなさい。


しかし、ズボンを持ってきてくれたぺネロさんが俺と目を合わせてくれなかったのが困った。

そんなにショッキングな光景だったのだろうか、少し落ち込んでしまう。

いや、かと言ってあの時凝視されても困ったんだろうけどさ。


仕事内容だが、会計や接客とかではない。

ごちゃごちゃした店の中身の整理が目下の所、俺の使命だ。


俺の異常な力強さを良い事に、里津さんは変なロボとか武器やら部品などを動かして商品の配置転換に忙しない。

まぁ里津さんは女性だし、こういう事ができないのだろう。

それかただのズボラであるかだ、俺はその可能性が一番高いと思うがな。



「ふーん……アンタ本当に力が強いのねぇ。いいわ、信じたげる」



朝からチマチマ働いて、ようやく昼ごろには全ての配置転換が終わりそうって時に、里津さんの口から衝撃発言が飛び出した。

思わず俺が抗議の声を上げるのもの無理はないだろう。



「ぅえ!? 信じてないのにこんなに酷使したんですか?! もう最後の商品整理終える所っすよ!?」



なんて女だ……今でもサンタさんを信じてる俺を見習ったらどうだ? UFOがいてサンタがいない道理は無いからな。



「うるっさいわねぇ……。それと、アンタ首ね」



あかん、絶句してしまった。

まさか初日で首を切られる事になるとは……。

しかも酷使した後にだぞ? 世界は滅んでもブラック企業は滅亡していなかったのだ!!


里津さんは呆然としている俺を尻目に俺が並べた商品の中から、何かを取り出すと俺に押し付けてきた。

受け取った物を見ると、ハンドガンっぽいでかい銃と弾とマガジンが入った箱だった。


何だ? 退職金かな? それとも全て諦めて、これで自分の頭を撃ち抜けって事なのかな? ふふっ、親切ぅ♪



「アンタ、組合所に行きなさい」



里津さんは腕を組んで、ドヤ顔で言い放った。

何だ? 組合所? ハローワーク的な所か? それとも銀行の呼び名だろうか? この銃を使って強盗しろと?

俺の混乱しきった様子が分かったのか、里津さんは眉を顰めると訝しげに聞いてきた。



「アンタ……組合所を知らないの? まぁいいわ。組合所ってのはハンターやスカベンジャーって職業に就ける場所よ。前世界のビルや、地下街に侵入してここにあるような機械の部品を見つけたり。荒野を彷徨う無人兵器を倒して、部品を奪ったりする奴等って覚えとけばいいわ」



ふーん。あ、じゃあ俺が荒野で最初にやった事って正にそれだ。

ってかそれって職なの? 俺の知ってる職とは大分違うけど。



「それって……そこに行く必要あるんですか? 勝手にやっちゃ駄目なんですか?」


「組合所ってのは、町や都市が彼等を支援する為の場所なの。車や戦車の燃料を補給してあげたり、弾や装備を提供したりね。一番重要なのが情報よ。大体どこに何があるのか教えてくれるし、彼等自身で情報交換したりもするしね。で、ハンターやスカベンジャーはその見返りに見つけた部品や武器の一部を組合に寄付するの。まぁ、良い装備や弾はボタを支払わないと提供されないし。車や戦車持ちってのは成功してる奴等だから、その恩恵を受けられるのは極一部なんだけど」



なるほど、為になった。

つまりとても危険な職業だって事やないかい!!


いや、でも十一万ボタという大金を手に入れるにはそんな職業でもないと無理なのか……?

少なくとも、ここで商品整理しているだけじゃ返せるとは思ってなかったが。

そんな俺の思いを見透かした様に、里津さんは腰に手を当てて提案してくる。



「それとも、アンタ此処でずっと働いて返す? ざっと計算しても数年は掛かるわよ」



ですよね、里津さんが言う事は尤もだ。

まさか、そんなデンジャーな職に就く日が来るなんて思いもよらなかったよ。

だが今の俺は一度死んだも同然の身だ、こんな事でビビッてられっかよ!!

そうとなると話は早い、俺は決意を固め鼻息荒く一つ頷いて里津さんに了解する。



「分かりました! 組合所に行ってみます! ……けど、不採用とかってなったらどうしましょう?」



自己アピールとかどうしよう、鉛筆を指で回すのとか得意だけど。

そうだ! 中学の時にブルマ廃止を止める為に生徒会長に立候補して、男性生徒から多大な指示を得た事とかアピールになるかな?

その日を境に全学年の女子生徒と、先生方の俺に向ける眼差しが変わったんだがな。主に蔑む方向に。

ちなみに学年のマドンナに誘惑され、反旗を翻した一部男子生徒達の所為で俺は負けた。


色気に惑わされやがって……。マドンナは何時の時代も存在するが、ブルマは絶滅寸前だったんだぞ!!

そう俺が心の底から熱く叫んだ時の、真実に気付いた彼等の悲痛な後悔の顔は未だに覚えている。



「んーまぁ、その銃持ってりゃ平気平気。アンタの馬鹿力を主張してもいいけど、確実に軍に目を付けられるわよ? 問答無用で徴兵されるかもね」



う、うーん。軍かぁ。

きつくて、汚くて 給料安そうの三Kだし、それは勘弁だな。

ただ一つ問題がある。



「……里津さん、これってどう扱うんですか?」



俺は箱に視線を落として、情けなくそう呟いた。








▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼








里津さんに銃の手解きを受けた後、俺は銃を鞄に入れて組合所に向かってる所だ。

とりあえず弾の装填方法や、安全装置の切り替え方等はバッチリだが、銃の手入れ等は教えてくれなかった。

ボタを払えば見てやるとの事だ。流石里津さん! 商売人の鏡やでぇ~~。


まぁ、あの人には多大な借りがある。

この銃だってそうだ。俺は一刻も早くボタをかき集めて少しでも恩に報いるのだ。


何気に今の所あの人の家で寝泊りしてるし、けどラブコメちっくなHなイベントはまだ体験していない。

どうやら俺はギャルゲーの主人公ではない様だ。まぁ、世紀末なギャルゲーがあるかは知らんが。


あるとしたら『あたたたたたぁ! ふぁたぁ! えへへへ♪ 間違ってアナタが三秒後に死んじゃう壷を押しちゃった♪』 って感じかな。

キャッチフレーズは『死ぬ前に告白を成功させろ!』で行こう。

企画の段階で没になるか、深夜のテンションで社員が血迷った末に販売を強行して、ワゴンの中で百円で売り投げされる未来しか見えないな。


そんな痛い妄想はさておき。

何処に向かえばいいのか聞くと、里津さんはある高いビルを指差した。

折れたり、崩れたりで大体高くて十階くらいが関の山な建造物が目立つ中、そのビルは崩落しておらず倍以上でかかった。

お陰で迷う要素がない、これで迷うような奴なら路地裏で餓死してしまうだろう。


そして、どうやら俺は餓死しなくて済む様だ。

ようやく組合所とやらに続く真っ直ぐな大通りに出た。

これが俺が迷い果てた末に見てる死ぬ間際の幻でもない限り、無事に辿り着けるだろう。


ただ、そのビルに近づくと周囲に何やら物騒な物と、物騒な輩がたむろっているのが見えて歩みがスローダウンする。

車はいいよ、うん。荷台に大きいガトリング砲乗っけてたり、車の窓から銃口が覗いてたりするけどさ、まぁいいよ。


ただし戦車、テメェは怖い。

何でさぁ、通りに砲口向けてるの? 暴発とかしたらどうするの? いや、そういう事はないのかな? でも昔の物なんだろ?

いや見た感じ俺の時代の戦車より高性能っぽいが、戦車の事なんてよく知らないし~……。


堪らずムーンウォークで帰りたくなってるが、それでは余りにも情けない。

組合所に近づくと、重武装してる連中の物騒な視線が俺に突き刺さる。


俺は夜中コンビニに入る時に不良の視線を浴びたら、逆に此方から向かってって難癖付けた事もあるが、そんな小物とはlvが違う。

コンビニの不良がド○キーなら、こいつ等はキラー○ンサー(成体)だ。出現する大陸が違うLv差だよ。


とりあえず組合所の尊厳な高いビルを眺めながら『うわ~、ここがそうなのか~』的な何でもない風を装いつつ近づいていく。

組合所の入り口に辿り着く頃には大分首筋が痛くなってきていたが、何とかその視線に目を合わせない様に組合所の中に潜入する事に成功した。



まず中に入ろうとして驚いたのが扉が自動ドアだって事だ。

次に驚いたのが左右にガラス戸が開かれると、俺に吹き付けてきた冷気である。

なんとエアコンが点いているのだ、ってかエアコンどころか昼間なのに電気も点いてやがる。

そうか、ここが都市の支援を受けてるって本当だったのか。

いや、別に疑ってた訳じゃないけどね。感動ですわ、電気って偉大。


入ってすぐの所にはフロントが三つ並んでる。

そしてその全部にこの世界では極めて珍しい、綺麗で清潔な格好をした女性が一人ずついるではないか。


まるで元居た場所に戻って来た感覚に襲われるが、視界の端にショットガンっぽい銃を持った若い警備員がいるので台無しだ。

何となく左端のお姉さんが好みだったのでそっちに足を向けると、他二人の視線がキツくなった気がする。


素直に中央にしとけば良かったかな……だったら自然だったし。



「あの、すみません。ハンターかスカベンジャーになりに来たんですけど」



俺は早速そんな後悔を抱きながらも、フロントのお姉さんに声を掛けた。

セミロングで黒髪、勝気な眼差しがグッと来る俺好みなお姉さんはニッコリと笑う。



「はい、登録で「ハンターかスカベンジャーになりに来ただぁ?! 何にもわかっちゃいねぇんだな、小僧」……ちょっと! 止めなさいよ!」



突然お姉さんの清楚ボイスが山男にチェンジャーして俺を罵倒しだしたかと焦ったが、そうではなかった。

何かを睨みつけるお姉さんの視線を追うと、入り口の近くの壁に背中を預けて此方を睨む、背が190cmはありそうな体格の良い色黒のオッサンが居た。

早速キナ臭い事になりそうで、ゲンナリしつつも対応する。



「だから~今まさに説明を受けようとしてたでしょ? それとも何か? アナタは生まれた時からその情報が脳裏に刻み込まれてた訳ですか?」



お前はトラックに轢かれた転生者か何かか? こちとらUFOに拉致されてんだぞ、何の前情報も無かったわ!


俺とオッサンのやり取りを見ている受付のお姉さんと、近くに居た警備員の息を飲む音が聞こえた気がする。

オッサンも自分が一瞬何を言われたのか分からないって感じで唖然とした表情を見せたが、すぐに破顔した。



「ッハハハハ!! そうだな、俺が悪かった。最近この職業を勘違いしている輩が多くてよ、根性のない奴が多いんで気が立ってたんだ」



さっきの態度から一転して、爽やかに笑うとオッサンは此方に向かって歩いて来た。

お、おお……豪快な人やな。何となく死んだ爺ちゃんに似てるわ。


オッサンは俺の目の前に立つと、手を差し伸べてくる。

おお、何という紳士や。世紀末でも紳士は滅びてなかったんや!!



「いえ……気にしてないです。木津沿矢です」



俺が妙な感動を覚えながら、その手を掴むと周りから溜め息が聞こえて来た。


ん? なんだろう感動の溜め息か? にしては何か……ん?



「あの……もういいですよ。それとも俺の手が気に入りました?」



オッサンは俺の手を掴んで離そうとしない。

なんか眉を潜めて苦しげだ、何? 持病の発作かな? それとも俺の手がオッサンのアレルギーを引き起こしたのかな?



「っな……! いや、な、何だお前?」


「ぅえ?! あ、いや。木津 沿矢です」



よく聞こえてなかったのかな、俺は戸惑いつつも二回目の自己紹介を繰り返す。

するとオッサンは不気味な物でも見るかのように俺の手を振り払うと、外に出て行った。

おーけー、紳士は今この時を最後に絶滅した様だ。



「あ、あの。君、大丈夫……?」



俺が紳士の絶滅を嘆いていると、受付のお姉さんが態々フロントから出てきて俺の顔を横から伺って来た。



「ええ、それよりあの人何だったんですかね? 手フェチですか?」


「え? う、うーん。無事ならいいの、じゃあ説明するわね」



お姉さんは首を傾げながらフロントに戻っていく。


何だよ、首を傾げたいのはコッチだよ。

今の時間完璧に無駄になっただけじゃねぇか、オッサンなんていなかった。



その後、俺はお姉さんの説明を受けた。

まずハンターとスカベンジャーの違いだ。


スカベンジャーは里津さんが教えてくれた様に、前世界の施設に侵入して武器や機械等をかき集める集団だ。

ただ施設にはまだトラップが生きてたり、警備ロボが徘徊してたりする様なので大変危険との事。

かと言ってそのどちらも存在しない施設に行っても、当然何ももう残ってたりしないから注意だそうだ。初心者がよくやらかすってさ。


ハンターとやらは荒野に彷徨う前世界で起きた戦争で使われた無人兵器やロボ等を破壊して、その部品を手に入れる集団。

ただ、そういう屋外を彷徨う兵器は大変危険だそうで、車や戦車とあとHAとやらに乗って戦うのが基本条件みたいなモノらしい。

その分そいつ等の部品は高額らしい。まずスカベンジャーとして施設でHAとか車や戦車を見つけて、ハンターに移行するって感じっぽい。


まぁ普通にそのどちらもこなす奴等も当然居るので、名称に拘る必要は無いらしいのだが。



「それじゃ、ココに名前と年齢を記入して。住所は……まぁ気にしないで、無いならないでいいから。あ、私が書いてあげようか?」



一瞬馬鹿にされてるのかと思ったが、よくよく考えれば教育なんてこの世界では受けられる奴は少ないのか。

お姉さんに大丈夫と一言告げて、用紙に必要事項を書き込んでいく。


住所は、まぁ書くのは止しておこう。

詳しい場所知らないし、里津さんに許可も貰ってないし。

気になるのが所持武器を記入する欄だ、この銃の名前なんて知らない。

それとも俺が名付けた『デッド・マグナム』でも事が足りるならそうするが、うーん。


仕方なく鞄に入れておいた銃を取り出して、お姉さんに見せる。



「あの、これの名前って……っ!!」



瞬間、耳を劈く音が聞こえ横っ腹に衝撃を受けた。

何かに強く押された感じで、思わず体勢を崩して転んでしまう。



「馬鹿!! 何してるのよ!」


「ま、守ってやったんじゃないか!! そいつは見えない所からイキナリ銃を取り出したんだぞ?!」


「引き金に指を乗せたかどうかくらい確認しなさい!! 素人ね!!」



体を起こすと、受付のお姉さんと若い警備員が口論していた。

警備員は銃を此方に向けており、銃口からは煙が上がっている。


え? 何? 俺は撃たれたの? 痛みを感じないのは俺が死ぬ数秒前だから?

慌てて衝撃を受けた箇所を調べるが、異常はシャツに穴が開いた事と、其処を押すと少し違和感があるってだけだ。


ありがとう、宇宙生物。僕を頑丈に作り直してくれて。

ただ何か母親に悪い気がするような、複雑な気分。



「き、君平気なの? 防弾ベスト……は着てないわね。 アンタ空砲でも入れてたの? 間抜けで良かったわね」


「そんな訳無いだろ!! ほら、ちゃんとゴム弾が入ってる!!」



若い警備員がチャンバーから弾を取り出して見せる。

おいおい、他に言う事があるだろ? てめぇは自分が無能じゃない事の方が心配なのか?



「ちゃんと入ってるぅ……。じゃねぇよ!! てめぇの脳ミソがちゃんと入ってるか確認してやろうかぁ!?」



俺は憤怒して勢いよく立ち上がると、若い警備員に詰め寄った。

ただでさえ大怪我して大変だったのだ、それに俺に何かあったら教会の皆に莫大な借金残しただけじゃねぇか!


相手への怒りや教会の事を思って完全に頭へ血が上った俺は、お姉さんが静止するのも構わずに奴へ早足で近づく。

奴は慌てて此方に狙いを定めるも、銃を素早く右ストレートを放つ様にして掴み、取り上げて放り投げる。



「ひっ、ひ!! だ、誰か!! 応援を!! 援護してくれ!!」


「あ、テメェ逃げるな!!」



若い警備員は顔を恐怖に染め上げると、後ろを向いて逃げ出した。

俺が凶悪犯だと思うならお前が逃げたらお姉さん達お仕舞いやん、そう思うとますます苛立ってきて堪らず追いかける。


俺が頭を冷やしたのは奴がホールに逃げ込んだ瞬間に、吹き抜けとなっていた二階から他の警備員達に一斉に銃を向けられてからである。

いかん、早速やらかしてしまった様だ。

俺は素早く後ろに手を組んで前に飛び、アザラシの様にホールに勢いよく滑り込む。

俺の神速的な無抵抗表現に若干の戸惑う声が聞こえたが、何とか撃たれずに済んでどっかの部屋に連行されたのである。











▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼











後悔……ってみんなしたことある?


俺? 俺は今絶賛体験中さ!!


真っ白い部屋に椅子が一つと、明らかにマジックミラーである鏡が壁に設置された部屋に、俺は既に数十分程閉じ込められている。

そろそろ俺に違法な拷問をする為に、ジャック・バ○アーが飛び込んできてもおかしくないね。

ああ、そういや特別編がまた放送されるって聞いてたのに……見たかったな。


俺にはジャックの様なク○エ的な仲間はいないので、勿論誰も助けには来ない。

いや、ぺネロさんとかが銃を片手に突撃してきても驚くけどさ。



『失礼するよ』



俺がいつも辛い時にする妄想の世界に飛び立っていると、ノックが聞こえてきて、ようやく部屋の扉が開かれた。

妄想はいいね、人類に与えられた自由の翼だよ。楽しくって時が経つのが早い早い。


入ってきたのは受付で相手してくれたお姉さん、そして俺を撃った若い警備員、最後にビシッと決めたグレーのスーツと皹が入ってない眼鏡を装着した役員っぽい人。

彼等は俺の前に並び立つと、一歩進んで役員っぽい人が話しかけてきた。



「すまなかったね。君の無実は彼女の証言と、監視カメラの映像で確認した。彼は新人でね……《突然》銃を取り出した君に驚いただけなんだ。 許してくれないか?」



どことなく言葉の言い草に此方を非難する含み混じっているが、そう言われると確かに俺にも非がある。

ココで『あ~ん!? 慰謝料として11万ボタよこせや!!』と一発逆転を狙ってみてもいいが、確実に成功はしないだろう。

ここは素直に謝罪を受け入れて穏便に済ませよう、追い出されても困るし。



「あ、はい……。此方こそ騒ぎ起こしちゃってすみません。銃で撃たれるなんて滅多に無いですから。ちょっと驚いちゃって、すみませんでした」



故郷が懐かしいよ、少なくともあちらは警告くらいしてくれただろうしな。

俺が言葉を返すと、あからさまに若い警備員は安堵して彼も頭を下げた。

お互い若いもんな、頑張ろうぜ。まぁ相手は若いって言っても二十歳ぐらいだけど。


此方こそ、いえいえそんな的なやりとりをしていると、おずおずと受付のお姉さんが質問してくる。



「あの……。君、本当に大丈夫なの? ゴム弾とはいえ、あんな至近距離で撃たれたのに……」


「――え、えぇ。今日は俺のラッキーデイだったみたいですぅ。いやー良かった」



そもそもラッキーだったら撃たれてないとは思うが『宇宙人に改造されて、俺超頑丈っす!!』って言う訳にもいかない。

言ったらココから出してもらえないか、今度は実弾で撃たれるかもしれないし。



「……和解できて良かったよ。田中君、彼は登録に来てたみたいだから案内を再開してあげてやってくれ。それじゃ」



あからさまに『あーようやく面倒終わったわー』的な態度をさせつつ、革靴から小気味のいい音を立てながら役員眼鏡は出て行く。

まぁいいさ、口に出さないなら戦争は勃発しないからな。ただし冷戦状態にはなるかもしれんがな。


俺が役員眼鏡が出て行った扉に冷めた目を向けていると、名前が田中らしいお姉さんが可愛く咳をして注意を惹こうとする。



「ん、んん! 私は田中よ。よろしくね。じゃあ射撃場に向かいましょう? 君の武器はDF-112ディフェンダーね。うん、反動がネックだけど。その分威力も高いし、いい武器ね」



田中さんが拘束された時に取り上げられた鞄を返しながら、意外な言葉を口にした。

俺は鞄を受け取ったまま、思わず驚きを隠せなかった。



「ぅえ!? 射撃場ですか? う、撃つんですか?!」


「それが試験だからね。大丈夫。その銃だと……装填数は七発だから、反動の強さによる命中率を考慮すれば二発当たれば合格かな」



里津さんに使い方は習ったが、さすがに街中だったし撃たせてはもらえなかった。どうしよう……。


白い部屋から出てから警備員と軽く挨拶して別れ、ワックスが掛けられた綺麗な白い廊下を田中さんの案内の中進む。

射撃場とやらは地下にあるのか、何故か電球が切れかけてる薄暗い階段を下りて後を付いて行く。

地下の階層に下りると、露骨にすれ違う人が減った。

壁は皹入ってるし、電球には虫がたかってるしで上とは大違いだ。

田中さんも、俺が訝しげだった事に気付いたのか眉を顰めて困った様に笑った。



「あはは、ごめんね? 最近はここもあまり使ってないのよ。君みたいに武器を所持して登録しにくる人って稀だから」


「え? じゃあ、他の人はどうするんですか?」


「えっと、軽く組み手をやったり身体検査をして基準を上回ってれば、組合所から武器が支給されるわ。と、言っても安物だけどね」



あ、今のは内緒ね? と田中さんは微笑むと前を向いて歩くのに集中した。

なるほど。里津さんが銃をくれた訳が分かった。

正直そんな事をすれば、俺の異常性を隠し通しきれるか自信が無い。

既にやらかしてしまってるしな、ナイス判断です里津さん!!


ようやく射撃場に着いたのか錆が目立つ扉のドアを田中さんが開けると、広い地下で金属質な鈍い音が響き渡る。

中に入って俺は胸を撫で下ろした、俺がTVやドラマで見た射撃場とあまり変わりが無いからだ。

田中さんは壁に埋め込んであるPCに似た端末の電源を立ち上げると、壁の隙間が開いてキーボードが出てきた。

こういうのを見ると未来って感じだよね、できれば滅ぶ前の時代を一目見たかったよ。

田中さんは素早く何かをキーボードに打ち込みつつ、指示を出してくる。



「それじゃ、そこに立って弾が入ってるかちゃんと確認してね。あ! 待ってね……よいしょ、ふふ似合ってるわよ」



田中さんが態々作業を中断して、俺にゴーグルとイヤプロテクタだっけ? を装着してくれる。

ぶっちゃけ自分でできるのだが、田中さんは面倒見がいいらしい。選んでよかった。


射台の前に立ち、ディフェンダーのリリースボタンを押してマガジンを取り出し残弾数を確認する。チャンバーの確認も怠らない。

次にチャンバーに弾が入ってないことを確認し、マガジンを装填してスライドを引いて、安全装置を切り替える。

おーけー、後は引き金を引けば弾が出るはず。


構えはどうすっか……撃たなかったから習ってないし。

そうだ、ジャックや! ジャックの撃ち方や!! 妄想してたので姿はバッチリ覚えてるぞ。


えーと、右足を後ろに引いて半身にする。

それから右手に銃を持って真っ直ぐ構えて、左手は肘を曲げて銃の底に手を添える感じか。



『中々様になってるじゃない、期待してるわよ! それじゃあ、あのパネルに表示された数字がゼロになったら的を出すから、焦らずにね!』



田中さんは俺の肩に手を掛けてイヤプロテクタを少し耳から離すと、エールを送ってくれた。

頷きを返して射撃場に目を凝らす、上部に設置されていたパネルに数字の10が表示された。

そして直に段々と数字が減っていく、俺は最後に大きく深呼吸して落ち着きを促す。


カウントが零になると同時に地面が光ったと思ったら、視線の先で空中にホログラムで突然人型の的が表示された。

それに少し驚きつつも、フロントサイトに目を通して狙いを定める。

距離は二十五メートルか三十くらいだろうか? しかし、当てるだけならば胴体を狙えば簡単のはず。


とりあえず、此処だ! と思う所で銃を固定して引き金を引く。

一瞬、俺は弾が発射された事が分からなかった。

視界がチラつき、音も聞こえたが何の手ごたえも感じなかったからだ。


視界の先では、的の後ろの壁に突然赤い丸が表示され点滅している。

どうやら、あそこに当たったと言う事を教えてくれてるのか。

右に的一つ分の距離で外れたっぽい、俺は姿勢を動かさないまま銃口の先を僅かに逸らす。


おーけー、焦るな。二発だ、二発でいいんだ。まだ後四発外せるし、ちょー余裕だし。


俺は今度は当たれと願いを込めて引き金を振り絞る。

すると、的の左肩辺りに赤いマークが光って表示された。


ど、どうやら当たってくれたみたいだ。よし、後一発なら頭でも狙ってみるか。

俺は余裕を取り戻して、また少し銃口をずらして調整する。


今度は何の気概もなくあっさり引くと、口元部分が光ってくれた。

おお! じゃあもう少し上にすれば眉間か!


また少し微調整して引き金を引くと、目と目の間より少し左上の部分が光る。

よし、もう動かす必要はないかな? 試験もクリアしてるし、さっさと終わらせよう。


俺は何の心配もせずにその場所で銃を固定したまま、引き金を一拍ずつ置いて三回引くと同じ位置が連続して点滅する。

よしよし終わった。俺は安堵の溜め息を吐いて、マガジンを取り出して安全装置を切る。


イヤプロテクタとゴーグルも外し終え、違和感から耳を擦っていると田中さんが紙を持って駆け寄ってきた。



「凄い凄い!! わ、ワンホールショットを連続四回なんて試験ではじめて見たわ! し、しかもディフェンダーでよ?!」



何故か俺よりはしゃぐ田中さん。

ほら見て!! と、渡された紙に表示された着弾記録に目を通しつつ、ハイテンションな田中さんに若干引きつつも俺は疑問の声を返す。



「え? ぇえ……。でも、銃を固定すれば楽にできませんか?」


「はっ、はぁ?! それが出来たら射撃に苦労しないわよ!!」



何故か喜びから一転して切れられた、喜怒哀楽の激しい人だな。

まぁ、良い記録が出せたなら良かった。

もしかしたら、合格後の待遇も良くなるかもしれないし。



「良かったわね。この記録は試験記録としては最高記録よ! ほら、あそこにずっと表示されるの。目立つわよ~~? まぁ、でもココを使う人なんて……あんまり居ないんだけどね」



確かに射撃場の一角にある画面には、俺が今手元に持ってる紙と同じ結果が表示されている。

試験結果の隣にはフリーやらラピッドとかの画面も用意されている。

色々なルールがあるっぽいな、オリンピック競技にもなってたし当然か。



「ふーん、そうなんですか? 皆は練習とかしないんですか?」


「しないしない、流石に訓練に使う弾は支給されないからね。自費よ自費。ここを使うと言ったら余裕のある人や、新武器の試し撃ちしたい人くらいかな」



勿体無いなぁ、こんなに広いのに。

テニスくらいなら余裕でできるぞ、寧ろそうした方が活気が溢れそうだけどな。



「試験は合格よ、細かい説明は上で行うわ。あ、どうする? あそこに名前載せる?」



あそこ、と指差されたのは試験結果のレコード記録が表示されている画面だ。

む、俺はゲーセンのスコア等には必ず名前を残して来た男だぞ? 勿論やります!



「あの、あそこって実名じゃないと駄目なんですか? こうニックネームとかは駄目ですか?」


「ん? まぁ、どっちでもいいけど。えーと……よし、なんて入力するの?」



田中さんが壁に設置された端末を弄くって、こちらを向いた。

俺はニッコリ笑って親指を立てた。



「じゃあ、ジャックでお願いします。俺の憧れの人なんです」



やっぱ困った時はジャックさんやな。

まぁ彼の真似をして、イ○クとかで無茶な拷問が流行って問題になったらしいが、それとは別だからおーけーやろ。



「ふーん、ジャックねぇ。有名な人だったの?」


「ええ、大ファンでした」



多分俺と田中さんでは言葉の意味合いが違うだろうが、頷いておく。

彼の一途な使命感とブレの無さ、そしてそれから生じる周りとのズレからの孤独感を見ていると、思わず応援しちゃうんだよなぁ。

田中さんは素早く入力し終えると、端末の電源を落として此方を向いた。



「それじゃ、早く行きましょう。もうすぐ定時だし」


「あっ、はい」



さらっとそういう事を言われると『仕事だから相手してあげてるのよ』って言われた感じで急にテンションが下がっちゃう。


何となく気を落としつつ、射撃場を後にする俺であった。




大体組合所行って~とかは考えてるんですが。

実際に書いてみると想像と大分違ってくるんですね~。

まぁ基本勢いで書いてますのでご勘弁を……。

あと登録するのにボタが掛からなかったり、武器が支給されたり大盤振る舞いなのは、この世界では人手が圧倒的に足りてないからですね。世紀末ですし、おすし。

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